縁結美神〜桜咲くかな?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/01〜04/05
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●本文
ごく普通の高校生、御神(みかみ)むすび。
その正体は、見習い縁結びの神、縁結美神(えんむすびのかみ)。
縁結びの仕事を怠ったため、住処である『縁結び神社』の主祭神、愛染明王神に108人の縁を結びまで戻ってきてはならぬ、と一時的に追放された身だ。
●
むすびの努力の甲斐あり、縁結びは残りあと84人となった。
そんな彼女は高校2年生に進級し、新入生達にとっては、初めての『先輩』となる。
入学式会場準備をしながら、どんな子達が入学するんだろうとむすびはワクワクした。
「御神さーん、椅子足りないから持ってきてー」
「はーい」
準備の大変さも何のその、むすびは大張りきりだ。
翌日、入学式は滞りなく終わり、各クラスの担任紹介が始まった。
「A組の担任は、数学担当の桐生綾人先生です」
生徒達に拍手されている最中、むすびは見た。初めて担任になるということもあり、緊張している桐生の小指に赤い糸が結ばれているのを。相手は、最前列にいる1年A組の女の子だ。
女の子は、背が低い生真面目そうな印象がある。好きな異性がいても、告白などできないだろう。
(「あの子、桐生先生に恋したんだ。そして‥‥彼と結ばれる運命に」)
「どうしたの? むすびちゃん」
真後ろにいるクラスメートの松沢沙織が声をかけられたことで、むすびの思考は一旦ストップ。
「桐生先生が担任になった1年生の子達が羨ましいなぁ〜って思っただけ」
今回の仕事は、初めて担任となる教師と、その生徒になる生徒の縁結び。
むすびは、二人を結びつけることができるのだろうか‥‥。
その様子を、縁結び神社の主祭神・愛染明王神は鏡越しに窺っていた。
「初めて恋をした少女の恋愛成就‥‥。今回の縁結びは難しくなるでしょう。縁結美神、それでもあなたは赤い糸を結ばせ、恋愛成就しなければならないのですよ‥‥」
<登場人物>
御神むすび:本名・縁結美神(えんむすびのかみ)。見習い縁結び神。
108人の縁を結ぶ(復縁含む)まで神社に帰れない。
新入生:むすびが通う高校に入学した少女。担任に恋心を抱く。
桐生綾人:新入生の担任。彼女とは赤い糸で結ばれている。
松沢沙織:むすびの友人。世話焼きタイプ。
愛染明王神:縁結び神社の神様で、むすびの保護者的存在。むすびを監視するだけの存在。
※上記キャスト以外は自由に設定してください。
※むすびの縁結び神力(魔法のようなもの)は、むすび役の役者が考えてください。
※むすびは外見18歳以下の女性が望ましいですが、少女に扮することもできれば男性も可です。
※新入生の少女は、身長150センチ以内であれば年齢不問で演じることが可能です。
●リプレイ本文
4月某日。雲ひとつない晴天、満開の桜。
このような好条件のもと、御神むすびこと縁結美神(ヒカル・ランスロット(fa4882))が通う高校の入学式が行われた。
(「ふぁ〜‥‥校長先生の話、超なが〜い。愛染明王神様のお説教並みね‥‥)」
その頃、『縁結び神社』の主祭神、愛染明王神(天音(fa0204))がくしゃみをした。
「誰かが、わたくしの噂でもしているのでしょうか‥‥? さて、縁結美神の様子はいかがかしら」
神社の御神体である鏡に触れると、入学式の様子が映し出された。場面は、各クラスの担任が紹介されるところであった。
「では、各クラスの担任をご紹介します」
山本さえ(都路帆乃香(fa1013))が、A組から順に担任となる教師の紹介をはじめた。
「1年A組は、数学担当の桐生綾人(河辺野・一(fa0892)) 先生です」
緊張のせいか、綾人は左右同時に腕と足を動かしてながら生徒の列の前に立ち、固くなりながら礼をした。教師生活2年目、23歳の彼にとっては、初めて受け持つ生徒達である。新入生達は、近所の優しいお兄さんを見るような感じで綾人を注目していた。
その時、むすびは綾人の小指に赤い糸が結ばれているのが見えた。結ばれている先を辿ると‥‥相手は、1年A組の女子、玄希(武田信希(fa3571))だった。
今度の縁結びは、綾人と玄希の縁結び。教師と生徒という立場にある二人の縁を、むすびは無事結べるのだろうか。
●
それから1週間が過ぎた頃には、新入生達は学校に馴染んできた。
「桐生先生、おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
教え子達の挨拶は基本、という考えの綾人は、今日も笑顔で挨拶した。
「おはようございます、桐生先生。だいぶ慣れてきたようですね」
同僚ではあるが、担任としては先輩であるさえが、安心した様子で挨拶した。彼女は、色々と気に掛けて様子を見ていたり、アドバイスをしてくれたりする綾人にとってとても有難い存在だ。
「そんなことはないですよ。生徒の名前を覚えるのが精一杯で、どんな子までは把握しきれていませんから」
その頃、新入生達の様子をむすびと共に登校ながら見ていたた松沢沙織(☆島☆キララ(fa4137))は「私達、先輩になったんだね」と実感していた。そんなむすびだったが、ある一年生の事を気にしている様子。
「むすびちゃん、どうしたの? あの子知ってる子なの?」
「どこかで見たことあるなぁ‥‥と思って。気のせいかも」
咄嗟にそう答えたむすびだったが、どうやって赤い糸を結ぼうと考えていた。玄希に近付き話を聞き出すか、などと方法を色々策を練ったが、思うように効果的な手段が得られない。
同時刻の1年A組。
「どうしたのぉ? 玄希ちゃん。元気ないじゃぁん。あ、今のはシャレじゃないよぉ。信じてねぇ。もしかして‥‥誰かに恋してるのかなぁ?」
玄希に元気一杯に話しかけるのは、クラスメートの花咲リサ子(花田 有紗(fa3584))。
「ま、まぁね‥‥。うち、恋愛経験ないから、恋がわからないんだ」
「でぇ、お相手はぁ、誰かなぁ?」
相手が綾人だとは言えないので、玄希はサッカー部にいるカッコイイと誤魔化した。
「ふぅん‥‥。ハナはぁ、あまり恋とは無関係だからぁ。ねぇ玄希ちゃん、縁結びの神社があるのぉ、知ってるぅ? そこでぇ、恋がぁ成就するようにぃ、お祈りとかしちゃわなぁい?」
どうしようかな、と玄希は躊躇ったが、リサ子は放課後、そこに行こうときかないので仕方なく行くこととなった。普段からリサ子が元気一杯で恋とは無関係なので、失礼なことを言うことがあるが、悪気があってのことではない。
●
「はぁ‥‥やっとで授業が終わりましたね‥‥」
職員室の自分の机につくなり、綾人は思いっきり背伸びをした。
初めての担任、先輩教師や授業や学校のことはさえに相談をすれば良いが、生徒との関係を良好に保つことは、相談のアドバイスだけでなく、自分でも考えなければならない。
綾人は、自分が受け持つクラスの生徒の気持ちに気がついていた。
(「あの子とは初めて会ったのに、あの時何でときめいたんだろう?」)
職員室の薄汚れた天井を見ながら、そんなことを考えていた。
「桐生先生、どうかしたんですか? 悩み事があるような顔されているようですけど」
隣の机につき、学級日誌を見ていたさえが声をかけた。
「実は‥‥」
綾人は、生徒の中に気になる子がいると相談を持ちかけた。
その生徒は、最初はただの憧れか、担任である自分を頼り、頼られている関係化と思ったが、その子は顔を赤らめ、綾人自身は身体が火照るような熱さが続のが長い。生徒のほうは、まだ多感な時期なのですぐに冷めるだろうと綾人は思った。
「私が思うに、それは初めての担任として生徒と共に成長していく過程で、生徒の気持ちに気がつくような感じになったんでしょうね」
「そ、そうでしょうか‥‥?」
顔を赤らめ、さえを見ながらしどろもどろに言う綾人。
「私は、教師と生徒がお付き合いしても良いと思います。不順異性交遊と言う先生方もいらっしゃいますが、教師と生徒という立場であっても、男女であることは変わりないんですから。とても気になるのなら‥‥その子に会って、自分の素直な気持ちを打ち明けては?」
さえの言葉に何かをふっきった綾人は、慌てて職員室を出て行った。
今、はっきりと気付いたのだ。ある生徒‥‥玄希を異性として意識していたことを。
●
放課後、リサ子の案内で玄希は縁結び神社に向かっていた。
「もう少しだからねぇ。この近くにぃ、ハナの家があるのぉ。遊びにこなぁい?」
「う、うん‥‥」
(「げっ! あの2人、うち(縁結び神社)に向かっているじゃない! どうしよう‥‥あそこに入られたら完全にアウトだよ‥‥」)
玄希の後をこっそりつけていたむすびは、神社に入る前になんとかしないと! と2人の前に姿を現した。
「ん? ハナ達の先輩かなぁ? 突然出てきてぇ、何の用ですすかぁ?」
玄希が気弱そうな態度を取ったので、リサ子が気丈に彼女を庇った。
「私は2年の御神むすび。あなたの後ろに隠れているその子にちょっと話があるの。いいかしら、えと‥‥」
名前を知らないので、呼びようがない。
「玄希ちゃん、先輩ほっといて行こぉ」
むすびを無視して神社内に入ろうとするリサ子の後ろにいる玄希に
「玄希さん、私はあなたの恋の相談に乗りたいの! 信じてもらえないかもしれないけど、私の話を聞いてちょうだい」
その頃、綾人は直感が赴くままに玄希を捜して奔走した。
初めて担任として生徒と共に成長することで、生徒の気持ちに気がついた。
年の差に戸惑いつつも、玄希に対する気持ちは本物であることを受け入れた。
息が切れたところで、縁結び神社の近くで玄希に強引に迫る(実際は話をしたいと交渉中)むすびを見て、危機を感じた。
「キミ、うちの生徒に何をしているんだ!」
綾人がここに来るのは計算外だったが、チャンス! と思ったむすびは、早速、縁結びを行うことに。今すぐには無理でも、いつか必ず、二人が結ばれるように祈りつつ。
『結ばれし赤き糸よ、2人を心から祝福し、いつの日か恋を成就させ給え!』
「き、桐生先生‥‥」
綾人の出現に戸惑う玄希。
「あの‥‥ぼ、僕は‥‥キミのことが好きだ。年の差があるけど、僕の気持ちは本物だから受け入れて欲しい。今はまだ「教師」と「生徒」という立場だけど、卒業してからは「男」と「女」として付き合っていきたい。約束だ」
綾人と突然の告白に驚いた玄希だったが、感激のあまり泣き出し、綾人の気持ちを受け入れた。
むすびが咄嗟におこなった縁結び神力は、玄希が卒業した春に二人が結ばれる効力がある。
その最中、沙織は‥‥。
「むすびちゃん、何処に行ったんだろう? 先に帰っちゃったのかな?」
むすびは、沙織と一緒に帰る約束をすっかり忘れていた。翌日、むすびはそのお詫びとして甘味処で沙織が好きなもの全てを奢るハメとなった。
「初恋は実らないものと言われるほど縁結びは難しいのですが、今回の一件は、単に能力だけではなく、あの子の心の資質が問われたようですわね」
淹れ立ての熱いお茶を飲みながら、愛染明王神は鏡から玄希と綾人が結ばれた様子を窺っていた。
「まだまだ未熟な所は目立ちますが、あの子も少しは成長したようですね」
まるで我が子の成長を喜ぶ母親のように、穏やかで優しい微笑を浮かべながら愛染明王神は感想を述べた。
●
それから数年の歳月が流れ、高校を無事卒業した玄希は綾人と正式に結ばれ、幸福な時間を過ごしている。
花弁が舞う桜並木を歩きながら、2人は入学式のこと、初めての卒業式のことを思い出していた。
「覚えてるかな? 僕が初めて担任になった入学式の日も満開だったね」
「うん‥‥」
桜が咲くのは、例年に比べると今年は早い。
桜を咲かせ、2人を祝福したのは、正式に「縁結美神」の名を母から受け継いだむすびだった。
玄希と綾人の幸福そうな恋人達の縁を結ぼうと心に決めたあの日以来、むすびはっ所懸命頑張った。
その努力は愛染明王神に認められ、縁結び神社に戻ることを許され、改めて縁結び神の一柱として縁結びをするよう言い渡された。
「さてと、そろそろ縁結びに行かないとね」
美しい女性の姿をした縁結美神だったが、口調は神社を追い出されたあの頃のままだった。