漆黒の殺戮者アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
21.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/08〜09/12
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●本文
許せない‥‥!
あたしをいじめたあいつらが許せない‥‥!
殺人を犯したら、あたしは犯罪者になる。両親に辛い思いをさせてしまう。
一体、どうしたらいいの!?
だったら‥‥あたしがいなくばればいい‥‥!
あたしだけじゃない、この世の皆がいなくなればいい‥‥!
少女は、机の引き出しからカッターを取り出すと、躊躇うことなく自らの左手首を切った。血飛沫は、机の上に置いてあった少女が描いた天使の絵に大量に飛び散った。
その瞬間、少女の姿は漆黒の烏人間と化した。
鳥人間は一鳴きすると、窓ガラスに体当たりし、闇夜に身切れて消えた。
残された室内は無人だった。
自殺した筈の少女の遺体は何所にも無い。
代わりに、室内には引きちぎられた少女の衣服が散乱していた。
数週間前に何所かでNWに感染していた少女は徐々に精神を冒されて死を選んだ。
しかし、宿主の勝手な死をNWが許さなかった。死の間際、NWは実体化していた。
少女のものから怪物へと変容する脳が束の間見せた幻。
絵から飛び出した烏人間は、少女自身だった。
少女の自殺の翌日から、凄惨な事件が発生した。
「これで三件目か‥‥。しかし、惨たらしい死に様だ」
真夜中の路地裏で発見された死体を見た刑事は、口元を押さえて目をそらした。両目を抉られ、胴体が真っ二つに裂かれ、臓物がはみ出ている死体を正視できるはずがない。
「人間の仕業にしては‥‥酷い殺し方ですね。ライオンのような大型の獣の仕業、と考えたほうが良いのではないでしょうか?」
死体の惨たらしさに耐え切れず、胃の中のものを全て吐き出した新米刑事が推測を話し始めた。
「それはないだろう。肉食獣なら、肉を食らうことはあっても、目を抉り出すということはしない。こいつは、警察の管轄じゃねぇな。WEAに協力を要請するか」
刑事は、パトカーに戻ると無線でWEA日本支部に協力を要請した。
WEA日本支部からの通達。
『獣人諸君、キミ達に任務を与える。東京都内で起きている凄惨な殺人事件の犯人であるナイトウォーカーを退治してくれ。NWに感染された女子高生が自殺した翌日から、凄惨な殺人事件が起きている。被害者の共通点は一切無しなので、無差別に行われている。これ以上、無意味な犠牲者を出さないためにも殲滅するように! それと、ナイトウォーカーの死体は、人知れず処理するよう』
※成長傾向:体力、格闘、射撃
●リプレイ本文
●対策
日が沈みかけた時刻。
WEAから報告を受けた獣人達は、三件目の事件が起きた現場に集合した。
「どっから来るかわかんねぇんじゃ、囮作戦しかねぇな! 人間だった時の心なんざとっくに消えてる。餌としちゃ獣人のほうが好みだろう。何度かやってりゃ、そのうちあちらさんからやってくる!」
「その方法しかないでしょうね。出現時間はわかっていても、場所まで判らないということは困ります。私達の誰かが、囮になってNWをおびき出すしか方法は無いと思います」
常盤 躑躅(fa2529)の案に、パトリシア(fa3800)が同意すると、他の獣人達もそれしかないだろうと納得した。
WEAからNW退治を要請されたのは良いものの、出没時間こそ午前0時前後と決まっているが、どこに現れるかは不明。そしてNWの行動範囲が広すぎて、少数では満足に網を張ることも出来ない。
「マリスは、年齢的におおっぴらに出歩けない時間帯だから囮役は避けるネ。潜伏中や戦闘中に万一誰かに見つかったら困るデショ? その場合は「言霊操作」で誤魔化すヨ」
その場さえ誤魔化せば、後はいくらでも言い逃れが効くと判断したマリアーノ・ファリアス(fa2539)。
「それじゃ、囮役は俺がやろう。スーツ姿で一般人ぽく振る舞えば、人間だと思って襲うだろう」
グリモア(fa4713)が囮役を買って出た。役者の彼は演技はお手のものだ。
「NWは獣人と人間をかぎ分けると聞くが?」
「むしろ騒ぎを起こして我々を誘っているのかもしれませんが‥‥」
獣人達に疑問は尽きないが、答えは無い。NWとの戦いは大昔から続くものらしいが、両者に会話は成立せず、知的接触は叶わないと言われてきた。
「全く、嫌な事件だねホント。本人にも色々あったんだろうけど、人に危害を加えるようになっちゃオシマイだよ。これ以上犠牲者が出ないよう、きっちりカタを付けないとね」
肩を竦めて呆れる因幡 眠兎(fa4300)。
「もう単に、惨いとしか言えない。死体の状況とかは今に始まった事じゃないんだよ。
件の少女の怨念めいた感情が極端に攻撃的な形でNWとして反映されたって辺りが、目に付く奴を無差別に襲う程だったんだなあ‥‥」
幹谷 奈津美(fa5689)も同感のようだ。
「私は、今回は囮役を支援するために待ち伏せしておこう。美女に美少女、オッサンに威勢のいい青年も揃っているんだ。囮が誰であろうと、NWはと食いつくだろう」
本当に食いつかれたら洒落にならないのだが、戦闘自体が楽しいという風に微笑み、連絡用の無線と武装チェックをする緑川安則(fa1206)。
「俺は囮の近くで獣化して光学迷彩で消えて隠れておくぞ!」
常盤もやる気マンマンの様子。
「最後の被害者が見付かったのは、路地裏だったんだよね? 他の人も、そういうところで見つかったのかな?」
「それに関しては、あたしが調べておいた。皆、同じように人目に付き難い路地裏で発見されたそうだ。どこから情報を仕入れたのかって? それは極秘さ」
因幡の疑問に即答する幹谷。便利屋で、元軍人の彼女は、何かと情報網が広いのだろう。
「路地裏だとわかれば、おびき出すのはそこが良いですね。人目につかない場所でしたら、多少の戦闘音がしても、数人で待ち構えたいても大丈夫でしょう」
囮役であるグリモアの様子を隠れて見ながら、襲撃時間前後にNWの接近を警戒することに決めたパトリシア。
話し合いの結果、今日の午前0時前後に作戦を決行することに。
●実行
午前0時、15分前。
スナックや居酒屋が多い繁華街は、この時間帯でも賑わいを見せている。
グリモアは、スーツ姿で酔っ払ったサラリーマンの演技をし、戦闘になっても困らないような人気の少ない場所を計算して街を徘徊する。
(「初撃は上空から来るだろう。回避できるよう、全神経を傾けるか」)
ろれつの回らない酔っぱらいの演技をして通行人に顔をしかめられつつ、その実グリモアは周囲に神経を研ぎ澄ませていた。
グリモアがうろついている間、物陰に潜み『鋭敏聴覚』で周囲を警戒している犬神 一子(fa4044)。 なんと犬神は鎧を着こんできたので、他人に見つかるとまずいので表に出られないのだ。いつ襲撃があっても良いようにと、半獣化して攻撃に備えている。
犬神から少し離れた場所では、パトリシアが姿を隠してグリモアの様子を見、『鋭敏聴覚』『鋭敏嗅覚』を駆使してNWの接近を警戒し、常盤は『光学迷彩』を使い、完全に姿も気配も消して潜伏してグリモアを見張っている。
(「鳥人間NWか‥‥。対空戦は私には無理かな」)
完獣化で『波光神息』による対空戦闘、スパイクハンマーでも届くかどうかは微妙だな等、色々考えていたが、NWの動きを察知し『知友心話』による連絡役をすることに。
「あたしにできることは、戦うだけとは限らない」
対NWに備え、いつでも対応出来るように半獣化した因幡は、ダークデュアルブレード、Night−Warを装備。万一に備え、ヒーリングポーションも用意。
共に行動しているマリアーノも半獣化す、武器は持ち歩いていても不自然ではない仕込み傘を装備。隙あらば『器用な尻尾』による攻撃もできる。
「NW、なかなか来ないネ」
「そう簡単に出現されても困るけどね」
二人が会話を交わしているその時、何かが空中を舞った。
「あれは‥‥」
何気なく夜空を見上げた犬神が、NWとおぼしき鳥人間を発見。
『グリモア、奴が出没した。おまえが狙われるかもしれないから気をつけろ』
囮役のグリモアに『知友心話』で警告した後、犬神は他の仲間にも出現を知らせた。
それを聞いた緑川は半獣化し、サイレンサーつきのUZI、降魔刀を装備し、いつでも応戦できるように待機。
「役者としての俺の腕の見せ所‥‥だな。NW、上手く俺を狙ってくれよ」
NWを確認したグリモアは、自分を狙えを言わんばかりにわざと転び、誰もいないことを確認してから起き上がると半獣化し『俊敏脚足』を使い、廃ビルが立ち並ぶ場所におびき寄せることに。
「流石は役者さん、上手いもんダネ」
「感心してる場合じゃないよ、急ごう!」
後を追うマリアーノと因幡。
「グリモアが来るよ、準備はいいかい?」
「いつでもOKです」
幹谷の合図に、ソードofゾハルを構え、戦闘態勢をとるパトリシア。
「ふぅ‥‥ここまで来るのに苦労した‥‥」
鎧姿の犬神は、辿りつくまで相当苦労したようで‥‥。
●戦闘
囮役のグリモアによるNWおびき寄せは、見事に成功。
それを確認した獣人達は、一斉に完全獣化し、戦闘を仕掛けた。
「私が皆を守るっ!」
因幡は『俊敏脚足』で脚力の強化すると『気流風鎧』を展開し、正面に立つ。あわよくば敵の撃破も狙うが、皆の為に敵をひきつけるのが目的だ。だが、空飛ぶNWが相手では完全に足を止めるには至らない。
鳥人間は因幡のダークデュアルブレードをかわして上昇する。
「可哀相に思いますが、これ以上犠牲者を出さないためにも躊躇なく倒させてもらいます!」
パトリシアも『俊敏脚足』で速度を上げ、建物の壁を『地壁走動』で駆け上がった。上空へ逃げようとするNWに側面から攻撃を仕掛けたが、わずかに高さが足りない。NWと一瞬目があった。その距離2、3mだがソードofゾハルでは届かない。
「‥‥クっ」
それを見計らうように一鳴きしたNWは上昇を止め、嘴を大きく開けた。打ち出される炎の弾。着地したパトリシアは真横に跳び、紙一重のところで炎弾を避ける。
「ふぅ、今のは危なかった‥‥」
戦いの直前、常盤がパトリシア達の頭をぽんぽんと叩いた。パンダ獣人の『幸運付与』、効いているのかもしれない。
(「うむむ、動きが早くてコアが分からねえぞ!?」)
その常盤は姿を消して物陰に隠れていた。目的はコアの発見だが、飛び回るNWをどうにか止めなくては見定めるのは難しい。
攻撃失敗に激昂したNWは、素早く急降下すると鉤爪で獣人達に襲い掛かった。
「やっぱり、飛ばれると厄介だネ!」
狙われたのは棒立ちのマリアーノ。
鋭い鉤爪が猿獣人の少年の頭に振り下ろされる。微塵に崩壊するマリアーノ。
「スキあり〜!」
飛行能力を奪いたいマリアーノは、仲間が先制攻撃を仕掛ける間に『灰代傀儡』で分身を作り出していた。崩れ去る灰の間から現れた本物が、翼の付け根を狙って仕込み傘を振り抜いた。
切り落とす事は適わなかったが、翼を切られたNWが失速する。
「まだまだっ!」
突撃したグリモアは、NWの翼めがけて雷光を帯びた爪を食い込ませた。『放雷紫爪』が効いたのか、痺れたNWの動きが止まる。
「分かったぞ!」
好機を逃さず、隠れたままコアの位置を探っていた常盤が見つけた。
「コアは左翼の付け根部分にある。そこを狙え!」
危機を察したのか、NWは傷つきながらも最後の力を振り絞って空高く飛び逃げようとしたが
「私の最大火力の『火炎砲弾』を食らえ!」
緑川の『火炎砲弾』が、NWの腹部に命中!
その後、止めとばかりに犬神が『虚闇撃弾』でNWの頭部を狙い打ち、たまらず落下したNWの左翼を掴んだ。最後はパトリシアが、素早く左翼の付け根部分に見えたコアをソードofゾハルで何度も突き、破壊した。
●終焉
今回、NWの死体処理も彼らの仕事だ。
地面に横たわるのは元は人間だった、似ても似つかない奇怪な鳥人のむくろ。
常盤は、車から毛布を引っ張り出すと、NWの死骸を包み隠した。
「死体を処理しろって言われても、こればっかは俺達じゃできねぇっての!」
「誰かがそう言うだろうと思ったから、WEAに引き取るよう交渉しておいたよ」
と幹谷。情報網が広い彼女ならではの気配りだ。WEAの掃除屋は優秀という話だが、このような悲惨な遺体を人知れず処理しているのかと思うと頭が下がる。
死体の処理、現場の後片付けを終えた後、パトリシアは一輪の花を死骸があった場所に手向けた。
「優しいんだな」
背中から声をかけたグリモアに、パトリシアは振り返る。
「私達が戦った時にはもう彼女は死んでいた、でも、彼女の遺体がここにあったのを誰にも知られないままは、可哀想じゃないですか」
「女子高生か。どうせ迫られるんだったら、生きてる頃にしてくれると嬉しかったんだけどな。可愛い盛りだ」
「言い方がおじさんだよネ。でもNW退治の後に、良くそんなこと言えるネ‥‥って。もう朝じゃナイ! 帰りは誰か大人の人に送ってもらうか、家に泊めてもらうつもりだったのに〜!」
ショックを受けるマリアーノを見て、事件が無事解決したことを実感する獣人達。
自ら命を絶った女子高生の魂は、天に召されたのだろうか‥‥。