母の日コメディアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/12〜05/16

●本文

 5月13日は「母の日」である。
 お笑い番組『ガハッ! とチャンネル』のAD、平井・平等は故郷にいる母のことを思い出した。
「僕が上京してからというもの、この仕事が忙しくて何度か帰省してないなぁ‥‥。プレゼントは毎年贈っているけど、直に手渡したいなぁ。帰れないから無理だろうけど」
 はぁ‥‥と溜息をつきながら、平井は次なる企画を考えることに。

「平井、次の企画なんだが‥‥」
 そんな平井に、プロデューサーが声をかけた。
「い、今考えています‥‥」
「お前ばかりに企画を考えさせるのは可哀相だと思い、今回は俺が企画を考えた」
 プロデューサーが企画を!? と驚くスタッフ達だったが、平井は「聞かせてください」と言った。そんな平井に、プロデューサーはあることを呟いた。

「今回の企画は、母の日ネタだ!」

 それなら、誰でも思いつくよ‥‥と呆れるスタッフ達だったが、平井は「それでいきましょう!」と乗り気だった。
 平井が何を言われたかは気になるが、それはおいといて。
 次なるネタは『母の日』に決まった。

<「母の日で笑いを取ろう!」企画書>
 今回の観客は、視聴者の中から抽選で選ばれた母親達(主に中年女性)
 出場者には『母への贈り物』をネタにコントをしてもらう。
 持ち時間は三分。下ネタは失格、退場とする。
 出場者は二人一組。プレゼントを手渡す子供、受け取る母親を演じてもらう。
 
「タイちゃん、母親役が必要な場合はお願いね」
「はい」
 この二人、実は仲良かったのか‥‥とその様子を見ているスタッフ達。

『ガハッ! とチャンネル』では、母の日ネタコントを披露してくださる出場者を募集しています。
 我こそは! と思う芸人、役者の皆様の出場をお待ちしております。
 今回は二人一組となり、子供と母親に扮してください。
 母親役を必要とする出場者の方は、当番組ADの平井・平等が母親役を務めます。
 優勝者には、賞金10万円が贈られます。

●今回の参加者

 fa0048 上月 一夜 (23歳・♂・狼)
 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa2632 紗草みりん(23歳・♀・ハムスター)
 fa2724 (21歳・♀・狸)
 fa3863 豊田そあら(21歳・♀・犬)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa4882 ヒカル・ランスロット(13歳・♀・豹)
 fa5239 岩倉実佳(10歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 放映当日。
「おはようございまーす。えーと、豊田さん?」
 岩倉実佳(fa5239)は、思いのほか若い相手役に戸惑った。
「よろしくお願いします。あ、本番は老けますので」
 察して、豊田そあら(fa3863)は軽く会釈する。
「ううん、ミカちゃん、おねーさんはそのままでいいと思うなの☆」
 実佳はアイドル声優が老けると聞いて吃驚。
「うふふ、メイクですから心配要りませんよ。ミカちゃんの足を引っ張らないように頑張りますね」
 まだ小学生なのに相手役の心配をする美佳に、そあらは満面の笑顔を見せた。
 先に来ていた結(fa2724)とヒカル・ランスロット(fa4882)はメイクの打ち合わせ中だ。
「衣装、もう少し地味な方が良いかしら。髪は黒に染めて」
「私の髪の色と合わせるなら、そのままでもいいと思いますよ」
 ヒカルの言葉に結は頭に手を当てて唸る。ヒカルは銀髪、結の髪は灰色だ。ちなみに二人とも白い肌に青い目で、並べば歳の離れた姉妹に見えなくもない。
「それだと普通過ぎない? コメディなんだから、如何にも『お母さん』な方が良いと思うのよね」
 タレントとして受けを狙う結に、女優見習いのヒカルは少し考え、コクコクと頷いた。
「‥‥俺達は準備しなくていいのか?」
 真面目な性格の上月 一夜(fa0048)は、皆が忙しく準備するのを見て落ち着かない様子だ。一夜と彼の相方はどちらも二十代半ばで、夫婦には見えても親子と思われる事は無い。工夫が必要な筈だ。
「キミさあ、私は放送作家なんだよ? 演技もメイクも出来ないし、私の準備はもう済んでるの。‥‥はい、これ」
 母親役の紗草みりん(fa2632)はそう云って台本を一夜に渡した。
「私はネタを作るのが仕事、演じるのはイチヤ君、キミの役割だよ」
「なるほどな」
 一夜は素直に納得し、ペラリペラリと台本を捲る。
 さて、ここまではコンビを作る事が出来た人達だ。一方、母子コントながらピンで乗り込んできたつわもの達も存在する。
「平井サン、オチ頼みます」
 予想外なチェダー千田(fa0427)の言葉に、平井は、へ? と間の抜けた声を発した。母親役をやるとは言ったが、所詮はAD。アシスタントのつもりである。
「好きにツッコんで下さいね。最後に俺が下手からハケるから、平井サンがそこにヒトコト言ってオチ、な〜。あ、直前の俺のセリフは本番のお楽しみ☆ 深く考えなくても、それまでにコントに入り込んでりゃ、まぁ大丈夫だぜ〜。
 ステキなセリフ、期待してマス♪」
 平井にしこたまプレッシャーを与えて、出場者で唯一の本職は満面の笑みだ。ADなぶって面白いのかコラ、と思いつつ、追従の笑みが顔に張り付く平井。
「大変そうじゃな」
 プロレスラーのドワーフ太田(fa4878)の相方も平井が務める。ネタ合わせで顔から血の気が引く平井に、太田は気合いの一発を叩き込む。
「任せておけ。今回の設定、わしにちゃんと考えがある。おぬしはその通り動けば、何も心配要らぬでの」
 平井は闇夜に光明を見た心地がした。

 出演者達の準備時間は瞬く間に過ぎ去り、
 母の日公開生放送『ガハッ! とチャンネル』、いよいよ幕開だが、さて。

 企画の紹介が終わると同時に、舞台には扉で二部屋に分けたセットが押し出された。上手の部屋ではみりんがせっせとアイロンを掛けている。下手側では、携帯電話を片手に一夜が話し込んでいた。
「あー分かる。家で飯食うとさ、食堂のおばちゃんを思い出すよな。お袋の味っていうか」
「それは逆」
 すかさず、みりんがツッコミを入れる。
「でさ、時々シャツに勝手にプリントしてる。あれ勘弁して欲しいよな」
 折りしも、アイロンをはずしたみりんの手には、白いTシャツがあった。背中には大きく、愛らしい熊の絵が貼り付いている。
「これが女の子にモテるポイントなのよ」
 お構いなしに、電話は続く。
「そうそう。近所のスーパーへ化粧して、服変えて行くの。あれ、分かんねーよな」
 だん! アイロンが勢い良く置かれた。
「幼稚園の時、△△ちゃんのママみたいにしてくれなくちゃやだって、泣いたのはどこの誰!?」
 親の心子知らずとばかり、良い気なものである。その後も、みりんのリアクションに笑いつつ、頷いたり苦笑を浮かべる観客は少なくなかった。
「うん、じゃあな」
 一夜は室内の唯一のセットであるカレンダーに目を移す。
「あ、忘れてた」
 さんざん親を出汁に笑ったあげく、母の日を忘れていたオチか。観客の視線が一夜を追う。隣室へ移動する際に一夜は扉際に隠した小物を取った。
「母さん、これ」
「え」
 差し出された赤いカーネーションに、みりんは戸惑いを浮かべた。
「いつもありがとう」
 平井が拍手をしながら上手から現れ、同時に二人はセットから出て客席にお辞儀をした。
「紗草みりんさん、上月一夜さんでした。やはり、母の日と言えばカーネーションに纏わるエピソードが多いでしょうか。続いては、このお二人です」

 キッチンにて、結が軽やかに包丁を振るう。その後ろでは、ランドセルを傍らに置いたヒカルが、漫画を読んでいた。
「ねえ、お母さん。何か欲しい物ってある?」
「そうねえ」
 結は刻んだものをボールで混ぜ合わせた。
「今はお豆腐が欲しいんだけど」
 がくり。ヒカルはの片肘が大きく滑る。
「そういうのじゃなくてぇ。洋服とか」
「まあ、そう」
 にっこり微笑みながら、結は振り向いた。だが、しかし。
「良いから、お豆腐買ってきて」
 ぽかーん。
「お豆腐」
 たたみかける結に、客席のおばさん達の口元が緩んできた。
「ありがとうね、これでおかずが出来るわ。まあ、母の日にカーネーションまで? おかずが豪華になるわ」
 いそいそと結はキッチンに入り、ヒカルはテーブルについた。
「はい、これがヒカルのおかずよ」
 ぽかーん。
 差し出されたのは、豪華な冷奴。どこが豪華かといえば、ヒカルが贈ったカーネーションが添えてある。
 キッチンに残った皿から、展開が見えた客席からは、忍び声が聞こえてきた。
「ちょっとぉ。何でお母さんだけステーキなのよ」
 ぷうっと頬が膨れる。当然だ。
「だって、母の日じゃない」
「って、違うでしょ!」
 すぱーん。間髪入れずにヒカルは突っ込んだ。
「それなら、最初にステーキが食べたいって言ってよ」
 仕方なく、ヒカルは冷奴を食べ始めた。
「大体さぁ、何であげたプレゼントを、私が食べなくちゃいけないのよ」
 腹いせに、綺麗に千切って添えてあった花びらも、口に放り込む。
 二人の表情の対比に、客席から失笑を交えた笑いがあった。上手から平井がマイクを持って現れる。
「結さんと、ヒカル・ランスロットさんでした。お母さん達、プレゼントはお子さんと仲良くお召し上がり下さいね。では、続いて」

 舞台中央には一枚の扉と玄関を模した短い玉暖簾。太田はセットの手前をゆっくりと歩く。
「家を飛び出して十年。漸く一人前と言えるくらいにはなれた」
 歩を止め、客席を見回しながら、ゆっくりと呟く。
「少しはテレビを‥‥いや、お袋は、わしが試合に出ていると知らんかもしれんのう」
 何かを吹っ切るように、太田は声に力を込めた。
「じゃが、お互いいつまでも、意地を張っていても仕方ない」
 ドアの正面に回り、軽く息を吸う。
 ぴんぽーん♪
 試合前のように肩を軽く上下させる。同時に平井扮する母が現れ、暖簾を掻き分けた。
 がちゃり。
 一瞬の、間。
「お袋!」
「タケフミ!」
 両手を広げて駆け寄り、手に手を‥‥否。
「うおりゃあああああ!」
 ラリアット炸裂。舞台が揺れた。
 ばん、と一動作で起き上がり、太田は吼える。
「いきなり何すんだ!」
「何しに帰ってきた!」
 母の剣幕に数歩後ずさるが、ここでひるんではいけない。けれども。
「お前が親孝行だって? 台風でも来ないうちに帰れ!」
 扉は乱暴に閉ざされた。
「お袋‥‥」
 しょんぼりと肩を落とす。が、太田は不意に顔を上げた。
「じゃが、あの技はどこかで」
 そうだ。まだ駆け出しで技を磨いている時に。リングに上がるようになり、勝利を褒め称え、或いは敗戦を励ますように。何度あの技を受けただろう。
 新聞受けに封筒を挟み、一旦退場。再登場では軽やかにドアに駆け寄った。
 ぴんぽ〜ん♪
「お袋! 今日は見に来てくれてありが‥‥」
「うおりゃあああああ!」
 どっしーん!
 太田、轟沈。客席が沸いた。
「えー、プロレスラーでも母上には勝てないということでしょうか。正に母は強し、ですね。では、一旦CMを挟みます」
 女装のまま、平井はぜいぜいと肩で息をしながら、どうにか後半へとつないだ。

 背景は、下町の路地裏に変わった。ブロック塀を描いたセットの端に、電信柱が立っている。その間をジャージ姿の千田が歩き回っていた。
 続いて平井が現れる。
「やあ、良く来たな」
「良く来たなじゃないでしょ、まったくあんたは」
 母を称えると言いつつ、遠方から老いた親を呼びつけ、プレゼントは帰りのタクシーチケット。しかも、プラスチックケースに一緒に挟んだ紙片といえば。
「えー、千田トキ、○○在住。放浪癖アリ、保護してくれた方に薄謝進呈って、あたしゃまだ耄碌してないよ!」
 すぽん。いま一つ切れを欠いたハリセン突っ込みだが、素人では致し方無い。
 やがて千田は下手へ移動した。袖に入る寸前でジャージのフードを被る。
 すうっとライトが落ちた。。
「あ、そうそう。生きているうちに伝えられなくてゴメンな」
 清々しい笑みを浮かべて、平井の方を振り返る。
「産んでくれて、ありがとう」
 ブロック塀と同色の背中は、淡い照明に溶けるように消えた。
 舞台上には平井が呆然と立ち尽くす。
「あ、えー」
 司会モードに移って良いのか、コントを続けるべきなのか。
(「くく。困ってる」)
 時折、助けを求めるように平井が視線を飛ばすが、当然無視。
「生きてるうちにって。あたしゃまだ生きてるよ」
 平井はすっかり動転している。
「は。もしかして、あの子が。いやいや、そんな筈は」
(「そろそろシメかな」)
 これ以上引っ張らせると、ネタがだれる。千田は舞台に躍り出た。
「ッなぁ〜んちゃって、嘘〜〜ォ! チェダーでした♪」
 スライディングと同時にポーズを決める。ちゃんとよけてあるのに、下手に動いた平井はそのまま転げていってしまった。
 ずれた鬘を直す余裕もなく、よろめき出た平井はトリのコンビの紹介を始めた。
 
 場面は変わって。
 キッチンと続いたリビングでは、赤いストレートロングを束ねたそあらが、掃除機をかけていた。セットの手前で、実佳がうろうろと往復している。瞳と同じ、赤いプリーツスカートに白いハイソックスと、低学年の小学生らしい装いだ。
 財布を覗くも、五百円玉が三枚と厳しい現実。ならば、日ごろ大変そうな家事全般を引き受けたのは良いのだが。
「まずはお洗濯〜☆」
 どざざざー☆
(「あああっ」)
 そあらは、声にならない悲鳴をあげた。
 泡まみれで濡れそぼったシャツをハンガーにかけ、実佳は満足げに頷く。
「次はお掃除〜☆」
 うぃーん‥‥ずぼぼぼー☆
「あ、あれ? あれれ?」
 床に落ちた新聞が引っかかった。
 強引に破り捨てた反動を装って、吸引口はカーテンに向けられる。
「いや〜ん!!」
(「スイッチ切って。切って!」)
 身振りで示し、そあらはソファにかじりつく。実佳はお構いなしに、力任せに引っ張った。屑籠は倒れ、皺が寄ったカーテンがレールからはずれて垂れ下がる。
「レシピは〜、えと、カレーはまずお肉を炒めるなの?」
 ふんっ☆ ふんんっ☆
 ふんぬ〜〜〜!!
「実佳ちゃんありがとう」
 遂にそあらは、そそくさとキッチンに立った。
「包丁は危ないから、お母さんと一緒に作りましょ」
「は〜い☆」
 料理、食事シーンと簡潔につないだ後、実佳はソファで丸くなった。
 食器を片付け、ふうっと大きく、そあらはため息をついた。
 シャツを再び洗濯機に入れ、部屋を眺めて、再びため息。困惑を浮かべる度に、小さな笑いが聞こえる。
 カーテンを吊り直し、手早く掃除機をかけると決然とした表情で客席を向いた。
「びしびし、仕込み直さなくてはね」
 客席から拍手が起こり、起きてきた実佳と並んで礼をして袖に下がった。

 尚、優勝賞金の行方であるが。いずれの出演者も甲乙つけがたく、票が割れたため視聴者プレゼントへと変更された。
 という事になっているが、実際は二役を担当した平井が怪我をしたので見舞い金として送られた。


(代筆:松原祥一)