クルトの戦記 旅情編アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/15〜07/19
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●本文
かくして、18歳の私は故郷のグライブ山地を離れ、旅立った。
幼き少年の日。私にとって『世界』とは、自分と家族の暮らす家と、狩場である森や山と、同族である『山の民』の集落と、そんなところがせいぜいだった。
世捨て人の魔術師に出会い、色々な事を学び取って、私の世界は少し広がった。私は、山の下にも広大な世界がある事を知ったが、所詮、本で得た知識に過ぎなかった。
実際に足を踏み入れ、その目で見た世界は、私の想像以上に大きかった。
──老クルト・エルスハイム、自らの人生を振り返りて記す──
私はまず、川沿いに歩を進めて、川下の村『ハイン』を目指した。
ハインは『山の民』の生活圏の外縁部にあり、めったな事で山を下りない『山の民』にとっては『世界の果て』と言ってもよかった。人口比率は『山の民』と『平原の民』がほぼ同数。『平原の民』にとってはグライブ山地への入り口に当たり、『山』と『平原』との間で細々と行われている交易の、唯一の窓口だった。
ハインまでの道行きで、私は顔見知りの行商人と出会い、道中を共にすることになった。行商人は道すがら、『平原の民』やその『王国』について色々と語ってくれた。私は、先生から色々な事を教わり、『平原』についても様々な知識を得てきたが、やはり世俗的な事にはうとかった。例えば、『平原』では貨幣制度が存在する事は知っていても、実際の物価についてはわからない、といった具合だった。なので、行商人の気遣いはありがたかった。
ハインに着くとすぐ、私は船着場に行って情報を収集した。私の旅立ちには目的があり、その為にそうする必要があったのだ。
ハインは、『平原の民』と『山の民』が共に暮らす稀有な村であったが、実際には住み分けが行われていた。『山の民』は森が近い丘の上に家を建て、狩りや小さな畑を耕して暮らし、『平原の民』は平地に家を建て、大きな畑を耕し、市を立てて暮らしていた。
船着場は、『平原の民』の住む地域にあった。私は一日かけて付近の人々に話しを聞いて回ったが、結果は芳しくなかった。
私は落胆し、行商人の待つ宿へと戻った。
翌日、私は行商人に、旅が長くなるようならば貨幣を持つように勧められた。
これまでの道中、私は、必要な分だけ獲物を取り、捌いて食する生活を続けてきた。貨幣など無くても困らなかったが、行商人には「王国を、平原の民の国を旅するなら貨幣のやり取りは知っていた方がいい」と忠告され、従った。
私は、まず広場に立った市場を一巡りして、適当な店に取って来た獲物を売ってみた。店主は獲物に目を通し、秤に掛けると値段を口にした。私は交渉を打ち切ると、他の店に同じ獲物を売りに出した。値段は先ほどの店とほとんど変わらなかった。私は獲物を売り、生まれて初めて貨幣というものを手にしたのだった。
特に欲しい物は無かったが、私は何か買ってみる事にした。市を見て回ると、ある店に女性向けの髪飾りが売っていた。私は店主に髪飾りを二つ注文すると、今得たばかりの銀貨を支払った。
店主は、品物とお釣りの銅貨を無造作に渡した。渡された釣り銭は少なかった。私がそれを指摘すると、『平原の民』の店主は驚いて目を見開いた。恐らく、学もなく数字に無頓着な『山の民』から釣り銭をちょろまかすつもりだったのだろう。
店主はいきり立って私に詰め寄ってきた。素直に釣りを渡せばいいものを、と思っていると、周囲から人相の悪い男たちが数人、こちらにやってきた。
‥‥どうやら、性質の悪い連中に当たってしまったようだった。
●声の出演及びスタッフ募集
以上が、アニメ『クルトの戦記 旅情編』の冒頭部分となります。
このアニメの製作に当たり、スタッフと出演者を募集します。
●アニメ『クルトの戦記』
『クルトの戦記』は、ファンタジー世界を舞台にしたアニメです。
山岳部族『山の民』の出身でありながら、爵位を持つ貴族にまで上り詰めた英雄クルトの一代記です。
主人公クルトの人生を彩るキャラクターを作成し、クルトにどのように関わるのかプレイングに記述して下さい。
そのプレイングで、クルトが歩む人生が決まります。
今回は、『クルトが旅の最初の村ハインで得るもの』を軸に、キャラクターとその設定を募集します。
●設定
1.世界観
いわゆる普通の(?)、機械や銃などが登場しない剣と魔法のファンタジー世界です。
魔法についても、極めれば神にも等しい力を行使できますが、そういった人は世界にも稀です。
ちょっと便利な人、程度の魔術師は珍しい存在ではありません。
2.『山の民』
王国東部の山岳地帯に住む少数民族です。家族、部族単位で生活しています。
王国に暮らす『平原の民』(ファンタジー世界に住む一般的な人間)よりも、頭一つ分大柄で頑健です。
野蛮人と見られがちで、山の下では差別と偏見に晒されていますが、実際は素朴な人々です。
『山の民』は『平原の民』より寿命が短く、その為に同族の女性を大切にします。
『平原の民』の魔法は使えませんが、極稀に精霊の加護を得る者もいるようです。
3.劇中舞台『ハイン』
本文参照です。
●シナリオ外設定
今回のシナリオとは直接の関係は無い、シリーズの設定です。
・『王国』
18年前、平原に割拠する小国のことごとくを平らげ、平定した『剣王』が建てた国。
英雄『剣王』も歳を取り、強力な魔術師である宰相が国を思うがままに動かしています。
最近、『剣王』の孫である姫君の姿を、王宮で見かけなくなりました。(少年編)
●リプレイ本文
●シナリオOPより前の冒頭
抜けるような青い空と流れ行く白い雲。それを背景に、雪を冠したクラーベ山脈。
クルトの故郷、クライブ山地。その山の中腹に、主を亡くした小さな庵はあった。クルトの師、魔術師ガンジスの庵だった。
その庵を前に立つ一人の青年がいた。闇色の長い髪、額には飾り気の無いサークレット。全身にローブを纏った20代半ばのその青年は、名をセイラム(CV:相沢 セナ(fa2478))といった。魔術師ガンジスの一番弟子だった青年だ。
「‥‥やはり、貴方は亡くなられていたのですね‥‥」
墓標のようにそびえる庵に向かって、悼むようにセイラムが呟く。死者への祈りを捧げると、背後の人影へと振り返った。行商人アストル(CV:藤井 和泉(fa3786))が、すっかり旅支度を終えて立っていた。
「貴方が庵の片づけをして下さったのですか?」
セイラムがアストルに尋ねる。先ほど覗いた庵の中は、綺麗に片付けられていた。
「僕じゃないよ。遺品等を整理したのはクルト君だ」
アストルの答えを聞いてセイラムは、昔、度々庵に出入しては師匠に読み書きを習っていた山の民の少年がいた事を思い出した。
「クルト‥‥? あの時の少年が‥‥。そうですか、大きくなったでしょうね」
「そりゃあね。山の民だし。でも、大きくなったのは身体ばかりじゃないよ」
アストルは、クルトが旅立つ事になった騒動の顛末を語って聞かせた。
「そうですか‥‥。クルト‥‥一度、会いに行ってみましょうか」
そう言うとセイラムは、地面に複雑な紋様を描き出した。瞬間移動用の魔法陣だった。
「貴方はさすがに行商人ですね。話を面白おかしく語る事に慣れている。それでいて伝えるべき事は端的で的確。随分と報告慣れしているようだ。‥‥以前、どこかで貴方をお見かけしたような気がしますよ。例えば王宮とか」
魔方陣を描きながら、視線も上げずにセイラムが言う。アストルは、「あの師にしてこの弟子あり、か」と心中で呟いた。
「さあ? 僕は只の行商人でクルト君の協力者‥‥それでいいんじゃないかな?」
その返答に納得したのかしないのか、セイラムは立ち上がってアストルに向かい合った。
「ハインの村まで行くのなら、『転移』の魔法でお送りしますが」
「僕はいいよ。ハインには入らないつもりなんだ」
「では、そちらのお嬢さんはどうしますか?」
セイラムが、二人から少し離れた場所に声をかけた。
木の柵に腰掛けて草原を眺めるその少女は、異国の装束に身を包んだ行商人、メリッサ(CV:姫乃 舞(fa0634))だった。
声をかけられ、メリッサがゆるりとセイラムを向く。緑の草原を風が渡り、草が銀色の波となってざわめいた。
「ハイン、ですか‥‥。あの村は変わらないですね。ずっと、あのような平和が続くと良いのですが‥‥」
それだけを言って、再び草原に向き直るメリッサ。どこか悲しそうに、小さく歌を歌い始めた‥‥
●シナリオOPを挟んだ後、本編
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」
クルトが市場でゴロツキに絡まれて困惑していると、それを見かねた花屋の少女(CV:豊田そあら(fa3863))が間に入ってきた。
それをゴロツキの一人が、引っ込んでろ! と突き飛ばす。少女は露店に突っ込んで、盛大にひっくり返った。黒髪の女性(CV:大曽根カノン(fa1431))が悲鳴を上げ、慌てて少女に駆け寄っていく。
それを見て、クルトがそのゴロツキを殴り飛ばすと、頭に血が昇ったゴロツキたちが短剣を抜いた。野次馬たちから悲鳴が上がった。
その時、クルトの頭の横を、何か巨大な物が唸りをあげて通り過ぎて行った。
驚いて振り返ると、先ほどの花屋の少女が自分の身体ほどもある巨大な木箱を、ゴロツキたちに次々と投げつけていた。
「もぉ、あったまきたぁー!」
ゴロツキたちが木箱を避けて右往左往する。射線上にいるクルトも慌てて身を仰け反らせた。
「そこまでになさい!」
その瞬間、若い娘の声が場を制した。
野次馬たちが道を開け、奥から15、6歳位の平原の民の少女(CV:咲夜(fa2997))が、山の民の剣士(CV:烈飛龍(fa0225))を従えてやって来た。
「何だてめぇ!」
「待て、あの男、ブランだ」
凄みかけたゴロツキたちが、少女の背後の剣士に気付く。剣士は山の民にしても大柄な髭面の男で、身体中に走る傷跡が歴戦の戦士であることを表していた。
ゴロツキたちが慌てて逃げ散る。だがすぐに、少女が配していた役人に次々と取り押さえられていった。
黒髪の女性が少女に向かって頭を下げる。少女は小さく頷き、クルトへと視線を向けた。
「あなたは逃げないのですね」
少女に問われ、逃げる理由が有りませんから、とクルトは答えた。花屋の少女がクルトを庇おうとするのを、その少女は目で制した。
「カイツの息子クルトと申します。故あって旅をしております」
少女は、山の民らしからぬ物言いをするクルトに目を瞬かせた。クルトは、自分が平原の民の魔術師に師事していた事を告げた。
「お粗末な騒動に巻き込まれたものですわね。ついていらっしゃい。事情は館で聞きます」
そう言って、少女はくるりと身を翻した。
後には、ブランと呼ばれた山の民の剣士が残った。
ブランがクルトの正面に立つ。緊張するクルトに、ブランは力を抜いてフッと笑った。
「まさか、こんな所でカイツの息子に出会うとはな。あのカイツの息子が図体だけはこんなに大きくなって‥‥俺も老いぼれるわけだ」
クルトは驚いて、父を知っているのですか、と尋ねた。
「戦友だよ」
ブランはそう言って、クルトの頭をくしゃくしゃと撫で回した。
少女はライアと名乗った。このハインの周辺一帯を治めるハインツ家の一人娘だという話だった。
ライアは、館にクルトを連れてくると、無造作に応接室に通してしまった。何処の者とも知れぬ相手に破格の待遇だった。
「ライア、何事です。こちらの方は?」
応接室に30代半ば過ぎの女性(CV:都路帆乃香(fa1013))が入ってきた。若く美しい婦人だったが、慎重に表情を消してクルトを値踏みしているのが見てとれた。ライアが、母親で領主婦人のステラだと、クルトに紹介した。
「お母様。こちら、クルト殿。旅の途中でハインに立ち寄られたそうよ。魔術師のお弟子さんなんですって」
「山の民‥‥魔術師‥‥まさか、貴方の師というのは‥‥」
一瞬、ステラの顔に驚愕の表情が浮かんだ。ステラはソファに腰を下ろすと、クルトに詳しく事情を話すように促した。
クルトは、魔術師ガンジスに師事する経緯と、旅に出るきっかけになった事件の顛末について話した。話を聞き終えるとステラは何やら考え込んでいたが、やがてクルトに向かってこう言った。
「わかりました。その少年については私も情報を集めてみましょう。クルト殿には、それまでこの館でごゆるりとくつろがれよ」
慌ててクルトは固辞したが、横からライアもこう口を挟んだ。
「闇雲に行動してもどうにもならないでしょう。それに、山出しのままでは、今後も今回のような事が起きかねませんわよ? しばらくこの町に逗留して、平原の常識について学ばれたらどうかしら? きっとあなたの為にもなりますわ」
こうしてクルトは、ハインツ家の客人となった。
館で所在無げにしていると、ブランが剣の稽古をつけてやると言って、クルトを中庭に連れ出した。
「‥‥おいおい、この程度の腕前で王国を渡って行こうって言うのか? 間違いなく、死ぬぞ」
剣を合わせる以前に、剣の扱い方も知らないクルトを見て、ブランはため息をついた。
クルトは、かつて対峙した剣士の実力を思い出し、ブランに戦い方を、人間を相手にする方法を教えてくれるように頼んだ。
「カイツの息子の頼みだし、構わんが‥‥俺の教育は厳しいぜ? まあ、ついてこれんようなら、山に帰って一生閉じこもっていた方がいいかもしれんが」
クルトは是非に、とブランに頼んだ。厳しい教育には慣れていた。
館に剣戟の音が響く。
中庭では、大剣を持った二人の山の民が稽古に明け暮れていた。
ブランは、クルトに大剣を教える事にした。山の民の身体能力を活かした戦法が取れるからだった。
「剣のスピードを重視しろ。力を入れればいいってモンじゃない。バランスだ。大剣をこれだけ速くぶん回せるのは山の民だけだぞ!」
あれから一週間が経過していた。
芳しい情報は未だ届かない。
その日、クルトは、ハインの村の市場に顔を出していた。あの日の事件以来、館を出るのは初めてだった。
クルトは、荷物を両手に抱えて歩く花屋の少女を見つけると、声をかけた。
「あ、あの時の!」
花屋の少女が素っ頓狂な声を上げる。クルトは、騒動に巻き込んでしまった事を詫びた。
「気にしないでよ。こっちから首突っ込んだようなものだし。あ、私、リタの娘シルヴィア。よろしく!」
シルヴィアは、手を差し出そうとして両手が塞がっている事に気がついた。クルトは荷を半分受け取って、そのまま露店まで荷物を運ぶのを手伝う。
その道すがら、クルトは、自分が山を出て旅を始めたばかりであることを話した。
「旅かぁ。いいなぁ。私も広い世界を見て回りたいなぁ‥‥」
シルヴィアはうらやましそうにため息をついた。
「でも、クルトは世慣れてなさそで危なっかしいね。‥‥買い物の仕方くらい覚えておいた方がいいよ?」
そう言うとシルヴィアは、クルトをある露店へと引っ張っていった。
「カナン、いる〜?」
呼ばれて、カナンと呼ばれた黒髪の女性が顔を出した。シルヴィアは、カナンに事情を説明し、二人でクルトに買い物の常識とコツを教えて上げよう、と言った。
「それはいいけど‥‥仕事の方はいいの?」
カナンがシルヴィアの露店を指差す。何人かの客が待っている様だった。
「いっけない。それじゃ、クルト、また会おうね〜♪」
手を振りながら去るシルヴィア。それを見てカナンが苦笑した。
「‥‥さて、それでは私が買い物の仕方を一から教えて差し上げます」
コホン、とおどけて偉そうな咳払いをするカナン。クルトが礼を言って頭を下げると、カナンは同族なのですから気になさらないで下さい、と笑った。
「店を構えている商人はともかく、こういった露店では怪しげな人物もいたりします。まずは話して為人を確認して下さい。もっとも、相手も商売人ですから‥‥」
カナンの講義は夕方まで続いた。
講義を終え、知恵熱を出す勢いのクルトに、ご苦労様でした、とカナンが笑顔でよく熟れた果物を一つサービスしてくれた。
館へ帰り道、果物を眺める自分の頬が緩んでいることに、クルトは気がついた。損して得を取る。なるほど、カナンは優秀な商売人だ。
そこへ唐突にメリッサが現れた。クルトの笑顔が吹っ飛んだ。
「貴方は、もうすぐこのハインを旅立つ事になります。そこから先は山の民の常識が通じない世界‥‥。もう引き返す事も出来ないでしょう。クルトさん。あなたは本当に、今までの自分を捨ててしまう覚悟がおありですか?」
貴方には、山で幸せに暮らす運命もあるのです、とメリッサは言った。
クルトの決意は揺るがなかった。
メリッサは悲しそうに頷くと、懐から一通の手紙を取り出した。
「ここにアストルからの手紙が有ります。これによれば、あの少年──シンの手がかりは未だ見つかりません。ただ、同じ時期、剣王の孫の姫君の姿を王宮で見なくなったという話があります」
そこまで言うと、メリッサは手を振った。手紙が燃え上がり、一瞬で灰になる。
「あと、これは貴方の兄弟子、セイラムからの預かり者です。『今は決して開けてはならない』そうですよ」
懐かしい名を聞いて驚くクルトに、メリッサはある不思議な小袋を手渡した。
「セイラムから伝言です。『生きるという事、それこそが学びである。心向くままにお行きなさい』と」
立ち尽くすクルト。気がつくと、声だけを残してメリッサの姿はハインの路地から消えていた‥‥
数日後、クルトは旅立ちの時を迎えていた。
少年シンの行方はいっこうに掴めなかった。だが、その事がある程度の推論を与えてくれた。
「ここより下流のルインの町でも、手がかりは有りませんでした。上陸していれば、何らかの情報があるはずです」
ステラが言う。ルインで上陸していないということは、王都に向かったのではないという事を意味していた。
「さらに下流、王国西部へ向かったという事か」
西部は遠く、ハインでは中々情報が得られない。クルトは直接赴く事にした。
出発の日、ブランはクルトに愛用の大剣を餞別に渡した。
「行くが良い。そして、己が目的をきちんと果たしてこい」
そう言って、ブランはクルトの頭をわしゃわしゃと撫で回した。
ライアは、クルトに旅費として金貨の入った小袋を進呈した。
大金だった。驚いて返そうとするクルトに向かって、ライアは言った。
「別にただ差し上げる訳ではありません。あなたが目的を達した際には十分な利子を付けて返して下さることを信じての、いわば、投資ですわ。それくらいは期待させて貰っても良いでしょう?」
クルトは言葉を失い、ただただ黙って頭を下げた。
クルトがハインを出発した。
遠くの地にてそれを伝え聞いたアストルは、ただ、西か、とだけ呟いた。
荒野を風が渡る。情勢は、益々きな臭くなってきた。鍵を握るのは、無名の若者二人なのかもしれない。
「魔術師の二人の弟子、か‥‥彼らは何を見て、どんな道を歩むんだろうね?」
アストルの独白に風は答えない。
アストルはフードを引き下ろすと、再び荒野を一人歩き始めた‥‥