私立アスラ女学園 弐アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/30〜05/05

●本文

「小動物は好きですか? 飼育「社会を冷静な「伝統ある茶道の世「詩吟同好会では「二時から刀刃会にて斬鉄の実演を「風刺画で「内定室に入ればもれなく単位が「被服部でコーディネートの研「ダンスが好きな貴女「究会をヨロシ「軽音楽研究会「第二聖歌隊の「ある人に舞台研究会」アングラークラブに入れ」は独立採算系の喫茶として活動を」家裁に入って花嫁諸行に」強い精神は肉」中・貫・久とは」ら偽造食券二十枚をプレゼント」スラッガー同好会」競馬研では小柄な子大歓迎」派遣委員会で」美術部を」では貴女のように可愛い子を大募集!」
 人と言葉が、津波となって押し寄せる。各部、サークル、同好会の名前が書かれた色とりどりの旗を掲げて突進する様は、足軽の突撃を思わせる。
 そこに、
「静まりなさい!」
 凛とした声が響く。
 防波堤に遮られたかの如く、人の動きが停止する。
 その少女は、金色に輝く髪で、左右に一本ずつ、後ろに四本の六連ドリル―――ならぬ、計六本の縦ロールを作っている。モデルのように均整の取れたスタイルと、気品溢れる容姿の持ち主。アスラ女学園生徒会の『レフトアーム』、運動部連代表藤華・キャヴェンディッシュだ。
「各クラブの勧誘行為は所定のブース、或いは各クラブ部室でのみ、チラシなどの配布はブースでのみ、広告の類は掲示板への貼り付けのみ、許可されており、勧誘される側が望まぬ強引な勧誘行為は禁止する、と倶楽部勧誘条約に書かれていましてよ? 倶楽部連合は、このような勧誘行為を認めた覚えはありませんし、認めるつもりもありませんわ」
 藤華の隣に立つ少女も、面倒臭そうに頭を掻きながら前に出る。髪を三本の三つ編みに纏め、制服の上から白衣を羽織り、野暮ったい瓶底丸メガネを掛けている。身長は藤華より少し低い。アスラ女学園生徒会の『レフトアーム』、文化部連代表荒縄目 夢路だ。
「自分等、ちょおハシャギ過ぎや。あんまハッチャケとったら風紀に突き出すで?」


「入学式ん時も激しかったけど、まだまだ収まりそうにあらへんな」
「一週間程経ってからが一番危険ですわよ。新入部員を獲得できていない部がどのような行為に出るか、判ったものではありませんわ」
 三々五々に散っていく生徒達を見送りながら、藤華は大きな扇子で口元を隠し、ため息を吐く。
「毎年の事とは言え、なんと進歩の無い方達なのでしょう‥‥」
「どちらか言うと、逆ベクトルに進歩しとるけどな。まぁ、これもアスラの伝統っちゅう事で」
 夢路が肩を竦める。
 クラブへの所属は強制ではない。が、中には単位が出る特殊なクラブもある為、活動は活発である。生徒数に比例して、数も多い。
 春になると、毎年新入生を狙った強引な勧誘や、裏取引が多発する為、倶楽部連合と風紀委員会が共同で監視の目を光らせていなければならない。
「寄宿生に対する勧誘行為は、入寮している風紀委員の方に任せるより他ありませんけれど、菜々実さんも居らっしゃる事ですし、心配は無いと思いますが‥‥」
「ああ見えて菜々実はしっかり者やからね。任せても大丈夫やろ」


 入学式から三日。勧誘合戦はまだまだ収まりそうにない。



■クラブ活動
 クラブ、部、サークル、同好会と表記は様々だが、大きな違いは無い。
 生徒数に比例して数が多い。所属は強制ではなく、無所属帰宅部も許可されているが単位の出るクラブもある為、活動は非常に活発。
(アスラの授業は単位制。各教科ごとの出席とテストの点数で単位修得の可、不可が決まり、年間単位の合計値が規定に満たなかった者は留年となる。補習もあるので、普通に授業を受けていれば留年する事はまず無い)
 因みに、正確には『委任制管理委員会』である生徒会や風紀委員会にも単位が出る。
■倶楽部連合
 倶楽部連合は運動系クラブを統括する運動部連合、文化系クラブを統括する文化部連合に分かれる。両連合の幹部は、大会での公式成績や、クラブの規模から選出された上位十一のクラブの部長が務める。
■関連NPC
・藤華・キャヴェンディッシュ(とうか)
 アスラ女学園三年生。生徒会の『レフトアーム』。運動部連代表。イギリスの上流貴族の令嬢。
・荒縄目 夢路(あらなめ ゆめじ)
 アスラ女学園三年生。生徒会の『レフトアーム』。文化部連代表。エセくさい関西弁を使う。

†キャスト募集†
 ドラマ『私立アスラ女学園』の参加者を募集します。
 入学式から三日。正式な授業は開始されておらず。新入生は午前中のみ登校し、各施設や授業内容についての説明を受けています。
 基本的に運動部は第一グランド、文化部は第二グランドにテントを設営し、クラブ勧誘を行っています。

※注意※
・生徒会はNPCとして扱います。生徒会メンバーを演じる事はできません。
・実際のドラマでも、二十代の役者さんが高校生を演じる事は良くあります。あまり年齢を気にせずにご参加ください。
・お題に沿ってストーリーを考えて頂いても構いませんし、キャラクターや取りたい行動だけ書いて、後はお任せと言う形でも構いません。
※前回参加した方は、引き続き同じクラブを使用しても構いませんが、前回とネタが被らないよう十二分に留意して下さい。
 茶道部、演劇部、超常現象研究部が登場しています。


†私立アスラ女学園の御案内†

 アスラ女学園では生徒はもちろん、教職員も女性を採用しています。
 当学園では、文武両道の精神と、生徒による自治を重んじています。
 各クラブ活動、学校行事の運営、生活指導は生徒会主導の下に行われています。
 自宅登校が基本ですが、学生寮もあります。
 また、中等部、初等部の敷地が隣接するように並んでいます。隣接しているだけで、中等部、初等部とは敷地、施設は別れています。
■学校施設
 校舎は三階建て。
 敷地は『校門から校舎(下足場所)まで十分はかかる』と言われるほど広く、グランド、体育館、室内プール、図書館、部活棟、各道場、テニスコート、花園、食堂、カフェテラスなどの施設がそろっています。学生寮も敷地の中に入っています。
■生徒会
 アスラ女学園の生徒会は生徒会長が三人おり、副会長がいません。
『スリーオブフェイス』
【生徒会長】小扇 一羽、夜坂 東、片馴 静奈
『ライトアーム』
【書記長】遠昏 真戯
【会計士】風祭 葛篭
【風紀委員長】辻 守
『レフトアーム』
【運動部連代表】藤華・キャヴェンディッシュ
【文化部連代表】荒縄目 夢路
【学生寮代表】木霊 菜々実
■制服
 濃いチャコールグレーのワンピースは、総ボタンでスカート丈が長い。襟と、ワンピースの中に穿くぺティーコートはホワイトカラー。ショートタイは一年生がレッド、二年生がダークグリーン、三年生は白地に黒のラインが入る。
■立地
 広い敷地を確保する為、山が近い場所に建てられていますが、住宅地も近い為、少し歩けばコンビニやスーパーもあります。最寄り駅から二十分程で市街に出る事ができます。

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0913 宵谷 香澄(21歳・♀・狐)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2385 霧島・沙耶香(18歳・♀・パンダ)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)
 fa2814 月影 愛(15歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●用意―――
「OKちょっと落ち着け」
 狐村 静(宵谷 香澄(fa0913))は手の平を突き出し、制止を促す。授業を終え寮へ戻る途中、飢えた獣のような少女達に囲まれた。
 彼女達は食料ではなく、部員に飢えていた。
 偶に運動部の助っ人を請け負う静である。彼女達がやってくるのは道理か。
(「確か去年も似たような事があったな」)
 と、静は思い返す。思い返すだけで、繰り返したいとは思わないが‥‥。
「あと数ヶ月で引退する三年生を誘うよりも、まだ時間のある一、二年生を勧誘した方が最大公約数的シアワセだと思うから大人しく下級生を誘ってくれっていうかその前に人の話を聞けーっ!」
 問答は無用だった。問答は無意味だった。
 鬼二十三名に対し、逃亡者一名。
 壮絶な鬼ごっこが始まった。


●竜堂ゆうなの勧誘 開始
 白いテントがずらりと並んだグランドでは、各部の部員達が、身を乗り出しながら進入部員の勧誘に勤しんでいる。
 そんな中―――アイドル倶楽部顧問、竜堂 ゆうな(悠奈(fa2726))は、制服に身を包み、生徒の中に紛れ込んでいた。
 もういい歳(二十四歳独身)のはずだが、生まれ付いての童顔のおかげで違和感は全く無い。
 現在、アイドル倶楽部は部員0人。故に、顧問直々の出陣だ。
「この格好で新入生を騙くら‥いえ、勧誘するぞ〜♪」
 目指すはアイドル倶楽部の再建である。


 超常現象研究部のブース。そこに、異様な一団が居た。
 ベラ・ロッソ(大道寺イザベラ(fa0330))に、河童や烏天狗などの仮装をさせられた部員達だ。
「さあ、私たちとご一緒に世界の不思議を探求してみませんこと」
 当のベラは、着物を妖艶に着こなしている。
「ベラさんは何の仮装なの?」
 塗り壁少女がベラに訊く。
「あら、見て判りませんの? 雪女に決まっているでしょう」
 ベラは当然のように言うが、着物を着ただけの仮装では、自己申告しない限り雪女だとは判るまい。
「なんかベラさんだけ美味しいとこ取りしてるような‥‥」
 先輩の的確な指摘を、
「それにしても、イマイチ集まりが悪いわね‥‥」
 ベラは無視した。
 ベラ一人なら見栄えもいいのだが、如何せん、他の者の格好が格好だ。人目を惹いても、人心を惹く事は無い。と言うか、周りの視線が引き気味だ。
「そうだ! 先輩方、その格好で他の部のブースの後ろに立ってきてください」
「「「「え!?」」」」
 流石にそれは不味い。下手をすれば、勧誘妨害で他の部に睨まれる。
「早くしてくれませんこと? それとも、お父様の力で―――」
 『お父様の力』がどれ程のものか少女達にはチよくわからなかったが、その迫力に押される形で、少女達はベラに従った。

 結果―――怒られた。

 当然です。

●竜堂ゆうなの勧誘 その一
「アイドルだし♪ カリスマの時代よねっ!」
 と言うわけで、ゆうなは、頭にたんこぶを作ったベラ・ロッソに声を掛けた。カリスマかどうかは判断しかねるが、目立つ事にかけては彼女は一級品だろう。
「おーほっほっ、史上最高の芸術作品たるベラ・ロッソに声をかけるのは当然ですわね。でも残念、お断りするわ」
 自己中心的なベラにとって、周囲に媚を売るアイドルと言う存在は、対極の位置に存在する。
「いっそ、ベラ・ロッソ公認ファンクラブというなら、参加しても宜しくってよ?」
 流石のゆうなも、それは嫌だ。
「じゃ合併、『超常現象アイドル研究部』って言うのはどうかな?」
 中々電波っぽい名前のクラブだ。
「お断りしますわ」
「う〜ん、勿体ないなぁ♪ アイドルで学園支配も夢じゃないのにぃ」
「媚を売って得る支配に興味はありませんの。でも―――」
 ベラの声が囁きに変わる。
「少し嬉しかったわ。誘ってくれて、アリガト」
 それは彼女にしては珍しい、感謝の言葉だった。


 重なり合う二つの影。
 白鷺 桜(佐々峰 菜月(fa2370))が、自身よりも幾分も背の低い少女を後ろから抱竦めている。
「やッ―――私、もう、イク!」
 腕の中で身を悶えさせる少女。桜は手に込める力を強め、少女の動きを封じる。そして、耳元で囁く。
「うふふふ。まだ駄目ですよぉ。ちゃんと一から丁寧に教えてあげますから、ね? 初めは辛いでしょうけど、慣れれば結構病み付きになるんですよ♪」
 まぁ、早い話が、抱き付きながら勧誘してくる桜に対して、少女が「他のブースに行くから離せ」と抵抗しているというだけなのだが。

「其処までにしてもらうぞ!」

 唐突に―――二人の間に、声が割って入る。
 刺す叉を持った少女だった。
 タイの色は二年生を示す濃緑色。腕には風紀委員会の腕章。
 抱き竦められていた少女は、桜が動きを止めた隙に、スルリと腕を抜け出し、走って行ってしまった。
「む〜、もう少しで部員ゲットだったのに」
 風紀委員の少女は、深々と溜息を吐いた。
「また貴女なのか、白鷺 桜」
 初対面の少女は、桜の名前を知っていた。
「どうして私の名前を?」
「白鷺 桜の名は、既にブラックリストに載っているからな」
「あ、やっぱり!」
「我々の間では、『茶室に現れる粘着女』で通っている」
「嘘?!」
「うむ、それは嘘だ」
 が、と少女は言葉を続ける。
「強引な勧誘は禁止されている。前回にも十分に注意したはずだが?」
「茶道部の良さをアピールしてただけですよぅ。それよりも、折角の部員(予定)が逃げちゃったじゃないですか。責任を取って、勧誘を手伝ってください」
 桜は何を思ったのか、『人手不足を風紀委員で補う』というデンジャラスな結論に行き着いた。
「前みたいにぃ‥‥生徒さんにトラウマを植え付けちゃってもいいんですかぁ〜? 手伝ってくれれば見張りにもなると思うんだけどなぁ〜?」
 反骨精神を間違った方向へ発揮した桜の提案は、しかし、
「断る」
 一刀両断に切り捨てられた。
「公平を旨とする風紀委員会が、一倶楽部に肩入れをするわけにはいかない。それに、新入生を欲しているのは風紀委員会も同じ。敵方を助ける義理は無い」
「で、でも―――」
「何より、白鷺 桜。これ以上『クラブ勧誘』で問題を起こせば、貴女一人の責任では収まらないぞ? 茶道部の看板を掲げている以上、最悪、部そのものが活動停止になってしまう」
「‥‥ぐぅ‥‥」
 桜の口からは、ぐぅの音しか出なかった。


●竜堂ゆうなの勧誘 その二
「時代は麗人を求めてるのよね♪」
 と言うわけで、
「どういうわけですか」
 ゼーハーと息を切らす静。鬼ごっこは絶賛継続中だ。
「つーか、生徒も生徒なら、教師も教師だな、この学校」
 静は、制服を着たゆうなをジロジロと見る。
「いいじゃない、静さんどうせ暇なんでしょ?」
「静香さんはただ今大忙しなんですよ、ユーナ先生。後ろのアレを何とかしてくれたら考えなくもないですけど」
 静は親指で追いかけてくる集団を指差す。後ろで何かが起きているが、あまり見たくない。
「う〜ん、やっぱ駄目かぁ」
 ゆうなはあっさり諦めた。何とかする気は無いようだ。
「いや、アンタ教師だろ! 止めるとかしよーよ?!」
 鬼ごっこ再開。


 鉄 小夜(月影 愛(fa2814))は、運動部のブースが立ち並ぶ第一グランドを歩いていた。
 適当にふらつきながら、各ブースを見て回る。
 周囲の雑多な喧騒も、過激な勧誘も、自身に降りかかってこない限り、小夜の眼中にはない。―――降りかかってこない限りは、だが。
「ん?」
 前方から、上級生が物凄い速度で駆けて来る。
 その上級生―――狐村 静は背後に土煙と地響きを背負い、どんどん近づいてくる。
「どけどけどけーーー!!」
「な?!」
 静は小夜の隣を駆け抜け様にその手を掴むと、速度を落とす事無く走り続ける。
「ちょ、何なんですか!」
「ボーっとしてるからだろ! それとも、アレに巻き込まれたいのか?」
 手を引かれたまま、小夜が背後を見ると―――獣がいた。正確には、獣のように目を光らせた少女達が迫ってくる。「頭数さえ増やせば部費を割り増し請求できるのよおお!」と良く判らない事を叫んでいる。
「クッ!」
 アレに巻き込まれるのは御免だ。小夜も本気で走り出す。
 しかし、相手も然る者。サッカー部やバスケットボール部の部員が、人の壁をすり抜けながら肉薄する。
 その時―――

「そのまま走り抜けなさい」

 前方から、風紀委員を伴った、金髪縦ロールの少女が走って来る。周りをSPのように固める風紀委員の少女達共々、上半身を殆ど揺らさず、滑るような足捌きで、小夜と静の横をすり抜ける。
 小夜は知っている。
 それは、重心を丹田に置き、上半身を極力動かさない事で、相手の視覚を狂わせ、間合いを違わせる為の歩法だ。
 静は知っている。
 それは、風紀委員が廊下を急ぐ際に『両足が床から離れなければ、走っている事にはならない』と言う屁理屈をこねて使用する歩法だ。
 激突の音を背後に、小夜と静は疾走する。


「シャラップ!」
 事有る毎に行われる強引な勧誘に、遂に赤羽さくら(サクラ・ヤヴァ(fa2791))がキレた。
「なんなのさ! 人の迷惑も考えないで好き放題に! 変な上級生には後ろから抱きつかれるしい! もうヤダ!」
 地団太を踏むさくらに、
「なんや、嬢ちゃん。迷子か?」
 髪を三本の三つ編みに結った三年生が声を掛けた。
 瓶底メガネに白衣。さくらはこの上級生に見覚えがある。確か―――
「荒縄目 夢路‥‥先輩?」
「正解。いや〜、ウチも有名になったもんやね」
 夢路はケラケラと陽気に笑う。
「で、お嬢ちゃんは何処へ行きたいんや?」
「えっと、機械いじりとかパソコンとかが扱えるクラブに入りたいな〜って」
「さよか。ほんなら、機械工学系のクラブを中心に回ってこか」
 夢路が手を差し出す。
「手ぇ」
 某お茶のCMっぽく。
「あ、うん!」
 さくらは差し出された手を握ろうとして、その拍子にポケットに入れた工具が落ちる。
「あ」
 さくらは慌てて工具を拾おうとするが、他のポケットから、袖口から、ワンピースの裾から、ポロポロと工具が落ちる。
「あ、あ、うわ〜〜! 私とした事が!」
 更に慌てるさくら。夢路が思わずツッコむ。
「自分はアンドロメダから来た人か」
「へ?」
「いや、判らんねんやったらええわ。ジェネレーションギャップやね」
 二人で工具を拾い、もう一度、今度はしっかりと手を繋ぐ。
「ところで―――今度はウチが迷子になるとか言うオチはどうよ?」
「いや、それは無し」


 演劇部ブース。
 既に有る程度部員が確保できている演劇部には焦りは無い。むしろ、次の予定を考えているくらいだ。
「さてと。後はこれを部連に提出して、生徒会の許可が下りればOKね♪」
 自主公演の申請書を書き上げ、高坂ハル(白井 木槿(fa1689))が立ち上がる。
「そういえば、荒縄目さんって今何処にいるのかしら?」
 荒縄目 夢路はクラブ勧誘の期間中は暴走するクラブを牽制する為に、学園の敷地内を歩き回っている。探し出すのは至難の業だ。
 早くも予定は停滞気味。しかし、止まらぬものも在る。
「この程度、ピンチの内にも入らない。私の情熱は誰にも止められないわ!」
 燃えるハルの隣。
「あのハル先輩」
「なあに? 橘さん」
 橘・香織(霧島・沙耶香(fa2385))は、恐る恐ると言った様子で、ハルに声を掛ける。まだこのテンションには慣れていないようだ。
「自主公演の演目や、脚本はどうするんですか?」
「それなら心配ないわ。演目はもう決まっているから」
「そうなんですか」
「橘さんにもちゃんと役を用意してるからね」
「そうなん―――え?!」
 ばくん、と、香織の心臓に衝撃が奔る。全身が、じんわりと汗ばむ。
「『そうなんえ』なんて日本語は存在しないわよ、橘さん。今から噛んでちゃ駄目じゃない」
「あ、あの先輩、私、今まで演技なんてやったこと‥‥」
 香織の米神が、どくどくと脈打つ。歯の根が合わず、微かに震えている。
 香織は、高校に入って、初めて演劇部に入った。舞台に上がった経験なんて無い。
「舞台は場数よ。上がった事が無いからこそ、今の内から慣れておかなくちゃ!」
 それにね、とハル。
「日ごろ熱心に演技指導を受ける貴女の姿に、私は感動をしたのよ。やっぱり、やる気が一番よね!」
 ハルは香織の肩をがっしりと掴む。初め、目を泳がせていた香織だったが、
「‥‥ハル先輩が言うなら、私、先輩のために頑張ります」
 ハルの想いを受け止めた。


●竜堂ゆうなの勧誘 その三
「アイドルも演技派でないとね♪」
 と言うわけで、演劇部ブース。
「そんな事、いきなり言われても‥‥」
 突然の勧誘に戸惑う香織。因みに、ゆうなが教師だという事には気づいていない。
「掛け持ち歓迎だから、ね?」
 まだ勧誘に成功していない為、ゆうなも必死だ。
 香織は、思う。
 自身の気の弱さを克服したくて演劇部に入った。だが、現状はどうだろう? 確かに役は貰えたが、結局は周りに流されているだけではないか、と。まだ、自分は何も変われていない、と。
「新生【ドル部】部長候補�bP! 貴女なら出来るわっ♪ というか、お願い〜入ってぇぇ!」
「わかりました」
 それは決意の言葉だった。
「なります、私アイドルになります! そして自分を変えてみせます!」
 自分を変える為に。どこか、強迫観念にも似た想いを胸に、香織は『ドル部』への入部を決意した。
「その意気よ、香織ちゃん!」
 ゆうなは香織の肩に手を置き、空に向かって人差し指を突き出す。
「見て! 夜空に輝くあの星が、文字道理、スターの星なのよ!」
 香織もまた、人差し指の先へと視線を移す。
「ゆうなさん‥‥」
「何、香織ちゃん!」
「星が‥‥見えません」
 ゆうなが指差す先には、青い青い空が、何処までも広がっていた。