風の盆浴衣美人は誰?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
2.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/31〜09/04
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●本文
以前『売薬超人ギョウショーグン』のテーマソングを作成した富山県にある○×デパートの社長から、またしても仕事の依頼があった。
依頼をされたのは、言うまでもなく弱小プロダクション「笑磨商(わらいましょう)」の社長。
「あのさー、何人か可愛い芸能人のコ集めてくれないかなー? 実は、うちのデパートでミス浴衣コンテストやりたいんだよ。素人を集めるのでもいいんだけどさ、宣伝として芸能人限定の美人コンテストをやりたいんだよ。9月の富山名物、知ってるだろ?」
9月の富山名物‥‥? 何だそれは?
一瞬悩んだが「ああ、アレか!」と笑磨商社長は思い出した。
「その企画‥‥『風の盆コンテスト』っていうんじゃないだろうな?」
「ご名答! 富山で有名な越中おわら風の盆にちなんでの企画なんだよ。コンテストが終わった後は、観客と一緒に踊るって計画もあるんだ」
やはりそうか‥‥と呆れた笑磨商社長だった。
越中富山風の盆とは、富山県婦負郡八尾町の中心街で三日三晩踊り明かすという伝統的な行事である。県内外からの観光客で、普段静かな富山は賑わう。
富山の行事を広めたいという野望を持つ○×デパート社長の思惑はいかに?
●リプレイ本文
●浴衣コンテスト開幕前
富山県にある○×デパートの屋上に設置された特設ステージ。
今回の催し物は『越中おわら風の盆』にちなんだミス浴衣コンテストである。
おわら風の盆は、富山市八尾町で毎年9月1日から3日にかけて行なわれる富山を代表する祭りと言っても過言ではない。
○×デパートで開催されるミス浴衣コンテストは、それのアピールも兼ねている。
開催時刻が迫り、各出場者は控え室で緊張していた。
「あー‥‥ベルトかかった試合の前でもこんなに緊張しないぞ、きっと」
ブリッツ・アスカ(fa2321)は、誕生日に浴衣を貰ったと喜んでいたが、マネージャーに勝手にエントリーをされていた。
勝手なことをしたマネージャーはとりあえず蹴り倒し、しかし出る以上は頑張ろうと腹をくくったものの、着慣れない浴衣と、いつもと違う仕事のせいか、普段の気の強さと豪快さはすっかり影をひそめて、しょっぱなから緊張でガチガチ状態だ。
「俺がミスコンに出ても大丈夫なのかよ‥‥」
仮にもアイドルがミスコンを場違いに感じるのはどうかと思うが、緊張で固まるアスカの姿は初々しい少女のようだ。
以前、売薬超人ギョウショーグンのテーマ作成に関わった雅楽川 陽向(fa4371)は、○×デパートの社長に挨拶しに行った。
「社長さん、この間はお世話になりました。鱒寿司、美味しかったです。それと、参加したかったけど私‥‥無理そうなんで、司会進行係として参加させて貰います」
今回のミスコンは大人の女性限定で、陽向は二十歳であるものの外見は少女のためコンテスト参加は遠慮した。
「ううーん。無理だなんて、とんでもない話だよ。陽向ちゃんなら優勝が狙えると思うのに残念だな」
社長はそう言ったが、主催者が参加条件を曖昧にすればトラブルの元だ。代わりに本人の希望通りにミスコンの司会進行役を頼んだ。
「それじゃ、コンテストを盛り上げるよう頑張ってくれたまえ」
「はい!」
「あなたがここの社長さんですね? 私はアイリス・エリオット(fa5508)と申します。今日は宜しくお願いします」
「キミのような素敵なお嬢さんがコンテストに参加してくれるとは実に嬉しいね。こちらこそ宜しく」
社長は上機嫌でアイリスに握手を求めた。彼女は笑顔で応える。
(「外国人も参加してるって言うのが、少しでも話題作りになれれば嬉しいわ。色んな人がやって来るって言うのは「その大会に魅力がある」‥って事だと思うもの♪」)
初めて体験する日本の行事に、アイリスは胸躍らせていた。
一人が欠席し、陽向が抜けたものの外国人も含めて個性豊かな6名の出場者が集まった。社長は好評なら毎年続けたいと言っているが、さて結果は‥‥?
●コンテスト開催
「ただいまより、風の盆浴衣美人コンテストを開催します。私は、司会進行役を務めさせていただきます雅楽川 陽向です。宜しくお願いします」
マイクを握った陽向が特設ステージに立つ。観客席を見回すが、上々の入りだ。
「元録時代からの伝統を誇る、風の盆の街、富山へようこそ。
見えそうで見えぬ笠の下、普段は見えぬその顔を。見たい?見たいでしょう?」
マイクを観客席に向けながら、雅楽川は徐々に観客を煽った。
「見たいかー? どうしても見たいよねー!
いずれもなかなか見れない、麗しの踊り手達。
今日ここに来られた観客の皆様は、幸せ者♪
それでは登場です! 観客の皆様、盛大な拍手でお迎えください!」
「エントリーナンバー1番、楊・玲花(fa0642)さん!」
楊はにっこりとしとやかに微笑んでステージに登場した。
艶やかな黒髪をアップにして日本髪風にうなじをさらし、浴衣はクリーム地に赤やオレンジの撫子柄を散らし、帯はベージュの縞模様。素足に赤字に水玉刺繍の鼻緒の焼き下駄を履いて、手には黒縞の巾着を下げている。
「女優の楊・玲花です。宜しくお願い致します」
横浜中華街出身の女優はすっかり浴衣美人に変身した。
彼女の登場に、男性客の歓声が沸いた。清楚な着物美人を記念に残そうと、デジカメや携帯カメラのフラッシュが焚かれた。
それに臆することなく、楊はパフォーマンスとして、おわら風の盆で実際に踊られる踊りを団扇片手に披露した。心憎い演出に、観客は盛大な拍手を送った。
「エントリーナンバー2番、草壁 蛍(fa3072)さん!」
続いて登場したのは銀髪の妖狐、バラエティや邦画等で幅広く活躍する草壁蛍。
肌襦袢に上に、夏らしい薄桃色の布地に青い紫陽花模様の浴衣を着て、黒い鼻緒の下駄を履き、小物には藍地に白い紫陽花模様の巾着を下げている。
「草壁 蛍です。この場に出場できて、とても嬉しいですわ」
いつもTOMIテレビで見せている凄味のある笑みでは無い。自然と清楚に穏やかな微笑を浮かべるのは、さすが演技派。日本人離れした容姿だが、古流の道場で育ったせいか着物姿でその所作に無駄はなく、楊同様、男性客の歓声が沸いた。
去り際、草壁は浴衣の裾を気にしながら、観客に手を振って退場した。
「エントリーナンバー3番、ランディ・ランドルフ(fa4558)さん!」
男装の麗人を思わせるランディは出場者6人中、一番の長身。
格闘とスタントで鍛え上げたスプリンターのような肉体を、黒地に白の千鳥格子の浴衣と牡丹柄に赤い帯締め付きの黒帯で隠している。
履物は黒塗りの下駄である。
(「後の事は成るように成れ」)
スタントが本業の彼女は格闘も射撃もプロ級だが、ミスコン技能は未知数だ。
覚悟を決めて無表情のままステージの中央に向かうと、クルリとターンしてクールな表情でそのままステージを後にした。
特にアピールらしいアピールもなく観客はやや呆気にとられたが、一部の女性観客は、ランディのクールビューティーさの虜になったようで‥‥。
「エントリーナンバー4番、ブリッツ・アスカさん!」
紺色地に淡いオレンジと水色で花火を描かれた浴衣に、黒い帯を合わせている。元は黄色い帯で合わせていたが、おわらの伝統に合わせて黒に変更した。ブリッツは着付け専用スタッフに、ウエスト補正、着崩しなしの正統派の着方を念入りにお願いした甲斐あり、綺麗な着こなし方となっている。
(「うー‥‥」)
普段は男勝りな彼女だが、緊張と照れから、ステージに上がってもいつもの元気振りは出てこない。なんだかしおらしい感じになっている。
格闘アイドルのブリッツを期待していた人には若干拍子抜けかもしれないが、意外な一面、新鮮な魅力と思ってくれるファンもいた。
「アスカちゃーん、浴衣姿可愛いよー!」
ブリッツのファンらしき男性が声援を送る。
「おおっ、ありがとなー!」
気取ることなくガッツポーズをとるブリッツの姿が、一番彼女らしいかもしれない。
「エントリーナンバー5番、アイリス・エリオットさん!」
白地に濃い紅で刀の鍔模様が描かれた浴衣、帯は濃茶、片手に朝顔の花が描かれた白い団扇を持ち、髪はアップにして髪飾りをつけている。アイリスは本業がモデルだけあり、ステージに上がる姿も他の参加者より堂に入ったものだ。惚れ惚れとするような華麗な登場である。
「アイリス・エリオットです。見た目は外国人だけれど、母は日本人です。お祭り好きの母に連れられて、何度か観に行った事もあります」
アイリスはステージの真ん中に出ると、団扇片手に盆踊りを始めた。その途中、観客の一人と目があった人ので、団扇から顔を覗かせニッコリ微笑みかけた。浴衣も盆踊りも一緒に楽しみましょう♪ と魅せる様に。
踊り終えると、くるりと回り、ニッコリ微笑み、ペコリをお辞儀をして退場。
「コンテスト後の踊りも楽しみだわ。ふふっ♪」
控え室でも、アイリスは踊れることをとても楽しみにしていた。
「エントリーナンバー6番、竜華(fa1294)さん!」
「好(ハォ)、竜華よ。宜しく♪」
衣装は、チャイナドレスに使う艶感のある生地=アジアンクロスを使用した浴衣だった。普通の浴衣よりフィットした感じと、中国風の金糸銀糸での竜や華の刺繍などで魅せ、裾や胸元に、チャイナボタンで留めている。ボタンを飾りで入れているのが、異国情緒を醸し出している。
着こなし方は、浴衣のスリットを見せるようなカンジ。チャイナドレス風なので、スリットがあってもおかしくはない。
一部の男性客は、竜華の脚線美に心を奪われてた。中には、美しいおみ足を近づいてみようとする不埒な客も。
変わっているのは素材による艶感、ヌメ感、フィット感+刺繍で、袖の形程度は弄っても良いかなーという程度だ。
髪を結い、うなじが見えた時に魅力的に写るように気を配っている。
竜華は、浴衣の着こなし方の他、ワザと見せ付ける様な魅力ではなく、抑えた中に醸される魅力で勝負と出た。
竜華が退場すると、男性客の惜しむ声が聞こえ始めた。
●ミス浴衣コンテスト優勝者は?
優勝決定までの待ち時間に、トークで観客席を飽きさせないように雅楽川は歌い始めた。歌ったのは、八尾四季の一節。
歌い方を習ったのだが、実際に歌うとなるとかなり難しい。歌手なので、即興で歌えるだけでもすごいといえよう。
1時間後、集計結果の発表が出た。○×デパートの社長は、胸ポケットから封筒を取り出して優勝者を発表した。
「発表します‥‥と申し上げたいところなのですが、投票数が偶然‥‥というか、何というか‥‥全員同票なので、異例ながら、全員をミス浴衣コンテスト優勝者と致します」
異例の事態にブーイングの嵐が起きた。確かに聞いたことが無い結果だ。
出場者全員がステージに立ち、観客たちを必死に宥めた。その中で特に力を入れていたのはブリッツだった。
「納得できないのはわかりますが、浴衣美人達を祝福してあげてくださいっ!!」
雅楽川も必死に説得する。
その甲斐あってか、ブーイングは収まり、コンテスト終了後、屋上で観客達を交えたおわら踊りが始まった。
コンテストの出場者達は、事前に地方(地元の踊り手)から踊り方を教わっているので、観客たちと共に楽しく踊った。
ブリッツは興味もあるということもあり、踊りに必要なリズム感もあるので上達は誰よりも早かった。
富山にも、秋の気配が感じられる季節がやってきた。浴衣美人と共に‥‥。