大食いドラマ企画会議アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
05/29〜06/02
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●本文
「今回の大食いドラマ企画は、スポンサーの主導で進められた企画だ」
某TV局の会議室。
旧企画のテコ入れの為、新たに参加したスタッフを前に、プロデューサーが企画の説明を行っていた。
「コンセプトは『料理のファッションショー』。提供される各地の一流食材は全て本物。凄腕の料理人が調理し、出来た料理を次から次へと登場させ、それを大食い大会の参加者役が、美味い美味いと解説する‥‥とまぁ、こういう企画だ」
そして、番組に登場した料理や食材について詳しく知りたい方は、スポンサーが今度新たに出版する食料系の総合雑誌をご覧下さい、通販も受け付けています、というわけだ。
「‥‥くだらない企画ですね」
新たなスタッフの一人が正直すぎる感想を口にした。
「同感だな。だが、それが我々の仕事だ。‥‥で、コンセプトに従って脚本を上げ、撮影に入ったわけだが‥‥ちょっとした事件があって、脚本を修正することになった」
修正すべき点は、以下の通り。
『食事とは、他者の命を犠牲にして自らが生きるということ。食への感謝を忘れがちな昨今、その事実を思い起こさせる脚本にしなければならない』
「無茶ですよ‥‥」
スタッフの一人が匙を投げる。
スポンサーは、料理をよりおいしく、食欲・購買欲をそそるように見せることを求めている。そこへ、『命を食べる』などという重い命題をもってきたら、まず間違いなく視聴者は引く。
「無茶なのは分かっている。そこを敢えて頼む。スポンサーの意向に沿いながら、それでいて食というものの本質を捉えたドラマの企画を立案、脚本をあげてくれ。‥‥幸い、スポンサーは気前が良く、寛大だ。宣伝という企画の主旨から外れなければ、ドラマ制作は全て任せるそうだ」
プロデューサーは、次の会議までにアイデアを考えておくように言うと、この日はスタッフを解散させた。
スタッフの一人が、部屋に残ったプロデューサーに声をかけた。
「何故こんな無茶をするんです? 前の脚本で強行しても良かったのでは」
プロデューサーは苦笑すると視線を落とし、空のペットボトルをくるくる回しながら言った。
「‥‥事件の結果、前のスタッフたちの意向、というのもあるが‥‥俺自身が納得していなかったからな。たまには『仕事』というものにやり甲斐を求めてみたくなったのさ」
●大食いドラマ企画会議
大食いドラマ企画に参加するスタッフを募集します。
スポンサーの意向に沿い、かつ指定された命題を含んだ企画・脚本が求められます。
1.変更不可能な設定
スポンサーの意向により、以下の点は無条件で変更できません。
・『料理のファッションショー』という宣伝コンセプト
・『大食い大会』ドラマ、という設定
2.脚本に含む命題
ドラマには、必ず以下の命題を含まなければなりません。
・『食事とは、他者の命を犠牲にして自らが生きるということ。食への感謝を忘れない』
以上の相反する設定を含むドラマ脚本を完成させてください。
●リプレイ本文
「『食事とは、他者の命を犠牲にして自らが生きるということ。食への感謝を忘れがちな昨今、その事実を思い起こさせる脚本にしなければならない』か‥‥。確かに言いたいことはよく分かるけど、バラエティ向きではないわね」
素直な感想を口にするプロデューサーの縞八重子(fa2177)。普段は穏やかな笑みを湛える知的美人だったが、こと仕事となると容赦が無かった。隣に座るチーフプロデューサーが苦笑する。
もしも、今回の企画がドラマではなくバラエティだったなら、縞は、普段、大食いを売りにしている参加者に、自分で料理をさせる大食い企画を立てていただろう。料理が一定の完成度に達していないと、食べることもできないのだ。いっそ、食材から集めさせてもいいかも知れない。いかに自分が普段料理をする人、その食材を作ったり取ったりした人、そしてその食材そのものに対して感謝をしていなかったかを感じさせることができるだろう。
「今回の企画は大食いドラマだけど、子供の教育上、問題にならないように気をつけてね。でも、今の日本は飽食の社会で、好き嫌いを言う子が増えてきているじゃない? あまりあからさまにならぬようそういうエッセンスを加えて、バラエティ色が消えない程度にドラマを作るのが私たちの仕事だと思うんだけど‥‥皆の意見はどうかしら?」
縞の言葉にチーフプロデューサーが頷いた。
「同感だ。今回の企画はドラマ。虚実入り交じるフィクションだ。ノンフィクションやドキュメンタリーじゃない。その利点は活かしていくべきだろうな」
●脚本案:深森風音(fa3736)
「さて、では皆で意見を出し合ってアイデアを纏めていこうか」
俳優の深森風音が会議の音頭を取った。目元の涼しげな和風な顔立ちの美男だった。
「それぞれ良し悪しがあるだろうし、面白いアイデアを纏められれば納得する脚本も上がるんじゃないかな? とりあえず私から一案」
そう言って深森が先陣を切って脚本案を披露する。
赤毛をポニーテールにした眼鏡のAD、菊人(fa3562)が、資料を皆に配布して回った。
食べ歩きが好きな主人公が、財布を失くし、山中で妙な物を食べて苦しむ羽目に。
そして、食べる事が好きなのに、自然の食べ物についてよく知らない事に気が付く。
農家の人に助けられ、そこで過ごす内に、食事とは、他の命を犠牲にして自らが生きるという事、『いただきます』とは生命を分けてもらう感謝の言葉であることを知る。
その後、都会に帰り大食い大会に参加。勝つ為にただ食らい続ける者、食材の値段ばかり気にして解説する者を余所目に、『いただきます』と手を合わせる主人公。
序盤は苦戦するも逆転勝利。
「いいんじゃないか。特に、食べ物についてよく知らないことに気がつく所と、食事というものの本質に気付く部分。それと、大食い大会のライバルたちと主人公との対比もいいな。『いただきます』と言わせるのも心憎い。あとは、大食い大会の設定と、スポンサーの要求に対する演出をどうねじ込むか、かな」
チーフプロデューサーがそう感想を述べた。それに深森が、あくまで涼しげに答える。
「他の人のアイデアも聞きたいですね。上手く纏めればよいドラマができるでしょう」
●脚本案:志羽・武流(fa0669)
「では、俺なりの脚本を提出します」
続けて脚本案を披露したのは、脚本家、志羽・武流だった。長身で眼鏡をかけた、落ち着いた雰囲気の若者だった。
舞台はフードファイトが盛んな世界。主人公は名の知れたフードファイターだが、スランプで成績は下降気味。
周囲の勧めで行ったホームステイ先の田舎で、心穏やかな生活を送る主人公。やがてホームステイ先の少女に恋心を抱く。
「私たちが食している全てのものには命があるの。食事とは他者の命を犠牲にして自ら生きるということ。だから、食への感謝を忘れない為に『いただきます』と言うのよ」
ヒロインの言葉で自分に欠けていたものを知る主人公。大食い大会に戻った主人公は絶好調で優勝。
大会後のインタビューで田舎の少女に感謝の言葉を述べ、TVを通じて告白する。
「大食い大会だけではドラマとしてアレなので、ヒロインとの恋愛を軸の1つにしてみました」
「いい感じに纏まっているな。食事の本質をヒロインが主人公に気付かせることで、ヒロインの存在意義も明確だ」
「ドラマに出す料理は、三ツ星のレストラン云々より、人々に親しみやすい郷土料理をメインにした方が宣伝効果はあるかと思います」
「そこはスポンサーの意向次第だな」
そう返事を返しながら、再び脚本案に目を落とすチーフプロデューサー。
深森案と志羽案との両方で、『田舎での生活』と『いただきます』が演出として提案されていた。これは採用してもいいだろう。現時点で問題があるとすれば、スポンサーの意向に沿って大食い大会をドラマのメインに据えたときのバランスか‥‥
●脚本案:有珠・円(fa0388)
「『大食い』と『食への感謝』を両立ねぇ‥‥ま、難しい仕事は大好きだよ」
次の脚本案は、低音が魅力のカメラマン、有珠・円のものだった。
「子供の教育上云々という話だと、食べるシーンを汚く映せないだろうし、その点も考慮に入れたいね」
カメラマンらしい視点で語る有珠。
提出された脚本案は、大食い大会以前の、主人公に関わる設定を中心にしていた。
主人公は、栄養吸収に難があり、常人の5倍の食事量で人並みの栄養が取れる体質だった。
幼い頃から食事のありがたみを知る主人公は、多くの人にその喜びを知ってもらおうとシェフになった。
だが、食費は高く、主人公は大食い大会の賞金で生活を補填していた。
主人公の勤める、贅沢ではないが心のこもった料理を出すレストラン。そこにライバルがやってくる。こんな食事で満足できるのか、と主人公と店を貶めるライバル。
悪い評判を流され、やがて客足が途絶えるレストラン。責任を感じて辞めようとする主人公に、オーナーは新作のデザートを出す。
そして、今度の大会に料理人として参加する、とオーナーは言うのだった‥‥
「どうだろう? これなら食材の解説も、料理人に言わせることで無理なく出来ると思うけど」
「そうだな‥‥だが、ドラマの劇中には本物の料理人が登場し、本当に料理を作るからな。彼等は芝居は素人だし、あまり棒読みの台詞とかはしゃべらせたくないな」
それに、有珠案では、主人公が食の本質を最初から理解していた。これは、深森案、志羽案と矛盾する点だった。
「駄目だったか」
「いや、それ以外の設定は皆使える。特に、主人公が大食いの理由が明確なのと、大会のライバルがはっきりしている点がいいな。後で他案とすり合わせよう」
●脚本案:舞腹 旨井蔵(fa0928)
「脚本の素人の案だけど、どうかな?」
そう言って控えめに脚本案を出したのは、グルメリポーターの舞腹 旨井蔵だった。最近、『ウマイさんダンス』という持ち芸で存在感を見せているという、どんなまずい料理も美味いと言う事が出来る大食漢だ。
大食い大会でライバルと対戦する主人公。ライバルは、料理を味わう事など眼中に無い男だ。とにかく料理を腹に詰め込んで勝利のみを目指す。
料理を口に運び、突然涙する主人公。彼の脳裏には、料理の原産地やその歴史が浮かんでいた。画面が暗転し、主人公にスポットライトが当たる。背景には、牧場やお百姓さんのビジュアルが流れる。
命と食への感謝を忘れた食べ方をするライバルに怒号を浴びせる主人公。とにかく美味しそうに、料理の解説をしながら、しかもライバル以上に食べて優勝する。
そして、番組の最後にスポンサーの雑誌のCM。「俺も涙が出る味だ!」と主人公‥‥
「‥‥食事の本質とか、重たく語ると食事も不味くなるだろうから、ギャグっぽくした方がいいんじゃないかと思ったんだけど‥‥浮いてる?」
少し心配そうに尋ねる舞腹に、チーフプロデューサーは言った。
「いや、方向性は間違っていない。これまでに出た世界設定的にもそう違和感はないな。ライバルとの決戦は山場だし、これくらい突っ走って盛り上げてもいいだろう」
●脚本案:菊人
「あの、最後のは私の脚本案です」
資料の最後に顔を出したのは、AD菊人の脚本案だった。ディレクターを目指す菊人は、勉強を兼ねて今回の企画の脚本も書いてみるように言われていたのだった。
数々のアマ大会で優勝した経歴を持つ期待の新人フードファイターの主人公。しかし、プロ転向後は、史上最強のフードマスターにいつも優勝をさらわれていた。
お前には足りないものがある。フードマスターは言った。主人公は、謎の老人の言葉に従って農業と畜産が盛んな田舎へと赴き、そこで、ヒロインや村人たちとの生活を通じて、食事の本質を学んでいく。
そこへ届く一通の手紙。全世界のフードファイターが集まる大会「World Gluttony」への招待状だった。
心配するヒロイン。「大丈夫だ。もう昔の俺じゃない」主人公は大会へと旅立った。
そして、ヒロインの見守る中、主人公は勝ち上がり、決勝でフードマスターと壮絶な戦いを繰り広げ、優勝する‥‥
「大会に登場する色鮮やかで豪華な料理。それと、田舎暮らしで出てくる素朴な料理。同じ食材でも違う料理、それを対比させることで、ドラマのコンセプトを満たすことが出来ると考えます」
「なるほど。演出次第では効果的だな。もっともスポンサー次第だが」
「他の皆さんと設定が同じ部分が多いですね。ライバルの設定は違いますけど‥‥」
「フードファイトの大会なのだから、ライバルは複数いて構わないだろう。いや、むしろ、いいんじゃないか? フードマスター」
ライバルが増えれば、それだけ大食い大会をドラマのメインにもっていき易くなる。それはスポンサーの意向にも沿うことだった。
●脚本案:総合
こうして、皆の持ち寄った脚本案が出揃った。
皆は意見を出し合いながら、それぞれの脚本をすり合わせに入った。全体の流れを、脚本家の志羽が即興で纏める。
舞台はフードファイトが盛んな世界。そこでは、大食い対決が毎日のように、あたりまえのように行われていた。
主人公は、シェフ見習いとして修行を積む傍ら、フードファイターとしても活躍していた。主人公は栄養吸収に難のある体質で、対決で得られる料理と賞金は欠かせないものだった。
勝つ為に、料理をとにかく腹に放り込む主人公。連戦連勝を続けていたが、史上最強と言われるフードマスターとの対決で惨敗を喫してしまう。力の差に愕然とする主人公。フードマスターは、「お前の食事には足りないものがある」と言い残して去っていった。
それ以降、主人公はスランプに陥ってしまう。苦悩する主人公。そんな時、主人公の修行するレストランに、ライバルがやってきた。
ライバルは、店の料理を味わうことなく食らうと、「こんな料理で満足できるのか」と言い放った。贅沢ではないけれども心のこもった料理を出すのがレストランのモットーだ。だが、ライバルは「腹一杯にならなければ、それは『旨い料理』ではない」と言い捨てた。
その後、悪い噂が流され、レストランは客足が遠のいてしまった。責任を取り辞めると言う主人公に、オーナーは新作のデザートを差し出した。心のこもったその一品に涙する主人公。オーナーは、田舎の知り合いの所に行くことを勧めた。
その道中、主人公は道を見失い、山中をさ迷い歩き、妙な物を口にして苦しむ羽目になった。自分が食べ物について無知である事を、主人公は思い知らされた。
オーナーの知り合いに助けられた主人公は、農業や畜産の作業を通じて、食事というものの本質を知るようになる。
「私たちが食している全てのものには命があるの。食事とは他者の命を犠牲にして自ら生きるということ。だから、食への感謝を忘れない為に『いただきます』と言うのよ」
そのことを教えてくれたヒロインに、主人公は好意を抱くようになった。
そこへ届くフードファイト世界大会「World Gluttony」の招待状。旅立つ主人公。
大会予選。ただ食らい続ける者、食材の値段ばかりを解説する者を蹴散らしてゆく。
ライバルとの対決。凄い勢いで食らい始めるライバルを他所に、主人公は『いただきます』と手を合わせる。口に運んだ瞬間、脳裏に広がる世界。主人公は、ただ勝つために食らい続けるライバルを一喝し、料理の解説をしながらも余裕で勝利を収める。
決勝。成長した主人公を前に満足そうに頷くフードマスター。激戦。次々と運び込まれる料理。解説しながら食べ続ける二人の熱闘が続く‥‥
そうして優勝する主人公。TVのインタビューでヒロインに感謝の言葉を述べ、告白する‥‥
「大まかな流れはこんな感じか。実際のドラマでは、個々のシーンを細かく描写することになるな。前半の最初とと後半の大部分、大食い対決のシーンも増えたし、食の本質も描写している。ドラマとしてのバランスも取れている、な」
チーフプロデューサーは納得して頷いた。
数日後、正式な脚本として仕上がった第1稿を持って、チーフプロデューサーと縞はスポンサーへ『お伺い』を立てに行った。
細かい部分でスポンサーから修正要求が出されたが、ドラマ全体の流れはほぼ全て認められ、正式に撮影が始まることとなった。