私立アスラ女学園 拾伍アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/26〜04/30

●本文

 広大なホールには、優雅な音楽が流れている。
 設置されたテーブルには、白いテーブルクロス引かれている。
 並べられた皿の上には、豪華な料理が盛られている。
 そして―――思い思いの衣装に身を包んだ生徒達が集っている。
 ある者は制服。ある者は私服。パーティ用のドレスを着ている者もいる。
『パーティへお越しの皆様。今宵は存分にお楽しみ下さい。料理を肴に歓談されるもよし。想い人とダンスに興じるもよし。このアスラ女学園での最後の思い出が、最高の思い出となります事を、心から願っております』
 卒業生を祝福する為のダンスパーティーだから、参加している生徒の多くは卒業生だ。しかし、給仕や、卒業生と踊る事を目当てにした在校生も参加している。
 煌びやかな夜が幕を開けた。


 吹奏楽部による、生演奏に合わせ、夜坂東と藤華・キャベンディッシュがワルツを踊っている。
 東は、ダンスパーティーに相応しいとは言いがたい、白のシャツに、ジーンズと言うラフな格好。対する藤華は、グラスグリーンのパーティドレス姿。
 一見して噛み合っていないように見える二人だが、周囲には既に、次の順番を待つ生徒で囲いができている。
「てっきり‥‥落ち込んだまま出てこないのかと思っていましたわ」
 踊りながら、藤華は意地の悪い笑みを浮かべた。卒業式の後、想い人に告白し、見事に玉砕した東にとっては、中々の皮肉である。
「落ち込んだ時こそ、人肌に触れて気を紛らわさないとね」
 藤華をリードしながら、東は藤華の発言を軽くかわす。
 東のリードに合わせ、藤華が身を翻す。
「そういう甘えた事を言っているから、フラれてしまうのですわ」
 ドレスの裾が、ふわりと広がる。
「‥‥‥手厳しいな、藤華は」
「貴女は私のライバルなのですから。シャンとして頂かなければ困りますわ」
 それが、藤華流の気遣いだと言う事は、東には良く判る。だから、
「我が気高き華の願いとあっては、無下にはできないな。‥‥‥精々、『これから』を頑張るよ」
 そう冗談めかして、東は精一杯の微笑を浮かべてみせた。




※注意※
・ドラマのキャストを募集します。
・生徒会はNPCとして扱います。生徒会メンバーを演じる事はできません。ご了承ください。
・実際のドラマでも、二十代の役者さんが高校生を演じる事は良くあります。あまり年齢を気にせずにご参加ください。
・お題に沿ってストーリーを考えて頂いても構いません。
・ダンスパーティでの衣装はこれと言った指定はありません。
・PC同士で踊る場合は、その旨をプレイングにお書き下さい。

†私立アスラ女学園の御案内†
・アスラ女学園では生徒はもちろん、教職員も女性を採用しています。
・当学園では、文武両道の精神と、生徒による自治を重んじています。
・各クラブ活動、学校行事の運営、生活指導は生徒会主導の下に行われています。
・自宅登校が基本ですが、学生寮もあります。
・また、中等部、初等部の敷地が隣接するように並んでいます。隣接しているだけで、中等部、初等部とは敷地、施設は別れています。
■歴史
創立は約三百年前。元は仏教色が強かったのですが、戦火に焼かれた事と、施設の近代化に伴い、現在では名称と一部の伝統にのみ名残が残っています。敷地内にお堂があるのはそのためです。
■学校施設
校舎は三階建て。
敷地は『校門から校舎(下足場所)まで十分はかかる』と言われるほど広く、グランド、体育館、室内プール、図書館、部活棟、各道場、テニスコート、花園、食堂、カフェテラスなどの施設がそろっています。学生寮も敷地の中に入っています。
■生徒会
アスラ女学園の生徒会は生徒会長が三人おり、副会長がいません。
『スリーオブフェイス』
【生徒会長】
小扇 一羽(こおおぎ ひとは)
夜坂 東(よるざか あずま)
片馴 静奈(かたなれ しずかな)
『ライトアーム』
【書記長】遠昏 真戯(おちくら さなぎ)
【会計士】風祭 葛篭(かざまつり つづら)
【風紀委員長】辻 守(つじ まもり)
『レフトアーム』
【運動部連代表】藤華・キャヴェンディッシュ(とうか・キャヴェンディッシュ)
【文化部連代表】荒縄目 夢路(あらなめ ゆめじ)
【学生寮代表】木霊 菜々実(こだま ななみ)
■高等部の制服
総ボタンでスカート丈が長いワンピース。色は濃いチャコールグレー。
襟と、ワンピースの中に穿くぺティーコートは白。
ショートタイは一年生がレッド、二年生がダークグリーン、三年生は白地に黒い十字のラインが入る。
■立地
広い敷地を確保する為、山が近い場所に建てられていますが、住宅地も近い為、少し歩けばコンビニやスーパーもあります。最寄り駅から二十分程で市街に出る事ができます。

●今回の参加者

 fa0913 宵谷 香澄(21歳・♀・狐)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa4581 魔導院 冥(18歳・♀・竜)
 fa4768 新井久万莉(25歳・♀・アライグマ)
 fa5559 黒羽ほのか(20歳・♀・鴉)
 fa5627 鬼門彩華(16歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

 カツカツと、ローファーの音を響かせていた女生徒の歩みが止まる。
「相変わらず派手ねぇ〜」
 彼女は目の前に広がる光景を、呆れを交えてそう評した。
 広大なホールに流れるワルツは、吹奏楽部による生演奏。
 ホールの至る所に並べられたテーブルには、一目で高級だと判る料理の数々。
 豪華絢爛―――此処に極まれり。
 その光景をホールの入り口に立って眺める女生徒は、学園の制服を着て、眼鏡の代わりに着けたコンタクトと、ポーニーテールにした髪で若作りをしているが、れっきとした新社会人である。
 衣笠 碧流(新井久万莉(fa4768))。
 アスラ女学園のOGであり、新年度から学園に赴任が決まっている新米化学教師だ。
 そんな彼女が、何故生徒のフリをしてダンスパーティーに潜り込んでいるのか?
「私の顔知ってる奴なんていないしね。どうせ教師も顔出したりしないし」とは彼女の言である。
 豪放―――と言うよりは、悪戯好きの子供を髣髴とさせる。
 しかし実際、生徒数の多いアスラ女学園で、全ての生徒の顔を覚えている者などどれ程いよう。
「飲み物は如何ですか?」
 入り口近くで立ち尽くす碧流に、飲み物の載った盆が差し出された。
 いつの間にか、目の前にメイド服を着た、家庭的な雰囲気の少女が立っている。
 若さっていいわねぇという本心を隠しつつ、「流石に御酒は無いのね」と冗談めかして言う碧流に、
「卒業生とは言え、未成年ですよ!」
 ぴっと人差し指を立て、少女が本気の注意。
 随分と真面目な性格のようだ。
「や〜ねぇ。冗談よ♪」
 碧流は笑みを浮べてジュースを受け取ると、会場の奥へ向かって歩き出す。


「飲み物は如何ですか?」
 メイド服を着て給仕をこなす星崎ハルナ(堀川陽菜(fa3393))。
 入り口付近で立ち尽くす三年生へ、スマイルと共に飲み物の載った盛った盆を差し出す。
 ハルナを始め在校生で手が空いている者は、パーティースタッフとして、裏方に回って忙しく走り回っている。他にも赤羽さくら(サクラ・ヤヴァ(fa2791))、霧矢はるか(鬼門彩華(fa5627))、山村静(大豪院 さらら(fa3020))など何人もの生徒が手伝いとして駆り出されてはいるが、生徒の人数と料理の量が多いため忙しく感じる。
「流石に御酒は無いのね」
 盆に載った飲み物をざっと見た女生徒が軽い調子で言う。
「卒業生とは言え、未成年ですよ!」
 ハルナは笑みから一転。ぴっと人差し指を立てて女生徒を窘める。
 卒業に浮かれて飲酒をし、事件を起こす者が多いというニュースだって多いのだ。
 上級生とは言え、注意すべき時は注意しなければならない。
 しかし、女生徒は真剣に注意するハルナの言葉を遮る形で、
「や〜ねぇ。冗談よ♪」
 可笑しさを堪える様に顔を歪めたまま盆の上のグラスをとると、会場の奥へと消えていった。
「‥‥‥まったく」
 言いたい事はまだあったが、仕事の量はそれよりも多い。
 気を取り直して仕事に戻ろうとしたハルナに、別の方向から声がかかる。
 今度は知っている人物だ。
「お〜い、星崎。聞きたい事があるんだが―――」
「この後の予定なら空いていませんよ」
 手を振りながら近付いてきた狐村静(宵谷 香澄(fa0913))に、ハルナはキッパリと言い放った。
「‥‥‥いや、ナンパじゃないから」
「‥‥‥え? あれ? うそ? 違うの?」
 だが、ハルナには静がナンパ以外の目的で、女生徒に声を掛ける理由が思い当たらない。
「口調が素に戻っている事を突っ込むべきか、そこまで驚かれる事を悲しむべきか」
 難しい問題だ。
 自業自得ではあるのだけれど‥‥。
「まぁ‥‥それよりも、だ。闇野を見なかったか?」
「闇野さんですか? 見ていませんけど」
「ん〜‥‥そうか」
 静は顎に手を添え、しばしの黙考の後、
「わかった。サンキュー」
 ハルナに軽く手を振って、立ち去った。


 狐村静は、一人会場を歩きながら考える。
 これだけ捜していないとなると、会場の中には居ない可能性が高い。そうなると、会場の外にいるのか‥‥‥。
「それとも、始めからパーティーには来ていないのか。だなぁ‥‥」
「それは寂しいな」と静は誰にとも無く、呟いた。
 まだ諦めるのは早い。もう一度捜してみよう。
「まったく。世話の焼ける娘だ」


 雲が月を隠している。
 しかし微かにだが、雲の隙間から、白く淡い光が伸びている。
 夜空の下。
 微かな月の光に照らされながら、闇野マナ(魔導院 冥(fa4581))はギターを鳴らす。
 音は当然のようにマイナーコード。夜の空気を鬱々と震わせる。

『 切なき心 旅立つ貴女に 陰から見送る愛もあるさ
  学園の影に 体を溶かして ギターを鳴らす私の美学 』

 マナは口元に微かな笑みを浮かべる。
 失笑だった。
 苦笑だった。
 自嘲を持って笑みとする―――そういった類の笑みだった。
 マナの心を占める一人の女性。
 その存在が‥‥‥否、その存在を想う自分の心が、マナに苦みを与える。
 もう、此処では彼女に会えなくなると、頭でなく、心で理解して―――
 初めて、どれだけ自分の中で彼女の存在が大きく、ウェイトを占めていたかに気が付いた。
 マナは、そんな事を今更に気付く自分に対して、自嘲の笑みを浮かべるのだった。
「狐村先輩‥‥‥」
 想い人の名を呟くマナの頬を、涙が一筋伝って落ちた。

 砂利。

 背後からの足音。
 マナはビクリと肩を震わせ、慌てて服の裾で目元を拭う。
「こんな所にいたんですか?」
 マナの背後に立ったハルナが言う。
「こんな所にいないで、中に入って踊ってくださいな」
「吹奏楽部の曲は私の音楽センスに合わない」
 マナは振り向かず、ギターの弦を弾く。
「狐村先輩が捜していましたよ?」
 マナは振り向かず、ギターの弦を弾く―――手が止まる。
「さ、行きましょう☆」
 ハルナがマナの手を取る。
「ちょっと待て! 私は別に―――ッ!」
「いいからいいから♪」
 抵抗空しく、引き摺られていくマナ。
 マナの背を追うように、雲間に隠れていた月が、ゆっくりと顔を出た。


 ようやくマナを見つけた。
 狐村静の歩みが自然と速まる。
「―――いたいた、こんなところで一体何をしてるんだ」
 黒いドレス姿のマナは会場の隅で、所在無さげに壁に身を任せていた。
「いや‥‥何と言われても私にもわからないというか‥‥本当に私は何をやっているんだろう‥‥」
 あの後、ハルナに連れられてドレスアップされたのだが‥‥
「在校生の私が、こんなにも目立っていいもなのか‥‥‥」
「いいんじゃないか? 似合ってるし」
 静の言葉に、マナの顔が瞬く間に朱に染まる。
(「私は変わってしまった。昔はこんな事くらいで動揺したりはしなかったのに‥‥」)
 でも―――嫌な気は、しない。
「折角のダンスパーティーなんだ、踊りに行こう」
 静がマナの手を取る。
 そのまま、ダンススペースへと連れて行く。
「ちょ、ちょっと!」
 今日のマナは、良く手を引かれている気がする。


 クイック・クイック・スロー。
 クイック・クイック・スロー。
 二人がホールに流れるワルツにあわせて踊る。
 静はマナの目を、正面から見る。
「卒業式のときに居なかったから、心配したんだぞ?」
「今日だって、別に会うつもりは無かったんが‥‥」
 マナは中に視線を彷徨わせ‥‥‥結局、静の視線を受けて止めて、
「卒業オメデトウ」
 ぽそりと、呟いた。
 曲が終わると、静は自分の制服のタイを外して、マナに手渡した。
「これは?」
「これで一端お別れだし、形に残るものの一つや二つは、な」
「残して行く側だって、寂しいということさ」と、静かは微笑を浮べた。
 マナの手が、渡されたタイを、強く強く、握り締める。
「それじゃ、また逢おう『私の妹』」


「最近の子は大胆ねー」
 碧流はダンス会場でタイの受け渡しをする二人組みを見ながら、自身の頬に手を添えて、風紀委員会副会長赤鍵 参道に視線を向ける。
 参道は今年度の卒業生だが、二浪している為、碧流とは顔見知りだった。
「先輩だって、まだまだ若いじゃあないですか」
「あら、褒めても何もでないわよ?」
「いや、若さを語るのは、あと十年は生きてからだと、私は思ってますんで」
 参道は肩を竦めて見せる。
「でも、赤鍵もようやく卒業か‥‥ガンバったね!」
 そう言って、碧流は参道の背中を勢い良く叩く。彼女なりの餞別だった。
「私ゃ頑張ってなんていやしませんよ。我を張っただけです」
 背中を叩かれながらも、参道は揺るぎなく答えた。


「本当にやるのか?」
「勿論だ」
「これは、さっき貰ったタイの礼だぞ! それ以上の意味は無いからな!」
「わかったから、ほら」
「本当にわかっているのか全く」
 マナはブツブツと文句を言いながら、手に持った皿から料理を取り、恥ずかしさに耐えながら、静の口元へ運ぶ。
「あ‥‥あーん!」
「あ〜ん♪」
 プルプルと震えるマナの手が、静の口に料理を入れる。その瞬間―――

 光。

 突然のシャッター音に、静とマナの動きが止まる。
「Yes! 決定的瞬間GET! 次の学内新聞にの〜せよっと☆」
 マナがギリギリと、錆付いたロボットの動きで、首を回して見ると、さくらが構えていたデジカメをポーチに直して、別の被写体へと走っていくところであった。
「新聞に載るんだってさ。良かったなぁ、闇野」
 静かはさくらの後姿を視線だけで追いながら、マナに軽い調子で声を掛けるが、マナは肩を震わせるばかりで反応が無い。
「‥‥‥‥‥闇野?」
 静の再度の問いかけに、
「いいわけがあるかあああああああ!!!!」
 マナは絶叫で答えた。