Unverbunden Garten’1アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/26〜08/30

●本文

 統一された思想の元、統一された思考を育み、『深窓の令嬢』を文字通り、純粋に培養する施設―――『私立帝光女学院』。
 緑に囲まれた広大な敷地に、西洋の城を思わせる堅牢豪華な校舎。
 中高一貫の六年生で、外部との接触も極限まで断たれた学園に、外部からの余計な雑音が入る事は無い。
 しかし、全ての生徒が学園の思い通りなるかといえば、そうではない。
 学園の隔離と教育をもってしても、己を見失わない者は少なからず存在した。そうした少女達の学園への反発心を抑える為に学園が提案したのは、『花』を賭けて闘う決闘ゲームだった。ゲームの勝者には、理事長が、その莫大な財力をもって、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるという。
 願いを叶えられる一人を除いたその他大勢の者に、足掻いても変えられない現実を味わわせる、残酷な罠。しかしそれでも、決闘者となった少女達は、闘いを続けるのだった。



 大蔵 暁実(おおくらあけみ)と大蔵 莢子(おおくらきょうこ)―――性格こそ正反対なものの、二人は仲の良い双子の姉妹として知られていた。喧嘩らしい喧嘩もした事が無い二人の意見だったが、この日、意見を真っ向から対立させる事となる。
「剣闘何て! 剣道の試合とは訳が違うんだよ! 怪我でもしたらどうするのさ!?」
 問い詰める莢子の視線の先、暁実の着る学園指定の制服―――白い礼服の様なデザインのワンピースの胸元を薔薇のコサージュが飾っている。莢子は姉が決闘者になった事よりも、姉がそれを自分に黙って行った事に、ショックを受けていた。
「そこまでして、叶えたい願いがあるっていうのかい?」
「いいえ。そんなものは無いわ」
 暁実は目を伏せ、でも‥‥と言葉を続ける。
「この学園はまるで箱庭だわ。皆同じ方向を向いて、同じ様に笑って‥‥‥このまま何も考えずにこの学園の色に染まれば、きっと幸せに過ごせるでしょうね。でも‥‥本当にそれでいいのかしら?」
 それは、この学園に入学して以来、感じてきた疑問だった。理想の淑女たる為に、学園という世界の中で、学園(世界)の規則(ルール)に、ただ従って生きる。確かにここは恵まれた場所だ。学園の言う通りにすれば、『汚いもの』を見ずに、平穏に過ごせるだろう。でも、このままではダメだと、暁実は漠然と感じていた。それは若さ故の焦りなのかもしれないけれど―――
「ただ与えられるだけじゃなく、自分の力で、何かを掴み取りたいの」
 決闘者となったのは、その意思表示の為だと、暁実は言う。それでも、莢子は食い下がった。
「そんなの、この学園に限った事じゃないだろう? 皆と同じ方向を向いて、共通の幸せを求める。でも、だからこそ、幸福でいられるんだ。摩擦は自分だけでなく、他者も傷付ける。確かに、そういう生き方もあるかもしれない。だけど、暁実にはそんな生き方はできないよ」
「本当に‥‥そうかしら?」
「ああ、そうだ。暁実の事なら何でも知っている。今までずっと一緒だったんだ、暁実の事は私が一番良くわかる」
「でもね、莢子ちゃん。私達は成長している、変わっていくわ。それに、私達だってずっと一緒にいられるわけじゃ―――」
 その瞬間―――莢子が感情を爆発させる。

「そんな事は無い!!!」

 まるで、血を吐くような莢子の叫びに、暁実は驚きで目を見開く。
「変わらない―――何も、変わりはしない。私と暁実はいつまでも一緒だ!」
 それは怒りと言うよりも、まるで縋るような物言いだった。
 二人はずっと一緒‥‥暁実もそう思っていた。でも、『二人』は『一人』ではないのだ。いつか歩む道を違える時が来る。
「御免ね、莢子ちゃん。それでも私は、歯車の一つになるのは嫌なの」
 ぎりりと、莢子は奥歯を噛み締める。食い縛る。そうして押し殺した声で、
「‥‥‥暁実の意志の固さはわかった。だったら、試してあげるよ」
 莢子の双眸に昏い意思が宿っている。
「私も決闘者になる」
 今度は暁実が目を見開く番だ。
「コサージュの授与は一度だけ。つまり、初戦でポイントを失えばそれまで。暁実のポイントを奪い、私のコサージュを返却すれば、それで終わりだ。暁実の心が傷付く前に、私がそれを止めて見せる」
 莢子は暁実に背を向けて歩き出す。暁実の声にも振り向かない。
 莢子だってわかっている。暁実との論点が、そもそも食い違っている事くらい。暁実はただ、自身を取り巻く環境を己の力で変えたいと、そう願っているだけだ。それに比べて自分の願望の、なんと醜い事だろう。暁実の心配をするフリをして、ただ寂しいだけなのだ。暁実が自分の知らない場所へ行ってしまうようで、知らない存在になってしまうようで、怖いのだ。
 それでも願わずにはいられない。
 今が幸せすぎて―――失うのが怖い。
 半身を失うようで―――痛い。
(「ああ、神様‥‥‥」)
 叶うならば、もう少しの間だけ、暁実と一緒にいさせて下さい。
 願う事なら、永遠に、暁実と一緒に生きさせて下さい。



【剣闘】
放課後。決闘場を中心にして広がる広大な樹林の中に存在する、六つの『闘技場』でそれぞれ執り行われる。
【闘技場】
森の中にある計六つの広場。直径50mの円形に石畳が敷き詰められた、平らな空間。
●ルール
・左胸に着けた薔薇のコサージュを参加資格とする。
・原則一対一。
・武器は規定の模造剣(全長約80cm)と模造刀(全長約90cm)のみとする。
・剣、刀は共に木製。闘技前に、鞘に納められた状態で手渡される。
・ジャッジは学園が選んだ非決闘者が執り行う。
・相手の攻撃がコサージュに触れた時点で敗北となる。
・コサージュには剣闘の結果がポイントとして蓄積されていく。一番初めは1ポイントから始まり、勝てば+1ポイント、負ければ−1ポイントとなる。ポイントが0になった者はゲームの参加権を失う。


●大蔵 暁実(16)
私立帝光女学院四年生。大蔵姉妹の双子の姉。性格はおっとりしている様でいて、きっちり自分の意志を通す。ただ流されているだけの自身の現状を不満に思い、決闘者となる。
使用武器:模造刀
戦闘スタイル:剣道
得意技:片手面打ち

●大蔵 莢子(16)
私立帝光女学院四年生。大蔵姉妹の双子の妹。普段は冷静かつ雄弁で、他者との和を尊重する、事無かれ主義者。それは、今の幸せを守り続けたいという意思の表れである。
使用武器:模造刀
戦闘スタイル:剣道
得意技:小手打ち

●今回の参加者

 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3623 蒼流 凪(19歳・♀・蝙蝠)
 fa4548 銀城さらら(19歳・♀・豹)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)
 fa5627 鬼門彩華(16歳・♀・鷹)
 fa5629 式部さやか(17歳・♀・猫)
 fa5770 バッファロー舞華(14歳・♀・牛)

●リプレイ本文

 莢子に剣闘を挑まれた後、大蔵 暁実(エルティナ(fa0595))は噂を聞いて心配する周囲の声を聞き入れずに、自室へと戻った。
 ベットに倒れこみながら、ぼうっと天井を眺める。
「本当にこれでよかったのかしら‥‥でも、私にはこれ以外の方法が―――」
 手の甲で視界を塞ぎながら、暁実は眠りの中へと落ちていく。


 決闘者となったものの、実戦経験の無い大蔵 莢子(ルナティア(fa5030))は、級友であり、四年生の決闘者の中でも指折りの実力者である大徳寺茉璃(咲夜(fa2997))に教えを請う事にした。
「決闘者の名乗りを挙げるという事がいかなる事か、莢子君には分かってはおらぬようだが‥‥」
 そう言って、始めこそ教えを渋っていた茉璃であったが、莢子の決意を聞いて最後には折れてくれた。
「致し方ない。せめて、決闘者として見苦しくない戦いが出来るよう、わたくしが教えて進ぜよう」
 こうして、莢子の特訓が始まった。
「打ち込みの速さに念頭を置いた剣道の動きは、確かに、剣闘に適しているといえるだろう! 刃を持たぬ模造刀には体重移動による斬撃なぞ、意味を成さない! しかし、剣闘はより実戦に近く、相手が打ちこんでくる場所も多い!」
 放課後の裏庭で、竹刀を振るう莢子と茉璃。
「はぁあ!」
 莢子の一撃を、茉璃は鮮やかにかわす。
「また、剣闘の初心者に多いのが、攻撃の単純化だ! コサージュに意識を奪われるあまり、狙う部位が単調になってしまう! 相手がコサージュを狙ってくるとわかっている以上、防御も回避も容易だ! 剣闘の闘いとは、如何に相手の構えを崩し、意表を突き、本命であるコサージュを落とすか―――その戦術の組み立てにこそある!」
 茉璃の刺突が、莢子の左胸の前で、ピタリと止まる。
「その意味でも、君の小手打ちは有効だ。相手の防御、ひいては攻撃の手段を崩すのに適している。絡め手で相手の隙を誘い、その隙を突く」
「わかったかね?」と問う茉璃に、莢子は息を切らせ、汗を拭いながら頷いた。
 二人の特訓は深夜まで続けられた。


 翌日の放課後、決闘の森にある闘技場の一つに、暁実と莢子の姿があった。
 二人は先に剣闘を終えた、大蔵 葵(蒼流 凪(fa3623))、小倉 実花(銀城さらら(fa4548))、大林 レイ(鬼門彩華(fa5627))、飛鳥晴香(式部さやか(fa5629))、大蔵勇子(バッファロー舞華(fa5770))と入れ替わりに、広場へと入る。
「莢子君、思う存分にやりたまえ。今の君に負ける要素は微塵もない。戦い、勝ち、己の想いを貫きたまえ!」
 立会人として観戦に来た茉璃が、莢子を激励する。
 広場の中央で見つめあう二人の間に漂う、重い空気。
「暁実、君の目を覚まさせてあげるよ」
「そう‥‥でも、私も負けるわけには行かないの」
 二人がそれぞれ模造刀を構え―――
「始め!」
 審判が旗を振り下ろし、剣闘が開始された。


 試合が始まって暫く、戦況は大きな動きを見せていない。
 隙を突いて果敢に攻め込む暁実に対し、相手の攻撃を払いながら堅実な攻めを見せる莢子。
 全く正反対の戦法は、逆に噛み合い、一進一退の状況を作り出す。
 又、剣を交える機会は少ない二人だが、長い間、時を共にしてきた姉妹であり、二人が双子であるという事実もまた、この状況を作り出す一つの要因なのだろう。
 手の内がわかるというよりも、考えが読める。
 先に、この硬直状態を崩そうと動いたのは暁実だった。
 一度間合いを離すと、大きく踏み込みながら、得意の片手面打ちを繰り出す。
 だが、その動きを読んだ莢子が、暁実の懐へと飛び込み、剣をコサージュに押し当てながら、交差際に切り払った。

 ビーーーーーー!

 広場に鳴り響く電子音。
「それまで!」
 目視とコサージュに取り付けられたセンサーによって莢子の剣が、暁実のセンサーに触れた事を確認した審判が、剣闘の終了を告げる。


 剣闘終了後。寮に戻ろうとした莢子は暁実が自主退学をしようとしていることを知った。
 莢子は急いで暁実の部屋を訪ねると、その場で暁子を問い詰めた。
「どういう事なんだ、暁実!? ちゃんと話をしてくれ!」
「‥‥‥実は私、お父様から、会った事もない相手と政略的な婚姻をするよう急かされているの―――」
 暁実は莢子の剣幕に押され、おずおずと事情を説明する。
 自身の現状に漠然とした不安を感じている事。そこに舞い込んだ婚約の話。自分の力で、何とか現状を変えたくて決闘者となった事。
 全てを聞き終わった時、莢子は自然と、暁実身体を抱き締めていた。
「馬鹿だな、暁実。どうして言ってくれなかったんだ」
「そうね―――ごめんなさいね、莢子ちゃん。私達はいつも一緒だったのに‥‥いいえ、だからこそ、躊躇ってしまったのかもしれないわ」
 暁実は莢子の気持ちに応えるように、その背に手を回し、莢子の肩に、自身の顔を埋める。
 こうして、大蔵姉妹の姉妹喧嘩は終わりを告げた。莢子は決闘者の証を返上する事無く闘いを続け、暁実は莢子の傍でそれを支え続けた。
 後に事の顛末を聞かされた茉璃は、
「やれやれ。随分と大げさな喧嘩もあったものだ。だが―――そういう戦いも、あってもいいのかも知れないな‥‥」
 呆れたように言って、口元には微笑がうかべたという。