悪魔に魅入られし男アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 2Lv以上
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/13〜09/17

●本文

 美大に通い、油絵を専攻している青年、琴野初雄は寝る間も惜しんで借りているマンションの一室にあるアトリエで絵の作成にとりかかっている。
 今描いているのは、美しい天使の絵だ。
 彼は、幼い頃絵本作家だった叔父に貰った絵本に登場する天使に一目惚れした。
 それ以来、時間があれば画用紙とクレヨンを用意して天使の絵を描き始る絵を書くことが大好きな少年になった。
 必死に勉学と絵画活動に励み、その甲斐あり美大に合格した。

 初雄の絵が美大の教授に認められ、一ヵ月後に開かれる展覧会に出してみないかと薦められた。
「ほ、本当ですか!」
「ああ。キミの絵は、純粋で穢れ無き美しさを感じる。金賞は無理かもしれないが、何らかの賞がもらえるかもしれない」
 展覧会に自分の絵が出展できる! それだけでも、初雄は嬉しかった。

 天使の資料を探すため、琴野は図書館に向かった。
 大天使ミカエル等の絵画の本を手に取ろうとした時だった。その横に置いてある一冊の本を落としてしまった。拾い上げ、本の汚れを払ってからタイトルを見ると『禍々しき悪魔の世界』と書かれていた。
「悪魔‥‥か。天使を描く僕には関係ないや」
 口ではそう言いつつも、何かに惹かれるように本をめくり始めたが、ほんの数ページで見るのをやめた。

 その翌日から、初雄の絵のタッチやテーマがガラリと変わった。
 今、作成中の絵も、天使ではなく、頭が黒山羊、大きな蝙蝠の翼を生やした悪魔だった。悪魔の両手には、首輪がついた鎖がもたれている。首輪で繋がれているのは、裸の男女だった。
 タロットカードの悪魔のイメージか、と思いきや‥‥
 良く見ると、男女の背中には蚯蚓腫れができている。鞭で強く叩かないと、このような傷はできるはずがない。
 女のほうは、両目がえぐられ、猿轡がはめられ、男のほうは、口に檜製の杭が打ち込まれ、心臓が抜き取られていた。
 これは、まさに悪魔の所業としか考えられない。

 数日も美大を自主休講している初雄の様子を見に来た教授は、その絵を見て愕然となった。
「そ、その絵は‥‥!」
「これですか? これは‥‥僕の本心ですよ‥‥!」
 初雄は、テーブルの上にあった果物ナイフを手にすると教授の喉を切り裂いた。
 生暖かい血飛沫を浴びながらも、絵の作成を続けていたが‥‥

『コレデハモノタリナイ‥‥モット‥‥モット‥‥』

 その後、初雄は行方をくらませた。

 初雄のことだから、この時間も起きているだろう。
 そう思った従兄の石元聡は、何も知らずに手土産を持って初雄のマンションを訪ねた。
 チャイムを鳴らすが、誰も出ない。
 鍵がかかっているのかと思いドアを開けようとしたら‥‥風が吹き、自然に開いた。
「初雄、いるのか?」
 石元は、玄関の明かりをつけ中に入ると血の臭いを嗅ぎ取った。
 臭いを辿ると‥‥そこには、首を鋭利な刃物で切られた中年男性の死体があった。
 辺りを見回すと、イーゼルに立てかけられたカンバスの絵が目に映った。
(「天使と楽園を好む従弟が、このような禍々しい絵を描くはずがない! それに何なんだこの死体は? 何か事件に、いや誰かに脅されたかして、こんなものを‥‥!」)
 混乱し、いてもたってもいられなくなった石元は、マンションを飛び出した。

 その時だった。夜空を見上げると、蝙蝠人間が飛んでいるのが見えた。
「あれは‥‥獣人?」
 石元は人間だが、芸能マネージャーを続けるうちに獣人の存在を知るようになった。その石元も、まさか蝙蝠人間が初雄だということにはまだ気づいていなかった。

 それから数日後、古びた倉庫で男女の遺体が発見された。
 殺害方法は、初雄が描いていたあの絵と同じようなものであった。
 ニュースでそのことを知った石元は、怖くなって知り合いの獣人に全てを話した。
「初雄も怪物に襲われたかもしれないんだ!」
「‥‥そうじゃないかも」
 話を聞いた獣人はWEAを通じて警察の捜査状況などを調べた。事件当夜に初雄のマンション付近に蝙蝠獣人はいなかった事や、教授を刺したと思われるナイフからは初雄の物と思われる指紋が検出された事、犯人はベランダから逃げたと思われるがまるで空を飛んだかのように痕跡が途切れている事など。
「断定は出来ませんが、おそらくこれはNWの仕業」
「ナイト、ウォーカー?」
 獣人の話を聞いた石元は嗚咽を漏らした。あの蝙蝠人間がNW化した初雄であるかもしれないという。
「正確には、もし初雄さんだったとしての話ですが、NWが実体化した時点で初雄さんは死んでいます。残骸を、NWが操っているにすぎません」
 淡々と非現実的な説明をする獣人を石元は不思議そうに眺めたが、感情が飽和しているのか従弟を残骸扱いされても腹は立たなかった。
「なぜ‥‥なぜこんなことに‥‥!!」
「現代ではNWが潜伏可能な情報はどこにでもあります。運が悪かったとしか」
 獣人は携帯電話で仲間と連絡を取った。実体化した現場とNWの形状が分かった事で、調査範囲を絞り込める。早く見つけなければ新たな被害者が出るか、もしくはまたどこかの情報に潜り込まれてしまう。
「頼む!」
 石元は獣人に縋りついていた。
「頼む! 俺の従弟を‥‥解放してやってくれ!」
 その時の石元の声は、涙声だった。
 誰でもいい、初雄を助けてほしい‥‥と願わんばかりに。
「‥‥分かりました」
 WEAを通じてNW狩りの獣人が集められた。敵のNWはこちらを煽っているのか無関係の人間まで襲っている。早めに決着をつけなくてはならない。

※成長傾向:体力、格闘、軽業、射撃

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2859 ダンディ・レオン(37歳・♂・獅子)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa5054 伏竜(25歳・♂・竜)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●悪魔の絵
 WEAの許可を得た3人の獣人達は、美大教授が殺害された琴野初雄のマンションを訪れた。
「これが生前、初雄さんが描いた絵に惨殺された男女の絵ですか‥‥。この事件が起きた数日後、古びた倉庫でこの絵と同じように殺害された男女の遺体‥‥」
 月詠・月夜(fa5662)は、カンバスに描かれた禍々しい悪魔の絵を見ながら事件の分析をしている。その絵は、リアリティを追求したタロットカードの「悪魔」そのものだった。
「NWの主食は獣人だろ? 何で人間が犠牲にならなきゃいけないんだ」
 考えられるのは事件を起こして獣人を誘き寄せようと言うのか。無関係の人間を襲っていることに激しい憤りを感じているヘヴィ・ヴァレン(fa0431)。煽る事がNWの目的だとすればそれは成功していると言えるが、代償は高くつきそうである。
「そういえば‥‥この絵と同じように殺害された男女ですが‥‥蝙蝠人間に攫われたのでしょうか‥‥? だとしたら‥‥おびき寄せる方法は‥‥男女カップルで囮作戦というのはどうでしょう‥‥?」
 月詠の案は可決されたが、立候補する男性がなかなかいないのでジャンケンで決めることに。その結果、伏竜(fa5054)がパートナーに。
「実際の戦闘方法は囮か待ち伏せかで変わるな。囮の場合は防弾チョッキ、ソード等は何処かに置いておくしかないだろうし、戦闘開始直後に半獣化して、素手と角で戦うより他ないだろう。いずれにしても俺はリーチ、威力とも不利なので、味方の攻撃の後にでも隙をついて仕掛けるか」
 プロレスラーの伏竜は、組みつきは得意だが、そのまま投げるのは難しそうだ。
「これ持ってけ」
 ヘヴィは、囮役の月詠と伏竜にランタン貸与。
「俺は、囮役から少し離れた物陰に隠れて待機する。トラックを建物の傍に停めて、壁との隙間を使ってもな。人気の無い場所を選ぶ予定だから安心しろ」
 囮役はあからさまな警戒は出来ないからと『望遠視覚』『鋭敏視覚』で周辺を見渡せる位置に視点を移して監視し、NWらしき影を見付けたら『知友心話』で囮役と交信しつつ監視を続行、というのが彼の行動方針だ。
「ありがとうございます‥‥。月夜‥‥頑張ります‥‥!」

●現場調査
 ダンディ・レオン(fa2859)は、男女の遺体が発見されたという古びた倉庫を捜査中。
「これはまだ‥‥酷い有様であるな‥‥」
 現場は処理されていたが、夥しい量の血痕までは処理できていない。それだけで、どれだけ凄惨な殺害方法であるか一目でわかる。
「昼間は、蝙蝠人間は行動できないであろう。後の調査は、夜に行うである」
 辺りに漂う錆びた鉄のような臭いを堪え、ダンディは倉庫を後にした。
 椚住要(fa1634)は、殺害現場まで車で移動し、戦闘を行うのに十分な広さのある場所を何箇所か調べておいた。
「要殿ではないか。貴殿も調査に来られたのか?」
「まぁな。同じところに来るたぁ思わないが、来ることもあるだろうと思ってな」
 同じことが繰り返されるかもしれないだろ? というのが椚住の考えだった。
 ここで話し合っていても埒があかないので、2人は仲間がいる初雄のマンションへと向かおうとした途中、一台の車が倉庫前に止まった。
「事件現場が怪しい、とここを調査しに来たのだが‥‥考えが同じ者がいたとはな‥‥」
 車内にいたのは、蝙蝠人間らしきものをここで見たという証言を元に現場に来た鶸・檜皮(fa2614)。窓には、外が見えないようにフィルムが張ってあるので、パワーウィンドウを開け、運転席から顔を覗かせる。
「丁度良いところに参られた。我が輩を、仲間のところまで送っては貰えぬか?」
「‥‥わかった、乗れ」
 鶸は、ダンディを助手席に乗せると仲間がいる初雄のマンションへと向かい、椚住はその後をつけるように運転した。

●作戦会議
「これまでの行動パターンによると、NWは私達を挑発するかのように所構わず出没している。ホテル街とか、デートスポットの夜の公園とか、カップルがいそうな場所とかな」
 ランディ・ランドルフ(fa4558)の報告に、NWが男女に拘っていることを改めて知る獣人達。
「NWが人目につく場所に出現なんで前代未聞だ。それだけ、男女に拘ってるのか?」
 ヘヴィの疑問には、誰もがそう思っているだろう。
 事前に行動予想地点と周辺の地形と建物を調べておいたランディは、NW退治場所として、事件現場である倉庫から数キロ離れた廃園した遊園地を提案した。
「場所ですが‥‥人気の無い場所、隠れる所が多い等の条件の整った場所が‥‥。決行は深夜でどうでしょう‥‥?」
 月詠の提案に、意義を唱える者はいなかった。
「囮だが、肝試しできたカップルという設定にすれば良いだろう。半獣化を誤魔化し、人間に見えるようにすれば上手く奴をおびき寄せることが可能だと私は思うのだが」
「それでNWが釣れるかどうかわからんが、それしかないようだな‥‥」
 いささか不安だが、鶸はランディの案でいくしかないだろうと言った。
「ミーは、通りすがりを装った囮役をストーキングする役だZE〜〜!!」
 作戦実行に胸躍らせるジョニー・マッスルマン(fa3014)。
 話し合いの結果、決行場所は廃墟と化した遊園地、時刻は深夜に。

●NW退治
 深夜、人気がいないことを確認した獣人達は、作戦を実行した。
 完全獣化したランディは、車に乗ったまま囮役を尾行し、ジョニーは見つからないようストーキングを開始。
「今回のNWは悪趣味ですね‥‥。あの殺し方ですと‥‥爪で引き裂く必要がありますから、囮を襲って来る刻は必ず近付く筈です‥‥。伏竜さん‥‥気をつけてくださいね‥‥」
「それが、カップルを装っている男女の会話か? まぁ、いいが‥‥」

 歩くこと十数分、決行場所に辿り着いた。
「奴なら、まだ来ていないようだ」
 サイレンサー付き拳銃を構えた椚住が報告。
「囮作戦‥‥失敗、でしょうか‥‥?」
 月詠ががっかりして呟いたその時、
「ん? あれは何であるか? 蝙‥‥蝠?」
 ダンディが、夜空を舞う蝙蝠人間らしきものを発見。
「敵さんのお出まし、ってとこだな。俺達以外の奴は、物陰に潜んでくれ」
 伏竜の言葉に、月詠以外の獣人は物陰に潜み、様子を窺うことに。
 標的である男女を発見したNWは、羽をはためかせた後、囮役に狙いを定めて急降下し始めると同時に、大きく開けた口から超音波を発生させた。
「「くっ!」」
 避け切れなかった二人はもろに食らったが、半獣化していたこともありダメージは少ない。倒れて気絶した振りをした。気絶したことを確認したNWは、二人を抱えて飛び立とうとしたが
「そうはさせないである!」
 NWが接近してきたタイミングを見計らい、完全獣化したダンディが『光球作成』で目眩まし。
 急激な光を浴びせられたことで、NWは一時的に目を潰され、暴れ始めた!
「飛べないようにしてやるZE!!」
 タイミング良く現場に駆けつけたジョニーは、距離を詰めるとNWの翼を狙いスカイスピアを投げつけた。投槍は前振りで、そのまま突撃するつもりだったが、見事に命中したことに逆に驚いた。
「ジョニー、無事だとは思うが月詠と伏竜の回復を頼む!」
 『虚闇撃弾』を放ちながら、椚住はジョニーに指示する。『鋭敏視覚』でNWの動作を見落とさないようにしていたが、まさか見えない飛び道具を持っているとは誤算だった。近頃の派手な動きといい、NWが強力になっている気もするが、今はそんなことを考えている暇は無い。
「行動を制限する為に、翼を潰しておかねぇとな」
 無双の斧を棒術の要領で、ヘヴィはNWの翼を攻撃。翼がずたずたにされ、NWは飛行能力を奪われた。
「地上戦に持ち込んだようであるな! 我が輩の一撃、受けてみよ!」
 ブラストナックルとメリケンサックを素早く装備し、ダンディはNWの腹部に強烈なパンチを繰り出した。ブラストナックルの反動で軽いダメージを受けた。
「無茶するなYO」
「すまんである‥‥」
 ジョニーの『超回復力』により、ダンディの怪我は回復した。

 NWからかなり離れた場所では、『望遠視覚』を駆使して鶸が狙撃体勢を取っていた。望遠視覚を使った今の彼は『飛羽針撃』の射程300メートルを最大限に活用可能である。
 乱戦で思うように狙撃が出来ないが、仲間が離れた一瞬の隙を見つけては射撃する事でNWに反撃の機会を与えない。

 近距離と遠距離で狙われてNWが飛べないことを確認した伏竜は完全獣化すると、全力の『波光神息』を一気に吐き出した。
「翼、首、腕は狙えたが‥‥コアはどうか‥‥」
 後は仲間に任せるしかない。

(「飛べなくなったとはいえ‥‥超音波がまだ使えるはず‥‥」)
 コアの位置を間近で探るため、月詠は『光学迷彩』で姿を消してNWの身体を念入りに調べた。その結果、首の付け根に宝石っぽいものがあることが判明。体毛に隠れていたので、遠くからは見えなかったのだ。
(「首を刎ねれば‥‥超音波が発せなくなりますが‥‥ドスでは無理ですね‥‥」)
 短刀では、首を刎ねることは難しいが、突き刺すことは可能だ。
 月詠はNWの正面に回りこみ、首の付け根にあるコアめがけて一気にドスを突き刺した。

「おまえのような奴には、地獄がお似合いだ」
 鶸はNWの遺骸を用意していた毛布に包み終えると、車のトランクに入れ、WEA日本支部に引き取って処理するよう連絡した。
「私の出番は、あまりなかったな。これで琴野の魂も解放されただろう」
 ランディの言葉に頷く獣人達。

 全てが終えた頃に夜が明け、天使が舞い降りてきそうな陽の光が差し込んだ。