クルトの戦記 少年編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/07〜06/11

●本文

 王国の人間が『山の民』と呼ぶ人々がいる。
 王国領東部、グライブ山地からクラーベ山脈にかけて、家族単位、または部族単位で暮らす人々のことだ。
 平原の民よりも、頭一つ分大柄で頑健。山中で、自分たちが生きていくのに必要なだけの小さな畑を作り、山と森の恵みを糧に生活をしている。平原の人々のように洗練された文化を持たず、いわゆる教養も無く、それ故に『蛮族』と蔑まれることも多い。
 私、クルト・エルスハイムは、『山の民』である。爵位を賜った今でもそれは変わらない。
 数奇な運命に導かれ、今の私がある。
 思えばあの日、彼に出会わなければ、私は今もあの山中で、畑を耕し、狩りをして、日々を終えていたことだろう‥‥
                              ──老エルスハイム、自らの人生を振り返りて記す──

 カイツの息子クルト。
 それが私の呼び名だった。元来、『山の民』に家名は無く、父親の名を以ってそれに代えていた。
 私の生家は、グライブ山地のとある山の中腹にぽつりとあった。木と石でできた家。そこに母、姉、私、そして隻腕の父の四人が暮らしていた。
 そして、あの日。狩りを終えて家に帰る夕方の山腹で、私は、初めて『平原の民』と出会った。

「老人が困っておるというのに手を貸さんのか? 『山の民』はいつからそのように薄情になったのじゃ?」
 大荷物を抱え、岩の上で不貞腐れたように足を組むその老人と出会ったのは、私が10の時だった。
 ちなみに老人というものに出会ったのもこの時が初めてだった。『山の民』は総じて短命で、私は白髪というものも知らなかった。だから、私はそれからしばらくの間、『平原の民』とは白髪でしわくちゃで髭面なものだ、と思い込んでいた。
 とにかくそんなわけで、私は、初めて見るその『小さき人』を前にして、ただポカンと立ち尽くすだけだった。
「なんじゃ、少年。『平原の民』と会うのは初めてか? ‥‥そうかもしれんの」
 老人は、一瞬遠くを見つめるような表情をすると、私に荷を持ってついてくるように言った。
「若人が老人に親切にするは当たり前じゃ。弱き者を助けるに『平原』も『山』もなかろうて」
 そういうものか、と私は思い、重い荷を持って、そのやたらと元気な老人の後を追った。

 その日の夜、私は家族に、夕方出会った『平原の民』の老人について語った。
 父は、あまり『平原の民』と関わるな、とだけ言った。

 老人は魔術師だった。
 私は、魔術を見るのも初めてで、老人が何もない森の中に一夜で家を建てたときには、心底驚いた。
 今にして思えば、さぞ高名な魔術師であったに違いない。彼に何があったのか私は知らない。ただ、この時は、世俗に嫌気が差し、山中に隠遁したのだ、と老人は言った。
 その後、私は老人の所に出入するようになった。
 畑仕事と狩りを終えると、獲物を持って老人の所へ行き、代わりに学問を教わった。
 読み書きを覚え、数字のやり取りを習い、平原の暮らしを聞きせがんだ。
 特に私がのめり込んだのが歴史だった。読んだのはただの歴史書だったが、私には英雄譚のように思えたものだった。

 そうして8年の月日が流れた。
 姉は山向こうの部落に嫁ぎ、母はそれを見届けるようにして亡くなった。家には、臥せりがちになった父と私とが残された。
 私の『山を下りてみたい』という欲求は日に日に強くなっていたが、病気の父を放り出すわけにもいかなかった‥‥

●スタッフ募集
 以上が、アニメ『クルトの戦記』の冒頭部分となります。
 このアニメの製作に当たり、スタッフと出演者を募集します。

●アニメ『クルトの戦記』
 『クルトの戦記』は、ファンタジー世界を舞台にしたアニメです。
 山岳部族『山の民』の出身でありながら、爵位を持つ貴族にまで上り詰めた英雄クルトの一代記です。
 主人公クルトの人生を彩るキャラクターを製作し、クルトにどのように関わるのかプレイングに記述して下さい。
 そのプレイングで、クルトが歩む人生が決まります。

 今回は、『少年のクルトが山を下りるまで』、その期間にクルトと関わるキャラクターと設定を募集します。

●今回の設定
1.『山の民』
 本文中の通り、王国東部の山岳地帯に住む少数民族です。家族、部族単位で生活しています。
 王国に暮らす『平原の民』(ファンタジー世界に住む一般的な人間)よりも、頭一つ分大柄で頑健です。
 野蛮人と見られがちで、山の下では差別と偏見に晒されていますが、実際は素朴な人々です。
 小さな畑を作り、山や森で狩りをして生計を立てています。
 『山の民』は『平原の民』より寿命が短く、その為に同族の女性を大切にします。
 一般的に、子供の頃からいいなずけが決められているのが普通です。
 10年以上前の戦乱時には、多くの『山の民』が戦場に徴用されました。

2.劇中舞台
 グライブ山地のとある山の中腹に主人公の家があります。山の反対側には、魔術師の老人の家があります。
 お隣さんは隣の山に住んでいます。さらに向こう側に、クルトの姉が嫁いだ集落があります。川沿いの集落で、十数戸の『山の民』が住んでいます。時々、川下の村『ハイン』から、行商が来ます。
 川下の村『ハイン』は、『山の民』と『平原の民』が同じくらい住む村で、山と平原の間で細々と交易が行われています。

3.世界観
 いわゆる普通の(?)、機械や銃などが登場しない剣と魔法のファンタジー世界です。
 魔法についても、極めれば神にも等しい力を行使できますが、そういった人は世界にも稀です。というか神です。
 ちょっと便利な人、程度の魔術師は珍しい存在ではありません。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0750 鬼王丸・征國(34歳・♂・亀)
 fa2037 蓮城久鷹(28歳・♂・鷹)
 fa2724 (21歳・♀・狸)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3755 青山 まどか(17歳・♀・狐)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●アニメ『クルトの戦記 少年編』スタッフ
 鬼王丸・征國(fa0750):脚本、演出、『山の民』追加設定。
 蓮城久鷹(fa2037):脚本、『平原の王国』追加設定。

●本編
 春も盛りを過ぎようという頃。山の民の集落へと続く川沿いの道に、行商人の到来を告げる歌声が響いた。
 山でも平原でも聞き慣れぬ、不思議な響きの歌だった。異国の服に身に包んだ神秘的な女(CV:姫乃 舞(fa0634))が、軽やかに歌いながら舞い歩く。その後ろを、大荷物を背負った青年が黙々と歩き続けていた。一見、線の細い若者だったが、その足取りはしっかりとしていた。
 歌声が風を渡る。行商人の到着を聞きつけた集落の人々が、家を出て集落の入り口へと集まり始めた‥‥
 (歌が伴奏つきのバージョンにシフト。そのままOPロールへ)

「こんにちはーっ!」
 元気の良い挨拶と共に、快活そうな少女がクルトの家の扉を背中で押し開く。盆代わりにしたエプロンに野菜を山盛りにしていた。
 クルトの隣(隣山)に住む幼馴染で、いいなずけのミーア(CV:咲夜(fa2997))だった。
 短命・少子の『山の民』は、早い内にいいなずけを決めるのが一般的だった。ミーアとクルトは同じ月に産まれ、その時からもういいなずけと定められていた。
「あら、ミーアちゃん、いらっしゃい」
「あ、マドカさん、帰ってたんですか」
 そのミーアを、箒を手にしたクルトの姉マドカ(CV:青山 まどか(fa3755))が出迎えた。マドカは既に集落に嫁に出ていたが、臥せりがちな父を心配して、時々実家に顔を出していた。
「マドカさん、クルトは?」
「山の裏のガンジスさんの所よ。集落で行商人の男の人に魔術師の老人の事を聞かれたから、クルトに案内を頼んだの」
「またガン爺の所ですかあ!?」
 拗ねたように怒って見せながら、どこか寂しそうなミーア。そんなミーアを見て、マドカは心中でため息をついた。
 ミーアは本当に出来た娘だった。まだ結婚前なのに、こうしてクルトの家を度々訪れて男所帯の面倒を見るなど、クルトには勿体無い位の器量良しだった。
 クルトも憎からず思っているはずだ。だが、クルトがどこか遠くを眺めるように生きていることも、マドカには分かっていた。
 そろそろ結婚しないのか、とマドカはクルトに聞いたことがある。その内に、と話を逸らすクルトの姿に、マドカは弟の迷いを見出した。姉としては、弟にはミーアと幸せな家庭を築いて欲しかった。だが、弟が全てのしがらみを捨てて旅立つというのなら‥‥それを応援するのも姉の役目ではないかと思うのだった。

「『剣王』が平原に割拠する小国をことごとく平らげ、『王国』を打ち立ててより18年。その『剣王』も老いて、宰相の権勢はますます盛んになるばかり。魔術師でもある宰相が、『文字通り』王を『傀儡』にしている、などという噂も立つくらいでね」
 山中に隠遁する老魔術師ガンジスの家。魔法の灯りの下、テーブルに並べた商品をしまいながら、行商人アストル(CV:藤井 和泉(fa3786))は平原の王国の様子を語って聞かせていた。
 それを食い入る様にして聞くクルト。異国の装束に身を包んだ女行商人メリッサは、窓枠に座って星を眺めていた。
「山の民相手の行商人にしては、随分と中央の情勢に詳しいようじゃな」
 ベッドで半身を起こして座るガンジスが、言いながら咳き込んだ。老魔術師は歳を取り、体もすっかり弱くなった風だった。
「‥‥そういう商売にも手を出していまして」
「ふん、商売熱心な事じゃ。じゃが、見ての通りわしも老いぼれた。ぬしの『商売相手』が誰かは知らぬが、役に立たぬ『骨董品』は必要あるまいよ。‥‥クルト、客人のお帰りだ」
 クルトはまだ話を聞きたかったが、ガンジスに一睨みされてしぶしぶと従った。
「‥‥平原の民は、再びあの悲劇を繰り返そうというのでしょうか」
 満天の星空を見つめながら、メリッサがつぶやく。ガンジスは無言で視線を落とした。

 それから時は過ぎ、季節は夏になった。
 平原では日々歴史が動いていた。だが、山の中に暮らすクルトには、遠い世界の出来事だった。

「失礼する。こちらは大魔術師ガンジス・オ・セイロン殿の庵に相違ないか」
 ガンジスの家を掃除するクルトに声がかけられた。無理に低く、大人びたようにした声だった。
 クルトが振り返ると、まだ年端もいかぬ平原の民の少年(CV:星辰(fa3578))が佇んでいた。腰に剣を佩き、鮮やかな赤毛を切り揃えていた。
 クルトは少年に向き直ると、静かに告げた。
「先生は‥‥魔術師ガンジスは亡くなりました。三ヶ月前のことです」
「亡くなった‥‥!?」
 少年は目を見開くと、その場に崩れ落ちた。疲れ切った身体に鞭打ってきたのだろう。もう限界のようだった。
「そんな‥‥じゃあ、ぼくはこれからどうすれば‥‥」
 呆けたように、少年はつぶやいた。

 クルトはとりあえず、少年を自分の家に連れて帰った。驚くミーアに少年を預け、クルトは獲物を捌いて夕食を作った。
 粗野な料理を目の当たりにして、少年はしばらく躊躇していたが、やがて我慢できなくなったのか、貪る様に食べ始めた。
 少年が部屋で寝入ると、クルトは父とミーアに今日の出来事を説明した。
「あの子の服は富める者、大商人や貴族が着るものだ。それがこのような場所に一人‥‥厄介な事にならねばいいが‥‥」
 クルトの父は眉をひそめた。

 翌朝、目を覚ました少年はシンと名乗った。
 行く当てがあるのか、と訊ねたクルトに、シンは首を横に振った。
「でも、ぼくがここにいると迷惑をかけるから‥‥」
 そう言うシンに、クルトは短弓を差し出した。使えるか、と問うクルトに、シンはきょとんとして頷いた。
「穀潰しを置く余裕は無いからな。自分の獲物は自分で獲れ」
 そう言うとクルトは、強引にシンを狩場へと引っ張っていった。

 こうしてクルトたちとシンの生活が始まった。
 シンは弓の腕はそこそこ良かったが、狩人としては使い物にならなかった。クルトは狩人としての心得を一からシンに叩き込んだ。
「なるほど、本来『狩り』とはこういうものなんだ」
 妙に感心してシンは頷いた。
 その後も、シンはクルトについて農作業や狩猟を手伝った。ミーアやマドカとも仲良くなった様子で、何か三人だけの秘密も出来たようだった。それが何かはクルトには分からなかった。ただ、一緒に水浴びをしようとして、顔を真っ赤にしたシンに怒鳴られたことがあった。

 そうしてひと月ほどたったある日、クルトの家の扉を乱暴に叩く者の姿があった。
 扉を開けたミーアを乱暴に押しのけて、勝手に入り込んで何かを探し始める。
「平原の民の兵が何用か!」
 奥から出てきたクルトの父が一喝する。隻腕に剣を握っていて、兵たちは色めき立った。
「年寄りの冷や水に付き合うな。それよりも、さっさと探しものを見つけな」
 冷たい声がして、兵士たちが慌てて探索を再開する。扉から声の主(CV:結(fa2724))が現れた。
 山の民もかくやという長身の、美しい顔立ちの女だった。どこか冷たい印象の女だった。冷酷な顔立ち、というわけではない。ただ、冷たかった。
「この辺りで平原の民の子供を見なかったか?」
「知らんな。知っていても教えぬが」
 ふてぶてしく尋ねる女隊長と、眉をいからせるクルトの父。やがて、家捜しをしていた兵が戻ってきて、いないようです、と女隊長に耳打ちした。
 それを聞いて、クルトの父はほっとした。恐らく今日は、狩りの後に魔術師の庵にでも向かったのだろう。
 そんな父を女隊長はじっと見つめていた。
「まあ、いい。話したくなるまでこの娘は預かっておく」
 そう言うと、女隊長はミーアを捕らえるよう、兵に指示を出した。
「いや‥‥返して欲しくば子供を連れて来い。子供と引き換えにこの娘は返してやる」

「山の民の女性が平原の民によって連れ去られました。クルトさん、あなたの大切な人です」
 魔術師の家にいるクルトとシンの元に、メリッサとアストルが現れてミーアがさらわれた事を伝えた。
 平原の民が突きつけた交換条件を聞き、シンの顔が真っ青になっていった。
 連中の居所はどこか。クルトはすぐに我を取り戻すと、アストルに意見を求めた。平原の民の考え方を聞いておきたかった。
「セオリー通りなら見通しのいい丘の上だろう‥‥でも、ここは平原じゃない。山の民は同族の女性を大切にする。誘拐が他に知れて、怒り狂った山の男たちに包囲されるのはゾッとしないな。だから、まず逃げ道を確保するだろうね」
「川、か‥‥」
 クルトがつぶやくと、アストルは満足そうに頷いた。
「やはり君は、賢者ガンジスの一番弟子だよ」
 クルトは、シンに残るように言うと、二人にシンの事を頼んだ。
「他の皆には知らせないのかい?」
「人質を取られている以上、何人で行っても同じです。一人でやります」

 ミーアを連れ去った平原の民は、予想通り川原にキャンプを張っていた。岸にはボートも繋がれていた。
 ミーアは拘束されたり、軟禁されたりはしなかった。代わりに、四六時中見張りが、女隊長が側に張り付いていた。
「‥‥怖くはないのか?」
 思ったよりも平然としているミーアを見て、女隊長が尋ねた。
「平気。クルトは必ず来てくれるから」
「ふん、恋人か?」
「未来の旦那様よっ!」
 女隊長は目を瞬かせると、静かに笑みを浮かべた。ミーアはそれを見て、この人も笑うんだ、などという場違いな感想を抱いていた。
 女隊長は、何か答えようとして口を開き‥‥そこで、見張りに立てておいた兵の数が、知らぬ間に随分と減っている事に気がついた。
 愕然として立ち上がる女隊長。
 その時、クルトが近くの茂みから飛び出した。

「まさかこう明るい内から仕掛けてくるとはな!」
 飛び掛ってきたクルトをかわし、女隊長は剣を抜き放った。襲撃は夜だとばかり思っていた。
 クルトにとって、人間など野生の獣に比べたら無警戒もいい所だった。先入観で勝手に油断をしてくれる。
 だが、この時点でクルトはすでに負けていた。クルトの技術は所詮、狩りの技術。姿を晒しては、人殺しを極める剣術に敵うべくもない。それをクルトは、持ち前の動体視力と勘だけで捌いていた。
「山の民は魔法を使えぬ代わりに『精霊の加護』を得るというが‥‥だが、これで終わりだ!」
 女隊長の剣がクルトの短剣を弾き飛ばす。二の太刀がクルトの頭に落ちかかろうとするその瞬間。
 戦場にシンの声が響いた。
「待て! その人を殺したら、ぼくは帰らないぞ!」

 剣を止める女隊長。
 シンを見やり、交渉できる立場だと思っているのか、と冷笑する。
 だが、すぐにその笑みは凍りついた。遠くから、山の民の男たちが殺到してくるのが見えた。アストルの知らせを受けたマドカが皆を集めたのだ。
 女隊長は舌打ちをすると剣を引き、シンに船に乗るように言った。
 船に乗り込み、シンはクルトとミーアに向かって今までの礼を言った。
「このままこうして生きていくのも悪くない‥‥本気でそう思っていた。でも、やっぱり、ぼくはぼくの戦いから逃れることが出来なかった。だから、ぼくは精一杯戦うよ」
 その戦いにクルトさんもいてくれたら──言いかけてシンは口をつぐんだ。
「──クルトさん。貴方に書物の中だけじゃない、本物の広い世界を見せてあげたかった」

 その日の夜。
 寝付けないクルトが外に出ると、宵闇の向こうからメリッサが現れた。こんな時間に──言いかけたクルトの唇に、メリッサが人差し指を当てる。
「今、世界は色々な事が起こっています。グライブ山地とハインの外にも、こことは別の世界が広がっている‥‥
 クルトさん、あなたはまだまだお若い。一度、外の世界に目を向けてみるのも良いのかもしれません。
 あなたの瞳にこの世界がどう映るのか‥‥見てみたい気がします」
 そう言って柔らかな笑みを浮かべるメリッサ。含みを持たせるように神秘的な流し目を残すと、そのまま闇に消えていった。

 黎明時。
 旅装束を整えたクルトが扉に向かうと、居間のテーブルにミーアが座っていた。
「‥‥行くの?」
 振り返りもせずに、それだけを言うミーア。シンをあのままにしておけない、とクルトは答えた。
「それだけじゃないでしょ。前から、クルトは‥‥っ!」
 ミーアは言葉を呑み込むと、努めて静かに語りだした。
「‥‥クルトには失望したよ。誇りある山の民のくせに自分の妻一人満足に助けられないなんて‥‥
 修行して出直しきなさい! 義父さんのことはあたしに任せて!
 ‥‥でも、約束しなさいよ。あたしをもう一度惚れ直させるくらいにいい男になって戻って来るって!
 ‥‥さもないと‥‥承知しないんだからね‥‥」
 肩を震わせ、涙を啜るミーア。クルトは足を踏み出しかけて止めると、ミーアに向かって頭を下げた。

(エンディングテーマ。以下映像のみ、音声なし)
 朝日を背に、クルトが『ハイン』への道を行く。
 それを窓から見送るミーア。そんなミーアをマドカが背中から抱きしめる。堪え切れなくなり、マドカに縋りついて号泣するミーア。自らも涙を流しながら、優しくミーアの頭を撫でるマドカ。
 昇る太陽。振り返るクルト。故郷は遠く、そびえる山々。やがて、クルトは再び歩き始める‥‥