混天綾を取り戻せ!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/16〜09/20

●本文

『封神演義』の研究に没頭している韓国の考古学者、キム・スイルは新たな宝貝を入手した。
 発掘に成功したのは、ナタクの宝貝のひとつと言われる『混天綾(こんてんりょう)』。
 ナタクが腰に巻いていたという七尺ほどある赤い綾絹だ。

 これを見た考古学者のひとりが、このようなことを言い出した。
「これが混天綾か。揺り動かせば水は振動し、さらには天地を揺らす力があるそうだな。本物だったら凄いが‥‥実際に使ってみたら、本当にこのようなことが起こると思うか?」
 混天綾を手にした考古学者の目は、気のせいだろうか、邪な心が宿っているように見えた。
「何を馬鹿なことを、本物かどうかもまだわからんというのに。ナタクはこれを標的に投げつけて、敵を絡め取ったとも聞くが、そんなに幾つも機能を持つ宝貝があるのか。‥‥それより、すぐに研究所に戻ろう。これが本物のオーパーツかどうか早く調べたい」
 会話の後、何事も無く二人は研究所へ。

 その翌日、研究所から混天綾が無くなっていた。
 保管していたガラスケースが壊されていたので、何者かが盗んだのだろう。
「な、何ということを‥‥! まだ何も手をつけていないというのに」
 誰よりも驚いたキムは、同行していた考古学者の言葉を思い出した。

『実際に使ってみたら、本当にこのようなことが起こると思うか?』

 キムの予感が的中していたら、大変なことになる。
 混天綾の機能は未知数だが、それゆえに危険度も無限大である。
「あいつ‥‥! ナタクの宝貝を悪用させん!」

 考古学者を探すと決めたのは良いが、何処に行ったのか不明だ。
 そこで、WEAに協力を要請した。
「私は、中国で『封神演義』の研究をしている考古学者、キム・スイルと言います。あなた方にお願いがあります。宝貝『混天綾』を奪い、その力を試そうとする考古学者を探索してください。名前は‥‥」
 一瞬、キムの言葉が途切れた。
「名前は、キム・スヨン。私の双子の弟です‥‥」
 弟の暴走を何としてでも止めたい。それが、兄としての願いであった。

 翌日、WEAから中国のはずれにある無人島でスヨンらしき男性を発見したと連絡があった。WEAの情報網と、占術系のオーパーツを駆使した結果である。
「スイル君、キミはどうするつもりだ? 弟と戦うのか?」
 WEAのエージェントの言葉に「当然です」と冷静に答えたキム。
「しかし、キミ一人では危険だ。こちらとしても混天綾を知るキミの協力は有難い。そこで我々の選んだエージェントを同行させるが構わないな?」
 断れば手を引けと言われるだろう。
「‥‥わかった」
 WEA中国支部は先日の始皇帝稜の一件の後始末で大忙しな状況が続いていたが、ようやく落ち着きを取り戻しかけていた。
 手のあいた獣人に声をかけて事情を説明する。人数が集まれば良いが、問題は混天綾の力が未知数であることだろう。

●今回の参加者

 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa4941 メルクサラート(24歳・♀・鷹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5689 幹谷 奈津美(23歳・♀・竜)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●無人島へ
 獣人7人と依頼人であるキム・スイルは、彼の弟、スヨンがいる無人島にクルーザーで向かっていた。
「君達を煩わせることになったな‥‥すまない」
 運転しながら謝罪するスイルを見た常盤 躑躅(fa2529)は、彼のプライドの高さを知る一人だ。それを聞き面食らったが、
「気にすんなよ!」
 こんな時にもパンダ覆面を被ったままの常盤は、スイルにニヤリと笑いかけた。
「キムさん、弟さんのことを教えてください。話を聞かないことには、どう対処して良いかわかりかねます」
 斉賀伊織(fa4840)は会った事の無いスヨンの事を知ろうと色々と質問した。そして特に気にしたのは、完全獣化時の影響だった。
「スヨンは、私以上に好奇心が旺盛だ。それ故、オーパーツ発掘のたび能力を試したがる。何度も実行しようとしたのだが、私が止めた。今回は‥‥止められなかったが。獣化した姿は狼だ。感覚系の能力に優れていた。私同様、テコンドーの使い手なので攻撃力は侮れないがな」
「ふむふむ、足技なら私も負けないけどね」
 メルクサラート(fa4941)は聞き取ったスヨンの特殊能力をメモした。感覚系に優れるなら奇襲は難しいか。皆で囲めば何とかなりそうではあるが…。

「未知を究明する立場が、未知に取り込まれ暴走‥‥。探究心と向き合う性故、と割り切れればそれまでだけど‥‥不愉快な話よね」
 幹谷 奈津美(fa5689)が言うと、それに共感をおぼえたものかベイル・アスト(fa5757)も話し出す。
「ふむ。学者故に、好奇心には勝てないというのは同感だな。愚かな話であるがね。‥‥何であれ、為すべき事は混天綾の奪取だ。それが最優先ならば、弟は二の次で構わないんだろう?」
 愚かな弟にお灸を据えてやるか、とベイルは不敵に笑う。
「そう、やるべき事は一つだけだ‥‥」
 様々な想いはあれど、交わした契約と義理は全うするのが神保原・輝璃(fa5387)の流儀。
「それにしても、混天綾とは、また物騒な物が出てきたものじゃの。スイルには申し訳ないが、混天綾奪回を最優先とせねばのう」
 できることならスヨンを傷つけずに捕らえたいが、ドワーフ太田(fa4878)はそれは口にせず、仲間達を見回した。同じように考えている者もいれば、違う者もいる。
「気遣いは無用だ。スヨンが完全獣化した場合は、手加減無しで攻撃してくれ‥‥」
 スイルの顔には迷いがありありと見えた。それは当たり前の感情だ。

 次に、スイルは混天綾について解説した。
「綾」とは、模様を浮き織りにした薄い絹布のことで、混天綾はナタク誕生時に名付け親である太乙真人が贈ったものだといわれる。
「混天綾について調べてみたが、水の中で揺らすのが本来の使い方のようじゃな。そう考えると、無人島の海辺周辺といった水場にいるとみて間違いあるまい」
「混天綾で知られている能力だが、他にもあるようだが未知の力故、どのようなものかは私も知らない」
 スイルは力なく首を振るばかりだ。混天綾は未知の宝貝。獣人達が当たり前のように使っているオーパーツは今も仕組みは解明されず、使ってみなければ能力が分からない代物なのだ。


●スヨン探索
 到着した頃、日は傾き始めていた。天候は晴天。
 地図は、WEA中国支部が予め用意してくれたものを全員が所持している。
 半獣化した幹谷は、仲間達とトランシーバーを確認。持っていない者は持っている者とコンビを組んでもらう。『知友心話』が使えたが、回数制限もあるから心もとない。
「二人ずつに分かれて探索するとするかの。斉賀さんは、スイルと行動を共にすると良い」
 戦闘力のバランスを考慮したドワーフの組み合わせに、反対するものはいなかった。

「海辺を一通り捜してみたけど、スヨンはいなかった」
『高速飛行』で空中から島全体を捜したメルクサラートの報告に、当てが外れたかとドワーフは肩を竦めた。だが収穫はあり、野営の跡を発見した。まだ日はそんなに経ってはいないだろう。
「水場にいる可能性が高いと思ったのじゃがなぁ。もう一度捜そう」
 完全獣化したドワーフは『鋭敏嗅覚』を駆使し、無人島の周辺を念入りに捜すことにした。

 暗視用ゴーグル使ってルート探索をしつつ、混天綾がどのような宝貝なのか見たかったのにと神保原はこの事件を悔む。
(「個人の暴走に巻き込まれたお陰で、余計な手間が‥‥!」)
 もし壊されたりしたら、古代から受け継がれた宝を永久に失う事になる。
「まずは説得‥‥といきたいが、上手く行きそうもないだろう。何らかの手段で不意を衝き、混天綾を奪えれば一番楽なのだがな」
 ベイルはため息をつく。不意をつく確実な手段がある訳でなし、出来る事をするしかない。つまり、この剣で止める他は無いだろう。
「そうは思わないか?」
「‥‥」
 探索に神経を集中した神保原には、ベイルの言葉は聞こえてなかった。

 常盤は無人島を歩き周り、戦い易い場所を探した。スヨンを迎え撃つ事を考えてのことだった。木や草が隠れる場所や楯になるものが多い場所がいい、というのが彼の案だ。
「不安です‥‥」
 スイルの隣にいる斉賀は眉間にしわを寄らせて常盤を見つめている。
「見つけ出せないならおびき寄せる! メガホンで呼びかけろ! 兄貴がいるってわかりゃあ出てくるだろ!」
 スイルにメガホンを渡すと、常盤は『光学迷彩』で姿を隠した。斉賀は目頭を押さえている。相手に気取られないように探索して奇襲する、それが一番と斉賀は考える。未知のオーパーツ相手に、敢えて正面から誘うなど、レスラーらしいと言うか何というか。止めるべきかと思ったが、
「‥‥やってみるか」
 キムは息を大きく吸い込むと、メガホンで弟を呼んだ。

『スヨン、出て来い! おまえがここにいるのはわかっている!』

「何か、近づいて来ます!」
 『鋭敏聴覚』『鋭敏嗅覚』を使って意識を集中した斉賀が、何者かの気配を察知した。この感覚は、獣ではない。
「皆さん、スヨンさんが現れました。無人島の西側です!」
 斉賀からのトランシーバーの連絡を聞いた残りの獣人達が、西に向かった。

「‥‥隠れても無駄だ、匂いがする」
 草叢から出てきたのは、黒縁眼鏡をかけた人狼だった。
「ついてこい」
「待てスヨン!」
 背中を向けて森に入るスヨンを追ってスイルが駆け出す。舌打ちして斉賀達が続いた。


●混天綾奪取戦
 海岸に全員が揃った頃には、辺りは薄暗くなっていた。
「これはこれは。大勢で俺に会いに?」
 獣人達の集結を待っていたスヨンは、腰に巻いた混天綾に触れながら余裕の笑みを浮かべた。
「‥‥それとも、混天綾の餌食となりにきたか?」
 腰の混天綾を素早く解くと、スヨンは鞭を叩き付ける要領で海に向かって振り下ろした。
「海がっ!!」
 ドワーフが指差した方向を見ると、海水が渦を巻いて、それは海上に10mほどの高さの竜巻を発生させた。完全獣化したスヨンは喜悦の表情を浮かべている。
「これでも結構、練習したんだぜ。どうだ、上手いもんだろ? もっと使いこなせば、天地を揺らす力も発動できるはずだ。‥‥悔しいだろう、兄さん? 弟に宝貝を奪われ、使いこなしてるんだから!」
 弟の勝利宣言に、兄は片膝をつく。それは敗北に打ちひしがれているようで、スヨンを満足させた。
「ふむ、説得は失敗と考えてよいかな? では私も遠慮無く剣を振るわせてもらおう。抵抗するなら構わない。だが正気は期待するな、オレは『獣』だからな。食らってやろう。好奇心で混天綾を奪ったのなら、オレの好奇心も満たしてくれよ」
 渇きも退屈も、全て埋め尽くせと、ベイルはティルヴィングを構えた。
「殴る以外の解決もあったと思うけどね。正直、こいつは殴っても気がすまなさそうだ!」
 スヨンがあまりに自分が嫌う者そのものだったので、腹立たしさに身を乗り出す幹谷を、神保原が止める。
「スヨン、気が済んだなら俺達と一緒に帰らないか? 間違ったやり方は感心しないが、目的が研究だけなら、情状酌量はあるかもしれない」
 神保原の説得にスヨンは耳を貸さない。攻撃を待ち受けるように、混天綾を構えている。
「‥‥そうか。その力がなんであれ、正しい事に使えない時点でアンタの負けだ。力の誘惑に弱いのは、生きるモノの宿命だが。それに悦びを見出してしまうと、逆に力に振るわれて自分を止められなくなる!」
 神保原の台詞の返礼にスヨンは、第二撃を仕掛ける。させじと、俊敏脚足を使ったドワーフが間合いを詰めるが、それより早く高波が発生した。
「ぬうぉっ!?」
 叩きつけられる水圧に倒されそうになるのを踏ん張るドワーフ。スヨンの正面にいた獣人達は高波で足を取られたが、
「俺を引きずりこむには、高さが足りないな」
 翼で空に逃れたベイルはスヨンに突っ込む。同じく翼を持つメルクサラートは様子を見守っている。
「くっ」
 スヨンは混天綾を使おうとして、ベイルの魔剣に一瞬怯む。剣で大事な混天綾が切り裂かれるのを恐れ、防戦一方。
「――足りない。ククッ、どうしたさっきの勢いは! 力とやらをもっと見せてみろ」
「今じゃ!」
 ベイルの剣が脳天に振り下ろされるのを、横合いから現れたドワーフがスヨンに体当たりした。
「混天綾、返してもらおう」
「い、いつの間に!」
 ベイルとスヨンが戦ってるうちに回復した獣人達がスヨンを取り囲んでいた。高波に飲まれたと思い込んでいたが、混天綾の力が不完全なのか獣人達が強いのか。
「おイタがすぎる若造には、お仕置きが必要じゃ。スイルよ、構わんか?」
「‥構わない」
 兄のお許しが出たぞ! といってスヨンからドワーフが離れる。
「退屈凌ぎにもならなかったぞ。オレの渇きを潤せ」
 迷惑料として、ベイルは『吸蝕精気』でスヨンの精気を頂いた。
 『光学迷彩』で背後に回っていた常盤は、スヨンを羽交い絞めした。
「分かるか! 俺達はおまえに怪我させたくねぇ! 兄貴もおまえのことを心配してっぞ! 大人しく宝貝を返しやがれ! こいつさえなけりゃあ、おまえも馬鹿な考えから目が覚めるぞ! 分かったか!!」
 姿を消し、羽交い絞めにしたまま常盤が説得(?)する。

「スヨン、混天綾の機能は未知数と言われてきた。お前は海水を操ってみせたが、混天綾とは海水を操るオーパーツなのか?」
 常盤に絞められながら抵抗するスヨンに、スイルが語りかけた。
「これが海水を操るだけの宝貝だと‥‥何も分かっていない! 更に研究を続ければ、俺はナタク並み、いや、それ以上にこいつを使いこなせる!」
 スヨンは激昂し、猛烈な力で常盤の拘束を振り解いた。しまったと思ったが遅い、激しく混天綾を振り乱した!
 天が揺るぎ、地が揺れると思われたが‥‥何も起きなかった。
「な、何故だ!!」
 動揺を隠し切れないスヨンに、メルクサラートの飛羽針撃が降り注ぐ。腕を撃たれ、たまらず混天綾を取り落とすスヨン。
 そこにソニックナックルを両手にはめた神保原が肉薄し、強烈な連打を腹部に叩き込んだ。
「言った筈だ、正しい事に使えなかった時点でアンタの負けだと。何が正しいのか、答えは見つからなくても‥‥欲の為ではなく、自分がこれだと信じた事の為に使えなかった時点で、あんたの末路は知れてる」
 こいつは母親の受け売りってやつだ、と呟く神保原の前に、スヨンは崩れ落ちた。

「スヨン‥‥」
 眼前で血を吐いて倒れた弟に、スイルは茫然と立ち尽くしていたが、突然完全獣化を始める。
「私がおまえを止める!!」
「いかんっ」
 変身しつつ天を仰ぎ、咆哮するスイルを、ドワーフが制止した。完全獣化を妨害する。
「何故止める!」
「だからいかんと言うのだ。これは、WEAに依頼要請されたわしらの任務じゃ。おぬしは手を出すでない!」


「お手間をかけました‥‥ありがとう」
 スヨンはドワーフ達の手で拘束され、混天綾を手にしたスイルは、獣人達に深々と頭を下げて礼を述べた。

 スヨンだが、ダークサイドとの関係が疑われるとしてWEA中国支部にて厳重な取り調べを受けるらしい。おそらく牢獄に入る事になるだろう。