『DROP OUT』アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
一本坂絆
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/31〜04/05
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●本文
眠らぬ街、『闘狂』。この街で、人々の声が絶える事は無い。
昼には堕落の嗤いと歌声が。夜には悲鳴と怒号の叫びが。
血の花が咲かぬ日は無く、輝きが消える事は無い。この街は正に不夜の街。
銃士の脳裏には、忘れる事のできない光景が焼きついていた。自身の人生を狂わせた男の顔。彼の恋人を斬り殺し、哄笑する悪魔のような剣士の顔。一日たりとも忘れた事は無い。
銃士は無言で街を征く。あの男は、必ずこの街に居る。
剣士は堪らず笑みを漏らした。今回組織から請け負ったのは、最近『鼻に付く』拳士の始末だ。剣士は無闇に人を斬るのが嫌いだ。我慢に我慢を重ねて、堪え切れなくなったところで斬るのが好きだ。堪らない快感だ。飢えた剣士が喉を鳴らす。
拳士が街を駆ける。彼はある事件を追っていた。街で暴れているよそ者の銃使いがいる。その銃使いを自慢の拳で打ち砕くのが、依頼主からのオーダーだ。その銃使いは剣士を探しているらしい。手がかりを元に男を捜す。不夜の街を駆け抜ける。
■アニメ『DROP OUT』の声優募集!
―――眠らぬ街『闘狂』で繰り広げられる漢達の闘い。
街は想いを飲み込んで、変わらぬ夜に酔いしれる―――
メインは銃士、剣士、拳士の三人ですが、銃士の恋人、依頼主、他のフリーの請負人、情報屋、バーのマスター、喫茶店のウエイトレス、トラックのあんちゃんなど、メイン以外のキャラクターに関しても声優を募集します。
●リプレイ本文
●声の出演
アッシュ(御崎伊庵(fa3298))
サイガ・ノルディック(神代アゲハ(fa2475))
八剣紫苑(梁井・繁(fa0658))
ヴィオレット/シェラ(レティス・ニーグ(fa2401))
ウェイ・リー(星野・巽(fa1359))
ミスター・ブラック(志羽・明流(fa3237))
マリア(笹木 詠子(fa0921))
ヴァイオレット。通称ヴィー。大舞台で踊ることを夢見て、闘狂へと流れてきたストリートダンサー。時には路上で、時にはバーで踊る。それがヴィーの日常だ。
「マスター、何か飲み物頂戴。奢りで」
バー「PARADISE」。脛に傷を持つ者達が多く集まるこの店の女主人は、顔が利く。ヴィーは仕事を紹介してもらったり、偶に店で躍らせてもらっている。
「ミルクだってタダじゃないんだよ?」
バーの女主人―――マリアは、ダイエットすればさぞ美形であろう顔に苦笑を浮かべる。
「まったく、仕方のない娘だな」
隣の席に腰掛けたウェイ・リーが、苦笑を浮かべる。フリーの請負人の彼は、闘狂へ来る際の用心棒だった。今では良き友人だ。
そんな、ヴィーの日常の会話の中に、非日常の声が割って入る。
「マスター、情報が欲しい」
声の主は、頬に大きな傷がある男だった。
「剣士を探している。嘲笑の仮面と野太刀。覚えは無いか?」
「此処は酒を売る所で、情報を売る所じゃないんだけどねぇ」
マリアは苦笑を浮かべる。そのやり取り見ていたヴィーと、男の目が合う。男が目を見張る。
「シェラ‥‥」
「はぁ? 誰よそれ」
ヴィーの声に、男は顔を背ける。
「すまん。古い知り合いに似ていたんでな」
「それナンパのつもり? ダメダメ。そんなよくある口説きには乗らないよ、今のあたしにはダンスが恋人なんだか―――」
「アッシュ!」
突然、ウェイが男の胸倉に掴みかかった。
「今まで何処にいた?! 聞きたい事もある、妹の事だ‥‥!」
「‥‥俺はあの時死んだ。此処にいるのはその亡霊だ」
アッシュと呼ばれた男はウェイの手を振り払い、背を向けて店を出た。
「アイツと知り合いなの?」
ヴィーの問いかけに、ウェイは悲しげに微笑む。
「古い友人さ」
●暗躍
ヴィーとアッシュの出会いから数日。
バー「PARADISE」の店内に、サングラスと黒服を纏ったミスター・ブラックはいた。
眼前の席には壮絶なる拳を持つ請負人、八剣紫苑が腰掛ける。
「標的は、最近この辺りで暴れ回っている銃使いだ。お前の自慢の拳で奴を始末しろ」
「報酬は?」
「お前を現役復帰させてやる。リングの上に、戻りたいのだろう?」
紫苑の目の色が変わる。
八百長試合の汚名を着せられた紫苑は、自身を放逐したリングに未だ執着している。
「資料はこれだ。後は任せる」
(「上手くすれば、目障りな連中を一掃出来る」)
実は、彼の組織の剣客、サイガ・ノルディックと言う男にも依頼を出している。但し、こちらの指令は『八剣紫苑を斬れ』だ。
(「邪魔者同士、せいぜい愉快に踊れ」)
ミスター・ブラックは浮かべかけた笑みを飲み込み、席を立つ。
依頼主が去った後、資料に目を通していた紫苑の上に、影が落ちる。顔を上げた紫苑の前には、ウェイが立っていた。
「少し、付き合ってくれないか?」
バーの裏手の路地で、ウェイと紫苑が対峙する。
「話は聞かせてもらった。アッシュは僕の友人だ、お前を行かせるわけにはいかない。手合わせ願おう」
ウェイが構えを取る。紫苑も無言でステップを刻む。
「ふッ!」
ウェイの回し蹴りをかわし、紫苑が踏み込む。そこにウェイがカウンターの後ろ回し蹴りを放つ。しかし、必殺の一撃は、深く沈み込んだ紫苑の頭上を空しく薙いだ。紫苑が身体を跳ね上げ、ウェイの軸足を殴りつける。体勢を崩したウェイに、紫苑の拳撃が降り注ぐ。ウェイの頬骨が、鳩尾が、肋骨が、米神が、打ち抜かれ、砕かれる。
(「まず、い!」)
正に壮絶。強烈無比。
更に顔面に拳が繰り出されようとした、その時―――
ガチャ。
店の裏口が開いた。
「ウェイ? そこにいんの?」
裏口を開けた、ヴィーが動きを止める。拳を突き出した姿勢で、紫苑が動きを止める。ウェイは、力無く地面に倒れた。
「ウェイ!」
ウェイに駆け寄ろうとするヴィーの行く手を、紫苑が阻む。
「知り合いか?」
「そうよ! だったら何だってのよ! どきなさい!」
紫苑は、食って掛かるヴィーに拳を放つ。
放たれた拳が、ヴィーの米神を掠め、三半規管が揺らす。力を無くした両足が折れ、上半身がうつ伏せに倒れる。
「『塔』で待つ、と伝えろ」
紫苑はヴィーの身体を抱き上げ、虫の息のウェイを残し、その場を去った。
●決闘
塔。
今や寄り付く者の無い、闘狂発展の象徴。その展望室に、紫苑はいた。紫苑は一人の女性が写る写真を見つめていた。
「アイツとは出会って間もないからさ、来ないと思うよ?」
「来ようが、来まいが、お前は解放してやる」
と、足音が近づいてくる。通路を満たす闇の奥から、嘲笑の顔が浮かび上がった。
現れた男は、嘲笑を模った仮面、フード付きの黒いロングコートを纏い、腰には野太刀を佩いている。ミスター・ブラックから八剣紫苑殺害の命を受けた無貌の剣客、サイガ・ノルディックだ。
「悪いが、俺はもう我慢の限界だ。『この街では良くある事』だって言えば、わかるだろう? さっさと斬られてくれねぇか?」
腰の刀に手を掛けるサイガ。それを見た紫苑がステップを刻む。
この街で力の有る者が狙われるのは、日常茶飯事。問答は無用。
ステップを踏んでいた紫苑が―――駆ける。
速い!
サイガは腰に佩いた鞘で拳を受け止める。が、その一撃が重い。
ぼぅッ。
まるで砲弾だ。拳が振るわれる度に、空気が殴り潰される。
紫苑は刀の平を打って斬撃をそらすと、踏み込んで拳を放つ。サイガは拳をかわし、自身の間合いから野太刀を振るう。幾度と無く剣と拳が交錯する。
唐突に、サイガが野太刀を鞘に納めた。
「魅せてやる」
柄に手を沿え、腰を落とす。
紫苑も仕掛ける。滑るように間合いを詰めながら、スウィッチ。右のスマッシュを放つ。
紫苑の繰り出した拳は、確実にサイガの頭蓋を砕く―――はずだった。
「秘剣―――殺獲り!」
刹那の間に迅った太刀筋は二条。抜刀からの、追の一太刀。二撃必殺の絶技。
紫苑の身体が、文字道理に『崩れ』落ちた。飛び散る血が、ヴァイオレットの頬を汚す。
「ハハハハハハハ!」
サイガの哄笑が響く。
『ア‥シュごめ‥‥ね』
血の中に沈む、彼女の身体。
『ハハハハハハハ!』
闇に浮かぶ嘲りを模った仮面。
最愛の人を殺されたその日から、アッシュの時間は凍りついた。此処でヴァイオレットを見捨てれば、またあの時の繰り返しだ。
塔の展望台へとたどり着いたアッシュは、懐かしい光景を目にする。赤い血溜り。血を纏う少女。哄笑する嘲笑の仮面。
時が繰り返される。
「見つけたぞ」
サイガが振り返ると、アッシュは全身に怒気を纏い、両手に銃を握っていた。
サイガはアッシュとヴィーを見比べると、合点が行ったとばかりに嗤う。
「どこかで見た事ある女だと思ったが、何だ? また二人して俺に斬られに来か?」
「黙れ」
アッシュは銃口をサイガに向ける。
「ずっとお前を探してきた」
「そいつは嬉しいね。歯の浮くような愛の告白だ」
サイガが刀を構える。
「ちょっと、待ちなよ! どうしてそこまでして闘うの?!」
二人を止めようと、ヴァイオレットが叫ぶ。その声は、男達には届かない。
戦いの火蓋が落とされる。
アッシュが両手の銃を構え、身体を捻る。反転し、更に反転。荒れ狂うように身体を旋回させる。
バン。バン。バン。バン。バン。バン。
両手の銃が火を噴く。銃弾を吐き出す。
サイガが放たれる弾丸を斬る。銃弾を切り落とし、かわして距離を詰め、野太刀を振るう。
アッシュは斬撃を銃底で叩き落とし、身体を捻って至近距離から射撃する。
「堪らねぇ! これだから辞られねぇえよなあ!」
サイガが太刀を鞘に収め、腰を落とす。
「魅せてやる」
それは八剣紫苑を瞬殺した、二撃必殺の構え。
「だめぇーッ!」
ヴァイオレットの悲鳴を合図に、二人の男が激突する。
サイガは地面を滑るように間合いを詰めながら、柄を長く持つ。それは間合いを伸ばす外法の居合い。間合いを狂わせる抜刀は、必殺となって相手を襲う。
バン!
アッシュの放った弾丸を一の太刀で斬り飛ばす。二の太刀を振り下ろす。
(「獲った!」)
サイガの全身に手応えと、熱い衝撃が駆け巡る。
割れた面が落ちる。顔に仮面と同じ嘲笑を浮かべ、額には銃痕を一つ開けて、サイガ・ノルディックは絶命した。
アッシュは肘から先を切り落された左腕を庇いながら、銃で縄を打ち抜き、ヴィーを開放する。銃弾一発と左腕を犠牲にして、刀を避ける時間を作った。正にギリギリの攻防だった。
「アンタ、腕! 早く手当てしないと!」
「俺の事は良い。早く行け」
「良いわけ無いじゃん! あんたにだって、死んだら悲しむ人がいるんだからね!」
アッシュは口の端に微かな笑みを浮かべる。
「俺は暴れすぎた。生きて街を出る事はできまい。お前には夢があるんだろう? もう、俺に関わるな」
ヴィーをその場に残し、アッシュは独り、歩き出す。
更に数日。
閉店後のバー「PARADISE」。
マリアは二つのグラスの内、一つをカウンターに置き、もう一つを自分に。
「アンタ‥‥。また一つ、星が堕ちたよ」
今日、アッシュとか言う拳銃使いの死体が見つかったらしい。
カウンターの奥の仲良さげな夫婦の写真に目を向け、グラスの中の液体を飲み干す。グラスの中で、氷が澄んだ音を立てた。
カランッ。