歌姫の旅立ちを祝ってアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
7人
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サポート |
0人
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期間 |
09/16〜09/20
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●本文
ウィスパーボイスの歌姫の異名を持つ歌手、遠間由樹は芸能人達と日本での楽しい思い出を満喫した。
そんな彼女の渡米は、一ヵ月後に決まった。
荷造りをしながら、由樹はこれまでのことを振り返っていた。
辛いこともあった、歌手を辞めたいと思ったこともあった。
そんな時、兄のような存在であるマネージャーの石元総や、何かと協力してくれた芸能人達が、自分を支え、応援してくれた。
「みんな、ありがとう。みんなのおかげで、私はここまで頑張ってこれました‥‥」
アルバムを見ながら、由樹は涙ぐんでいた。
所属事務所『MADE』所長、不破は、由樹の送別会をしようと提案した。
「渡米を決意し、自らを高めようとする歌姫の送別会を盛大に行おう。由樹に関わってきた関係者やその他の芸能人達を呼んで、盛大に門出を祝ってやろう!」
費用は、全額不破負担に。
「石元、早速会場の手配だ!」
「はいっ」
石元は早速、会場となる場所を探し始めた。
日程は、由樹が渡米する一週間後。
場所は帝都グランドホテル孔雀の間、時刻は19時前後と決まった。
何人の芸能関係者が、由樹の送別会に来てくれるのだろうか。
●リプレイ本文
帝都グランドホテル孔雀の間で、遠間由樹の送別会が盛大に行われた。
多くの芸能関係者が出席しているということもあり、高遠・聖(fa4135)をはじめとするマスコミ関係者が多数駆けつけている。
一通り写真を撮り終えた高遠は、友人で、仕事仲間であるオリーブグリーンのワンピースにグレーのボレロ姿のスタイリストの中松百合子(fa2361)に声をかけ、歌手仲間と歓談している由樹の元へ。
二人に気づいた由樹は仲間との歓談を一旦止め、二人に歩み寄った。
「高遠さん、この間はどうもありがとうございました。送ってくださった写真、大切にします」
「喜んでもらえて嬉しいよ。正式に渡米が決まったんだな、おめでとう。由樹嬢の癒し声が暫く聴けなくなると思うと寂しいが。あ、紹介するよ。彼女は、俺の友人で‥‥」
「スタイリストの中松百合子さんですよね?」
由樹の口から、自分の名前が出たことに驚いた中松だったが
「ええ、そうよ。あなたの話は、高遠さんから聞いたわ。あなたが帰国し、コンサートを開催するようなら、私にあなたの衣装をコーディネイトさせて欲しいの。宜しいかしら?」
「喜んで。こちらこそ宜しくお願いします」
著名なスタイリストである中松の申し出に、由樹は嬉しそうに微笑んだ。
由樹の歌声が聞けないのはほんの少し。彼女なら、実力を伸ばすのに時間はかからないだろう。
由樹と中松を見て、記者としても、個人的にもそう思う高遠だった。
「由樹さん、社長の不破さんにご挨拶をしてくるからお話はまた後ほどね」
そう言うと、中松は重役達と会話をしている不破のところに向かった。
「由樹、こないだぶりー♪」
カクテルグラスを片手に、白のパーティドレスを身に纏った新井久万莉(fa4768)が会話に割り込んできた。
「前に会った時、言いたい事全部言っちゃったから改めて言うこと無いんだよね。送別会とはいえ、社長主催のパーティだから賑やかにいこう♪」
普段と異なる女性らしい外見だが、姉御肌気質は変わっていない。
「新井さんの元気さで、送別会が更に賑やかになることを期待しても良いですね?」
「もちろん!」
二人の歓談姿を、高遠はシャッターチャンスと言わんばかりにカメラを手にして写真を撮った。
「こんばんは、由樹さん。いよいよ渡米だね」
ややフォーマルな服装で出席したスモーキー巻(fa3211)が、少し寂しそうな笑みで声をかけた。
「スモーキーさん、来てくださってありがとうございます。色々とお世話になりました」
「キミと出会ってから、本当にいろんなことがあったね。初対面の時は相当落ち込み、自信を失いかけていたようだけど、今は見違えるほど立派になったね」
ここ数ヶ月で、由樹は彼を初めとする芸能人のおかげで、いくつもの殻を破ってきた。渡米することで様々なことを学び、気づき、帰国した時には、もっと素敵な歌声になるであろう。同業者として、負けてはいられないなと思うスモーキー。
「皆さん、お忙しい中、由樹の送別会に出席してくださってありがとうございます」
歓談を中断させてしまい申し訳ございませんと謝罪した後、話の輪に混ざったのは、デビュー当時から由樹を支え続けてきたマネージャーの石元総。
「こんばんは、石元さん。由樹さんといられるのも、残りわずかですね。寂しくないですか?」
スモーキーの問いに「寂しいですが、彼女が選んだことですから」と、石元は由樹を見つめながら答えた。
スモーキーと石元が会話をしている時、誰かが由樹にぶつかった。
「あ、す、すみません‥‥」
慌ててお辞儀して、おどおどとした態度で謝ったのは楼瀬真緒(fa4591)。
「初めまして、作家の楼瀬真緒です。由樹さんのコンサート、急いで原稿仕上げて行きました‥‥」
由樹が日本を離れる前に、直に会いたいという理由で出席した楼瀬。
「はじめまして。お忙しい中、コンサートに来てくださってありがとうございます。これからも、応援宜しくお願いします。楼瀬さんも、作家のお仕事頑張ってください」
初対面の自分に微笑み、優しく労わってくれた由樹に感激した楼瀬は、あまりの嬉しさに泣いた。
「泣かない泣かない、楽しくいこう」
感涙する楼瀬に、ポケットティッシュを差し出して元気付ける新井。
暫くして、不破の挨拶、出席していた知り合いとの会話を終えた中松が戻ってきた。
「由樹さん、渡米の決断は大変だったでしょうけど、勉強になる事は必ずあるわ。ピンチになる時もあるでしょうけど、チャンスも必ずあるし、自分で作り出せるものだと思うから決して諦めないで」
彼女は励ましの後、由樹の歌声を再び日本で聞けることを楽しみにしているわねと締め括り、スワロフスキーのピアスを贈った。好みは、高遠を通じ、予め石元に聞いた。
携帯越しではあったが、石元は、離れていても由樹が困難な時でもきっと支えてくれる人だと感じ、その思いを歌に込めれば、由樹はステップアップすると思った中松であった。
「悪い、着替えに手間取ってしまった」
一通り仕事を終えた高遠は、ラフな服装でしか会ったことがないからと、新調したスーツに着替えても改めて出席した。
「高遠さんのスーツ姿、初めて見ました。とてもお似合です」
「あ、ありがとう‥‥。あ、これ、俺からのプレゼント」
照れを必死に隠しながら、高遠は淡いピンクのスプレーローズの花束を由樹に手渡した。
「ありがとうございます」
「由樹に似合う花だね。高遠、由樹の好み知り尽くしているとか?」
新井の突っ込みに対し、何も言えない高遠だった。
「僕からはこれを」
スモーキーが持参したのは、詩集数冊。
「飛行機の中だと退屈かな? と思ってね‥‥いうのは冗談。海外に出ると、日本語に触れる機会は大きく減るだろう? 言葉への感受性はわりとデリケートだから、それが鈍らないようにと思ってね」
作詞の一件に関わったスモーキーの思いが、プレゼントにぎっしりと詰まっている。
「私はコレ!」
新井のプレゼントは、二頭身サイズの由樹のぬいぐるみ、新井をモデルとした半獣アライグマのぬいぐるみ、小鳥の半獣をイメージした由樹のぬいぐるみ。
「新井さん、お裁縫上手なんですね」
「当然! 伊達に裏方やってるワケじゃないんだよ。由樹、落ち込みそうになったらアライグマの尻尾を引っ張って。元気が出るおまじないだよ」
アライグマぬいぐるみには、尻尾を引くと
『由樹ー! 中途半端は許さないからねー!』
というセリフが再生されるというギミックがあるが、それをあえて言わないのは、ここぞという時に聞いて欲しいからだ。
「小鳥の尾羽も、落ち込みそうな時に引っ張って。これも元気が出るおまじない」
小鳥由樹のぬいぐるみには、尾羽を引っ張ると由樹に関わった芸能人、新井から送別会の話を聞いた楼瀬のメッセージが再生される仕組みがある。
楼瀬のプレゼントは日記帳。
由樹自身に、その日にあった出来事を書いて欲しいからと選んだ品だ。
「由樹さん、日記帳に書き切れない位、思い出が一杯になって帰国するのを楽しみにしています。出来たら、日記を元に私にあなたの話を書かせてくださいね」
有名になったら、歌姫伝記を書きたいという楼瀬の思惑は内緒‥‥ということで。
自分を励まし、応援してくれた人々のプレゼントに感激した由樹は、嬉しくて泣きそうになったが
「これから夢に向かおうってのに、そんな湿っぽい顔は似合わないよ? 飲んで、食べて、歌って、笑いながら旅立とう! ほら、由樹、笑って!」
事務所の別れの時のように、新井は由樹の肩を叩いて元気付けた。
「は、はい‥‥」
流れ出しそうになる涙を拭い、由樹はニッコリと笑った。
時間は流れ、送別会もお開きに差し掛かった。
「皆さん、今日は私のためにお忙しい中、送別会に出席してくださってありがとうございました。私は‥‥自分の歌唱力をより高めるため、渡米を決意しました。全米デビューできるまでは、帰国しないつもりです」
それほどまでに、彼女の決心は固い。
「これまで応援してくださったファンの皆様、素晴らしい歌詞と曲を提供してくださった作詞家の先生方、音楽プロデューサーの皆様に感謝します」
盛大な拍手の後、出席者の誰かがこう言った。
「由樹さん、ここでデビュー曲『光に向かう蝶』を歌ってください!」
その一言が発端となり、彼女の歌を望む声が。
「由樹の歌、しっかり耳に焼き付けておくからよ!」
「もっと腕を上げて日本に帰って来てね!」
「素敵なウィスパーボイスが、逆輸入されるのを楽しみにしてます♪」
突然のことに戸惑う由樹だったが、皆の期待に応えて歌うことに。
「こんなこともあろうかと思って、ギターを用意してきたよ。フロントに預けてあるから、今持ってくるよ」
スモーキーが会場に戻り、ギターの弦を調整し、演奏準備を始めた。
「由樹さん、いつでも良いよ」
「それでは、皆さんの声にお応えして、初心に帰って歌います」
会場に、由樹のウィスパーボイスが響き渡る。
『いつか光を見る 殻に籠もる蝶 空を優雅に舞う 夢見続ける
自分が飛び立つのは どんな所かな? 少し怯えながら 想像する』
出席者一同は、静かに歌姫の声に耳を傾けていた。
『ヒラヒラと キラキラと 大空を舞うよ 必ず どこかで 疲れ果てようと
しなやかに 軽やかに 美しい翅広げ 悔いが残らぬよう 太陽まで舞うよ』