付喪神奇譚 〜懐〜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 15.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/05〜05/09

●本文

 1980年代、駄菓子屋という児童への菓子・玩具の販売を目的とした商店が多く存在していました。私も、幼い頃は小銭を握り締め、母方の祖母が店主をしていた駄菓子屋に良く行ったものです。
 祖母が店主の駄菓子屋『ゑびす』では、木箱の上にガラス板をはめ込んだケースに飴、ガム等のお菓子が宝物のように詰め込まれていました。私には、そのケースが宝箱のように思えました。

 これから、幼い頃の私が体験した不思議な出来事を皆様にお話します。


 あれは、私が7歳の頃でした。
 母が入院し、父が出張で私の面倒を見られなくなったので、私は一時期祖母の家に預けられました。
 店の奥から、何かがゴソゴソ動くような音が聞こえたので、私は懐中電灯を手にし、店の様子を見に行きました。懐中電灯が照らし出したものは、独楽やメンコ、竹とんぼ、風船といった素朴な物から、スパイセットや昆虫採集セットと名付けられたセット物、余り高価ではないプラモデルなどでした。
 これらが動くわけないだろうと思ったその時、店の隅に大きな塊があったのです。
 何かと思い、私は恐る恐る近づきました。そこには‥‥何人もの人が隠れていました。
「そこで何してるの?」
 その人物達に勇気を出して声をかけると、その人物達は、声を揃えてこう言いました。

『駄菓子屋の付喪神』

 と。
 付喪神というのは、百年経った古い物がなる妖怪と聞きましたが、子供の私にはそれがわかりませんでした。
「つくもがみ、って何?」
 私がそう訊ねると、紙風船を持った着物姿の女性が頭を撫でて「この店が大好きな者の集まりさ」と言いました。
「おっと、自己紹介がまだだったね。あたしは「きぬ」ってんだ、宜しく」
「おまえさん、駄菓子屋が好きか?」
 そう訊ねたのは、歌舞伎役者のような中年男性でした。
「俺達は、子供の人気者なんだぜ、入道のおっさん」
 入道、という名の中年男性に話かけたのは、戦時中の空軍の制服を着た好青年でした。
「飴ちゃん、食べる? あたし、あめ。このお兄ちゃんは神風っていうの」
 あめと名乗った黄色い帽子を被り、白いブラウスに赤いスカート姿の少女が、神風という青年の後ろからひょっこり現れ、私に飴玉をくれました。

 彼らが、怖いものでない存在と知った私は、この後に付喪神達との会話、という貴重な体験をすることになったのでした。


「今回は、えらく懐かしい話だね」
 脚本を読み終えた監督は、輪島珠洲にそう言った。
 この話の時代、珠洲も良く駄菓子屋に足を運んだものだ。
「若者の心を掴むのもいいですが、時にはノスタルジーを感じさせる作品も必要ですよ。親子でこの映画を見れば、いいコミュニケーションになると思いませんか?」
 ま、まぁそうだな、と引き気味の監督。
「それじゃ、今回はこれでいこうか」
「はい」

<登場人物>
私:現在は30代前後の大人。
   登場場面は2000年代の現代の冒頭と終盤のみ(男女不問)
7歳の私:7歳前後の少年少女が望ましい。
      男の子は「僕」、女の子は「私」。同世代は「〜ちゃん」大人は「さん」

<駄菓子屋の付喪神達>
きぬ:紙風船の付喪神。姉御肌で世話女房な着物美人。飄々した口調。
入道:凧の付喪神。歌舞伎役者のような容姿の中年男性。
神風:飛行機プラモデルの付喪神。イケメン風タレントにような青年。
あめ:飴玉の付喪神。無邪気な少女。一人称「あたし」。可愛らしい口調。
    少女に演じられるのであれば、年齢、性別問わず。

※主人公の祖母、その他の付喪神達の設定はお任せします。
※付喪神は駄菓子、玩具に限ります。

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)
 fa4287 帯刀橘(8歳・♂・蝙蝠)
 fa5494 乃路 芹(24歳・♂・亀)
 fa5625 雫紅石(21歳・♂・ハムスター)
 fa5719 相麻静間(8歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

 私(乃路 芹(fa5494))は、亡き祖母の二十三回忌の法要の帰りに、懐かしい記憶が眠る駄菓子屋があった場所に向かいました。
 その場所は、現在はコンビニになり、祖母が経営していた駄菓子屋の形跡はありません。
 
 今でもコンビニで売っているので、「駄菓子」がどんなものかはご存知でしょう。
 私が幼い頃には、今で言うコンビニ感覚の駄菓子屋の店先に駄菓子が置き売りされていたんですよ。

 信じてはいただけないでしょうが‥‥。
 これからお話するのは、私が7歳の頃に体験した不思議な出来事です。

●奇妙な出来事
 僕(7歳の私=帯刀橘(fa4287))のお母さんが病気で入院しちゃったから、お父さんが僕の面倒を見ているんだけど‥‥お父さんがお仕事でおうちを留守にしちゃうから、おばあちゃんのところで、お父さんの帰りを待つことになったんだ。
 おばあちゃんは、駄菓子屋の看板おばあちゃんで、近所の子の人気者だ。
「おばあちゃん、またねー!」
「気をつけておかえり」
 駄菓子を買って、おうちに帰る子達に優しい笑顔で手を振るおばあちゃん。
 いつも美味しいご飯とお味噌汁を作ってくれるおばあちゃん。
 一緒に寝てくれるおばあちゃん。
 誰にでも優しいおばあちゃんは、僕の自慢だ。

 ある日、お布団に入っておばあちゃんが話してくれた『金太郎』を聞いているうちに、僕、眠たくなっちゃった‥‥。

「おばあちゃん‥‥」
 真夜中に目が覚め、おトイレに行きたくなった僕は、気持ち良さそうな寝顔のおばあちゃんを起こして連れてってもらおうとしたんだけど‥‥起こすのが可哀相になったから、一人でおトイレにいくことにしたんだ。真っ暗なのは怖かったけど、ちゃんと一人で行けたよ。
 お部屋に戻る最中、僕は‥‥駄菓子屋のほうから何か音がしたのが気になり、お店の中を見に行くことにした。えっと‥‥電気のスイッチはっと‥‥。

「部屋の明かり、つけないでおくれ」

 その声に合わせたかのように、部屋のなから少しだけど明るくなった。
「坊や、良い子はおねんねしな」
 着物を着ているけど、肩が見えているお姉ちゃんが僕にそう言った。
「お、お姉ちゃん‥‥だぁれ?」
 おっと、ごめんよとお姉さんが謝ると「あたしは、きぬ(雫紅石(fa5625))ってんだ、宜しく♪」とウィンクして自己紹介をしてくれた後、紙風船をくれた。
 そんな僕達のところに駆け寄ってきたのは、短い着物を着た僕と同い歳くらいの赤い色のカイトを持った男の子だった。
「はじめまして、僕は海(クッキー(fa0472))だよ! 僕もお話に入れてよぉー!」
 海くんは、僕と違ってお友達とお話するのが上手なんだ。
 きぬお姉ちゃんは、紙風船を作ったことがあるんだって。すごいなぁ。
 海くんは、きぬお姉ちゃんとは、最近お友達になったんだって。いいなぁ、すぐにお友達が作れて。羨ましいなぁ。
 楽しくお喋りしていたんだけど、僕、眠たくなっちゃった‥‥。
「坊や、こんなところで寝ると風邪ひくよ。布団に入りな」
「うん、そうする‥‥」
 眠い目を擦りながら部屋を戻ろうとする僕を見た海くんは
「おやすみなさい、また一緒に遊ぼうね。今度はもっとお友達を紹介してあげる」 
 と約束してくれた。

●少年の日の想い出
 次の日、学校でお兄ちゃん(ウィルフレッド(fa4286))、といっても「いとこ」だけど、にそのことを話したら
「今は、スペースシャトルが宇宙に行く時代なんだぜ? お化けなんていないって」
 と笑われちゃった。
 お兄ちゃんも、クラスのみんなと同じで信じてくれないんだ‥‥。がっかりとした僕を見て、お兄ちゃんは
「その話が本当なら、今夜も来るかも。なあ、夜のお店に忍び込んで、その二人がいるかどうか確かめないか?」
 と言うので、やっとで信じてくれたんだ! と僕は喜んで「うん!」と返事した。

 夕方、おばさんに「おばあちゃんの家にお泊りしていいよ」とOKをもらったお兄ちゃんがやってきた。三人で食べたカレーライス、すっごく美味しかった!
 ご飯の後は、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入り、夜の出来事に備えて早く寝ることに(と言っても「ふり」だけどね)。

 おばあちゃんが寝たのを見計らったお兄ちゃんが、うとうとしている僕をゆすって起こしてくれた。
「行くぞ」
「う、うん‥‥」
 昨日と同じように、お店の中に入ると

「おや、今日も来たんだね、坊や」

 きぬお姉ちゃんの声がした。
「な、何だ今の声!?」
 お兄ちゃんが驚いているから、僕はきぬお姉ちゃんにお兄ちゃんを紹介した。
「あんたがこの子の「お兄ちゃん」なんだ。宜しく」
「は、はい‥‥!」
 お兄ちゃんが緊張したのを見て、僕はクスリと笑った。
「あ、今日も来てくれたんだね!」
 きぬお姉ちゃんの隣にいた海くんが「待ってたよ!」と大喜び。
「皆、この子が昨日、話してたお友達だよ」
 海くんが、ここにいるというお友達を、僕とお兄ちゃんに紹介してくれた。

「おまえか、昨日ここに来たってのは」
 僕の後ろから声がしたので、振り返って見ると、そこには坊主頭で半ズボンをはいたガキ大将っぽい子がいた。
「僕は殿下(相麻静間(fa5719))だ。おまえ、怪獣好きか?」
「うん!」
 元気よくお返事したら、殿下くんは『異次元恐竜バットン』のカードを見せてくれた。滅多に出ない『ゴールデンバットン』だ! いいなぁ‥‥。
 あ、バットンってのはね、男の子の間で人気のバットを持った怪獣なんだ。
「どーだ、カッコいいだろ?」
 殿下くんは、宝物を見せびらかすように、僕にゴールデンバットンカードを見せてくれたあと、今日の記念にと、僕にそのカードをくれた。もちろん、お兄ちゃんにもね。
「特別だからな? 他の奴には言うなよ?」
 わぁい! と大喜びの僕とお兄ちゃん。本当はみんなに自慢したいけど、殿下くんとの約束は守らないとね。
「男の子は、カードだけでなく、プラモデルも好きなんだろう?」
 僕の身長に合わせて声をかけたのは、古い服を着た男の人だった。パイロットか何かかな?
「神風、自己紹介がまだだろう? あんたが急に声かけたもんだから、この子達、目をくりっとさせてるじゃないか」
 きぬお姉ちゃんが紙風船をポンポンさせながら、パイロットのお兄ちゃんを注意した。
「おっと、失礼。俺は神風だ、宜しく」
 神風という名前のお兄ちゃんはそう言うと、お店に置いてあるプラモデルの箱を手にして、難しい話をし始めた。
「知ってるかい? これはF−14トムキャット。可変翼という、速度によって最適な後退角に主翼角度を変えられるようになっているもので‥‥」
 長いうんちくの後、「いくら怪獣でもこいつには敵わない」と殿下くんを見て、意地悪そうに笑った。
「神風の話、疲れただろう? そのお詫びと言うのも何だけど、おばあちゃんのお話と、お店の話を聞かせてあげるよ」
 きぬお姉ちゃんが聞かせてくれたおばあちゃんの昔話と、お店ができるまでと、できてからのお話はとっても面白かった。お兄ちゃんなんて、もっと聞かせてとおねだりしてる。

 だけど‥‥みんな、どうやってお店に入ったんだろう?

 それが不思議だったので、僕は海くんに聞いて見た。
「そ、それはちょっと‥‥」
 言いづらそうだったので、殿下くんと神風のお兄ちゃんにも聞いたみたけど、海くんと同じような態度だった。
「‥‥いずれ話そうと思ったんだけど、本当の話をしたほうが良いようだねぇ」
 どういう‥‥こと?
「坊や、あたし達は『付喪神』なんだ」
 つくもがみ‥‥? そ、それって‥‥
『おばげー!?』
 僕とお兄ちゃんの声が、きれいに揃った。
「僕、お化け扱いされちゃった‥‥」
 海くんはうつむくと、きぬお姉ちゃんの後ろに隠れた。
「お化けと一緒にしてもらいたくないものだ。なぁ、殿下?」
「同感!」
 ちょっぴり怒っているのは、殿下くんと神風のお兄ちゃん。
「夜が更けてきたね。坊や達、もう寝な。二人が布団にいないと、おばあちゃんが心配するよ」
 きぬお姉ちゃんが‥‥消えちゃった? と思ったら‥‥僕の足元に、紙風船が落ちていた。これが、きぬお姉ちゃんの正体だったんだ。
 海くんはカイト、殿下くんはバットンカード、神風のお兄ちゃんはプラモデルの付喪神だった。

「このことは、皆には内緒にしよう。特におばあちゃんには。こんな話、おばあちゃんが知ったら腰を抜かすかもしれないからな」
「うん」
 僕とお兄ちゃんは「ゆびきりげんまん」をして、誰にも話さない約束をした。

 次の日、お母さんから「あした退院するからね」と電話があった。
 その次の日、僕は
「みんなのこと、大きくなっても忘れないからね」
 と、強く約束した。
 きっとまた‥‥会えるよね‥‥? バイバイ‥‥。

●思い出はいつまでも
 以上が、私が体験した出来事です。信じられないですか?
 そうですよね‥‥信じられない、というのが普通でしょう。
 私も、あれは夢だったと思いますが、従兄も体験していますから、あれは夢じゃないんです。
 いつかまた、付喪神達に会えないかなと今でも思っていますが。いい年した大人が、何て笑わないでくださいね?
 誰も信じてくれなくとも、私と従兄にとっては、貴重で、思い出深い体験でした。

 私の財布の中には、付喪神の一人がくれた『ゴールデンバットン』のカードが入っています。
 あの頃の、大切な少年の日の思い出を、いつまでも大切にしたくて‥‥。