付喪神奇譚アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
7.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/28〜04/01
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●本文
『書棚はその人物自身を映し出す鏡』
誰だかわからないが、そう言っていた。
私は、書棚を改めて見る。
恋愛、ミステリー・ホラー、ファンタジー、心理学等、様々な分野の書籍がある。
それに混ざり、参照資料になりうる古書や辞典が数点。
「どれが本当の自分なのだろう」
鏡を見るかのように、私はそう呟いた。
小説家という職業故、本は私に欠かせないアイテムだ。現在住んでいる場所が、祖父から受け継いだ屋敷ということもあり、本の置き場所には困らない。
深夜、コーヒーを淹れにキッチンへ向かおうとしたその時だった。
書庫と化している一室から、多人数の話し声が聞こえた。老若男女、様々な声だ。
ドアの隙間から、私は誰かいるのかと様子を窺った。
「あの人、あたしを大切にしてくれているわ。あたしを愛しているのね」
そう言っているのは、OL風の女性。
「わしゃ、長いことあの人に世話になっとる」
茶を啜りながら、小柄な老人が言う。
それに続き、イケメン、子供、エルフと多種多様な人物がいた。
「あんた達は一体誰なんだ!」
いてもたってもいられなくなった私は、ドアを勢い良く開けて人物達を問い詰めた。
はぁ? という顔をした人物達は、声を揃えてこう言った。
『本の付喪神』
と。
付喪神って‥‥百年経った古い物がなる妖怪という話だった‥‥はず。
「あんたも話に加わりなよ」
イケメンが私の腕を引っ張る。
付喪神達とどのような会話をしようか? と悩む私だったが、話にはお茶が付き物だと思い、キッチンに向かった。
人数分の紅茶を淹れ終えた後、私は書庫に戻った。
●
「キミにしては珍しい路線の話だな」
脚本を読み終えた監督は、輪島珠洲にそう言った。
「私も本好きの一人ですから。といっても、ホリック(中毒)じゃないですが」
その一言は「自分は活字中毒です」と公言しているのでは?
「楽しそうなモノが撮れそうだな。楽しみにしているよ」
「そう言っていただけて光栄です」
クールな珠洲だったが、その言葉に微笑を浮かべた。
<登場人物>
私:広い屋敷で一人暮らしをしている小説家(性別不問)
<付喪神達>
OL:恋愛小説の付喪神。私に愛されていると思い込んでいる。
老人:百科事典の付喪神。知識豊富。生き字引的存在。
イケメン:ミステリー小説の付喪神。やや自意識過剰。
エルフ:ファンタジー小説の付喪神。尖った耳が特徴(性別不問)
※その他の付喪神達の設定はお任せします。
●リプレイ本文
●体験談
私(橋都 有(fa5404))はミステリー作家というものの、ようやく名前が浸透してきた程度の中堅どころだ。
そんな私が体験した不思議な出来事を、皆さんにお話しよう。
ミステリーしか書かない私にしては珍しい話になるが、キミ達には、是非最後まで私の話を聞いて欲しい。
●お茶をどうぞ
ある日の真夜中、私は『本の付喪神』と名乗る連中にであった。
最初は信じられなかったが、騙されてもいいか、という軽い気分でお茶を入れ、裸足をぺたぺた言わせながら書庫に戻った。
「夢じゃなかったか」
付喪神達がわいわいと騒がしい室内を改めて見て、私は唖然とした。
外国人(正確には本)もいるようだからと紅茶にしたのだが、淹れ方の知識は完璧だが、道具が無い故、ティーバッグを顔が歪むほどの渋さで入れてしまった。
付喪神の一人が、お茶にケチをつけるので
「入れ方なら知ってるが、生憎と道具がないんだ。それなら、日本茶を入れれば良かった‥‥。私は、煎茶なら旨く淹れられる」
本当に? と疑う付喪神に「疑わしい顔するな」と言ってやった。
ギルビー(Rickey(fa3846))と名乗った警察官の制服を身に纏った男は、刑事小説に登場する人物に扮した付喪神だろう。
「お茶、ありがとうございます」
私が差し出した紅茶を丁寧に受け取り、ギルビーは口を付ける。
暫く無言になるが
「‥‥人生の味がしますね」
としみじみと呟いた。苦いのを我慢しているような気がした。
ミリタリー小説の付喪神の兵士(ルーカス・エリオット(fa5345))は、物語の舞台がイングランドなので、イングランド軍服を身に纏っている。名前が無いと不便なので、私は兵士を「ルー」と呼ぶことにした。
懐っこく、親しみやすい空気も持ち、笑顔を浮かべて明るい声で話すルーは、ティーカップを手にすると「いただきまーす!」と一口飲んだが、いきなり渋いのを口にしたせいか、目を激しくしぱしぱさせた後、なんと最後の一滴まで飲み干した。
「渋ーっ! せ、戦場をくぐり抜けた猛者も驚きの舌触りだっ!」
異国の食べ物と飲み物が出てきた場合、出されたものは丁寧に食べろという精神でチャレンジしたルーは怖いもの知らずのようだ。
「私は、味や香りよりもカフェインの覚醒作用等の効用の方に目を向けますね。紅茶や緑茶中国茶等、お茶と葉の種類に応じて変化もあるのですよ」
と説明しはじめたのは、付喪神達から『博士(長瀬 匠(fa5416)) 』と呼ばれている百科事典の付喪神。薀蓄を終えた後、ずずーっと紅茶を飲んだ。
「にっが〜い! 先生‥‥何コレ? こんなの紅茶じゃない〜! 私は甘いのが好きなの〜! お砂糖ないの?」
と言いながら頬を膨らませているのは、恋愛小説の付喪神で、OL風外見の片桐雪子(丙 菜憑(fa5575))。
「私はブラックコーヒー派なので、ミルクも砂糖も不要だ」
私がこう言うと、雪子は「意地悪‥‥」としょげた。
次に、エルフの青年にティーカップを手渡した。
「はじめまして。私はファンタジー小説の付喪神、アールと申します。折角のお茶、冷めないうちに頂きます」
穏やかで紳士的な振る舞いをするアール(宮坂 冴(fa5592))は、紅茶の飲み方も上品である。
周りがまずそうに飲んでいるにも関わらず、アールは笑顔で
「美味しいですね、外の飲み物は素晴らしいです」
と言った。その後、苦くて辛そうな付喪神達を介抱したり、心配したりして気配りしている。アールは、味音痴らしい。
心理学の本の付喪神、彩子(七瀬・瀬名(fa1609))は、他の付喪神達の悩みを聞いては、それに対する答えを出していたのに、私が淹れたお茶を口にするなり、どういうワケか酔っ払ってしまった。
「あら‥‥? センセイ、すみません‥‥」
彩子は、カフェインで酔っ払うという体質のようだ。その後は、もう相談できる状態ではなくなり、いい加減なことを言っては笑い出し、しまいには寝てしまった。
酒乱のようだが、迷惑掛ける行為をしていないので問題は無い。
「君には少々エレガントさが足りないね、だから女性にも好感がもたれない」
私の師匠にあたる作家のベストセラーミステリー小説『赤い狼』シリーズの付喪神と名乗るイケメン(ディノ・ストラーダ(fa0588))がそう言い出したので、私は少しカチンとなった。プライドの高いナルシストタイプのようだ。名前? 本のタイトルのままで十分だ。それに登場する「赤い狼」そのものだし。
お茶を差し出した時には
「コーヒーコースター程度にしか扱われない君には分からない苦労さ」
と気障に言われた。
●付喪神達との会話
煩いのは好きではないが、大事な書庫の付喪神だと思うと、皆愛しく思えるのが不思議でたまらない。見た目年上の付喪神も全部ひっくるめ、子供のような、親友のような気分で苦笑しつつ私は受け入れた。
「不思議な気分だな‥‥皆に会えて嬉しいよ」
私のその一言に、付喪神達は微笑んだ。その後、それぞれの本と一人ずつ会話することにした。彼らの悩み、私に対する思いを聞いてみたいからだ。
まずはOLの雪子から。
「私のコトは雪子って呼んでね、先生♪ 先生、私ね、前から言いたかったことがあるの」
と言いながら、雪子は私の隣に移動した。
「ミステリー小説なんか止めて、恋愛小説を書かない?」
私は恋愛には興味無いが、ミステリーが専門とはいえ、時にはそういう場面を書くこともある。
「例えば、ホラ! ミステリー作家とOLの恋愛話なんて面白そうだと思わない? きっと素敵な作品になると思うの!」
ベタベタ甘える雪子に、女性馴れしていない私は
「女性が軽々しく男に絡むものじゃない!」
とぶっきらぼうな態度をとってしまった。
「ひど〜い! だけど、そんな先生も好きよ。照れてそんなコト言っているのよね? 冷たくされても、めげないんだから!」
ポジティブ思考な雪子は、私を無視して会話を続けている。
赤い狼は、何か言われる度に鼻白んだような顔をしている。
「俺の著書ならもっと謙虚なはずだ。そう‥‥きっと有名なあの作品辺りの‥‥」
延々と師匠について語り始め、自分の世界に入り込み、酔いしれているので放置。
茶の渋みと旨味がわかるアールとは、いち早く気が合った。
「ミステリー作家のあなたは、ファンタジー小説をどう思っているのですか? ミステリーとは一番かけ離れた世界の話ですが、どんなときに読むのでしょうか?」
真面目な話を切り出されたので、私は少し焦った。
「そうだな‥‥気分転換かな? たまには、剣と魔法の世界観に浸るのもいいからな」
恋愛話も持ち込まれたが、本の中の人物よりも、読者に好かれることが多いのは認識だと答えた。自然体が一番です。そして、ありのままの自分も大切です、とアールは微笑んで言った。
アールとの話の途中、ギルビーが割り込むように話しかけ、溜息一つついた。
「皆さんは良いですよ。自分なんて主人公の陰に隠れて、名前すら出て来ない事だってあるんです! 脇役の気持ちを分かって下さるのは先生だけです‥‥」
泣き崩れるギルビーを宥めようとしたが、彼は気持ちが昂ってきたのか、語気の勢いが増した。
「探偵や刑事ばかりもてはやすのではなく、普通の警察官にもスポットが当たっても良いと思うのです! 自分は派手な活躍はしていませんが、自分達下っ端がいるからこそ、刑事だって安心して仕事が出来るのです! 常にパトロールして市民を守り、犯罪が起こるのを未然に防いでいるのは自分達なのです! 地道な活動こそが大切なのです!」
不満を吐き出してスッキリしたのか、冷静になったギルビーは、何も起こらない小説を読んでもつまらないと言う事実に気付くと、沈鬱な表情に。
ギルビーの意見に、博士が口を挟んだ。
「それは推理小説や活劇小説だからでは? 推理小説や活劇小説の場合、警察をヒーローや悪役を解りやすく見せる小道具として使われているという事で、単純に主要人物から外れているだけでしょう」
「ですが‥‥小説を読む時は、ほんの少しで良いですから、脇役にも注目してください。主人公の活躍の陰で、自分達も色々と考え、動いているのですよ」
ギルビーと博士の論争は、当分終わりそうも無い。
私は、ルーと話をした。
彼は男達の情熱、仲間との絆、戦場での駆け引き等が描かれてる海軍ミリタリー小説の付喪神だが、兵士達の間で受けているのか、会話の内容は女性との付き合い方がメインだった。
「俺、女性とお付き合いしてみたい。女性は、どういったデートが好きなのかな?」
私の意見を聞く前に、ルーは他の付喪神達にもノウハウを求める。
物語の登場人物としてのルーは、激しく散っていく人生を送ったので
「自分は本だけど、女性との触れ合いで人生もっと楽しみたい」
という気持ちがあった。
付喪神達との会話後、嬉しそうに「参考になったぞ、感謝する!」とルーはニッコリ笑った。
●お別れの時
時間があっという間に過ぎ、夜が明けようとしていた。
その様子を見た付喪神達は、名残惜しそうな表情をした。
「残念ですが、私達はお暇しなければなりません。付喪神は、真夜中しか行動できませんので‥‥」
付喪神を代表し、アールがそう言うと、彼等は一斉に姿を消した。
ありがとう‥‥と、私は夜が明けた空に向かって礼を言った。
私の話は、いかがでしたでしょう? 楽しんでいただけましたか?