Blue in Red 10アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 氷邑
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 09/23〜09/27

●本文

 青は、南国の孤島を取り囲むように広がったネイビーブルー。
 赤は、その孤島に聳え立ったホテルの中で起こる惨劇を象徴する血。
 日本国の謀略によりランダムに集められた32名の一般市民が、たった一つの生存権を賭け、孤島のホテルで殺し合いを行う。
 帰る事も、逃げる事も出来ない人間の極限が見せた弱さ、醜さ、美しさ、裏切り、愛情、友情、絆。そして運命を捻じ曲げようとする比類無き強さ。

 千ページ以上にも及ぶ良い意味でも、悪い意味でも問題作と言われたこの長編小説の映画化が決定し、撮影は順調に進んでいる。

 撮影は、クライマックスを迎えようとしていた。

・シーン1
 モニター室でホテル内の様子を見ていた内閣総理大臣・真山壱は、人数がなかなか減らないことに苛立っていた。
「殺し合いが進展しないとはな‥‥私が手を下すしかないか」
 そう言うと、真山は手にしていたリモコンのスイッチを押した。
 すると‥‥参加者の檜村零児、丸山高貴が爆死した。

・シーン2
 カナ芳村は、父であるユーリーを失ったショックが大きかったのが、その場で呆然としてたが、このゲームを企画した真山を復讐することを決意する。
「お父さんの敵は‥‥私が討つ!」
 一人だけでは無理なので、共に仇を討つ仲間を捜し始めた。
 仲間を捜していたカナは、戦いの最中の栗原亜依と坂崎明憲と出会った。
 二人に協力を要請したが、聞く耳持たず。
「このゲームを終わらせたくないの!? だったら、協力して!!」
 カナの必死の説得で、二人は休戦することにし、真山の元に向かうことに。

・シーン3
 真山の元に向かう途中、船医の志水剣一郎と『赤い狼』の人格である赤城拓也と合流。彼もまた、真山の復讐を決意した一人だ。
 カナから事情を聞き、真山の元に向かう決意を固める剣一郎。
 赤い狼は、自らのプライドのため合流。

・シーン4
 医務室では、看護師の数井療子が花崎美咲の看病をしていた。
「大丈夫だよ、美咲ちゃん。私たちは、きっと助かる」
 気弱になっている美咲を励ます療子。
 療子は、ひとつ気になることがあった。榊都が医務室を去る時言い残した
「私は、生きる為の準備してきます」
 あの言葉は、何を意味しているのだろう‥‥。
 医務室が安心だと思った方城瑞希は、ノートパソコンを持ち込んで駆け込んだ。
「お願い、ここに匿って! 私‥‥叔父様、いえ、真山壱の野望を阻止したいんです!」
 瑞希は、狂気に蝕まれた叔父を何としてでも救いたかった。

・シーン5
 モニター室で、参加者数名がここに向かっていることを知った真山。
 秘書である神凪華に、キリング・ドールを出動させるよう命じる。
 自分も行動させて欲しいという華の要望を、真山は聞き入れた。

 華とキリングドールがモニター室から出ようとした時、カナ達が立ちはだかった。
 カナ達は、サバイバルゲームに終止符を打つことができるのだろうか?

<登場人物>
 赤城拓也:本編の主人公。復讐を決意したことで「拓也」と犯罪者的人格「赤い狼」の人格が融合。
 神凪華:真山の命令で参加者として参加中の秘書。 
 志水剣一郎:内閣総理大臣、真山壱の復讐に燃える船医。
 数井療子:怪我人を看病する看護師。
 榊都:自殺志願者だったが、負傷したことで生きたいと願う。
 カナ芳村:父・ユーリーの仇を討つべく、真山に復讐しようとしている。
 栗原亜衣:結婚詐欺を繰り返している享楽的な女性。
 坂崎明憲:相撲スタイルの格闘技を得意とする格闘家。
 花崎美咲:医務室で休養中の女性。
 方城瑞希:パソコンの扱いに長け、ハッキングを得意とする。真山の親戚にあたる。

 真山壱:内閣総理大臣。
      冷酷非情、国粋主義者、選民思想に凝り固まった人物。

※武器はホテル内を破壊する恐れのある重火器の類意外であれば問わず。
※キリング・ドールはNPCが演じます。

<これまでの生存者、死亡者(五十字音順)>
 生存者:赤城拓也、数井療子、カナ芳村、神凪華、栗原亜依、榊都、坂崎明憲
      志水剣一郎、花沢美咲、檜村零児、方城瑞希、丸山高貴、
     
 死亡者:青嶋奈緒美、青柳健一、亜澄涼子、飯田健太郎、海馬厚司 、梶原ゆう
      神田カンタ、霧咲彰吾、田沼秀雄、月凪 鈴、都築哲司、野川夏希
      野川邑吏、尾藤裕二、藤吉住男、本木美鈴、矢田メイ、ユーリー芳村
      渡キリエ、渡辺雄一

<映画設定>
・大きな舞台の別の一場面としてリンクしている。
・参加者には全員孤島に入る前にマイクロ爆弾を取り付けられて、島から出ると爆発。
・ホテルの外は森、罠有り。

<赤城拓也、真山壱以外の登場人物 ※()内はシリーズ数>
・数井療子(4、5、7、8、9)
・神凪華(4、5、6、7、8、9)
・栗原亜依(6、9)
・榊都(5、6、7、8、9)
・坂崎明憲(5、9)
・志水剣一郎(3、7、8、9)
・花沢美咲(6、8、9)
・檜村零児(4、8)
・方城瑞希(1、2、3、6、8)
・丸山高貴(4、7)
・カナ芳村(3、9)

●今回の参加者

 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa1058 時雨(27歳・♂・鴉)
 fa1610 七瀬・聖夜(19歳・♂・猫)
 fa3890 joker(30歳・♂・蝙蝠)
 fa4040 蕪木薫(29歳・♀・熊)
 fa4235 真喜志 武緒(29歳・♂・狸)
 fa4354 沢渡霧江(25歳・♀・狼)
 fa5257 レーヴァ(18歳・♀・獅子)
 fa5486 天羽遥(20歳・♀・鷹)

●リプレイ本文


 檜村零児(七瀬・聖夜(fa1610))は、他の参加者が見当たらず、思うように戦いが出来ない事に苛立ちながらも廊下を彷徨っていた。
「ちくしょう! 何で一人も居ないんだ!」
 大声を上げ、廊下の壁を蹴飛ばして苛立ちを発散させるが、気分は晴れず。
 物音を立てれば、誰かに気づかれるのだが人の気配が全く感じられない。
「他の奴は何処に隠れてやがるんだ!」
 好戦的な零児の苛立ちは、最高潮に達していた。

 内閣総理大臣・真山壱(joker(fa3890))は、モニター室でその様子を窺いながら、思うように進展していないことに眉間にしわを寄せ苛立っていた。壱の「氷の面」と謳われている冷静沈着、冷酷非情な表情が一瞬とはいえ崩れたのを見た秘書の神凪華(沢渡霧江(fa4354))は、ただならぬ雰囲気を瞬時に感じ取った。
「私の思うように進展しないとは‥‥。ならば、我が手で進展させるまでだ」
 プレジデントチェアに仕掛けてあるスイッチを押すと、零児がいる付近の廊下の壁が爆破された。
「そこか!」
 廊下の先の物音を聞いた零児は、やっと殺し合いが再開出来ると喜び勇んで音がした方向に駆け寄ったが‥‥誰もいなかった。
「なっ‥‥!」
 爆破により破壊されたホテルの壁を見て、愕然となる零児。
「もののついでだ! どうせなら派手に‥‥。さあ、皆、死に急ぐがいい!」
 いっそのこと、と思い、島に仕掛けられた爆弾の爆破スイッチを押すが、島全体が一気に爆破ではない。じわじわと甚振るように、爆発区域と施設が広がっていくのだ。
「一気に壊しては面白くはない。私の楽しみもとっておかねば‥‥」

 それにより、檜村零児は自らの死に気づかぬままゲーム離脱。
 別の場所では、コック長の丸山高貴も同じような最期を迎えていた。


 カナ芳村(天羽遥(fa5486)) は、元特殊部隊の軍人で、家にはいないも同然だった父・ユーリーとようやく和解でき、長年のわだかまりが消えたかと思った矢先の出来事に呆然としていた。
 そのことにより、サバイバルゲームを計画し、実行した壱を憎み、周囲が見えなくなた。
 彼女は、壱の復讐を決意した。
「お父さん、私‥‥必ず敵を討つから見守っていて!」
 どこで何が起きるかわからない場所での単独行動は自殺行為に等しいので、カナは共に壱を討つ仲間を捜し始めた。

 ホテル内を彷徨うこと十数分。
 廊下の一角で、栗原亜依(レーヴァ(fa5257))と坂崎明憲(時雨(fa1058))が格闘中だった。
 両手に小型ナイフを持ち、蝶が舞い、蜂が刺すという言葉が相応しい亜依のナイフ捌きは、明憲の急所を正確に狙っていた。
「どうしたの? 避けるだけじゃ面白くないわ! かかってきなさいよ、元相撲取りさん!」
 攻撃の最中だが、隙を見てはスリットをちらつかせて色仕掛けの挑発をする亜依。
 力は優れていても、動きが鈍い明憲だが、かろうじて亜依の攻撃を避けた。
「なめるな、女! 色仕掛けじゃあ、俺は倒せねぇんだよ!!」
 寸でのところでナイフを避けては、突っ張りや体当たり攻撃を仕掛けようとするが、ダンスを踊っているかのようにことごとく亜依に避けられてしまう。

 二人の戦い振りを見たカナは、この人達と力を合わせれば‥‥と考え、二人を止めようとした。
「二人ともやめて! 争っても何もならないことがわからないの!?」
「俺はなぁ! この戦いに集中してんだよ! 邪魔するなっ!!」
「あなた、何!? もう少しで確実に仕留められそうなんだから邪魔しないでっ!」
 互いを倒すことしか考えていない二人を止めるのは無理なのだろうか。
 カナが俯いた時、仲間を探していた榊都が駆け寄ってきた。
「良かった‥‥無事だった人がいて‥‥」
 亜依と明憲を見た都は、生存者がいたことを素直に喜べなかった。ゲームが始まってかなりの時間が経過しているのに、僅かでも生存者がいることが壱に知れたらどうなるかと思うと余計だ。
「あなた達‥‥自分が置かれている状況がわかっていないのですか? ここに来る前に受けた健康診断で、身体にマイクロ爆弾を取り付けられているのですよ。この様子を真山が見ていたら、どうすると思いますか?」
 動きを止め、思考する亜依と明憲だったが答えは出なかったようだ。
「カナさんのお父さんは‥‥島を脱出しようと試みた際、マイクロ爆弾が感知して爆死しました‥‥。それと、ここに来る前、参加者とおぼしき方がお二人爆死していました‥‥」
「あなた、見ていたの‥‥?」
 目撃者がいたことを、カナは全く気づかなかった。
「はい‥‥偶然ですが。ここまで言ってもわからないですか?」
「あたし達の中に爆弾が仕掛けられているということは‥‥」
「真山の野郎にドカン! とやられかねん、ということか」
 都の説明に、二人はようやく自らの立場を理解できた。
「あなた達も、爆死はしたくはないでしょう? 真山だけが、爆弾解除の方法を知っているのよ」
 私は脱出経路を探します、と言い残し、都はその場を離れた。
カナの必死の呼びかけで休戦。
「しゃあねぇなあ‥‥真山んとこに行ってやろうじゃねぇか。一発ガツンとやんなきゃ気がすまねぇ!」
「‥‥分かったわ、協力してあげる。相撲取りさん、決着はその後に着けましょう」
 都の協力もあり、亜依と明憲はカナと共に行動することに。


「見たところ、只者では無い男だと思っていたが‥‥私の勘違いではなかったようだ」
 途中で合流した船医の志水剣一郎(真喜志 武緒(fa4235))と共に壱の元に向かう途中、ユーリーが死亡したことを『赤い狼』の人格である赤城拓也(ディノ・ストラーダ(fa0588))が伝える。
「ついに‥‥爆弾による死亡者が‥‥」
「子を思う父親の性‥‥というヤツだな」
 フッ‥‥と自嘲気味に言う赤い狼。
 二人の会話が終わった頃を見計らったように、カナ達が二人に出会う。
「あ‥‥あなたは‥‥」
 赤い狼を見て、ユーリーの死を思い出したカナだったが、頭を振り、忘れようと努めた。
「あなたは、お医者さんですね? でしたら、私達の体に精密な爆弾が仕込まれていることを知っていたんですか?」
 船医である剣一郎なら、健康診断に関わっていると推測したカナの唐突の質問。
「私はここに来る際に乗っていた船の医師だが、健康診断には一切関わっていない。行ったのは、真山に関係する医師だろう‥‥」
 剣一郎自身にもマイクロ爆弾が仕込まれているので、彼が関わっていたのであれば、埋め込まれてはいない。
「そうですか‥‥。ここに来る前、榊さんに会ったの。榊さん、ホテル内で二人爆死したことと、真山が爆弾解除の鍵を握っているかもと話してくれたわ。私、他の人の爆弾を解除してあげたい! お父さんが‥‥爆死したから‥‥」
「その話は、先程ここにいる赤城くんから聞いた。お気の毒としか言いようが‥‥」
「私、真山を許せない! やっと‥‥お父さんと解りあえたのに‥‥!」
 拓也とカナの話を聞き、剣一郎は爆弾についての仮説を頭の中で立てていた。

『この島から一歩でも出るとドカン! なを忘れないように』

 参加者が大広間に集められた時、壱はそう言った。
 それが確かであれば、島を出ようしたユーリーが爆死したことは納得できるが、ホテル内での爆死者が出た、とはどういうことだろう?
(「任意に爆発させたり、ある程度、範囲が狭まれば爆発するということか‥‥?」)
 あれこれと考えるが、仮説は纏まらない。
 
 迷っている剣一郎に、赤い狼は
「志水先生、キミには為すべき事があるだろう?」
 と彼の迷いを吹っ切らせるように言い放った。
 医務室に戻るべきか否か迷っていた剣一郎だったが、赤い狼に「自分の思う闘いをしろ」と言われた意味を悟り、復讐より、生きる者を救う事こそが自分の闘いだと自覚した。
 医師である以上、他人を殺めるより、今、ここにいる人を救う事を選んだ彼は、医務室に戻ることを決めた。
「結局‥‥私は医師ということか‥‥」

「情熱とは美しいものだ。私にも、まだ少しは残っている筈だがね‥‥」
 走って医務室に向かう剣一郎の後姿を見送りながら、赤い狼が呟いた。


 医務室では、看護師の数井療子(蕪木薫(fa4040))が花沢美咲を看病していた。
「大丈夫だよ、美咲ちゃん。私たちは、きっと助かる」
 美咲の手を強く握り、生きて帰れることを信じる療子。
「‥‥助かるかな‥‥?」
「強く信じれば、きっと助かるわ」
 優しく微笑み、美咲を安心させる療子だったが、医務室を出る都が言い残した

『私は、生きる為の準備をしてきます』

 という言葉の意味を考えていた。
 自殺志願者だった彼女が生きる意志を取り戻したのだろうか? それとも‥‥。
 思考を巡らせるが、今は負傷者の手当てが優先だ。
(「さっきから、何か異変が起きているみたいだけど‥‥気のせいかしら? 何かが、急速に‥‥終わりに向けて進んでいる‥‥。そんな気がしてならない‥‥。進めている人達がいる、そんな感じがしてならない‥‥」)
 そう思いながらも、他の参加者の無事を願っている。
 その時、ノートパソコンを抱えた方城瑞希が医務室に駆け込んできた。
「どうしたの!?」
「お願い、ここに匿って! 私‥‥叔父様、いえ、真山壱の野望を阻止したいんです!」
「その話は後でしましょう。とにかく、早く中へ」
 息を切らせた瑞希を落ち着かせるため、療子は彼女を医務室に招き入れ、椅子に腰掛けさせた。

「はい、これ飲んで落ち着いて」
 療子は、淹れ立てのコーヒーを瑞希に手渡し、落ち着かせようとした。
「ありがとうございます‥‥」
 温かいコーヒーを飲んで落ち着いたところで、瑞希は壱について話し始めた。
「私は、叔父様は‥‥昔は優しい人でした。でも、ある日‥‥とても可愛がっていたお嬢さんが殺されんです。その犯人は、叔母様と、叔母様の元恋人の男だったんです。っ私は、叔母様の親戚にあたるものです」
 最愛の妻の裏切りが引き金になり、元々歪んでいた思想に拍車がかかり現在の真山壱が形成された。
 その事実を知った療子は、壱も哀れな患者のひとりに思えた。
「叔父様を止めることは無理でも、爆弾解除の方法はないかとハッキングを何度も試みましたが‥‥強力なプロテクトがかかっているため、無理でした‥‥」
 壱の罪は自分の罪でもある、と瑞希は自分を追い詰めているようだった。
「私がこのゲームに参加させられたのは、ハッキングで政府機密事項であるサバイバルゲームの内容を知ったからですが、本当は‥‥裏切った叔母様の血縁者である私を抹殺したいからという私怨からだと思います。それで叔母様の罪が償えるのなら‥‥私は‥‥」
 そんなの間違っている! と叫んだのは美咲だった。
「あなたが悪いんじゃない、悪いのは狂っている真山よ! あたしは…‥ここで自分を陵辱した男にあったわ。あの時の復讐ができるチャンスだと思ったけど、人を殺めることなんてできなかった‥‥。悪いのはあなたの叔母さんであって、あなたじゃないんでしょう?」
「私もそう思うよ。瑞希ちゃん、あなたは悪くないわ。それと‥‥あなたなら、このゲームを終わらせることができるんじゃないかしら? 一時的であったとはいえ、真山と親しい関係だったのだから」
 壱と瑞希。この二人のわだかまりが無くなれば、これ以上の犠牲者は出ることはない。楽観的な思考かもしれないが、療子は僅かな希望を持った。

 会話が一段落した頃、剣一郎が医務室に戻ってきた。
「志水先生、戻ってきたんですね」
「患者を診るのが、医師の務めだからね。キミは‥‥」
 椅子に腰掛けながら「方城瑞希です」と瑞希は自己紹介した。
 瑞希から細かい事情を聞いた剣一郎は、爆弾解除の方法を知るためのハッキングに強力することに。
「キミのパソコンを貸してくれ。私のパスなら、途中まではフリーだ」
 医務室の電話回線を使ってパソコンを繋いだ後、瑞希がシステム進入を行った。
 その間、剣一郎はカナが都から聞いたという爆弾に関する話を元に立てた仮説を皆に伝えた。
「任意爆発はあり得るわね。範囲に関してはわからないけど‥‥」
 システム進入に成功した瑞希が言う。
「パスが解除されたわ! 皆さん、これを見てください」
 パソコンのディプレイには、埋められた爆弾のコードを解除、無効化の方法の画面が。
「瑞希さん、すごい!」
「流石、パソコンに精通しているだけのことはあるな」
 瑞希の腕に感嘆しつつ、剣一郎が解除法のバックアップを取った。
「ん‥‥?」
 その中に、解除とは関係の無い項目がひとつだけあった。
「人間以外に仕掛けられた爆弾は、医療と無関係なものとみなし解除不能‥‥?」
 項目文の下部には、女性の画像と、とある兵器に関する記述があった。
「こ、これは‥‥!」
 驚愕する一同。
 そこに記されていたのは『キリング・ドール』の設計図だった。
「‥‥このようなものに驚いている暇はない。まずは、キミ達の中にある爆弾を取り除く」
 冷静さを取り戻した剣一郎は、ディスプレイを参照に、療子、美咲、瑞希の順に爆弾解除の作業を始めた。マイクロ、ということもあり、小さいサイズなので取り除くのはさほど苦労しなかったが、麻酔がないため、多少の苦痛を伴った。
「数井さん、ここはキミに任せる。私は生存者を探し出し、爆弾解除をする」
「志水先生、私も行きます! 叔父様は‥‥自分にも埋め込んでいるかもしれません」
「‥‥わかった、行こう」

 気をつけて‥‥という療子と美咲を振り返ることなく、二人は医務室を後にした。


 赤い狼とカナ達、途中で合流した都は、壱がいるモニタールームに走って向かっていた。
「皆さん、本当に真山を倒そうと考えているんですか? それよりも、脱出したほうが良いんじゃないでしょうか?」
 都は脱出を勧めるが、カナは反対した。
「私は、真山を倒すまでは脱出しない!」
 
 モニター室で、壱はバックにスリット入りの黒のロングスカート姿の華と、彼女の隣にいるキリング・ドールをここに向かう者抹殺を命じた。
「神凪、そろそろこのゲームも幕が降りる‥‥。逃げたいのなら、逃ても構わん」
 出動する華に、壱は島に予め用意しておいた脱出船のキーを手渡した。
「‥‥失礼します」
 鍵を受け取ると、華とキリング・ドールはモニター室を出た。

 モニター室に差し掛かった頃、剣一郎と瑞希がカナ一行に追いついた。
「‥‥間に合ったようだな」
「爆弾解除の方法がわかりました! 叔父様の元に向かう前に、皆さんの中に埋め込まれているマイクロ爆弾を解除します」
「麻酔が無いから、多少傷むが我慢してくれ」
 生き延びられるのなら、痛みは我慢できる。
 覚悟を決めた皆は、剣一郎に爆弾を取り除いてもらった。

「ふぅ‥‥これで思う存分、真山に仕返しができるぜ!」
 指をポキポキ鳴らしながら、明憲はこれからの戦いに胸を高鳴らせた。
「‥‥もう少し早く発見できたら、お父さんも‥‥」
 泣き出しそうなカナの肩に手を置き「すまない‥‥」と謝る剣一郎。
「皆、行きましょう。敵の親玉さんの居場所はもうすぐなんでしょう?」
 今まで見せたことが無いキリッとした表情で、亜依が促す。

 探し回ること一時間、一行はようやくモニター室の手前に辿りついた。
「ここに真山が‥‥」
 カナが歩み寄ろうとした時

「ここから先は、通しはしない。お前たち全員、ここでゲームオーバーだ」

 立ちはだかる華とキリング・ドール。

「これがキリング・ドール‥‥」
 剣一郎と瑞希は、目の当たりにしたドールを見て驚く。
「ほう? ドールを知っているのか。ついでに教えてやろう。これは、総理の愛娘のクローンだ。クローン技術と科学の粋の結晶。それが人間兵器、キリング・ドールだ」
 それを聞いた瑞希は、遠い昔、どこかで見たような気がしたことが記憶違いではないとわかった。
「皆、早く真山の元へ! ここは、私と赤城くんが何とかする!」
「いや! 私もっ!」
 残ろうとするカナを、亜依が腕を掴んで止めた。
「アンタがここで死んだら、敵討ちできないでしょう? ほら、行くわよ! 元相撲取りさん、アンタはあたし達の護衛よ」
 モニター室に向かうカナを、キリング・ドールは右手に持っているサーベルで刺そうとしたが
「悪いが、その花はまだ散らせる訳にはいかないんでね」
 赤い薔薇の花を手裏剣のように飛ばし、赤い狼はキリングドールの足止めをした。
「ほう‥‥ドールと対峙するというのか。面白い。やれ、ドール!」
 華の号令で、赤い狼に突撃するキリング・ドール。

 療子と美咲は医務室にいるよう剣一郎に言われたが、いてもたってもいられなかった。
「数井さん、アタシ達も真山のところに行きましょう」
「何を言い出すの!? 私達が行っても、何もできないわよ」
「怪我人の手当てができます!」
 怪我人の手当てという使命を、参加者の死を目の当たりしたことで療子は忘れていた。
「‥‥わかった、行こう。美咲ちゃん、そこの救急箱持って」
「わかりました!」
 皆、無事でいて‥‥と祈りながら、療子と美咲は剣一郎を捜した。

 カナ達は、やっとの思いでモニター室に到着した。
「よくも俺をこんなゲームに参加させやがったな!」
 こみ上げる怒りを堪えきれない明憲が、握った拳を真山に叩き付けた。
 避けられるか、反撃されると思ったが‥‥壱は、明憲の拳をモロ食らった。
「アンタが、全てを仕掛けた張本人ね。まあ、ちょっとは楽しめたけど。色仕掛けで男を騙すのがあたしの仕事なんだけど、赤の他人の男に操られるっていうのは、気分が悪すぎるわ」
 男を手玉に取ってきた亜依にとって、利用されることは屈辱だった。
「叔父様、考え直してください。もうゲームを終わらせましょう? こんなことをしても、藍璃ちゃんは生き返らないのよ!」
「あ‥‥いり‥‥?」
 藍璃とは、真山が可愛がっていた娘の名だ。
「藍璃ちゃんは、こんなことを望んではいない。優しい叔父様のままでいてほしいと願っているはず! だから、もうやめて!!」
 瑞希の必死の訴えは、壱の心を大きく揺り動かしていた。

「悲しい人形だな‥‥キミも、私も」
 キリング・ドールを哀れみの目で見ながら、赤い狼はキリング・ドールと戦ってた。
 力のある赤い狼が優勢かと思われたが、亜依に受けた傷が完治していないため、動きにキレがない。
「そろそろ終わりにしよう」
 キリング・ドールが赤い狼の心臓をサーベルで貫こうとすると同時に、赤い狼は、ステッキでキリング・ドールの鳩尾を強く突いた。
「甘いな、私も‥‥」
 完全にとどめを差すことができなかったのは、主人格の『赤城拓也』の優しさ故かもしれない。
「‥‥勝負あり、だな。ドール、総理のところへ帰るぞ。そこのおまえ、早く脱出しろ。この島は爆発するぞ」
 ロングスカートを翻し、華はドールを連れてモニター室へ。
「赤城くん、モニター室に行こう! 彼女は、真山と心中する気だ!」
「‥‥ああ」
 剣一郎に促され、モニター室に向かおうとした二人に、療子と美咲が追いついた。
「‥‥はぁはぁ。やっと見つけましたよ‥‥。怪我人の治療は任せてください‥‥」
 肩で息をしながら、療子が話し出した。
「行こう」
 赤い狼達は、カナ達がいるモニター室に駆けつけた。


 瑞希に娘の名を口にされたことで、壱は抜け殻のように呆然としていた。
「美しい蒼い海が見渡せるこの島は‥‥最後の家族旅行で訪れた思い出の地だ。その頃の私は、純粋に国の未来と人間を信じ、より良い国家を築こうとした。瑞希、今日は何の日かわかるか‥‥?」
 首を横に振る瑞希に
「今日は‥‥藍璃の命日だ。だから私は、他人にも愛する者を奪われるという思いを味あわせたたかったのだ」
 その一言が終わると同時に、華とキリング・ドールがモニター室に戻ってきた。
「総理‥‥」
「神凪か‥‥。後のことは、おまえに任せた‥‥」
 フラフラとした足取りで、壱はどこかへ歩き出した。
「ドール、総理の後を追え。総理の側にいてやれるのは、おまえだけだ」
 華の言葉に従い、キリング・ドールは壱の後を追った。

 彼が向かったのは、ホテル外にある地下の脱出路。そこには、爆弾は仕掛けられていない。
 ジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを緩めた彼には、漲っていた野望が衰えていた。
「ドール‥‥なぜ、おまえがここに!」
(「おとうさん‥‥」)
 微かに動いたキリング・ドールの口から、娘の声が聞こえたような気がした。
「藍璃‥‥これからはずっと一緒だ‥‥」
 キリング・ドールを抱き締め、壱は泣いた。

 壱を含めた他人の反応など、華にはどうでも良かった。
「そこの娘、これをおまえに」
 スカートのポケットに入れていたキーを、華はカナに手渡した。
「私について来い。脱出ルートを教える
 脱出ルートも到着地点も把握済みなので、皆を誘導して最短ルートで突き進む華。
 カナにキーを手渡したのは、傭兵経験で培った生き残る人物の特定からだ。軍人の娘であるカナなら、この島から生きて脱出できるはず。

 ホテルを脱出し終えた時、華はキリング・ドールを抱き締めている壱を見かけた。
 慕情めいた視線で壱を見つめていたが、今はただ、キリングドールと共に‥‥と願った。
 脱出し終えて数分も経たないうちに、ホテルが爆破された。
 華に誘導され、一刻も早くホテルから離れる参加者達だったが‥‥その途中の森で、明憲が罠にかかってしまった。
「マジかよ‥‥こんなところで‥‥!」
「今、助けます!」
 カナは罠を解除しようとするが、明憲は自分に構わず早く逃げろ! と止めた。
「‥‥こんなところで終わりたぁ、俺の人生って‥‥」
 それが、彼の最後の言葉だった。

 島から離れた岸には、脱出用の船が用意されていた。
「早くこれに乗れ!」
 華に言われるまでもなく、皆、船に乗り込んだ。
「クルーザーとは勝手が違うだろうが、私が運転する。カナくん、キーを」
 船舶免許を持っている剣一郎が、船を運転することに。

 船は、島が見えなくなるほど遠く離れた。
「アタシ達‥‥生き残れたんですね‥‥」
「うん、そうだよ‥‥」
 美咲の手当てをしながら、微笑みながら言う療子。
「叔父様‥‥助けてあげられなくてごめんなさい‥‥」
 壱を救えないことを悔やむ瑞希。この出来事は、一生、彼女の心の傷として残るだろう。
「‥‥あの女の人と赤城さんが見当たらないんですけど」
 船の中を見渡したカナに言われるまで、誰一人として二人がいないことに気付かなかった。

「時間切れのゲームオーバー‥‥。これが、罪深き私の宿命なのかも知れないな‥‥」
 島が爆発し、炎の渦が島全体と赤い狼を飲み込んだ。
『奈緒美‥‥僕達はずっと一緒だよ‥‥』
 死の間際、赤い狼は『赤城拓也』に戻った。


 一年後。
 カナ芳村と榊都は、現実を取り戻し、落ち着きを取り戻したのを機にもう一度島を訪れた。
 島を脱出した後、他の参加者はどうなったかというと‥‥。
 栗原亜依の消息は一切不明。
 脱出し終えた後
「あたし、群れるのって嫌いなの。このゲーム、結構楽しめたわ。さよなら」
 と言い残し、去っていったきり。
 志水剣一郎と数井療子は、小さいながらも力を合わせて開業したばかりの診療所で患者を救うべく働いている。
 神凪華は‥‥島から脱出したのかどうかさえわからない。
 元傭兵である彼女なら人知れず脱出し、日常生活に溶け込み、今頃は雑踏に紛れているだろう。
「お嬢ちゃん達、あの島に何しに行くんだい?」
 島まで連れて行ってくれる漁師にそう聞かれたが、二人は何も言わなかった。

「青い海の中、赤く染まりし島‥‥」
 都は、島に花束を供え
「ここが全ての始まりの地‥‥」
 カナは、海に花束を流した。

 全てがここで始まり、そして終わった。
 サバイバルゲームが行われることが二度とないように。
 ゲームの犠牲者の冥福を祈った後、二人は島を去った。

 海の色は、あの日と同じ青で、空の色は、夕焼けの赤だった。

<Blue in Red 完>