風の盆浴衣イケメンは?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
氷邑
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
やや易
|
報酬 |
2.2万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
09/02〜09/06
|
●本文
以前『売薬超人ギョウショーグン』のテーマソングを作成した富山県にある○×デパートの社長から、またしても仕事の依頼があった。
依頼をされたのは、言うまでもなく弱小プロダクション「笑磨商(わらいましょう)」の社長。
「あのさー、何人かイケメン芸能人のコ集めてくれないかなー? 実は、うちのデパートでミスター浴衣コンテストやりたいんだよ。素人を集めるのでもいいんだけどさ、宣伝として芸能人限定のコンテストをやりたいんだよ。9月の富山名物、知ってるだろ?」
9月の富山名物‥‥? 何だそれは?
一瞬悩んだが「ああ、アレか!」と笑磨商社長は思い出した。
「その企画‥‥『風の盆コンテスト』っていうんじゃないだろうな?」
「ご名答! 富山で有名な越中おわら風の盆にちなんでの企画なんだよ。コンテストが終わった後は、観客と一緒に踊るって計画もあるんだ」
やはりそうか‥‥と呆れた笑磨商社長だった。
越中おわら風の盆とは、富山県婦負郡八尾町の中心街で三日三晩踊り明かすという伝統的な行事である。県内外からの観光客で、普段静かな富山は賑わう。
富山の行事を広めたいという野望を持つ○×デパート社長の思惑はいかに?
●リプレイ本文
●問題発生?
直前で二名欠席した。これで参加者は6人になったが‥‥
「キミ、出場資格はわかっているのかね?」
○×デパートの社長は、まだ無名のアイドル歌手仲間好色(fa5825)に渋い顔を向けつつ訊ねた。
「げいのうじんとして、としをごまかしてさんかするのってふつうでしょう? だから、みしき18さいってことでさんかします」
怖いもの知らずのまだ無名アイドル歌手は、堂々とそうのたまわった。
出場資格は大人のイケメン芸能人だったが、仲間はどうみても小学生。実年齢も13歳と、全く想定外の応募だった。
「どうしましょう?」
不安そうに尋ねるスタッフに、社長はため息をついた。
「‥‥仕方がない。頭数だけ揃えるか」
出場者不足で一応参加は許可された。ただし、もし優勝した場合は辞退するという条件である。仲間は不満だったが、渋々納得させられる。
●控え室
「風の盆初日に見学に行ったんだよ、俺。そしたらミスコン出場者と間違えられたぜ」
間違うんじゃねぇってばよっ! と心の中で涙を流す千架(fa4263)。本業の方でよく女装モデルをするので自業自得の気もするが、本人は結構気にしていた。
「しかし良い町じゃねぇの、菓子も酒も美味いし。銘菓「おわら玉天」と銘酒「風の盆」は、バッチリ堪能済み♪」
名物に美味いもの無しというが、中々面白い味だと話した。無論、今は飲んでいない。
「‥‥あんたもか。この辺りは良い菓子職人が多いと聞いたから、道すがら幾つか仕入れてきた。試食出来る店が多いのはいいな。‥‥食うか?」
そう言って他の出場者達におわら玉天を勧めるのは奏者兼モデルの克稀(fa5812)。
克稀はどちらかと言えば奏者が本業だが、モデルとしても活動している。クールな印象だが、実は超甘党で今回は半ば菓子目当ての節がある。周囲が唖然とする中、もぎゅもぎゅとマイペースにおやつタイムを楽しんでいる。
「俺はさっき食ったからさ。所で、そいつは舞台で吹くつもりなのか?」
克稀のサクソフォーンが千架の目に止まる。
「ああ‥‥喋るのは苦手だ」
「ふうん。なあ、風の盆てさ‥‥なんつーか賑やかにワイワイっつーより、風情を楽しみてぇ感じがするんだよ。音が良いわ。お囃子に三味線や笛、太鼓じゃなくて、胡弓を使うだろ。アレでぐっと雰囲気が変わってイイよな♪」
克稀はコクリと無言で頷く。
胡弓の音色はどことなくもの悲しげを感じるが、おわらには欠かせない楽器である。
「越中おわら風の盆ですか‥‥初めてですねー。聞いた話しだと、台風の風避け祈願と豊作祈願のお祭りなんだとか。明かりと踊りが幻想的で、素敵な行事ですね。コンテストが終わったら見に行けるかな」
国民的雑誌モデル兼俳優の星野・巽(fa1359)は浴衣コンテストより、純粋に踊りと音楽が楽しみにしていた。事前に調べたのだろう、色々と知っていた。
「踊りも数種類あると聞きましたし、胡弓を使う民謡も珍しいので‥‥。俺、胡弓の音は大好きなんです」
そう言いつつ、星野は千架の浴衣姿をじっと見つめる。
「なんだよ?」
「‥‥いえ、ただちょっと、千架の浴衣姿が珍しくて」
そうかぁ、と千架は首を捻る。いつもは女装してますから男浴衣が珍しい、とは口に出さない星野である。
「風の盆って以前テレビで見かけたくらいだったんだけど、ちょっと調べてみただけでもこれを知る人たちにホントに愛されてるなーという空気が伝わってきた。地域に根付いてる類の唄とか音楽とか聞けるのも嬉しいし、そこで踊りに参加させてもらえるのは幸せだよなっ♪ もちろんコンテストの方は盛り上げていこうっ」
アイドルの諫早 清見(fa1478)は、皆でイベントを盛り上げようと張り切っている。
●コンテスト開催
「お待たせいたしました。ただいまより、浴衣イケメンコンテストを開催いたします」
司会進行役は、○×デパート一番人気のエレベーターガール。編み笠に浴衣という、おわらの衣装でマイクを持っている。
「エントリーナンバー1番、ハディアック・ノウル(fa0491)さん!」
本業はトランペッターであるハディアックは、黒に白い流線の入った浴衣に、ブラウンのネクタイのような形をした変わった帯を付け颯爽と登場。浴衣姿であるにもかかわらず、トレードマークであるサングラスは外さない。彼のポリシーだろう。
舞台の中央に向かい「ども」と軽く挨拶をした後、退場した。
「エントリーナンバー2番、仲間好色さん!」
エレベーターガールは「くん」付けのほうがよかったかしら? と一瞬思ったが、社長から18歳として扱うよう念を押されているので「さん」付けで呼んだ。
仲間の浴衣は、シンプルに紺系で、裾の所に柄がボンとでっかく描いてある。柄は有名な熊さんだ。
「みしきくんは、なにきてもにあうの」
これはコスプレなの、とアピールし、半獣姿で唄って、踊っている。耳をふりふり、尻尾ぱたぱたして可愛らしさをアピール。
可愛いが、完全にチャイドルのそれである。
年齢を偽ってまで出場したのだから、ここで男らしさも見せなくてはと、みしきはニコニコみしきスマイル攻撃から、浴衣を片腕だけ脱いで、時代劇俳優のように力こぶを見せた。
「みしきくんは、ひ〜ろ〜なんだよ」
そのあとステージから飛び降りて決めポーズ。
格好よく見得を切ったつもりで、目がキラキラと輝いている。完全に自分の世界に浸っていた。
仲間がなかなか退場しなかったので、次の出場者の出番までに時間がかかった。
「エントリーナンバー3番、諫早 清見さん!」
濃い青灰色地の浴衣に黒の角帯、左手首に藍色のヘンプブレスレットをつけて登場の諫早。
下駄にしようかと思ったが、そのまま踊りに突入する進行でいるので雪駄履きである。
浴衣を落ち着いた色合いで揃えたので、団扇より色調を揃えた扇子を持っている。
「参加できてとても嬉しいです、踊りも一生懸命覚えていくんで宜しくね」
広げた扇子を振り、喜んで観客にお礼を言う諫早の好感度は高かった。
「エントリーナンバー4番、千架さん!」
普段は女装している千架が、今回は粋な男風な衣装だ。
ご当地を意識してか、深藍地に半身と袖下が銀鼠との市松模様、袖口や身頃全体には桐の花がまばらに散らされた柄の男衆の法被風をアレンジし、裾端折って捲り上げ黒の帯を留めている。黒股引に黒足袋、黒い鼻緒の草履履き。
いつも付けてるシルバーアクセは控え目だが、御守り代わりのドッグタグは外せない。長い髪は、後ろでラフに一束ねしている。
女装姿の彼しか知らない一部の観客は、千架の男前な姿に驚くと同時に、意外性に拍手を送った。
「エントリーナンバー5番、克稀さん!」
ダークグレーのしじら織地に、光沢を鈍らせた銀糸で風神を織り込んだ浴衣姿は、渋めの色合いの中に勇壮な印象を与えているように見える。帯代わりに、数本の黒ベルトと銀チェーンでアレンジ着用。浴衣の袖をまくり、動き易い自然体で登場。
濃い目のグレーの鼻緒の桐下駄履きと粋な姿だが、ピアスやバングル、指輪等、普段から多めに身につけているアクセはいつも通りだ。
コンセプトは「男っぽく渋い浴衣をパンク、ロック風味にした印象」だろう。
喋るのは苦手なので、自己アピールは無かったが、それが普段通りの彼を醸し出していたので、彼のファンはそれだけでも十分堪能した。
「いよいよ最後の出場者となりました。エントリーナンバー6番、星野・巽さん!」
国民的モデルの登場に、女性観客が黄色い声援を送った。
そんな星野のイメージは「浴衣デート」。
チャコール地に赤い細い縦ラインが所々に入った麻混浴衣に、白生成にチャコールグレーのスッキリしたラインが上部に入った
角帯を合わせ、着崩すこともなくオーソドックスにスッキリと着こなしている。濃い色の桐下駄と麻×革の信玄袋をさり気なく。
耳元は銀のピアス&右手にシンプルな銀の指輪に、ジュートの中折れハットを合わせている。
千架、克稀に続き、星野もさりげなく浴衣にアクセサリをつけている。
188センチという長身だが、浴衣の着こなしは全く違和感が無い。
●審査発表の前に。
審査発表までには、まだ時間がある。
その間、ステージ上で自己アピールをしなかった克稀が、サックス演奏をすることになった。演奏曲はおわら節。
(「昔は尺八も演奏に加わっていたらしいが、今は無いんだな」)
そのことを残念に思いながらも、伝統的な音色と一味違う情緒や繊細さを大切にした上でサックスらしさも加え、おわら節を奏でた。
哀愁漂う胡弓の音色とは一味違うサックス演奏は、観客達に大変喜ばれた。
「‥‥御拝聴、どうも」
照れながら、克稀は一礼してステージを後にした。
●審査結果
一時間後、審査発表がエレベーターガールにより行われた。
「発表します。浴衣イケメンコンテスト優勝者は‥‥ 星野・巽さんです!」
発表後、盛大な拍手が星野に送られた。
「それともうお二方いらっしゃいます。千架さんと克稀さんです! なお、このご三名ですが、同票でしたので同時優勝と致しました。皆様、盛大な拍手でお祝いください!」
優勝した星野、千架、克稀には、賞金5万円とおわら玉天12個入り、おわら節CDが贈呈された。
「星野くん、千架くん、克稀くん、優勝おめでとう。キミ達の個性的な浴衣の着こなしは、おわら節の伝統を覆すほどだったよ。コンテストを盛り上げてくれてありがとう」 社長の労いに、三人は微笑んだ。
「社長さん、マイク貸して」
千架は社長からマイクを渡されると、こう宣言した。
「初日にミスコン出場者と間違われ、拉致られかけた千架です。ミスターなんで。男なんで。背ぇ低くても男、男なんでっ!」
よほど悔しかったのか、三回も主張した。
発表の後は、観客を交えてのおわら踊りが開催された。
事前に練習した甲斐あり、星野は子供達と一緒に嬉しそうに踊っている。
諫早は、これが終わったら坂の町で踊りの輪を探して歩いてみたいと思った。だが、坂道を歩くだけでも体力勝負となる。
千架は、妙な違和感を感じた。他の男性と違う踊りをしているような気がした。
「俺が習ったのって女踊りか!?」
おわら踊りには、男踊りと女踊りの二種類がある。女性と間違われた彼は、女踊りを教えられたようだ。
富山にも、秋の気配が感じられる季節がやってきた。浴衣イケメンと共に‥‥。