デンジャラス温泉取材アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/18〜01/21

●本文

●ツーリングに潜む悪夢
 オフ会ツーリング、と言うものがある。
 インターネット上で知り合ったバイクや車好きが、日時を決めて集まり、皆でツーリングに出かけると言うものだ。
 それ自体は、なんら問題はない。見ず知らずの相手なので、多少技量が計れず、事故が多くなりかねないと言う危険性以外は、違法行為でも何でもない行動だ。
 だが、問題はその『見ず知らずの相手ゆえの危険』が、オフ会ツーリングに暗い影を落とそうとしていた‥‥。

【オフ会ツーリングのお知らせ】
 出発地・東京または名古屋
 目的地・岐阜県下呂温泉
 1日目:東京を出発し、東名高速を利用し、名古屋を経由して下呂温泉街へ。
 2日目:温泉街とその周辺をツーリング
 3日目:一路、東京へ

 なお、名古屋〜岐阜間の山間は、雪がけっこう降る所だそうです。大きな道路は除雪が完了していますが、運転に自信のない方は、直通バスも運行されているので、そちらを利用するのも可です。

「ツーリングの取材か。まぁ、昼間のドキュメンタリーに使うなら、良いんじゃないか?」
 掲示板に記された日程表を眺めながら、そう呟くディレクター。
「そう思って、こっちも取材の申し込みしてきたんですが‥‥。どうも主催と連絡が取れないんですよ。参加者の話では、日時は決まってるので、問題はないそうなんですけど‥‥」
 スタッフが難色を示す。他にスタッフも居ない会議室は、両方とも獣人なので、話題はすぐにNWへと移った。
「あっちの連中は、なんだって?」
「もし、NWだと、一般にも被害が出るから、一応見て来て欲しいそうです」
 何かあってからでは遅いと言うことだろう。そう言うスタッフに、ディレクターは唸りながら、こう指示をした。
「ふむ‥‥。わかった。手の空いているスタッフに、そう要請してくれ。危険手当もつけとけば、そこそこ集まるだろう」
 頷くスタッフ。こうして、オフ会ツーリングの危険性と検証を行う取材の、スタッフが募集されるのだった。
 なお、バイクの免許はあると嬉しいが、2人乗りOKのバイクや、ロケバスは用意するので、特に有無は問わないらしい。

●今回の参加者

 fa0088 ハグンティ(59歳・♂・熊)
 fa0565 森守可憐(20歳・♀・一角獣)
 fa0768 鹿堂 威(18歳・♂・鴉)
 fa0954 白河・瑞穂(17歳・♀・一角獣)
 fa1084 比良坂 夏芽(25歳・♀・一角獣)
 fa1473 勇姫 凛(17歳・♂・リス)
 fa2163 アルヴェレーゼ(22歳・♂・ハムスター)
 fa2555 レーヴェ(20歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

 そんなわけで一行は、自前、事務所から、レンタルバイクを利用など、様々な手段でバイクを調達し、愛車を荷物と共に持ち込んだりと、様々な手段でツーリングに同行していた。なお、運転に自信はないが、気分だけでも味わいたいと申し出てきた森守可憐(fa0565)は、アルヴェレーゼ(fa2163)のバイクに同乗し、やっぱり自信がなくて、ロケバスを希望した白河・瑞穂(fa0954)は、比良坂 夏芽(fa1084)のバイクに同乗している。
 しかし、いかにNWが潜んでいる可能性があるとは言え、表向きは取材である。その為、一行はドライブインでの昼食時に、インタビューを行う事にした。
「今のところ‥‥、問題はなさそうだな‥‥」
 懐に忍ばせたマグナムを、上着の上からバレないように触れながら、そう言う鹿堂 威(fa0768)。セーフティはかけてあるものの、既にハンマーは起こした状態にしてある。NWに動きがあったら、すぐに撃てる状態にして、警戒していたのだが、連中はまだ動きを見せない。
「人が多い所だからな‥‥。そう簡単には仕掛けてこないだろう」
 どうやら、人気がなくなってから襲うと言うセオリーに、忠実に従っているようだ。と、レーヴェ(fa2555)が続ける。彼の傍らには、竹刀袋に隠した日本刀が、しっかり待機中だ。
「それにしても、ずいぶんとけこんでるなー」
 銃刀法違反は大丈夫なのかと言う心配はさておき、彼らとハグンティ(fa0088)の他は、しっかり取材対象のライダーと打ち解けてしまっている。どうやら彼らには、『ヘルメット持ってる奴は同志』と言う、ある種の連帯感があるようだった。特に、人気は見た目アイドルな勇姫 凛(fa1473)が独占中。演技力もそれなりにある為、可愛がられているようだ。
「ちきしょう。俺は硬派に生きるんだー!」
 ぷーっと膨れて、そう宣言するアル。しかし、演技力ゼロのアルは、その本性を見抜かれてしまっているらしく、ぴゅーっと冷たい風が吹く。と、瑞穂がレコーダーを差し出しながら、こう言った。
「あー、こほん。皆様には、ツーリングの魅力について一言お願いしたいのですがー」
「バイクにはまった理由とか、この面子で集まることになった経緯などですね」
 一言と言っても、上手く言葉には出来ない様子の参加者達に、今度はナツメがフォローを入れる。その様子をみたレーヴェは、アルを締めていた腕を解き、数少ない女性ライダーへとインタビューする。
「ならこっちは女性陣に聞いたほうが良いな。実際に会ってみたら、ネットと印象が違った人がいるか?」
「えっと、気の会う仲間ですが、初めてお会いする事への感想などをお聞きしたいので」
 顔こそ美形の範疇に入る彼だったが、態度が無表情無愛想なので、好感度が上がらないと思い、可憐がフォローに回る。
「別に、全部放映するわけじゃないし。一人くらい、いるだろ?」
「まぁまぁ、強制するものではありませんわ」
 一応、放映枠ではレポーター役のヒメ、中々答えない参加者に苛立ったのか、そう言った。と、ナツメがそれを制し、まずは自分の事を見本に話し始める。
「そうですねぇ‥‥私の場合は、なんというか颯爽としたイメージに憧れて免許を取ったのですけど‥‥様にならなくて困ったものです」
 自覚はないが、友人からはよく『多少天然』だと言われる彼女、のほほんとそう話す姿に、参加者はどう話せば良いのか分かったらしく、インタビューに答えてくれる。
「印象が違うって言われたのは‥‥この4人です」
 その結果、瑞穂はプリントアウトした参加者のリストから、それらしき人物をピックアップしていた。
「見事に野郎ばっかだなー」
 アルが名前と顔を覚えながら、そう呟く。と、インタヴューを終えたレーヴェがこう告げた。
「女性比率が少ないからだろう。仕掛けてくるとすれば、宿についた後だな」
「わかった」
 そこだけは、真面目に返答するアル。全てを終わらせるのは、人気のない山の中‥‥と言った訳のようである。

 そんなわけで、一行は幾度かの休憩を取った後、ようやく目的地である岐阜県は下呂温泉へたどり着いていた。
「ついたーー!」
 小雪のちらつく風情あるたたずまい。川のほとりに立つホテルの駐車場へと、バイクを収めたヒメは、荷物の中から、愛用のローラーブレードを出して、ライダーブーツから穿きかえる。
「ヒメ様。雪道でそれは危ないですよ」
「いいんだ。これは僕のポリシーだから」
 可憐がそう注意するが、彼は聞く耳を貸さず、そのまま雪道へと降り立った。
「ああっ! そっちは!」
 が、ただでさえ滑る道。いかに扱いに慣れたヒメでも、バランスを崩し、積み上げられた雪の壁へとまっしぐら。
「だから言いましたのに。あーあ、雪まみれですわ」
 駆け寄った可憐が、そう言って助け起こす。見れば、頭にも腕にも身体にも、そこらじゅうに雪がこびりついてしまっていた。
「べ、別にこれくらいは平気‥‥くしゅんっ」
 陽の落ちた空気に、雪は堪える。強がりを言うヒメだったが、身体は正直に寒いと訴えていた。
「風邪をひいてしまわれますわ。ヒメ様、気丈なのは良いのですが、まずは身体を温めないと。ね?」
 苦笑しながら、そう諭す可憐。ぷいっとそっぽを向きながらも、素直について行くヒメ。その様子を見ていたナツメ、候補として絞り込んだ4人に、声をかけた。
「皆さんも一緒にどうですか?」
「もしよろしければ、皆さんのお背中をお流ししたいです」
 可憐も、笑顔を崩さないまま、そう告げる。一人、瑞穂が反対しかけたが、ナツメに口をふさがれ、黙らされてしまう。
「孤立する状況を避ける為です。大丈夫、手配は済ませてあります」
 まだ、4人の中で、誰が感染者かわからない状態。それを特定させる為と、特定の参加者と2人っきりにならせない為に誘ったのだと、彼女は言った。
「撮影に入浴シーンがなしなんて、ありえねー。温泉物だと、殺人事件とお色気は外せないぞ」
 アルは、別の主張もあるようだ。まぁ、撮影ならば、完全に裸になるわけではないだろう。そう思った瑞穂、自分も思うところあって、そのままこくこくと頷く。
「取材を快く受けて頂けたお礼もかねて、私達からのせめてものサービスです。宜しいでしょうか?」
 修行中の身とは言え、芸能界入りするくらいだから、そこらのお姉さんよりは、遥かに美人で可愛い面々が揃っている。野郎どもが反対するわけもなく、4人は思惑通り、可憐の申し出を受けてくれるのだった。
「なんで男湯に全員集合なんだ」
「仕事。仕方ないだろ。それに、瑞穂ちゃんが、全員を湯に集める必要があるって、言ってたしなー」
 ぶーつぶつと文句を言っているアキラに、達観しちゃったらしいアルがそう言っている。見れば、大きなバスタオルを、体に巻きつけ、角をタオルで誤魔化した瑞穂が、湯に手をつけていた。
「お湯加減は調度良さそうですね‥‥」
 そう言って彼女は、何か考え込んでいるような仕草を見せる。外見に特に変化はないが、動かない所を見ると、獣人能力を発動しているようだ。
「読心水鏡か‥‥」
「そう言うこっちゃ。だいたいな、色気なら、女に負けねーし。アル兄さんの生の艶姿だ、とくと拝みやがれ」
 そんな彼女から、参加者の注意をそらすべく、アルは『視聴者さぁびす』とか言いながら、湯船の中で、しなを作ってみせる。
「そう言うのはお前じゃなくて、そこの御姫様担当だろうが」
「あいつじゃこー、大人の色気ってもんがなぁ‥‥って、何言わせんだよ」
 思わずツッコミを入れてしまうアル。アキラが指摘した先には、腰タオルのまま、女性陣に混ざって何故か背中流しを手伝わされているヒメの姿がある。
「おかげで計画が狂ったじゃないかー」
「何の計画だ。何の」
 ぶーたれるアキラに、アルはおにーさんに教えなさーいと首根っこを捕まえる。と、彼は湯船の近くにあった黄色い手桶を手にし、こう言った。
「それはだな。こー、助平な覗き魔に、この手桶で、死の制裁を‥‥!」
 すぱかこーんっと小気味良い音が響く。そんな中、一人、離れた場所で風呂に入っていたレーヴェが、術の行使を終えた瑞穂に問うた。
「‥‥‥‥アホは放置だ。瑞穂、特定出来たか?」
「はい」
 頷く彼女。約1名、彼女達ばかりでなく、ヒメさえも『美味しそうだ』と考えている御仁がいるらしい。それを聞いてレーヴェは、明日の夜、頃合を見て動くよう、指示するのだった。

 翌日。夜になるのを待って、一行は動き出していた。
「あったまりすぎてしまいましたわー。ちょっと山の風にでも当たってきます」
 ナツメはロビーでそう言って、上着を羽織った。暖炉の前には、上手い事言いくるめて集めた4人がいる。と、それに気付いた瑞穂が、頷いて立ち上がる。
「私も連れて行ってくださいな。静かな場所で、雪の景色が見たいんですの」
 彼女の手には、折りたたみ式携帯電話がある。山の中で、電波が届き難いが、暗い夜道では、バックライト機能が明かり代わりになる。
「そう? じゃあ出かけようか」
 ナツメも、同じ様に携帯電話を持っている。そう言って2人は、まるで4人に見せ付けるように、外へと向かった。
「合図だ。動き始めたぞ。準備は良いか?」
「ばっちりだ」
 アキラの問いに、そう答えるレーヴェ。すでに日本刀を手にして、完全に獣化し、獅子の姿となっている。アキラの方は、用意していた偽の遺書に指紋が付かないよう、手袋着用だった。2人が送った合図は、ホテルの裏で待機していた他の面々へと伝わる。
「上手く誤魔化してくれよ」
「ぽん刀もって振り回しているライオンなんざ、特撮のロケ以外にありえねーだろ。可憐ちゃんがついてきとるから、安心しとき」
 レーヴェがそう言うと、アルが合図があった後ろの方を示した。ここからは見えないが、万一無関係な者が近づいて来た時に備えて、ナツメと瑞穂を見守っているそうだ。
「いますね」
「ええ、結構近い‥‥」
 近付いてくる足音。ひとつ、ふたつ‥‥みっつ。その足音は、囮役となったナツメと瑞穂の耳にも、よりはっきりと届いていた。認識した直後、彼女達は歩みを止める‥‥。
「がぁぁっ!」
「きゃあん‥‥」
 そこへ、後ろからライダースーツを着た男が、鉄パイプを手に、年若い瑞穂へと襲いかかった。慌てて逃げる彼女。
「瑞穂さん! 皆のいる方に逃げて!」
「は、はいっ」
 ナツメの指示を受けて、あまり格闘行為の得意ではない瑞穂は、ホテルから遠ざかるよう、走りだす。
「こっちです!」
 待ち伏せをしている面々の方へ、誘導しようとする可憐。
「ぎゃぁぁっ!」
 しかし、相手の男は、彼女達を完全に舐めてかかったらしく、狩りを続けようとする。一番近くにいた可憐に、奇声を上げながら、鉄パイプを振り下ろす‥‥。
「いや‥‥っ」
「させないよっ」
 思わず目をつむってしまった可憐のすぐ真上を、拳大位の雪の固まりが、蹴り飛ばされて行った。中に仕込まれた石の為か、大きくのけぞり、後退する男。
「ヒメ様‥‥」
「回復役が怪我したら、治せないだろ」
 可憐が顔をあげると、その後退した男を見据えるヒメの姿があった。頭から血を流したその男は、まだ若いとは言え、男性増援の姿に、くるりと踵を返した。
「どぅりゃぁぁぁっ!」
 そこへ、仕込み傘を手に、殴りかかるハグンティ。獣化した彼の筋肉が盛り上がる。金剛力増で膨れ上がったパワーは、受け止めようとした相手の腕を叩き折ってしまう。不自然に曲がった腕を抱え、逃げ出す男。
「逃がすかっ! 追いますよ!」
「おうよっ。俺だって優しく癒して欲しいんだ!」
 ナツメから連絡を受けたハグンティとアルが、それぞれ仕込み傘を手に、逃げた男を追いかける。アルも既に獣化済みだ。
「わわっ。逆に向かってきた?」
 ところが、ある程度進んだ所で、男は急にアルへと襲いかかってきた。見れば、既にその外見は、人のものではなくなっている。折れた腕はそのままだったが、あまり気にしてはいないようだ。
「さっき逃げたのは、自分の得意なフィールドに誘い込む為ですか‥‥」
 木々が立ち並ぶ山の中は、大きな体のハグンティには、多少動きづらい。周囲の木々ごと倒せば目立つ‥‥と、彼が仕掛けあぐねていた時だった。
「こっちだ! バケモノ!」
 夜空から声がして、翼が月明かりを塞ぐ。見上げたそこへ、完全獣化したアキラがこう叫びながら、持っていたマグナム銃を撃って来た。
「うちの事務所にゃ欠食児童達が腹を空かせて待ってるんでな、お前にご馳走してやる食いもんはねーよ!」
 一発でも当たれば、重傷どころではすまない。逃げ回るNWの体が、アキラの視界できらりと光った。漆黒の宝玉のようなそれは、闇夜にも明らかに異質なものだと分かる。
「アレだ! コアは! レーヴェ!」
 アキラが、大きく翼を広げながらそう叫ぶ。と、その影に潜んでいたレーヴェが、持っていた日本刀を平突きに構え、横に薙ぎ払う。
「貴様らと相容れる事はない。疾く闇へ還るがいい」
 のけぞった拍子にバランスを崩すNW。その瞬間を、彼は見逃さなかった。刀を袈裟懸けに振り降ろし、NWへと切りつける。既に、ハグンティに腕を折られ、アキラの銃弾で重傷を負っていたNWは、その一太刀によって、どう‥‥と倒れる。
「こっちの処理は終わった。後の処理はよろしく頼む」
 動かなくなったNWの元へ着地したアキラは、携帯でWEAへと連絡し、死体の処理を押し付けるのだった。