帝都妖譚アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/30〜10/05
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●本文
大正の終わりごろ、西洋文化で彩られ、華やかなりし様相を織り成している大正浪漫に追い討ちをかける如く突然襲った関東大震災で東京の七割が焼き尽くされ、都市機能が完全に麻痺してしまったという大惨事が起きた。
それから三年後。
時代は大正から不景気で退廃とした不安な世相で始まった昭和に変わり、関東大震災の無惨な爪痕から復興し、モダンで洒落た街に生まれ変わり、活気が戻った。
あの大惨事から七年の歳月が過ぎた昭和五年、東京が『帝都』と呼ばれし時代の話である。
「馬鹿者ぉ!!」
本庁の一室に警部の大きな怒鳴り声が響く。
帝都で若い女性の身体が突然バラバラになるという、怪奇小説を地でいくような奇怪な殺人事件が起きている。残念ながら、というか当然、解決の目処が全く立っていない。
「そんなこと仰られましても‥。大体、犯人の目星すらついていない状態なんですから、我々としても何ともできません」
困った顔をし、腰を低くして情けない声で刑事の一人が言う。
「そんなことはわかっとるわい!」
警部は、今にも血管がぶち切れそうなほどにまたしても怒鳴る。
「とにかく、何としてでもこの奇怪な事件を解決せねばならん。今日から警備を厳重に行う。いいな!」
先程、情けない声を出していた刑事にはわかっていた。この事件の犯人はこの世の者で無い仕業であることを。
「‥叔父さんにでも相談してみるか」
警備をこっそりと抜け出し、刑事はある場所に向かった。
東京市から離れたとある場所に、どこまでもだらだらと長く続いているかのように思える緩やかな坂道がある。そこを登りきったところに、彼がこれから尋ねる叔父の家と神社がある。
「ごめんください」
玄関に出たのは叔父ではなく、少年のようなあどけなさが残っているかのような雰囲気を漂わせた人物だった。女性と間違えられることが多いが、刑事の従弟であり、神社の神主でもある。
「何か用ですか?」
「い、いや、別に。叔父さんはいる?」
「父さんですか? 今は修行とかいって山に篭ってますけど」
叔父は迷宮入りの事件の調査や怨霊調伏、憑き物落としをしている呪い師だ。刑事は叔父に今回の事件の調査を依頼しに来たのだが、無駄骨だった。
その時、従弟も何度か叔父の代わりに怨霊調伏や憑き物落としをしたことがあるはずと思い出した。
「た、頼む! 叔父さんの代わりに協力してくれ!」
従弟はいきなりそう言われたので、驚き、戸惑った。
「何かあったんですか!?」
「悪いが、今急いでいるので詳細は明日、銀座のミルクホールで話す。この店で待っている。私は捜査があるからこれで失礼するよ」
刑事は従弟に待ち合わせ場所を書いた紙切れを手渡すと、足早に去っていった。
翌日、着慣れた神主装束からモダンな背広に着替え、従弟は銀座へと向かった。その姿は、二枚目シネマスタアか、松竹少女歌劇団の男装の麗人とも見える。
従兄は待ち合わせのミルクホールに着くと、刑事を奥の方の席で見つけたのでそこ向かった。彼が席に着いた頃と同時に、女給に注文を取りに来たので珈琲を頼んだ。
刑事の話というのは、最近世間を騒がせている獵奇事件の話だ。ここ数日の間、若い女性の身体が突然バラバラになるという妙な事件が立て続けに起きている。鋭い刃物のようなもので身体が瞬時に切断されたというのに出血は一切無く、首や手足、胴体が糸の切れた操り人形のように突然崩れ落ちる、という妙なものだ。目撃者は多数いるのに、犯人の姿を見たものは誰もいない。
刑事はその時、頭にあるものが浮かんだ。
かまいたち。つむじ風で一瞬真空ができ、皮膚が裂けるという現象。
これなら瞬時でバラバラにすることも可能かもしれないと思ったが、そんな非科学的なことがあるわけがないと考えを止めた。
その時、側を通った女給の様子がおかしくなった。身体の動きが急に動きが止まったかと思えばその場で急にうなだれ、首が切断されたかのように突然ぷっつりと切れ、続けて両手首、両腕、胴、両足が次々に切れ、一瞬にして糸の切れた操り人形のようにバラバラになり、無造作に床に崩れ落ちた。
「うわあああああああ!!」
それを見た刑事は腰を抜かした。
「鎌鼬(かまいたち)‥」
騒然とした中、従弟の呟く。
「かまいたちって‥つむじ風で皮膚が切れる現象‥?」
「それとはまた違う物の怪の仕業です。次の犠牲者が出る前に、一刻も早く調伏しないと」
従弟はフッと笑い、普段はあどけない大きめの瞳を刃物の尖端のように鋭くさせた。
作家、神宮司辰弥の怪奇小説『帝都妖譚』の実写映画化にあたり、スタッフ、キャスティングも決定し、後はクランクインだけとなった。
<シーン1>
場所は本庁の一室。警部が事件のことで激怒。
部下の刑事達は、それぞれ捜査に向かい、刑事は従弟の元へ。
<シーン2>
場所はミルクホール(現代の喫茶店)
ここで刑事と従弟は事件を目の当たりにする。
<シーン3>
午前二時の銀座。従弟は結界を張り、一般人を入れなくする。
一陣の風と共に現れたのは‥鎌鼬だった。
<シーン4>
苦戦しながらも、鎌鼬を倒す従弟。
その翌日、刑事が手土産を持参し見舞い。
「この世には、不可思議なことが多いんですよ、兄さん」と従弟の言葉で終わり。
登場人物
主人公:女性と見間違えるほどの美男子で祈祷師。お札を使った調伏を得意とする。
(20代の男性が好ましいが、男装可能な女性でも可)
刑事:本庁務めで主人公の従兄。腰が低く、誰かに頼る傾向が強すぎる。
警部:おこりっぽい中年刑事。
女給:現代でいうとウェイトレス。
鎌鼬:一人、あるいは三人組。三人組の場合は必ず女性一人がいること。
一人の場合は手段は任せる。
三人組での攻撃は一人が動きを止め、一人が真空刃で攻撃、女性が薬を塗り一時的に切断を防ぐ。目的は「綺麗な女で遊ぶこと」であるのは共通。
●リプレイ本文
●序
「違う‥こんな風じゃなかった‥もっと綺麗だった‥」
今日もあの時と違う、何度やってもあのように綺麗にならない。
男は刀で無残に切り裂いた女性の死体を見ながら、そう考えていた。
「血と肉が飛び散ってしまう‥何故綺麗に切れない‥」
彼は目撃したのだ。若い女性の身体が、綺麗な切断で突然バラバラになる奇怪な殺人事件を。
「今度の獲物は、もっと長持ちするのを見つけてこなきゃね!」
「そうですわね。この前の娘は物足りなかったもの。ほんの少し遊んであげただけなのに、狂ってしまうんだもの」
「我等の真似をするとは‥愚かな」
物陰から様子を見ていた三人が、それぞれの意見を述べる。
昭和五年、東京が『帝都』と呼ばれし時代の話である。
●壱
「馬鹿者がぁ!!」
本庁。
怒りっぽい頑固親父を即座に連想させる警部の梧桐雄蔵(片倉 神無(fa3678))の大きな怒鳴り声が響くと同時に、机を思いっきり叩く音がした。机が揺れ、灰皿にある吸殻の山が崩れたにも関わらず、彼は銜えている煙草を灰皿に押し付けた。
「警部、そう言われましても‥現場にも周辺にも何の証拠も無いんですよ」
刑事の諒(諒(fa4556))が、腰を低くして言うと同僚の水智もそうですよと付け加える。
「目撃証言だって『目の前で急にバラバラになった』ですよ?」
「どう考えても人間業じゃないです」
刑事達は、捜査から得た事実を述べるが、
「貴様等、何をぼっとしているか、さっさと警備に臨まんか!」
と雄蔵に更に怒鳴られ、捜査に向えと命じられた。
「全く、たるんどる」
ぼやきながらも、犯人がこの世の者で無いと睨む雄蔵。
「本当に人使い荒いよな、警部。自分は机でふんぞり返ってるだけなのに。とりあえず被害者周辺の聞き込み行ってくる」
諒は捜査に向かった。
水智は、叔父がこのような怪事件に関わっていたことを思い出し、東京市から離れたところにある叔父の家へと慌てて向かった。
どこまでもだらだらと長く続いているかのように思える緩やかな坂道があり、そこを登りきったところに、尋ねる叔父の家と神社がある。
「どうしたんですか?」
叔父が対応するかと思っていたが、玄関に姿を現したのは、ほやんとした雰囲気、かつ穏やかな性格の従弟、水智裕人(賈・仁鋒(fa2836))だった。叔父さんはいるか尋ねるが、叔父は修行の為、山に篭っているとか。
水智は思い出した。裕人も叔父同様、呪い師ということを。彼に調査に協力するよう頼んだ。裕人が何があったんですかと言うか言わないかに、水智は待ち合わせ場所と時間を書いた紙切れを手渡すと捜査に戻った。
●弐
翌日、裕人はモダンな背広に着替え、従兄の水智が待つ銀座のミルクホールへと向かった。奥の席で彼を見つけたたのでそこに向かう。その後ろの席にいた三文作家の黒部典太(志祭 迅(fa4079))は、小説のネタになりそうな話かと思い、お目当ての女給そっちのけで二人の話に聞き耳を立てた。
二人の話は、最近世間を騒がせている若い女性の身体が突然バラバラになるという事件のことだった。鋭い刃物のようなもので身体が瞬時に切断されたというのに出血は一切無く首や手足、胴体が糸の切れた操り人形のように突然崩れ落ちる、というものだ。
水智と典太は、同時にあるものを浮かべた。
――かまいたち。つむじ風で一瞬真空ができ、皮膚が裂けるという現象。
これなら‥と思ったその時。
典太の側を通った女給の動きが止まったと思ったらその場で急にうなだれ、首が切断されたかのように突然ぷっつりと切れ、両手首、両腕、胴、両足が次々に切れ、一瞬にして糸の切れた操り人形のようにバラバラになり、無造作に床に崩れ落ちる。
ミルクホールに客達の悲鳴が響く。
「鎌鼬(かまいたち)‥」
騒然とした中、裕人は呟く。
「かまいたちって‥つむじ風で皮膚が切れる現象か?」
腰を抜かした典太が、裕人に聞く。
「それとは違う物の怪の仕業です。次の犠牲者が出る前に、一刻も早く調伏しないと」
裕人はフッと笑い、普段はあどけない大きめの瞳を刃物の尖端のように鋭くさせた。
「面白そうな展開になってきたな。楽しみだぜ」
典太はこれからどうなるか楽しみになった。
●参
深夜の銀座。神主装束の裕人は妖の気配を感じとると、懐から呪札を使い結界を張った。典太の尾行に気づいてたが、途中で上手いこと撒いた。
部下を率いて警備を継続する雄蔵だったが、人払いの効果がある結界の力により、無意識の内に渦中の場所を避けて遠ざかり、見当違いの場所を警備している。雄蔵の足下には、勿論大量の吸殻が捨てられている。その効果は、ようやく裕人を発見した典太にも効いている。結界内に入ることが出来ない典太は苛立っている。
それからどのくらい経っただろうか。
泡雪の着物姿、艶やかな黒髪、血のような紅を引いた唇の淑やかな女性が、結界内に侵入し、裕人の側を通り過ぎた。
「あなたは人間ではないですね?」
看破した裕人が女性を呼び止めようとするが、もう一人侵入した。血で錆びた刀を持った男だ。
「綺麗な女‥今度こそ‥綺麗に‥」
「あ、あれは山田じゃないか! 貴様、何をしとるか!」
雄蔵の部下である山田俊三(志藤拓朗(fa4644))が、ふらふらとした足取りで裕人に近づく。
その時、一陣の風が吹き抜けた。
「鎌鼬勢ぞろい、ですね」
裕人が風が止んだほうを振り向くと、そこには二人の男がいた。
「貴様か、我等の名を語り、随分と暴れたのは」
鎌鼬三兄妹の長兄、桐(レイス アゲート(fa4728))が鋭い目付きで俊三を睨み、怒り露わにする。
「人間がぼくらの邪魔して無事に帰れるなんて思ってないよね?」
次兄の紅(夜野月也(fa4391))が、子供のような笑みを浮かべながら言う。
「桐兄様、紅兄様、この者がわたくし達の邪魔をしたのに間違いございませんわ」
先程、裕人とすれ違った女性、末妹の雫(キャンベル・公星(fa0914))が兄二人に報告する。
「そこのお前、我らの正体を悟るとは‥ただ者じゃあるまい?」
「だとしたら‥どうしますか?」
裕人の返事に、
「邪魔者を片付けるまで」
「キミもすぐに壊してあげるよ。人間っていう脆い玩具で遊ぶって楽しいよ」
「あなたは‥もっとわたくし達を楽しませてくれるのでしょう?」
三人が身構えると、裕人は攻撃用の呪札数枚を取り出し、各個撃破をすべく攻撃態勢に。
「はっ!」
風には風を、と鎌鼬に対抗し、裕人は風の呪札を用いた真空刃を桐に向かい放つ。
「その程度の風、我等には涼風に等しい。貴様の力はその程度か?」
「人間のくせして中々やるじゃん」
「兄様方、わたくし達の力、この者にとくと見せましょう」
雫がの妖艶な笑みを浮かべながら言うと、そうするかと頷く桐と紅。
鎌鼬三兄妹は、女性を一瞬のうちに切り裂いた技を繰り広げた。桐と紅が素早い動きで裕人に手刀による真空刃で攻撃。
「うわぁ!」
真空刃は裕人を確実に切り裂いたが、傷ついたのは首、腕の二ヶ所だけだ。胴体と足は、防御力を高める呪札を装束全体に貼り付けていたおかげで傷ひとつ付いていない。雫が小さな壷を手にしたかと思うと、そこに妙薬を刷り込む。すると、一瞬のうちに傷口が塞がった。先程の真空刃による攻撃だが、雫の加わっていた。
「少しでも長く生きていたければ、美しく鳴いてごらんなさい」
雫の言葉が、次の攻撃の合図となる。
「私は負けません。おまえ達を必ず調伏する!」
裕人は、風の呪札と火の呪札を取り出すとそれらを重ね、炎を発する真空刃を発生させ、桐に向かって放つ。真空刃に切り裂かれながら、桐の身体は炎に包まれた。
「我等は‥闇へ戻るとしよう‥」
炎が消えると同時に、桐の姿も消えた。
「桐兄さん!!」
激昂した紅が兄の敵を討とうとしたが、裕人は素早く地の呪札を取り出し、瞬時に刀に変えると紅の胸にそれを突き刺した。
「なんで‥なんでぼくらが‥たかがニンゲンなんかに‥? 雫‥逃げ‥」
全てを言い終える前に、紅は事切れ、風となり消えた。
「よくも‥よくも兄様を‥人間風情が!!」
兄達が先に調伏されたことで怒りに我を忘れ、裕人を己の刃で殺そうとしたが、裕人の刀で返り討ちに遭い、紅同様に消えた。雫がいた場所には、僅かな量ではあったが鎌鼬の妙薬が入った壷が落ちていた。
「これを塗って、治療するしかないですね」
裕人は壷を手にすると、自宅へ歩き出した。
「よっしゃ! これで面白そうなものが書ける! 書いて書いて書きまくるぜー!」
典太は大喜びすると、執筆作業に取りかかるため、下宿先に急いで戻った。
●肆
鎌鼬と称する凶悪犯、俊三を逮捕した諒と水智。掌を返したように雄蔵は、彼らを賞賛した。この事件は『異常殺人者の手によるものであった』という結末を迎えた。
全てが終わった翌日。裕人は布団の住人で、切られた傷には包帯を巻いている。
暇を見て手土産を持参し、見舞いに来た水智と会話をするため、痛む身体を起こした。今回は大変な目に遭わせてすまない、と謝る水智に裕人は気にしないでくださいと気遣った。
――手強い相手でした。また現れた時は、もっと強くならないと‥。
裕人は心の中で、そう決意した。
この世の中は、不可思議なことばかりだなぁという水智に、
「この世には、不可思議なことが多いんですよ、兄さん」
と裕人は言い返した。