Black Annisアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/25〜06/29

●本文

 停車していた何の変哲もない大型トレーラの周りに屈強そうな男達が展開すると、周囲の人々を下がらせスペースを作る。荷台の壁面が手前に向かってゆっくりと開き―――中から現れたのは移動ステージ。
 見物人達のざわめきを吹き飛ばすように響く声。

『HEY! HEY! HEY! レディース! 家ん中で指加えて画面見てるだけじゃ満足できねぇテメェ等に、最ッッ高の夜をプレゼンツ! テメェ等を夢ん中まで連れてってくれる、イカした面子を連れてきてやったぜ!!!』

 司会の紹介と共に、闇に咲く妖花の如く、極彩色のライトが光を放ち、ステージと、そこに控えていたバンドメンバーの姿を照らし出す。
 移動ステージを積んだトレーラで行われる、ゲリラロックライヴ『Black Annis』。
 ゲリラライヴの名の通り、神出鬼没。次に何処に現れるかは一切不明。公式な発表は一切無し。夜の闇に現れて、ライヴ終了と共に去っていく。



『バンド募集のお知らせ』
・野外で行うゲリラロックライヴ『Black Annis』の参加者を募集します。
・グループ、ソロでの参加は問いません。
・曲はオリジナルのものに限ります。版権が発生するものは一切禁止です。
・テーマの指定はありません。演出も含め、お任せします。
・ソロで参加の場合、必要であればバックバンドを用意します。
・司会はいますが、希望者がいればお任せします。
・ライヴが行われるのは夜です。

■補足として
・移動はスタッフが乗り込むキャンピングカーが一台。参加者の乗り込むキャンピングカーが一台。ステージを積んだトレーラーが一台の計三台。
・ステージは片側の壁面が開くと、そこが階段になっていて、路上に降りる事ができます。
・また、反対側の壁面にドアがあり、そこからメンバーの入れ替えを行う事ができます。
・ゲリラとは言っても、公共の機関にはちゃんとオファーを取っています。

■日程
一日目:顔合わせ、スタッフとの打ち合わせ
二日目:移動
三日目以降:ライヴ前の打ち合わせ、ライヴ本番

●今回の参加者

 fa0017 緑野・夏樹(21歳・♂・狸)
 fa0038 黒曜・ブラッグァルド(26歳・♀・鴉)
 fa0103 シグフォード・黒銀(21歳・♂・竜)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa3060 ラム・クレイグ(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3849 クーリン(12歳・♂・犬)
 fa3852 鳥遊光稀(22歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●顔合わせ
「ライヴライヴライヴ〜♪ 参加者、スタッフの皆さんよろしくお願いしまーす!!」
 鳥遊光稀(fa3852)が元気良く挨拶する。
「宜しくお願いします。皆で楽しめるようにがんばりましょう」
 Even(fa3293)が軽く頭を下げた。相談の結果、Evenは明石 丹(fa2837)と光稀のユニット『アドリバティレイア』と組んでライブに挑む。
 丹は微笑を浮かべて、
「今回は君が一緒だから、いつもとは違うライブになりそうで楽しみだよ」
快く承諾する。新しい可能性が広がる事が純粋に楽しいのだ。
 一方で、ラム・クレイグ(fa3060)はソロで参加する為、スタッフにバックバンドの申請を行っている。
「バックバンドとしてドラム、ギター、ベース、電子ピアノをお願いしたいのですが‥‥」
「わかりました。俺達の部署は裏方のエキスパートが揃ってますから。楽譜と、細かい部分の指示を。本番までにはしっかりと覚えさせますよ」
 スタッフの言葉に頷き、ラムは曲の雰囲気やライトアップに関して、細かな打ち合わせを始めた。
「みんな一緒に楽しんでいこうぜ♪」
 黒曜・ブラッグァルド(fa0038)がにんまりと笑みを浮かべる。
「本当は半獣化できたら良かったんだけどね」とクーリン(fa3849)。
「それは仕方ないッスよ。あ、俺ドラムは固定のを使わせてもらえるよう申請してくるッス!」
 緑野・夏樹(fa0017)は慌しくスタッフに駆け寄った。


●移動日
「買ってきたッスよ」
 手にコンビニの袋をぶら下げた夏樹が、キャンピングカーのドアを勢い良く開ける。
「おっかえり〜」
 キャンピングカーの中。奥に向かって長く伸びた、コの字形のソファーに寝転ぶ黒曜は、サングラスで隠した鋭い眼を緩め、笑みを作って夏樹を向かえる。
「俺が頼んだの、あった?」
 寝転んだままビニール袋を受け取り、中を漁る黒曜。
 黒曜の対面に座る丹がペットボトルを受け取り、
「それにしても広いよね、このキャンピングカー」
「そうッスねぇ。小型のキッチンにトイレ、シャワールーム完備。バンクベッドも付いてるッスから」
 移動に使われている二台のキャンピングカーは大型で、テーブルを取り外せば十人くらいが横になって寝る事ができる程の広さがある。二、三日程度なら、何ら不自由しない造りになっていた。
「女子がシャワーを浴びている時は、男性人には車の外に出ていてもらいますよ?」
 ラムが言うと、Evenが、
「例外は無し? 俺ってば見た目通りの人畜無害だぜ?」
「無しです」
 黒曜もラムに賛同し、
「そうだぞ、お前等。邪魔するなよ」
「俺は黒曜と二人っきりになるのもどうかと思うけどな‥‥」
 クーリンが小さく呟いた。
「でも、流石にスタッフの方は寿司詰めだったッス」
 クーリンが苦笑を浮かべ、
「バンドメンバーよりも、スタッフの方が多いんだから仕方ないよ」
「その分、ライブを成功させるさ!」
 光稀が力強く言った。


●開祭
 都内の駅前に移動ステージを積んだトラックが停車する。
 頃合を見計らって、体格の良いスタッフが展開。トラックの周りに展開して、瞬く間にライブの準備を完了させた。
 その日常から切り離された光景に吸い寄せられて、何事かと人が集まり始める。
 トラックの周りにざわめきが広がりだした頃。ゆっくりと荷台の側面が、手前へと開き始める。
『待たせたなレディース! 『Black Annis』のお出ましだ! 湿気った天気に釣られて湿気った面してんじゃねぇぞテメェ等! いっちょ、こいつ等の歌でも聞いて景気付けにしやがれ!』


 黒曜は移動ステージに待機している間もベースギターを弾いて、何度も自分のパートを確認する。
 悪足掻きでも良い。少しでも上手く―――! 少しでも完璧に―――!
(「こんな俺をバンドに誘ってくれたあいつ等には、絶対迷惑かけられんしな‥‥」)
 ギターを弾く黒曜の肩を、クーリンが叩く。
「そろそろ始まるよ」
「ん」
 目の前でゆっくりと、ステージの前面が開き始めた。


●NiTRo‥‥Clear Sky
 スポットライトに照らされて、四人の姿が闇に浮き上がる。
 ボーカルのクーリン。ギターのシグフォード・黒銀(fa0103)。ベースの黒曜はサングラスに赤い首輪。第2ボタンまで外した白のワイシャツに黒いロングコートを羽織り、黒の長ズボンを履いている。ドラムの夏樹は、黒のスラックスに白のシャツ、ネクタイをルーズに着こなした格好だ。
「はぁい、いい夜だね! 今夜は宜しく!」
 テンションが上がった黒曜が元気良く手を振って、観客に挨拶した。


 まず、響いたのはクーリンの歌声。ハイトーンボイスが観客達の身体を突き抜ける。
 マイナーコードの静な曲調。物悲しげな歌声が憂鬱な雨空を連想させる。

『 In Clear sky with the sun
  Said so‥‥!        』

 徐々に熱の入るボーカルを追いかけ、夏樹がドラムを疾らせる。曲は一気にビートを利かせたアップテンポに変調。ドラムから一拍置き、シグフォードのギターと黒曜ベースが入る。
 湿気を含んだ、重苦しい空気を吹き飛ばすように、間近に迫る夏の日差しを、力強い熱気を観客にぶつける。

『 ただ一人泣いていた夜が明け 一人寂しく空を見た
   夜の帳は終わりを告げたのに そこはまだ暗い
   湿った心に嫌気がさして またベッドへと寝転んだ
   目が覚めたらその時は この空も晴れているのかな? 』

『 鳴った携帯が 閉じた瞳を開かせる
   見上げればそこには 雲から差し込む一筋の光 』

『 綺麗に晴れ上がる空 そこには輝く一つの太陽
(The sky which clears up splendidly and crosses  There is the sun which shines)
  泣いていた雲たちも 笑顔の中に溶けていく   』
 (Also the cloud which cried keeps dissolving in the smiling face)

 サビに黒曜の低めのアルトからソプラノまでを使い分けたバックコーラスと、夏樹による英訳のバックコーラスが重なる。
 間奏。
 シグフォードと黒曜が前に出て、ギターソロの演奏を行う。ギターの弦に指を疾らせる。指の速度に合わせて、駆け抜けるメロディー。最高潮の盛り上がりの中で演奏が止まり、静寂の中―――クーリンの歌声が響く。

『 綺麗に晴れ上がる空 一緒に輝く一つの太陽
  きっとこう言ってたよ Have a good day   』

 爽やかな、風が抜けるようになクーリンのアカペラで、曲はフェードアウトする。


●ラム・クレイグ‥‥『蝶』
 紫―――
 ライトに照らせれたラムは、ダークレッドのミニワンピースの上から、裾がかなり長いダリアの花のレースの上着を纏い、手足のネイルをダークレッドをベースにピンクの花模様のネイルアートで飾っていた。
 ラムがスタンドマイクを手で包み込みながら顔を上げ、観客に艶やかに微笑みかけると、観客の間から唸るようなどよめきが起こった。空気が一瞬で飲み込まれる。
 ハイハットのシンバルが綺麗に細かく震えるように鳴り響き、曲が始まる。
 蝶の舞を思わせるチラチラと、チカチカと響くシンバルの音。

『 キラキラ輝いて舞え
  鮮やかに咲く偽りの天を越えて 』

 赤―――
 ライトの色が変わった時には、ラムの顔からは妖艶な笑みが消え、凛とした表情が、梅雨の蒸し暑い空気を淡く冷やす。
 歌い出しはスローテンポ。ギターが大人しめにリズム刻む。
 橙―――
 ライトが変わり、フレーズが変わる。とたん、曲はアップテンポに。
 ベースが低音のメロディーを弾いて、電子ピアノの鍵盤が猛スピードで叩かれ、狂ったように音を乱打する。

『 強い光が焼き尽す地上は
  欲望を誘いぶつかる
  願いは大地を貫いて
  想い届ける天は捩じれて歪む 』

 黄―――
 ライトが変わるごとに世界(舞台の景色)が変わる。

『 嘘と真実が横たわって
  嘘が輝いて見える
  輝きに向かい飛ぶ蝶が
  燐粉撒き散らして堕ちる 』

 橙―――
 高音を綺麗に歌いきる。

『 闇を恐れたら辿りつけない場所
  歪んだ楽園見つめて生きてゆく
  偽り跳ね返すマテリアス身に纏い
  天を越えて飛んでゆく        』

 赤―――
 全体的に、透明感を持たせた深くやわらかい歌声は、

『 真実の花咲かせて 』

 紫―――
 ライトの色に合わせて、語りかけるようなスローテンポへと収束する。


●アドリバティレイア with Even‥‥夏夜 −Midsummer eve CD−
 ステージ裏に控えていた丹、Even、光稀は、演奏を終えて戻ってきたラムと挨拶を交わす。
 丹は衣装として、襟を広めに開けた白のシャツに黒のレザーパンツを。光稀は白いTシャツにダメージジーンズ、シャツの上にノースリーブの黒いコート羽織っている。
「よし、二人共、盛り上がっていこう!」
 丹が気合を入れ、三人は頭上でハイタッチを交わす。
 バチン!
 三人の身体の中で渦巻いていた炎が弾ける。


『3・2・1―――』
『3・2・1―――』 

 無音の中から、

『 LIBERTIES WITH EVEN! 』

 演奏開始。ギターの音色と共に、観客の歓声が響く。

『 短夜を楽しもう FIREFLYER
  予感より速く燃え上がれ  』

 全体的に勢い良く、梅雨の空気に明るく楽しい曲調。歌は、ギターの光稀とベースの丹によるダブルボーカル。歌詞の英語部分は特に軽快に唄う。

『 瞼の裏でチカチカに明るい LOVE CALL
  とても眠れはしないでしょう!     』

 Evenが階段を下りて路面に立つ。同時に曲はラップパートへ突入。

『 ステレオタイプ すり替えてみたところで ブレーキはきかないんだから
  往生際 調子はイイ感じ?                      』

 丹と光稀も階段を下りて、背中合わせで、又観客の伸ばす手から逃ながら、右へ左へと移動し、ギターを弾く。
 ステージの下を動き回る三人を追ってライトが踊る。

『 さあ鐘鳴らして! 』

 ラップパートが終わり、曲調がロックへと戻る。ライトが舞台から舞台下までを全体的に照らし、丹と光稀の姿を照らす。
 ライトが放つ光の影で、Evenは観客にラストコールを一緒にやってもらえるよう頼んで廻る。声を掛けるのが女性客ばかりなのは、本人の嗜好だろう。

『 今宵ばかりは譲れぬ MIDNIGHT
  月の魔力か香る誘いよ
  チープなセリフでやっと飾れば
  振り向きざまの瞳に KNOCKDOWN! 』

『 追い風に煽られて STARTING LINE 』

 Evenが丹と光稀を追って歌い、

『 始まっちゃいない
  踏み出しちゃいない 』

 歌声を重ねる。

『 だから今夜――― 』

 演奏が泊まり―――Evenが、光稀が、丹が、指を高く突き上げる。
 三人の合図に合わせ、観客もラストコールに参加する。

「「「「「―――3!」」」」」

「「「「「―――2!!」」」」」

「「「「「―――1!!!」」」」」

 弩―――――!!!!!!!
 歓声が爆発する。

 拍手が鳴り響く中、
「ありがとー!」と手を振りながら、三人は舞台裏へ引き上げる。


●後の祭り
 展開が早ければ、撤退も早い。
『あばよ、ベイビー! さっさと帰ってクソして指でもしゃぶりながらオネンネしろよ! つーわけで、さよなら、バイバイ、まった今度〜!!』
 早口に捨て台詞を吐くと、展開していたスタッフが、トラックの前に集まっている観客を退かせ、逃げ出すように、強引に道路に出る。
 Evenスタッフ達は、走りながらトラックに飛び付き、トラックと共に夜の街に消えていった。