ある少女の一コマアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 氷邑
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/19〜10/22

●本文

 少女達のワンシーンを描いたオムニバス映画『ある少女の一コマ』では、出演者を募集している。
 全四話構成である。

第一話・羽根
「コホン、コホン」
 澄んだ青空が高く見える秋の日。
 とある病院の中庭にちょこんとあるベンチに空(そら)は座っていた。
「つまんないな‥」
 空は病弱な少女だった。
 何度も入退院を繰り返す日々にうんざりしているのは言うまでもない。
「いつになったら自由になれるんだろ、お医者様はたいした病気じゃない、って言ってるけど」
 自分は、もしかしたら死ぬのではないかという不安にかられることもしばしばだった。

「うう、ちょっと寒くなってきたかな?」
 薄手のパジャマがそれを物語る。
 早く病室に戻ろうと立ち上がったその時、何かが空の前をよぎった。
「枯れ葉? あ、鳥の羽‥。そうね、枯れて散るより飛びたてる日を夢見て待つ事が大事よね。うん、きっと来るわ」
 小さな想いは、やがて希望の飛躍に変わるだろう。

第二話・笑顔
「いらっしゃい‥ませ‥」
 ふと窓を見れば、はるか彼方まで広がる海。
 この風景を売りにする喫茶店は少し小高い丘に位置していた。
「ねえねえ、清香(さやか)ちゃん」
 清風がここでアルバイトを始めてはや数日。レジ打ちと食事を運ぶのが主な仕事なのだが、マスターはいつも口をすっぱくしていた。
「仕事をそつなくこなしているのはわかるけど、もう少しお客様に笑顔を作れないの? でないと、接客業失格よ」
「申し訳ありません‥」
 それは清香も重々承知のうえだった。
「私って引込み思案だから友達がいない。それで人と話をすることも苦手になってしまったの」
 今日も潮風と共にお客様が足を運ぶ。これは自分を変えるための修行なのだ。
「あ‥い‥いらっしゃいませ‥」
 その道は果てしなく険しい。

第三話・釣り
「‥」
 よく晴れた港の周りには釣り好きが集う。そんな多数が男ばかりの光景に紅一点。
「‥」
 呉穂(くれほ)はじっと座り、竿の先と水平線を眺めている。しかし、釣りをしているような気配がない。
「釣れますか?」
 一人の男が声をかける。
「いえ」
「ポイント変えてみたら?」
「いえ」
「エサは何を使ってるの?」
「いえ」
 ん!? 
 理解不能の返事。もしかして、エサもつけずに竿をたらしてるの?
「私はただ青い海を眺めてるだけ‥。でも周りがこれだから、それに合わせてるだけ‥」
 呉穂の発想力についてはこれ以上語るまい。

第四話・秘事
「ありがとうございました」
 大豪邸に住む鈴音(すずね)は筋金入りのお嬢様で、加えて大変しつけが厳しいもとでの箱入り娘であった。
「どうしました? いつものあなたらしくありませんよ」
 たった今、実の母が講師のピアノレッスンが終わったところであるが、鈴音の様子のおかしさに気づいたらしい。
「い、いえ。なんでもありませんわ」
「そうですか? まさか俗世間の戯言に振り回されていることはないでしょうね」
「とんでもございませんわ、お母様」
 
 鈴音は一礼すると、そそくさと部屋に戻った。
 そしてベッドに倒れこむと頃合いを見てベッドの下に手を通す。
「ああ‥カミュ様」
 それは、今流行りのロックバンド、ゴールデンクロスのCDだった。
「容姿、いえビジュアルでしたか。ああ、素敵‥今度はぜひ演奏会、いえコンサートに行きますわ」 
 世間知らずの鈴音にとって、それはかつてない刺激と自ら勝ち取った甘い栄光であった。

配役
空:入退院を繰り返している病弱な少女
清香:内気で引っ込み思案だが、自分を変えようと努力している少女
呉穂:何を考えているのかわからない不思議な少女
鈴音:明家の箱入りお嬢様

※その他の出演者は各自でお考えください
※照明等のスタッフも同時募集しております

●今回の参加者

 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4550 リリン(18歳・♀・豹)
 fa4882 ヒカル・ランスロット(13歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●第一話・羽根
「コホン、コホン」
 澄んだ青空が高く見える秋の日。病院の中庭にあるベンチに、空(ヒカル・ランスロット(fa4882))は座っていた。
「つまんないなぁ」
 つまらなさそうにボーッとしていると、看護師である蘭エリカ(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))が空を見つけた。
「探したのよ、空ちゃん。どうしたの? 元気がないようだけど」
 エリカが話しかけると、空はぽつりと話し始めた。
「今頃、紅葉は綺麗なんだろうなぁ、見に行きたいなぁ。でも‥来年は見に行けないかもしれないし‥」
 それだけ言うと、空は俯いて黙ってしまった。エリカは精一杯励ましたりするが、元気になってくれなかったのでちょっと悲しくなった。
「病室に戻りましょう、空ちゃん」
 空は黙ったまま、エリカに連れられて病室に戻った。

 午後の回診時。検温に来たエリカが本やCDを持ってきた。入院生活で退屈しているのではないかと、という結論に達してのことだった。
「こんなのしかなかったけど、もしよかったら‥」
 空の反応が良くなかったので、スッキリしない感じだった。それでも、エリカは空に何らかの変化があればと思い、次の回診に向かった。
 回診の後、空はCDと本を手にした。
「わぁ、このCD聴きたかったんだ」
 空お気に入りのアーティストのCDだったので、CDラジカセにセットし、ヘッドホンをつけて聴きながら本をペラペラとめくった。偶然目に止まったページには、難病の子が健気に頑張っているという記事が掲載されていた。
「こんなに小さいのに、大変な病気に立ち向かって頑張っているんだ。すごいなぁ」
 その記事を読み終えると、
「お医者さんも、大した病気じゃないって言ってくれてるから、私も頑張ろう」
 そう決意したと同時に、少し開いていた窓から白い鳥の羽根がふわりと病室に入り込んだ。空を見上げると、鳥が自由に飛んでいた。
(「私も、鳥のように羽ばたきたい。病気を直そうと頑張れるんだ」)
 これらがきっかけとなり、空は病気の治療に前向きに立ち向かうことにした。

 翌日。回診に訪れたエリカは、空が元気になっているのに驚いた。
「空ちゃん、今日は顔色いいわね。それに元気そうだし。何かあったの?」
「べ、別に‥」
 何があったのかわからないが、元気になってくれたのが嬉しくて、エリカはにっこり微笑んだ。
 今日も、白い鳥が空を自由に飛んでいた。

●第二話・笑顔
 喫茶店の奥にある鏡を見ながら、清香(槇島色(fa0868)) は笑顔を作るのに試行錯誤する。何度やっても引きつったような笑顔にしかならない。
「前はもっと笑えた‥なのに、今は笑えない私がいる‥。昔は普通に笑えたのに‥」
 そう言っているうちに、仕事の時間が迫ったきた。

「い‥いらっしゃいませ‥」
 いつものように、清香は無表情でそつなく仕事をこなす。清香の「いらっしゃいませ」と同時に来店したのは、彼女と同年代くらいの制服姿の少女だった。彼女―小波結衣(白井 木槿(fa1689)) ―はマスターと真向かいになるよう、カウンター席に腰掛けた。
「ねえ、マスター、さっきの子だけど‥」
「ああ、清香ちゃんね。あの子、仕事はきちんとこなすんだけど、笑顔が作れないんだよね‥」
 そう聞いた結衣は、清香を笑わせてみたくなった。笑ったらもっと可愛いのに、とマスターが淹れたコーヒーを飲みながら思った。一度決めたことは曲げない、というのが信条の結衣ならではの行動だ。

 翌日から、結衣は清香を笑わせるために店に通いつめた。
 清香に注文を取るたびに冗談を言ったり、学校での面白いエピソードや自分の失敗談などを話し、変な顔をしてみたりと色々試すが、清香は笑顔を見せることはなかった。
「くっ‥私の必殺の変顔を見ても笑わないなんてっ!」
 ガーンとなりつつも、結衣は決して諦めなかった。

 結衣が来店してから数日が過ぎたある日。
 清香は店先を掃除しようとドアを開けると、お客様が連れて来た店の外に繋がれていた仔犬が店内に入り込み、トンボを必死に捕まえようとしている。仔犬は来店したばかりの結衣の元へ駆け込んだ時、リードが彼女の右足下に絡みつき、それで何事!? と思いパニック状態になった結衣はオロオロしながら逃げ回っている。結衣は犬嫌いだったのだ。
 不謹慎だと思いながらも、その様子を見て清香は笑った。
「ごめんなさい‥犬が苦手なんて‥でも‥」
 清香が笑うのを見て、結衣も釣られて笑った。

 この一件以来、笑顔を取り戻した清香は結衣と友達となった。その後も、結衣は店に顔を出している。清香の笑顔が見たくて‥。

●第三話・釣り
 晴れた港の周りに集う釣り好き。多数の男の中に呉穂(咲夜(fa2997))はいる。
 海に釣り糸を垂らしながら、遠くの誰かを思っているかのようにぽつりぽつりと言葉を紡いでいる。

「‥‥会うは別れの始めか‥‥」
 そう呟く呉穂の側に、和服を着た中世的な絵描き、鈴風(深森風音(fa3736))がやって来た。
「隣に失礼するよ」
 挨拶するが、反応が無い。隣にいても良い、と解釈した鈴風は、呉穂の隣に座り、絵を描き始める。その間も呉穂の独白は続いている。
「‥‥別にどうだって良いはずだよね。単なる知り合いだし‥‥」
 少し間を置き、独白は続く。
「‥‥勝手にあたしの前に現れて‥‥あたしのこと好きだって言って‥‥」
 その間、鈴風は黙って絵を描き続けている。
「‥‥勝手にあたしの心を掻き乱して‥‥あたしの日常に割り込んで‥‥平穏を乱して‥いきなり姿を消すだなんて‥‥」
 呉穂が紡ぐ言葉に秘められた悩みや心に引っ掛かった事を聞き、筆音で返すかのようにひたすら絵を描く。
「‥‥最初から最後まで自分勝手なんだから‥‥あたしは、何で気にしているんだろう? 自分勝手な奴が、あたしの前から姿を消した。ただそれだけなのに」
 ボーイフレンドの突然の死に、呉穂の気持ちは追いついていない。釣竿を振って少しずつ動揺している。
「‥‥この気持ちをどこに持っていけばいいんだろう‥‥?」
 また竿を揺らし、動揺している呉穂。

 気分が落ち着いたのか、立ち上がって帰ろうとする呉穂は、隣に座っている鈴風の絵を見て、
「‥‥変な絵ね」
 と言った。
「そうかな? なかなか魅力的に描けたと思うんだけど」
 鈴風はそう言うが、絵は青一色の変てこな絵だった。
「‥あたし帰る。それじゃあ、また」
「ああ、また」
 結局、何をするでなく二人は別れた。

●第四話・秘事
 名家の箱入りお嬢様、鈴音(雅楽川 陽向(fa4371))には、家族の誰にも知られてはいけない秘密がある。
「ああ‥カミュ様‥」
 ロックバンド『ゴールデンクロス』のCDを抱きしめ、鈴音はボーカルのカミュが歌う姿を想像していた。ゴールデンクロスを紹介し、CDを貸してくれた友人の有栖川美希(リリン(fa4550))に、コンサートに行かないかと誘われたので、高揚とした気分になっている。
 コンサートに一度も行ったことがない鈴音は、クラシックの演奏会のようなものと考え、一生懸命、着て行く服装を考えた。悩んだ末、上はボレロ、下はワンピース、ベレー帽という正装に近い感じのものであった。
「このようなものでいいわね」

 翌日。学校で「コンサートに着て行く衣装を張り切って考えましたの」と笑顔で美希に伝えた。
「このような簡単な服装では、カミュ様に失礼にならないかしら? ボレロより、カーディガンの方がよろしいかしら?」
 美希から見ると、随分と的外れなことを言っている。
「そのような衣装では、ロックに合いませんわ」
「そ、そうでしょうか‥」
「ロックとコンサートは別物なのですよ、鈴音さん。しょうがないわね‥学校が終わったら、お洋服を買いに行きましょう。私がコーディネイトします」
 
 放課後、美希に連れられ鈴音は買い物に繰り出した。
「これなんてどう?」
「足元が変わっておりますのね」
 どうも鈴音がお気に召す服装は、この店にはないようだ。それならば次の店へ、ということで、別の店に来店。
「このワンピースはいかが?」
 と美希が手に取ったのは‥緑地に迷彩柄のものだった。
「すごく不思議な模様の服ですわね‥。でも、私には‥」
 う〜んと考えている美希を、鈴音は尊敬の眼差しで見ていた。
 着て行く洋服も決まり、鈴音と楽しい一時を過ごした美希は機嫌がよかった。

 コンサート当日。鈴音は美希の家へと向かった。買った洋服を厳しい母親に見つかるとまずいので、預かってもらっていたのだ。美希の部屋で着替え、足取り軽やかにコンサート会場に向かった。
 時間が経ち、ゴールデンクロスのコンサートが始まった。幕が開くと、そこは鈴音にとって未知の世界だった。
 どのような世界かは、想像にお任せする。