七夕ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/07〜07/11
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●本文
──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体──
ドラマ『武装救急隊』は、そんな世界を舞台にしたオムニバスドラマです。
●ドラマ『武装救急隊 天上の星、地上の花』
この日、ウエノ公園キャンプに1本の笹が立った。
七夕が近いということで、NGOの職員が援助物資と一緒に持ってきたものだった。
大人たちが懐かしそうに笹を見上げ、子供達は何事かと走り寄る。子供達は、物珍しそうに笹を眺めると、笹を持ち込んだNGO職員に「これなあにー?」と尋ねて群がった。
「そうかー。みんな位の年だと『七夕』を知らないかー」
職員の顔が感傷に曇る。これまで、キャンプの人々には七夕を顧みる余裕などなかったのだ。
職員は、自分の背中によじ登る子供を抱え下ろすと、子供達を座らせて七夕のお話を語って聞かせた。
‥‥織姫と彦星が離れ離れにされた所まで話した時だった。子供達の一人が、「それじゃあ『お姉ちゃん』と一緒だね」と言って話を中断させた。
「『お姉ちゃん』?」
その子と同じプレハブで暮らしていたという若い女性の事だった。
恋人と一緒に暮らし始めた矢先にその恋人が『発病』し、『救急病院陣地』に搬送されてしまったそうだ。 幸い、その恋人は『クリーチャー化』の進行を止めることが出来たが、そのまま『入院』することとなった。女性は恋人に付き添う事を望んだが、病院は『安全上の問題』を理由に付き添いを認めなかった‥‥
「それで私の所に来た、というわけか」
翌日、職員は、『武装救急隊』に所属する顔見知りの医者の所に相談に来ていた。
今、一人では広すぎる部屋で塞ぎこんでいる、という女性が不憫でならなかったのだ。
「たかだか病人の付き添いですよ。何とかなりませんか?」
「難しいな。キャンプに暮らす人々は、すべからく『感染者』だ」
『感染者』には、安定期間もなく突発的にクリーチャー化する者もいる。もし病院内でクリーチャーが暴れれば、多大な、深刻な被害が出る事になるだろう。
たかが付き添い。それすらも認められない『感染者』。だからこそ、軍はトウキョウを『長城』で隔離したのだ‥‥
「一人くらい何とかなりません?」
「例外は認められない。一人に許可を出したら、入院患者全員に認めなければならなくなる」
両親と離れ離れにされ、夜中に一人で泣く入院患者の子供だっている。それもこれも、病院の安全の為だった。
「‥‥これを見て下さい。七夕まで預かってきました」
職員は、そう言うと、色とりどりの短冊を取り出した。
そこには、女性と恋人が、織姫と彦星のようにまた会えますように、という子供達の願いが書かれていた。
「もうすぐ七夕ですよ。付き添いはともかく、恋人たちを一目会わせるだけでも出来ませんか」
医者がばりばりと頭を掻いた。結局の所、自分も甘ちゃんだということか‥‥
「分かった。面会くらいなら何とかしよう」
とは言え、普通に申請しても許可が出ることは無い。制度自体を何とかするか、規則を破って何とかするか‥‥
「ありがとうございます!」
「他人事みたいに礼を言うな。お前にも働いてもらうからな」
医者の脳裏に、巻き込むべき人間の顔が次々とリストアップされていった‥‥
●出演者募集
以上がドラマ『武装救急隊 天上の星、地上の花』の冒頭部分になります。
このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。
以下のように多くの設定がありますが、ドラマの時間枠は限られています。
シーン数が多くなれば、それだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
設定の取捨選択をして『起承転結』(OPが『起』になります)に纏め、ドラマを完成させて下さい。
ただし、使われない設定も存在はしますので、それに反するプレイングには気をつけて下さい。
●設定
1.武装救急隊
隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。
2.装甲救急車
非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられます。
足回りが強化されており、不整地踏破能力もありますが、当然、患者が収容されたら無茶は出来ません。
ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能です。
3.装甲救急車の乗員
機関員(運転士)、救急隊員(サブ運転士を兼ねる)、医師(救急隊長を兼ねる)、看護師の4名。
乗員は固定というわけではなく、シフト制です。
4.護衛
武装救急隊に装甲救急車の護衛として雇われた傭兵たち。
APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、装甲救急車の脅威を排除する歩兵戦闘のプロたちです。
5.キャンプ
新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まる場。
しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
キャンプの人々は、半獣化状態で表現されます。
6.救急病院
隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた装甲救急車の目的地です。
危険な地域にある為、防御陣地の中に存在します。
新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもあります。
7.新型爆弾
現実にはありえない不思議爆弾。
劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。
8.クリーチャー
新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
既存の生物を戦闘に特化した存在です。
当然、人間も例外ではなく、『発病』するとクリーチャーになります。
人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現されます。
9.武装勢力『ウォールブレイカー』
外界への解放を求め、トウキョウ地区を完全隔離する壁『長城』の破壊を目指すグループ。
テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する自警組織でもあります。
●リプレイ本文
「さて、どうしたものか‥‥」
別たれた恋人たちの再会を頼まれた医師、大曽根(役:大曽根カノン(fa1431))は、病院内の自室で思案に耽っていた。
白衣のまま仮眠用の寝台に身を投げ出し、眼鏡を外して目元を揉む。
「‥‥やっぱり、その娘を救急患者と偽って病院内に入れるしかないかしら」
そうなると装甲救急車を用立てなければならず、必然的に巻き込む人数が増える事になる。大曽根は深くため息をついた。
自分でも厄介事に手を出しているな、と大曽根は思う。だが、治療法も見つからず、ただ病状の進行を遅らせる事しか出来ない自分に、大曽根は苛立ちを感じていた。今回の事にしても、自分たちが治療法を確立すれば、恋人たちは会いたい時に会い、共に人生を送ることも出来るだろうに‥‥
もっとも、そんな簡単に済む話ならば、トウキョウはこんな風にはなっていないのだが。
「‥‥結局、代償行為なのかしら‥‥」
大曽根が呟く。眼鏡を戻し、そのまま天井を見上げ続けた。
「本当ですか!? 彼女に、ティアにまた会えるのですか!?」
日の光に満ちた病室で、パジャマ姿の青年が飛び起きる。恋人をウエノ公園キャンプに残して入院した青年、ジョンジョル(役:ジョンジョル(fa3194))だった。
大曽根から今回の計画について聞かされた彼は、信じられないという風にその目を見開いた。
「隔離病棟からの外出許可を取ります。ジョンジョルさんは、病状も安定していますし大丈夫でしょう。もっとも、病院陣地から外に出れる訳ではありませんが‥‥その日に合わせて、ティアさんをこちらに連れてきます」
「ハハ‥‥。信じられない。ティアにまた会うことが出来るなんて」
顔を強ばらせたまま破願するジョンジョル。だが、すぐにその笑顔が曇った。
「‥‥でも、そのままティアまで入院する羽目にはならないですよね?」
会いたいが、その為に恋人が不幸になるのなら止めて欲しい。そうジョンジョルは言った。
「大丈夫よ。ティアさんは私が『入院の必要なし』と診断して送り返すから」
それを聞いてジョンジョルはホッと息をついた。
「‥‥いつ、私はティアに会えるのですか?」
その問いに、大曽根は悪戯っぽく笑った。
「7月7日、七夕ね。別たれた男女が再開を許される日よ」
武装救急隊、北東救急本部。7月7日──
地下駐車場へと続く廊下を、ベテラン機関員、水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))と、若手の救急隊員、天城 静真(役:天城 静真(fa2807))が歩いていた。
「全く‥‥どうしてこうやたらと厄介事に巻き込まれるんだろうな」
やれやれ、とぼやく水上。天城が励ますように言った。
「いいじゃないですか。別たれた恋人たちを再会させる。人助けだ」
この日、二人は非番だったのだが、大曽根に頼まれて(水上に言わせれば巻き込まれて)、ウエノ公園キャンプの少女を装甲救急車に乗せ、救急病院陣地へと運ぶことになっていた。
「‥‥そもそも規則が厳しすぎるんですよ。一切面会を認めないなどありえない。たとえ僅かでも、許可制にするなり、面会所を作るなりして、面会を認めるべきだ」
今回の一件がその契機になればいい、と静かに熱弁を振るう天城。天城は現実を見据えた理想家で、大曽根に最初に話を持ちかけられた際、どうしたものかと迷う水上を説き伏せたのも天城だった。
‥‥やがて、二人は地下駐車場へと到達した。
そこに、ローテーションから外れた非番の装甲救急車が、薄暗い照明の下に佇んでいた。
「‥‥任務でもないのにどこに行こうっていうんだ?」
その装甲救急車にもたれていた人影が、ゆらりと起きて二人に向き直った。
水上と同じく、ベテラン機関員の飛島竜弥(役:烈飛龍(fa0225))だった。
「分かっているよな? 勝手に『車』を動かすのは服務規定違反だぜ?」
そう言って二人を睨め付ける。天城が反論しようとすると、飛島は「若造は黙ってろ!」と一喝した。
水上が口を開いた。
「キャンプの娘は塞ぎ込んでいるらしいじゃないか。これ以上病人が増えても困るからな」
本音を見せず、軽口で答える水上。その胸倉を、飛島が掴み上げた。
「あのな、今この時にでも、この車を必要とする者がいるかもしれない。俺たちじゃなきゃ、助けられない命が出るかもしれない。‥‥お前たちも武装救急隊の一員なら分かっているだろう。なのに、安っぽいセンチメンタリズムでこいつに乗るつもりか? お前たちにはプロ意識がねえのか!」
睨みつける飛島を、表情を消した水上が静かに見つめている。
「‥‥俺はイヤなんだよ。助けられるはずの生命を、みすみす見殺しにしなきゃならないのは‥‥」
搾り出す様に、飛島が呟いた。
救急病院陣地。
天城から、装甲救急車の確保に失敗した、と連絡を受け、大曽根は天を仰いだ。
恋人との再会を楽しみにしていたジョンジョルは、計画の失敗を聞いてひどく落胆した。
せめて、隔離病棟外での自由時間を、という大曽根に、ジョンジョルはうなだれて首を横に振った。
「‥‥隔離病棟に戻ります」
彼女に会えないのならば、こんな所にいても意味は無い。とぼとぼと歩み去るジョンジョルを、大曽根はただ悲痛な顔で見送る事しか出来なかった。
‥‥数分後。ジョンジョルが病棟に戻らず、陣地を抜け出して姿をくらました、との報告を受け、大曽根は再び天を仰いだ。
どうやら始末書だけでは済まなくなったようだった。
同刻。武装救急隊、北東救急本部、地下駐車場──
警報が鳴り響き、救急病院陣地から抜け出したジョンジョルの保護要請がアナウンスされていた。
「バカ野郎が! 自分の立場を弁えやがれってんだ!」
ずっと水上と睨み合っていた飛島が、早まった真似をした青年に悪態をつく。すぐ横を、天城が救急車へと駆けて行った。
「‥‥任務になっちまったな。行ってこい。整備はしてある。行ってそのバカ野郎をとっとと連れ戻してこい!」
そう言って、飛島が水上を装甲救急車の方へ突き飛ばす。
「‥‥俺はここで待機している。何かあれば連絡をよこせ。‥‥軍よりも早く見つけるんだぞ。連中は処理を優先する」
飛島が立ち去る。その背中に、水上は声をかけた。
「命だけでなく、それ以外にも救われるべきものがあるんじゃないか‥‥最近、よくそんな事を考えるよ、俺は」
飛島の返事は無かった。
天城が水上を呼ぶ。水上は、救急車へと走っていった。
さらに同刻。ウエノ公園キャンプ。
報告を受け、キャンプの『自警団員』のリュナ・ルーク(役:葉月竜緒(fa1679))は、急いでジョンジョルの恋人、ティア(役:マリエッテ・ジーノ(fa3341))を訪れて、恋人が病院を抜け出した事を伝えた。
恋人との面会が駄目になって落ち込んでいたティアだったが、彼の『脱走』を聞くなり、慌ててどこかへ駆け出そうとした。
「待て待て待て! どこへ行くんだい!?」
ふらふらと出て行こうとするティアの腕を、リュナが慌てて掴んで引き止める。
「それとも、どこに行ったか心当たりがあるのか?」
「いえ‥‥。でも、私に会いに来るとするなら、真っ直ぐこちらに向かうと思います。彼、まっすぐな人だから‥‥」
可愛らしい声でそう答え、頬を染めるティア。リュナは半眼で聞き流すと、そのままティアを駐車場へと引っ張っていった。
そこには、救急車と合流するはずだった護衛のAPC(装甲兵員輸送車)が待機していた。
「よし、早く乗ってくれ!」
APCの上部ハッチから半身を出した傭兵のベオ(役:ベオウルフ(fa3425))が急かす。事情が分からずティアが怪訝そうな顔をして見せた。
「せっかく恋人が病院を抜け出したんだ。これを機会に会っておきたいだろう?」
リュナがニヤリと笑ってやると、ティアは身体をふるふると震わせ、笑顔で頷いた。
ティアはすぐにAPCに乗り込もうとして‥‥その動きをピタリと止めた。APCの中には、自動小銃を背負ったゴツい傭兵たちがひしめいていた。
笑顔で手を振る傭兵たち。ティアは涙目でリュナを振り返った。
「‥‥いや、見た目は怖くても気のいい奴らだからさ‥‥?」
リュナは自分のバイクに戻ろうとしたが、ティアは手を離さない。仕方なく、リュナは一緒に乗り込むことにした。
「これを嬢さんにやってくれ」
下りてきたベオが、耳栓をティアに渡すように言った。
「中央突破、だろ? 騒々しくなるからな」
そう言って、ベオは散弾銃のポンプをスライドさせた。
リュナも力強く頷いた。
「悲劇はもう沢山だ。今度こそ、ハッピーエンドで終わらせる!」
ティアに会いたい。
一度火がついた心を、ジョンジョルはどうにも出来なかった。
病院を抜け出したジョンジョルは、ティアの予測通り、真っ直ぐ、最短距離を行こうとした。だが、クリーチャーが跋扈するこのトウキョウを、軍の追跡をかわしながら進むのは容易ではなかった。
ある時は身を潜め、ある時は疾走し、追い掛け回され、痛めつけられ‥‥やがてジョンジョルは力尽きてしまった。
荒い息をつきながら、地面に仰向けに転がるジョンジョル。夕闇迫る夜空には、一筋に連なる天の川‥‥
織姫と彦星の物語を思い出し、自然と涙が零れ出た。
遠くから、車のヘッドライトが近づいてくる。どうやら自分の旅路もここまでのようだった‥‥
車は徐々に近づいて、やがてジョンジョルの横で停まった。それは装甲救急車だった。
運転席の水上が、ジョンジョルを見下ろしながら、無感動に言った。
「一人で何処へ行くつもりだ? 外は危険に満ちているというのに。まあ、とりあえず車に乗りな」
助手席の天城が降りてきて、手際よくジョンジョルをベッドに寝かした。抵抗する体力は、ジョンジョルにはもう無かった。
すぐに救急車は出発した。だが、ジョンジョルは、すぐに病院に向かうコースではないことに気がついた。
その事を尋ねると、水上は振り返りもせずに言った。
「ん‥‥? おかしいな、道に迷ったらしい」
棒読みだった。顔を背けた天城の口が笑った。
‥‥やがて、救急車は、都内に流れるある川の、とある橋の袂で足を止めた。
橋の向こうにはAPC。中央には、星空を背に佇むティアの姿があった。
「ティア!」
「‥‥ジョンジョル!」
互いに気がついた二人が走り寄る。ジョンジョルはヨレヨレになりながらも、飛び込んできたティアをしっかりと抱きとめた。
「ジョンジョル、やっと‥‥やっと会えた!」
「ティア‥‥ああ、ティア、これは夢じゃないんだね」
満天の星と、それを鏡のように映す川の水面。橋の中央で抱き合う恋人たち。
「‥‥どうやら彦星は織姫と無事に会えたようだな」
救急車の運転席で、水上が一人、呟いた。
恋人たちを眺めながら、APCの上でリュナが、同じくAPCの上で周囲を警戒するベオに語りかけた。
「結局、あたしたちは、キャンプの七夕祭りには参加できなかったな‥‥。ベオは短冊に何を書いたんだ?」
忙しくて書く暇などなかった、そう答えるベオに、リュナは、「気合いが足りないなぁ。忙しくてもあたしは二枚も書いたのに」と言ってやった。
「一枚目は、『いつか皆平和に暮らせるようになりますように』かな。もう一枚は‥‥あー、内緒だ、うん」
珍しく歯切れの悪いリュナを、ベオは怪訝そうに見やった。
真っ赤に赤面したリュナの顔を、闇の帳が隠していた。
恋人たちの抱擁、そして愛の語らいは、いつ果てるともなく続くと思われたが、やがて終わりの時が訪れた。
静寂を破り、空から響いてくる爆音。探索する軍のスカウトヘリだった。サーチライトが天の川を引き裂き、やがて橋の上の恋人たちを捉えた。
「もう少し、気を利かせろよ‥‥」
周辺の警戒に当たっていた天城が戻ってきて、舌打ちしながら上空のヘリと交信を開く。
「救急病院陣地を抜け出した青年は、武装救急隊が発見、これを保護せり。攻撃の必要は認めず。繰り返す‥‥」
リュナがすぐに駆け寄って来て、ティアをサーチライトの外に連れ出した。名残惜しそうに手を伸ばすティアを、ジョンジョルは静かに見送った。
入れ替わるようにしてベオがやって来て、ジョンジョルを一発、ぶん殴った。堪らず倒れたジョンジョルに、そのまま胸倉を掴んで言ってやる。
「いくら彼女に会いたいからってな、病人が無茶をして外に出て‥‥何かあったらどうするつもりだ! 彼女を悲しませる結果になっても良かったってのか! ‥‥先に死なれちゃあなあ、残された方はたまんねぇんだよ‥‥!」
そう言って、上空のヘリを睨みつける。ジョンジョルに照準された機関砲は、火を吹くことはなかった。
かくして、今回の騒動は幕を下ろした。
ジョンジョルは病院に連れ戻され、ティアもキャンプへと戻った。相変わらず入院患者との面会は認められず、結局、騒動の前と何一つ変わってはいなかった。
今回、騒動に関わった人間には、それぞれに減俸、異動などの処分が下された。それでも、恋人たちから感謝の手紙が送られてくると、自分たちのやった事は無駄ではなかったと、そう思えるのだった。
「‥‥ったく、今回みたいな事は、二度と御免だぜ」
武装救急隊員の詰所で、そうボヤく水上の口調と表情もどこか明るい。
「まったくだ。二度と御免だ」
飛島の悪態に、天城がちらと二人を見やる。視線を合わせ、不敵な笑みを交わす飛島と水上。結局、これがいつもの二人の距離感なのだろう。
その時、詰所の扉が開いて一人の女性が入ってきた。
「今回の件に際し、病院内研究室を追い出され、武装救急隊付け医師に転属となりました大曽根です。今後ともよろしく」