【AoW】アノマロ防衛線南北アメリカ

種類 ショートEX
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 8Lv以上
難度 難しい
報酬 164.3万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 10/25〜10/31

●本文

●あいも変わらず
 最近、オフィスP所属の面々も、それぞれの仕事を精力的にこなし、社長の鈴本もディレクター藤田も、事務所に顔を出せないくらい忙しい日々を送っていた。それは、彼らと関わりの深いヒメ・ニョンも同じである。事件は、そんな忙しい日々の中起きていた。
「やっぱり、この土地柄だと、話が重すぎちゃいますね」
「そうですか?」
 南米のとある町のラジオ局。ヒメ・ニョンが、この地を題材にした新作を販売するとかで、地元の取材を受けていた。
「うん。題材としては悪くないと思う。遺跡のロマンは、万国共通だし」
「なるほど。先生は、その浪漫を形にしようと言うわけですね」
 内容は、古代遺跡の復活に絡んでの愛憎劇。当然登場人物の殆どは男性。まぁ、彼女の作品なので、当たり前といえば当たり前なのだが、1人がルーファスそっくりなのは仕様と言う奴だ。
「ええ。ただ、歴史を弄る時は、それなりの責任と覚悟を持たなくちゃ行けないですし、そう言う意味で、この土地柄は重い‥‥と言うわけですよ。まぁ、どんな国でも町でも、それなりに事情はありますし、考慮しなければならないんですが」
 まとめだけはまともな口調である。取材の終わった相手に「今日は貴重なお話をありがとうございました」と形式的に言われ、「いえいえー」と返すヒメニョン。
「あれ?」
 その後は、新刊の宣伝やら、関連グッズの紹介やら、提供の表示やらが垂れ流されている。そんな中、仕事を終えたヒメは、違和感を感じて空を見上げていた。
「‥‥うそぉ」
 その眼が丸くなる。あんぐりと口を上げた彼女の視界に移ったのは、空を飛ぶアノマロカリスの集団だった。
「まずいわ。こっちに向かってる。ちょっと、何とかした方が良いわよ!?」
 慌ててラジオ局に引き返し、今さっき分かれたばかりのスタッフを捕まえて、そう訴えるヒメ。スタッフが怪訝そうに「え? どう言う‥‥?」と、首をかしげた瞬間、すぐ側のガラス窓が思いっきり割れた。
「うわぁぁぁ!!」
「やばいっ!」
 見れば、体長1mほどの古代生物アノマロカリスに酷似した生き物が、触手をくねらせつつ、こちらににじり寄っている。慌てて、近くにあった鉄パイプで応戦するヒメさん。げしげしと型もなんもあったモンじゃなく、スタッフ総出でぶっ叩いて追い出した後、彼女はこう詰め寄る。
「ネット回線かなんかないの?」
「無線と電話しかないです〜!」
 南米では、近代設備は一部都市に限られているようだ。それなりに人口の多い街とは言え、日本で言う戦争直後レベル。TVすら、珍しい品の世界では、通信手段がアナログ化するのも致し方ないこと。
「ああもう、食いちぎられてるしっ。仕方が無いわねっ」
 オマケに、電話線は既にアノマロカリスによって破壊されていた。仕方なく、ヒメは自身のノートパソコンを使い、電話代が1秒300円レベルにまで跳ね上がるのを覚悟で、大西洋の向こう側へと回線をつなぐ。
『だから、寝ている最中に‥‥』
 ぶつぶつと文句を言いかけるルーファス。本当に熟睡していたらしく、ナイトキャップがチャーミング。
「そんなのんきな事言ってるバヤイじゃないわよ! これみなさいっ!」
 ぐいんっとパソコンに付属してあるウェブカメラを、表に向ける彼女。そこには、空飛ぶアノマロカリスと、壁を這い回るアノマロカリスの群れ。
『こ、これは‥‥』
「仕事にかまけて、あの遺跡ほうっておいたら、見事に引っかかっちゃったみたいね。ここでこの状態だと、一週間もしないうちに、サンパウロまで来ちゃうわよ」
 見覚えのあるそのモンスターは、いつぞや金いいメンバーが潜り込んだ遺跡で見かけたものだ。あの時は、せいぜい1匹か2匹だったが、今回は群れである。
『それはまずいな。何とか送り込むまで持たせろ。そっちに、何人かスタッフがいるんだろう?』
「と言っても、この小ささじゃ役に立つか‥‥。何とか粘って見るわ」
 そう言って、通信を切るヒメ。ところが。
「何? 金いいの連中が、例の遺跡に向かっただと?」
『ええ。中に詳しいのは、あそこの面々だと思ったから‥‥。問い合わせてみたら、既に出発した後だったわ』
 内部マップと戦闘データを求めたヒメ、いらいらした様子で、そう報告してくる。それはルーファスとて同じで、「あの馬鹿ども‥‥」と頭を抱えていた。

●今回の参加者

 fa0259 クク・ルドゥ(20歳・♀・小鳥)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa6102 古河 創平(32歳・♂・虎)
 fa6107 玉音祐二(28歳・♂・兎)
 fa6131 黒崎 劉童(30歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「ヒメ先生のピンチだと!?」
 南米で、一番青い顔をしているのは、聞いた瞬間飛行機に飛び乗ったらしいLUCIFEL(fa0475)である。今にもバイクを発進させかねない彼の肩を、知り合いらしき黒崎 劉童(fa6131)がぽむっと叩く。
「落ち着け。ルシフェル」
「これが落ち着いていらりょうかっ。俺が助けに行かないでどうするよ!」
 うきゃぁぁぁぁっと、愛用のライトバスターを振り上げつつ、そう声を張り上げる彼。その様子に、半分は納得したように、彼はこう頷く。
「まぁ、アノマロカリス型NWの群れか‥‥。それらが溢れ出しているとなると、危急の事態だな」
「だから、さっさと行かないとーー!」
 焦りまくるルシフェル。だがそこへ、武越ゆか(fa3306)がついっとマイクを差し出した。
「まぁまぁ‥‥。まず、以前遭遇した時の経験でも聞かせてもらえません? でないと、やられるだけですよ☆」
 そのマイクは、録音機器に繋がっている。彼女の言う事ももっともなので、「う‥‥」とうめいたまま止まるルシフェル。
「まぁ、ルシフェルさんくらいだったら、アノマロの触手に絡められても、それなりに絵になると思いますけどぉー☆」
 にやにやしながら、そうたたみかけるゆか。思わずリアルに別な意味で食われるシーンを考えてしまい、ぱたぱたと言い繕う彼。
「あーそのー! 確かにアノマロ型は以前に遭遇したなー。まぁ、あんまり情報は持っちゃいねぇんだが‥‥」
 顔を引きつらせながら、その時の事を話す彼。なんでも、外見はごついが、イカやたこ等と同じ様な感触で、打撃はあまり手ごたえがなかったそうだ。そして、不利になると、壁を伝って、遺跡の奥へ逃げ込んでしまったそうで。
「ふむ。話を聞く限り、以前遭遇したアノマロが、そのまま大きくなった感じだな」
 そう言うリュウ。ルーファスが画像で送ってきたそれは、サイズこそ人と同じ位だが、動きはルシフェルが語っていたのと、まったく同じだった。
「しかし、初仕事がNW戦か‥‥」
 多少げんなりした表情の古河 創平(fa6102)。陸 琢磨(fa0760)が「気にするな」と慰める中、彼はこう続けた。
「わかってる。経験不足なりになんとか成果をあげたいものだ」
 これでも、芸能在籍経験は長い。オマケに、各種免許を所持。役には立つだろうと。
「被害は、最小限に押しとどめませんとね」
「まずは何あれヒメ先生の元へGOぉぉぉぉ!!」
 ククがそれをメモにとっている。が、ルシフェルはその間に、バイクに乗って、走り出してしまった。
「って、地図とか回復薬ー! あーあ、行っちゃったよ」
 慌ててそう言うクク。彼女の手元には、まだ襲われている街の地図やら、ラジオ局の場所や、通信機器の場所など、重要な情報が書かれたメモがそのままだ。当然、必要になるはずの回復薬も‥‥である。
「まったくもう。女性がからむと、回りが見えなくなるタイプねー」
「行き先は同じなんだ。後で回収すればいいさ。こいつを積んでおいてくれ」
 呆れたようにトランシーバーのスイッチを入れるククに、リュウは布に来るんだ刀のようなものを差し出した。
「これは?」
「試作刀だ。向こうで使う」
 どうやら、自慢の得物らしい。頷いた彼女、すぐに取り出せる位置にしてくれた。
「全速力で飛ばせば早く着く筈だ。他に必要なものがあったら言ってくれ。たいていのものは売るほどある」
 マラネーロを始動させた琢磨がそう言った。修理代が、一般人にして見たら物凄い額がかかりそうだが、これまで稼いだお給料は、その程度ではびくともしない。当然、弾丸や錠剤も、ちょっとやそっと使ったくらいでは、その財布にそよ風をふかす事も出来ないようだ。
「よし。急いで向かうぞ!」
 そう言うリュウ。こうして一行は、アノマロカリスを撃破すべく、移動を開始するのだった。

 ラジオ局は、比較的大きな街の中心部にある。そこから、適時発信しているとかで、一行はそこへ向かっていた。
「まずはラジオ局の解放が先だな。救出に関する連絡は行ってるだろうから、立て篭もり場所等に急行ってとこか‥‥」
 古河がそう言って、局を目指す。ルーファスから教えられた場所は、地方の分局なようだ。
「立てこもり場所って、あれかな?」
 ククが、アノマロカリスのやたら群がった建物を見つけてそう言った。一応呼吸はしている生き物らしく、がじがじと盛大な咀嚼音が聞こえてくる。
「‥‥みたいだな。結構でかいぞ!」
 そう答えるリュウ。しかも、体長はルシフェルが出会ったものの倍はある。木造の品等は、バリバリと砕かれており、結構なパワーを秘めている事が分かった。
「仕方ない。こっちもパワーを上げるとするか!」
 古河がそう言って、筋肉をめきょっと膨らませた。金剛力増を使ったらしい。良く見れば、半獣化していた。
「おいおい、人の姿はどうなんだ?」
 リュウがその様子を見て、うかつに獣人化すると問題なんじゃないか‥‥と言いたげにそう言う。だが、ククは呼吸探知を使うと、その結果をこう答えた。
「一般人は、怯えて家の中に立てこもっているみたいです」
 そりゃあ、こんだけでっかいモンスターがうろうろしてたら、家から出たくないのも道理で。
「好都合だな」
 ルシフェルもそう言って半獣化している。この方が、隠そうと思えば隠しやすいからだ。
「おし、これより重量物の撤去にかかる!」
 それぞれ、獣の姿となった一行は、手にそれぞれの武器を持ち、アノマロカリスへと挑みかかる。
「きしゃああああああ!」
 においに気付いたそのうちの数匹が、くるりと反転して、一行へとスピードを上げてきた。
「こっち向かってきた!」
「ふぅん!!」
 金剛力増で増加された筋肉で持って、そのアノマロカリスに一撃を食らわせる古河。だが、ルシフェルに言われたとおり、その体はゴムを叩いているようで、何割かが通用していないようだ。
「結構固いなぁ‥‥。仕方ない。これ使うか‥‥」
 そう思った彼、荷物からスパイクハンマーを取り出す。どう見ても鈍器のそれに、ククは不安そうに眉根を曇らせる。
「大丈夫かなあ?」
「知らないか? 日本じゃこれによく似た武器で、暗殺出来るんだぜ」
 確かに、報道フロアからも『バールのよーなもの』で、元人間さんなNWが倒されているらしい事が聞こえている。で、それをかなり誇張して吹き込む古河。
「へー」
「嘘教えないでくれ‥‥」
 感心したようにそう言うククに、多少げんなりした表情で、そう呟くリュウだった。
「どうやらアノマロ達は、スタジオの方に固まっているみたいですね。建物が壊される前に、取り除いてください!」
 一方、そのククは周囲の状況を見ながら、そう言った。確かに、今の状況では、いつ窓やその内側のバリケードが壊されるか分からない。
「このぉ! ヒメセンセを出しやがれ!」
 ルシフェルが、そうはさせまいと、襲撃されている場所を、片っぱしから蹴り飛ばしに行っているが、中々進行は止められていない。
「あれはどうする?」
「ヒメさんが出てくれば大人しくなるでしょう。場所はわかっているんですから、撃破が先です!」
 そう尋ねるリュウに、ククはそう言って、彼と同じように、アノマロの処理を優先させるのだった。

 一方、襲われているラジオ局の中の人は。
「何とか、外に出られれば良いんだけど‥‥。他にメンバーは?」
「これだけしかいませんよ」
 ヒメの問いに、そう言って指し示したのは、局のお仕事で来ていたらしい玉音祐二(fa6107)くんを始めとする数人。
「ふふふ。『弄れる奴は容赦なく弄る!』そう力強く言い切るヒメ・ニョンが素敵☆」
 しかもその玉音。ヒメのラジオ番組を聞いて、すーっかりファンになってしまったらしい。と、それを聞いたヒメ、がしっと首根っこを掴んで、低い声音を響かせた。
「ほほーう。そうかそうか。なら手伝ってもらおうじゃないの」
「はーっはっは。NWが大挙して押し寄せてるそうだが、俺様のブーストサウンドで成敗してやるぜ!」
 言われた玉音、ガラっと扉を開ければ、目の前を通り過ぎるのは、まるで黒くて嫌ンなあんちきしょう同然の動きな、アノマロカリス数匹。
「‥‥帰っていいっすか?」
 ぴしゃっと扉を閉めて、泣きそうな顔で引きつらせる弱気な玉音くんに、ヒメさんはこうどなりつけていた。
「却ぁぁぁ下っ! て言うか、逃げ場所なんかないわよ?」
「えぇぇぇぇ。そんなぁぁぁあ」
 がーんっと、ピンスポON状態で、両手両足を付いている玉音くん。耳を澄ませば、壁をがりがりと噛み砕く音が聞こえてくる。
「はいはい。文句言わずに、さっぁっさと獣化おし」
「しくしくしく‥‥」
 どうやら、戦うしかなさそうだ。滝涙をこぼす玉音くん。仕方なく、言われたとおりにしている。
「武器は持ってるわよね? じゃ、文句はここ突破してから言いなさい」
 そこに、ぽいっとマイクが渡された。
「はい☆ 良いから、貴方のその歌声で、あそこの連中にひと泡吹かせてきてね☆」
 どうやらヒメ、玉音にこの状況をどうにかしてもらおうと思っているようだ。聞けば、彼女は亀の獣人さんなので、どちらかと言うと防御タイプ。武器を取って戦うのは得意じゃないらしい。
「えぇぇぇ!?」
 口をぱくぱくと開け閉めして、どうしよう! と、頭を抱える事数秒。だがヒメは、問答無用と共に、扉を開ける。
「うわぁぁぁ。放せー戻せー俺はまだ死にたくないー!」
 がりがりと咀嚼音が否応ナシに響き、危機感を煽る。だが、だだをこねる玉音を、ヒメはげしげしと蹴り飛ばした。
「えぇい、問答無用ッ。死にたくなければ戦え」
 逃げ回る玉音。「ひぇぇぇんっ」と情けない悲鳴を上げて、じたばたと暴れまわる彼を、ヒメさんはげしげしと小突き回した。
「まったく、根性のない子ね! うわっ」
 だが、そんな事やっている間に、アノマロカリスの触手が、ヒメを襲う。
「あぶな‥‥」
 さすがにそれを振り払おうとする玉音だったが、別の奴に絡めとられてしまう。と、その時だった。
「ヒメせんせーーーーー!」
 薄い壁の向こうから、アノマロカリスを撥ね飛ばす音が聞こえた。
「こらぁぁぁぁ!!! 何さらしとんじゃエビどもぉぉぉぉ!」
 げしぃぃぃぃっと、ライトバスターが振り下ろされる。ちょっと驚いたようなヒメの前で、勢いで真っ二つになってしまったアノマロカリスを足蹴にしつつ、ルシフェルは一瞬の早業で、乱れた髪を整え、きらーんと歯を輝かせる。
「だ、大丈夫ですかっ? ヒメせんせ」
「ありがと、あたしは大丈夫よ」
 にこりと微笑んでくれるヒメさん。どうやらこーゆー時の『ご褒美』くらいは心得ているようだ。「むしろ、その下でひっくり返ってるその子がピンチだけど」
 と、そう指摘されて、ふと足元を見ると、アノマロカリスの死体の下で、さらにぴくぴくと痙攣している約1名。
「お久し振りですっ。ヒメ先生☆」
 と、そこへ後からかけつけたゆかが、ぴょこんっとアノマロ死体の向こうから顔を出す。
「あれ? ゆかは、洋のところじゃないの?」
「ごめんね‥‥。BLとの苦渋の天秤だったのっ! 即断だけど♪」
 どうやら、お笑い芸人に付き合うより、ヒメの生原稿を拝みに来たらしい。迷ったと言いつつ、ばっさり切り捨てちゃったゆかを尻目に、ククがこうツッコむ。
「それはともかく、負傷者や局の状態を教えてくれないかな?」
「あ、ああごめんなさい。とりあえず、怪我人は、あっちよ」
 ヒメが指し示したのは、局内で一番広いスタジオだ。と言っても、正直トミーTV札幌支局よりも小さな局である。広さはたかが知れている。
「わかりました。手当てを手伝いますから、一般人へのフォローとか情報操作とか、お願いしますね」
 ククがそう言うと、それに乗じて、古河とゆかも必要事項を告げてくる。
「局内で退避と現在状況を知らせて貰うため、ラジオで臨時番組流して欲しいわ。あ、車両も貸して欲しいかな‥‥なんて」
「出来れば、4人乗れる幌付きのトラックか大型バンを‥‥。一部は荷台乗車で大丈夫だから」
 矢継ぎ早に言われ、ヒメは『わかったわかった』と言わんばかりに両手を挙げ、こう教えてくれた。
「幌付じゃないけど、トラックなら裏にあるわ。大道具室にシートが転がってたから、それをかぶせれば、誤魔化せると思う」
 ちらりと見れば、よく使いこまれた年代モノのトラックが『取材用』と書かれている。
「この辺りの車乗りは、助手席にこれ持ってってるわ」
 そんな彼に、ヒメはそう言って、車載型ではないラジオを差し出した。
「携帯用ラジオ‥‥の割にはでかいな」
 古河が首をかしげるのも道理で、それは日本では、よく子供の電子工作で作られているようなシロモノだ。
「あと、カーナビなんて最先端技術、ここにはこないわよ。代わりにこっちで何とかしなさい」
 渡されたのは、この辺りの地図である。現地の言葉で書かれているが、ラジオ局には大きく電波塔のマークが書かれているから、それほど困らないだろう。
「出来ればカモフラ用に、撮影や収録機材っぽいモノは借りれないか?」
「ラジオ中継用の機材なら、そこらへんに転がってるわ。ただ、余り目立つものではないから、カモフラにはならないかも」
 ヒメがスタジオに併設された調整室‥‥通称『金魚鉢』の中にある、中継用機材を指し示す。確かに、TVと違って、ラジオ用はちょっと大き目のマイクと、ごっついチューナーがついている位のシロモノだ。
「ないよりはマシでしょ。誘き出しや隔離とかもしてもらえると効率的かな?」
「無理無理。自分ン家守るのに手一杯だもん」
 ゆかの要請に、首を横に振るヒメ。ここにいる面々は、殆どが地元育ちで、さほどパワーを持っていない。おそらく、局の周囲でげしげしと追い返すだけで精一杯だろう。
「じゃあ、うーん‥‥一般人への偽装だけでもやってほしいんだけど‥‥」
 正直、アノマロカリスの相手で手一杯で、一般人の事まで気が回らないそうだ。と、ヒメは「それくらいなら、大丈夫かな」と頷いてくれる。
「わぁい。ヒメ先生なら即興でも大丈夫☆ 楽しみにしてますね」
「‥‥‥‥後で責任とってよ」
 ネタは是非『アレ』で! と、ゆかが画像付プロフィールDVDを、ヒメに渡す。期待のまなざしを向ける彼女に、ヒメは呆れたように言って、ペンを走らせるのだった。

 で、それから数時間後。
「って、なんか意味が良く分からないんだが‥‥。このモデル、ルーファス氏か?」
 古河くん、ラジオから垂れ流されてくる音声に、顔を引きつらせている。どこから集めてきたのか、日本語で喋るラジオの中身は、どこかで見たような銀髪の神父が、彼氏と付かず離れずと言った距離で旅に出る番組と化していた。要は出てくる敵がアノマロ、いちゃつきつつ進んでるのが、自分達と言う暗号番組である。
「BLって言うのよ♪」
 うふふふふ‥‥と、解説するゆか。当然、一般人にはわからない専門用語が、てんこ盛りな為、彼女の通訳が必要なようだ。
「これ‥‥、俺達が聞くと、すっげぇヤバいんですけど‥‥」
「あ、あははは。下手にモデル知ってるしねぇ‥‥」
 顔を引きつらせるルシフェルとクク。おまけに、相手役の男の子まで、一緒に仕事をした事のある御仁だったり、事務所が同じ奴だったりするので、かなり複雑な気分。
「って、ここの御仁はめさめさ楽しそうだけど?」
「ふふふ。そこよ、そこで押し倒すのよッ。ああ、切ないボイスがす・て・き☆ あー、後でヒメセンセから、マスター音源コピってもらおーっと。それ位は、平気だよね☆」
 もっとも、通訳のゆかは、まるで緊張感のかけらもなく、うっとりと聞き入っている。一般人には、どこがどうステキなのか分からない状況で、嬉しそうにトランシーバーを操作していたり。
「俺ら、聞かなくてよかったな‥‥」
「まったくだ」
 頷く荷台のリュウさんと玉音くん。2人とも、まだ獣化中だが、見ようによっては着ぐるみ搬送中に見えなくもない。と、その時だった。
「おいでなすったぜ!」
 後ろのマラネーロから、琢磨がそう報告してきた。見れば、飛行型のアノマロカリスと、地面型アノマロカリスが、何匹かまとまって追いかけてくる。
「あぁん、まだ次のラジオ局まで、しばらくかかるのにぃ!」
 ゆかが悲鳴を上げるように悶えているところを見ると、もう数時間はかかるようだ。その悶えっぷりを、荷台から見たククは、不安そうにFireRockを見つめる。
「これ、車の中からでも効くかなぁ」
「無理だろ。中から歌って声届くか?」
 リュウが首を横に振る。確かに、声量のある彼らにしてみれば、車の外に声を届かせるなど、さしたる苦労ではないが、その分負担は大きい。
「出来ない事はないけど、威力は落ちるよね。じゃ、外出るしかないか!」
 そう思いなおしたクク。獣化したままカバーを跳ね上げる。それを見て、玉音も納得したように言った。
「つまり‥‥だ。車で突っ込んで、その中の者が音波系オーパーツで全体にダメージを与え、他のヤツが各個撃破し制圧にかかる訳だ」
「まぁ、そうなるまでに、力尽きなきゃ良いけどねー」
 そう答えるゆか。だがその手には、何故か太いロープが握られている。その先は‥‥玉音くん自身だ。
「‥‥ところで。その作戦の要の俺を縛り上げてちゃ、それどころでは無いと思うのデスガ」
「だって逃げられたら困るしぃ。ほら、命綱って奴よ?」
 きっぱりとそう言うゆか。どちらかと言うと、釣り糸の先っぽい状況に、彼がぷぅぅっと頬を膨らませたその時である。
「な、なんだこれ!?」
 通りすがりのおにーさん、驚いたようにアノマロカリスをガン見中。しかも、そればかりではない。
「ちょっと! 近くにスクールバスが通ってるって!」
 ゆかが、ラジオを耳にそう言った。話が、とある学園に向かうところから、そう判断したらしい。
「この辺りの奴は勤勉だなぁ。で、避難勧告は?」
「スクールバスにラジオついてないそうよー‥‥」
 車載式じゃない事を考えれば、妥当な話である。日本で言えば、MP3プレイヤーにあたる品。学業施設には、基本的に持ち込み禁止だ。
「えぇい、仕方ないっ」
 野外収録を装う為、機材の間に身を潜めていた獣化済の古河、ダミーカメラを片手に、荷台から飛び降りて、その兄ちゃんをつまみあげた。
「この辺りは、野外収録中だ! 死にたくなけりゃ、家で寝てろッ!」
「はははははひっ」
 どうみても本物にしか見えない虎さんに怒鳴られて、真っ青な顔になりながら、おにーちゃんはお家に帰って行った。
「バスは?」
「そのままよ!」
 もう一つの一般車、スクールバスはと言うと、ラジオを搭載していないので、まっすぐ学校へと向かってしまっている。それは、ちょうどアノマロ達の進行方向だ。
「仕方ない。エビどもの進路を変えるぞ!」
「ゆーちゃんも、さっさと歌ってください!」
 そう言う古河の指示にしたがい、ゆかが玉音を蹴り落とす。
「こうなりゃヤケだやってやるぅあーーっ!」
 逃げられない状況だと思った彼、ぎゅわーーんとブーストサウンドを鳴らし、演奏を開始する。
「結構、良い音出してるじゃない」
 その傍で、攻撃されないように光学迷彩を発動させるクク。と、玉音は声を張り上げて、こう一言。
「隣の家に囲いが出来たってねー。‥‥‥‥羽子板!」
 よくわからない小咄だが、本人はいたって真面目にアノマロカリスを迎撃中。
「こっちとしては、その方が動きやすいけど。せぇの、FIRE ROCK!」
 完獣化し、ギターをかき鳴らすクク。ぶっ飛んだ力ある音が、次々とアノマロカリスの殻へ炸裂する。
「バスは上手く幹線道路に抜けたみたいよ☆」
 その間に、バスは戦闘地域から離れたようだ。影査結界と鋭敏聴覚で確認取っていたゆかがそう言って、基地のヒメに報告している。
「よし、ここなら存分に戦えるな!」
 気付けば、町から少し離れた建造物の近くに、ルシフがそう言っている。
「何とか間に合ったか。なら、本番はここからだ!」
 整った舞台で、琢磨はそう宣言するのだった。

 それは、まるで古代のステージを思わせる一画だった。両脇によくわからないレリーフのある石柱が立ち、それを覆うように木々が生い茂っている。
「軽くライブ感覚だよね。ほら、たっぷり食らわせてあげるよ!」
 ククがFIRE ROCKでビートを刻みながら、そう言った。音響装置があるわけではないが、音は振動。あちこちに跳ね返っている。
「南米は遺跡だらけかよ」
「日本も似たようなもんだろ。だか、これだけ建造物があれば、こう言う事も出来る!」
 どこにでもある遺跡に、リュウがそう言うと、ルシフは地壁走動を発動させる。壁を走るそれは、石柱を飛び越えて、アノマロカリスの背後へと回りこんでいた。
「なるほど。遺跡を障害物として有効利用出来るしな!」
 俊敏脚足で機動力を高めて、後ろから前へと駆け抜けるルシフ。その手に握られたライトバスターを見て、リュウも後ろのククや玉音の盾にならんと、前へ回りこんだ。
「空からも来ました!」
 そこへ、ゆかが悲鳴じみた警告を発した。見れば、薄い昆虫の羽根を生やしたアノマロカリスが、こちらへと急降下してくる。
「任せろっ」
 完獣化し、地面を蹴るリュウ。その頭部には角が生え、両腕には試作刀である斬鉄が握られている。
「なかなか当たらないな‥‥」
「お前達は撹乱に徹してくれ。前衛は俺がやる」
 だがそれでも、数は中々減らない。ぼやくルシフェルに、琢磨がそう言って、水鏡の刃を発生させる。
「アホ。何のためにライトバスター持ち込んだと思ってるんだ。なぁ?」
「わざわざ頼まれて来てるんだ。斬鉄だって、振るわれる時を待っているさ」
 が、ルシフェルもリュウも、引き下がる気はないようだ。
「‥‥当たっても知らないぞ!」
「「覚悟の上だ!」」
 声を揃えて言う辺り、心は決まっているらしい。
「わかった。ならばノルマは1人2匹。文句は聞かないからな!」
 そう言って、シャイニンググローブをアノマロカリスに押し当てる琢磨。寸頸でコアを粉砕したのを見届け、今度は倚天の剣へとチェンジする。
「それくらいなら、余裕だぜ!」
「どうかな‥‥」
 ルシフが、牽制代わりに青月円斬を放つ。だが、琢磨は同じ技を数を抑えて使っていた。敵の数はまだまだ多い。使用回数の限られたそれを、全開で使うわけにはいかないからだ。代わりに凍霧氷牙を使って動きを制限させていた。
「朗報よ。半分は、四天王の護衛に向かったみたい」
 そこへ、ゆかがラジオから聞こえてきた情報をもとに、そう報告してくる。
「よし、残りはここで確実に迎撃するぞ。他の面々に迷惑はかけられんからな」
 そう判断した琢磨。そうすれば、四天王やボスと戦う面々も、だいぶ楽になるだろう。
「うー。飽きたー。喉痛いー」
 もっとも、迎撃班の1人は、すでに戦闘がいやんな気分になっているようだが。
「文句言わないの。この程度のライブで喉痛めるなんて、技術足りない証拠だよ?」
「しくしくしく‥‥」
 背中のククに諭され、涙をちょちょぎらせる彼。まぁ‥‥強く生きろ。
「ちっ。だいぶかじられたな‥‥」
「はいはーい。軽傷だけだから、回復はマメに来てねー☆」
 ルシフが、腕に走ったかすり傷をぺろりとなめながらそう呟く。と、ゆかはそんな彼に、ヒールミストコートを吹き鳴らしながら、お手手を振る。
「‥‥どきどき。これって間接ちゅー?」
 ゆかを中心に、半透明の霧が立ち込める。瞬く間に傷の癒えて行く姿を見て、ちょっと頬を染めている若者。
「それ、中東でおっさんが吹いてたよーな‥‥」
「言わないでおいてあげて☆」
 ククが眉根を曇らせると、ゆかちゃんは人差し指を唇に当てて『内緒♪』と呟く。
「頼ってる時間はないか‥‥。ホントは、ヒメセンセあたりに看病してもらいたかったけど‥‥な!」
 一方、ルシフはと言うと、後ろに下がる手間をかける代わりに、吸触精気を使っている。たちどころに傷が消えると共に、アノマロカリスがしゅおしゅおとその精気を奪われていた。
「もう少しだな‥‥」
 琢磨が冷静な口調でそう言い、ゆかにこう確かめる。
「この辺りに囲い込めそうな場所はないか? 長期戦になると、色々まずいだろう」
 もう、使える特殊能力も残り少ない。俊敏脚足で撹乱しているが、そろそろ決着をつけないとまずそうだ。
「えぇと、100m先くらいに、かんがい用の水路があるわ」
 地図を確かめていたゆか、そう教えてくれる。見れば、遺跡の周囲にあるのは、南米ではおなじみのとうもろこしだ。
「わかった。弾幕張ってくれ。姿を隠したい!」
「OK。これ以上、あたしのスィートタイムを邪魔させてなるモンですか!」
 ゆかも、オーボエから牽制役へと戦法をチェンジする。
「この距離なら、行ける。まとめてなぎ払うぞ」
「OK。こっちも奥の手を使わさせてもらうぜ!」
 追い立てられるように、用水路へ向かうアノマロカリスを見て、琢磨が攻撃を集中させるように言うと、ルシフが別の武器を取り出した。見れば、一日一発限定のソルジャーガンである。
「きしゃああ!!!」
 アノマロカリスが、まるで一匹の生き物のように、まとまっている。そこへ、琢磨は水鏡の刃を突きつけて、こう宣言した。
「何が貴様等を駆り立てるのかは知らんが、早々に消えて貰おう‥‥。貴様等の様な化け物をこれ以上のさばらせて置くのは癪に障るのでな!」
 振り下ろされる真っ青な刃。胸元に収めた龍玉が、その纏った霧の刃に、力を与える。
「きしゃあああああ!」
 振り払うように吼えるアノマロカリス。だが、琢磨のそれは、本命に見えて実は牽制。
「エビごときに、舐められてたまるかぁぁぁぁぁ!!」
 死角から回りこんだルシフが、超至近距離‥‥いわゆるゼロ距離から、ソルジャーガンを発射する。
「ぎしゃあああああ!!」
 水鏡の刃の倍はあるその弾丸は、塊になっていたアノマロカリスを撃ち貫いてみせるのだった。

 そして。
「ようやく終わったか‥‥」
 ひっくり返ったアノマロカリス達。戦いの後を物語るが如く、そこかしこに焦げ跡やら切り取られた足やらが転がっている。
「‥‥しかしこの変死体の山どうするんだ?」
 古河がそう尋ねた。確かに10匹はいるであろうそいつらは、放っておいたら、南米の巨大生物と言う名で、新聞沙汰になりかねない。と、ゆかがぽんっと手を叩いた。
「アノマロカリスって、確かイカの仲間らしいから、皮を剥いたら、意外といけるかもよ?」
 見ればその手元には、どこから手に入れてきたのか『恐竜図鑑』と書かれた小冊子が握られている。
「ふむ‥‥。加工して見るか‥‥」
 ばりばりと皮をはぐ古河。確かに中身は、エビと変わらない。
「本当に食えるのか?」
 怪訝そうに眉根を寄せるルシフ。と、彼は黙って玉音を指差した。
「Alteration。世界は変わり始める‥‥か」
 で、そこにはごーいんに良いところを奪って〆ようとしている彼が、夕日を探している。
「ああ。確かに実験台は、ゆーちゃんで良いかも」
 ゆか、おーえんしてるからねぇ☆ と、ヒメそっくりの悪魔な微笑を浮かべている。
「かあいそーに‥‥」
「胃腸薬用意しておくよ‥‥」
 同情するが手は出していないククに、琢磨はそう言って、荷物の中から残った錠剤を取り出すのだった。