禁断の魅了アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/11〜09/15
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●本文
大学受験に失敗して以来、ひきこもりになってしまった青年はカーテンを閉め切った暗い自室に籠もり、好きなホラーDVDを見ていた。その中には、年齢制限が設けられる以前の作品もある。
ホラー作品を見ている青年の目は、狂気に満ちていた。
吸血鬼に首筋を噛まれ、苦悶の表情の美女を見ては恍惚し、醜悪な殺人鬼が繰り出す凄惨な殺害手口を真剣な眼差しで見ている。
彼は、恐怖におののき、腰を抜かし失禁し、苦痛に顔を歪ませ甚振られる被害者達を見るのが楽しくてしかたがなかった。
自分も、ホラー映画のようなことをしてみたい‥‥。
青年の精神は徐々に狂っていき、次第に正気を失った。
彼が手にしていたのは、裏ルートで入手したあまりにも残酷な場面が多いため、発禁となったビデオ。
それに感染し、青年がNW化しようとは誰が想像しただろうか。
数日後、青年宅でついに殺人事件が起きた。
被害者は両親と妹の三人。いずれも、ホラーの殺人鬼や怪物に襲われたような残虐な殺され方だった。
その中にひきこもりの青年がいないことから、警察は彼を犯人と特定し捜索を続けたが、未だに見つかっていない。
その頃、空き地の土管の中で、NWが腕にこびり着いている血を舌なめずりし、右手に持っていた女の右腕に噛り付き、肉をむさぼり、骨を一気に噛み砕いた。
これ以上被害者を出さないためにも、獣人諸君にはNW化した青年を見つけ出し、殲滅して欲しい。
※成長傾向:体力、格闘、軽業、射撃
●リプレイ本文
●作戦会議
「ふむ、これはまた難しい依頼じゃな」
ドワーフ太田(fa4878)が悩む。
現代日本、それも街中で数人の人間の無惨な死体が残された。殺され方が人間離れしていたから、NWの仕業と判断されて自分達が呼ばれた。犯人は狂的な殺人鬼かもしれないし、考えたくはないが獣人という線も無くは無いのだが、その可能性を考慮しても自分達の方が対処出来る。
しかし、警察や探偵でないドワーフにとって殺人事件の捜査、というのはいかにも厄介だ。出来れば、特定してから呼んで欲しいと思わなくもない。
「手がかりもないでは、下手に動きまわっても骨折り損になるだけじゃろうし。青年宅の周辺に目星をつけて、網を張るかのう」
問題は昼間に発見した時だ。ナイトウォーカーなどと言っても、昼間は木陰で寝ているとは限らない。向こうはともかく、獣人にとっては表の生活というものがあり、日中に怪物と大立ち回りは勘弁してほしかった。
「毎度、映画のロケで誤魔化すのはちと辛いからのう」
それも被害者が出なければの話だ。既に死人が出ている以上、向こうに配慮を求めるのは厳しい。詰まる所、深夜、人気のない場所での戦闘というのが、彼らにとってもNWにとっても邪魔が入りにくい最高の環境かもしれない。
「悠長なことは言ってられんだろう。厄介なことに、殺人鬼のように人間を殺して回る相手なんだ。一刻も早く見つけ出してなんとかせねば‥‥。とは言え、あっしの人相じゃあ派手に聞き回るわけにもいかんのが辛いところだが」
悪役俳優の鬼頭虎次郎(fa1180)はそう言って頬の大きな傷跡を指でなぞった。眼光鋭い悪人面であり、この顔で「おい化け物を見なかったか?」とでも聞けば一種のギャグだろう。
「‥‥警察の捜索網にも引っ掛からなかったのですから、数人で足取りを探すのは難しそうですね。‥‥そこで考えたのですが、‥‥囮を使い誘き出す方向で動いてはどうでしょう?」
アンリ・ユヴァ(fa4892)の言うことは尤もだ。NWは本質的に獣人を餌とする。無防備そうな獣人が近くに居れば、襲わずには居られない筈である。非常に危険度は高いが、NW狩りにおける最も有効な手段のひとつだ。
それしかないだろうと獣人達は頷き合う。
「あ、あの‥‥それなら私、昼間にあたりを歩き回って‥‥地理を把握したり、下見とか‥‥探します‥‥。可能なら‥‥複数見つけておきますので‥‥」
おどおどしながらも、自分の行動を宣言する夏姫・シュトラウス(fa0761)。極度の恥ずかしがり屋の少女は、実は覆面レスラーとして国民的人気を誇り、獣化すれば並大抵のNWを撃退する実力者でもある。
夏姫は夜の囮にも立候補した。彼女の実力を知る仲間達に異論はない。
「俺も夏姫さん同様、囮役やるよ」
奏上 静(fa5576)が挙手する。それに、太田が反対した。
「おぬしはまだこの世界に入って日が浅い。危険な任務を自分から引き受けるのは、まだ早いじゃろう」
「うむ‥‥」
便利屋を本業とする奏上は確かにまだ新人で、獣人としての実力も‥発展途上だ。ドワーフの親父くさい意見に反発はあったが、正論だけに言葉に詰まった。
「敵の強さがわからん現状で、危険は冒せんよ」
「それもそうですけど、夏姫さんでは強すぎてNWが出てきてくれない恐れもあります。餌として手頃な方が、囮には適任かもしれませんでしょう?」
物静かな口調で御影 瞬華(fa2386)が言った。御影は最初は自分が囮役に立候補しようかと考えていたが、先に言われたのでバックアップに回る考えだった。
「むぅ、しかしな‥‥」
ドワーフは反論するも、有効な手段が少ないのは事実なので暫くして折れた。
「みんな、俺は手頃な餌と思ってるわけかよ。別にいいけどさ、‥‥泣けるぜ」
向上心旺盛な若者ながら、近頃の依頼運の悪さに仕事を選ぼうかと考えている奏上である。口に出したら、若いうちから仕事を選ぶもんじゃないとドアーフあたりには言われそうだ。
「では、私は囮役から離れて、なるべく見晴らしがいい場所から『鋭敏視覚』で警戒します」
アンリは、囮役の夏姫と奏上と行動を共に。
「ドワーフさん、何かあったら、 トランシーバーで連絡しますね」
「わかった、気をつけるんじゃぞ」
「こういう手合いは、何処にでも居るものか。つい先日も、似た様な事件に関わった。この手の相手は反吐が出るほどに厭わしい。‥‥まぁ良い、その狂気も纏めて葬り去ろう」
最近解決したNW退治を思い出したのか不快な表情を浮かべた各務 神無(fa3392)。
「お久しぶりですね。久し振りに中東から帰って来てみれば‥‥早速嫌な事件ですよ。まぁ、退治することに事に変わりはありませんが。NWは殲滅するだけですから」
御影は各務に話しかけた。二人は幼馴染で、姉弟の様に育った間柄であるらしい。
「囮を引き受けるつもりだったんですがね、反対されそうなので止めました。まあ、私は射撃手ですので、いきなり襲われると対抗し難いですが。囮役は多いほうが良いでしょうし」
弓使いであり、闇弾を放つ御影。接近戦は不得手だった。
「瞬華、囮が多い方がいいとは初耳だ。そういう考えは止めなさい」
確かに効率は良いが、危険度も跳ね上がる。御影がどんな経験をしてきたかを想像して、各務の表情は曇った。
「ところで、囮作戦で行くなら青年の写真を拝借したい所だね。顔も解らずにでは囮もやりにくだろう?」
「それは、わしが借りて来よう」
ドワーフが言う。警察経由で手に入れた写真には、引き篭もる以前の姿が映っていた。月並みだが、どこにでもいそうな青年である。
「取り敢えず、半獣化を誤魔化す為の帽子を被り、狼の尾はコートで隠そう。それで、NW化したこいつをおびき寄せよう。決行は夜、でいいんだね?」
「うむ」
その場にいたメンバーは、深夜の囮作戦決行のため、戦闘場所を探し始めた。住宅街での戦闘は、深夜とはいえ流石にまずい。
周辺の地理を把握する為、夏姫や七枷・伏姫(fa2830)が現場周辺を歩き回っている。
戦闘するのに最適な広さがあり、人通りが少ない場所を探す。
「問題は、拙者達が不審者とならぬよう気を付けることでござる。凄惨な殺人事件の直後ならば、周囲の住民の目も異なってござる。そこを芸能人が嗅ぎまわっていると知られれば明後日にはワイドショー、拙者達は目出度くお役御免。注意しすぎるという事は無いでござる」
七枷は仲間達に注意を喚起する。
WEA関係の依頼だけにマスコミや警察に多少手は回っているものの、現場の警官や記者は殆ど事情を知らない。ましてや近所のおばさん達の口に戸を立てる事は不可能だ。
●殺人NWとの対決
深夜、半獣化、獣化した8人は人気のない事件現場に近い公園に集まった。
「戦闘場所の目星だが、ひとつは、この公園。もうひとつは、ここから少しはなれた潰れたコンビニ、後は‥‥工事現場の跡ってカンジの空き地だ」
事件現場と思われる場所に『紛潜陰行』を使って身を潜めて、調査した鬼頭が報告した。
「囮は良いのですが‥‥如何して女性物の着物ですか?」
仲間にそう聞かれ、実家に寄っていて、着替える暇が無かったのですよと誤魔化す御影。少女のような容貌なので、弓の稽古事からの帰りの女性と言っても十分だろう。
「これから作戦実行じゃが、繰り返すが敵の強さのわからん現状であまり危険なことはできん。バックアップ組はいつでも仕掛けられる状態で周辺にて待機することとし、手分けは万一するとしても二手まで、いざというときお互いに駆けつけられる距離に限定すべきじゃ。今日は無理だとしても、明日、場所を変えればいいだけのことじゃ。わしは、バックアップを担当するぞい」
年長ということもあり、ドワーフが自然的にリーダーに決まったようだ。
「わかってるって、おっさん! 皆、やろうぜ!」
威勢の良い奏上の言葉を合図に、作戦は実行された。
囮役の夏姫、奏上が前を行き、それに並行して後方から各務、御影がバックアップしている。街灯が少ない夜道を歩く夏姫は傍目にもおどおどして、いかにも襲って下さいと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
「なかなかの演技でござるな」
「七枷君、そんな呑気なことを‥‥」
「む‥‥! あれは!」
七枷が見たものは、俊敏な動きで二人に近づく黒い影だった。
「ドワーフ殿、アンリ殿に連絡を! NWが出現したでござる!」
おびき出す予定地であるひとつ、潰れたコンビニに待機していたドワーフは、アンリに「囮をここに誘導するように」と至急連絡し、囮の一人、夏姫に通達。
「あの‥‥アンリさんが、‥‥NWを目的地2に誘導してください、とのことです‥‥」
「目的地2、ってことは、潰れたコンビニだね」
携帯で連絡を受け、」煙草を取り出すと、ライターで火をつけて銜えてニィと笑う各務。
「とにかく、急ぎましょう!」
各務は『俊敏脚足』、御影は『高速飛行』で目的地2に向かった。夏姫は迫る影に怯える演技のまま、常人を超える脚力を発揮する。
現場に到着した8人が見たものは‥‥黒ずんだ毛並みの人狼だった。人と狼と虫を合わせた醜悪なキメラに、人狼である七枷は吐き気がする。NWの口元からは、涎とも血ともわからぬモノが垂れている。
「どうやら、敵は近接戦闘型のようじゃのう。生憎、わしも接近戦しかできんので多少の反撃を喰らうことを覚悟で飛び込むより他あるまい」
素早く半獣化したドワーフは『俊敏脚足』で素早さを上げ、ヒット&アウェイ方式で攻撃を仕掛けた。予想外の素早さでNWは攻撃をかわした。
「ぐはっ!」
NWはドワーフをタックルで吹き飛ばして素早く接近すると、彼の喉元に腕を伸ばそうとしたが、背後に回った御影が浄炎の弓をつがえ、狙いを定めて矢を放った。
「グアァァア!」
ドワーフの喉を突き破ろうと振り上げたNWの腕が、邪気を祓う炎に包まれる。
「文字通り、炎で浄化して差し上げましょう!」
炎に腕を焼かれて苦しむNWがドワーフから離れた。その隙を逃さず、翼を広げて上空に待機していたアンリは『飛羽針撃』でNWを撃った。さらにサーチボウを構えて、矢の雨を降らせる。
さしものNWも悲鳴をあげた。
「動きが弱ってきたみたいだな。いくぜっ!」
ライトバスターを構えた奏上は『俊敏脚足』を使ってNWに接近し、両腕に切りつける。
「これで終わりだ!」
「いかん、まだっ」
ドワーフが警告するが遅く、NWの豪腕を叩きつけられて奏上の体が吹っ飛ぶ。
「存外に体力がありますね。コアを叩かなければ、長引くと‥‥」
「今‥‥探してます‥‥」
夏姫は、『金剛力増』『細振切爪』を発動してNWに挑みかかった。回避重視で、時折カウンターを放つ。負ける相手ではないが、街中で長引いたり、下手に逃げられては面倒なので焦りはあった。
「拙者が動きを止めるでござる」
七枷は特殊警棒を2刀流に構えて、NWの攻撃を受け流す事に専念した。真綿のように徐々にNWの行動は制限され、秘密が明らかになる。
夏姫は、NWの不格好な尻尾に輝きを見た。
「‥‥コアは、しり‥‥いえ、尻尾です!」
それを聞くなり、七枷は反撃覚悟の特殊警棒連打でNWの動きを止めにかかる。
「いくよっ!」
獣人達の集中攻撃でコアが粉々に砕け散った。
NWは狼の遠吠えに似た断末魔の声を発し、その場で斃れる。