サイレント・コメディアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/07〜09/11

●本文

「う〜ん…」
お笑い番組『ガハッ! とチャンネル』のディレクターは悩んでいた。
「なぁお前、この企画やるのいると思うか?」
「大丈夫ですって! 最低一人でも出演しますって!」
企画を練ったADは楽観的にそう答える。
ディレクターが悩んでいるのはは、内容云々ではなく、危険性であった。

<「黙って笑いを取ろう!」企画書>
三十秒間、音を立てず、喋りもせず、黙って視聴者を笑わせればOK。
ただし、眠っている猛獣の前で(檻に入れられている)。
音を立てたり、動作がオーバーだった場合は猛獣が起きてしまう危険性があるのでNG。

「この企画だが…別撮りしたものを別室で観客に見てもらい、その反応で合否を決めるのでどうだ? 出演者はともかく、観客にまで被害が及ぶ危険性があるだろう」
「企画書にちゃんと目を通しましたか? 檻に入れられているって書いてあったでしょう。大丈夫ですって!」

いささか不安はあるものの、ディレクターは番組収録を行うことにした。

『ガハッ! とチャンネル』では、サイレントお笑い大会の出場者を募集しています。
我こそは! と思う芸人、役者の皆様の出場をお待ちしております。

●今回の参加者

 fa0422 志羽翔流(18歳・♂・猫)
 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa3158 鶴舞千早(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3510 宝塚菊花(23歳・♀・一角獣)
 fa4536 竜奈(7歳・♀・竜)
 fa4566 レルグ(11歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●お笑い大会開始
 音を立てずに笑いを取ろう、というある意味無謀な企画に参加したのは六名。
「お笑い番組初出演の基町走華です〜。宜しゅうに」
 明るく、礼儀正しく挨拶するのはお笑い番組初挑戦の基町・走華(fa3262)。
「三十秒間、音を立てず、喋りもせず、黙って視聴者を笑わせればOKなんだな? 檻に入れられてる猛獣の前で、っつーのが怖いが。音を立てて騒ぎ立てるだけが芸じゃないぜ。本職大道芸人の力、見せてやるぜ!」
 やる気マンマンの志羽翔流(fa0422)。
「役者は揃ったな。この企画を担当したADは説明をするからよーく聞くように」
 プロデューサーは後は任せた、と言わんばかりの視線を送り、ADを促す。
「えー、では説明します。出演者の皆様には、猛獣が入れられている檻の前で音を立てない芸をしてもらいます。三十秒間無音で、如何にして観客を笑わせるか、それが課題です。なお、観客の笑いは音にカウントされませんのでご安心ください」
 この企画を提案したADが説明をする。
「なお、今回檻に入ってもらうのは某動物園から出張してもらったライオンのジュリアス君です。この子、眠っているのを邪魔されるとものすご機嫌が悪くなるのでご注意ください。大きな音を立てるとすぐ起きちゃいますよ」
 要するに、ジュリアス君のご機嫌を損ねなければ良いわけだ。
 参加者の中には青褪めた顔の者もいる。
「何か変わった状況で演技とかせなかんわけね‥‥猛獣の前とはな〜。ま、物音とかさせずに演技をすればええわけやね?」
 宝塚菊花(fa3510)が不安気に言う。
「三十秒間、音を立てず、喋りもせず、猛獣が入れらとる檻の前で何かすればええんやな? やってみるわ。出演時は半獣化するけどええ?」
 基町の質問に、ばれなければOKとプロデューサーの許可が出た。
「んじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます〜」
 基町は舞台袖に引っ込むと、準備をし始めた。それを気に、皆も準備を始めた。
 この企画、成功するのだろうか?

●一番手:基町・走華
『皆さん、こんにちは〜』と書かれたカンペを手にし、耳にヘッドホンをつけた基町がにこやかに登場した。ヘッドホンは半獣化を誤魔化すためである。
(恥ずかしいけど、おもろい顔と和気穏笑で少しは笑いが取れるはずや)
 カンペを『にらめっこしましょ〜』と書かれたものに変え、基町は恥をしのんで面白い顔をするが、観客の反応は‥無かった。
 これだけでは終わらない。まだネタがある。
 黒子に用意させたイーゼルとボードを使っての笑わせに挑戦する。
『うちは大阪出身のミナミアイドルや! でも出身は大阪ちゃうねん』
 次のボードには、こう書かれていた。
『何でこないなこというのかって? 打倒、アキバアイドルやから!』
 結局、笑いゼロのまま終わってしまった。

●二番手:宝塚菊花
 がっくりと肩を落として退場する基町と入れ替わりに登場するのは宝塚。
 彼女のネタは『たこ焼きを作る女』というサイレント寸劇である。
 あまり派手なことが出来ないので、リアクションがすべてなサイレントコメディを行うことにしたのだ。
 自分の家で、たこ焼きを作り始める女。
 最初にタコを茹ではじめるが‥‥まだ生きたタコなんかを買ってしまったので、色々と手間が掛かってしまい悪戦苦闘! ヌメリや汚れを取って、茹で始める。しかし、タコは逃げ出そうとする。ようやくタコが茹であがり、切ってさぁ、たこ焼きを焼こうとするが‥。
 そこまでは良かったが、肝心のオチが無かった。
 それでも評判が良かったらしく、観客が数名笑っていた。

●三番手:鶴舞千早(fa3158)
 基町、宝塚の寸劇をじっくりと見て、演技の勉強をする研究熱心な鶴舞だったが、いざ自分の番になると緊張してしまう。
「そんなに緊張せんでもええって。リラックス、リラックス」
 宝塚の励ましを受け、鶴舞は舞台に立つ。
 彼女のコメディ内容は、静かなブレイクダンス。物音を立てられないので、出来る範囲内のダンスを演じることにした。できれば回転技もやりたいのだが、音を立ててしまわないかどうか心配なので、どうしてでも控えめになってしまう。
 最後くらいはと思い、回転技を決めたが、幸い、音を立てること無く大成功した。
 笑いはとれなかったが、観客から拍手が送られた。
 ジュリアス君の様子が気になり、鶴舞は慌てて後ろを振り向いたが、眠ったままだったので安心した。

●四番手:志羽翔流
 ここからは本職芸人と言える面子の登場となる。本職一番手は大道芸人の志羽だ。
 舞台の中央にいる彼の出で立ちは、説明不要と思われる「安来節」、所謂どじょうすくいの衣装であった。鼻あての一文銭、ザル、腰籠、豆絞りという本格的なものだ。
 無謀にも、音楽無しで安来節をやろうというのだ。
 一礼すると、動作の準備にとりかかる。
 懐を手にし、ザルを頭にして腰を落として徐々に中央に進む。その後はお約束のどじょうを追い、捕まえるまでの動作をする。最初は何の反応の示さなかった観客だったが、どじょうを掬うあたりからクスクスと笑う。途中で和ませるような満面の笑顔をするものだから、クスクスは笑いに変わった。人の心を掴むのは、大道芸人ならではの技だ。
 踊り終えると志羽は豆絞り、鼻あてをとり、素顔でザルを大きく振った時、観客から盛大な拍手が送られた。
 志羽は、大きな事をやり遂げたと実感し、爽やかな笑顔で退場した。

●五番手:Zebra(fa3503)
 次の本職芸人は奇術師のZebra。どのような手品を披露してくれるのだろうか。
 裏方の黒子に檻の前に小さなテーブルを用意させ、タキシード姿で爽やかに登場し手品を披露することに。30秒しかないので素早く一礼し、テーブルの上の20センチ立方くらいの綺麗な箱の蓋を開け、中をカメラに向けて中が空であることを見せる。
 蓋を閉じ、ビロードのハンカチを被せて指を鳴らすと、ハンカチを取り覗いて箱を手に取り、檻の中で眠っているジュリアス君に向けて蓋を開ける。そうしたら中に仕掛けてあった直径2センチくらいの小さなボールが、大量にバラバラとジュリアス君に向かって降り注ぐ。ビックリ箱の要領である。
 これでは流石に完全に目が覚めるだろうと思われたが、ジュリアス君はうっすらと目を開け、大きな欠伸をした後また眠った。
 なんで起きないの!? と、Zebraは画面に笑顔を向けた後にびっくりした表情で後ろを振り返る。しかも二度見。
 ジュリアス君を起こすことはなかったが、Zebraはスベった感じの空気の中、笑顔で後ろ歩きで画面からハケていった。

●六番手:チェダー千田(fa0427)
 最後に登場したのは職業・ムチャキングの千田。
 良く喋り、良く動くピン芸人38歳。
 人懐っこい顔を太いフレームのブサイクダテメガネで隠し、明らかに何か仕組んでありそうなボリュームのある黒衣装を着ている。しかも女装で。何を意味するかは、この後にわかるだろう。
 彼のスタンス優先順位は

1.ルール順守
2.笑いを取る
3.猛獣を起こさない

 である。
 そんな千田が行うのは独りサイレント(実際より早めの展開の)演歌コント。舞台には黒子が用意した【千田のりあ もざいく哀歌】の立て札が置いてある。
 両手を広げ、客席に笑顔を振りまきつつ登場し、深々とお辞儀した後、口パクで歌いだす。その間、顔芸でのツカミを忘れていない。歌と顔芸を続けたままの千田の衣装が、電力で展開された。頭飾りが広がり、背中から布が競り上がり、前で合わせた衣装が左右に広がる。黒の衣装は一転し、華やか過ぎるくらいの衣装に早変わり。
 制限時間が終盤にさしかかった頃、脳内演歌がサビに入ると共に、顔芸が真骨頂に達し、衣装に仕込まれた電飾と稼動部がド派手に稼動し『隠しちゃイヤ』の文字が光り、頭飾りはフル回転している。
 年末の大舞台を意識した芸は見事なまでに受け、会場は爆笑の渦と盛大な拍手で盛り上がったが‥電飾の眩しさにジュリアス君が目を覚ましてしまい、のそっと檻の前に動き出した。
 それを見た黒子が『起こしてちゃ駄目だよ』と書かれたボードを千田に見せる。
「音立てるのがNGなんだろ!? 猛獣起こしたらNGとは聞いてないぜー!?」
 抗議の遣り取りは、檻の真横で堂々と行われた。その様子を見ていたジュリアス君は、のそのそと歩き出すと元に位置に戻り、また眠りについた。
『君が一番!』というボードを千田に見せ、そそくさと舞台を去る黒子。

●最終結果
 ジュリアス君が入れられた檻を会場から撤去し、『ガハッ! とチャンネル』プロデューサーから大会優勝者の名を告げる。
「では、発表します。優勝者、チェダー千田!」
 千田が舞台に登場すると、観客は盛大な拍手で出迎えた。
「もうひとり、志羽翔流!」
 え!? と驚いた表情で舞台の中央に向かう志羽。
「この二人を選んだ理由ですが、無音の中で盛大な笑いを取り、見るものを飽きさせないパフォーマンスを披露してくれたからです。特に千田氏は、大胆かつ、華麗な催しを披露してくれました。よって、両者を優勝とします」

 こうして、二名の優勝者を出し、お笑い企画は無事幕を閉じた。
 その頃‥。
 動物園に返す為に檻ごとトラックに載せられたジュリアス君が運悪く目覚めてしまい、檻の中で「よくも眠りの邪魔をしたな!」と言わんばかりに大暴れしていた。