甘・奈落佳人アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/09〜02/13
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●本文
「奈落佳人って知ってる?」
午前4時44分44秒に、奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。
中高生を中心とした若い世代の間で広まっている都市伝説であるが、時にはデマも流れている。
お菓子作りが趣味の調理師専門学生の夢は、パティシエになって美味しいお菓子を作り、多くの人々に自分が作ったお菓子を食べてもらうことだ。その為、日夜お菓子作りの努力を怠らない。材料費は、カフェテラス付きのケーキ店でアルバイトをして稼いでいる。
学校、アルバイト、お菓子作りの研究と忙しい毎日だが、そんな苦労も夢の為なら厭わない。
カフェテラスでケーキを食べながら楽しく話している女性客達の会話が気になった調理師専門学生は、後片付けをしながら話題を聞いていた。話の内容は、巷で噂になっている「奈落佳人」についての話題だった。奈落佳人の呼び出し方、恋の怨みの相手を奈落送りにする方法が語られていた。
『姿見から出てくる奈落佳人って、甘いお菓子が好物なんですって。食べたお菓子が気に入ったら、依頼成立らしいわよ』
自分には関係ない話と思いつつ、後片付けを続けた。
自分には関係ない、はずだったが‥‥奈落佳人を必要とする出来事が起こった。調理師専門学生の菓子作りの才能を妬んだケーキ店経営者である年齢が離れたいとこが徐々にだが嫌がらせを始めた。週に何度か店員達に振舞う手作りお菓子を食べたいとこは、調理師専門学生の天性の才能に気付いたのだ。
「もう来なくてもいい」と冷たく言い放ついとこを怨んだ。
奈落佳人に頼るしかないと思った調理師専門学生は、手作りのお菓子を用意して姿見に祈った。
<1日目>
本日のお菓子はクッキー。様々な形のものが皿に盛られている。
「奈落佳人は洋菓子も食べるのかな‥‥」
午前4時44分44秒に現れた奈落佳人は、無言でクッキーを摘んで食べる。
反応は如何に?
<2日目>
本日のお菓子は、ケーキ店では定番ともイチゴのショートケーキ。
淹れたての紅茶も用意できるよう、セッティングもしてある。
佳人の評価は?
<3日目>
本日のお菓子は桜餅。道明寺を使用した本格的なものだ。
毎日洋菓子ばかりじゃ飽きる、と思って作った。塩漬けの桜葉、餡の甘い香りが漂う。
美味しそうに食べている佳人の反応は?
<4日目>
本日のお菓子はバースデーケーキ。奈落佳人にも誕生日があるはず。
心を込めて作ったケーキを、佳人は気に入ってくれるだろうか?
<おまけ>
その噂を聞いたいとこも、奈落佳人を呼び出そうとしていた。
用意したお菓子は、いとこの手作り。
登場した佳人は「まだまだ修行が足りない」と手厳しい一言を残して去っていった。
噂話を鵜呑みにしてはいけない。その中には、真実もあれば、デマもあるのだから‥‥。
奈落佳人の話も、真偽は定かではない。それでも試してみますか?
<登場人物>
奈落佳人:中華風衣装を身に纏った謎の女性。甘いお菓子が大好き。
調理師専門学生:依頼人その1。お菓子作りに情熱を傾けるパティシエ志願者(性別不問)
いとこ:依頼人その2。調理師専門学生がアルバイトをしておるケーキ店の経営者(性別不問)
※依頼人その1、その2は固定配役です。
※奈落佳人は一人ずつですが、場合によっては2役、3役も可です。
※おまけのお菓子は、いとこ役が決めてください。
※判定は調理師専門学生と奈落佳人役が相談して決めてください。
●リプレイ本文
●事の発端
パティスリー・ヴァンリアンの店長、春風藤孝(真喜志 武緒(fa4235))は、従妹である調理師専門学生の櫻井皐月(ユキカ(fa5202)の才能を妬み、店を辞めさせた。
藤孝は表向きは人当たりが良い眼鏡が似合う好青年だが、裏では多少ワンマン気質があり、嫉妬深い性格だ。
「キミはもう来なくてもいい」
そう言い放つと、スタッフルームを後にした。
休憩中、皐月はいつものようにバイト仲間に手作りのお菓子を差し入れする。
お菓子に舌鼓を打ちながら、恋の話をしていた同じ専門学校に通っている近江花(リーニャ・ユンファ(fa4489))と森永好美(姫川ミュウ(fa5412))が、客と同じ様な会話をしていた。話を切り出したのは好美だ。
「奈落佳人って、甘いお菓子が好物なんですって。食べたお菓子が気に入ったら、依頼成立らしいわよ」
「奈落佳人って都市伝説でしょ? 恋を叶えてくれる、じゃなくて恋の怨みを晴らします、っていうのがブラックで今時よね。でも本当にいたら頼んじゃうかも。ライバル蹴散らしたくなるときってあるわよね」
皐月は、客と同じ話をしていた二人に、それは本当かと訊ねた。
「皐月がこういうのに興味示すなんて、珍しいこともあるわね」
「っていう噂、最近よく聞くのよね。ほんとかなぁ、って言っても、あんたには関係ないか。ケーキが恋人だもんねえ?」
花を茶化す好美。
「一度呼んでみる? 皐月の作るお菓子とかならきっと喜んでくれると思うし、怨みを晴らしてくれると思うよ」
冗談めかして口にする好美の言葉を、皐月は信じた。
●1日目
午前4時44分44秒。半信半疑で姿見の前で待っている皐月。
姿見の前に自作のクッキーが盛られた皿を差し出すと、幼い奈落佳人(あずさ&お兄さん(fa2132))が現れた。
「本当に来た‥‥」
驚きつつも、判定が気になる為、皐月は奈落佳人を凝視。
奈落佳人は神妙な顔でクッキーを食べた後、
「何か足りないというか、何か違うんだよね」
とぽつりと呟き、皐月にも一つ食べさせた。
「たしかに、何かが違うわ‥‥」
納得した皐月を見終えた奈落佳人は姿を消した。
●2日目
皐月がアルバイトをクビになったという事を耳にした調理師専門学校の講師、倉持裕也(伊達 斎(fa1414))は、製菓子学科にいる皐月の元を訪れた。彼女が何やら腐心している様子を察するが、深く事情は追求しなかった。
「倉持先生、何しに来たんだろう‥‥」
皐月はぽかんとした表情をした。
午前4時44分44秒に現れた奈落佳人(澪野 あやめ(fa5353))は、少し落ち着いた雰囲気のにっこりノンビリしたお母さん風だった。
本日のお菓子は、必死に考えた結果、王道のイチゴのショートケーキ。より丁寧に作った甲斐があり、スポンジも生クリームも丹精込めてかなりの出来に仕上がったが‥‥奈落佳人は、出されたケーキを見て少し残念そうな顔をした。
「何だか必死そうね。お茶のセットを見れば心遣いは細やかだってわかるのだけれど‥‥意味をわかっているのかしら」
小声でひっそりと呟き、溜息をつく。思いも寄らぬ辛口評価に、皐月は焦った。
「私は洋菓子より和菓子の方が好きなのよ。嘘じゃないわよ。このケーキ、お持ち帰りして良いかしら?」
「ええ‥‥」
「ありがとう、娘が喜ぶわ〜♪」
満足な笑顔で去っていく奈落佳人。って、娘がいるんですか!?
●3日目
裕也は、登校した皐月の元を訪れ、突然、彼女に質問をした。
「君は何故お菓子作りが好きなのかな?」
「え‥‥?」
「何の為にお菓子を作るのかな?」
と、問いかける。
それは、裕也なりのアドバイスだ。そういい残し、裕也は校内に入っていった。何か用があるのだろうが、その真意はわからない。
それを知らない皐月は、そんな彼の後姿を見詰めていた。
午前4時44分44秒、桜餅を何個か用意して待っていた。
登場したのは、以前来た幼い奈落佳人は、桜餅を美味しそうに食べたが
「これも美味しいけど、昨日のケーキの方が好きだったな」
と言った。昨日来た奈落佳人の娘とは、この子のことだろうか。
「お母さんが和菓子好きだから、これ、お土産に持って帰っていい?」
その言葉に、皐月は嬉しさを隠せなかった。
「はい。お母さんと一緒に食べてね」
袋に桜餅を詰め、皐月は幼い奈落佳人に手渡した。幼い奈落佳人は、ありがとう、と満面の笑みでお礼を言ってから去った。
●4日目
どこからか奈落佳人の噂を聞いた藤孝は、召喚を実行してみることに。
「佳人様に認められるのは僕の方ですよ」
フフフ‥‥と不敵な笑みを浮かべる。
そんな父の様子を見ていた藤孝の一人娘、春風まゆ(小明(fa4210))は、父が奈落佳人を召喚しようとすることを知り、パソコンマニアの腕を生かして情報検索を行った。
「奈落佳人って、恋の怨みを晴らすんだ‥‥。パパ、間違ってる。でも頑張ってる」
その勘違いを知るが
「自慢の菓子で佳人様もイチコロ‥‥ですね」
腕に多少の自信を持ち、腕自慢的感覚で呼び出そうとしている藤孝があまりに燃えているので、まゆは心の中で「可哀相だから黙っておこう」と突っ込んだ。
藤孝が用意したお菓子は、チョコレートスポンジに、風味の良いさくさくパイと粒々りんごとカスタードクリームを重ねたナポレオンパイ。イチゴが美味しそうだが、折りたたまれたパイに藤孝の情念を感じる。
自信満々の彼とまゆに呼び出されたのは、2日目に召喚された奈落佳人だった。
「腕自慢と勘違いですか? 困った人ですわね‥‥」
と呆れ、ナポレオンパイを食べた後、がつんと一言。
「味はそこそこ、技術はあるようだけれど、新鮮みがないですわ。何より優しい心がありませんわ! スイーツとは心! 失格です。これでも食べて研究しなさい」
奈落佳人は、皐月から貰ったケーキを藤孝に渡し、食べさせた。
「こ、これは‥‥!」
食べたケーキは、皐月の味だった。
「要精進!」
佳人の言葉と、皐月の味にWショックを受け、ダーっと涙を流す藤孝だった。
「やっぱり‥‥」
わかりきった結果に、がっくりと肩を落すまゆだった。
●5日目
本日のお菓子はバースデーケーキ。
半分は、母親佳人用の甘さ控えめの抹茶クリームのケーキ。もう半分は娘佳人用に苺クリームに中身も苺の入ったケーキのハーフ&ハーフ。
皐月は、心の込めて作ったケーキを食べてもらいたくて佳人を呼んだ
彼女の願いが通じたのか、母娘佳人が揃ってご登場。
(「お顔を見れば、以前見たような必死さが無くなっている‥‥安心したわ」)
母佳人は安心した。
今日は娘佳人の誕生日なので、娘佳人は美味しそうなケーキに目を輝かせ感動し、母佳人は和風ケーキが用意されていることに喜んだ。
皐月はお茶を淹れ、ささやかではあるが、娘佳人の誕生祝をすることに。
「良かったわね」
ケーキを幸せそうに食べる娘佳人の頭を撫でる母佳人は、その後、和風ケーキを一口。
「有り難う‥‥とても優しい味ね」
幸せそうにケーキを食べていた娘佳人が、皐月にこう聞いた。
「こんな優しい気持ちになれる人が、私たちに頼むことなんてあるの?」
佳人達に喜んでもらことを考えながらお菓子作りに夢中になっていたため、皐月は奈落送りのことまで考えていなかった。
「そんな必要、もう無いでしょう?」
と、母佳人はにっこり微笑む。
「それに、そもそも私たちが晴らすのは『恋の怨み』だけだよっ?」
冗談めかして言う娘佳人。
「そうね‥‥今の私には、怨みは無いわ。あなた達のおかげよ、ありがとう。何でお菓子を作るのか、その答えがやっとでわかったわ‥‥」
皐月は余ったケーキを箱につめ、丁寧にラッピングしたものを母娘佳人に手渡した。
「これが、最後のお土産になるわね。今まで本当にありがとう‥‥」
母娘佳人は、仏様のような笑顔を浮かべながら去っていった。
●後日談
「迷いが吹っ切れた顔をしているね、櫻井君」
菓子職人として一回り成長した皐月の様子を見て、以前の皐月とは違う何かを感じ取った裕也は納得したように頷きつつ、話題を突然切り替えた。
「知り合いのケーキ店が、ちょうど一人新しいアルバイトを探していてね。良かったら、そこでアルバイトをしてみないか?」
アルバイト先についての話を持ち掛けることが、裕也が皐月の元を訪れた理由だった。
一流どころと聞いて驚く皐月に
「今の君なら何の過分も無く、安心して紹介できるよ」
皐月は穏やかに微笑みながら「どうでしょう?」と返事した。
心機一転、新たな気持ちで再スタートしようと頑張る皐月だった。
彼女の表情には、迷いはなかった。
●おまけ
撮影用に使われたケーキ、和菓子は、終了後にスタッフ、出演者達に振舞われた。
「おいしー♪」
イチゴのショートケーキにご満悦のあずさ。
「桜持ちは柔らかい味ね」
和菓子好きの澪野の評価。
「ナポレオンパイって、結構食べにくいんですね‥‥」
「でも、美味しいじゃないですか」
悪戦苦闘しながら一口ずつ食べる真喜志に対し、器用にゆっくりと食べる伊達。
「抹茶クリームもなかなかいけますね」
「同感〜」
「シャオミンもこれ好きです」
リーニャ、姫川、小明はが抹茶ケーキを美味しそうに食べている。
「私も作ってみようかな‥‥」
クッキーを摘みながら、自分もみようと決めたユキカ。
今回の佳人召喚は、ほのぼの、優しい雰囲気の話だったが、それもたまには良いだろう。