唱・奈落佳人〜弐アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
7.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/01〜03/05
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●本文
「奈落佳人って知ってる?」
午前4時44分44秒に奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。
中高生の間で広まっている都市伝説‥‥であったが、20代以上の若者、更には壮年世代の間でも有名な噂話になっているが、時にはくだらないことが起きることもあるようで‥‥。
<シーン1>
とある大会社の社長は、秘書との不倫が妻にバレてしまい大変困っていた。
現在、泥沼離婚調停中である。
妻を殺害するしかない、と思った社長の耳に、廊下ですれ違った女子社員の話題が耳に入った。言うまでもなく、奈落佳人の話だ。
容姿、姿見の前での呼び出し方等の話をしていたが、話のオチは
『奈落佳人は歌を聞くのが大好きなんだけど、採点者同伴で来るんだって。でね、歌が気に入らなかったらハリセンでとづいて帰ってしまうんだって』
だった。
妻を始末するには丁度良いと考えた社長は、何を歌おうか早速考えた。
午前4時44分44秒、社長は姿見の前で歌い始めた。
<シーン2>
デビューすべくレッスン中の歌手の卵は、とても厳しい講師である作曲家を憎んでいる。
歌には自信があるのに、どこがいけないとか‥‥。
気晴らしにと、大型ショッピングモールに出かけた時、休憩所でたむろしている女子高生達が奈落佳人の話をしていた。
その噂が本当なら、憎い作曲家を奈落送りにできるかもしれないと思い、現れる時刻に実行することにした。
<シーン3>
音楽コンクール出場は間違いなしと思われた合唱部所属の女子高生は、同じ部に所属している親友に出場権を奪われた。
その日以来、二人の仲はギクシャクしている。
「頑張ってね、私、応援するから」
心にもないことを言うのを疲れた女子高生は、ネットで知った奈落佳人の噂を思い出した。
<シーン4>
可愛がっている甥から奈落佳人の話を聞いた伯父は、その話が本当なのか試してみることにした。奈落送りにしたい相手はいない。どうやら、喉自慢大会と勘違いしている模様。
クラシックギターを得意とする伯父が選んだのはどんな曲なのだろうか。
●登場人物
奈落佳人:午前4時44分44秒に現れるという中華風衣装を身に纏った謎の女性。
蒼嵐:佳人の部下で、甲冑を身に纏った古風な口調の武将。鉦つきとして参加。
社長:依頼人その1。40代前後の男性が望ましい。
歌手の卵:依頼人その2。性別不問。10〜20代が望ましい。
女子高生:依頼人その3。合唱部所属。綺麗な歌声の持ち主。
伯父:依頼人その4。クラシックギターが得意。
※依頼人以外は、一人二役も可能です。
※上記以外の人物の設定はお任せします。
※歌の採点は、依頼人役と佳人役が話し合って決めてください。
※持ち歌は必ずオリジナルであること。歌詞は長くても100〜200字程度で。
※佳人様は演歌、ロックが大嫌いで、クラシックは苦手です。
使用されたい場合はポップス調にアレンジし、オリジナルの歌詞を作成してください。
●リプレイ本文
●一番:会社社長
大会社社長(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))は、経営手腕、頭脳明晰とお世辞でも言えぬその場の状況に流され、極端な行動に走りがちな人物だ。。
気に入って側に置いている秘書(アイリス・エリオット(fa5508)) と不倫関係になり、どうしたものかと考えているうちに妻にバレ、事態は泥沼化。
秘書は、普段はビジネススーツをビシッと着こなした「優秀な秘書」と言った雰囲気を醸し出すクールな女性だが、社長の前ではお淑やかに振舞う。
(「社長の奥さんになれば一生楽出来るわ‥‥」)
と言う魂胆での付き合いだったがいつの間にか社長にゾッコンで、公私共に社長に尽くしている。
半ば逆ギレ気味に物騒なことを考えていた社長は、女子社員が話していた奈落佳人の噂を聞き、呼び出しを実行することにした。
午前4時44分44秒。
社長は、会社の社長室で自らの気持ちを正直に表した暗めの曲を歌った。端から聞くと単なる身勝手な言い訳になるが。
かつては澄んでいた お前の心の奥
今はもう見えぬのは わしの目のせいだけか?
愛が冷めているのは わし一人のせいだというのか?
「あらあら、修羅場かしら」
青地に銀糸のロングチャイナドレスを纏った奈落佳人(橘川 円(fa4980))は、温厚な表情で茶々を入れる。
「渋いおじさま♪ お姉様、私、行きたい」
奈落佳人の妹(姫乃 舞(fa0634))が姉におねだり。
「ええ、いいわよ」
「じゃ、行ってきまーす!」
姉に手を振り、妹は社長の元へ。
凍えかけた男が 温もりを求め
渡り鳥のように 渡りゆくのは罪なのか?
それを罪と呼ぶなら わしはただ凍えるしかないのか?
熱唱中の社長の前に置かれている姿見から登場したのは、妹佳人と鉦撞きの部下、蒼嵐(美日郷 司(fa3461))。妹は、身勝手な男の言い訳じみた歌詞に表情を険しくする。
「奥さんがいるのに他に女性がいるの? 渋いと思って損した!」
鉦の代わりに、蒼嵐の懐に入っていた携帯からベル音が。
妹佳人は蒼嵐から携帯を受け取ると、社長の妻に「社長さんがね‥‥」と自分達を呼び出した事を通報。
「奥方が、貴様と話をしたいそうだ」
蒼嵐が社長に携帯を手渡す。
社長は、妻に慰謝料増額を請求された。離婚調停の件で騒ぎが大きくなれば、社長の座が危うくなり、秘書にも逃げられるかもしれない。
「誰かを想う事は自由だけど、きちんと方を付けてから新しい恋人を作るのが大人の恋愛のマナーだよ!」
妹佳人と蒼嵐の姿が消えると、いつの間にか社長の足下に落とし穴が出来た。社長は落ちないよう、必死で床を掴んだ。
翌朝、何も知らない秘書が社長室へ。
「おはようございます、社長‥‥あら?」
社長の姿が見当たらないのでどうしたのだろうと思っていたら
「た、助けてくれー!」
高級絨毯の下から、社長の助けを求める声が聞こえた。
「しゃ、社長!」
秘書は社長の手を掴み、懸命に彼を引き上げた。
どうかなさったのですか? と秘書に訊ねられた社長は、奈落佳人に妻を奈落送りにするよう依頼したが、手段が失敗したと話し始めた。秘書はそれに関して一切触れず、社長をサポートする決意を固め、改めて社長への想いを告げた。
「例え何があっても、私は、いつまでも社長のお側に‥‥!」
「そうだな。お前さえいてくれるなら、もう何も怖くはない」
最後はひしっ! と抱き合う二人だった。
●二番:歌手の卵
「あの人、どうして僕にばっかり厳しく当たるんだよ。きっと僕の事が憎いからなんだ」
まだ若いため、デビューまでの厳しさを理解できない倉橋颯(倉瀬 凛(fa5331))は、作曲家を奈落送りにしようと、曲が録音されたテープをラジカセにセットしてスタンバッていた。
楓は音感は良いが、発声の技術が未熟だ。それを自身では自覚出来ていない故の逆恨みもあるが、自分の実力試しにもなると実行を決意した。
午前4時44分44秒、楓は歌い始めた。
あの日あの時 優しく声を掛けてくれたね
きっと君にとっては すぐに忘れてしまう位
何気ない出来事
でも君の一言が
どれだけ僕に 勇気を与えてくれただろう
そのたった一言が 心の中で輝き続ける
僕の大切な 煌めく宝石
現れた姉佳人は楓の歌を聞いた後、目を輝かせ
「歌詞はともかく曲はとても素敵だわ!」
と拍手したが、楓は複雑な表情に。
姉佳人がどうかしたの? と訊ねると、
「この曲を作った作曲家、僕の講師なんだけど、厳しすぎるんだ。僕にばかり辛く当たって。きっと僕をデビューさせたくないからなんだ」
「それは貴方の為を思っての事よ。こんなに素晴らしい曲を作れるのだから、真摯にご指導なさっているのよ、先生も」
菩薩のような微笑で諭す姉佳人の隣で、うんうん、そうだよねと相槌を打つ妹佳人。
「僕が憎いんじゃなくて、デビューさせたいからこそ厳しく指導してくれてたんだ。僕、これからも頑張るよ、有り難う」
決意を新たにする楓だったが
「でも歌は全然駄目ねぇ」
と姉佳人は溜息混じり言い、更に
「曲はいいのにどうしてなのかしらね。不思議だわ」
と追い討ちの駄目出し。
「私も同感」
がっくりと項垂れる楓を残し去った姉佳人の後に言った妹佳人の言葉が、楓にとどめを刺した。
「何か色々あるようだが‥‥」
無表情かつ無情に鐘を打つ蒼嵐が鳴らした鐘の音ひとつが虚しく響いた。
●三番:女子高生
楠瀬朋美(榛原絢香(fa4823))は、歌が何より好きで負けず嫌いだが、根は優しい子だ。親友にコンクール出場の座を奪われたが、彼女なら仕方ないかと諦めた。
建前の友情に疲れた朋美は、奈落佳人呼び出しを決意。
将来歌手になった時にと準備した白地に大きなピンクの水玉模様のミニワンピース、ベルトに赤のハートマーク、緑色のタイツにベルトとお揃いの赤いパンプス、黒髪ウィッグに宝塚風メイクで挑む。
ラジカセからは、ウィンドウチャイムが鳴り響いたり、陽気なコーラスが随所に盛り込まれた明るい曲が流れる。
「合唱部仕込の歌唱力、見せてあげるわ!」
夢色のメリーゴーランドをあなたと
ふたりだけのミラクルワンダーランドへ
流れ星があなたの目にキラリと輝く
私はそれに投げKISSを贈るの☆
さぁ一緒に踊りましょう ランラララランラ♪
「あー思いっきり歌ったらすっきりしちゃった♪」
と安心しきったところに、姉妹佳人が綺麗な歌声に喜んで出て来きが、歌詞や衣装のセンスの古さを見て目が点になり
「こっちは歌はいいけれど」
「全体的なセンスがね…」
と話し合っている。
「歌はいいんだけど‥‥」
う〜んと首を捻る姉。
朋美に同情の視線を向け、目にうっすら涙すら浮かべながら妹は
「あなた、苦労しているでしょ? 強く生きてね」
朋美の手を握り、妹佳人が励ます。
「今度、お友達と一緒にお洋服を買いに行ってみたりするのはどうかな。技術を磨く事も大切だけど、色々な経験をして、感受性を豊かにする事も歌う為には必用なの」
とアドバイス。
「声は綺麗なんだから、頑張ってね」
と激励して消える。
蒼嵐は、鐘を二つ鳴らしながら「佳人殿も楽ではないな」と呟いた。
抑揚も声量も音程も完璧だが、センス皆無に無自覚な朋美は「何で!?」と泣いた。
●四番:伯父
甥から奈落佳人の話を聞いた伯父(ハディアック・ノウル(fa0491))は、本当にいるのかどうか召喚してみることに。
クラシックギターを弾きながら、伯父は歌い始めた。
戦上手は 下手に見せ 戦いながら 戦わず
されどもその胸に 夢と栄えある未来を秘め
ただ進むのみ 我が望む道を
歌い終えた伯父の前に現れた姉佳人は、首を傾げつつ
「正直、好みかといえば違うのよね。でも今までの中では、及第点というところかしら」
姉佳人は、蒼嵐に合格の鉦を鳴らすよう指示すると、無表情ながらも、蒼嵐は楽しくたくさん鉦を鳴らした。喜んで手を叩く妹佳人。
誰を奈落送りにするのかと伯父に訊ねると
「甥のために、貴女のサインが欲しいのですが‥‥」
それに対しての姉佳人の反応は
「ああ、肩が凝ったわ。マッサージに行きましょうか」
呆れた表情で去っていった。
「お姉様、私も行くー」
と妹佳人も姉に続き去っていった。
●五番:蒼嵐
「ふぅ、今日もお仕事頑張ったね」
「そうね」
姉妹佳人が話をしていると、蒼嵐が歌を歌い出した。先程、鉦をたくさん鳴らした際に思いついた曲らしい。
曲は『奈落直行便』、伴奏は鐘‥‥というのがアレだが。
あなたと落ちたい奈落の果てに
でも佳人は今日も落とせない
昨日も明日も明後日も
いつかきっと奈落直行便
コブシの聞いた演歌だったので、美しい微笑を浮かべていた姉妹佳人の表情が一変。
「蒼嵐‥‥私達が演歌が大嫌いなこと、知っているわよね?」
青筋浮かべ、絶対零度の視線で青嵐を見下ろす姉佳人。
「全っ然駄目!」
キッと蒼嵐を睨み、カーンと思い切り鉦をつく妹佳人。
「奈落が貴方にお似合いよ!!」
と姉妹佳人は、ダブルパンチで蒼嵐を奈落送りにしてしまった。
「な、何故俺ばかりがこんな目に‥‥!」
蒼嵐は、奈落送り最中にそう呟いた。
奈落佳人の好みを知り尽くしていながらも、演歌を歌った蒼嵐の自業自得としか言いようがない。『キジも鳴かずば撃たれまい』とは、まさにこのことであろう。
あなたも、奈落佳人と蒼嵐が審査員の喉自慢に参加してみますか‥‥?