6月の花嫁ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/28〜07/02
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●本文
近未来、新型爆弾に汚染され、封印された旧トウキョウ地区。
隔離された内部には、新型爆弾の影響で『感染』した人々が見捨てられていた‥‥
ドラマ『武装救急隊』は、そんな世界を舞台にしたオムニバスドラマです。
●ドラマ『武装救急隊 廃墟に咲く花』
『彼女』が結婚する。
狭いウエノ公園キャンプ内でのことだ。その噂はすぐに『僕』の耳へと入ってきた。
結婚といっても、実際には何が変わるものでもない。婚姻届を届ける役所もなく、ウェディングケーキもない。それでもキャンプの人々は、少しでも良い『披露宴』にする為、準備に追われていた。
配給食を少しずつ分けて溜めて『ごちそう』の準備をしたり、神父か牧師を探してキャンプ中を走り回ったり。配給に来る軍やNGOに『ご祝儀』‥‥物資の横流しを依頼する者まで出た。
久方ぶりの明るい話題に、キャンプは祝賀ムードに包まれていた。
‥‥ただ一人、『僕』だけを除いて。
『僕』が『彼女』と付き合っていたのは、まだトウキョウがこんな風になるまえ、『大学生』という肩書きがトウキョウに存在した頃だった。
同じサークルに所属していた『僕』と『彼女』は、何となく惹かれ合い、何となく付き合い始めた。ドラマのように劇的な事など何もなかった。付き合い始めた事にサークルのメンバーが誰も気付かなかった、という話だから、恐らくそれが自然な事だったのだろう。
‥‥自分で言うのも何だが、この時の『僕』は、どこにでもいる、ごくごくありふれた、善良な人間だった。
全てが変わったのは、『あの日』からだ。
日々荒廃するトウキョウと同じく、『僕』の心も荒れ果てていった。
特に決定的だったのが、親友がクリーチャーと化して、友人たちを惨殺した事件だった。唯一の目撃者──生き残りだった僕は、警察ではなく軍に連れていかれ、事件の他言無用を強制された。即ち、人間が人型クリーチャーになるのだ、という事を。
日常を破壊され、不安と恐怖に苛まれ、僕は荒れた。酒に溺れ、周囲に当り散らした。友人たちは離れ、最後まで側にいた『彼女』も去っていった。
今なら分かる。結局、『僕』が弱かっただけなのだ、と。
あの時、『僕』がすべきだったのは、絶望に負けず『彼女』と共に未来を築く道を探す事だった。
‥‥だが、それでも。今日のこの結果に『僕』は満足していた。『彼女』は結婚する。それは、僕と共に歩む人生より、ずっと幸せに満ちたものになるだろう。
獣のそれと化した足で、『僕』は立ち上がる。病床を離れるのは久しぶりだった。
そのままキャンプを抜け出した。何も無いキャンプには、『僕』の探す物は見つからないからだ。幸い『僕』の事を気にかける者などいない。抜け出しても問題ないだろう。
「ウェディングドレスを着るのが夢だと言っていたな‥‥」
そうして『僕』は、廃墟のトウキョウへと足を踏み入れた‥‥
1時間後。廃墟を走る装甲救急車。その無線機が鳴る。
『本部よりAMB6。ウエノ公園キャンプより要請。キャンプを抜け出して危険区域へ向かった者がいる。至急保護されたし』
「AMB6より本部。救急パトロールを終え、俺はもう仕事上がりなんだがね。どーぞ」
『本部よりAMB6。お前たちが一番近いんだ。帰ったら一杯奢るから頼むよ。ど〜ぞ』
「AMB6より本部。了解した。これより現場に急行する。くそっ、温かいシャワーを返しやがれ、オーバー」
乗り手の感情を表す様に、装甲救急車が荒々しく進路を変えた。
●出演者募集
以上がドラマ『武装救急隊 廃墟に咲く花』の冒頭部分になります。
このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。
以下のように多くの設定がありますが、ドラマの時間枠は限られています。
シーン数が多くなれば、それだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
設定の取捨選択をして『起承転結』(OPが『起』になります)に纏め、ドラマを完成させて下さい。
ただし、使われない設定も存在はしますので、それに反するプレイングには気をつけて下さい。
●設定
1.武装救急隊
隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。
2.装甲救急車
非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられます。
足回りが強化されており、不整地踏破能力もありますが、当然、患者が収容されたら無茶は出来ません。
ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能です。
3.装甲救急車の乗員
機関員(運転士)、救急隊員(サブ運転士を兼ねる)、医師(救急隊長を兼ねる)、看護師の4名。
乗員は固定というわけではなく、シフト制です。同じ面子でも違っていても問題はありません。
4.護衛
武装救急隊に装甲救急車の護衛として雇われた傭兵たち。
APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、装甲救急車の脅威を排除する歩兵戦闘のプロたちです。
5.キャンプ
新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まる場。
しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
6.救急病院
隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた装甲救急車の目的地です。
危険な地域にある為、防御陣地の中に存在します。
新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもあります。
7.新型爆弾
現実にはありえない不思議爆弾。
劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。
8.クリーチャー
新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
既存の生物を戦闘に特化した存在です。
当然、人間も例外ではなく、『発病』するとクリーチャーになります。
人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現することになりました。
9.武装勢力『ウォールブレイカー』
外界への解放を求め、トウキョウ地区を完全隔離する壁『長城』の破壊を目指すグループ。
テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する自警組織でもあります。
●リプレイ本文
『キャンプを抜け出して危険区域に入った者がいる。至急保護されたし』
その通信は、資源の回収とクリーチャー掃討に出張っていたウォールブレイカーも傍受していた。
報告を受け、リーダーの鮫島博史(役:藤宮 誠士郎(fa3656))が思案する。距離は武装救急隊よりも自分たちの方が近かった。だが、自分たちは作戦行動中で、戦力を割く余裕は余り無かった。
「あたしが行くよ」
鮫島の返事も待たず、リュナ・ルーク(役:葉月竜緒(fa1679))が立ち上がった。
「あたしが守りたいのは、ありきたりでささやかな日常なんだ。だから、あたしがそのバカを連れ戻す」
そう言って、リュナはサイドカー付きのバイクに跨り、エンジンのキーを回した。
勝手な事を、といきり立つ副官を、鮫島は制止した。あたしに戦い方を教えてくれ! キャンプの人々を守る為、そう言って鮫島の元へやって来たリュナを思い出す。
「葛城。リュナと共に行け。該当者を保護し、キャンプへ連れ帰るんだ」
「は、はいっ!」
葛城 縁(役:響 愛華(fa3853))が慌てた様子で走り寄る。その耳元に、鮫島が小声で囁いた。
「‥‥該当者に完全発症の兆候が表れた場合、躊躇うことなく処理しろ」
その言葉に表情を硬くする葛城。だが、すぐに悲しそうに頷いた。
「せめて、人として‥‥ですね‥‥」
つぶやいて、葛城はリュナのサイドカーに乗り込んだ。
かつての恋人の為、ウェディングドレスを探しにキャンプを抜け出した青年、石和清澄(役:諫早 清見(fa1478))は、廃墟のトウキョウを彷徨っていた。
荒い息をつきながら、必死で足を進める石和。半病人のような姿だったが、体力的な懸念はまったくなかった。むしろ、力が身体の底から溢れてくる。この力が弾ける時、石和清澄という人間の心は砕け散り、一体のクリーチャーが誕生するのだろう‥‥
‥‥ふと前方に気配を感じて、石和は足を止めた。見れば、一体の狼人型クリーチャーが行く手を塞いでいた。退こうとした石和は、いつの間にか後ろにもクリーチャーがいる事に気がついた。
じりじりと間合いを詰めてくるクリーチャーたち。その時、爆音が二つ、もの凄い勢いで近づいてきた。
ぎゅおおぉぉぉん!
宙を舞うサイドカー。クリーチャーを眼下に見下ろしながら、リュナが自動小銃を撃ち放つ。ひるむクリーチャー。すれ違いざま、葛城が手榴弾を二つ落としていく。
キュリリリリリ‥‥!
ドリフトしながら突っ込む装甲救急車。ピタリと追走する護衛の八輪装甲車。その上部ハッチから身を乗り出したベオ(役:ベオウルフ(fa3425))が、擲弾筒をクリーチャーに撃ち放つ。
同時に起こる爆発。吹き飛ぶクリーチャー。着地したサイドカーと救急車が、車体を滑らせて急停止する。
一瞬の出来事だった。何が起きたのか分からぬまま、石和はただ身体を硬直させていた。
「まったく、うちの機関員って、みんなこうなのかしら‥‥」
ぶつけた頭をさすりながら、女医の狐木・玲於奈(役:白狐・レオナ(fa3662))は救急車を飛び出した。すぐ後ろを、救急隊員の玉田(役:たまた(fa3162))が担架を持って続く。
車内で待機する機関員の水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))は、保護対象者の石和を見て眉をひそめた。進行がかなり進んでいるようだった。
「もうギリギリの状態なのに、無茶な事を‥‥。すぐに搬送するわよ、急いで!」
弧木が玉田を呼び寄せる。石和が静かに首を横に振った。
「‥‥すいません。僕は、まだ戻るわけにはいきません」
そう言って石和は皆に、自分がキャンプを抜け出してきた理由を説明した。自分の罪と悔恨とを。彼女にウェディングドレスを贈りたい。それが、僕の最後の務めだろうから‥‥
「‥‥あたしも付き合うよ。ただし、ウェディングドレスを見つけたら、すぐにキャンプに戻ってくれよ?」
石和の覚悟を見て取ったリュナが、そう言って石和に手を差し伸べた。
「ちょっと、待ちなさい! 今、とても危険な状態なのよ! それが分からないの!?」
歩き出そうとする石和とリュナに、弧木が声を荒げた。
「ね、ね、皆‥‥こんな時位、仲良くしようよ?」
葛城が双方を宥めるが、リュナと石和は決意を変えず、弧木も医師としての責務を曲げない。玉田が、おろおろと成り行きを見守る。
水上は、ため息をつくと車を降り、揉めている現場へと面倒臭そうに歩いていった。そして、石和の腕を掴むと、強引に救急車へと引っ張っていった。
石和が抗議の声を上げる。
「いいから乗れ! ‥‥廃墟になっちまったとはいえ、式場や貸衣装屋にまだ使えるモンが残っているかもしれん」
石和の表情が歓喜に変わり、弧木は驚愕の声を上げた。
「何を考えているの!」
弧木は文句を言ったが、水上は聞く耳を持たなかった。
「すまねぇな。ちぃと予定が変わっちまった。援護は頼んだぜ!」
APCの上で成り行きを見守っていたベオに水上が言った。ベオがそれに答えて片手を上げる。
「すみません、ドクター。でも、どうしても譲れないんです」
「‥‥強情ね。分かったわ、ウェディングドレスを探せばいいんでしょ! その後は素直に病院に行くのよ!?」
悪態をつきながら応急処置の準備をする弧木に、石和は小さく礼を言った。
ドレスの探索は、困難を極めた。
灰色にくすむビル群。こじ開けられたシャッターに、割れたショウウィンドウ。一行は地上の探索を諦めて、地下街のショッピングモールへと足を踏み入れた。
かつては煌びやかに輝いた地下街も、今は暗黒の地下迷宮と化していた。
護衛のベオと、リュナと葛城の『自警団』の二人は、散弾銃を手にクリーチャーを薙ぎ払う。
「お邪魔虫は私たちが追っ払うんだよ。行くよ、みんな!」
スラッグ弾を撃ち放ちながら、葛城が突撃する。実生活とは逆に、戦闘では葛城が先行し、それをリュナがフォローするようだった。
ボロきれの様に吹っ飛ぶクリーチャー。葛城が大型動物猟用の単発弾を撃ちまくる。
「‥‥ごっつい弾、使ってんな」
ベオがあっけに取られて呟く。自分の10番ゲージが可愛く思えてきた。
「分けてあげようか?」
「いや、俺にはこっちの方が使いやすいし、なっ!」
言いながら、近づくクリーチャーたちに発砲する。通路を制圧するのには、散弾の方が都合が良かった。
クリーチャーが跋扈する地下ならば、あるいはドレスも残っているかもしれない。
そう思って探索したものの、結局ドレスを見つけることは出来なかった。
地下街を後にする一行。まだ、誰一人諦めてはいないものの、疲労の色は濃くなっていた。
「‥‥ここは‥‥」
ふと石和が周囲の風景に反応した。どこか懐かしそうに、横道に入っていく。
「この先には教会があったんです。ほら、あの建物がよく披露宴会場に使われて、花嫁さんがこの道を通るんです。彼女は、それを眺めているだけでも、本当に幸せそうな顔をして‥‥」
そこで石和の言葉が止まった。
視線の先には、奇跡的に無傷で佇む一軒の教会。雲の隙間から、日の光が静かに降り注いでいた。
誘われるように歩み寄り、扉を開ける石和。日の光に満ちた祭壇を、さらに奥へと進む。
そこに、主を失った純白のウェディングドレスが、日の光を受けて輝いていた。
「‥‥そう‥‥あの日に見たドレスもこんな風に真っ白で‥‥ああ、これなら、きっとあいつによく似合う‥‥」
眩しそうに、ほう、とため息をついて‥‥石和は、ゆっくりと床に倒れこんだ。
「石和君!?」
後からついて来た弧木が石和に駆け寄る。すぐに水上が石和を担ぎ上げ、教会の外へと走り出した。
教会の扉から出たとき、救急車の留守番に残してきた玉田が、救急車を駆って教会前に乗りつけた。
「いいタイミングだぞ、玉田!」
褒める水上に、玉田が切羽詰まって言う。
「それどころじゃないです! めちゃくちゃな数のクリーチャーがこっちに向かってるんですよ!」
報告を受け、一行は装甲救急車とAPCを盾に教会に立て籠もった。
多数のクリーチャーを相手に、リュナと葛城とベオたちが必死で戦線を支えていた。救急隊員の水上や玉田までもが銃を手に奮戦する。
そして弧木は、教会の一室で石和の治療を懸命に行っていた。
「‥‥ドクター。貴女たちが僕を探しに来た、ということは‥‥誰か僕がいなくなった事に気付いたんですか?」
「今度、結婚するっていう貴方の彼女だった人よ」
治療を続けながら、弧木が答える。今まで感染者の治療に人生を捧げてきた自分からすれば、貴方たちは羨ましい限りだ、と。
「ドクターは僕が怖くないですか? いつ化け物になるか知れない僕が」
そんなの日常茶飯事だから。そう答える弧木の顔が切羽詰まったものになっていく。けれど、もう視線も定まらない石和は気付かない。
「‥‥僕は怖いですよ。いつか誰かを傷つけてしまうんじゃないか、って。‥‥だから‥‥あのウェディングドレスは、貴女方から彼女に渡してもらえませんか」
おねがいします‥‥。そう言って、石和は意識を失った。
戦線は、クリーチャーたちに押し込まれていた。
「野郎!」
装弾中にクリーチャーに白兵距離まで詰め寄られたベオが、散弾銃の銃床で殴りかかる。しかし、渾身の一撃は、クリーチャーに片手で受け止められてしまった。
驚愕に目を見張るベオ。クリーチャーがニヤリと笑ったような気がした。
バズンッ!
そのクリーチャーの顔が吹っ飛んだ。ベオを鉤爪で引き裂こうととした寸前、リュナがスラッグ弾を撃ち込んだのだった。
「わりぃ」
「礼を言う暇があるなら引き金を引け!」
そのリュナの台詞が終わる前に、ベオは、リュナの背後に忍び寄るクリーチャーを散弾銃で吹き飛ばした。
「‥‥このままじゃ、みんなやられちゃうよ!」
葛城が叫ぶ。皆、奮戦していたものの、限界はすぐそこまで来ていた。
その時、ビルの向こうから、鮫島率いるウォールブレイカーが現れた。
迫撃砲弾が次々とクリーチャーの集団に降り注ぎ、重機関銃の弾幕が、クリーチャーを薙ぎ払っていった。
「掃討せよ」
算を乱して逃走するクリーチャーたち。鮫島はただそれだけを命令した。
鮫島は一行と合流すると、リュナと葛城にドレスをキャンプに届けるように命じた。
「必ず、彼女に届ける」
リュナがドレスをしまいながら、奥歯を噛みしめるように呟いた。
「助けてあげてよ! 絶対だよ! 助けてくれなきゃ、許さないんだから!」
走り出したサイドカーから、鮫島から受けた命令も忘れて葛城が叫ぶ。
「言われなくても助けるわ! 助けられないのは‥‥患者が死ぬのを見るのは、もう嫌なのよ!」
必死に治療を続ける葛城。しかし、意識を失った石和の身体はピクリとも反応しなかった。
こうなってしまっては、最早クリーチャー化は避けられない。薬で時間を引き延ばしているだけだ。
鮫島が弧木に歩み寄る。
「もう退がれ。汚れ役は俺の役目だ」
嫌よ、と弧木は叫んだ。だが、どうしようもないことは分かっていた。
「私はっ‥‥医者の私は‥‥! 救う為には、どうすればいいのよ‥‥誰か‥‥教えてっ‥‥!」
弧木のむせび泣く声が、夕日に染まる教会に響いた‥‥
数日後。ウエノ公園キャンプ。
純白のドレスを着た花嫁が、花婿に抱えられて仮設の教会から出てきた。祝福と歓声。幸せそうに笑う花嫁を、一行は遠くから眺めやった。
ドレスを渡す際、花嫁には、石和はそのまま入院した、と伝えた。真実を伝える事を、石和は望まないだろう。石和は、ただ彼女の幸せを願っていたのだから。
「‥‥。何とも遣り切れん話だな‥‥」
水上は、嘆息すると天を仰いだ。空を見つめ、ただ静かに青年の冥福を祈った。
皆にコーヒーを配り終えたリュナが、最後にベオの所へコーヒーを持ってきた。
「‥‥今回のことは、その、気にするな。ここじゃ、よく、あること、だ」
感極まったリュナが、両手にコーヒーを持ったまま、頭をトンとベオの胸に当てる。地面に、ぽたぽたと水滴が落ちた。
「リュナ‥‥?」
「すまない‥‥どうやら雨が降ってきたようだ‥‥」
突然のことに困惑するベオ。肩を震わせるリュナにひとしきり狼狽すると、ベオは右手をポンとリュナの頭に置いてやった。
お前たちのしている事は、所詮、壁の外の人間の偽善だと、そう鮫島は言った。
真にトウキョウの人々を助けたいのならば、我々と共に壁を砕け、と。
葛城は呟いた。私たちの未来の為に、必ず壁を壊してみせる、と。
(「だが、それは、クリーチャーを拡散させ、より多くの人を苦しめることになる」)
それが正しいとは思えない。かといって、トウキョウの人々を犠牲している現状が正しいとも思えない。
結局、どっちが正しいなんて事はない。世界は万華鏡みたいなもので、見る者によって一人一人違って映るものなのだろう。
「だから結局、俺たちは俺たちに出来る事をするしかないのさ」
大して面白くも無さそうに、水上が結論を出す。そのまま、つまらない事を言った、とばかりに、渋面でその場を後にした。
「私たちに、出来ること‥‥」
弧木が、小さく呟いた。
「今の私に出来る事‥‥」
考える。考えて、今出来る事なぞ、今までと何も変わらない事に気が付いた。それが嫌なら、出来る事を自分で増やしていくしかない。
弧木は顔を上げた。視線の先で、結婚式がクライマックスを迎えていた。
「‥‥石和君の‥‥あの人の想いが、どうか彼女に届きますように‥‥」
死者の為の祈りを終えると、弧木は立ち上がってキャンプを出た。
生者の為、弧木には、まだまだ為すべき事があるのだった。