私立アスラ女学園 拾肆アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/28〜03/30

●本文

 ―――毎年、卒業式の季節には、雪が降っている気がする。


 まだまだ肌寒い気温をコート越しに感じながら、風紀委員会副会長・赤鍵 参道(あかかぎさんどう)は白い息を吐いた。
「聞いていますか? 赤鍵先輩」
 何処か上の空の参道に、風紀委員会会長・辻 守(つじ まもり)が問いかける。
「ん、悪い。なんだって?」
「明日の式終了後に行う、委員会内での送行会についてです。卒業生の方々の予定も鑑みて、式後、一時間ほどの間を置いて行う予定ですので。赤鍵先輩も、宜しければお越し下さい」
「ああ、気が向いたらね」
 参道は気の無い返事を返し、
「気分良く祝ってもらうには、居座りすぎた。今更―――だろう?」
「五年‥‥‥ですか」
 赤鍵参道。元風紀委員会会長にして、現風紀委員会副会長。三年生を、三回経験したこの女(ひと)は、一体―――今―――何を思うのか。
「卒業するまで面倒見てやる、って約束だったからね」
 約束―――それが、赤鍵参道の留年の本当の理由。
 しかし、守は詳しい事情を知らない。三年生の中でも、知っている人間は極わずかだという、事情。
「今更、実家の仕事手伝うのも気が引けるし‥‥‥。警備委員会に天下りするかねぇ」
 参道は冗談めかして、笑ってみせる。
「先輩―――」
「それにしても」と参道は、守の言葉を遮り、
「戦場嵐の奴は悔しがっていただろう? 風紀委員会の会長の座を狙ってたからな」
「御陰様で、今年度も私が会長を襲名する事となりました。戦場嵐さんは、副会長に‥‥」
「戦場嵐は野心家で、体術も人並みだが、頭は切れる。上手くやりな」
 そう言って、参道は自分の、白いタイを外すと、
「やるよ」
 守に手渡す。
「後の事は任せる。好きにやりな」
 タイを受け取り、頭を下げる守に背を向けて、参道はその場から立ち去った。


 卒業が引越しと同義語である寮生は、部屋の片付けに追われている。
 木霊 菜々実(こだま ななみ)は、大きなトランクを閉めると振り向き、
「はい、これでおしまいなのよ、つづらちゃん」
「いや〜、助かったッスよ、ななちゃん。物が多すぎてどうにも片付けが進まなかったんスよね」
 部屋の片付けを手伝って貰っていた風祭 葛篭(かざまつり つづら)が、頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「も〜、葛篭ちゃんは普段から片付けなさ過ぎるんだよ!」
 菜々実と共、片付けを手伝っていた、遠昏 真戯(おちくら さなぎ)が葛篭を注意するも、すぐに表情を翳らせ、
「今日で、寮ともお別れだね。なんだか寂しいな」
「ななちゃんは人一倍、寮には思い入れがあるんじゃないッスか?」
「うん‥‥‥でも、後の事はひーちゃんに任せたし。大丈夫なの。ななみは此処からいなくなるけど、ななみの中から此処が無くなる事は無いのよ」
 微笑む菜々実の頭を、真戯が優しく撫でる。
「んじゃあ、まぁ、明日はバシッと決めるッスかね。―――そう言えば、カナっちにとっても、明日は勝負どころッスよねぇ」
「え、そうなの?」
「卒業式の日の夜にやるダンスパーティー。卒業式の後、意中の相手をパートナーに誘い、承諾してもらえれば、晴れて両想いっつー漫画みたいなジンクス―――じゃねぇッスね、風習? 兎に角、皆それを意識してるのは確かッスよ」
それを聞いて、急に真戯が、ソワソワと両手の指をすり合わせ始める。
「つ、葛篭ちゃんは‥‥その‥‥踊る相手、まだ決まってないの?」
「ん〜? 今のところは誘いは受けてねぇッスね。つーか、誘いを受けるなら、卒業式が終わってからっしょ」
「そっか、そうだよね。あのね、葛篭ちゃん。わ、私もまだ相手決まってないんだ。き、寄寓だね!」
 真戯は視線を床に向け、声を上擦らせる。
「まぁ、良いんじゃないッスか。踊るのとかメンドイし。私も、料理食べるだけ食べたらトンズラするつもりッスから―――ってマギー、ナニ床に額を押し付けて、涙流してるんッスか?」
「涙は明日にとっておくッスよ〜」と声を掛ける葛篭。
「ぅぅ。なんでもないです‥‥‥‥」
 崩れ落ちた真戯は、そのままの姿勢で、か細い嘆きを漏らす。



※今回は卒業式がメインです。ダンスパーティー自体は今回は描写されません。ご注意下さい。






※注意※
・ドラマのキャストを募集します。
・生徒会はNPCとして扱います。生徒会メンバーを演じる事はできません。ご了承ください。
・実際のドラマでも、二十代の役者さんが高校生を演じる事は良くあります。あまり年齢を気にせずにご参加ください。
・お題に沿ってストーリーを考えて頂いても構いませんし、キャラクターや取りたい行動だけ書いて、後はお任せと言う形でも構いません

†私立アスラ女学園の御案内†
・アスラ女学園では生徒はもちろん、教職員も女性を採用しています。
・当学園では、文武両道の精神と、生徒による自治を重んじています。
・各クラブ活動、学校行事の運営、生活指導は生徒会主導の下に行われています。
・自宅登校が基本ですが、学生寮もあります。
・また、中等部、初等部の敷地が隣接するように並んでいます。隣接しているだけで、中等部、初等部とは敷地、施設は別れています。
■歴史
創立は約三百年前。元は仏教色が強かったのですが、戦火に焼かれた事と、施設の近代化に伴い、現在では名称と一部の伝統にのみ名残が残っています。敷地内にお堂があるのはそのためです。
■学校施設
校舎は三階建て。
敷地は『校門から校舎(下足場所)まで十分はかかる』と言われるほど広く、グランド、体育館、室内プール、図書館、部活棟、各道場、テニスコート、花園、食堂、カフェテラスなどの施設がそろっています。学生寮も敷地の中に入っています。
■生徒会
アスラ女学園の生徒会は生徒会長が三人おり、副会長がいません。
『スリーオブフェイス』
【生徒会長】
小扇 一羽(こおおぎ ひとは)
夜坂 東(よるざか あずま)
片馴 静奈(かたなれ しずかな)
『ライトアーム』
【書記長】遠昏 真戯(おちくら さなぎ)
【会計士】風祭 葛篭(かざまつり つづら)
【風紀委員長】辻 守(つじ まもり)
『レフトアーム』
【運動部連代表】藤華・キャヴェンディッシュ(とうか・キャヴェンディッシュ)
【文化部連代表】荒縄目 夢路(あらなめ ゆめじ)
【学生寮代表】木霊 菜々実(こだま ななみ)
■高等部の制服
総ボタンでスカート丈が長いワンピース。色は濃いチャコールグレー。
襟と、ワンピースの中に穿くぺティーコートは白。
ショートタイは一年生がレッド、二年生がダークグリーン、三年生は白地に黒い十字のラインが入る。
■立地
広い敷地を確保する為、山が近い場所に建てられていますが、住宅地も近い為、少し歩けばコンビニやスーパーもあります。最寄り駅から二十分程で市街に出る事ができます。

●今回の参加者

 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa0913 宵谷 香澄(21歳・♀・狐)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa3426 十六夜 勇加理(13歳・♀・竜)
 fa3623 蒼流 凪(19歳・♀・蝙蝠)
 fa4882 ヒカル・ランスロット(13歳・♀・豹)

●リプレイ本文

 狐村・静(宵谷 香澄(fa0913))は、憂いをおびた表情で寮の自室の窓枠にもたれ掛かり、外の景色を眺めていた。
「もう、私も卒業なんだな‥‥」
 長い間居座った寮とも、遂に、別れる時が来た。
「色々とやり足りないこともあるけど、まぁ仕方ないな」
 脳裏をよぎる思い出に、微苦笑を浮かべる静。
 ここで―――「まだやり足りないのか」といった無粋なツッコミは、敢えてすまい。
 空気は大事。
 静はシリアスな雰囲気を纏ったまま。
「精々―――惜しまれながら、ここを去るとしますかね」


●卒業式準備
 卒業式の会場となる、校内最大の体育館。第一体育館では、卒業式の準備が着々と進んでいた。
 赤羽さくら(サクラ・ヤヴァ(fa2791))が放送機材を弄っている一方で、北条・渚(ヒカル・ランスロット(fa4882))らは、会場の飾り付けに精を出している。
 渚が積極的に飾りつけをしている姿と言うのは、いつも独りで行動している姿から考えると、珍しい事だと感じられる。これも、卒業生への渚なりの精一杯の恩返しのつもりのようだ。
 その渚の指示を受けながら、戎橋茜(十六夜 勇加理(fa3426))もまた、懸命に飾り付けを続ける。
「戎橋さん、北条さん。そろそろ交代したら? ずっと作業してるでしょう?」
 そんな―――他の生徒からの言葉にも、
「アタシに出来るのは、こんな事ぐらいだからね」と、甲斐甲斐しくも、微笑を浮かべて答える茜であった。


 他の者が真面目に準備に取り組んでいる中、
「片馴先輩も夜坂先輩のこと想ってると思うんだけど、あたし的カップリングは赤鍵さんと夜坂先輩だと思うんだ〜。ハッ! もしかして三人一緒とか!? キャー☆」
 卒業式で誰と誰がくっつくかの予想(妄想)を垂れ流して盛り上がる、赤崎ベアトリス羽矢子(ベス(fa0877))。
「あの三人て、そんなに仲よかったっけ?」
「夜坂先輩だったら、三人一緒ってのはありそうだよね。逆に一人を選びそうには無いなぁ〜」
「まぁね〜。特定の人と付き合った事ないし。何をやるにしても適当に手を抜くのが心情だって、公言して憚らない人だからね」
 卒業式後のダンスパーティーの事もあり、生徒間ではカップリングに関しての話題が後を絶たない。
「う〜ん‥‥‥‥そうだ!」
 羽矢子が唐突に、瞳を輝かせながら、顔を上げる。
「良い事思いついた! 名付けて愛のキューピット大作戦♪」
 ぱふぱふ〜☆ と一人はしゃぐ、羽矢子。
 因みに―――こういう時の彼女の思い付きが、本当の意味での『良い事』だった試しはない。


●卒業式当日
 会場の入り口に向かい、ずらりと並ぶ卒業生達。
 星崎ハルナ(堀川陽菜(fa3393))は並んだ卒業生に、胸に着ける花飾りを配り、時には花飾りを付けるのを手伝う。
 途中―――
「お? 大胆だな。もっと触ってもいいぞ」と、訳のわからない誘いを受けたが、
「お断りします」
 ハルナは笑顔で、にべも無く、断った。


「どうしたんだ? マギー」
 列に並んでいた静は、遠昏 真戯が手に持っている封筒の存在に気が付いた。
「葛篭ちゃんから手紙―――なんだけど。でも‥‥葛篭ちゃんの字じゃないの」
 真戯はそう言って眉根を寄せ、小首を傾げる。
「わかるのか?」
「私、書記長だよ? それに、葛篭ちゃんとは長い付き合いだし」
 その発言からは、どこか、微かな自信と自負が滲み出ている。
 その様子に、静は何事かを考え込む様に腕組みをして、
「‥‥‥というかだな。この際、はっきりと気持ちを伝えてみてはどうだね、マギー」
「そっそそそそそ―――ッ?!」
 言葉にならない声を上げ、手をわたわたと動かす真戯。
 そんな真戯にお構い無しで、静は熱弁をふるう。
「乙女は度胸と愛嬌、恋と博打は出たとこ勝負。自分を信じて行くんだマギー!」
 静の発言は、別に単なる親切心から来る発言と言うわけではなく、見ている方が胸焼け起こしそうな甘々空間を作って欲しい、という、個人的な願望から来るものなのだが‥‥‥
「小難しく考えず、ありったけの気持ちを正面からぶつけてやればいいんだ。個人的な希望を言うなら押した―――ぐぼああああああああ!!?」
 調子に乗ってまくし立てていた静が、顔を真っ赤にした真戯のストマッククローが決まって悶絶する。


 巨大な体育館に、千人を優に超える人間が並ぶ様と言うのは、それだけで圧巻である。
 居並ぶ人々の内、教師陣の列に並ぶ鉄 大河(シヅル・ナタス(fa2459))は、小さな声で、愚痴を零す。
「毎年の事ながら、お偉いさんの話は長くっていけないね」
 愚痴の対象は、卒業式恒例とも言うべき校長の長話だ。
(「理事長の話は三年前から全く変わってなかったしねぇ‥‥。もうちょっと、こう―――捻れや」)
 退屈すぎる。
 蜜蜂の生態から始まった校長の話が、宮本武蔵の生涯を経て、アンドロメダ星雲の輝き云々に差し掛かった辺りで、大河の意識は睡魔に飲まれた。


●卒業式終了後
 式が終わり、人気がまばらになり始めた廊下を歩く静。時折立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回している。
「渡すものがあるって言うのに―――全く‥‥」
 探せども、探し人は見つからず。
 静は校内の探索を諦め、静が下駄箱へ向かう。
 そこで―――知った人影を見つけた。
 風祭 葛篭と真戯だ。
 静は素早く適当な靴箱の陰に身を滑り込ませる。
 少しだけ顔を覗かせ、耳を済ませた。
「―――っぱり、マギーのところにもきてたッスか」
 真戯が持っていた物と同じ封筒を取り出し、ヒラヒラと振ってみせる葛篭。
「マギーの字にしてはやけに雑なんで、確認しに来たんッスよ」さっさと手紙を懐にしまうと、
「まぁ用件はそれだけなんで―――じゃ!」
 片手を上げて、立ち去ろうとする。
 静はそのやり取りに苛立ちを覚える。
(「何やってんだマギー‥‥‥! 折角のチャンスだというのに―――! 愛しの風祭が行ってしまうぞ! 今が最後のチャンス、ここで言わずにどこで言う!」)
 そんな―――静かの心の声が聞こえたかどうかはわからないけれど、
「あ‥‥あのね、葛篭ちゃん!」
 と―――真戯が葛篭に切り出した。
「ダンスパーティー、私と一緒に踊って貰えない、かな‥‥?」
「いいッスよ」
「うん‥‥そうだよね。こんな事、いきなり言われても困るよね。葛篭ちゃんにだって、予定とか‥‥あるのに。大丈夫、私の事は気にしないで。ちょっと言ってみただけだし‥‥‥無理言って御免ね、葛篭ちゃ―――ってえ、いいんかい!」
 動揺で、真戯のキャラが変わった。
「どうせ誰にも誘われてねぇッスし。モテない者同士、寂しく友情を深めるッスよ」
 呵呵大笑して、真戯の背中を叩く葛篭。
「あ‥‥いや、葛篭ちゃん。私が言ってるのは、そういう意味じゃあ―――」
「んじゃ! 私はクラスの子と写真とって来るッスからッ!」
 今度こそ走り去る葛篭。
 遠ざかる葛篭の背中に手を伸ばした姿勢のまま固まる真戯を、哀れみの目で見つめる静であった。


 後者裏へと続く、人気の少ない並木道―――の脇の茂みで、羽矢子はじっと、身を潜めていた。
 羽矢子の視線の先には、片馴 静奈の姿がある。
 静奈は誰かを待っているようで、さっきから、その場を動いていない。
 羽矢子は予め、静奈の耳に入るように『夜坂さんが赤鍵さんをダンスに誘ったと』噂を流して発破をかけ、静奈の動向を伺っていた。
 式の終了後、東の跡を付ける静奈の後を追って、今に至る。
(「ふふふふ♪ どんな結果になるのかな〜☆」)
 デジタルカメラを構えた羽矢子は胸を躍らせる。
 やがて、夜坂 東が後者裏の方から歩いてきた。首にタイを巻いておらず、代わりに、右手にタイを握っている。
 東は、静奈の姿に気付くと、微笑を取り繕って、話しかける。
「むぅ〜‥‥ここからじゃ良く聞こえない」
 今いる位置からだと、微かに会話の端々が聞き取れるが、明確に内容を聞き取る事ができない。かと言って、あまり近付きすぎるとバレてしまう。
 羽矢子は茂みから身体がはみ出さない程度に身を乗り出して、耳を済ませる。
「―――自分を磨いて―――あの人の隣に立てる―――ね」
 東の、清清しく、晴れやかな表情。
 静奈の、苦々しく、悔しそうな表情。
 静奈は―――唇を噛み、縋りつくように、言葉を投げかける。
「‥‥‥‥私じゃ―――の?」
「ああ、ダメ―――」
 どうやら、『良い流れ』と言うわけではないようだ。
「ぴゃ〜‥‥修羅場だ‥‥」
 しっかりと、撮影を行いながら、食い入る様に二人のやり取りを見詰める羽矢子。
 二人は、更に二、三言会話を交わすと、
 東は「―――だから‥‥私は、赤鍵さんじゃなきゃ、駄目なんだ」と言葉を残して、その場を去った。
 静奈は‥‥‥下を向いたまま、動かない。
「ぴぇ〜‥‥上手くいかなかったみたいだねぇ」
「あらあら、どちらも玉砕って感じかしらね?」
「‥‥‥‥‥へ?」
 突然降ってきた声に、羽矢子は驚いて顔を上げる。
 そこにいたのは、癒しの笑みを、持つ少女。
 生徒会長の一人。
 背後に立った小扇 一羽が、覗き込むように羽矢子を見下ろしていた。
 一羽は絶句している羽矢子の手からデジカメを抜き取ると、勝手に操作してから、羽矢子に返した。
「あー! データが消えてる!?」
 さっき取った画像が全て消されている。
「ふふふふふ。今回は状況が状況だから、勘弁してあげてね?」
 騒ぐ羽矢子に構わず、ニッコリと微笑む一羽。
「おい! お前等、何やってんだ!」
 そこへ、見回りをしていた大河と黒羅・静香(蒼流 凪(fa3623))がやって来る。
 一羽は「あらあら」と微笑みながら、さっさとその場を退散し。
 羽矢子も「たいさーん!」と脱兎の如く駆け出した。