歌姫の思い出作りアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
氷邑
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
6万円
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参加人数 |
7人
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サポート |
0人
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期間 |
09/02〜09/06
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●本文
ウィスパーボイスの歌姫の異名を持つ歌手、遠間由樹。
彼女は、更なる歌唱力を求めるため渡米する決意をした。
「由樹、本当に渡米するつもりなのか?」
マネージャー、石元総の問いに首を縦に振る由樹。
「私‥‥もっと歌が上手くなりたいんです。ロスに有名な声楽の先生がいると聞きました。その人の元でレッスンをして、全米でも通用するような歌手になりたいんです!」
いつになく真剣な表情の由樹に、石元と所属事務所『MADE』社長、不破は驚きを隠せなかった。
彼女の歌声は、日本では評判が高いが、世界レベルには程遠い。
由樹は、アメリカのとある女性歌手に憧れ、歌手の道を選んだ。彼女は現在、超大作映画の主題歌を歌っている「ウィスパーボイス・クィーン」の異名を持つ。
憧れの歌手のようになりたい、いや、それ以上の歌手になりたい。
変わらない由樹の決心に、石元の不破は根負けし、渡米を許可した。
その結果、遠間由樹は長期休業することとなった。
「あの‥‥ひとつだけお願いがあるんですけど‥‥」
遠慮がちに由樹が頼んだのは、普通の女の子のように街で遊びたいということだった。
しかし、有名人である彼女が一人だとかえって目立つ。
そこで、石元は由樹の休日に付き合ってくれる芸能人を募集した。
由樹の日本での楽しい思い出を作ってあげてほしい、と願って。
●リプレイ本文
●打ち合わせ
「コンサート以来だねー。由樹、元気だった?」
再会を喜んだのは、コンサートでは裏方担当だった新井久万莉(fa4768)。
「キミに作詞指導してから半年以上過ぎたのか‥‥早いものだね」
優しいお兄さん的微笑が印象的なスモーキー巻(fa3211)。
「お久し振りー☆ 海外留学するんですって?」
現実の厳しさに挫けないでね、と応援する乾 くるみ(fa3860)。
「由樹嬢、元気にしていたかな?」
スモーキーと共に、歌詞作りの協力者であった高遠・聖(fa4135)。
「一応聞いておくが、渡米の事はまだマスコミに発表はしていないよな?」
「正式な決定ではないので、まだ発表はしていません」
由樹に代わり、マネージャーの石元総が答えた。
「発表していたらマスコミ連中が追いかけてくるだろうから、落ちついて楽しむのは難しいだろう。折角の休日だ、仕事の話は抜きにして、自然な笑顔の由樹嬢を被写体にして写真を撮らせてもらうよ」
カメラを手にしながら楽しそうに微笑む高遠に
「あたいも撮ってニャ☆」
八重歯を見せ、満面スマイルのアヤカ(fa0075)が背後から由樹に抱きつきながら声をかけた。由樹とは初対面だが、手伝いたいという理由で飛び入り参加したのだ。
「はじめまして。世界的アイドル歌手のアヤカさんに会えて光栄です」
歌姫とはいえ、世界レベルに達していない由樹にとってアヤカは雲の上の存在だ。
●普通の女の子に
「由樹、借りるね。変装するには、まず準備しないと。買物行こっ」
荷物持ちとして男手がいるからとスモーキーと高遠を誘ったが、スモーキーが遠慮したため、高遠が付き合うことに。
「仕方ない、付き合ってやるよ。由樹嬢を守ることがあるだろうし」
大勢で行くと目立つからと、買い物担当は新井と高遠に。
出かけたのは、事務所に程近い大型ショッピングモール。
「ん〜、これがいいかな?」
新井は服を数点手にし、由樹の身体に合わせて衣装をコーディネイト中。
「こっちも捨てがたいな〜?」
結局どうしたかというと、チョイスした服を全部買い、その後、小物と化粧品を購入。費用は全て所属事務所持ち。
「水着も買おうかと思ったけど、海は時期はずれだから残念だったね」
「時期はずれでも、海には行けるし、水着も着れる」
「でも、泳げないじゃないか」
それはご尤も。
買い物を終え事務所に戻るなり、女性陣によるコーディネイトが始まった。
「普通の女の子っぽいのなら、ごく普通の衣装にいいんじゃないかニャ? もちろんあたいもニャけど」
「化粧もちゃんとね。海外じゃ日差しの強いところもあるんだから日焼け止めは念入りにね」
普通の女の子に変装するとはいえ、化粧は欠かせない。
アヤカと乾によるファッションコーディネイトが終えると、新井は由樹に見栄え良いメイク法を伝授。
●行き先は何処に?
「僕達も軽く変装してみようか。それなりに知名度が高い人もいるから、気づかれるとまずいだろう?」
というスモーキー案に、全員の変装することに。
その後、どこに出かけるかの相談を始めた。
「普通の女の子が行くような場所となると、やっぱりウィンドウショッピングとかおしゃれなカフェでお話をしながら美味しいものを食べるとか‥‥かニャ? あ、ショッピングはさっきしたんニャったね‥‥。それとも、お台場とかがいいかニャ?」
屋形船も面白そうニャというアヤカだったが、由樹は船酔い体質なので‥‥と石元にやんわりと断られた。
「ショッピングはさっきしたから、遊園地、映画、食事‥‥コースは色々あるが、由樹嬢はどこに行っててみたいんだ?」
もう少し皆さんの意見が聞きたいです、と由樹は答えた。
「エスコートは、男の子達に任せるわ。そうねぇ‥‥海はどうかしら?」
「海‥‥ですか‥‥」
乾の案に、由樹は考え込むような仕草をし始めた。
「私、波の音が好きなのでリラックスしたい時はヒーリングCDの波音を聞くんです。それに、デビュー以来海に行ったことがないので、渡米前に‥‥日本の海を見たいです」
由樹の意見を聞くなり、高遠は事務所を出て行った。
「あの‥‥高遠さん、どこへ‥‥」
「大勢で行くんなら、レンタカーでハイヤーを借りたほうが良いがいいだろう」
「そうくるだろうと思い、車はあたしが用意しておいたわ。海に連れ出そう、と言い出す男がいるだろうと思ってね」
俺のことか? と一瞬ドキッとした高遠。
「運転はあたしがするわ。じゃ、行きましょう」
行き先が決まったので、由樹達は乾の車が止めてあるパーキングエリアに直行。
●残暑の海
数時間後、一向は海に着いた。
海水浴シーズンは終わったが、休日ということもあり、砂浜でビーチボールやサーフィン、ジェットスキーを楽しんでいる若者達で賑わっていた。
人がこんなにいるなんて思わなかったわ‥‥と呆然となった乾に
「運転お疲れ様でした。大丈夫ですか?」
と、彼女を労わる由樹の表情は嬉しそうだった。
「心配してくれてありがとう。静かなほうが良かったかしら?」
「いいえ、私、賑やかなのが大好きですから。このほうが、海らしいです」
そう言ってもらえて安心したわ〜と、胸を撫で下ろす乾。
「由樹ちゃーん、遊ぼうニャー☆」
サンダルを脱ぎ、素足になったアヤカが波打ち際を走っている。
「じゃ、あたしも! 由樹も行こう!」
靴下とスニーカーを脱ぎ捨てた新井は、由樹にも素足になるよう説得。
「クラゲに気をつけるんだよ」
スモーキーの言葉に「はーい♪」と元気良く返事をする三人。
乾も仲間に入ろうとしたが、波打ち際を歩いているカニを見て、数年前に海で足をカニのハサミで挟まれたことを思い出したのでやめた。
「あ、カニ! よーし、捕まえるぞー!」
新井は、カニを見つけるなり目を輝かせて捕まえようとしている。
由樹、アヤカ、新井が笑顔で波打ち際ではしゃぐ姿を、高遠はカメラを手にすると何枚か撮った。
「なかなか良い被写体だ」
「楽しそうだね。良い記念写真、撮れそう?」
ああ、と満足げな笑みを浮かべる高遠を見て、良い思い出が残せそうだと安心するスモーキーだった。
昼食は、乾が腕によりをかけて作ったお弁当。
大きめのレジャーシートを敷き、そこに腰掛けて食べることに。
ポットには、ぬるめに沸かした蜂蜜ジンジャーティーが入っている。歌手である由樹を気遣って用意したものだろう。
美味しそうに食べるメンバーを見て、早起きして作った甲斐があったわと喜ぶ乾に気づいたのか、由樹は
「あの‥‥おかずのレシピ、後で教えてくれませんか?」
と、恥ずかしいので誰にも聞かれたくないからか、耳打ちした。
OKの合図として、乾はウィンクをした。
お弁当を食べる由樹の姿も、高遠は記念として撮った。
●時間は過ぎて‥‥
海で過ごした時間はあっという間だった。
日が暮れて来たので、一向は事務所に戻ることにした。
帰りの車中の様子はどうなっているかというと‥‥
アヤカと新井は、はしゃぎすぎたのかぐっすりと眠り、高遠はカメラの手入れを念入りに、スモーキーはCDを何枚か取り出し、どれをかけたら良いのか悩んでいる。
助手席に座っている由樹は、そんな様子を楽しそうに見ていた。
(「こんな気分、高校の遠足以来かな‥‥」)
事務所に到着したのは、帰り道が渋滞していたということ、アヤカを自宅に送り届けたということもあり、日付が変わろうとしていた時間帯だった。
「遅くなってすみません、ただいま帰りました」
事務所では、社長の不破と石元が皆の帰りを待っていた。
「おかえり、由樹。日本での思い出作りはどうだったか?」
「とても楽しかったです、社長」
二人を見て、仲の良い祖父と孫娘を連想した他の面々(内緒)
「皆さん、私のわがままに付き合ってくださって本当にありがとうございました!」
深々と頭を下げ、由樹は礼を述べた。
別れ際、高遠は由樹に海に行った時に拾った貝殻を詰めた小箱を手渡した。
「もし向こうで日本が恋しくなったら、行った海を思い出して励みにすると良い」
「はい」
スモーキーも高遠同様、別れ際に由樹に小さな紙袋を手渡した。
「開けてみて」
そう言われて開けてみると、中身は真珠貝の形をした御守りだった。
海に行った記念になるようなものをと考え、休憩の際に立ち寄った道の駅のお土産売り場で買ったものだ。
「立派になったキミの歌が聴ける日を楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
そんな中、真剣な表情をした新井が、由樹の元に歩み寄った。
「由樹、アメリカの歌手修行は自分の意志? 本気でやっていく自信はある?」
不破、石元がいることを承知で、由樹の意志を聞いた。
「自分の意志です! 本気です! 今までは‥‥中途半端な気持ちで活動してきたような気がします。だから、アメリカでおもいっきり揉まれてきます!」
凛とした表情で、由樹は宣言した。
「よく言った! 夢を叶えるため精一杯やってくるんだよ。中途半端は許さないから!」
由樹の肩をバシバシ叩き、新井は精一杯激励した。
数日後、由樹の元に高遠が撮った写真が数枚いた。
これは、後に大切な思い出が一杯詰まった由樹の宝物となる。
大好きな海で過ごした‥‥。