奈落佳人〜仇〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
20.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/24〜03/29
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●本文
「奈落佳人って知ってる?」
午前4時44分44秒に、奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。
中高生の間で広まり、今では老若男女問わず知られている都市伝説であるが、その噂は本当だった。
●
某大学の文学部史学科の学生、理沙は不倫関係にある史学科の助教授、森崎に大切な話があると屋上に呼び出された。
彼から持ちかけられたのは、別れ話だった。
「悪いが‥‥私と別れてくれ。君との関係が妻にバレてしまった。今までのことは‥‥無かったことにしてくれ‥‥」
付き合い始めた当初は、周囲から見ると生徒と助教授が普通に親しくしているような関係であったが、それは次第に深まり、いつしか肉体関係を持つようになった。
「そ、そんな‥‥」
森崎にはまだ打ち明けていないが、理沙は彼の子供を身篭っていた。
「わかってくれ、理沙。私の将来もかかっているんだ」
大学の学長の娘である現在の妻と結婚したおかげで、森崎は今の地位を手に入れ、安定した将来が約束されている。
「助教授‥‥今まで黙っていましたが、私のお腹の中には、あなたの子供がいるんです‥‥」
「な‥‥!」
理沙の告白に、森崎は驚きを隠せなかった。
その翌日、理沙は屋上から飛び降りて自らの命と子供の命を絶った。
●
看護師である理沙の親友、明日香はそのことを知りショックを受けた。
理沙から、彼(森崎のことであるが、名を伏せていた)に関する相談を何度も受けていたので、自殺の理由は見当がついていた。
理沙の葬儀に参列すれば、付き合っていた男が誰かわかるかもしれないと思った明日香は、男性参列者をひとりひとりじっくりと見た。それから数分後、御焼香の最中にも関わらず大泣きしていた30代半ばの眼鏡の男がいた。
葬儀の翌日、明日香は理沙の母に焼香中に泣いていた男について聞いた。
「あの方は、文学部の助教授の森崎先生ですわ。理沙とは親しい関係にあるようですが、お通夜やお葬式の席でそのようなことを聞くものではないと思い、黙っていました」
その話を聞いた明日香は、理沙は森崎に振られたショックで飛び降り自殺したということがわかった。
●
恋の怨みを晴らしてくれるという「奈落佳人」の噂を知っていた明日香は、午前4時44分44秒に姿見の前で祈った。
(「お願い、来てちょうだい。理沙の無念を晴らして!」)
その思いに共鳴したかのように、仙女のような中華風衣装を身に纏った奈落佳人が姿を現した。
「私を呼び出したのはあなたですね‥‥。恋をしていないあなたが、何故私を呼び出したのですか?」
そう問われた明日香は、親友・理沙の無念と恋の怨みを晴らしたいと訴えた。
「‥‥わかりました。代理人として、怨みを晴らすことを認めます。恋の怨みを晴らす代わりに、対価をいただくけど‥‥それでも構いませんか?」
対価は何かわからないが、明日香はそれでも良いと了承したのを確認した奈落佳人は、ある物を手渡した。
●
満月の光に照らされている東屋。そこの中央にある水鏡で様子を窺っていた中華風甲冑を身に纏った古風な口調の武将・蒼嵐。
「佳人殿は、死した女人の怨みに共感したのであろうか」
そう呟いた後、奈落佳人が戻ってきた。
「おかえりなさいませ、佳人殿。ひとつお聞きしたい。何故、あの女人の依頼を引き受けられたのか」
目を伏せて俯いた奈落佳人は、何も言わなかった。
「以上が、今回の『奈落佳人』の粗筋です。明日香の対価、奈落佳人が手渡した奈落送りの合図の品、森崎をどのようにして奈落送りにするかは、出演者の一考に任せようと思います」
脚本を書いた輪島珠洲は、監督にそう説明した。
「出演者が演出も兼ねる‥‥か。一歩間違えば失敗だが、上手くいけば大成功だろう。キミの意見、取り入れさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
珠洲の賭けは吉と出るか、凶と出るか‥‥。
<登場人物>
奈落佳人:恋の怨みの相手を奈落送りにする謎の女性。
蒼嵐:佳人の部下でかつては名を馳せた武将。古風な口調。佳人を「殿」付けで呼ぶ。
明日香:依頼人。親友の無念を晴らすため、奈落佳人を召喚。
理沙:明日香の親友で、大学の屋上から飛び降り自殺した。
森崎:ターゲット。理沙と不倫関係にあった助教授。
※その他の配役の設定はお任せします。
●リプレイ本文
セーラー服にお下げ髪のストーリーテラー(美森翡翠(fa1521))が、薄闇の下校風景の中を歩きながら奈落佳人について話し出した。
「午前4時44分44秒に奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。 良く知られている都市伝説‥‥と思われていますが、この噂、本当なんですよ。既に後継者持ち、召喚に供え物が必要という説もありますが‥‥本日はそのうち一つに絡んだ話です。そのお話を、これから始めようと思います」
ストーリーテラーがお辞儀をすると、辺りは急に暗くなった。
明るくなった頃、舞台は人混みから学校の屋上へと変わっていた。
●
某大学の屋上にいるのは、文学部史学科の学生、理沙(楊・玲花(fa0642))と、助教授である森崎(小野田有馬(fa1242))の二人しかいない。
大切な話があると、森崎は誰もいない時間帯に理沙を屋上に呼び出したのだ。
森崎が切り出したのは、別れ話だった。
妻に不倫がバレてしまったので、今の地位を失うことを恐れてのことだ。妻の父は、この大学の学長だ。妻との結婚により、森崎が助教授の座を手に入れた。
そんな彼を翻意させる為、理沙は妊娠を告白するも、期待は裏切られた。それを告げられた森崎は激しく動揺し、理沙と視線を合わさず、絞るように
「認知できない‥‥」
と伝え、堕胎を迫った。
堕胎を勧められ、森崎の二重の裏切りに自暴自棄になった理沙は、翌日、大学の屋上から身投げし、自らの命と子供の命を絶った。
「彼女にとんでもない事を言ってしまった‥‥」
と後悔している森崎は、理沙が投身自殺したことを知らない。
もう一度話し合おうと携帯を取り出したところ、学内が騒いでいるのに気付き、その場所に向かった。
そこには‥‥血に塗れた理沙の死体があった。
●
理沙の親戚、明日香(楊=二役)は、そのことを知りショックを受けた。
彼との関係について何度も相談に乗ったことがあったので、自殺の理由は見当がついていた。
その男は、今日の葬儀に来るはずと睨んだ明日香は、御焼香の参列者をじっくりと見た。その中で特に怪しいと思ったのは、葬儀の最中にも関わらず大泣きしていた30代半ばの眼鏡の男だった。
そんな彼を宥める森崎の同僚の山田(朝守 黎夜(fa0867))と、理沙の同期生(虎真(fa0862))。
「森崎先生、落ち着いて!」
不倫の噂を知らない山田は、森崎の肩を掴んで落ち着けさせ、同期生は、お見苦しいところをお見せしましたと参列者達に謝った。
(「森崎‥‥あの男が、理沙を自殺に追いやったのね。許さない!」)
明日香の心の中は、森崎に対する復讐で燃えていた。
葬儀後、明日香は理沙の部屋に行き、机の上に置いてある日記を見付けた。
そこには、森崎が恋人だった事、森崎の子供を妊娠していた事が明確に記されていた。
「どうしたら‥‥どうしたら理沙の怨みを晴らせるの‥‥?」
あまりの悔しさに、明日香は泣き出してしまった。
「ここにいたのか」
同期生が、明日香に伝えたいことがあると探していた。
「明日香さん、『奈落佳人』の話をご存知ですか? その人物を呼び出せば、恋の怨みを晴らしてくれるらしいですよ。と言いますが、若い子の間で流行っている都市伝説なので本当かどうかは定かではないですが」
午前4時44分44秒。
明日香は「理沙の怨みを晴らして!」と力強く願いながら召喚した。
●
明日香に召喚された左右色の違う瞳をし、右目を長い髪で隠した白い仙女風の衣装を身に纏った妙齢の女性、奈落佳人(橘・朔耶(fa0467))は、奈落送りの詳細を説明後、金色の鈴のついた根付を渡すとこう言った。
「この鈴を鳴らせば依頼は成立し、貴方の憎い存在を奈落へ送る事になりますが‥‥対価を支払ってもらいます。それは‥‥」
奈落佳人が要求した対価は「二度と子供を作る事が出来なくなる身体」だった。
そう聞かされても、明日香は意志を曲げず、奈落佳人が差し出した鈴付きの根付を貰う。
場が暗転すると、ストーリーテラーが現れ、説明した。
「奈落佳人に依頼する者の対価は、その時その時によって変わります。今回の依頼人は、子供が産めない身体、のようですね」
場所は変わり、満月の光に照らされている東屋。
そこの中央に位置する水鏡にて、蒼嵐(神楽坂 紫翠(fa1420))は 様子を窺いながら
「珍しい事もあるものだ。あの死した女人の恨みに共感したのだろうか?」
と考えていた。
明日香の依頼を引き受け終えた奈落佳人が戻ってくると「お帰りなさいませ、佳人殿」と出迎えた。
「佳人殿、ひとつお聞きしたい。何故、あの女人の依頼を引き受けなさったのです?」 蒼嵐が尋ねるが、奈落佳人は何も答えず、無言で寂しげに水鏡の中に視線を落とした。
●
翌日、明日香は従姉妹の理沙と顔が似ている事を利用して仕事を休み、森崎に直接会う為に理沙の服を着て、理沙のような化粧を施して、理沙になりすまして大学へ向かった。
その頃、森崎は山田と史学科の資料室で会話をしていた。文学部校舎のどこに森崎がいるのかわからず、明日香は学内を探していた頃、声が聞こえる場所に聞き耳を立て、誰がいるのかを確認。
「理沙にも‥‥妻にも申し訳ない‥‥」等と呟くが、森崎を探して学内を探索していた明日香には「理沙にも」の部分が聞きとれなかった。
資料室から出てきた山田を避け、理沙を冒涜するような発言をした森崎に明日香は怒り、根付の鈴を鳴らした。
「許さない! 理沙の無念を晴らす為ならあたしはどうなったっていい! ‥‥奈落佳人、あたしの願いに応えて!」
鈴が鳴り響くと同時に、森崎は暗転した異世界に連れ込まれた。
「何だ!?」
とうろたえる森崎に、奈落佳人は血を流しながら嘆く亡き理沙の姿に変化し、彼の元へじりじりと近づいた。
「り、理沙!?」
理沙の名を叫び、驚愕の表情で膝から崩れ落ちた森崎は、恐怖のあまり
「すまない、私が悪かった! 許してくれ!」と繰り返しながら額を地面になすり付けて謝罪する。
元の姿に戻った奈落佳人の左目が光った。奈落送りを実行する合図だ。
「罪なき女人を傷つけ悲しませ、利己を求める救い無き愚者よ‥‥奈落へお逝きなさい」
その時!
「待たれよ!」
奈落佳人の目の前に現れたのは、黒い仙人のような衣装を身に纏った男だった。
気取られることなく、ストーリーテラーが現れ、男の説明を始めた。
「彼の名は『月天夜話』。奈落佳人の行動を監視に、彼女が行き過ぎた行為をすれば自らの意思で出現し、対照となる銀の鈴を鳴らして、ターゲットを一度だけ奈落送りにしないことができます。何故、彼が彼女の力を阻害できるのかは‥‥また別の物語で」
月天夜話は、奈落佳人に森崎の懺悔を聞くよう説得し始めた。
「佳人よ、お主は罪を悔やむ者すら奈落送りにしようというのか? そこの男、わしとて亡き娘の無念が分からぬわけではない」
懺悔心のほうが強くなり、月天夜話が庇ってくれても、森崎はそれを受け入れずに死を望んだ。
「すまぬ。少しばかりの仕置きでどうか。これで溜飲を下げてくれ‥‥」
「いいんだ‥‥私は、死を持って償う‥‥。それで理沙が許してくれるとは思わないが‥‥」
自らの命で罪を償おうとする森崎を、奈落佳人はじっと見ていたが
「判りました‥‥月天、貴方に免じて彼を許しましょう」
奈落佳人は、森崎を奈落送りにはせず、依頼不履行の為、今回は明日香から代償をもらう事はしなかった。
「明日香とか言ったか‥‥。理沙とかいう娘と似ているな‥‥」
月天夜話は、去り際にそう呟いた。
●
資料室に戻った森崎は、現実に戻ってこれたという実感が無いまま懺悔し続けていた。
「君が許してくれるなら‥‥いや、君が少しでも救われるなら‥‥私が言えた義理じゃないが‥‥何でもするよ、理沙‥‥」
「その話、本当ですね。森崎助教授‥‥」
「‥‥!!」
森崎は呆然と顔を上げると、そこには‥‥死んだはずの理沙が立っていた。
錯乱状態に近い森崎には、理沙と明日香の区別が全くつかなかった。
理沙に変装した明日香に、自分と理沙の関係を全て話した。
(「奈落佳人は、報酬を受け取ってくれたのかしら‥‥」)
奈落佳人が森崎を奈落送りにしなかった事を知らない明日香は、心の中でそう呟いた。
数日後。森崎は辞職し、妻と離婚。
教え子の不倫関係、妊娠させたうえ自殺に追い込んだことを世間に公表し、社会的制裁を受けることに。
地位も、名声も、己の過ち故に失ったが、森崎は一切後悔しなかった。
「ターゲットの森崎が反省しているという佳人の結論で、明日香は対価を払う事はありませんでした。森崎にとっては、現状の方が堪えているかもしれませんね。奈落行きを希望した彼がそうなったら、明日香は、奈落送りの決断を後悔したでしょうか‥‥? 今となっては、仮定の話ですけれど。貴方は、奈落佳人に晴らして欲しい恋の恨みがありますか? 人を呪い、己の未来を狭めてまでも晴らして欲しいですか?」
ストーリーテラーが歩き去る際に鞄から黒の携帯電話が覗き、ストラップの金の鈴が揺れた。
チリン‥‥と鈴が鳴り響く。
●
「カーット! 皆、お疲れ様」
監督は、タオルで汗を拭きながら出演者達と話をしている橘に声をかけた。
「橘くん、良い演技だったよ。キミ、女優になる気はないのかい?」
その誘いに「考えてみます」と橘は苦笑しながら言った。