私立アスラ女学園アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/08〜04/12

●本文

 体育館の壇上、その隅に九つのパイプ椅子が並べられている。パイプ椅子には九人の少女が座っている。
 彼女達はアスラ女学園生徒会のメンバーだ。三人の生徒会長。書記長、会計士、風紀委員長。運動部連代表、文化部連代表、学生寮代表。
 九者九様の表情を浮かべ、体育館の入り口を見つめている。
 もうすぐ、入学式が始まる。
 学園に、新しい風が吹く。

 ここから始まるのだ―――少女達の物語が。


「やばいよ〜! 入学式に遅刻なんてぇ!」
 少女は走っていた。
 黒いワンピースに白いぺティーコート。胸元で揺れる赤いタイは、アスラ女学園一年生の証だ。
 食パンこそ咥えていないが、体育館へ向かう道を全速力で駆けて行く。
「あッ!」
 速度を保ったまま、曲がり角を曲がろうとした時―――人影が―――

「私とした事が―――道に迷うなんて!」
 少女は歩いていた。
 黒いワンピースに白いぺティーコート。胸元で揺れる赤いタイは、アスラ女学園一年生の証だ。
 走ってこそいないが、体育館へと向かう道を走るような速度で歩いて行く。
「アッ!」
 速度を保ったまま、曲がり角を曲がろうとした時―――人影が―――


 春には出会いがある。入学した者同士。進級した者同士。上級生と下級生。
 今日、この日。私立アスラ女学園にも出会いがあふれる。


†私立アスラ女学園の御案内†

 アスラ女学園では生徒はもちろん、教職員も女性を採用しています。
 当学園では、文武両道の精神と、生徒による自治を重んじています。
 各クラブ活動、学校行事の運営、生活指導は生徒会主導の下に行われています。
 自宅登校が基本ですが、学生寮もあります。
 また、中等部、初等部の敷地が隣接するように並んでいます。隣接しているだけで、中等部、初等部とは敷地、施設は別れています。
■歴史
 創立は約三百年前。元は仏教色が強かったのですが、戦火に焼かれた事と、施設の近代化に伴い、現在では名称と一部の伝統にのみ名残が残っています。敷地内にお堂があるのはそのためです。
■学校施設
 校舎は三階建て。
 敷地は『校門から校舎(下足場所)まで十分はかかる』と言われるほど広く、グランド、体育館、室内プール、図書館、部活棟、各道場、テニスコート、花園、食堂、カフェテラスなどの施設がそろっています。学生寮も敷地の中に入っています。
■生徒会
 アスラ女学園の生徒会は生徒会長が三人おり、副会長がいません。
『スリーオブフェイス』
【生徒会長】小扇 一羽、夜坂 東、片馴 静奈
『ライトアーム』
【書記長】遠昏 真戯
【会計士】風祭 葛篭
【風紀委員長】辻 守
『レフトアーム』
【運動部連代表】藤華・キャヴェンディッシュ
【文化部連代表】荒縄目 夢路
【学生寮代表】木霊 菜々実
■制服
 ワンピースは濃いチャコールグレー、総ボタンでスカート丈が長い。襟と、ワンピースの中に穿くぺティーコートはホワイトカラー。ショートタイは一年生がレッド、二年生がダークグリーン、三年生は白地に黒のラインが入る。
■立地
 広い敷地を確保する為、山が近い場所に建てられていますが、住宅地も近い為、少し歩けばコンビニやスーパーもあります。最寄り駅から二十分程で市街に出る事ができます。



†キャスト募集†
 男子禁制の乙女の園。そこで繰り広げられる少女達の日常を描くのが、学園ドラマ『私立アスラ女学園』です。
 季節は春。舞台は入学式。そこに待ち受ける『出会い』とは?

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0494 エリア・スチール(16歳・♀・兎)
 fa0836 滝川・水那(16歳・♀・一角獣)
 fa0913 宵谷 香澄(21歳・♀・狐)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2385 霧島・沙耶香(18歳・♀・パンダ)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)

●リプレイ本文

●アスラの春
 アスラ女学園校門前。
 砂利。
 学園指定のパンプスが地を踏み締める。
 腕を組み、仁王立ちしたイタリア貴族の子女、ベラ・ロッソ(大道寺イザベラ(fa0330))は、突如高笑いを始めた。他の登校している生徒達がドン引きしているが、気にはしない。
「島国の学校にしては中々の物じゃない。ねぇ、アン―――ぬぅわ!?」
 ベラの振り向いた視線の先で、彼女の幼馴染であるアンぬぅわ―――ではなく、アンナ=ローズ(エリア・スチール(fa0494))が地面に倒れていた。
「どうしたのよアンナ!」
 ベラが慌ててアンナの身体を起こすと、
「ぐ〜‥‥むにゃむにゃ‥‥」
 アンナは寝ていた。
「寝るなー! ってか、『むにゃむにゃ』なんて言わないわよ普通!」
 ベラがべちべちとアンナの頬を叩く。
「う〜ん‥‥あ、おはようベラちゃん」
「おはようじゃないわよ。道端でいきなり寝ないでよね」
「えへへ、昨日まで旅行だったんだよねぇ。あれ? 頬っぺが痛い」
「倒れた時にでも打ったんでしょ」
 ベラは明後日の方角を見ながら立ち上がる。
 その隣で、
 砂利。
 学園指定のパンプスが地を踏み締める。
 駅の自動改札に引っかかり、迷子になりながら、ようやく校門前に辿り着いた帰国子女、赤羽さくら(サクラ・ヤヴァ(fa2791))は、目の端に残る涙をぐしぐしと拭いた。
「ふ、ふん! こんなの、私にとっては朝飯前なんだから!」
 小さな身体に力を漲らせ、校門を潜ろうとするさくらの頭を掴む手がある。ベラだ。
「あ〜ら? 初等部はこちらじゃなくってよオチビさん」
 自身を無視されたのが気に障ったのか、態々さくらを捕まえて高笑いを始めるベラ。
 それに対して、さくらが浮かべた表情は、
 嘲笑。
「Ah‥HA.いるよね、こう言う何か勘違いしてる金持ちって」
 凍りつくベラを無視して、さくらはさっさと行ってしまった。
 ベラの全身から憤怒の炎が吹き上がる。
「あ、あのオチビ! 必ずギャフンと言わせてあげるわ、お父様の力で!」
 それを見守るアンナは、
「ベラちゃんて、前向きなようで後ろ向きだよね〜」


(「面倒臭いなー‥‥」)
 受付の人数が足りないという理由で強制連行された三年生、狐村 静(宵谷 香澄(fa0913))は胸中で愚痴る。
 自身の前に並ぶ人の列を見ているだけで、うんざりする。
 バシン!
「ぶわッ?!」
 やる気の無い静を叱咤するように、後頭部に衝撃が奔る。
「だめよ、静ちゃん。真面目にやらないと」
 静の隣に座る、同じく三年生の高坂ハル(白井 木槿(fa1689))が、ハリセンを手に微笑む。そのハルも、人の列に目を向けると困った顔で眉根を寄せた。
「困ったわねぇ、うちの学校の入学式は、一斉入場だったんだわ」
 三年にもなると、一年の時の記憶は曖昧になってしまう。演劇部に所属するハルは、
『入学式から粉かけておけば、他の部に流れずうちに来てくれる可能性だって高くなるってモンよ!』
 と意気込み、一年生の勧誘目的で受付を志願したのだが、完全な失策だった。
 アスラ女学園は広い敷地と充実した施設に比例して、生徒数もはんぱでは無く多い。
 只でさえ多い新入生に加え、更にその倍はいるであろう入学生の保護者、果ては、PTAや理事会のお偉方に至るまで、その全員を受付で捌こうとすると、軽く二、三時間は掛かってしまう。その為、新入生達は一度各自指定の教室に集められ、出席をとった後、順番に廊下に並んで入場するのだ。
「お前な、人に真面目にやれとか言っといて、自分だって手が止まってるじゃないか」
 後頭部を抑えつつ、静が反論する。が、
 バシンッ!
「が!?」
 今度は顔にハリセンが打ち込まれる。
「どれだけ多くの一年生をゲット出来るか‥‥。これは、いわば部同士の生存競争なのよ! こんな事では諦めないわ。目的の為に手段は選ばない、それが私の信条よ!」
 傍迷惑な信条である。
 顔を抑えて悶絶する静を余所に、ハルが拳を握り締める。


 入学式が行われる第一体育館は、学園内に存在する体育館の中で最も広い。三十クラスに及ぶ今年度入学生は二手に分かれ、壇上から見て一番奥の壁に左右に一ずつある入り口から入場する。その様は、一種のパレードだ。
 これだけ人数がいると、参加する生徒の表情も様々だ。
 橘・香織(霧島・沙耶香(fa2385))はガチガチに緊張していた。
 寮生は自宅登校組よりも早くから学園の敷地内に入っているが、校内に入るのはこれが初めてだ。
 広い。圧倒的だ。人見知りが激しい香織には、これだけの見知らぬ人間の中に身置くだけで心労が溜まる。
 今の香織には、周りからの心配の声も聞こえない。
 才華・歩(滝川・水那(fa0836))は比較的リラックスして式に参加していた。
 壇上の端を見ると、入寮時に挨拶した木霊 菜々実を始め、生徒会メンバーが座っている。
 面倒臭そうに欠伸をしている少女。それを小声で注意する少女。気分が悪いのか、長身を折っている少女。金髪を豪華な縦ロールにしている少女。と、個性豊かなメンバーだ。
 これからの学園生活を想い、歩は胸躍らせる。
 そして、アンナは‥‥‥また寝ていた。


●第一次クラブ勧誘戦
 白いテントがずらりと設営されたグラウンド。陸上部のブースで入部申請を済ませた歩の目に、一人の女生徒の姿が留まる。キョロキョロと忙しなく視線を泳がせ、勧誘をおろおろしながら何とか断っている。優等生気質の歩としては、放って置く事ができない。
「どうかしましたか?」
 歩の声に、少女はビクリと身を震わせる。
「私でよければ力になりますよ?」
 歩が微笑むと、少女はおずおずと口を開いた。
「え、演劇部のブースが‥‥わからなくて」
「演劇部ですか? 此処は運動部のブース中心の第一グラウンドですよ? 文化部は第二グランドです」
「え? あ!」
 少女は慌ててパンフレットを開く。
「良ければ案内しますよ」
「いいんですか?」
「はい―――あ、自己紹介がまだでしたね。私の名前は才華・歩です」
「あ、はじめまして‥‥橘、香織です」
 香織は深々と頭を下げた。


「ふふ、今年は可愛い子が多いですねぇ〜♪ どんな風に驚かしちゃいましょう〜?」
 獲物を物色していた茶道部二年の白鷺 桜(佐々峰 菜月(fa2370))は一人の少女に狙いを定めると、いきなり後ろから抱きついた。驚く少女に対して、
「ふふ、驚いた時の顔は皆さん無防備で可愛いです♪ 驚かしちゃってすみません。でも可愛いあなたがいけないんですよ?」
 と、変質者一歩前の発言をする桜。
「うちの学園の勧誘戦は激しいですから、疲れたでしょう? どうです? 我が部の茶室をお貸ししますから、少し休んでいきませんか?」
 あくまで善意を装い、甘い蜜で蝶を誘き寄せる。少女は逡巡したが、結局自ら罠の入り口に足を踏み入れた。


 校内で迷ってしまったさくらは、偶然出会った静に校内を案内してもらっていた。
 静としても、小動物のように辺りをキョロキョロ見渡したり、時々自分の胸と静の胸を見比べて凹んだりしているさくらを見ていると、妙に楽しい。
「帰国子女って言うと落ち着いたイメージだけど‥‥右往左往する姿は中々可愛いな♪」
 静が頭を撫でると、
「ふん! 初めての場所で迷うのは可笑しな事じゃないもんね」
 さくらはそっぽを向く。知識はあるが経験が不足しているさくらは、失敗する事を嫌っている。
 そっぽを向くさくらの耳に、静が息を吹きかける。
「ひゃいッ!?」
 耳を押さえて跳び上がるさくら。
「いじけるなよ。何かあったら気軽に話すといい。優しくしてあげるよ」
 そんなさくらを見て、静かは妖艶に微笑んだ。


 演劇部ブース。
「あ、あの‥‥‥私、頑張ります。ふ、不束者ですが、す、末永く宜しくお願いします!」
 耳まで真っ赤に染めながら、香織が自己紹介をする。
「今年も順調ね。この分なら、態々受付に立つ必要も無かったかもねぇ」
 ハルが手を合わせながら微笑み、
「ええと、才華さん? どうせなら貴女も演劇部に入らない?」
 香織を隣で見守る歩にも声を掛ける。
「いえ、私はもう陸上部に入りましたから」
 歩はそれをやんわりと断った。
「大丈夫よ。うちは掛け持ちもOKだから♪」
「陸上と演劇を掛け持ちするのは無理がありますから‥‥」
 歩は何とか断ろうとするが、ハルも退こうとはしない。
 歩は一瞬、香織に視線を送ると、
「橘さん、また明日!」
 駆け出す。香織があっ! と言葉を発するより早く、人ごみの中に消えていった。
「むぅ、さすが陸上部を志望するだけあって速いわね」
 残念そうに呟くハルの隣で香織は、
(「ありがとうございました、才華さん。また、明日」)
 もう見えない歩の背に向かい、胸中で呟いた。


「や、やめて下さい、先輩。そんなに押し付けたって入りません」
「うふふふ、駄目よ、絶対に入れてあ・げ・る」
 茶室の中で、二人の少女が絡み合っている。
「嫌ぁ‥‥、駄目です。あぁ!」
「ほ〜ら、抵抗したって無駄なんだから」
 桜が入部届けを押し付ける。少女がそれを押し返す。徐々に少女が押されていく。
「観念しなさい」
 桜が少女に迫る。その時―――

 パアーンッ!

 小気味の良い音を鳴らして、障子と襖が開く。
「確保―!」
 同時に、手に刺す又を持った少女が計四人、茶室の中に飛び込んでくる。
 三人が桜を取り押さえ、一人が少女の肩にタオルを掛ける。少女達は全員、腕に円環と翼を組み合わせたエンブレムが描かれた腕章を着けている。風紀委員だ。
「貴女を『倶楽部勧誘条約』第三条違反の現行犯で補導します」
 桜を取り押さえた二年の風紀委員が、事務的な口調で告げる。
「えぇっと、私運動が苦手だから、出来れば罰でグランド十周とかは勘弁して欲しい、かな〜」
「安心して下さい。運動が苦手な生徒の為に、『御堂でオーディオ機器から流れてくる御経を五時間正座で静聴』があります」
「それって軽くマインドコントロールなんじゃ‥‥」
「心を改めるという意味では間違いではないかと」
 三年生の風紀委員が桜の肩に手を置く。
「観念しなさい」
 そのまま、桜は連行されていった。


 アンナはテニス部に見学に行ったものの、『何も無い所で転ぶ』という特技を、いつもより多めに披露した為、
『貴女にはもっと他にふさわしい部活が有りますよ』
 と、体よく断られてしまった。
 帰路に着こうとしていたアンナの耳に、聞き慣れた声が聞こえてくる。
 見ると、『超常現象研究部』と書かれたブースで彼女の幼馴染が毎度の如く、高笑いをしている。
「オーホッホッホッホ! この私が部に入ったからにはもう安心よ! 必ず、この部を立て直してあげる。そして行く行くは、私がこの学園を支配するのよ!」
 ベラは上級生よりも偉そうな態度でふんぞり返り、笑い続ける。
 彼女が本当に、強大なカリスマと実行力を有する生徒会をも支配する日が来るのかは、今はまだわからない。


 ―――それぞれの想いを飲み込んで、新しい季節が始まった。