奈落佳人〜友〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
17.3万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
04/21〜04/25
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●本文
「奈落佳人って知ってる?」
午前4時44分44秒に、奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。
中高生の間で広まり、今では老若男女問わず知られている都市伝説であるが、その噂は本当だった。
●
「ねえ‥‥あたしをいじめているアイツ、どうしたらいいと思う?」
あたしは、仲間に相談した。
あたしは、クラスメートにも、担任にも無視されている。
両親は、あたしよりも出来がいい弟を可愛がっている。
唯一あたしが喋る時は、仲間と話す時だけ。
そこでは、他人の顔色を窺って怯えなくてもいいし、何でも本音で話せる。
そんな『仲間』が、あたしの唯一の友人だ。
●
現実のあたしは、教室の隅っこの席に座り、小説ばかり読んでいる。
クラスメートの中心的存在である富永昌美が、あたしの本を取り上げて
「あんた、恋愛小説が好きなんだ? こんなモン読んでても、カレシができるワケじゃないのにねー」
と言うと、クラスメートは一斉に笑い出した。
笑いたければ笑えばいい、あたしは気にしない。
このまま笑われ者になるかと思いきや、富永の親友である酒井むつみが本を奪い取り
「昌美、ちょっとやりすぎだよ。はい」
そう言って、酒井はあたしに本を返してくれた。
その翌日、酒井もあたし同様クラスメートから無視された。
あたし達二人は、完全に仲間はずれ。
酒井は泣きながらも富永と仲直りをしていたが、罵声を浴びせられたうえ、足蹴に。
数日は無視していたが、次第に酒井のことが気になった。
あたしは、初めて「友達が欲しい」と望んだ。それでも、仲間達と縁を切る気なんてないけど。
あたしは、酒井にこっそりと仲間が集まる場所をメモに記して教えた。
『ここなら、あなたも本音で話せるし、友達もすぐできるよ』
と書いたものを。
あたしが教えた場所は、顔も、名前も知らない『仲間』が待つところだ。
●
その日の夜、満月の光に照らされている東屋。
東屋の中央にある水鏡で様子を窺っていた中華風甲冑を身に纏った古風な口調の武将・蒼嵐。
「さて、あの者は誘いに乗り、仲間の所へ向かうのか。後が楽しみよの」
悲しげに水鏡を見詰める佳人を無視し、蒼嵐が言う。
「あの女人は、誘いに乗り仲間の元へ向かうでしょう。そして‥‥人間の醜さを目の当たりにします」
映し出されたのは、酒井が仲間の元へ向かう場面だった。
●
「以上が、映画版『奈落佳人』の粗筋です。主人公でる「あたし」と、クラスメートの酒井むつみを中心とした展開になります」
脚本を手がけた輪島珠洲は、監督にそう説明した。
「顔も名前も知らない仲間、というのは想像がつくな。これと恋の怨みを晴らす奈落佳人がどう関係するんだ?」
「あたしが、むつみに友情以上に恋心をいだいていれば‥‥どうなると思います?」
からかうような表情で、監督に質問する珠洲。
「独り占めしたくて、むつみを奈落送りにするだろうな。あるいは、むつみが昌美を奈落送りにする‥‥とか?」
「そういう展開もあります」
今回の筋書きは、珠洲のちょっぴり意地悪エッセンスが加わっている模様。
<登場人物>
奈落佳人:恋の怨みの相手を奈落送りにする謎の女性。
蒼嵐:佳人の部下でかつては名を馳せた武将。古風な口調。佳人を「殿」付けで呼ぶ。
あたし:本編の主人公。
富永昌美:あたしのクラスメートで、クラスの中心的存在。
酒井むつみ:昌美の親友だったが、あたしを庇ったことで絶縁され、あたし同様に扱われている。
※その他の配役の設定はお任せします。
※依頼人、ターゲットは決まっていません。
※あたしが通っている学校は男女共学です。
●リプレイ本文
セーラー服にお下げ髪のストーリーテラー(美森翡翠(fa1521))は、黄昏時の校舎内を歩きながら話し出した。
「午前4時44分44秒に奈落佳人なる人物が現れ、恋の怨みを晴らしてくれる。良く知られている都市伝説と思われていますが、この噂、本当なんです。本日のお話を始めましょうか。友情も砂の城のように脆く、崩れやすいものです。恋と同じくらいに」
●
あたしは、『仲間』とお喋りしている時が一番楽しい。この時間が永遠だったらいいのに‥‥。
富永昌人(月白・緋桜(fa4265))は、女の子みたいな性格、可愛い物が大好き、恋愛小説を読んでいる時間が幸せという程の内向的な少年だ。性格と口調が災いしてか、オカマと間違われ酷い扱いを受けているが、気にはしていない。同性愛者と思われているが反論をしないのは、クラスの中心的存在で運動神経抜群、成績上位、教師達の信頼が厚いクラス委員長で双子の姉、昌美(月白・蒼葵(fa4264))を恐れてだ。
昌美は普段は優等生だが、常に自分が中心でないと気が済まない、要求が通らなければ横暴になる、要求を聞き入れない相手には押し通すまでという自己中心的で我が儘な性格なので、思い通りにできない昌人を徹底していじめている。
「昌人、まだこんなの読んでるの? あんた好みの王子様が現れるわけじゃないのにね」
昌人は昌美にいじめられ、嫌がらせされたことを両親や担任に訴えたが、信じてはもらえなかったため更に内向的になっている。それを知った昌美は、表向きは優等生だが、裏では昌人の嫌がらせ、いじめをエスカレート化。
昌人はそんなことを気にせず、『仲間』との付き合いを続けている。
その様子を、廊下でじっと見ていたストーリーテラーは、富永姉弟のことを話し始めた。
「教室内であるにも関わらず、弟、昌人をいじめ続ける昌美は、家庭では両親にとても可愛がられています。勉強が出来る昌美を贔屓するかのように」
恋愛小説をひったくった昌美は、即座にそれを破ろうとしたが、親友の酒井むつみに止められた。
「むつみ、邪魔する気?」
やりすぎよ、とむつみは注意する。
「次にこんなことしたら、どうなるかわかっているわよね?」
昌美は、むつみが素直に否を認め、二度と自分に逆らわない事を約束し、自分の言いなりになれば許すつもりだった。
「ありがとう‥‥」
昌人に微笑んで本を返すむつみ。
●
その行為に腹が立った昌美は、二人の仲が良くなるにつれ、最初は嫌がらせ程度に、少しずつ徹底的に二人をいじめ始めた。
「このままじゃ、むつみも危ない‥‥」
そう思った昌人は、むつみをパソコンルームに呼び出し、『仲間』がいる場所をこっそりと教えた。
『ここなら、あなたも本音で話せるし、友達もすぐできるよ』
昌人に教えられた『場所』に行ったむつみは、最初は馴染めなかったが、次第に気に入り、それが切っ掛けで二人はどんどん親しくなった。
「酒井むつみに対しては、親友と言っても、昌美は自分の思い通りにならなければ暴力に訴える。まるでドメスティック・バイオレンスですね。そんな事をしても、心は更に離れるだけなのですが‥‥。この二人、まだ友情と恋愛の境界線のようですね。それに引き換え‥‥」
ストーリーテラーの視線の先は、教室で仲間とお喋りをしている昌美に向けられていた。
●
常夜の異世界。
そこにある東屋の中央にある水鏡に映るのは、昌美達の教室。そこで、昌美とその仲間達が昌人とむつみをいじめている。クラスメート達は、腫れ物に触れないよう傍観しているしかなかった。
「あのように弱者を甚振るとは‥‥情けないものよ。佳人殿、いかがなさいます」
中華風甲冑を身に纏った佳人の部下、蒼嵐(ヴォルフェ(fa0612))が憂いの表情で水鏡を見る奈落佳人(橘・朔耶(fa0467))に問うた。
蒼嵐をはじめとする部下は信頼しているが、確証や自信が無い時は思案し、内心を隠す。
そんな佳人の両隣にいるのは、双子の佳人部下、ターグァとニューアル(最上さくら(fa0169)=二役)。
昌人とむつみの様子を水鏡を通し、楽しそうに観察している。
『人間って愚かだね〜』
茶々を入れるかのように、二人揃って言う。
午前4時44分44秒。昌美は、奈落佳人を召還した。
「何者かが私を呼び出しました。行って参ります」
奈落佳人が水鏡に触れると、すぅっと消えたかと思ったら、瞬時に昌美の元に現れた。
「私を呼び出した用件は、どのようなものでしょうか?」
奈落佳人の問いに
「私はいつも仲間の中心的存在なの。でも、私の座を奪おうとする奴がいるの。お願い、私の邪魔をする奴を奈落送りにして!」
昌美から依頼の説明を聞いた奈落佳人は、代償として昌美の持つ『才能の内の1つを貰う』と奈落佳人が説明すると、昌美に金の鈴のついた腕輪を手渡した。
「本当に貴方が疎む者が悪人と判断すれば、この鈴を鳴らしなさい。速やかに依頼は遂行され、その者は奈落送りされるでしょう」
そう言い残すと、奈落佳人の姿は闇に紛れて消えた。
東屋へ帰還後、蒼嵐が佳人にこう訊ねた。
「何故、対象が曖昧な依頼を受けられた」
回答に困った奈落佳人は、黙り込んでしまう。
「こんなの受けちゃったの〜?」
「あの子には異様に優しいね〜佳人ちゃん。どうして?」
『佳人ちゃん、あの子を奈落に落とすかな〜?』
ターグァとニューアルは、今後の展開が楽しみで仕方が無いようだ。
「ターグァ、ニューアル、あなたに頼みがあります」
奈落佳人は、両隣にいる双子に昌人とむつみの様子を探るよう命じた。
『まかせて!』
二人は手を繋ぐと、昌人とむつみの様子を窺いに出かけた。
「どうやら、昌美の想いは恋愛に通じるみたいですね」
双子の様子を見ていたストーリーテラーが言う。
●
「クラス委員会議、長かったわね‥‥ったく」
文句を言いながら、昌美は校内にあるパソコンルームで一人の女子生徒がパソコンを終えた場面を偶然見た。
「むつみちゃん、元気になったみたいで安心したわ」
微笑みながら、女子生徒は帰り支度をした後、パソコンルームを後にした。
(「あの人、1つ年上の生徒会役員じゃない。あの人がむつみと? 昌人の奴が関わっているのね!」)
木に登って様子を見ていたターグァとニューアルは
『あの人、良い人。早く佳人ちゃんに教えなきゃ!』
声を合わせて言った後、奈落佳人の元に向かい、昌美が上級生を奈落送りを実行しようとしていると報告した。それを聞いた奈落佳人は、対象に否は一切ないことを悟った。
「奈落佳人、来て!」
邪魔な『仲間』を確認した昌美は、急いで教室に戻ると奈落佳人が手渡してくれた金の鈴のついた腕輪を取り出して鳴らしたが、何の反応も無い。
「何故!? 何故何も起きな‥‥!」
昌美が異世界に連れ込まれたのは、一瞬の出来事だった。
「この時、昌美が異世界で感じとったのは『孤独』という名の恐怖。一人きりのなることは、彼女にとっては初めてのことでしょう」
ストーリーテラーが異世界で語り終えると、奈落佳人と蒼嵐が姿を現わした。
「あ、あんた‥‥裏切ったわね!」
奈落佳人を睨む昌美。
「この依頼は破棄いたします。私は罪なき者を、あなたの邪な私怨だけでは奈落送りにはいたしません。あなたこそ、良く世界を御覧なさい。あなたを取り巻く状況が、横暴な私利私欲の為にどうなっているか‥‥」
奈落佳人の金色の瞳が光り出すと同時に、昌美はある光景を見せられた。
両親、教師達、自分の仲間達が昌美の元から離れ、誰もいなくなるという辛いものだった。
「あなたは自分自身を見つめ直し、自分を変えなければなりません。それは、あなた自身がわかっているはずですよ」
「邪な者が佳人殿を利用しようとは言語道断! 今回は佳人殿の慈悲に免じて見逃すが、次はないと思え」
奈落佳人と蒼嵐から説教されるが、昌美は聞く耳持たず。
「そんなの、納得できないわ!」
二人の姿がフッと消えると同時に、昌美は教室に戻された。
●
現実世界に戻って、冷静に周囲を見てみれば周囲に誰もいなくなっていた。
両親も、教師達も、仲間も、クラスメートも。
実際にはいるのだが、昌美は誰からも見放され、孤立してしまったのだ。昌美が悔い改めない限り、この状態は続くだろう。
(「昌美姉さん、あなたもこれでわかったでしょう? あたしの気持ちが。姉さんの化けの皮が剥がれきるのも時間の問題ね」)
クラスメートの相談に乗っていた昌人が、そんな昌美を見てニヤリと笑う。
昌人は『仲間』に救われたことで、綺麗な心を持つ人を見る審美眼を養い、生来の優しい性格とそれを活かし、男女問わず相談に乗っている。
そして、昌人とむつみの友情は深まったが、『仲間』である上級生との付き合いはまだ続いている。
一人寂しく帰宅する昌美を見ながら、ストーリーテラーは語り始めた。
「あなたは、奈落佳人に晴らして欲しい恋の恨みがありますか? 恋の怨みはあっても、邪な心の呼びかけでは奈落佳人は契約を破棄しますよ‥‥」
そうでしょう? お姉様。 と彼女の口が動いた時、どこからか数え歌が聞こえる。
♪一つ人の憎しみの 深きに勝るものはなし
♪水鏡たゆたう願いは廻り 寄らば真には雫が沈む
♪いずこか鈴の音鳴らすなら 無為の想いをば奈落へ流す
♪七人の子ら天に昇る頃 やおの心をば巡りて遠く