Unverbunden Garten02アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/22〜08/26

●本文

 緑に囲まれた 統一された思想の元、統一された思考を育み、『深窓の令嬢』を文字通り、純粋に培養する施設―――『私立帝光女学院』。
広大な敷地に、西洋の城を思わせる堅牢豪華な校舎。
 中高一貫の六年生で、外部との接触も極限まで断たれた学園に、外部からの余計な雑音が入る事は無い。
 しかし、全ての生徒が学園の思い通りなるかといえば、そうではない。
 学園の隔離と教育をもってしても、己を見失わない者は少なからず存在した。そうした少女達の学園への反発心を抑える為に学園が提案したのは、『花』を賭けて闘う決闘ゲームだった。ゲームの勝者には、理事長が、その莫大な財力をもって、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるという。
 願いを叶えられる一人を除いたその他大勢の者に、足掻いても変えられない現実を味わわせる、残酷な罠。しかしそれでも、決闘者となった少女達は、闘いを続けるのだった。




 薄暗い部屋の中。天蓋の付いたキングサイズのベッドの上に、裸体を晒す二人の少女。
 少女の内の一人は、快感に濡れた瞳を裏返し、力の抜けた全身とシーツをぐっしょりと濡らしている。
 もう一人の少女―――淕堂 マリア(りくどうまりあ)は、少女の鎖骨に付けた歯形に舌を這わせながら、甘く潤んだ瞳を扉の横に向ける。
「ねぇ、最近中等部に可愛い子が入ったんですって。知っている?」
 視線の先―――南郷 葦生(なんごうあしき)は、伏せた獣を思わせる威圧感を漂わせながら、軽く鼻を鳴らした。
「オレは、興味の無い奴の事は覚えねぇ主義だ」
 そう言って、葦生は口に含んだガムを噛み締める。学内では規制が厳しく入所困難な一品を、葦生は惜しげも無く、三枚をいっぺんに口内へ押し込んでいる。
「で、それが何だってぇんだ?」
 問い返されたマリアが、ベッドから立ち上がる。病的に白い肌を完全に晒し、常に纏う、気だるげな雰囲気を発する。
「少し興味があるわ。噂では中々面白い子みたいだし。なかかな『歯応え』がありそうなのよね‥‥‥」
 マリアは忙しなく動く葦生の口元に視線を固定したまま、蠢く舌を態と見せつけるように、手を濡らす雫を淫靡に舐めとってみせた―――と、マリアの前に、ベッドの脇に控えていた少女がハンドタオルを差し出す。
「どうぞ、マリア様」
 タオルを差し出しながら、少女は可憐で、儚げな‥‥‥『生きながら死んでいる』と言うより、『初めから生きていない』様な、造花の様な笑みを浮べる。
 マリアは少女からタオルを受け取って手を拭い、微笑み続ける少女に同じく笑みを返すと―――
 パシン。
 手の甲で少女の頬を打った。
「有難う―――妃(きさき)」
 マリアは微笑を浮べたまま、礼を述べる。妃と呼ばれた少女も、打たれた頬を赤く染めながら、マリアに微笑を返した。
 妃の反応を見たマリアは溜息を吐くと、今度は先程よりも強く、腕を振う。マリアは妃が床に倒れる様を、やはり、詰まらなそうに見ながら、うっすらと赤くなった自分の手の甲をさすった。
「貧弱なくせに慣れない事をするからだ」と葦生が手をさするマリアに呆れた様に言う。
「私だって痛みで屈服させようなんて考えてはいないわよ。まったく‥‥折角の『花』だって言うから期待していたのに」
「手前ぇが欲しがったんだろ。飽きっぽい奴だな」
「最初から屈服しているなんて、これ以上詰まらない事は無いわ。身体が茹で上がるくらい快楽で煮詰めて、快楽だけで、理性と倫理をドロドロに溶かして、屈服させて、恭順させて、依存させるのが楽しいんじゃない」
 マリアの瞳の奥に、微かに光が宿る。
「くだらねぇな‥‥。色狂いめ」
「ふふ‥‥理解してくれなくても結構よ。それよりも、例の転入生ね。一度この目で見てみたいわ。妃、今度のパーティーの招待状を、もう一枚用意して頂戴」
「畏まりました」
 両手を床に付いて身体を起こした妃は顔を上げ、マリアに微笑を返した。


 相変わらず学園指定の制服ではなく、黒のラインが入った白の学ランと黒い学帽を着用している鳳棕櫚。開け放たれた窓の枠に肘をつき、青空を眺める彼女の背を衝撃が打った。
「やっほー、棕櫚!」
 クラスメイトの結嵋 芽夢が背後から勢い良く棕櫚の背中に抱きついたのだ。芽夢が制服である礼服の様な白いワンピースに包まれた身体をぶつけた結果、棕櫚の上半身が大きく窓の外へと乗り出した。
「ちょ?! 芽夢!? 落ちる! 落ちる!!」
 棕櫚は必死で脚をバタつかせ、何とか身体を引き戻す。
「死ぬかと思った‥‥‥」
 呻く棕櫚に構わず、芽夢は瞳を輝かせて棕櫚の顔を覗き込んだ。
「また勝ったんでしょう? すごいわね、棕櫚」
 棕櫚の左胸を飾る薔薇のコサージュは決闘者の証であり、前回の剣闘から五戦―――どれも挑まれた勝負だったが、その全ての『剣闘』に棕櫚は勝利していた。元より人一倍運動能力の高い棕櫚である。一度『剣闘』に慣れてしまえば、その力は飛躍的に向上する。
 棕櫚は窓の外―――遠く、決闘の森の中心に聳える白亜の塔を見詰めた。
 決闘場。
 決闘者達が最後に目指す場所。
 『剣闘』によって得た50回分の勝利ポイント、或いは、それに見合う対価をもって権利とし、『花』を賭けた決闘を行う場所。そうして奪った『花』を百日間、挑戦者から守り続けられた者だけが、願いを叶える事ができる‥‥‥気の遠くなる話だ。
「『力は守る為にこそ必要だ。そして、守る為に振るう以上は勝たなくてはならない』」
 棕櫚の呟きに、芽夢が小首を傾げる。
「何、それ?」
「兄貴からの受け売りだよ‥‥‥それよりも! パーティーの招待状を貰ったんだ。でもボクはこういうヒラヒラした感じは苦手だから、どうしたもんだか」
 棕櫚は生徒会の捺印が押された、招待状を取り出した。
「いいじゃない、行って来なよ棕櫚。これも学園に慣れる為の第一歩よ?」
「芽夢は行かないの?」
「私は今回招待されていないもの。生徒会長主催のパーティーは毎回招待する生徒を変えているのよ。それに、私。こういうヒラヒラした感じは苦手だから」
 芽夢は棕櫚の口調を真似て言って見せた。


●鳳 棕櫚:14歳
帝光女学院に最近転校して着た二年生。
ボーイッシュで運動神経が良く、普段から紳士的な言動を心がけてはいるが、根は熱い。
決闘者。

●淕堂 マリア:18歳
『マグダラ』。
帝光学院六年生にして生徒会長。
極めて怠惰であり、百合属性。快楽で相手を屈服させる事を至上の喜びとしている。
非決闘者。

●南郷 葦生:18歳
帝光学院六年生にして生徒会副会長。
学園では珍しい、生粋の不良。暴力で相手を屈服させる事を至上の喜びとしている。
決闘者であり、決闘場の現王者。常勝不敗の記録を持つ。

●烈驚院 妃:14歳
帝光女学院二年生。
理事長の姪で、造花(コサージュ)ではない本物の『花』。
隷属性が強く、受動的な言動が多い。
現王者である南郷 葦生の所有物だが、葦生の命でマリアに仕えている。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa3658 雨宮慶(12歳・♀・アライグマ)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa4581 魔導院 冥(18歳・♀・竜)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa4961 真紅櫻(16歳・♀・猫)
 fa5412 姫川ミュウ(16歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 パーティー会場へと向かう鳳棕櫚(ユフィア・ドール(fa4031))を、四ノ宮・美悠(真紅櫻(fa4961))が呼び止める。
「君もパーティーへ招待されたのかい?」
 彼女とは前に一度、剣闘場であった事がある。確か‥‥名前はまだ聞いていない。
「君は―――パーティーに行かないのか?」
 棕櫚の疑問は当然で、君『も』と言うわりに、美悠はパテーティー会場とは別の方向へ向かって歩いていた。
「今日のパーティを私がサボる理由は‥‥まぁ、君にもすぐに判ると思うよ」
 美悠は意味深な笑みを浮べると、
「生徒会の人達には気を付けて楽しんでおいで‥‥」にこやかに棕櫚を送り出した。


●パーティータイム
 南郷 葦生(神楽(fa4956))は、ホールを一望できる二階のラウンジから、詰まらなそうにパーティー会場を眺めていた。
 階下に広がる華やかな空間。階下に響く和やかな話し声。
「くだらねぇ。こんな茶番、付き合ってられねぇな‥‥」
 自分の血を熱くしてくれるようなハプニングでも起きないものか。葦生は飢えた獣さながらに、喉を唸らせる。煌びやかな社交場は、その実、毒性の仇花が食指を張り巡らせる捕食場だ。マリアが何か企んでいる以上、その内動きがあるはずなのだが‥‥。それまでの辛抱だ、と自分に言い聞かせながら、葦生は退屈な時間に耐え続ける。
 一方の淕堂 マリア(姫川ミュウ(fa5412))は、パーティーを訪れた生徒達を持て成していた。とは言え、ホステスを買って出ると言う訳ではなく、専ら挨拶回りが中心だ。
「御機嫌よう、高嶋さん。お目当ての人とはもうお話に?」
 声を掛けられた高嶋 史(雨宮慶(fa3658))は小さく左右に首を振り、
「いいえ、まだ‥‥」
 史は困ったような笑みを浮べてみせる。史にとってパーティーに出席するのは今回で幾度目かになるが、同じくパーティーに出席している決闘者達と、何気なく話ができる機会だと考え出席していた。しかし、自身が少し興奮気味であると言う事と、史と同じ目的を同じくする生徒達に阻まれて、思ったように目的の人物に近づけていない。
「そう。でも、時間はまだまだあるわ。頑張ってくださいな」
 マリアは史との会話を終わらせて、次の生徒へ声をかける。元々パーティーにはマリアのお気に入りを多く招待しているだけに、目移りしそうになる。だが、今日のメインディッシュは既に決まっている。そう―――今、正に、ホールの扉を開けて現れた白い学ラン姿の少女‥‥‥
「彼女が噂の‥‥‥ふふ。―――妃、此方へ着なさい」
 烈驚院 妃(各務聖(fa4614))を傍らに呼びつけながら、マリアは唇をゆっくりと舐めた。


 ホールの扉を開けた棕櫚の前に広がる、眩い世界。
 流れる音楽はオーケストラの生演奏。この辺りのセンスは流石だ。
 暫くその光景を眺めていた棕櫚だが、いつまでも入り口で突っ立っている訳にも行かないと、人と料理の間を縫うようにホールの奥へと移動。ドレスで着飾った生徒も多い中、学ラン姿の棕櫚は目立つ。周囲の視線をかわして、壁際によると壁に背を預けて溜息を吐く。
「来て早々だけど、帰りたくなってきたな‥‥」
 居心地が悪い。チラチラと視線を向ける少女達など、視線を返せば「きゃ!」と小さな悲鳴を上げて視線を逸らす始末である。
(「何だかな〜‥‥‥」)
 それでも、招待された以上は、来てすぐに帰るなどと言う非礼をするような教育を、棕櫚は受けていない。
 運ばれてくる飲み物を適当に受け取り時間を潰していると、金色の髪を揺らす少女が話しかけてきた。
「生徒会様の豪勢なパーティは私には合わないな」
 何処かやさぐれた様に言う少女。西洋の血を引いているのであろう、日本人離れした容姿の少女に、棕櫚は見覚えがある。‥‥‥ような、気がしないでもないと思う。
(「誰だっけ?」)
「―――などと考えているんじゃないだろうな君は! ついこの間闘ったじゃないか!」
「ああ―――氷室冥夜‥‥さん」
 氷室冥夜(魔導院 冥(fa4581))は以前、噂の転校生の実力を知りたいが為に棕櫚に剣闘による勝負を挑んだ。しかし、様子見程度の力しか出していなかったが為に、敗北を喫していた。
「まったく。ソレはわざとなの? まぁ、私もあんたと戦うのは当分御免だけどね‥‥疲れるから」
 隣でくどくどと続けられる冥夜の話を、話半分に聞きながら視線を正面に戻すと、丁度、少女―――三年生だろうか?―――が、自分より前へ出た少女を呼び止め、その少女に向かって手を振り上げていた。
「あ―――!」と思う間も無く―――
 パン!
 乾いた破裂音―――いや、打撃音。
 頬を打たれる少女の姿が―――やけに―――ゆっくりと―――見えて―――
 咄嗟に、飛び込むように―――棕櫚はよろめく少女の身体を支えていた。後ろから抱きとめる格好で、少女の顔を覗き込む。
「君、大丈夫?!」
 少女は覗き込む棕櫚の顔を不思議そうに見ていたが、打たれた頬を、痛々しく朱に染めながら、
「有難う御座います」
 この状況をまるで何でもない事のように、にこやかに礼を言う。
「妃、私より前に立つだなんて‥‥貴女、そんなに私に恥をかかせたいの?」
 頬を打った方の少女が傲然と非難すると、少女はすぐさま姿勢を正し、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、マリア様」
(「なんだよ―――コレ‥‥‥ッ!」)
 棕櫚は堪らず、頭を下げ続ける少女の前に出た。
「アラ? 貴女は‥‥‥確か―――鳳棕櫚さん‥‥ね? 私は淕堂 マリア。貴女の噂はかねがね聞いているわ。剣闘、お強いんですってね?」
(「淕堂 マリア‥‥‥じゃあ、コイツが生徒会長‥‥‥!」)
 少女に対するのとは打って変わって、にこやかに話しかけてくるマリアに、棕櫚は険しい視線を返す。
「女の子に向かってこんな酷い事を、どうしてできるんだっ!?」
「あら? 借り物とはいえ、持ち主の気に触れる様な扱いはしていなくてよ?」
「持ち主?」
 棕櫚の問いに、横合いからの声が答える。
「決闘では、剣闘の時のような『コサージュ(造花)』とは違い、本物の『花』を賭ける」
 棕櫚の問いに答えながら、マリアを守るように間に立ったのは、野獣のような威圧感を纏った少女だった。
「テメェが庇ってる『ソレ』が、決闘の『花』―――烈驚院 妃。そして、オレが現在の『花』の所持者―――南郷 葦生だ」
 互いに、背に少女を庇いながら、棕櫚と葦生が睨み合う。
「その理屈で言うなら‥‥ボクがアンタに勝てば、この娘はお前達のモノじゃなくなるって事だよな」
「ずいぶんと粋がっているじゃないか。身の程くらい弁えろよ?」
 葦生がゆっくりと、全身の筋肉に力を込めていく。ギチギチと筋肉が軋むように、周囲の空気が硬直し始める。


 目の前の光景を、妃は表情を微笑の形に固定したまま眺めていた。
(「一体なぜ、あんなにあの人は怒っていたのだろう‥‥『花』は主の物‥‥どう扱おうと主の思うままなのに‥‥」)
 妃には棕櫚の怒りの訳が判らない。何より、自分がどのような扱いを受けようとも、彼女には何の関係も無いはずだ。
(「早く終わらないかしら‥‥‥」)
 妃の意識は既に、現状を意味なものと断定していた。そんな内心を表情に出す事無く、妃はただその場に立って微笑み続ける。まるで、一輪の花の様に―――


 硬直する空気を粉々に砕いたのは、唐突に現れた藤原クラン(MAKOTO(fa0295))だった。
「御機嫌ようマグダラ様、今日も山百合の様に艶やかで、素敵ですわ」
「御機嫌よう、藤原さん。今宵も華やかに咲いていますわね」
 現実感すら粉砕しかねない派手なゴシックドレス。その空気に飲まれる事無く、にこやかに対応したマリアは、腐ってはいても生徒会長‥‥と言った所だろうか。
「あらあら葦生様、私を差し置いて棕櫚さんとの逢瀬を楽しもうとするなんて‥‥つれない人」
「ああ?」
 逆に、急に話を振られて、困惑した声を上げる葦生。そんな葦生の反応を意に介さず、クランはくるりと身を反転せて、今度は棕櫚に向きなおり、
「棕櫚さんも棕櫚さんです。年長者の肢体を堪能したいのであれば、私に言ってくだされば宜しいのに」
「い‥‥いや、ボクはそんな趣味無いし―――というか、今はそんな話をしているんじゃ―――ッ!」
「あら? 私、中々上手でしてよ? 何事も」
 クランに蟲惑的な瞳で見詰められ、棕櫚は二の句が告げなくなる。
 周囲に流れていた緊迫した空気はいつの間にか弛緩して、微妙に居心地の悪いものとなっている。
「ハッ! 道化が―――。白けちまったよ‥‥この場は手前の顔を立ててやるぜ、クラン」
 葦生は詰まらなそうに吐き捨てて、背を向けると、さっさと歩き出す。
「では、私もこれで。行くわよ、妃」
 マリアが葦生の後に続いて歩き出す。呼ばれた妃は、棕櫚の背後から抜け出し、
「棕櫚様、ありがとうございました」
 微笑みながら礼を述べると、マリアの後を追う。
「あ、君!」
 棕櫚は遠ざかる妃の背に手を伸ばそうとして、クランに押し止められた。
 クランは何も言わず、ただ首を静に横に振る。そして、棕櫚の手を離すと、
「それでは、御機嫌良う」
 ドレスの裾を摘んで優雅な一礼をし、その場から立ち去った。


●思惑
「いやいや、流石だな。あの生徒会長と副会長に、面と向かって啖呵を切るなんて、剣の腕だけではなく、心根も強いと見える」
 今まで何処に居たのか、ひょっこりと現れた冥夜は棕櫚を褒めちぎり始めた。
「見ただろう、淕堂マリアと言う女はああいう奴だ。この学園の生徒会長と言うのは、この学園でも屈指の家柄だと言うことだよ。そのせいか、やりたい放題さ。寮の部屋は壁を取り払って二つの部屋繋げた特注。生徒を引っ掛けては弄び、飽きては捨てるって言う最低の女でね‥‥‥」
 冥夜は遠ざかっていくマリア達の背中を見詰めながら、棕櫚の感情を煽る様に、ある事無い事を吹き込む。棕櫚からは見えないその視線には、冷徹な野心が燻っていた。


 寮の自室に戻った棕櫚はベッドに身を投げ出した。
 パーティーからの帰り際に会った、美悠が教えてくれた生徒会長と副会長の話を思い出す。
 マリアの性癖。葦生の戦跡。
 倒すどころか、敵に回すことすら危うい二人。パーティー会場での一件が、棕櫚の脳裏を掠め過ぎる。
「悔しいな‥‥あんな酷い奴なのに、今のボクじゃ倒す事ができないなんて‥‥」
 兄ならば―――こんな時にどうしただろうか‥‥‥


「‥‥鳳棕櫚。面白い奴だ。まだまだ雛鳥だが、美味しく成長するかも知れねえな」
「ふふふ。やっぱり良いわ、彼女。でも色々とライバルも多いみたいね。何より私のガマンがきかないし。ねぇ葦生。お願いを聞いてくれないかしら?」
 愉しそうなマリアと葦生。二人の様子を微笑を浮べて眺めながら、妃はまったく別の事を考えていた。
(「鳳 棕櫚‥‥不思議な人」)
 今まで妃を所持してきたどの決闘者とも違う。葦生や妃に対抗したのも、妃を手に入れたいというよりも‥‥‥
 いつも通りの微笑を浮べながら、『花』は微かな風に揺れていた。