私立アスラ女学園 玖アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/02〜11/04

●本文

 男子禁制たるアスラ女学園の警備は固い。教師は勿論、警備員や事務員までもが女性で構成されており、部外者―――特に男子に至っては、まず入る事が不可能な絶対不可侵たる乙女の園である。そんなアスラ女学園でも、年に数回の特別行事ではその門戸を少しばかり開かずにはいられない。その一つが、私立アスラ女学園の文化祭。舞芸祭である。
 今、学園内は老若男女で溢れかえっている。


 少女が隣に立つ少女の肩を叩く。
「ねぇねぇ! 今の人ちょっとカッコ良くなかった?」
「えぇ〜、あんなひょろい男より、東様のが断然カッコイイって」
 肩を叩かれた少女が、興味なさ気に答える。
「いや、基準が違うから‥‥」


 少女が拳を握り締める。
「去年はベルカント聖歌隊の般若心経のに客を持っていかれたけど、今年こそは我が軽音楽研究会が勝利するわ! 我等が雄姿、迷路カレーライヴの凄さを思い知らせてやる!!」
「あれは聖歌隊が般若心経をコーラスで歌うってぇから物珍しさに客が集まっただけで、何もウチらまで気を衒わんでも‥‥」


 少女は溜息を吐く。
「暇ねぇ‥‥」
 これだけ規模が大きな文化祭ともなると、内容が被っている店は山程あるわけで‥‥人気の出た店と出なかった店では、大きく差が開いてしまう。
 廊下や窓の外からは賑やかな声が絶え間なく聞こえて来ると言うのに、教室を改造した喫茶店はガランと静まり返っていた。
「何つーか‥‥‥‥‥平和よねぇ‥‥」


 盗撮犯を取り押さえた辻 守は、無線機で次々と指示を飛ばしていた。大立ち周りを演じた後だと言うのに、細身で小柄な身体を包むワンピースや、綺麗に切り揃えられた髪に目立った乱れは見られない。
 男子禁制たるアスラ女学園の警備は固い。教師は勿論、警備員や事務員までもが女性で構成されており、部外者―――特に男子に至っては、まず入る事が不可能な、絶対不可侵たる乙女の園である。そんなアスラ女学園でも、年に数回の特別行事ではその門戸を少しばかり開かずにはいられない。その一つが、私立アスラ女学園の文化祭。舞芸祭である。この機に乗じて不貞を働こうとする輩は五萬といるのだ。その為、風紀委員会の三種、計三十の隊が舞芸祭期間中目を光らせている。
「クソ! 離せよコラッ!」
 四人がかりで連行されようとした男が暴れ出す。人気の無い所まで追い込んで捕まえた為に、実害は無いが―――
 がちゃ。
 守が右腕を真っ直ぐ伸ばすと袖口からデリンジャーが飛び出した。
「ゴム弾ですが、当たれば痛いですよ?」
 守が銃口を突きつけると、男は息を飲んで大人しくなった。守は左手に小型のスタンガンを取り出しつつ、
「舞芸祭は―――運営委員を始め、多くの生徒の方々が、準備を進め、楽しみにしていた行事です。皆、舞芸祭の成功を祈り、今も多くの方々に楽しんで頂けるよう奮闘しています。その努力と願いの結晶を、貴方が貴方の個人的理由の為だけに狼藉を働き、砕こうと言うのならば、私はそれを許容致しません。もし、これ以上問題を起こすのであれば―――風紀委員会会長辻 守の名の下に、私が『貴様』を処断する」
 無表情のまま冷徹に告げる守に対し、男はガクガクと首を縦に振る。


 様々な人々の想いを渦巻かせながら、舞芸祭は『何事も無く』進行する。





■舞芸祭
アスラ女学園の文化祭。
日程は三日間。いくら敷地が馬鹿広いとは言え、全校生徒三千人超、更に一般来場者も相当数訪れる為、相当な混み合いとなる。


†キャスト募集†
 ドラマ『私立アスラ女学園』への参加者を募集します。
※注意※
・生徒会はNPCとして扱います。生徒会メンバーを演じる事はできません。ご了承ください。
・実際のドラマでも、二十代の役者さんが高校生を演じる事は良くあります。あまり年齢を気にせずにご参加ください。
・お題に沿ってストーリーを考えて頂いても構いませんし、キャラクターや取りたい行動だけ書いて、後はお任せと言う形でも構いません。

†私立アスラ女学園の御案内†
アスラ女学園では生徒はもちろん、教職員も女性を採用しています。
当学園では、文武両道の精神と、生徒による自治を重んじています。
各クラブ活動、学校行事の運営、生活指導は生徒会主導の下に行われています。
自宅登校が基本ですが、学生寮もあります。
また、中等部、初等部の敷地が隣接するように並んでいます。隣接しているだけで、中等部、初等部とは敷地、施設は別れています。
■歴史
創立は約三百年前。元は仏教色が強かったのですが、戦火に焼かれた事と、施設の近代化に伴い、現在では名称と一部の伝統にのみ名残が残っています。敷地内にお堂があるのはそのためです。
■学校施設
校舎は三階建て。
敷地は『校門から校舎(下足場所)まで十分はかかる』と言われるほど広く、グランド、体育館、室内プール、図書館、部活棟、各道場、テニスコート、花園、食堂、カフェテラスなどの施設がそろっています。学生寮も敷地の中に入っています。
■生徒会
アスラ女学園の生徒会は生徒会長が三人おり、副会長がいません。
『スリーオブフェイス』
【生徒会長】
小扇 一羽(こおおぎ ひとは)
夜坂 東(よるざか あずま)
片馴 静奈(かたなれ しずかな)
『ライトアーム』
【書記長】遠昏 真戯(おちくら さなぎ)
【会計士】風祭 葛篭(かざまつり つづら)
【風紀委員長】辻 守(つじ まもり)
『レフトアーム』
【運動部連代表】藤華・キャヴェンディッシュ(とうか・キャヴェンディッシュ)
【文化部連代表】荒縄目 夢路(あらなめ ゆめじ)
【学生寮代表】木霊 菜々実(こだま ななみ)
■高等部の制服
総ボタンでスカート丈が長いワンピース。色は濃いチャコールグレー。
襟と、ワンピースの中に穿くぺティーコートは白。
ショートタイは一年生がレッド、二年生がダークグリーン、三年生は白地に黒い十字のラインが入る。
■立地
広い敷地を確保する為、山が近い場所に建てられていますが、住宅地も近い為、少し歩けばコンビニやスーパーもあります。最寄り駅から二十分程で市街に出る事ができます。

●今回の参加者

 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa0913 宵谷 香澄(21歳・♀・狐)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)
 fa3814 胡桃・羽央(14歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

 舞芸祭二日目。
 アイドル倶楽部の屋台には、全くといって良い程に、全くといっても間違いではない位に、客がいなかった。その訳は、屋台に堂々と掲げられた、存在感漂う看板が全てを物語っている。
『メイド風ボルシチ屋台ブエノスアイレス風』。
 一見さん以外お断り、といった感じ。正直、興味本位以外で、こんな屋台に金を払う客がいるとも思えない。払ったら払ったで、墓穴を掘る羽目になりそうだ。どっちにしろ、損をしそう。
 そんな訳で、当然と言うか、必然に、店番の方は、相当に暇である。
 その暇に耐える事のできない少女がいる。
 高等部一年生の赤崎ベアトリス羽矢子(ベス(fa0877))だ。流石に、高等部で初めての文化祭がこれでは、詰まらないと思うのも、致し方ない事なのかもしれない。
 暇を持て余した羽矢子は、唐突に立ち上がると、
「あたし、お客さん集めてくるね〜!」
 他の部員達が止めようとするも、聞かず、羽矢子は元気よく駆け出した。


「3年18組で開店中の貸衣装屋『とらんすふぉーむ』! 我が校の制服も用意しております。カメラでの撮影も承ってますので、ぜひぜひお越しくださいませ〜♪」
 長身にチャイナドスを纏った狐村・静(宵谷 香澄(fa0913))が、宣伝活動を終えて教室に戻ってきた。プラカードを持った気だるげな表情ながら、長身の静にはチャイナドレスがよく似合い、すれ違う男、偶に女もがチラチラと振り返って見てる。
「疲れた〜‥‥」
 教室の前に辿り着くなり、静は大きな溜息を吐いた。
「お疲れ様であります」
「客の入りはどうよ?」
「二日目にしては、上々といった所であります」
 静は閉められた扉の向こう、即ち更衣室の中の風景を思い浮かべて、
(「‥‥きっと教室の中はめくるめく魅惑の世界なんだろうなぁ」)
 涎を垂らさんばかりの表情で妄想に浸る静に、クラスメートの少女は、微妙に引いた感じで、
「大丈夫でありますか? 両の米神から、紫色の粘液が垂れ流しになっているでありますよ?」
「じゅるり。ああ‥‥いや、大丈夫だぞ?」
 静は涎を拭き取ると、笑顔で答えた。
「それはそれとして、だ。なぁ、ちょっと中を見てもいいか? 誓って変な真似はしない、天にまします我らが神に‥‥ってここ元は仏教系か」
「はぁ? 宗教に関しては戦前までの慣わしでありますが‥‥」
「中にも従業員がいますし、狐村殿が入る分には問題は無いと判断するであります」とのクラスメートの答えに静は狂喜し、
「それじゃあ、おっじゃましまーす♪」
 勢い良くドアを開けた。
 ガラガラガラ―――!

 客は野郎しか居なかった。

 ―――ガラガラガラ!
 開けた時以上の勢いでドアを閉めた静は、爽やかな笑みを浮かべ、
「さて、そろそろ休憩だし、学園内を散策するか」


 校庭の一角。
 水泳部の屋台では、胸にさらしを巻いて法被を羽織るという、典型的なお祭りのスタイルの水泳部顧問、鉄 大河(シヅル・ナタス(fa2459))が、部員達に檄を飛ばしていた。
「いいか! お前ら!! 気合を入れてそれぞれの屋台の品を全品売りさばけ! 祭りが終わった時に一番売れ残った所は覚悟しとけよ!」
 言いつつ、大河自身もたこ焼きを焼いて売り捌いて行く。大河は、丸ごと蛸一匹を使ったたこ焼きを特別に作ろうとしたが、流石にそれは規格外が過ぎるため、断念せざるをえなかった。


「うわ〜‥‥」
 行きかう人々と道の両側に並ぶ屋台。飾り付けが施された、道に沿って並ぶ木々。それらを見つつ、和泉屋 彩弥乃(泉 彩佳(fa1890))は感嘆の声を漏らす。しかしその声も、人々の喧騒とスピーカーから流れてくる音楽によって、彩弥乃自身の耳にしか届かない。
 一年生であり、舞芸祭初参加の彩弥乃は、その規模の大きさに圧倒されていた。学園内に幾つもある道の一つでこれなのだ、グランドや、校舎の裏手にある小高い丘に至っては、どうなっているのか、想像すら及ばない。
 しばらくその光景を眺めていた彩弥乃は、気を取り直すと、肩から提げたクーラーボックスの位置を正し、歩き出す。
「チョコバナナ〜。チョコバナナは如何ですか〜? 陸上部名物のチョコバナナですよ〜」
 祭りをゆっくり見て廻りたいが、売り歩きのノルマも果たさなければならない。しかしながら、彩弥乃は人見知りをする性格で、こういった行為には慣れていない。初めこそ、勇気を振り絞って声を出していたが、やがて道の隅で歩みを止め、ぽつんと立ち尽くしてしまう。まるで、誰かが声を掛けてくれるのを待つ様に‥‥。
 こうして喧騒の中で一人佇んでいると、自分一人が周囲から取り残されている様な錯覚を受ける。
 彩弥乃の心が、沈み始めた時―――
「チョコバナナ一つ頂戴!」
 白熊のぬいぐるみを背負った少女が現れた。


 料理部が出店している店の宣伝も兼ねて、クッキーの売り歩いている。と言う名目ではあるが、天見 一颯(あずさ&お兄さん(fa2132))にとって、今日は食べ歩きの方がメインである。
 適度に適当に、クッキーを売りながら、フランクフルトやたこ焼き等の定番料理を買い求め、頬張り、舞芸祭を満喫している。
 ふと、一颯の視界に、道の端で立ち尽くす少女の姿が目に止まった。少女が肩から提げたクーラーボックスには、『陸上部名物チョコバナナ』『おいしいよ』と書かいた張り紙がされてある。
 一瞬「ライバル登場!?」と身構える一颯だが―――チョコバナナ。そう言えば、そろそろ甘い物が欲しくなってきた。
「‥‥‥‥」
 少しの間逡巡した一颯だが、
「チョコバナナ一つ頂戴!」
 少女に声を掛けた。商売敵ではなく、純粋に、客として。
 一颯が声を掛けると、少女は一瞬驚いたような顔をになり、慌ててクーラーボックスを開けた。
「は、はい! 一本で良いれすら?」
 噛んでるし。
 お金と交換で受け取ったチョコバナナを頬張り、満面に笑顔を浮かべる一颯。
「ん、これおいしいっ!」
「そう? ありがとう」
「ねぇ、こんな所でじっとしてても売れないよ? 売り歩きって言うくらいだし、歩いて廻らなきゃ」
 すると少女は困った様な、バツの悪い顔で、
「その‥‥あやの、人見知りが激しくて‥‥上手く声を掛けられないの」
「むむ。そうなんだ‥‥‥じゃあ、一緒に売り歩こうよ。学園祭見学もしながら」
「良いの?」
「勿論。私は天見 一颯。料理部の所属だよ」
「和泉屋 彩弥乃よ。所属は陸上部」


 閑古鳥の鳴いている喫茶店で、店番をしている白鷺 桜(佐々峰 菜月(fa2370))は、暇を持て余していた。
「呼び込みにでも行きましょうかね〜‥‥‥」
 この分なら、店番も桜一人が抜けたからといってそう変わらないと、桜は本気で考え始めた。
 その閑古鳥の鳴く喫茶店の隅の席。数少ない客の一人である赤羽さくら(サクラ・ヤヴァ(fa2791))は、午前中に取り貯めたデジカメ内のデータを整理していた。
 さくらの方も、二日目になって急に暇になった為、ブログで公開するネタをを求めて歩き回っていた。
 さくらがジュースを啜っていると、窓の外からギターを掻き鳴らす音が聞こえてくる。
 どこかでライヴが始まったのかもしれない。
 さくらはデジタルカメラを手に取ると、立ち上がった。


 昼も過ぎた頃。静は屋外カフェテラスから出てきた。
 隣には、途中、ナンパで引っ掛けた、他校の女子生徒を連れている。
「それじゃ、私これから待ち合わせがありますので‥‥」
「そっか、悪いね、付き合わせちゃって」
 静は、女生徒の耳元に唇を近付け、
「また連絡するから、『つづき』はその時に‥‥」
 静は囁き、頬に軽くキスすると、頬を染める女性とに手を振って歩き出す。
 チャイナドレスから制服へ着替えた静は、他校の女生徒や下級生をナンパしながら、学園内をブラブラと散策していた。
 そんな静の耳に、軽快な音楽と歌声が聞こえてくる。
(「ここらに、舞台は設置されてなかったはず‥‥」)
 静は好奇心から、音のする方へと、歩を進めた。


 一颯の食べ歩きに付き合っていた彩弥乃の胃の許容量は、そろそろ限界に達しそうである。
「流石にこれ以上は‥‥カロリーの事もあるし」
 胃にも体重にも優しくない状況。そろそろ一颯を止めようかと彩弥乃が真剣に悩んでいると、ベビーカステラを買いにいっていた一颯が駆け足で戻ってきた。
「彩弥乃さん! 向こうでゲリラライヴやってるよ! ボク達も行こう!」
 一颯は彩弥乃の手を取り、
「ついでに、お店の宣伝もさせてもらおう♪」
「え?! それは‥‥あやの人前に立つのは苦手だし‥‥」
「良いから良いから〜♪」
 戸惑う彩弥乃を半ば引き摺るように、一颯は人だかりの中へ突っ込んでいく。


「アイドル倶楽部販促ゲリラライブin舞芸さ〜い♪」
 人だかりの中心で、羽矢子は青いギターを掻き鳴らしながら歌っていた。
「SALUD! おかえりなさい‥‥♪」
 そもそも、客寄せ、宣伝の為のゲリラライヴであったはずだが、羽矢子は既に、そんな事は忘れてしまっている。通り掛かった人を巻き込んで、大騒ぎを続けていた。
「ぴゃ〜、たっのし〜♪」
 ノリノリの羽矢子。そこへ、
「いいねぇ〜。折角だし、混ぜてくれよ」
 人垣の中から進み出たのは静だった。
「ハイハイ! ボク達も混ぜて〜」
「天見さん、あやのは別に―――」
 一颯が彩弥乃の手を引いて飛び出してくる。彩弥乃の方は、状況に付いて行けず、あたふたしっ放しだ。
「ぴゃ〜♪ 大歓迎だよ! 人も沢山集まってきたし、盛り上がっていこー♪」
 羽矢子が場を盛り上げようと、腕を振り上げた、その時―――

 パン。パン。パン。

 場に響く、拍手の音。それも、場を盛り上げる為のものではなく、場の空気を引き裂く為のもの。
「ここは舞台ではないのですよ? こんなに人を集めて、完全な通行妨害ではありませんか」
 丁寧なくせに、相手を小馬鹿にした様な響きを含んだ声。その、声の主、風紀委員会の腕章を付けた少女が、人垣を割って現れる。
 平均よりもやや低い身長と、脛裏にまで届く長い髪。まるで目を閉じているかの様な、アルカイックスマイル。タイの色から判断するに、二年生。
「げ!? 戦場嵐か!」
 一年生の羽矢子や一颯、彩弥乃はキョトンとした顔をしているが、三年生の静は少女の顔に見覚えがあった。
 風紀委員会所属第三剣士隊隊長、戦場嵐 薙姫(せんじょうあらし なぎひめ)。
「運営委員会の許可無しに、勝手にライヴ等の行為をする事は禁じられています。よって、貴女方全員、この場で補導させて頂きます。釈明と弁明は、その後に‥‥」
 薙姫がアルカイックスマイルを崩す事無く、スッと片手を上げる。
「総員抜刀―――」
 ザ――――――ッ!!!!!!
 薙姫の合図で、人垣に紛れ込んでいた風紀委員会の少女達が前に出て、一斉に竹刀を抜く。
 既に囲まれている。逃げようにも、道が無い。
「全員って事は‥‥あやの達も数に入ってる、よね?」
 いつの間にか共犯にされている。
 にじり寄って来る風紀委員に対し、抗おうにも術がない。絶体絶命だった。

「―――双方、それまでです」

 唐突に―――凛とした、厳格な声が響く。
 風紀委員達は言うまでも無く、薙姫ですら、声の主を目で追った。
 そこには、一回り大きいサイズのぺティーコートを着た、丁寧に髪を切りそろえた、人形の様に華奢な体付きの少女が立っていた。
 風紀委員会会長、辻 守だった。


 結局、四人は補導はされず、厳重注意を受けるだけで開放された。
「お祭りで羽目を外すのは構いません。しかし、その根底には厳然としたルールがあるということを、忘れないで下さい」とのことだ。
「ぴえ〜‥‥疲れた」
「肉体的って言うよりは、精神的に疲れたよね」
 ぐったりとしている羽矢子に、彩弥乃が同調する。
「じゃあ、料理部のお店で休憩していかない?」
 一颯が皆に提案し、
「そうだな。今日もう当番は無いし、どこかで腰を下ろしてゆっくりしたいな」
 静が同意した。
 そして四人は、一颯を先頭に、学園祭で賑わう人混みの中を歩き出す。