奈落佳人アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/27〜12/31

●本文

「奈落佳人って知ってる?」

 午前4時44分44秒に、奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。
 中高生の間で広まっている都市伝説であるが、その噂は本当だった。

<シーン1>
 OLのかおるは、今日失恋した。
 相手は、大学時代の先輩で、付き合って3年になる同じ会社の営業マンである浩一。別れる理由は「他に好きな人ができたから」である。
 他に好きな人、というのは、浩一より2つ年上の社内で1、2の美人を争うほどの秘書課の女性だと知っていたので失恋の痛手は相当なものだった。別れを告げられる数時間前に、楽しそうに会話しながら歩いている二人を目撃したことが更に心の傷をえぐる。
 最後のデートとなった遊園地で一緒に撮った写真を握り締めながら、口惜しさを堪えきれず泣き出すかおる。
 気晴らしにとネットサーフィンをしていたら、偶然、都市伝説サイトのチャットを見つけた。そのログを、一言一句見逃すことなくかおるはじっと見ていた。

『奈落佳人って知ってる? 今、中高生の間で流れている都市伝説なんだけど』
『午前4時44分44秒に姿見の前で「佳人様、おいでください」と唱えると、奈落佳人が鏡に映るんだと』
『その後、自分を振った相手の名前を言うと、人知れず失恋の怨みを晴らしてくれるらしいね』
『あたしも知ってる! 噂じゃ、奈落佳人はすっごい美女らしいよ』
『でも、怨みを晴らす代わりに対価を支払わないといけないらしいぜ』
『すっげぇ美人なのかー! 会ってみてぇー!!』
『怨みを晴らすって言うけど、相手は地獄行きかね?』
『地獄行き、っていうか、奈落送りってカンジー♪』

 奈落佳人でも何でもいい、自分の怨みを晴らして欲しい。
 その噂が本当なら、奈落佳人に怨みを晴らして欲しいと願うが、それでいいのかと悩み、対価は何かという恐れがかおるを躊躇わせた。

<シーン2>
 満月の光に照らされている東屋の中央にある水鏡で、一人の女性がその様子を伺っていた。
「どうなされた、佳人殿」
 中華風甲冑を身に纏った古風な口調の青年が声をかける。
「また誰かが、佳人ちゃんに恋の怨みを晴らして欲しいと願っているんだよ」
 仙人風衣装の少年、いや、少女か―が青年に言う。
 奈落佳人は、かおるは必ず自分を必要とすると感じ取っていた。
 どのような結末になろうとも‥‥。

<シーン3>
 悩んだ末、奈落佳人を呼び出し、浩一を奈落送りしてほしいと願うかおる。
 対価は、かおるの心。死ぬまで心を開くことはない。
 それでも構わない、と承諾するかおるに、佳人は鈴のついた金の耳飾りを手渡し、相手を奈落送りしたい時は、その鈴を鳴らすようにと告げ、霧の如く姿を消した。
 鳴らすかどうか迷ったが、かおるは自分の思いを吹っ切るため、失恋の無念を晴らすために耳飾りの鈴を鳴らした。

<シーン4>
 その翌日の日曜日。新しい恋人とデートしている浩一の前に青年が現れ、青龍刀を向ける。
 浩一はそれを拒むが、青年のただならぬ気迫に負け彼と共に行く。
 後を追う女性を、少年、いや、少女か―が止める。

 浩一が辿り着いたところは、何も無い空間だった。突然の出来事に驚く彼の目の前に、突然奈落佳人が現れた。
『女人を傷つけた報い、その身をもって償いなさい。あなたを奈落に送ります‥‥』
 佳人の透き通る声が消えた後、浩一は突然できた穴に落下したかと思えば、それはすぐに塞がり、辺りは闇に包まれた。
 怨みを晴らし終えた奈落佳人の声が、虚しく響く……。

 それから数日後。無断欠勤が続く浩一の話題で会社が騒然としていた。噂では、新しい恋人ができたが、飽きてしまってすぐに別れた後に別の女性と駆け落ちしたとなっているが、真相を知るのは、対価を支払い、固く心を閉ざしてしまったかおるだけ……。

<登場人物>
奈落佳人:恋の怨みの相手を奈落送りにする謎の女性。
青年:佳人の部下でかつては名を馳せた武将。古風な口調。佳人を「殿」付けで呼ぶ。
少年(あるいは少女):佳人の部下で天真爛漫な性格。佳人を「ちゃん」付けで呼ぶ。

かおる:依頼人。ネットで奈落佳人の存在を知る。
浩一:ターゲット。新しい恋人ができたという理由でかおるを振る。

※浩一の恋人、その他の配役の設定はお任せします。
※奈落佳人が浩一の前に現れる以前に、何らかの恐怖が彼を襲います。

●今回の参加者

 fa0467 橘・朔耶(20歳・♀・虎)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa2941 MIAS(16歳・♀・小鳥)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文


 日が傾き始めた時刻。
 案内人たるセーラー服におさげ髪の少女(美森翡翠(fa1521))が、下校中の学生達の中に紛れて歩きながら話を始めた。
「奈落佳人って知っていますか?
『午前4時44分44秒に、奈落佳人たる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる』
 私達中高生の間で広まっている都市伝伝説の一つ‥‥と思われていますが、この噂、本当なんですよ」


 その日の夜、OLのかおる(MIAS(fa2941))は、身も心も捧げていた恋人の斉藤浩一(神楽坂 紫翠(fa1420))に振られた。浩一は見た目が良く、目立つ、仕事も出来る。だが、それは表向き。裏では上司に会社の金を横領した後始末を強引に頼まれ、経理であるかおるにそれを揉み消すよう頼んでいた。
 かおるが浩一を怨むのは、それだけではない。
 浩一は、秘書課の冬木碧(斉賀伊織(fa4840))と二股をかけていたうえ、条件が良い、という理由で彼女と婚約をしていたのだ。かおるは何度も浩一の子を身篭っては、堕胎を強要されたため、子供が産めない身体となった。金銭面でも結婚を餌に金銭を巻き上げられていた。
 気分転換にとネットサーフィンをしていたら、偶然都市伝説サイトのチャットログを見つけた。

(画面、チャットのログ。案内人が声のトーンや口調を変え、ログを読む)

『午前4時44分44秒に姿見の前で「佳人様、おいでください」と唱えると、奈落佳人が鏡に映るんですって』
『その後、自分を振った相手の名前を言うと、人知れず失恋の怨みを晴らしてくれるらしいね』
『でも、怨みを晴らす代わりに対価を支払わないといけないらしいよ』

 それを知ったかおるは、奈落佳人でも何でも良い! 自分の怨みを晴らして欲しいと強く願った。何もかもボロボロにされた挙句、捨てられたので浩一を憎んでだかおるは奈落佳人を呼び出そうとしたが、対価が自分の命だったらと考えると、怖くなったので躊躇った。


 場所は変わり、常に夜の世界。満月の光に照らされている東屋の中央にある水鏡で長い銀髪を結い上げて後ろ髪にまとめ、中国の後宮で女官が着ているような白い着物を纏っている一人の女性が、かおるの様子を伺っていた。
「また誰かが泣いている‥‥」
 左右違う瞳から、涙が流れ出る。
 落ち着いた雰囲気の物静かな妙齢の女性本人こそ、奈落佳人(橘・朔耶(fa0467))である。
「どうなされた、佳人殿」
 佳人の部下の武将(ヴォルフェ(fa0612))は、水鏡を見つめる佳人の異変に気がつき声をかけた。冷酷非情な表情の中に翳りが見えるような目で、守護すべき相手であり、最愛の存在である佳人の答えを待つ。
「もう少し様子を見ましょう‥‥」
 佳人の回答に黙って頷く蒼嵐。
『あの人、佳人ちゃんが必要になるよ♪』
 仙人のような黒い着物に青い帯を締め、髪を背後で1本にまとめている少年(エルティナ(fa0595))と仙人のような白い着物に赤い帯を締め、髪を左右で分けて結っている少女(ルナティア(fa5030))が声を揃えて言う。天真爛漫な彼等は、性別・髪型・服装以外はまったく同じで、基本的には常に一緒に行動し、発言も何もかも2人一緒に行うが、必要なら片割れとも各個別で行動・発言も可能だ。

『かつては名を馳せた武将の蒼嵐、天真爛漫な性格の双子、兄のターグァ(大兄)と妹のニューアル(小妹)。彼等は佳人の部下です』
 東屋の側にいる案内人が、部下の説明を始める。


 酷い目に遭わされたのに、かおるは何故か浩一の事を何処かで愛しく思っている自分を疎ましく感じた。
(「あの女に奪われてしまうくらいなら、奈落送りにして永遠に自分と一緒に消してしまいたい!」)
 意を決したかおるは、午前4時44分44秒に姿見の前で
「佳人様、おいでください」
 と祈り、佳人が来るのを待った。

 水鏡に大きな波紋が広がると、佳人は立ち上がった。
「彼女は私を呼んだ‥‥」
 足下に現れた水溜りに吸い込まれるように佳人の姿が消えると
『彼女には、やっぱり佳人ちゃんが必要になった♪』
 ターグァとニューアルは、手を叩いてはしゃいだ。


 姿見に、突然白い着物を纏った美しい女性が映った。
「あなたが‥‥奈落佳人?」
 かおるがそう訊ねると、佳人はコクリと頷いた。
「あなたに依頼する時、対価は必要と聞いたわ。それは何?」
 佳人は、かおるの胸中央部をすっと指差し
「対価はあなたの心。死ぬまで決して開くことはない‥‥」
「心‥‥?」
 心を失うということは、生身の人形になるのと同じだ。
「それでも構わないわ」
 正式に依頼を申し込んだかおるに、佳人は鈴のついた金の耳飾りを手渡した。
「全てを失う覚悟があるなら、この鈴を鳴らすといいでしょう‥‥」
 かおるに耳飾りを手渡した佳人は、そう告げると霧の如く姿を消した。
 鳴らすかどうか迷ったが、かおるは自分の思いを吹っ切るため、失恋の無念を晴らすために耳飾りの鈴を鳴らした。

 チリン‥‥

「あの女人、早速、鈴を鳴らしたようだな」
 水鏡でかおると佳人の様子を窺っていた蒼嵐が、青龍刀を手にし、出陣準備を整える。
『鳴った、鳴った♪』
 ターグァとニューアルは、自分達の出番が来たと大喜び。
(「蒼嵐、ターグァ、ニューアル、私の声が聞こえますか‥‥? あなた方に頼みがあります‥‥」)
 佳人の声が、夜空に響き渡す。
「佳人殿、どうか貴女の望むご決断を」
『僕達にも決断をー』
(「今すぐ、私の元へ‥‥。あの女人は、私を必要としました‥‥」)
 佳人の声が消えると同時に、三人はフッと姿を消した。


 かおるが佳人を呼び出したその日の午後。浩一は、碧と買い物をしていた。
「ほら、このピアス似会うんじゃないか? ちょっと、耳に当ててみろよ?」
「は、はい‥‥」
 照れながらピアスを耳に当てる碧に
「良く似合っているよ。じゃ、それを買ってやるよ」
「ありがとう‥‥」
 買い物を終え店を出ると、浩一は抱き寄せて
「寒いから近くにいろ。暖かいだろう?」
 と碧を抱き寄せると同時に、2人の眼前に青龍刀を突きつけた蒼嵐が現れた。

「斉藤浩一だな。我等と共に来てもらおう」
(「何だ? この殺気」)
 蒼嵐の殺気は、浩一にしか感じられないので碧は、冗談でも、そういう物は危険ですから、止めて下さいと止めようとするが‥‥。
『邪魔はさせないよ、お姉ちゃん』
 ターグァとニューアルが阻止する。
 彼等は無邪気な笑顔で残忍な仕置作業を行ったり、対象者の周辺にいた人間に暗示をかける等の工作作業が主な任務だ。
「お願い、邪魔しないで」
 碧の願いなど、聞き入れる余地などない双子。
『今見た全てを忘れなよ‥‥そうしたら、少しだけ悲しみが和らぐから‥‥』
 双子は碧に暗示をかけ、浩一のことを忘れさせた。
「浩一さ‥‥ん」
 碧の意識は徐々に遠のき、しまいには倒れこんだ。


 蒼嵐に連れられて浩一が来た場所は、勤務先だった。
「ここは、一体? 会社? 何で俺、こんな所に?」
 蒼嵐は何時の間にか消え、浩一は自分の机の前に立っていた。突然会社中のパソコンが起動し、浩一がこれまでかおるにした行動が白日の下に晒される。
「なっ‥‥何でこれが? やばい、俺が怒られる‥‥」
 浩一が困惑していたその時、上司の冬木(碧の父親)が現れ、浩一を問い詰める。
「部長? こ、これは、誰かのいたずらです!」
「ほう‥‥誰かとは、かおる、という女人か?」
 背後から、蒼嵐が青龍刀を浩一の首に当てながら、いつでも首を刎ねられるようにしている。
「か、かおる!? 俺は、そんな女知らない!」
 そう言った途端、突然ペンチが出現し、浩一の下を引っこ抜こうとした。
「し、舌が‥‥!!」
『罪を認めなよ、そうすれば楽になるよ』
 机の上に座り、足をぶらつかせている双子が言う。
 浩一の前に現れた冬木は、奈落佳人が変身した姿だった。最後の断罪の機会を与えようとしたが、自分の罪を認めようとしない浩一を奈落に落とす為、赤い瞳を光らせた。

「罪なき女人を傷つけ悲しませ、利己を求める救い無き愚者よ‥‥奈落へお逝きなさい‥‥!」

 佳人の断言と同時に、浩一の足下に落とし穴が出現。彼の姿はそれに吸い込まれるかのように姿を消した。

『彼の人憎しと 一つ 鈴を鳴らしましょう
 想いを返せと 二つ 重ねて鳴らしましょう
 散り消える涙 三つ 奈落へ流しましょう‥』
 
 ターグァの後、ニューアルが歌う。

『光見ぬ赤子に 四つ 歌を聞かせましょう
 父親恋しやと 五つ 重ねて聞かせましょう
 消えてゆく命 六つ 奈落で歌いましょう‥』

 歌に合わせ、佳人が手にした鈴を鳴らす。これが奈落送りの終了の合図だ。


 数日後。無断欠勤が続く浩一の話題で会社は騒然としていた。
 碧と付き合っていたが、飽きてしまってすぐに別れた後に別の女性と駆け落ちしたとなっているが、碧は浩一と付き合った覚えは全く無いと言う。
 真相を知るのは、対価を支払い、心を閉ざしてしまったかおるだけ。

 そんな彼女の後姿を見ながら、案内人は語りかける。
『真相を知るのは、対価を支払い、固く心を閉ざしてしまった彼女だけ。
 あなたは、奈落佳人に晴らして欲しい恋の恨みがありますか?
 己の心を一生閉ざしてまでも晴らして欲しいものですか?』

 歩き去る際に、案内人が持っている鞄から黒の携帯電話が覗き、ストラップに金の鈴が揺れて余韻を残して鳴った。

 今も何処かで、佳人の噂が流れているだろうか。