寒き屋上で熱きショーをアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 2.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/14〜01/18

●本文

 富山県の中心街にある老舗デパートの社長は、今後の営業がどうなるか不安になっていた。赤字はかろうじて免れているが、客足は、最近駅前にできたショッピングモールに行く若者が増えたため遠のく一方。
「駄目だ‥‥このままでは当デパートはおしまいだ‥‥」
 便箋とペンを用意し、何かを書こうとしている社長を秘書が止めた。
「社長! おやめください!」
 どうやら、遺書を書いているものと思ったらしい。
「何を言っているのかね、キミ。私は、友人に頼み事があるから、それを書こうとしただけだ」
「はぁ‥‥」
 社長はサラサラっと用件を書くと、FAXでそれを送った。

 東京にある弱小プロダクション、笑磨商(わらいましょう)。
「う〜ん‥‥こらまた難しい‥‥」
 プロダクション社長は、大いに悩んでいる。
 その内容というのは‥‥デパート屋上に設置した特設ステージでショーを催すというものであった。
「あそこは今頃、雪が積もっているだろうに。何でまたこんなことを‥‥」
 寒空、積雪の中で行うショーを誰が見に行くだろうか。
 
 そう思っていたその頃、FAXを送ったデパート社長から電話があった。
「ああ、キミか。キミと話すのはこないだの同窓会以来だね。FAX見たけど、今そっちは雪積もっているんじゃないのか?」
「いや。暖冬の影響で全然降ってない」
 振っていないのか、と一安心するが、寒い中、客が来るのかと訊ねると
「芸能人が面白いショーをすれば絶対客は来る!」
 とデパート社長はあっさり答え「あとは宜しく」と電話を一方的に切った。

 こんな企画に参加する勇気ある者がいるのかどうか、という疑問を抱きながらも、プロダクション社長はショーに出演する芸能人を募集した。

 富山県にある○×デパートの屋上に設置した特設ステージでショーを披露する芸能人を募集しております。ショーのジャンルは面白いものであれば内容問わず。
 職業、性別一切問いません。
 参加ご希望の方は、プロダクション笑磨商社長までご連絡ください。
 必要経費、交通費は全額当社が負担致します。
 最後まで頑張った芸能人には特別支給あり。

 勇気ある芸能人が現れるかどうかは‥‥神のみぞ知る。

●今回の参加者

 fa0361 白鳥沢 優雅(18歳・♂・小鳥)
 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4716 エキドナ(24歳・♀・蛇)
 fa5082 鷹飼・源八朗(19歳・♂・鷹)
 fa5218 荊木・星河(16歳・♂・豹)

●リプレイ本文


 鷹飼・源八朗(fa5082)は、デパートの社長と電話でショーの打ち合わせをしていた。
「富山にはローカルヒーローがいないのか?」
「マスコットキャラはいますが」
「そうか。では、悪の組織に改造されたマスコットを悪役に、という案がどうだろう。正義の味方によって元のマスコットに戻るというオチで」
「それなら大丈夫でしょう。ヒーローですが、売薬さんはどうでしょう? 富山の薬売りは有名ですし」
 社長の意見に、鷹飼は意義は無いと答えた。
「必殺技に名産品とか使ってみるというのも面白いですよ」
 富山名産の技、親しみやすいヒーローを考えるのが彼の課題となった。


 新幹線、特急を乗り継ぐこと約3時間。○×デパートの屋上ショーに参加する芸能人達は富山駅に到着した。
「お待ちしてました、皆さん」
 ○×デパート社長自ら、芸能人達の出迎えに来た。
「駅前にマイクロバスを待機させています。それに乗って当デパートに向かいます」

 駅までの時間はさほどかからなかったが、屋上に設置された特設ステージの準備が手間取っている。芸能人達は、ヒーローショーの準備に取り掛かっている鷹飼と、司会進行役のマサイアス・アドゥーベ(fa3957)を除いた全員が準備を手伝っている。
「出場順番はこうなっているである。ヒーローショーは準備に時間がかかる故、最後が無難であろう」
 ステージの責任者と音響担当に、進行状況と使用曲、効果音を説明するマサイアス達に最終点検を終えたスタッフが準備完了しました! と報告する。
 念入りの段取り、打ち合わせの後、寒い屋上でのショーが始まった。
「皆で頑張って、寒さを乗り切るである! ショーを始めるである!」
 マサイアスの号令に「おー!」と拳を掲げて張り切る一同。


「お待たせしました。これより、○×デパート主催のショーを開始するである! まず最初は、荊木・星河(fa5218)のダンス!」
 荊木がステージで披露するのは、彼お得意のダンス。
 寒い=人が来ないに繋がるから、観客と一緒に体を動かすというという演出プラン。
 身体を温める運動は、エネルギーを熱にして消費するのでダイエットにもなる。
「スタイルが気になるお嬢さん、奥さん、メタボリック症候群が心配なお父さん、俺と一緒に踊ろう! カモン!」
 観客に呼びかけながらエネルギッシュに踊る荊木。彼に釣られて観客の何人かは恥ずかしげにだが、荊木を真似て踊っている。
「もっと元気良く! 恥ずかしがらないで!」
 更に声をかけると、踊り出す観客が増えた。子供は楽しそうに彼を真似ている。中には、荊木の踊りを見ているだけで暖まった観客もいるだろう。

「お次は白鳥沢 優雅(fa0361)!」
 白鳥沢がターゲットに絞ったのはお年寄り。お年寄り好みの番組『笑って点稼ぎ』の宝塚風。華麗な衣装に身を包み、座布団を持って落語を始めるが‥‥数分後に会場凍結防止の為、と言って即退場。唖然とする観客達。

「お次は『やみくもあんどん』!」
 寒そうに肩を丸めて登場するベクサー・マカンダル(fa0824)に対し、海風 礼二郎(fa2396)は寒さを感じさせないほど元気に登場。
 お笑い番組のレギュラーである2人が登場すると、観客達は「あの番組に出てる子達ね」等と話し始めた。
「今日はデパートのショーに呼んでいただいて。こんなお仕事初めてだから、ボク達とっても楽しみにしてたんです」
「‥‥そだね。でも、何も屋上でやらなくても、1階か2階くらいで良かったんじゃない?」
「屋上だからこそいいんだよ。スペースが広いから、お客さんがいっぱい来られるでしょ? たくさんの人に見てもらえるじゃないか」
「おお、ヤダヤダ。なんて自己顕示欲の強い人だろうね。私はお客さん少なくても、楽しんでもらえれば言うことないよ」
 寒さを堪えながらベクサーが返すと、海風は「何でボクが悪者みたいなノリになってるのさ」と突っ込む。
「そんなことはどうでもいいから、暖房とかないの?」
「無いよ」
「ウソつけ、この下の階にいっぱいあるじゃん」
「キミはすぐ日本語わからないフリするから、怒られるのはいつもボクなんだよ?」
 冷たいベクサーをフォローするかのように、海風は元気にコントを盛り上げる。
「こんな寒い中で、寒い漫才聞かされて。お客さんヘコんでるよ。きっと」
「寒さなんて関係ないって。絶対みんな、楽しんでくれてるから。そうですよね? 盛り上がってるぞ〜って言う方、手を挙げてください」
 海風が観客に呼びかけると、数名の観客が挙手。
「ほら、楽しいって言ってくれるお客さんいるじゃない」
「いつの間にお前、そんな陳腐なこと言うようになった。思い切りすべってるけど、一応つっこんでやるよ。統計学者かよ」
「屋上が寒いのは分かるけどさ、せっかくお客さんが来てくれてるんだし、不満ばっかり言ってないで頑張って漫才しようよ」
「なぜそこまで自分を追い込む? 日本人はすぐ我慢する。アメリカ人は自由。もっと日本はアメリカを見習うべき」
 ベクサーはアメリカ人という設定らしい。
「アメリカではショーをする場所を選ぶ自由がある。レストラン街でジュースを飲みながら漫才するのも自由」
「そんなわけないでしょ」
「それにお前が寒いこと言っても、周りが暖かかったら中和されてちょうどいいと思わない?」
 もういいよ、と呆れる海風。
 ここで2人のコントは終了。明るく、元気良く礼をしてステージを去った。

「お次は百鬼 レイ(fa4361)!」
 百鬼のパフォーマンスは『エアギター』。平たく言えばギターのパントマイムである。弾いてはギターを回転させたり、投げたり、叩き壊したと様々なジェスチャーをする。動きだけで熱気を感じるほど、激しい動作だった。

「良い子の皆、お待たせしたである。最後は鷹飼・源八朗によるヒーローショーである!」
 わーい! と喜ぶ子供達。

「やぁ、ボクは薬売さん。悪を成敗する為に諸国漫遊している正義の薬売りさ」
 売薬さんの挨拶をすると同時に、ステージに怪人が現れた。高熱の為、顔が真っ赤(元々の色は白)のチューリッちゃんの着ぐるみ(中身=エキドナ(fa4716)) と、ストレスで胃をやられ、胃の部分が黒くなっているとやまん君(中身=百鬼)の着ぐるみが登場。声は、舞台の裏側にいる白鳥沢が予め録音しておいたものを再生することになっている。エキドナは、体力を買われて着ぐるみでの戦闘を行うことに。
『邪魔はさせないっチュ!』
『そうだまん、みーんな病気になればいいんだまん!』
 チューリッちゃんと、とやまん君は病気の人を治そうと薬を売っている売薬さんの邪魔をする。
「ふっふっふ‥‥この姿は仮の姿。私の正体は‥‥」
 鷹飼は衣装を瞬時に脱ぎ、急いでライチョウの仮面を付け、唐草模様の全身タイツの
ヒーローに変身した。
「正義の売薬さん、ギョウショーグン!」
 ビシッとポーズを決め「お前達を倒す!」と宣言し、チューリッちゃん、とやまん君を攻撃。
「食らえ、笹の葉カッター!」
 笹の葉カッターを食らったとやまん君は、ゆっくりと倒れてその場で寝込んだ。笹の葉は殺菌効果はあるが、腹痛が治るという効果は無い。その辺は見逃して欲しいものである。
『よくも、とやまん君を!』
 葉っぱビンタの連打をくらうギョウショーグン。足下がふらついている。

「良い子の皆、声を合わせて応援するである! せーの!」
 マサイアスの言葉に合わせ、子供達は『頑張れー! ギョウショーグーン!』と声を合わせて声援を送る。
「まだまだ。チューリッちゃん! 私はお前に負けるわけにはいかん! これでも食らえ! 紙風船ボンバー!」
 ギョウショーグンが多くの紙風船を投げつけると、チューリッちゃんの顔が白くなり(中身は粉状の風邪薬)、徐々に熱が下がったいく。元気になった証拠だ。
「あれ? 私、どうしたっチュ?」
 不思議がるチューリッちゃんに「キミは病気だったんだ」と説明した後
「正義の売薬さんは必ず勝つ!」
 決めポースを取り、ワハハと高笑いをするギョウショーグン。

「富山市周辺を病人を護る為、ギョウショーグンは日夜戦うのである! 明日はキミの町に来るかもしれないである!」
 マサイアスの言葉を信じた子供達は「次はボクのとこに来てー」「あたしのところにもー」と次々に言い出す。


「ありがとうございます、皆さんのおかげでショーは成功しました!」
 社長は、参加者一人ずつに握手する。
「皆が俺と一緒に踊った、すっごく嬉しかった!」
 満面の笑みで喜ぶ荊木。
「私達のコントも受けてたね」
「うん。やってよかったと思います」
 嬉しそうに言う『やみくもあんどん』の2人。
「しっかし、着ぐるみってけっこう重いもんですね。自分も成功したのが嬉しいです」
「私も協力できて嬉しいのじゃ」
 百鬼、エキドナも満足の様子。
「社長、皆も満足の様子である。正直言うと寒かったが、観客が喜んでショーを見ているのを見ると、身体があったかくなったである」
 熱帯地方出身のマサイアスだが、観客パワーで寒さをなんとか堪えられた。

 その頃、鷹飼はギョウショーグン姿のまま、1階広場で握手会、記念撮影会を行っていた。ショーを見ていた子も、見ていない子も大喜びでギョウショーグンと握手したり、写真を撮ったりしていた。
(「こんなに喜んでもらえるとはな、やって良かった」)

 この模様は、後日、地元のケーブルテレビで放映された。