私立アスラ女学園 肆 アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 一本坂絆
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/24〜06/29

●本文

「色々とアンケートとったけど、この日が一番参加人数確保できそうだよ」
「見回りは佐伯っちゃんかぁ‥‥あの人結構緩い所あるから、好都合だな」
「じゃあ、今年の『夜光会』は、来週の水曜に決行でい〜い?」
「「「「「異議無〜〜し!!!」」」」」
 学生寮の一室。
 寮内の連絡事項や会議に用いられる畳敷きの大広間に、十数名の少女達は集っていた。
「寮生以外のお友達と参加したい人は、当直の先生に見つからないようにしてね。気を付けなきゃダメなのよ?」
 体操服にブルマー、白いハイソックスと言う格好で、髪を小さなツインテールに纏めている、少女―――幼女のような少女、初等部学生にしか見えない、高等部三年生、アスラ女学園高等部学生寮代表、木霊 菜々実が言う。
「ん、わかってる。その辺りは、私等からも一年坊に言っとくよ」


『夜光会』。
 アスラ女学園学生寮に連綿と受け継がれ続ける裏の伝統行事。早い話が、パジャマパーティーだ。毎年、新入生がある程度学校に慣れた時期に行われるこの行事は、学園生活の大部分を共にする寮生同士の交流を深めるのが目的である。
 寮監が見回りを終えた部屋の参加者から順に寮を抜け出し、寮の裏手側、寮の建物から少し離れた所にある広場に集まり、それぞれ持ち寄ったお菓子や飲み物を摘みつつ雑談にふけると言うのが慣わしだ。風紀委員会の生徒も多数参加しており、この時ばかりは、寮監にさえ見つからなければ補導されることは無い。この『大勢で共有する秘密』が、寮生達の結束を高める。


 こうして今集まっている生徒達は、寮の中でも比較的発言力の強い、纏め役達で、『夜光会』の決行に備えての打ち合わせをしていると言うわけだ。
「ところで―――」と一人の少女が疑問を口にする。
「ななちゃん―――何で部屋着が、体操服とブルマなの?」
「バッカ! なっこ、アンタには体操服とブルマの美学が解んないの? 変な事言って、ななちゃんの気が変わったらどうすんの?!」
「どうもしねぇわよ」
 なっこと呼ばれた少女は、何故か息遣いがハァハァと荒くなっている友人の発言に、半眼になる。
「んとね、これはね、あっちゃんが『これで寮生達の心を潤すんだよ』ってくれたのよ」
「ああ‥‥成る程、夜坂先輩か‥‥‥」
 なっこは、御丁寧に、ミミズののたくった様な字で『ななみ』と書かれたゼッケンを見ながら、女ったらしで有名な―――それが許される程に美系の生徒会長を思い浮かべ、納得する。
 友人は親指を立てて「グッジョブ!」と吠えている。
「冬用に、ジャージの上着と黒いニーソックスも貰ったのよ」
 にっこりと、嬉しそうに、自慢するように語る菜々実。
 背後で「萌えのテロルが私を襲う!」と鼻血を噴出しながら悶絶している友人を横目に、なっこは、
(「大丈夫なのかな、この学校」)
 と、本気で考える。






アスラ女学園では生徒はもちろん、教職員も女性を採用しています。
当学園では、文武両道の精神と、生徒による自治を重んじています。
各クラブ活動、学校行事の運営、生活指導は生徒会主導の下に行われています。
自宅登校が基本ですが、学生寮もあります。
また、中等部、初等部の敷地が隣接するように並んでいます。隣接しているだけで、中等部、初等部とは敷地、施設は別れています。

■学校施設
校舎は三階建て。
敷地は『校門から校舎(下足場所)まで十分はかかる』と言われるほど広く、グランド、体育館、室内プール、図書館、部活棟、各道場、テニスコート、花園、食堂、カフェテラスなどの施設がそろっています。学生寮も敷地の中に入っています。
■生徒会
アスラ女学園の生徒会は生徒会長が三人おり、副会長がいません。
『スリーオブフェイス』
【生徒会長】小扇 一羽、夜坂 東、片馴 静奈
『ライトアーム』
【書記長】遠昏 真戯
【会計士】風祭 葛篭
【風紀委員長】辻 守
『レフトアーム』
【運動部連代表】藤華・キャヴェンディッシュ
【文化部連代表】荒縄目 夢路
【学生寮代表】木霊 菜々実
■高等部の制服
ワンピースは総ボタンでスカート丈が長い。色は濃いチャコールグレー。
襟と、ワンピースの中に穿くぺティーコートは白。
ショートタイは一年生がレッド、二年生がダークグリーン、三年生は白地に黒い十字のラインが入る。
■学生寮
他の施設や委員会、クラブ活動にも言える事だが、生徒数が多くなると、その規模も自然と、必然的に大きくなる。寮といっても、その人数は小さな小、中学校に匹敵する。
朝食と夕食は当番制。複数の部屋が合同で調理する。これは文武両道を掲げる学園の方針によるものであると同時に、寮生のコミュニケーションを図っている。
寮監は、長期休暇を別として、通常は日替わりの当直制。
■学生寮代表
寮生に対しての監督役。学園側の意見を寮生に伝えたり、生徒側の意見を学園に伝えたりするパイプ。寮生同士の揉め事を仲裁したりと、いろいろと忙しい。
寮監が日替わりの為、実質的に寮の中で最も発言力が高く、最も権力の強い人物。
■主要NPC
木霊 菜々実(こだま ななみ)
アスラ女学園生徒会の『レフトアーム』。学生寮代表。十歳児にしか見えない十八歳。
見た目に反し、他の生徒会メンバーや寮生達からの信頼は厚い。

※注意※
・『私立アスラ女学園』は学園コメディーです。ファンタジーではありません。
・生徒会はNPCとして扱います。生徒会メンバーを演じる事はできません。ご了承ください。
・アスラ学園の高等部は『アスラ女学園』。初等部、中等部は『アスラ女学園中等部(初等部)』と表記します。
・実際のドラマでも、二十代の役者さんが高校生を演じる事は良くあります。あまり年齢を気にせずに楽しんで頂ければ幸いです。
・お題に沿ってストーリーを考えて頂いても構いませんし、キャラクターや取りたい行動だけ書いて、後はお任せと言う形でも構いません。
・寮の消灯は午後十時。見回りはそれからなので、本格的に夜光会が始まるのは十一時頃からです。
・『秘密の行事』なので、大声で騒ぐと、他の生徒に嫌な顔をされます。節度を守って行動してください。
・灯りは、OPに登場した少女達がキャンドルを用意しています。
・当然ですが、菜々実以外の生徒会メンバーの中にも寮生は居ます。片馴 静奈、遠昏 真戯、風祭 葛篭。風紀委員会副会長の赤鍵 参道も寮生です。

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0913 宵谷 香澄(21歳・♀・狐)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3982 姫野蜜柑(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 夜の学生寮。明かりの消えた暗い廊下に、ヒソヒソと声がする。
「お菓子と飲み物、話題のネタの準備はおーけい? じゃあ、行くよー」
 小声で下級生を先導するのは、男物の外国サッカーチームのユニホームを着て、何故かサッカーボールを持っている三年生の姫野ミカ(姫野蜜柑(fa3982))だ。『夜光会』も今年で三度目とあって、流石に馴れている。ぶかぶかの服を着ているのに、その動きは俊敏そのものだ。
 門は使えないので、寮の外へ出るのには一階の窓を使う。闇に慣れた目だけを頼りに、一行は慎重且つ迅速に、廊下を移動して行く。
 ガランコロン!
 突如響いた背後からの音に、ミカは驚き、振り返える。その視線の先で、
「す、すいませぇん!」
 白鷺 桜(佐々峰 菜月(fa2370))は声を潜めたまま謝ると、落とした茶筒を慌てて拾った。
 ミカは桜の荷物を見て、
「大荷物だね、何が入ってるの?」
「お茶ですよぅ。緑茶に限らず、紅茶にハーブティーと色々持ってきたんですぅ」
 茶道部らしく、各種お茶と、それぞれに合わせた道具を持った桜に、
「次からは、他の参加者に声を掛けて、分担して運んだ方が良いよ」
 ミカは次回の参考になるよう、桜にアドバイスを送った。


 楽園は存在した。
 失われたはずの全人類安息の地にして約束の地が、目の前に広がっている。
 学生寮の裏手、寮から少し離れた場所にある、周囲が木々に覆われた、開けた空間が『夜光会』の会場だ。地面には所々ビニールシートが敷かれ、各席にはキャンドルの刺さった燭台が配られている。
 キャンドルの灯りに照らされた少女達を観察しながら、ワイシャツにスパッツ姿の狐村 静(宵谷 香澄(fa0913)はこの世の春を謳歌していた。まぁ、普段からはしゃいだ言動が多い彼女だが、今日『は』と言おうか、今日『も』と言おうか、随分とはしゃいでいた。
 その理由は少女達の服装にある。皆思い思いの服装をしている。それ自体は、寮内では私服が許可されている事と、そもそも『夜光会』がパジャマパーティーと言う事を考えれば当たり前なのだが、その少女達の多くがノーブラなのだ。風呂上りと言うこともあるし、季節柄ということもある。兎に角、蒸れるのが嫌でブラを付けていない者が多い。しかも、女子寮と言う事もあって(静を含む一部の生徒以外は)誰も気にしていない。
 静は茶色の髪を払い、不敵に笑う。
「さぁて、此処からは私のステージ(独壇場)だ」
 できれば、もっと別の場面で使って欲しい台詞である。


 静は一人の少女に目を付けると、何気無い風を装って近付いて行った。
 少女の服装は半袖のシャツにショートパンツ。しかもノーブラ。
(「これ程の獲物―――基、少女に声を掛けねば名折れぞ!」)
 躍る心と心臓を抑えて平静を装うのは、静と言えども至難の業だ。
「アレ? 君、目蓋の上‥‥」
「え?」
「ゴミかな? ちょっと見せて」
 静は少女が何かを言う前に、素早くその背中に手を回し、腰と腰を密着させる。
「じっとしてて」と、顎に手を沿え、少女の顔を覗き込みながら上半身も密着。形の良い双球が潰れ、心地よい弾力が返ってくる。
 顎に添えた手が、頬を撫でながらゆっくりと上り、少女の髪を梳く。
「あ、あの‥‥ゴミは‥‥」
「ん? ああ、良く見えないな。もっと近くで見ないと‥‥」
 腰に当てていた手を肩甲骨の辺りまで上げて、少女の身体を更に引き寄せる。胸と腰を摺り寄せて、体温と、布に擦れる肌の感触を楽しむ。
 少女が顔を赤らめ、視線を逸らそうとするのを、頬に手を当て、固定する事で妨げた。
「ちゃんとこっちを向いて。そう。そのまま、私の目を見て」
「あ‥‥ぁぁ‥‥」
 ゆっくり、ゆっくりと二人の顔が接近する。
「そうそう。そ―――のまぶりぐるあ!」
 少女の視界の中で、静の顔が横へフェードアウトし、突如飛び込んできた黒と白を織り交ぜた柄の球体―――サッカーボールが、静の顔と同じ方向へフェードアウトして行った。
 少女の視界の外では、華麗なるシュートを決めたミカが、方膝を付いて祈るようなポーズを取っている。
「‥‥ひ、姫野。本気シュートは、人が死ぬから止め‥‥」
 ガク‥‥‥。
 側頭部にサッカーボールの跡を付けて、静撃沈。


 楽しげな寮生達の中に、浮かない顔をした少女が一人。
 ベラ・ロッソ(大道寺イザベラ(fa0330))は赤いネグリジェ姿で、苺のたっぷり乗った大きなケーキを口に運んでいる。ベラからは、普段の高飛車な雰囲気が消えていた。
 時々、はぁ‥‥と憂鬱なため息を漏らす。
 ベラはホームシックに掛かっていた。家を飛び出してからそろそろ三ヶ月近く経つ。元がお屋敷暮らしの為、馴れない環境に精神が先に参ってしまっていた。
「ん〜? 何か元気が無いみたいだな」
 声と共にベラは後ろから抱き締められた。驚いて顔を捻ると、茶髪の上級生の顔が視界の隅に映る。何故か片手で側頭部に氷嚢を押し付けていた。
「さては、ホームシックか? なんだ、結構可愛いとこあるんじゃないか」
「うりうり〜♪」と頬をつついてくる上級生の手を鬱陶しそうに払う。
「何なんですの、行き成り。別に家が恋しいなんて事‥‥ありませんわ。退屈が嫌で、家を飛び出したんですから‥‥」
 しかし、答える声には覇気が無い。
「ま、私にはアンタの事情は判らんが、一度家に電話してみればいい。それに、寂しい時は、これだけの家族(寮生)が居るんだ。誰かに相談しなよ」
 上級生はそれだけ言うと、苺ケーキに手を伸ばし、一口口に含むと、ヒラヒラと手を振って立ち去った。



「あッ、此処で飲まなきゃ誰が飲む! パウラが飲まなきゃ誰が飲む〜ッ! それ、イッキイッキ! イッキイッキ! イッキイッキ! イッキイッキ!」
「んぐんぐんぐ‥‥ぷは〜♪」
 軽快な宴会ソングに合わせて、ぶかぶかのワイシャツを着た茜ヶ崎パウラ(敷島ポーレット(fa3611))が、カクテルを一気に飲み干し、空き缶をシートの上に置く。この席には、こっそりと酒を持ち込んだ生徒達が集まっていた。
「六番! 赤鍵 参道、ショットガンやりま〜す!」
 タンクトップにホットパンツ姿の長身の女が、ビールの缶を振りたくり、飲み口を自身の口に当てた状態で上を向く。そのままプルタブを開け、噴射と言っても良い勢いで噴出すビールを物凄い速さで飲み干していく。
「五秒も掛かってちゃ駄目じゃん、三秒でいけ! 三秒で!」
「いや、物理的に無理だから」
 既に出来上がっている生徒達の陽気な会話。そこに、
「こらー! あんた達! いくら今日は大目に見るからって、羽目を外しすぎよ!」
 割って入ったキンキン声は、片馴 静奈だ。
「茜ヶ崎さん、いくら見た目がジュースでも、臭いでわかるわよ! 参道さんも、一緒になって何やってるんですか!」
 がー! っと詰め寄ってくる静奈に、
「私今年で十九だし」とパウラ。
「私二十歳だし」と参道。
 怒る静奈と対照的に、二人に悪びれた様子は全く無い。
「十九はお酒飲んじゃ駄目でしょう! 喩え二十歳でも、参道さんは高校生です! それも、風紀委員!」
 パウラは静奈の説教を右から左に聞き流しながら、通りかかった木霊 菜々実を捕まえて抱きしめる。
「奈々ちゃ〜ん、シィちゃんが恐いよ〜」
「でも、パウラちゃん。お酒を飲むのはいけないのよ。めーなの」
 ぷぅ、っと頬を膨らませて注意する菜々実に、
「は〜い」とパウラは気の無い返事を返しながら、頬ずりする。


「あの、大丈夫ですか?」
 シンプルな青いパジャマを着て、紅茶やお菓子を配って廻っていた星崎ハルナ(堀川陽菜(fa3393))は、ビニールシートに突っ伏する遠昏 真戯に声を掛けた。元来面倒見が良い性格なので、放って置けないのだ。
 ハルナは傍に居た風祭 葛篭に尋ねた。
「一体どうなさったんですか?」
「さっき親切な宴会組みに『ジュース』を貰ったんスよ」
 葛篭はキンキン声の生徒会長に説教されている一団を横目で見やる。
「お水、持って来た方が良いかしら?」
 ハルナは真戯に質問したが、
「いいんですいいんです私なんてどうせどうでもいい存在なんですだからいいんですわたしなんてわたしなんて‥‥‥」
 真戯は要領を得ない呟きを繰り返す。
「それでホントに放っとくと、今度は泣き始めるんスよね」
 性質の悪い酔い方だと、ハルナは苦い笑みを浮かべる。
 取り合えず、水が見つからなかったので、近くにあったスポーツドリンクを紙コップに注いで、置いておく。
「まったく。楽しむのは構いませんが、悪ふざけが過ぎます」
「ま、私は楽しければそれで良いッスけど」
 ハルナと対照的に、葛篭は気楽に答えた。
「所で、『夜光会』以外にも、今後イベントってあるんですか?」
「そうッスね〜‥‥この後は、普通に期末テストッスね。小説なら一、二行で終わるイベントッスよ。それから夏休みで‥‥休みの間は寮生も殆ど実家に帰るんで、校内は閑散とするッス。そう言えば、去年は残った寮生で花火だの肝試しだのしたッスね。今年はどうなるかわかんないッスけど。秋には『舞闘祭』があるッスし」
「七月にはイベントは無いんですか? 七夕とか」
「その辺りは‥‥‥まぁ、とある人の事情っつーか、私事の関係で見送るみたいッスよ?」
 今一歯切れの悪い葛篭の答えに、
「はぁ‥‥?」
 ハルナは生返事を返した。


「ぐぬぬぬぬ!」
 桜は唸った。折角、王道の一つ、水玉パジャマ(しかもぶかぶか!)を着てきたのに、
(「ぶかぶか比率が高すぎですよぅ!」)
 ラフな格好をしている者が多いので、大して目立っていなかった。
 桜はバリバリと爪を噛みながら、それはそうと、とビニールシートに視線を落とす。
 シートの上にはタロットカードが並べられていた。
「占いの結果はどうだったんですか?」
 桜の今後の運命を示す、三枚のカードが捲られる。
 悪魔。死神。塔。
 全て正位置。
「わぁあ! カッコイイ絵柄ですねぇ。で? これ、どういう意味なんですかぁ?」
 桜の視線を受けて、周りを囲んでいた少女達は、一斉に視線を逸らし、明後日の方角を向く。


 夜もだいぶ深けた頃。
 燭台の灯りが一つ、また一つと消され、一組、また一組と少女達が寮へ戻っていく。帰りも、見つからないよう一斉に帰ったりはしない。
 その光景を見ながら、高坂ハル(白井 木槿(fa1689))は、
「今年で夜光会も最後なのね‥‥」と、呟いた。
 三年生のハルにとって、これが最後の夜光会だった。
 思い出すのは、一昨年、そして去年の夜光会の光景だった。
 消え行くキャンドルを見る度に感じた「また来年」と言う思いは、いつの間にか「これで最後」と言う思いに変わっていた。
 少し感傷的過ぎるかもしれないと思いつつも、思い出し、懐かしむべき思い出ができたという事が成長の証なのだろうと考える。そんなハルの背後で―――
「ん〜♪ ミカちゃんは抱き心地がいいね〜」
「ちょ、パウラ、くすぐったいよ!」
「運動してる子はお肌ツルツルだから好き☆」
「服を引っ張らないで〜!」
 ハルはクルリと優美に一回転しつつ、いつの間にか手にしたハリセンでパウラの横っ面を壮絶に薙ぎ払い、一回転し終えると、何事も無かったかのようにまた、消え行くキャンドルを眺め、呟く。
「ロマンチックよね‥‥‥」
 背後で「顔が! 顔が〜!」とのた打ち回っている酔っ払いはガン無視である。


 ハルもいそいそと片づけを始める。
 そろそろ戻らなければ、朝起きる事ができなくなる。
 持参した手製の苺タルトは好評で、一つも残っていなかった。
 手早くゴミを纏めて立ち上がる。
「あ、高坂さん。悪いんスけど、手伝ってもらえないッスか?」
 声を掛けられて振り向くと、葛篭がぐったりとした真戯の肩に腕を回して支えていた。しかし、身長百九十センチ超の真戯を、極平均的な身長である葛篭一人で支えるのは無理がある。傍には菜々実も付いているが、彼女には『荷が重い』だろう。
「構いませんよ」
 ハルは葛篭の反対側から真戯を支えた。ハルの荷物は、菜々実が代わりに持ってくれた。
「ハルちゃん、ハルちゃん。今日は楽しかった?」
 菜々実がハルを見上げながら聞いてくる。ハルは迷う事無く、
「はい。楽しかったですよ」と返答する。
 菜々実はえへへ、と満足気に微笑んだ。まるで、たんぽぽのような微笑だった。
 その微笑に釣られて、ハルも微笑を浮かべる。