受け入れ難い真実アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/07〜10/11

●本文

 お笑い番組『ガハッ! とチャンネル』のAD、平井・平等は一足遅いお盆休みをもらい、故郷である小さな農村に列車で帰省した。
 一ヶ月前。平井の元に、故郷で農業を営んでいる幼稚園時代からの親友・賢二から小学校の同窓会開催のハガキが届いた。
 帰省の一週間前には、携帯メールが送信された。

『平等、元気か? 出席できるようだったら来いよ。時々だけど、おまえ、ADやってる番組に出てるな。すっごく面白いぜ』

 イヂラレ的存在ADの平井は、何度か番組に出演している。
 故郷は所謂「一部地域」なのだが、『ガハッ! とチャンネル』は全国区なので放映されている。
「賢二の奴、元気にしているかな‥‥」
 幼い頃は良く一緒に遊び、悪戯をしては賢二の父親にこっぴどく叱られた等の思い出がある。
 同窓会まではまだ時間があるが、先に会場である小学校に行って賢二を待つことにした平井。そこに向かう途中、小学校時代、学級委員長だった薮木に出会った。
「平井じゃないか。今日帰ってきたのか?」
「ああ。今、小学校に行くところなんだ。そこで賢二を待ってようと思ってさ。それに、皆に会うのも楽しみだし」
 それが‥‥と、薮木は申し訳無さそうな表情で賢二が出席できないことを告げた。
「賢二なんだけど、昨夜出かけたっきり帰って来ていないんだ‥‥」

 交番勤務とはいえ、警察官である薮木の話によると、賢二本人から警察に「交通事故を起こしました」と連絡があったので事故現場に向かったが、そこには、崖に落ちそうになっていた賢二の愛車があっただけで、彼の姿は無かったという。
「何で事故起こしたかわかる?」
「さあ、そこまでは‥‥。んー、こいつは関係ないと思うが、アライグマがな‥‥」
「アライグマ?」

<薮木の証言>
 遡ること一ヶ月前。
 深夜、賢二が街のコンビニの帰りに車で野生のアライグマを撥ねてしまった。
 意識不明の重体だったとかで、賢二はアライグマをそっと車に乗せ、慎重に運転して自宅に戻ると、急いで手当てを始めた。賢二にはそうした心得があったらしい。
 懸命に手当てした甲斐あり、アライグマは少しずつ良くなってきた。それと同時に賢二に心を開いたのか、徐々に懐いた。野生動物が人間に懐くことは滅多に無いことだ。
「携帯銜えるな! うわ、涎がついたうえ、歯型まで‥‥。ま、いっか。使えれば」
 携帯電話の汚れを拭き取って、賢二は平井にメールを送信した。その時、非番だった薮木は賢二宅にいて、彼と話をしている。
「おい、そいつ人にも噛みつくのか? 大丈夫なのかよ、ほら狂犬病とか?」
「ちゃんと予防接種は済ませたよ。そんな離れなくても大丈夫だって」

<事故当日>
 山に帰しても問題無いくらいに回復してきたのを見計らった賢二は、アライグマを毛布を敷いたダンボール箱に入れ車に乗せ、民家が無い山村方面に向かったらしい。
 仕事の都合でこの日も深夜になり、慎重に運転していたが不意に箱から出てきたアライグマが賢二にじゃれついてきた。それが原因でハンドル操作を誤り、車はガードレールを突き破り崖下に転落かと思われたが、寸でのところで停車。シートベルトを締めていたということもあり、賢二は無傷だった。
 急いでシートベルトを外して車のドアを開けると、アライグマはどこかに行ってしまっていた。賢二は仕方がないと携帯を取り出し、警察に「事故を起こしました」と通報。その際に、簡単に事情を説明している。
 その後、行方知れずに。

 同窓会は滞りなく行われたが、平井の心はとても虚しかった。

 翌朝、山道で獣に首を噛み切られ、まるで食われたかのように所々が欠けたた村人の遺体が発見された。以前に熊が出没した事のある場所なので、村人は人喰い熊が現れたのかと震え上がった。
 しかし、この事件はマスコミで大きく報道される事は無かった。
 遺体の身元が問題だった。この村には平井の家族の他にも『関係者』が暮らしている。熊獣人で、実は以前の熊騒動というのはその家族が原因だった。熊獣人が熊に襲われる事など、まず有り得ない。

 検死の結果もそれを裏付けるものだった。
 熊にしては、遺体についている歯形が小さい。小型か、大きな犬程度の大きさの動物だという。
 WEAは警察から事件を引き取り、マスコミには人喰い熊のニュースが大々的に報道されないようにした。これがNW事件なら、多数のマスコミが村に入る事は避けたい。

 平井は平井で、賢二行方不明の経緯を自分なりに考えてみた。
(「賢二がアライグマを助けて、事故が起きて、賢二は今も行方不明で、そのあとNWが獣人を‥‥偶然だっ!」)
 最悪の事態の想像を慌てて打ち消す。賢二は獣人ともNWとも関わりを持たない人間だ。世間は狭いようで広いはずで、殺されたおじさん(平井の親戚)は運悪くどこかでNWに目をつけられていたのだろう。
 悶々とする平井に、薮木から携帯メールが。

「何かあったのか?」
「うん。実はな、賢二の携帯が見つかったんだ。山の中で」
 本当は話しちゃいけない話なのだが、お前には話しておこうと思ってなと電話越しに薮木は言った。携帯には血痕がついていて、人喰い熊に襲われたかもしれないという。
「たまらんよなあ。俺も頭がおかしくなりそうだ。折角の同窓会の後で‥‥すまない。おかしな事を言いだすやつまで出る始末さ」
 話を聞くと、村の近くで巨大な昆虫を見たと言う村人が何人かいるらしい。但し証言が曖昧で、昆虫と言ったり大きな獣と言ったりはっきりしない。それはそうだろうと平井は納得してしまう。
 不安を打ち消したくて平井はいてもたってもいられたくなり、賢二と昔良く遊んだ懐かしい場所を片っ端に捜した。
 昔、秘密基地を作って遊んだ空き地。友達数人とヒーローごっこをした廃ビル。
 お仕置きとして閉じ込められた賢二宅の納屋。
 全て捜しまくったが、賢二は見つからなかった。

(「賢二‥‥あのNW、おまえじゃないよな‥‥!」)
 自分だけじゃどうにもできないと思い、平井は番組プロデューサーのコネを利用し、事件解決を協力してくれる獣人を募った。

※成長傾向:体力、格闘、射撃

●今回の参加者

 fa1522 ゼクスト・リヴァン(17歳・♂・狼)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa5689 幹谷 奈津美(23歳・♀・竜)
 fa5851 Celestia(24歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●協力者達
 平井・平等は、親友、賢二探索に協力してくれる獣人達を丁重に出迎えた。
「皆さん、宜しくお願いします‥‥」
 平井は、賢二の安否が心配なのでろくに眠っていない。
「心中は察しておる故、事情は聞かないである」
 マサイアス・アドゥーベ(fa3957)は、平井を気遣う。
「出来る限り協力はするが、もしもの時の事を考えておけ」
 スラッジ(fa4773)の言葉に、平井は「覚悟はできています」と答えた。
「故郷でNW事件が起きたうえ、親友が行方不明とは‥‥。落ち着いていられんのはわかるが、だからこそ落ち着かねばな」
 ドワーフ太田(fa4878)は、平井の肩をポンと叩き、平井を落ち着かせた。
「やるべき事は、連絡と平井さんの護衛、NW交戦の3つだね。NW交戦に関しては、平井さんの判断任せになるけど。NWが親友だったら、倒さなければならない事は分かっているよね?」
 幹谷 奈津美(fa5689)の意見に、コクンと頷く平井。
「私の行動指針は探索行動だね。NW戦も含まれてはいるけど、賢二さんのことも気掛かりだから、余裕があったら主眼に入れておくよ」
 夜間の山中を探索する事だから、懐中電灯の他に暗視用スコープを使用すると意見を述べた神保原和輝(fa3843)は、班分けをしてはどうだろうと提案した。
「班分けの関しては、後ほど考えることにしよう。皆、それぞれの行動方針があるじゃろう」
 ドワーフの意見に、反対するものは誰もいなかった。
「平井さん、同窓会のハガキを持ってきたかい?」
 平井からハガキを受け取ったCelestia(fa5851)は、『鋭敏嗅覚』を使用し、賢二の匂いを嗅ぎ取った。これを元に、賢二を探索するのだろう。賢二の血が付着した携帯が発見されたという情報も入手した、並行してアライグマとNWの探索も行う。
「この辺りの地図を用意しました。これを元に、賢二の探索をお願いします」
 平井が用意した地図には、赤い×印がついている箇所があった。そこは、賢二が事故を起こした箇所である。
「成る程‥‥こいつを元に、それぞれの位置関係から潜伏している場所を割り出すことができるな」
「それは同感じゃ。探索時は二手に分かれるほうが良いじゃろう。班分けだが、こういうのはどうじゃ?」
 賢二探索班はドワーフ、DarkUnicorn(fa3622)、幹谷、スラッジ。それに平井が同行。
 NW探索班はCelestia、神保原、ゼクスト、マサイアス。
 ドワーフ、幹谷は戦闘に長けている為、平井の護衛も兼ねている。
「ドワーフ案に意義無しである。では、早速行動を開始しようかの」
「私は飛行能力があるから探索範囲を広げて単独行動をしたいところだが、メンバーを見失い、孤立無援の挙句の不意打ちはやはり避けたい。なので、現場の指示には従うよ」
 NWがどんな奴か現状では分からない。状況証拠も無い状態では、迂闊な行動は命取りになりかねないと神保原は判断した。不測の事態に対処するには仲間との密な連絡は不可欠だ。
「平井、賢二がNW化した場合はやっていいんだな?」
 スラッジの言葉に、力なく頷く平井。
「わしにも同窓会のハガキを貸してくれぬか?」
 ハガキを手にし、匂いを嗅ぐドワーフ。
「平井さん、賢二が死亡している可能性はゼロではないし、怪我をして動けない事も、アライグマを庇っている可能性もある。だから、諦めずに捜そう」
 Celestiaが、落ち込んでいる平井を励ます。
「ドワーフさん、DarkUnicornさん、行こうか。何か分かればトランシーバーか知友心話で連絡する」
 幹谷も、平井に賢二がNWだったら自分達が倒さなければならないことを告げていた。NWが実体化すれば宿主はその時点で死亡したと見なされる。少なくとも、蘇生した例は無い。そう割り切れるものではないが、覚悟を強いる以外に無いのも事実だ。
「賢二さんがNW化したら、それはもう彼じゃない。NW化した彼に襲われるようなら、あたしが盾になるよ」
 これも仕事の内だからね、と平井を安心させる幹谷。

●情報収集
 ゼクスト・リヴァン(fa1522)は、事件当時のことを村人に尋ねてみた。
「ああ、熊に襲われた事件かい。冬篭りに備え、人里に降りてのを運悪く見つかって襲われたのかねぇ」
 運悪く襲われたのは、お気の毒としか言いようがない。

 ドワーフは半獣化し、同窓会のハガキを見せて野良犬から情報収集をしている。
『賢二の匂いだ。おいら達が怪我をしたら、手当てしてくれるんだ』
『最近はアライグマばっか構ってたがな』
 情報提供報酬として、ドワーフは骨を与えた。
 
 Celestiaは、NWとアライグマを村人に気づかれないよう、解りにくい服装で半獣化で捜していた。
「NWは、昼間が出現しないようだな。夜間、改めて皆と探索するか」

 DarkUnicorn、スラッジ、幹谷は、平井と共に賢二探索を行っていた。
「わしのサーチペンデュラムを使うのじゃ。付近の地図と照らし合わせ、賢二の居場所をサーチするのじゃ」
 DarkUnicornに促され、平井はサーチペンデュラムを使い始めた。すると、山道付近の箇所で大きく揺れ始めた。
「ここは、村人が襲われた場所だな」
 幹谷は、ドランシーバーを持っている仲間に連絡し、スラッジは、NW退治に備え、武器の用意を始めた。

 マサイマスは、半獣化してツバのある帽子で角を隠し、途中合流したCelestia、神保原、ゼクストと共に探索を始めた。
 ゼクストの話だと、村人は村に下りてきた熊に見つかり襲われたのではないかということだった。
「冬篭りの時期だからな。山に食料が無ければ、村に降りるしかないだろう」
 冷静に分析する神保原。
「平井さんのハガキを元に賢二の匂いを辿ったが、散乱していて成果はなかった」
 舌打ちして悔しがるCelestia。
 NWが、アライグマでも賢二であっても対応は変わらないのは、皆同じだったが、関係無いNWであれば良いという願いもあった。

 事件現場である山道に差し掛かった頃、ドワーフ、幹谷、Celestiaが何者かお気配を感じ取った。
「誰だ!」
 ヴァイブレードナイフを即座に構えだスラッジが、おびき寄せようとしている。
 山道を恐る恐る出てきた人物は、傷だらけの賢二だった。
「賢二、無事だったのか!」
 感極まり、賢二に抱きついた平井。
「平等‥‥逃げろ‥‥!」
 平井にしがみつきながら、賢二は脅えだした。
「これ以上、人を襲うな!」
 賢二が見たものは‥‥一部昆虫と化した大きな獣だった。
「どういうことか説明してもらえないであるか?」
 マサイアスが賢二に尋ねると、事故を起こした当日、アライグマが気になり追いかけたところ、アライグマは急激に怪物に変化し、山道で村人を襲ったとのこと。必死で止めようとしたが、賢二も襲われてしまった。
 一旦退却したほうが良いと判断した皆は、賢二を自宅まで送り届けることに。

 賢二宅に着くなり、DarkUnicornが『治癒命光』で賢二の治療を。
 賢二の無事を喜ぶ平井だったが、最近は複数のNWが一度に現れる例もあるため完全に安心はできないが、仲間達にも安堵の表情が広がる。
「賢二、あのアライグマはNWという化け物なんだ。退治しないと、被害者が増える。それだけはわかってくれ!」
 平井にそう説明された賢二だったが、そのことを信じられなかった。

●真実
 平井に賢二の側にいてやるよう指示した獣人達は、ヘッドライト、懐中電灯を用意し山道に向かった。
「真夜中ということもあり、誰もいないであるな。これで、安心して味方を援護できるであるな」
 仲間に『高揚炎気』を発動させたマサイアスは、援護に徹するつもりだ。戦いでは個々の能力よりチームワークが生死を分ける。
「わしは『俊敏脚足』で自分に攻撃が集中するようにするかの。体当たりで突き飛ばすこともできるぞい」
 パワータイプのドワーフは、前衛での戦いに臨む。
「皆、何かの気配を感じるよ」
 ソルジャーボウを構え、攻撃準備を整える神保原。
 草叢から勢い良く飛び出したのは、賢二が庇おうとしたアライグマNWだった。
「アライグマがNWであったか。賢二が庇いたてする気持ちはわからなくはないであるが」
「アライグマがNWでも迷わず斬るのじゃ。賢二に恨まれるかもしれぬが、これ以上、犠牲者を増やす訳にいかぬ!」
 マサイアスは『金剛力増』を発動し、仲間の援護に主眼を置いた防御重視の戦闘準備を整えている。『火炎砲弾』は山火事を起こしてはまずいので使用しない。
「コアがどこにあるかわからぬのぉ。手当たり次第、攻撃するのじゃ!」
 DarkUnicornは『俊敏脚足』で撹乱しつつ『淡光神弾』を撃ち乍らコアの位置を探った。仕込み日傘で甲殻部分を突くが、ここには無いようだ。
「ここでないとしたら‥‥どこにあるんじゃろう?」
「どこにあるかわからぬなら、全体攻撃をしかけるのである!」
 マサイアスは、最大出力の『炎法揺鎧』でNWに突撃!
 その瞬間、NWが暴れだし、縦横無尽に動き回った。
「おとなしくしな!」
 スラッジが『器用な尻尾』でNWの動きを止めた瞬間、NWの右目がヘッドライトで反射していることを見逃さなかった。
「コアはNWの右目だ!」
 そうとわかれば、右目を狙うのみ!
「夜闇歩きを祓う一撃、その身に刻んで成仏しなっ!」
 幹谷の日本刀が、コアを打つ。硬いコアは一撃では破壊出来ないが、集中攻撃で一気に砕いた。

 NW退治を終え、賢二宅に向かおうとした獣人は、その途中、平井と賢二に出会った。
「平井、賢二の側にいろといっただろう! なのに、何故連れて来たのじゃ!」
 ドワーフが怒るのは無理も無い。
 賢二はフラフラと倒されたNWの元に向かった。
「おまえが化け物になるなんて思わなかった。これでもう、誰も襲わないよな‥‥?」

 アライグマの骸を抱き締め、賢二は泣いた。