【AoW】南米りた〜んず南北アメリカ

種類 ショートEX
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 8Lv以上
難度 難しい
報酬 164.3万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 10/25〜10/31

●本文

●あいも変わらず
 最近、オフィスP所属の面々も、それぞれの仕事を精力的にこなし、社長の鈴本もディレクター藤田も、事務所に顔を出せないくらい忙しい日々を送っていた。それは、看板パンダの太平洋も同じである。事件は、そんな忙しい日々の中起きていた。
「どこもかしこもナイトウォーカーがらみだなぁ‥‥。おちおち、外も出歩けねぇや」
 珍しく他の報道番組なんぞを見ながら、くつろいでいらっしゃる洋ちゃん。その画面には、最近特に注目されまくっている謎の怪生物が映っている。一応、パンダ獣人である洋ちゃんは、それがナイトウォーカーだと信じて疑っていない。
「ふふふ。ならば歩いても問題の無い場所に向かってもらおうか」
「え、えぇぇぇ? どう言うことですか? ミスター!」
 が、そんなリラックスムードの洋ちゃんに、にやぁりと笑う社長ことミスター。かくーんと顎を外す彼に、社長はにんまりと笑みを浮かべてこう言った。
「いやー、仕事の上がりが積み立てられて、予算がたまったんで、久々に海外ロケ行こうぜー」
 既に、その手には、洋ちゃんのパスポート以下必要書類が調えられている。それを見て、諦めた様子の彼が「どこっすか‥‥」と尋ねると、社長はこう一言。
「南米」
「却下!」
 で、それと洋ちゃんがくるっと回れ右をしたのが同時。
「お前に選択権なんぞ無いっ。すでにエージェントが行っている。さっさと荷物をまとめて行ってこい!」
「いやだぁぁぁ! 社長命令とはいえ、なんであんな危険がピンチな場所にっ」
 プロレス技の要領で、ぐきっと首を押さえられたパンダ、じたばたと暴れるが、どうやら社長の方がレベル高いらしく、身動きが取れない。
「問答無用! 藤田ッ!!」
「あらほらさっさーー!」
 オマケに、藤やんまで加わって、気がついたら新千歳行き快速の中。
「えぇぇぇん。おうちに帰してぇぇぇ!!」
 こうして、相変わらず拉致られる洋ちゃんだった。

●キングとヒゲ
 で。
『え? そんな面白いことがっ』
 携帯電話の向こうで事情を話したルーファスに、鈴本は眼を輝かせた。確かにこちらでも、謎のアノマロカリスが目撃されており、スカイフィッシュだチュパカブラだと、騒動になっている。
「ネタじゃないぞ」
『うーん。わかりました。プロデューサーには気をつけるように言っておきます』
 不機嫌そうな表情で、そう釘を刺すルーファスに、社長は大して気にも留めない風情で、そう答えていた。
「って、出演者にもだ! と言うか、もし余力があるなら、そこの掃除を頼みたいんだが」
『難しいっすね。何しろ体力だけがとりえのパンダですから』
 答えた彼の視線の先には、地元の子供と、サッカーに興じている洋ちゃんの姿がある。もう慣れっこになっているのか、地球の裏っ側に来ているにも関わらず、のんきなもんだ。
「そこを何とか頼む」
『わかりました。で、相手は?』
 鈴本に言われ、データと言う名の画像が送り込まれてきた。それには、いつぞや潜った遺跡の上に、5mを越す化け物サイズのアノマロカリスが陣取り、その周囲に、お空を飛んでるのやら、壁に張り付いているのやら、ひと回り小さい‥‥それでも3mはある‥‥アノマロカリスが、今にも飛び立たんとしていた。
「おそらくこれだな」
『‥‥でかいっすね』
 顔を引きつらせる鈴本。ぶっちゃけると、中型のマイクロバスくらいはある。
「取り巻き部隊は、こっちで手配しておく。出張組はおそらくヒメがどうにかするだろう。お前たちは本体をたたいてくれ」
『‥‥‥‥わかりました』
 どうやら、自分達の役目は、その一番大きなアノマロカリスを、遺跡の一番下まで潜って行って、ふくろだたきにしてくる事のようだ。
「なんか、やばいことになってねぇか? これ、俺らの目的地‥‥だよな? これ、どぉーーーみても、超大型のアノマロカリスだし‥‥」
 話を聞いた洋ちゃん、地元のゴシップ誌に映っていた、ピンボケ写真を見て、顔を引きつらせている。同行しているはずの藤やンにも、意見を聞こうと振り返ったとき、そこにいつものヒゲ面オヤジの姿が無かった。
「って、鈴本ッ! 藤やんがいないぞっ!」
 驚いた洋ちゃん。ついつい口調がサークル同級生時代に戻っている。
「何ぃ? あいつ、一体どこへ‥‥」
 社長も慌ててキャンプ地を捜索する。荷物は綺麗さっぱり消えており、そのテントがあった場所に、石で重しをしたお手紙が一通。

【今まで世話になったな。あばよ!】

 そんだけ。
「もしかして‥‥逃げた!?」
 この忙しい時に、さらに問題を残すとは、まさに外道。
「さ、探さなきゃあああああ!」
 それでも2人は、慌てて捜索を開始するのだった。

●今回の参加者

 fa2768 鈴木 舞(25歳・♀・蝙蝠)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa4622 ミレル・マクスウェル(14歳・♀・リス)
 fa5416 長瀬 匠(36歳・♂・獅子)
 fa6133 ジュエル・マクスウェル(40歳・♀・熊)

●リプレイ本文

【南米りたーんず】
●藤やンを探せ! LV36
 そう言うわけで、一行はまず藤やンを探して、南米遺跡を捜索開始していた。
「HAHAHAHAHA〜〜〜〜〜〜〜〜!!! ステイツの平和はミー達が守るZE!!」
 相変わらず派手な笑い声を響かせながら、南米の空に、その自慢の筋肉をさらしているジョニー・マッスルマン(fa3014)。その、巌岩要塞の様なお肉と、光輝く白い歯、そして無駄に爽やかな笑顔を見て、鈴木 舞(fa2768)がとっても不安そうに、こう尋ねた。
「あれをお手伝いするんですか‥‥。なんか大変そうですねぇ‥‥」
 遺跡探索でアノマロカリスを倒してこいと言われて、南米までやってきたわけだが、想像していたのと、目の前のジョニーさんでは、なんだかとっても解離中。
「むぅ、でもこのままじゃ実家の方まで危険に晒されちゃいますよ〜っ」
 確か、このあたり‥‥と言っても、大陸単位での話だが‥‥出身のミレル・マクスウェル(fa4622)が、青ざめた顔で、隣の母親を見上げる。
「どうもここ最近騒がしいと思ったら、色々とNW側にも事情があるようだね。騒ぎを収めるためにも、久々に一肌脱いでやろうかな」
 その母‥‥ジュエル・マクスウェル(fa6133)は、腕をぐるぐる回しながら、よっこらせと荷物を抱え上げる。中身は包んだ斧だと、ミレルは聞いていた。
「なんとかその前に親玉を倒せばいいんですよね? なんだか不安な雰囲気ですけど‥‥」
 そう言って、そのミレルがいぶかしんだ表情を向けたのは、オフィスPの二名である。
「んな事言ったって、俺、戦闘苦手だモン」
「ほら、俺、ノーパソより重いもの持った事ないセレブだシィ」
 洋ちゃんと社長‥‥鈴本氏だ‥‥は、そう言い合いながら、まるでヲトメのように、お手手を合わせている。その割には、2人とも勝負服‥‥動きやすい名前入りジャージ‥‥である。
 が。
「はいはい。寝言は寝てから言いましょうねぇ?」
 そんな2人の耳を、まとめて引っ張る草壁 蛍(fa3072)さん。
「「痛い痛いっ。蛍ねーさん痛いっ」」
 洋ちゃんと社長が、そう悲鳴を上げているものの、クィーンの耳には届いていないようだ。
「あ、あははは‥‥。あたしも足手纏いにならないよう頑張りますっ」
 彼らの二の舞にならないよう、そう固く心に誓うミレルちゃん。
「その前に、藤田さんを探しましょう。逃げたからと言っても、それで終わりにはできませんし」
 と、舞さんもそう言った。遺跡探索前に、その姿を見つけることもまた、彼女たちに託された任務だ。
「ふふふふ。敵前逃亡は重罪よ? 逃がさず追い駆け追い詰めムチャキング裁判にかけて判決を下すわ‥‥」
 もっとも、蛍さんは既にやっちゃう気満々なようだが。
「写真とかないんですか?」
 オフィスP2人が「「こあいよう‥‥」」とびくびくしていると、長瀬 匠(fa5416)くんがそう尋ねてくる。危害を加えるわけじゃなさそうだなーと判断した社長、ごそごそとかばんの中から、スタッフ章を引っ張り出す。
「えぇと、局の入館章でよければ‥‥」
 基本的に彼、番組画面には出てない。しかし、渡されたプラスチックの入館章には、間違いなく藤やンのフルネームと写真が記されていた。
「充分です。じゃあ手分けして、探しに行きますか」
 何しろ分かりやすい顔である。匠は、それを手がかりに、聞き込み調査を開始することにした。
 しかし。
「中々見つからないものねぇ」
 むぅと口を尖らす蛍さん。携帯に画像をコピって、見せて歩いていたもの、そう簡単にはヒットしないからだ。
「やみくもに探しても仕方ないかもしれません。遺留品とかありますか?」
「死んだわけじゃないけど、いくつかなら‥‥」
 洋ちゃんがそう言って、ごそごそと取り出してきたのは、取り終わった後のV等の機材だ。確かに、そこには『藤やンの☆』と丸文字で書かれている。
「ミレル、頼むぞ」
「うぅ〜…臭いけど仕方ないんですよね」
 いやいや半獣化するミレル。しかめっつらの彼女に、モヒカン(fa2944)がこう言った。
「我慢するのだ。幸運付与かけてやるからな」
「はぁーい」
 それでも、あまり近くでかがないようにしているミレル。ややあって、鼻をひくひくさせていた彼女は、ある方向を指し示した。
「あっ。こっちに向かったみたいです」
「畑の方か」
 彼女が示したのは、南米ではさほど珍しくない畑だった。果物と穀物、そして家族が食べるちょっとした野菜が育てられている‥‥そんな畑。
「あの果樹園の向こうは、それを過ぎると、遺跡の裏側に出るみたいです。ちょうど、作業してるあたりですよ」
 その、作業用通路を指し示しながら、そう説明するミレル。匠が作業していたおっちゃんに話を聞いたところ、それらしき御仁が通り過ぎて行ったそうだ。
「なるほど。これなら、目撃者はたくさんいそうだNA!」
 匂いを辿った彼らが訪れたのは、その街の中心街とも言える市場。人も多いそこなら、藤やンもすぐに見付かるだろう。周囲を見回しながら、そう言うジョニー。
「ええ。聞いてみましょう」
 頷いた匠は、とりあえず近場の露店に話を聞いてみる。
「私も手伝うわ。皆で手分けして探しましょ」
 その様子を見ていた蛍さんも、別のおにーさんに藤やンの写真を見せている。
「あ! いた! あれがそうかな?」
 その結果、それらしき人物を、市場の端っこの方で見かける匠くん。見れば、それらしきもじゃもじゃ頭が人ごみの遥か彼方を、郊外に向かっていた。
「後姿だと間違いなさそうね」
 頷く蛍さん。と、それを聞いたジョニーがばしっと腕を鳴らして、狩りの体勢になる。
「HAHAHA! 待つんだZE−−−−!」
 がっと足元を蹴り上げようとした彼の襟首を、蛍さんが、スリーパーホールドの要領で、がしっと掴む。
「待って。こっそり近づいて。私に良い考えがあるわ」
 ふがほぐ言うジョニーを始め、他の面々にも、その『策』をこそこそと囁く彼女。
「ふむ。だったらこれを使うが良い」
 頷いたモヒカンが、そう言って彼女にも幸運を付与する。そんな彼に、営業用スマイルで持って軽くウィンクした蛍さん、打ち合わせどおり、ミレルのお手手を握る。
「アリガト☆ ジェム、ちょっと娘さんを借りるわね」

 そのまま、まるで仲の良い姉妹のように、藤やンへと近づく二人に、ジェムは「あんまり無茶しないようにねー」と一言。まぁ、ムチャクイーンな蛍さんがついているから、ナンパしてくるような不届き者は、彼女によってつまみ出されるだろうから、余り心配はしていないようだ。
「参ったなぁ。キャンプ地どこだっけ‥‥」
 一方、その頃。当の藤やンはと言うと、きょろきょろと周囲を見回していた。まるで、迷子のような風情である。それを確かめた蛍さん、こっそりと前に回りこむ。
「はぁい、藤田ディレクター☆」
 路地を曲がったところで、顔を出す蛍。ミレルちゃんも一緒なので、まるで大小のお団子が並んでいるようである。
「おおっ! 地獄で仏とはこの事! 蛍さん、あの馬鹿ども、どこに居るか知らない?」
 そーとー彷徨っていたのか、その姿を見るなり、取りすがってくるおっさん。と、蛍さんはそんな彼に、にやぁりと意地悪そうな笑みを浮かべて、こうすりよる。
「いい事教えてあ・げ・る☆」
 わざわざ言葉を区切ってまで、微笑む蛍さん。その胸には『酒池肉林』と書かれたさらし布が巻かれ、お酒片手に、ちょっと頬を染めている。
「え? ちょ‥‥ま‥‥。そんな、こんなところじゃなくて、え、えぇぇぇ!?」
 顔を引きつらせている藤やン。それもそのはず、彼の目には、蛍だけではなく、ミレルや舞、それに何故か鈴本社長まで、おいでまーせと手まねき中。
「うふふふ。恥ずかしがりやさんね。そんな事言うと、さらし者にしちゃうぞ」
「おわぁぁぁぁ! 勘弁してぇぇぇぇ!」
 友好魅瞳を使った蛍さんが詰め寄ると、悲鳴を上げる藤やン。きっと、ヤバげな幻でも見てるんだろう。良く見りゃ、蛍さんしっかり半獣化中。
「何の幻なんだろう」
「うーん、聞かない方が花だよ」
 怪訝そうにそう言うミレルに、ジェムが首を横に振る。狂月幻覚で、放送禁止級にエロイ腐った男女向け18禁の幻覚を見せてるなんて、母親の口からはとっても言えません☆
「よし、今だ! 捕獲しろッ!」
 その隙を狙って、ジョニーがGO! と獲物を指し示す。程なくして、「ぎゃあああああ!!」と言う悲鳴と共に、謎の袋へ放り込まれる藤やンの姿があった。
 そして。
「だーかーらー! 濡れ衣だって言ってるだろうがーー!」
 ロープでぐるぐる巻きにされた藤やンが、足をばたつかせて抗議中。
「だって、ねぇ?」
「トイレ行こうとしたら、そっくりな奴に襲われて、ようやく逃げてきたなんて」
 顔を見合わせるミレルと蛍。なんでも、社長が本社へ事務作業を開始し、洋ちゃんが近所の子供と遊んでる間、背景画像のロケを済ませておこうとした藤やンは、ハンディカメラを片手に、キャンプを離れた。そして、ちょっとした隙に、後頭部を殴られ、気がついたら街中に転がっていたそうである。
「信じられないじゃない」
「「「うん」」」
 舞が同意を求めると、他の野郎どもも、こくこくと頷いている。
「日ごろの行いだな」
「お前ら、いまにみとれよ‥‥」
 ジェムの一言に、藤やンってば、ふくしうの炎を燃やしつつ、ぼそりと呟いている。
「それが本当なら、えさを掲げておけば、向こうから出てきてくれる筈ですよね」
 と、それを聞いた匠が言い出した台詞に「は?」と、口をあんぐりさせる藤やンに、説明を受けたミレルが、こう言った。
「えーとつまりですねー。親玉相手は藤やンさんや太平さんに餌になってもらって…」
「却下だぁぁぁ!」
 即答する藤やン。しっかり洋ちゃんも、ジョニーがとっ捕まえており、「俺を巻き込むなぁぁぁ!」と、悲鳴が上がっている。
「って、冗談ですよ。‥‥あれ、冗談じゃないの?」
 その状況に、あははは‥‥と軽く笑って、お手手をひらひらさせるミレルさんだったが、社長までご指名を食らっているその状況に、怪訝そうに首をかしげる。
「当たり前でしょ。逃げたからには、多分一番危険な役割を担うことになるでしょうね」
「餌には餌らしくなってもらう」
 おろおろしているミレルちゃんに対し、冷静に見捨てちゃっている舞。既にモヒカンにホールドされて、逃げようにも出来ない状態だ。
「それもそうですねぇ。じゃあ、素直にアノマロカリスの餌になってくださ〜いっ」
「俺は無実だぁぁぁ!! だいたい、肉はそこのパンダの方が絵になるだろうが!」
 ミレルがのほほんと言う中、喚き倒す藤やン。がしっと、器用に足先でパンダを掴む。
「えぇい、こうなったら貴様も道連れだ!」
「せっかくだから、シバルバーって呼んでやる。全員集合したところで、遺跡にレッツダイブだZE!」
 が、逆にその足をジョニーに確保され、あれよあれよと言う間に、三人とも、長いロープにくくりつけられて、まるで釣り餌状態。
「俺は死なないからなぁぁぁ!!」
「‥‥無事、事態を解決できますように」
 悲鳴とリベンジを誓う彼に、舞はため息をつきながら、ぼそりと呟く。その声に、若干不安と呆れが混ざっているのは、気のせいではないだろう。

●遺跡に潜れ! LV28
 途中までは、特にひねりもなく到着していた。いつぞやロケで使用したぴかぴかの骨や、ゴム製の蛇なんかが、埃を被っている中、一行は、金いいレギュラー陣‥‥通称『いつもの面子』を小突きながら、奥へと進んで行く。
「複雑な仕掛けがありそうですけど‥‥、どうなんでしょうね」
 遺跡探索を専門に行うのは始めてと言う舞は、念入りに通路をメモりながら、周囲を見回す。
「ルーファスの話じゃ、見付かってる部分以外に、隠し通路がありそうですけどね」
 事前に巻き上げた地図には、第二階層までの図が記されている。ハートマークは、他の調査面々が仕掛けたトラップだ。
「どっちにしろ、目的はあのでかいアノマロの巣なんだろう?」
「そうですね。落ち着いて冷静に戦闘回避しつつ、目的地まで行きましょう」
 ジェムがカメラを肩に担ぎつつ、そう尋ねると、匠はうなずいてみせた。放送電波には乗せられないが、自分達の安全を確保するには良さそうだ。
「じゃあ、あれは自動回避システムって事だNA」
 縄で片手首を縛った状態の藤やンと洋ちゃんと社長が、先頭に立たされている。逃げ回って動く盾と化したパンダ達を見て、ジョニーは楽しそうにこう一言。
「盾は逃げ回ってるねぇ」
「ふざけるなああああっ」
 小型のアノマロカリスを蹴り飛ばす洋ちゃん。だが、逆に彼らに足を齧られかけてしまい、悲鳴を上げている。
「あのあたりまでは、足場があるって事ですよね」
「そうなるなー。あ、落ちた」
 さすがに餌に死なれると、寝覚めが悪いようで、その小型アノマロを、スパイクハンマーで撃退するモヒカン。だが、その間に、3人は前後左右に走った溝にすっぽりと落ちていた。
「ふむ、とすると‥‥あれ? 計算が合いませんよ」
 その様子をメモっていた舞さん、怪訝そうに言った。遺跡だから、当たり前か‥‥と思ったらしい彼女、「うーん、ちょっと調べてみましょうか」と言って、溝の奥に超音感視を使う。
「どうだ?」
「やはり、底の方に『巣』がありますね。大きさからして、ボス専用らしいですけど」
 それによると、今いる階層よりさらに下に、ちょっとしたスペースがあるらしい。
「どこから現れたんだ‥‥」
「周囲の環境からすると、隠されていたみたいですから、封印とかそのあたりでしょうね」
 しかし、見た目は石の壁。怪訝そうに首をかしげる匠に、舞はそう解説する。このような遺跡には、オーパーツで何らかの細工がされていても、不思議はないから。
「よし、釣ろう!」
 ぽふっと手を叩いて、ジョニーがそう言った。ミレルが「大丈夫かなぁ‥‥」と呟く中、蛍さんは、友好魅瞳を輝かせておねだり。
「洋ちゃーん、藤やーん。お・願・い☆」
 能力をフル稼働した誘惑行為だが、彼女は「このくらい、クイーンを守るなら当然よ」と、豊かな胸をふんぞり返らせている。
「だいたい、お前らだって男だろ。だったらびしっとアピールしてやんなよ。でないと、画像が面白くないじゃないか」
 カメラを構えたジェム母さんが、おばちゃんパゥワァ全開で、そうにじり寄ってもいる。なんか文句あんの? とでも言い出しそうな女性陣の迫力に、洋ちゃんは諦めたように白旗を掲げていた。
「わかりましたよぉっ。絶対藤やンのせーだ」
 もっとも、じろりと睨まれても、諸悪の根源はまだ「俺は無実だって!」なんぞと訴えている。
「つべこべ言わず、さぁ、いってらっしゃーーい」
 げしぃっと、蛍さんに蹴りだされる3人。「ひょぇぇぇぇ!」と悲鳴を上げながら、階下へと落ちて行くのだった。

●アノマロ倒せ! LV17
 数分後。遺跡内にきしゃああああ! と言う良くあるモンスターボイスが響き渡った。
「たぁぁぁすけてぇぇぇ!」
 紐ぶら下げたままの洋ちゃんと藤やンが、必死の形相で壁をよじ登ってくる。その後ろから、彼らをひと飲みに出来そうな体躯のアノマロカリスが、やっぱり壁をよじ乗ってきていた。
「よし、良い感じに食い付いてきたみたいね!」
 にやりと笑う蛍さん。確信犯的な笑みに、舞が「外も、設置が終わったみたいです!」と報告してくる。
「てー事は、あとはあいつをぶち倒すだけだな」
「そーゆー事になる」
 べきばきと、指先を鳴らすモヒカンと匠。既に、完全獣化中。
「行くぜ! 撲殺ハンマー光臨!」
 鉛筆回しの要領で、スパイクハンマーを振り上げる彼。その身‥‥いやマッスルボディには、光り輝く幻惑光鎧と、金剛力増がかけられ、むきょっと一回りでかくなったように見える。
「ふぅぅぅぅんっ」
 がごんっ。と重機がぶつかる様な音がして、アノマロカリスのボディがへこむ。だが、あんまり効いていないようだ。
「固そうねぇ。間接決めた方が早いかしら」
 狂月幻覚で壁の幻覚を見せ、言霊操作と誘眠芳香を使い、アノマロを牽制していた蛍が、困ったようにそう言った。
「いや、掴まる危険性を考えたら、このままで構わないでしょう。全力で行きますよ!」
 匠が首を横に振り、霊包神衣で防御力、金剛力増で攻撃力を上げ、牙で噛み付きに行く。歯ごたえ抜群のアノマロカリスは、エビとイカのすり身に、カニの殻をまぶした様な味がした。だが、さすがに噛み切る事は出来ず、彼はその手に持ったナイフを突き刺し、組み付きながら、蹴りを入れる。
「っと。この程度、ムチャキングに比べたら、なんてことないぜ!」
 触手が彼をはがそうと、ぶぅんと唸る。弾き飛ばされるが、彼はぺっと噛み切ったモノを吐き出し、そう言って不敵な表情。
「いくら装甲が固いとは言っても、隙間やおめめは、覆われてないはず!」
 蛍さん‥‥いや、ムチャクイーンが、そう言って、仕込み傘から刀を抜き放つ。アノマロが大きさの割には素早い動きで反転し、彼女にそのはさみを振り下ろそうとした所、彼女はそのはさみを受け止めて、後ろ回し蹴りをぶち込んでいた。
「皆すごいわねぇ。私なんか出る幕ないかも」
 感心したように、舞はそう言う。彼女の戦闘力では、せいぜい虚闇撃弾での支援くらい。自信のなさそうな彼女に、匠の激励が飛んできた。
「弾幕薄いよ! 何やってんの!」
「あるみたいだよー。って、わぁ! こっちに来た〜」
 若いミレルには、何のネタだかわからなかったが、アノマロは壁の上に陣取っていた後衛組の彼女達に、目をつけたらしい。高い所にいたミレル、一生懸命蹴りを入れるが、しっかりと壁に張り付いたアノマロ、なかなか落ちない。
「ごめんなさい。貴方とはお友達になれそうにありません〜」
 許しを請うように、和気穏笑を使って微笑んでみせるミレル。そのほんわかした空気に、一瞬アノマロの動きが止まったように見えたが、さすがに上級ナイトウォーカー。殆ど効いていない。逆に、彼女を捕まえようと、触手を伸ばす。
「こ、来ないで下さい〜!」
「こらぁ! うちの娘は嫁入り前なんだから、さわるんじゃなぁい!」
 悲鳴を上げるミレルに、そう叫びながらジェムがギガントアクスを振り下ろす。完獣状態で振り下ろされたその巨大な斧は、触手をすぱーんとふっ飛ばしていた。
「大丈夫? 後衛は後ろから援護をお願いね」
「平気だよ。わかったー」
 母親の心配に、素直に頷き、触手の届かなそうな位置までさがるミレル。追いかけたアノマロの触手を吹っ飛ばしたのは、ジョニーの銃だった。
「サイズが馬鹿でかいKING級にBIGサイズなだけに何処を狙ってもHITするZE〜〜〜〜!!」
 HAHAHAHAHAHA〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!! と、良く分からない高笑いを、爽やか過ぎる笑顔で、無駄に歯を煌かせながら、IMUZIの弾丸をぶっ放す。
「射的より簡単だNA〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
 がんげんごんがんっと、射的どころじゃない土煙と、銃声が鳴り響く。その盛大な攻撃力は、アノマロの装甲だけではなく、遺跡そのものの装甲‥‥つまり外壁をも打ち抜いてしまう。
「こらーーー! こんな所で実弾撃ったら、壁崩れまくるだろうがーーーー!」
 で、舞さんに思いっきり怒られる。そりゃそうだ。彼女は建物にダメージを与えない為に、わざわざ虚闇撃弾を撃ってるわけだから。
「OH ソーリー! じゃあ、自前にするNE!」
 日本語と英語の混ざった口調で、銃をしまい、淡光神弾で弾幕を張るジョニー。と、その直後、アノマロの背中に、昆虫のような羽根が生えた。
「ちっ。こんな狭い所で、羽根なんぞ広げられてたまるか!」
「援護します! 生き埋めになったら困りますからね!」
 その羽根が完全に開ききる前に、アノマロが突撃してこられないような隙間に入り、舞は虚闇撃弾を放つ。同じように、波光神息を吐きまくるモヒカン。だが、その絶倫な体力は、衰える事を知らなかった。
「弾丸撃ちつくしてないけど、こっちの方が良さそうだNA! HAHAHAHAHAHA〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 実弾兵器を止められちゃったジョニーは、スカイスピアへと持ち替え、アノマロの表皮を突きまくっている。まるで、鉛筆で手の隙間をすり抜けるようなその動きに、次第に表皮は剥がれ落ちつつあるのだが。
「まだまだ元気だNE〜」
 さすがにちょっと疲れた様子で、槍を構えつつ、そう呟くジョニー。
「コアはどこかしら‥‥」
 攻撃を続けながら、コアを探すムチャクイーン様。
「外の連中から聞いた話だと、頭にあるみたいだけど?」
 ラジオ局の近くで、小型のアノマロカリスと戦っていた面々の情報では、アノマロのコアは、ちょうど額のあたりにあるらしい。このメンバーの中で、アノマロの背中が見渡せる位置に要る御仁はと言うと‥‥ミレルちゃんだけ。
「あ、見付けました〜! 背中にコアがあります〜!」
 相変わらずのんびりした口調で、ミレルが背中を指し示した。場所が分かればこっちのもの。蛍とジョニーが飛び掛る。
「よぉし、全弾纏めて突撃ぃぃぃ!!」
「ステイツに栄光あれ〜〜〜〜〜〜〜〜!!! 我が生き様を見よ!! FIRE〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!! 」
 その膂力で空中へと舞い上がった2人は、それぞれの得物を手に、技をたたきつけた。
「HAHAHAHAHAHA〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 ちょうど、ドロップキックを食らわすような感じで、その真紅の核へ、スカイスピアを叩き付ける。
「を〜〜〜〜〜〜〜〜〜ほほほほほほ!!!!!」
 びしっとヒビの入ったコアに、クイーン様が高笑いをしながら、飛操火玉を全弾纏めて超近距離から発射する。
「ぎしゃあああああああ!!!!!」
 その盛大過ぎるオンパレードに、巨大アノマロカリスは、ずどぉぉぉぉんっと倒れ伏すのだった。

●藤やンにたかれ! LV7
 翌日。
「「かんぱーーーい!!」」
 街中へ戻ってきた一行は、へとへとの体を休め終えると、地元の居酒屋へくりだし、杯を掲げていた。
「だから、俺は無罪なんだから、なんでお前らにおごらなきゃならんねん」
 全員のにこやかな表情とは裏腹に、1人顔を引きつらせているのは、藤やンである。
「うるさいわね。ちなみにムチャキング裁判の判決により確定事項よ」
 蛍さん、文句はまったく受け付けてくれない。他の番組ルールを持ち込まれて、彼はくるりと背を向ける。
「なんだそれはーーー! 俺は帰るぞ!」
 が。
「却下」
「おわっ」
 首根っこ掴んで、テーブルの上へと引き倒す蛍さん。ちなみに、上に乗っていた酒とツマミは、他の面々によって、避難を完了している為、心配は要らない。
「逃げる事は許さない、逃げ出したら何処までも追い駆け追い詰め、破産させるまで飲んでやる。
だから逃げずに財布の中が軽くなるまで奢りなさい」
 テーブルと藤やンを、自分の体でサンドイッチすると言う、見る人が見たらとってもうらやましい寝技をかけつつ、脅迫じみた一言を囁く彼女。
「姐さんステキー」
「って、何下僕ってる太平洋!」
 すでに洋ちゃんは、思考回路放棄して、蛍さんのペットになっちゃったようだ。
「いやぁ、弄られる奴を指差して笑うのは、良いストレス解消法だなー。テキーラが美味いぜ」
 モヒカンが思いっきり他人事のように、杯を傾ける。
「こらぁぁ! そこのモヒカン男ッ! 他人事してんじゃないッ」
「あー、タコスが美味しい」
 がるがると怒鳴り散らす藤やンなんぞ、ハナから目に入っていないようで、マルガリータ・ピザと、分厚いタコスを口に運んでいる。
「うふふふふふふ。逃がさないわよー」
「ひよぇぇぇぇ」
 良く見れば蛍さん、既に相当お酒をお召しになっているのか、目が据わっていた。酔っ払いに何言っても無駄なのを知っている藤やン、手足をばたつかせて逃れようとしている。
「母さん、アレ止めなくて良いの?」
「お仕置きを止めちゃ、しつけにならないだろ」
 ミレルが心配そうに言うが、ジェムが面白そうに見物を決め込んで要るので、何も言えない。
「生きているから明日があります。前に進むからこそ未来があるんです。藤やンさん、強く生きてくださいね‥‥」
「だから! あれは偽者が悪いんだってばーーーーー!」
 舞が、まるで諭すように生きる喜びを伝えている。そりゃあ、声優さんなので、その口調には重みと言うものが感じられるのだが、この場合、藤やンに対する処刑宣告にしかならないのだった。
 ご愁傷様!