初詣に行こうYO!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/02〜01/06

●本文

 神社仏閣において、一年で一番忙しい時期。それは、正月である。この日の為に、二ヶ月も前からバイトの巫女さん達に、研修をさせ、何も知らない一般参拝客から、お賽銭やご祝儀と言う名のお布施を搾り取る計画を立てていたとある神社で、1つ問題が起きた。
「巫女が風邪で倒れたぁ!? どうすんだよー!」
 渋谷区神宮前にあるその神社。小さな社ではあるが、干支の記された縁起皿と振舞われる甘酒を目当てに、例年200人ほどの初詣客が訪れる。ここで、甘酒を振舞う筈のバイトと、新年の挨拶をする係りの人が、今年は風邪で出られそうにないと言うのだ。
「そだ。お前の知り合いに、ライブハウスやってる奴がいたな。確か、柏木とか何とか。ライブハウスの奴なら、見た目も可愛いし、声量もでかいだろう。呼んで来い」
「えーーー。しょうがないなぁ‥‥」
 偶然、近所に住む女性の一人が、ライブハウス柏木の常連だったせいか、話は巡り巡ってマスターの元へともたらされた。
「巫女に神主? 面白そうじゃないか。よし、引き受けた」
「ますたぁぁぁぁっ!?」
 まぁ、正月だから。と言う事で、仕事を回す彼。
「ついでに、お神酒を少々回してくれると嬉しいんだが」
「酒目当てかよ!」
 常連のツッコミに、笑って誤魔化すマスター。だがその目には、間違いなく『ただ酒!』と書いてあったと言う。

●今回の参加者

 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa0565 森守可憐(20歳・♀・一角獣)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0954 白河・瑞穂(17歳・♀・一角獣)
 fa1291 御神村小夜(17歳・♀・一角獣)
 fa1660 ヒカル・マーブル(20歳・♀・牛)
 fa2163 アルヴェレーゼ(22歳・♂・ハムスター)
 fa2584 遠坂 唯澄(18歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 それぞれの年越しを過ごした彼らが、神社へと集合したのは、新年2日目の朝だった。
「新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
 元日の初詣を済ませ、いつか年末番組への出演を祈り願い終えた森守可憐(fa0565)、同僚達とマスターへ、深々とご挨拶。
「それにしても‥‥結構な人ですね」
 ちょっと驚いている様子のヒカル・マーブル(fa1660)。見れば、話に聞いていた数の、3倍近い人数が、参拝に訪れている。
「三が日がピークですからね。皆さん、常に接客は笑顔を以って落ち着いた対応を、折り目正しく姿勢を正し清楚に応対しましょう」
 そんな彼女に、御神村小夜(fa1291)がそうアドバイスしていた。
「巫女さんですか‥‥。楽しそうですね〜☆」
「前々から興味はあったんですよね。巫女のお仕事って」
 実際はそれほど楽しいものでもないのだろうが、普段あまり着る機会のない装束が着れるとあって、ヒカルも彼女も、どこかわくわくとした風情だ。
「それはいいけどよ、マスター。ちょっと報酬が少なくねぇか?」
 そんな中、ひのふのみ‥‥と、指折り何か数えていたアルヴェレーゼ(fa2163)が、「何の事かなー」と明後日の方向を向くマスターに、えり首を掴まんばかりの勢いで、詰め寄っている。
「せめてライブハウスの優先使用権とか、ツケの解消とか、何か特典はー!?」
「昼飯はタダで食わせてやってるだろうが。世のシステムが悪いんだから、俺に文句を言うな」
 俺のせいじゃねぇ! とばかりに、すっとぼけるマスター。まぁ、確かにライブハウスへ行けば、ただ同然でご飯を食べさせてはもらえるので、重宝しているし、店の電源を勝手に拝借しても、文句は言われなかったりするのだが。
「大人げないぞ、アル。まだまだ無名の身。こう言う新年らしい仕事も、大事にしていかなければなるまい」
 そんな彼を引き止めたのは、遠坂 唯澄(fa2584)だった。クールにもっともらしい事を主張する彼女の手元を見て、アルが即座にこう返す。
「そんな事言って‥‥。早々と手にしている巫女服はなんだ? え、唯澄姐さんよ」
「これは‥‥っ。いや、本当にそれだけだ。決して巫女装束が可愛くて着てみたかったとかではなくっ」
 顔を真っ赤にして慌てる唯澄さん。彼女が持っているのは、神社で支給されている巫女服だ。緋袴に白衣に千早の、萌え萌え三点セットである。
「まぁ、何でも良いやな。しっかり働いてくれりゃ、お年玉が出るかもしれないぜ」
「「はーい」」
 同じ様に支給されたそれを持って、一同は初詣の準備に赴くのだった。

 そんなわけで、白河・瑞穂(fa0954)を始めとする、何人かの基礎知識を持ち合わせた御仁の指導により、にわか巫女&神官さんとなった彼らは、簡単な禊の後、巫女装束等々に着替え、それぞれの配置で、参拝客を迎えていた。
 ちなみに、女性陣は、全員巫女装束に千早、男性陣は緑の袴に白衣‥‥と言う出で立ちである。目の悪い小夜と静十郎は、眼鏡を着用していたり、ヒカルのような金髪でナイスバディなセクシー巫女もいたが、バリエーションが却って豊富になり、マスターなんぞは鼻の下を伸ばしている。
「巫女たる者、心身共に清く正しくあらねばなりません。やましい心に乱暴な言動、肌の露出など以ての外ですよ」
「折角初詣にいらしたのですから、清々しい気持ちでお帰り願いたいですしね」
 挨拶担当の小夜と藤川 静十郎(fa0201)は、初詣にふさわしい心持で、仕事に臨んでいる模様。
「新年、あけましておめでとうございます」
 声量はそれほどでもないが、舞扇を手に、笑顔で参拝客に挨拶する静十郎の姿は、まるで歌舞伎の中で、優雅に舞い踊るかの如き振る舞いだった。その挨拶を皮切りに、門扉代わりの柵が撤去され、参拝客が次々と社へなだれ込んで行った。
「ようこそお出で下さいました。旧年は慌しく過ぎ、新たな年を迎えました事、お慶び申し上げます。今年一年も良い年でありますよう、無病息災祈願成就をお祈り致します」
 鳥居の反対側で、深々と一礼し、お祝いの言葉を述べる小夜嬢。
「走らないで下さいねー。着物だと、転んじゃいますからー」
 参拝客を誘導しながら、そう注意する彼女。中には、着物姿の若い娘や、男性もいる。しかし、瑞穂や可憐等と違い、あまり着慣れていない服装に、足元がおぼついていない。
「終わった方は、こちらへどうぞ。甘酒を用意しておきました」
 可憐が参拝の終わった客を、階段の下の甘酒配布場へと誘導している。そして、こう言いながら、紙コップに注いだ甘酒を差し出した。
「寒い中、ご足労頂きまして、まことにありがとうございます。感謝と息災を祈念いたしまして。甘酒をご用意いたしました。とても暖かくて美味しいですよ。いかがですか?」
 元々、無料配布なので、甘酒は飛ぶように消えて行く。参拝の行列は、あっという間に甘酒を求める列にすり替わって行った。
「こっちより、列整理に人員を割いた方が良さそうですねぇ」
 挨拶を終えた小夜、あたふたと甘酒を並べて行く可憐を見て、配る係りにチェンジする。
「にしても、やはりこういう時は小さな子も着飾らせてもらったりで、頬が緩むな。はい、どう、ぞ‥‥」
 混雑してきた様子に、唯澄がそう言って、甘酒を差し出す。が、着飾らせてもらったらしいその男の子は、無表情のままの彼女を怖がったのか、紙コップを差し出された瞬間、びーっと泣き出してしまった。
「あらあら〜。ボク、熱かった? じゃあ、お姉ちゃんがフーフーって冷ましてあげますね」
 慌てて駆け寄った可憐が、男の子の目線にしゃがみこんで、にこりと笑ってみせる。と、即座に泣き止む男の子。その様子に唯澄さん、無表情に落ち込んでいる。
「こ、ここは人手が足りてそうだな。私は売り子のほうへ回ろう」
 表情にこそ出さないものの、自分には合わないとばかりに、絵皿配布の方へ向かってしまう。代わりに投入されたのはアルだ。
「くそー。売り子の連中にだけは遅れを取る訳にはッ。俺達より連中の方が魅力的ってことだからな。可愛いだけの俺にとって、敗北は死より重いぜ‥‥」
 もっとも、甘酒は一度配ってしまえばそれっきり。可愛い男の子よりは、可愛い女の子の巫女さんの方が、需要が高いらしく、人の波は、徐々にそちらへ移ってしまう。その様子に、悔しげにそう呟くアル。
「破魔矢はいかがですか‥‥」
「お守りは、縁結び、技芸上達なんてのもありますよー」
 参拝客でごった返すお守り売り場では、ヒカルと夏姫・シュトラウス(fa0761)が、売り子を担当していた。もっとも、主に客前に立っているのは、ヒカルの方で、気弱な恥ずかしがり屋さんの夏姫ちゃん、すっかり裏方専門になってしまっている。
「ここは、技芸と恋愛の神様なんやなー」
「美容も含まれるそうですよ」
 アルがそう言うと、神社の謂れを見ていた小夜が、そう教えてくれる。
「しかし‥‥ただ配るだけってのも、なあ?」
「そうですね‥‥。私も、これが終わったら、知人と詣でたいものです」
 手持ち無沙汰になったアルが、そう言うと、彼はだれぞ意中の人でもいるのか、そう答えている。それを聞いた彼、何やら思い付いたのか、意味ありげに笑う。そして、ぼそぼそと「いける。いけるでぇ」と、悪巧みな表情になったかと思うと、こう言った。
「ふふふふ。ありがとう静十郎くん。アルおにーさんは、君を見て、素敵な考えを思いついたよ。ちょっと近くのコンビニに行って来るで」
 彼が、なんぞよからぬ企画を思い付いたのは、火を見るより明らかなようだった。

 結果はすぐに出た。
「ヒカルさん‥‥、なんだか人が増えてませんか? それに、やたらとカップルが増えてますけど‥‥」
 夏姫が、予想していたよりも大勢のお客の姿に驚き、同じく売り子係のヒカル嬢に、不安そうにすり寄っている。
「時々、男の子同士混ざってますねぇ‥‥。そんなに皆さんヒマなんでしょうか」
 ヒカルはのほほんと、増えた客の中身を指摘してみせる。見れば、7割が若い男女で、中に10%位の確率で、若い野郎が発見されている。残りは年配のご夫婦等々だ。
「恋愛成就お守りの補充、まだですかぁ?」
「え、もうなくなったの? 早いなぁ」
 ヒカルの求めに、目を丸くする補給係の瑞穂。そのカップルの波は、瞬く間に破魔矢売り場まで押し寄せてきたらしく、縁結びのお守りが、飛ぶように売れて行く。次いで技芸上達、申し訳程度に用意していたはずの子宝祈願は、既に完売だ。
「あ、ヒカルさん。あれ!」
「ストロー?」
 その彼女達が目にしたのは、カップルが大切そうにもつ紙コップ。甘酒が入っていると思しきそれには、二股に分かれた奇妙なストローが、刺さっていた。どうやらカップル達は、その二股ストローを使って、一杯の甘酒を、仲良く2人で半分こ、しているらしい。ちなみに、配っているのは、近所のコンビニでストロー買ってきて量産しちゃったアルと、巻き込まれたように、それを配っている静十郎だ。
「あれですか‥‥原因は。ちょっと、何してるんです?」
「いらっしゃいまー。瑞穂ちゃんも使う? ラブストロー」
 瑞穂がかけつけると、アルは悪びれずに、ハートの飾りをつけた安いストローを手の上でくるくる回して見せた。
「そう言う意味じゃなくて! 何でこんな事って聞いてるんですよ」
「そりゃあ、永遠に結ばれる伝説を捏造して、来た客から、お賽銭をふんだくる計画や」
 どうやら、静十郎を見て思い付いた『今週のラブトラップ〜』は、これの事らしい。見ててあちちちーなイベントをでっち上げて、売り上げと給料をのばすんや〜と、自分の計画をぺらぺらと喋るアル。
「まぁ‥‥喜んでくれるなら、構わないと思うがな。忙しいなら、甘酒のほうを手伝うし」
 カップルが多いほうが、子供に泣かれる心配もなければ、変な奴に絡まれる心配もない唯澄、そうフォローしてくれる。「むぅ」と黙り込む瑞穂。と、そこへヒカルがこう口にする。
「カップルで来られても、人が増えても、御主人様‥‥じゃなかった、お客様に不愉快な感じを与えないようにしたいですからね。笑顔でお出迎えしていれば、問題はないと思いますよ」
 訪れる客をもてなすのは、洋の東西も衣装も問わないものだから。
「は、はい‥‥。こ、こうですか?」
「そうそう。その調子でね」
 はにかんだ表情で、売り子に臨む夏姫ちゃんを褒めるヒカルさん。こうして2人は、増殖するカップル達に、次々と神社アイテムを売りさばいて行くのだった。

 さて、ラブストローの効果で、神社アイテムは夜には完売してしまった。おかげさまで、アルバイト巫女&神官ズには、大入り御礼のお年玉‥‥と言う名の臨時ボーナスが支給される事になったのだが。
「篝火‥‥社の炎は浄化の炎、美しいですね。あの人にも見せて差し上げられたら――」
 薄暗い中、かがり火に照らされる神社は、どこか荘厳で、幻想的だ。その幽玄な舞台に、静十郎は静かに思いをはせ‥‥誰を思ったのか、頬を赤らめている。そんな彼が挑んだのは、神に捧げる奉納の舞。
 唯澄とアルの奏でる、コントラバスとギターの調べに乗せて、静十郎は舞扇を開き、新春の喜びを踊る。純和風とは微妙に違うが、それでも雰囲気のある調べに耳を傾けながら、夏姫は今年の目標を祈り願っていた。
「今年こそ、恥かしがり屋の自分を克服できますように‥‥」
 覆面が無くても、前を見て歩けるように。お賽銭を入れて、拍手を打つ彼女。
「皆さん、お疲れ様でした。社務所の方に、新年会の用意がしてありますわ」
 そこへ、宴の準備が出来たと、小夜が呼びに来る。
「お神酒もありますから、飲める方はどうぞー」
 巫女姿のまま、料理を手伝っていた可憐が、たすきを解きながら、膳を運んで来てくれる。見れば、定番の正月料理のほか、お寿司や刺身も並んでいた。
「美味しそうですね‥‥。いっぱい声を出したから、喉カラカラですぅ。頂きます‥‥」
 席に座った彼女、既に注がれていた透明な液体を口に運び、一気に飲み干してしまう。ここで中身が水ではないのは、もはやお約束と言う奴であろう。顔をいつも以上に赤面させた彼女、そう言ったかと思うと、パタンと倒れてしまう。
「だ、大丈夫?」
「ふ、ふははははは! 皆の衆ッ、あけましておめでとうっ! 今日は無礼講だ。存分に飲むが良いッ」
 可憐が抱き起こすと、夏姫ちゃん、いきなり起き上がり、覆面を被っていないにも関わらず、着用時と同じ不遜で不敵な自信家に大変身。
「ただいまぁ。あ、もう始まっちゃってるね」
 受付の片づけを終えて戻ってきた瑞穂、すでに大トラと貸した夏姫を見て、そう言う。その彼女、トラの被害に遭って、瞬く間に酔っ払い払い2号機と化した。
「なんだか体が熱いですぅ。いっぱい働いたせいかなー。着替えていーですかぁ?」
 2号機は、暴れはしないが、どこでも脱いでしまう性癖のようだった。ぽややんとした口調で、白衣の胸元が、中身見えそうなほどひろげられ、緋袴がたくし上げられる。
「新年早々大変やな〜」
 その大騒ぎを、ウーロン茶片手に、他人事の様に分析するアル。
「す、すみませんすみません。私ってばなんて事を‥‥」
 翌朝、素面に戻った夏姫が、いつもの様に顔から湯気を出しながら行動停止し、平謝り。
「まぁ、事故ですから、仕方ありませんよ。新年、どうぞ皆様に幸ありますように、ね」
 そんな彼女を、苦笑しながらなだめる静十郎だった‥‥。