ならくむすこ(かり)アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 7.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/13〜03/17

●本文

「奈落佳人って知ってる?」
 午前4時44分44秒に、奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。
 中高生を中心とした若い世代の間で広まっている都市伝説であるが、時にはデマも流れている。
 おまけに、絶世の美女ではなく、実は少年という説も追加されたようで‥‥。


 高校二年生の少女、渋谷翠は、母親を早くに亡くし、父は長期出張中、歳の離れた兄は海外勤務のため不在で現在は一人暮らしに近い状態だ。
 そのせいか、翠は家庭的に育ち、家事全般が得意となった。
 家庭的料理は得意中の得意、掃除、洗濯、裁縫もお手のもの。良い相手がいて、父の承諾を得れればすぐにでも「お嫁さん」になれるくらいだ。

 そんな彼女のハートを射止めたのは、彼女の担任である豊田。校内恋愛禁止という学校なので、二人の関係は秘密。傍目には仲の良い「教師」と「生徒」でなければならない。
 その関係に疲れた豊田は、「もうこんな関係は嫌だ」と翠に別れ話を切り出した。
 泣きながら「わかった‥‥」という翠に、豊田は何度も謝った。

 二人の関係を唯一知っている親友の曽根あんずは、翠を慰めるためショッピングに付き合わせた。
「少しは落ち着いた?」
「うん‥‥」
 ショッピングモール内の喫茶店で休憩中、前の席の女子高生達の会話を耳にした。
 話の内容は、巷で噂になっている「奈落佳人」についての話題だった。
 奈落佳人の呼び出し方、恋の怨みの相手を奈落送りにする方法が語られていた。

『姿見から出てくる奈落佳人って、実はショタなんだって。お母さんっぽい女にはめちゃ甘いらしいよ〜』

「あんずちゃん、『奈落佳人』って知ってる?」
「ああ、今話題の都市伝説ね。それがどうかしたの?」
 豊田を奈落送りにしようかどうか相談しようとしたのだが、心配するかもしれないとやめた。
「奈落佳人の噂って、色々あるみたい。絶世の美女かと思いきや、実は男でしたというオチもあるとか‥‥」
 溜息をついた後、あんずは残っていたコーヒーをぐいっと飲み干した。


 あんずの励ましもあり気分が落ち着いた翠だったが、噂話が気になり、奈落佳人呼び出しを実行した。
(「あたしも、もう疲れた‥‥。こんな思いはもう嫌‥‥!」)
 午前4時44分44秒、佳人様、出てきて! と必死に祈る翠の前に現れたのは‥‥。
 青い中華服を着た、くりっとした大きな瞳が愛らしい少年だった。その外見はまさに「ショタ」である。

「ボクを呼んだの、お姉ちゃん?」
「え、ええ‥‥」
 顔を上げて自分を見詰める少年に、驚きを隠せない翠。
「しばらくここにいさせて。ボクが満足するまで、お姉ちゃんの側から離れないから。ボクが満足したら、お母さまに『ならくおくり』をお願いしてみるから」

 家事は得意だが、お守りは未経験の翠は困った。翌日(正確には本日)学校が休みなのが不幸中の幸いだった。
「キミ、名前は?」
「お姉ちゃんが考えて」
 奈落息子(仮)はあっさりとそう言うが、どういう名前にするか非常に悩む。

 突然訪れた奈落息子(仮)をどうしようかと、翠は頭を捻って考えた。

<登場人物>
 奈落息子(仮):奈落佳人の息子、と噂される少年。名前は自由につけてください。
          甘え上手なので、母性本能をくすぐらせる。
 渋谷翠:本編の主人公。家庭的な高校生。お守り初体験。
 曾根あんず:翠の親友。面倒見が良い。
 豊田:翠の元彼で担任。

※その他のキャスティングは自由に設定してください。
※奈落少年(仮)のご機嫌を損ねると、すぐに帰ってしまうのでご注意を。
※話はほのぼのコメディです。

●今回の参加者

 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)
 fa4287 帯刀橘(8歳・♂・蝙蝠)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)
 fa5353 澪野 あやめ(29歳・♀・ハムスター)
 fa5423 藤間 煉(24歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

「奈落息子のスタンバイOKです」
 奈落息子の扮装を終え、中華服が似合うように髪を黒く染めたタブラ・ラサ(fa3802)が登場。
「それじゃ、早速撮影開始だ」
 監督がメガホンを手にすると、出演者一同は、皆、真剣な表情に。


「あら? 目を離した隙にどこに行ったのかしら、あの子‥‥。誰かに呼び出されたのかしら‥‥。今度は何処にいったのやら‥‥」
 華やかな淡桃色の中華風衣装姿の奈落佳人(澪野 あやめ(fa5353))は、息子がいなくなったことに関しては、良くあることなので穏やかな面差しで「あらまあ」という感じに思っているご様子。
 奈落佳人が心配している頃、息子はというと‥‥。

 担任の豊田(藤間 煉(fa5423))に振られ、落ち込んでいる渋谷翠(南央(fa4181)) を親友の曽根あんず(朱里 臣(fa5307))は心配している。
 あれこれと励ましすぎるのも逆に傷を抉ることになりそうなので、あまり態度には出さずに、いつもどおり傍に居ることで支えてあげたいと思った。
 ショッピングの帰りに「奈落佳人を呼ばないでよ」と念を押し、あんずは翠と別れた。
 あんずの励ましも虚しく、翠は午前4時44分44秒、奈落佳人を呼び出したが‥‥姿見の前に立っていたのは、まさしく外見「ショタ」な少年だった。
「ボクを呼んだの、お姉ちゃん?」
「え、ええ‥‥」
「しばらくここにいさせて。ボクが満足するまで、お姉ちゃんの側から離れないから。
ボクが満足したら、お母さまに『ならくおくり』をお願いしてみるから」
(「お母さまってことは‥‥この子、奈落佳人の息子なの?」)
 翠は、一瞬驚いた。
 家に帰そうとも思ったが、送り方がわからない。
 母である奈落佳人のお迎えを待つしかないと腹を括った翠は、それまで息子を預かろうと決めた。
「キミ、名前は?」
「お姉ちゃんが考えて」
 息子がそういうので、翠は悩んだ。
「名前? うーん‥‥」
 ふと翠の頭に浮かんだのは、元彼でもある担任の豊田(藤間 煉(fa5423))のことだったので、咄嗟に「ユタカ」と言ってしまった。
 まずい、と思ったが
「『ユタカ』かぁ。それがボクの名前なんだね」
「え、ええ‥‥」
 慌てた様子を見せた翠だが、事情がわからないユタカは不思議そうに首をかしげる。


 早朝、早速お守り開始。
 昨日買ったゼリーをあげたり、余ったノートがあったのでそれでお絵描きをしたり、絵本を読んであげたりと、翠なりに頑張った。ユタカが喜んでくれているのが幸いだった。
 朝8時、この時間ならと時計を確認、少し焦った口調であんずの携帯に電話。
「あ、あんずちゃん? 朝からごめんね。今、えっと‥‥今、親戚の子を預かってるんだけど、男の子ってどんな遊びが好きなのかな?」
 子守りの経験の無い翠は、弟がいるあんずならこういう事に詳しいと思い、話を聞くことに。あんずは、子守りの助っ人を快諾し、手伝いに行くことに。
「そういうことなら任せといて! 遊び相手にうちの弟も連れて行くね」
「ありがとう」
 お守りの経験豊富なあんずが来てくれるだけでも心強い。
 安心したのか、お腹が空いたので翠は、自分とユタカの分の朝食を作った。


「こんにちはー!」
 10時頃、あんずは弟を連れて翠の家に来た。
「待ってたよ、あんずちゃん」
「その子が、預かってる親戚の子?」
 翠の側にいるユタカを見て、あんすが訊ねる。
「こんにちは、お姉ちゃん」
 あんずに礼儀正しくご挨拶をするユタカに
「初めましてユタカ君、あんずです。こっちはあたしの弟。ほら、ご挨拶は?」
 あんずに倣い、弟も挨拶をする。

「あんずちゃん達が来てくれて良かった〜」
 部屋でユタカとあんずの弟が仲良く遊んでいるが、ユタカは部屋で遊ぶのに飽きた様子。それに気づいたあんずは、天気が良いから皆で公園に行こうと提案した。
「ユタカ君、公園行こうか? ブランコに滑り台、鉄棒、砂場もあるし、お部屋よりはずっと楽しいよ」
「公園って、面白いところなの?」
 きょとんとした顔で聞くユタカに「うん」と頷くあんず。
「翠お姉ちゃん、ボク、公園に行きたい」
「それじゃ、お弁当持って行こうか」
「わーい!」
 ユタカとあんずの弟は大喜び。
 翠は手馴れた手つきでサンドイッチを作り、あんずは温かいレモンティを魔法瓶に入れて出かける準備をした。


 翠達が公園にくる数十分前。
 担任の豊田は、ホットの缶コーヒーを飲みながら友人(Zebra(fa3503))に愚痴っていた。
「翠との事は、遊びじゃなかった‥‥本気だったんだ」
 豊田と翠(名前は聞いていない)の関係をしっている友人は、聞き役に徹していた。
「うちの学校、校内恋愛禁止なんだ。生徒同士であってもな。俺たちは「教師」と「生徒」だから、バレないようにするのが大変だった。それにもう疲れたんだよ‥‥」
 やや自己防衛的な言い訳っぽく聞こえる。
「仕事だが、今春で転勤って事になった。仕事は続ける。翠との関係がバレて異動じゃなく、個人的な問題でって事で。もうすぐ、新しい学校へ転勤になる。これでもう‥‥翠に会うことも無い
 悲しげにそう言う豊田に
「同じ学校の教師と生徒、ってのが茨の道だったな‥‥。もう別れちゃったんじゃ、今からどうこうしようと思っても‥‥。とりあえず、少し時間は置くべきだろうな」
「そう‥‥だな」
 公園から立ち去ろうとした時、子供二人を連れた翠が、楽しそうに公園に来るのが見えたので、豊田は一瞬足を止めた。
「どうした?」
 と友人に声をかけられ、豊田は我に帰った。
 友人は、あ‥‥というような顔をした。翠を初めて見るが、なんとなく件の彼女だと悟る。
 豊田と翠達を交互に見ながら、逃げた豊田を慌てて追いかけていく。
「あれ? さっきすれ違った人、豊田先生じゃない?」
 あんずにそう言われても、翠は知らん顔。豊田に会うのは辛い、というのが本音だ。
 翠の隣にくっついて離れないユタカが、それを目撃するも豊田を知らないのできょとんとした顔をしていた。
 翠達が気付かれても、追いかけてくる友人が見えなくなるまで逃げる豊田。
(「今は会わない方が良い‥‥」)
 そう思いながら。


 公園に着くなり、ユタカは珍しいものを見るかのように目を輝かせた。
 仲良くなったあんずの弟とブランコに乗ったり、砂場遊んだりしてと楽しんでいるユタカを見て、翠は微笑んだ。
「翠お姉ちゃーん、一緒にお城作ろうよー」
 ユタカの誘うので、あんずは「行ってきな」と翠の背中をポンと叩く。一緒に遊んでいるうちに、翠も楽しくなってきたので、いつの間にか笑顔に。
「誘ったかいがあったもんだね」
 公園のベンチに座り、レモンティーを飲むあんずであった。

 日が暮れて、そろそろ帰ろうかと帰り支度をしている時、一人の女性が翠達の元へ歩み寄った。喜んでいる息子の姿を確認し、迎えに来た奈落佳人だ。
「あの‥‥どちらさまですか?」
 翠がそう訊ねると
「この子の母です。本当に有り難う御座います。息子も、あなたが大好きなようね?」
 ふふっと笑みを漏らしながら、母親として慈愛に満ちた表情をする奈落佳人。
 奈落佳人登場に、いつの間にか自分が奈落送りの事を忘れ本当に遊んでいたんだと気づく翠。豊田を奈落送りにするため、奈落佳人召喚という本来の目的を思い出した翠は顔を上げ、奈落送りを断ろうとしたが
「あなたは誰を奈落に送りたいのかしら‥‥? 奈落に送ってしまったら、もう二度と会えないのよ、それでも良いのかしら‥‥?」
 翠に話す隙も与えず、奈落佳人が言う。少しの間を置き、翠は
「辛い‥‥でも私、彼が好きだった。苦し過ぎて、自分の気持ちまで見失いかけていたくらいに。すごく好きで、だから辛くて。でも辛いだけの恋愛じゃなかった‥‥」
 奈落佳人の言葉から、翠が奈落佳人を呼び出したのだとあんずが気づくが、何も言わなかった。
 翠の率直な意見を聞き、奈落佳人は
「本来ならやってはいけない事ですが‥‥息子の恩がありますし、そんな酷い方には見えませんわ‥‥。今回は特別よ? 奈落送りは無しにするわ‥‥」
 と奈落送りを解消した。と言ったものの、困ったことが。
「契約を取り消したのはいいのですが‥‥困ったわね‥‥。そうだわ!」
 手をぽむ! と叩き、公園のゴミ全部を奈落送りにしてしまった奈落佳人。
「お母さま、奈落はゴミ箱じゃないよ!」
 ユタカに注意されても、奈落佳人はまだゴミ捨てを続けている。

 翠の様子に心情を察したあんずは、何も言わず、泣いている翠をそっと抱き寄せた。
 あんずの肩を借り、翠は涙を流す。
「『好き』という自分の気持ちを大切に出来て良かった。ありがとう、あんずちゃん」
「うん、翠はひとりじゃない、あたしがいるじゃない」
 励ましてくれたあんずから離れ、涙を拭った翠は笑顔で
「ありがとう、ユタカ君。ユタカ君に会えたから、自分の本当の気持ちを思い出せたわ。元気でね」
「翠お姉ちゃんも、あんずお姉ちゃんも元気でね。お母さまがお迎えにきたから、ボク、奈落に帰るね。バイバイ」
 ユタカは無邪気に手を振った後、奈落佳人と手を繋ぎ、夕陽に溶け込むように消えた。
「泣いたらお腹空いちゃった」
 気分がスッキリしたのか、翠がそう言い出した。
「女の子はタフじゃないとね。じゃ、弟を一旦家に帰してから二人で何か食べにいこうか?」
「うんっ!」
 
 二人は「何を食べに行こうか?」と笑顔で話しながら歩いていった。