Very Happy X’masアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
一本坂絆
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/25〜12/29
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●本文
嵯瑚 氷春(さごひばる)。
『仕置き人・佐近寺蓮耶』を始め、時代劇を中心として活動する女役者。
切れ長の眼に、きりりとした眉。すっと通った鼻筋と、刀を思わせる鋭い輪郭。
朱色紐で結い上げた、髷のようなポニーテール。日本画を思わせる模様のシャツ。地味な柄のダウンベスト。臀部から腿裏にかけて、金糸と銀糸で西陣織を思わせる刺繍を施した、フレアジーンズ。
『現代に生きる侍』を思わせる、その出で立ち。
それが、嵯瑚 氷春である。
その、男より女にモテそうな、きりりと引き締まった、綺麗な眉が顰められる。鋭い眼が見据えるのは前方。此方へと近付いてくる、二人の少女の姿だ。
片方の少女は、髪を左が長く右が短い、アンバランスなツインテールに結び、もう片方の少女は、右が長く左が短い、アンバランスなツインテールに結んでいる。そして二人共、そこかしこに白いファーのついた、丈の短い赤いワンピースを着て、白い大きな袋を担いでいる。可愛らしい、サンタクロースの扮装。しかし、氷春には悪質な冗句にしか見えない。
「「やっほ〜☆ ひばるん。アンタ暇でしょう?」」
二人の少女―――瓜二つの容姿を持つ、双子の姉妹は、挨拶と言うには余りに無礼な挨拶を、全く同時に口にした。
「何の用だ、羽音美月姉妹。暇だろうが何だろうが、私はお前達に用など無い」
憮然として言う氷春の様子に、にやりと笑みを浮かべる羽音美月姉妹。
「ご挨拶ね、ひばるん。イヴの予定が急に空いてしまって、困り果てている嵯瑚 氷春さん」
「残念よね? 女二人で寂しく行う予定だった食事会すら、鉄鎧さんに急遽入った仕事のせいで、取止めでしょう?」
姉妹は更に笑みを深め、
「「かっわいそぉ〜ぅ♪」」
「‥‥‥お前達は‥‥私を馬鹿にしに来たのか?」
「あら? 私達だって、そんなに暇では無いわよ」
「そんな暇があるのなら、教育番組でも見てる方が、有意義な時間が過ごせるわよ」
姉妹は氷春に、折り畳まれたカードを差し出す。
「寂しいひばるたんに、救いの手を」
「クリスマスパーティーのお誘いよ」
氷春は嫌そうな顔で、差し出されたカードを受けとる。
「妹が居ないと思えば、そういう事か。どうせ、昨日辺りに突発的に思いついたんだろう?」
「あの子なら、会場の手配をしてくれているわ」
「持つべきものは、有能な妹よね〜?」
羽音美月姉妹はクルクルと回りながら二手に別れて氷春の左右を抜け、そのまま小走りに駆けて行く。
「これから希望ちゃんにも声をかけなくちゃいけないの☆」
「ひばるん、必ず来なさいよ〜♪」
氷春は走り去る姉妹をしばし、視線だけで見送ってから、手元のカードに視線を落とした‥‥‥
†クリスマスパーティーのお知らせ†
■12月24日の夜、羽音美月姉妹主催のクリスマスパーティーを行います。
参加者は、アーティスト、役者、裏方業等の職種は問いません。
用意された料理を食べるだけでも良し。
ミニライヴを開くも良し。
イヴの夜を、皆と楽しく過ごしましょう。
■会場は小さなライブハウスを貸し切って行います。
料理は主催者側が用意しますが、持ち込んでも構いません。
ライヴを行う場合は、曲と歌詞はオリジナルのものに限ります。ソロ、グループのどちらでも構いません。
コスプレOK。但し、既存のキャラクターは不可。余りにも露出が多い服装も禁止。
半獣化しても構いませんが、能力の使用は厳禁とします。
■羽音美月(はねみつき)姉妹
ゴシックロックを好んで歌う、羽音美月まひろと羽音美月まひるのアーティスト姉妹。
姉妹と言っているが、どちらが姉で、どちらが妹かは本人達にも判らない。
見分けが付かない程に似た容姿をしており、髪型も面白半分に入れ替えるので、どちらがどちらか見分けるのが非常に困難。
三つ歳下の妹が、マネージャーを勤めている。
●リプレイ本文
●それぞれの楽しみ方
「「メリ〜〜〜〜‥‥‥クリスマーーースッ!!!」」
舞台上に立った羽音美月姉妹の声が、マイク越しに響く。
同時に、会場となったライヴハウスのあちこちでクラッカーと拍手が鳴る。
「まずは、集まってくれた皆に感謝するわ」
「そして、皆は招待された事に感謝して頂戴」
相変わらず高慢な態度の羽音美月姉妹は、共に、至る所にフェイクファーをあしらった、白のワンピースを着ている。
「食べるも歌うも踊るも自由よ」
「楽しい雰囲気を、私達に味合わせてよね」
姉妹の挨拶もそこそこに、クリスマスパーティーが始まった。
姉妹がかなり適当に招待状をばら撒いたせいもあり、会場には有名無名を問わず、様々な芸能関係者が訪れている。
そんな芸能関係者の一人。シンプルなゴシックワンピースに身を包んだ癸 なるみ(fa4068)は、そわそわと落ち着き無く、辺りを見渡していた。なるみは『芸能人のパーティー』は初めてだと言う事で、顔には、少々不安のと楽しみな気持ちが入り混じった表情を浮かべている。
(「お土産‥‥花束で大丈夫かな」)
羽音美月姉妹に、パーティーに招かれた礼を言おうと、会場を彷徨うなるみであったが―――
「貴女、パーティーは愉しんで頂けているかしら?」
「それとも、礼儀知らずにもいいえと答えるのかしら?」
意地の悪い笑みを浮かべた羽音美月姉妹の方から、なるみに声を掛けてきた。
「あ! あの‥‥今日はお招き有難う御座いました」
咄嗟に頭を下げ、なるみは手に持った花束を姉妹に差し出す。
「あら、お礼なんていいのよ」
「そうよ、私達を愉しませてくれれば、それでいいわ」
「そうだ! どうせなら、隠し芸をして頂戴な。うん! それがいいわ♪」
「テーブルクロス引きなんて如何かしら?」
「え、あ‥‥あの」
あっという間に姉妹のペースに巻き込まれるなるみ。危うく、本当に隠し芸として出来もしないテーブルクロス引きをさせられそうになる。しかし、横合いから伸びた手が、姉妹の口撃を遮った。
「パーティーへのご招待ありがとう」
笑顔で白い花束を差し出したのは、白のニットにベージュのパンツ、濃いグレーのスリムジャケットに身を包んだ雪架(fa5181)だ。
「花束を持ってきてみました。薔薇じゃさすがに照れくさいので、真っ白い花束をお嬢様達に」
目の前に突き出された暫く目を瞬かせていた羽音美月姉妹だが、
「ありがとう、お兄さん」雪架に礼を述べると「ホラ! ボーっとしてないで、花束を持って頂戴!」
背後へ向かって苛立たしげに声を掛ける。
姉妹に呼ばれ、姉妹の背後に控えていた女が一歩前に出て、二人から花束を受け取った。
ブラックスーツに身を包んだ、目の上から頬にかけての傷が特徴的な女だ。姉妹のマネージャーを務める、三つ歳下の妹である。その頭には、顔の傷より目立つ、トナカイの角を模した飾りを付けている。
「‥‥‥アンタ、それどうしたのよ?」
「はい。先程、会場に落ちていた白い袋を拾ったのですが、持ち主の女性に、中に入っていたトナカイの衣装を着てみないかと勧められまして。しかしながら、私はお客様のエスコートをすると同時に、パーティーの進行役を務めています。全身を覆う衣装は邪魔になると思い、取り合えず頭飾りだけ受け取りました」
スーツの女は、非常に事務的な説明口調で説明した。
その頃、白い袋の持ち主である種村有紀(fa1311)はサンタクロースをイメージした長袖とミニスカートという姿で、夕波綾佳(fa4643)が自宅で焼いてきたクッキーを口に頬張っていた。
「お味はいかがですか?」
赤と白の色合いの衣装を身に纏う綾佳は、やや不安げな視線を有紀に向ける。
「ん〜‥‥美味しい!」
「とても美味しいですよ。あ、もう一つ頂きますね?」
同じく、クッキーを摘んでいるスモーキー巻(fa3211)が更に一枚、クッキーを口に含む。
「良かった。皆さんのお口に合わなかったら、どうしようかと‥‥」
「そんな事ないわよ。あ〜、でも、クッキーは喉が渇くわね」
キョロキョロと有紀は周囲を見渡す。が、周りのテーブルには生憎アルコール飲料しか置いていないようだ。すると巻が、
「アルコールを飲めない人にと思って、クリスマスティーを持ってきたんですが、飲みますか?」
「本当? 頂くわ」
巻は早速クリスマスティーを取り出し、封を開けながら、
「しかし、僕みたいなオジサンが混ざってしまって本当によかったのかな?」
参加者の顔ぶれを見て、少し冗談めかして言ってみせる。
「そんな事ありませんよ。パーティーを愉しむのに、年齢は関係ありませんし」
「そうよ。気にせずに楽しみましょう♪」
実は、『オジサン』辺りは否定して欲しかったのだが、微妙な男心は、女二人には理解されなかったようだ。
会場の片隅にいた叶 希望の姿に気付いた美笑(fa3672)と小桧山・秋怜(fa0371)が、希望に声を掛ける。秋怜はパーティーに合わせて、動きやすい丈の短めのカクテルドレス。美笑はあまりラフになり過ぎない程度の、ジーンズ系の衣装を着ている。
「希望さんはじめまして、ボクは小桧山秋怜っていいます。美笑さんのいる事務所の所長もやってるんだ。もしよかったらいずれ一緒に歌ってみたいね」
「久しぶり、希望ちゃん。調子はどう?」
希望も二人に会釈を返す。
「初め‥‥まして‥秋怜さん。‥美笑‥さんも‥‥その節は‥‥お世話に‥なり‥ました」
希望は照れているのか、小さな声でボソボソと話す。事件の事には関係無く、引っ込み思案な彼女は、普段からこの調子だ。
「お陰様‥で‥‥先日‥‥活動を再開する‥事が‥できまし‥‥た」
良かったと、美笑は微笑む。希望はあの事件から立ち直る事ができたようだ。美笑はプレゼント交換用に用意していた、ベムレツの星をかたどったピアスを希望に手渡す。
「はい、コレ。私からのクリスマスプレゼント」
希望はピアスを受け取ると、嬉しそうに目を細め―――何かに気付き、急に眉根を寄せる。
「すい‥ません‥‥私‥‥‥お返するもの‥‥が‥‥‥」
「いいのよ。これは私の気持ちだから」
美笑は体の前で手をパタパタと振り、
「お互い、来年は頑張ろうね希望ちゃん」
その言葉に、希望は笑みと取り戻すと目を細め‥‥‥頷いた。
「はい」
●オンステージ
「Ladys&Gentleman!」
舞台の上には、サンタクロースならぬ『サンタ娘』の格好をしたフォルテ(fa5112)が立っている。舞台の端には、ピアノを弾く準備を整えたなるみの姿。
フォルテが会場の注目が集まったのを見計らい、クラブを取り出すと、なるみがピアノを弾く。曲は定番のクリスマスソング。リズミカルで軽快な曲に合わせて、フォルテがジャグリングの技を披露する。
フォルテがクラブを器用に操りながら、アンダーレッグ、バッククロスなどの技をキメる度に、会場から感嘆の声と拍手が湧き上がる。
その声援に応えるように、フォルテは初級から中級の一歩手前まで、徐々にレベルを上げていった。
フォルテは大玉の上に乗って、シャワー(お手玉のようにクラブを投げ上げる技)を行いながら、
(「‥‥まぁ、ボク、本当に中級の一歩手前までしか教えてもらっていないんだよねー」)
そんな風に胸中で一人心地ていると、集中が途切れたのか、危うくクラブを落としそうになる。
「おおっと!」
フォルテは落としかけたクラブをギリギリでキャッチ。すぐに立て直す。一瞬、会場にヒヤリとした空気が流れたが、逆にそれがスパイスとなって、更に盛り上がりが増す。
一通りのジャグリングを終えたフォルテは、
「今日は、ボクのジャグリングに付き合ってくれて、ありがとう御座いました♪」
会場と、なるみに向かってペコリと頭を下げて、舞台を降りた。
舞台を降りるフォルテに対し、惜しみない拍手を送る美笑に肩に、背後から重みが加わる。
「わひゃあ!」
「‥‥‥うぃ〜‥‥美笑さんはかわいいね〜」
美笑が慌てて顔を向けると、酔っ払った秋怜が、背後からぐでーっともたれ掛ってきていた。
(「う! お酒臭い」)
秋怜から漂うアルコールの臭いに、美笑は眉を顰める。
取り合えず、秋怜の身体を引き剥がし、
「飲みすぎはよくないですよ?」と説教を始めるも、説教をされる側の秋怜は「美笑さん酷いよ」とさめざめと泣き始める。無論、ただの『フリ』だが‥‥‥。性質の悪い酔っ払いである。
「ホラ! 雪架さんとミニライブするんでしょう。しっかりして下さい!」
美笑が勢い良く、両手で秋怜の頬を挟む。バチーン! と言う音と衝撃に、秋怜がハッと目を瞬かせた。
「ああ、そうだった。ありがとう」
秋怜は美笑に礼を言うと、フラフラと頼りない足取りで舞台に向かった。
舞台に上がった秋怜がショルダーキーボードの準備を済ませると、雪架がマイクを取る。
「皆さん、パーティーは楽しんでいますか? 折角のクリスマス、この場を借りて、皆さんへ、俺達からクリスマスのプレゼントを贈りたいと思います。曲名は『snow flower』。気に入ってもらえると、いいんだけど」
音源は、キーボードと声だけ。至ってシンプルだ。ミドルテンポのバラードを印象の柔らかいラブソングに仕上げていく。
『 白い息のフィルターのむこう
舞い落ちる花びらを 手のひらで受け止めた
灰蒼の空 ぬくもりの部屋で 君も見上げているかな
これはぼくらのための雪
想うとき心に降り積もる 白い花 冬の花 』
『 鈴の音が聞こえたら ベランダで待っていてウィンディー
片道5時間 距離も時間も飛び越えて会いに行くから
煉瓦の歩道から手を振るよ 驚いて 笑ってね
聖なる夜 twinkle 光れ little star
雲り空のむこう この道を照らしてる
未来までずっと 』
曲が終わると同時に、有紀が通常の三倍の大きさのクラッカーを派手に鳴らす。
「凄い、凄い。こんな曲を間近に聞けてラッキーだったわ!」
会場からも、二人に向けて、盛大な拍手が送られた。
その後、テンションの上がりきった羽音美月姉妹によって、パーティーはオールナイトへと突入していく。聖夜の宴は、簡単には終わりそうに無い。