バレンタインドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/14〜02/20

●本文

 20XX年 2月14日──
 『僕』たちは、地獄にいた──

 市街地での戦闘は、『僕』たちの故郷を瓦礫の山へと変えた。
 毎日、嫌々ながら通ったかつての母校も、入り浸っていた本屋のある駅ビルも、もう原形を留めていない。
 廃墟に人々の営みは消えて久しく、ただ弾除けとしての価値を見出した者たち── 『僕』たち、兵隊だけが、そこにへばり付いていた。
 目に入る光景は無彩色。暗く重い曇天の下、崩れかけたビルのコンクリートと、ヒビ割れたアスファルトだけが佇んでいる。血と炎の赤だけが、この灰色の世界に極彩色の華を咲かせていた。
 一年前、『僕』は美大に通う平凡な一学生だった。それが否応無く状況に飲み込まれ、一兵士として故郷を戦場にしている。
 かつて、繊細な細工物を生み出したこの指先も、今ではただ引き金を引くだけ。
 人殺しも、板についてきた。

「ねえ、今日って、バレンタインデーなんだよ。知ってた?」
 食事中。冷めたレーションを胃に流し込んでいると、同じ分隊の『彼女』が近づいてきた。
「今年はこんなんだから、チョコレート、あげれそうにないや。毎年あげてたのにね。あはは‥‥」
 『僕』と『彼女』はいわゆる幼馴染というやつだった。小学校から高校までずっと同じ。大学だけは違ったが、こうして配属先の分隊まで一緒になると、腐れ縁としか言いようがない。
 『彼女』は隣に腰を下ろすと、ボソリとつぶやいた。
「‥‥ねぇ、高校三年のバレンタインデーのこと、憶えてる‥‥かな?」
 よく憶えていた。あれは『僕』が美大に進学する事が決まり、初めて別々の道を進むことになる年だった。いつもは気軽にチョコを渡す『彼女』が、その年はわざわざ『僕』を公園まで呼び出したのだった。
 ‥‥結局あの時は、チョコの受け渡しはしたものの、お互い無言で公園のベンチに一時間以上座り続けただけで、何の進展もなかった‥‥
「‥‥いや、憶えてないな」
「ふーん、そう?」
 何となく気恥ずかしくなって嘘をついてみたが、『彼女』には見透かされているようだった。
 実のところ、『僕』の胸ポケットには、今日、彼女に渡す為に自作した指輪がしまってあった。鉄条網の鉄線でこしらえた粗末な指輪だったが、今の自分に用意できる精一杯だった。
 だが、結局、それを渡すことはできなくなった。
「第二小隊、集合しろ。急げ!」
 膠着していた戦況が動き出したのだ。

「上流の本隊が敗退、橋を敵に確保された」
 『小隊長』の言葉に皆がざわめく。それは、敵の重火器が川のこちら側に展開する事を意味するからだ。
「間もなく、敵の戦車と随伴歩兵が国道をこちらに進撃してくるだろう。
 我々への命令は、本隊が再編するまでの遅滞防御──要するに、時間稼ぎだ。
 なお、砲撃、空爆等の支援は期待できない」
 皆のざわめきが大きくなる。死ねと言われているのに等しい。完全な捨て駒だった。
「状況は厳しいが、我々が稼ぐ一分一秒が味方の勝利に直結すると思え。奮闘を期待する。配置につけ!」


●PL情報
 以上が、ドラマ「戦場のバレンタインデー」の冒頭部分となります。
 このドラマの製作にあたり、出演者を募集します。
 『僕』役と『彼女』役(必須)の他に、『小隊長』役や『同じ分隊の兵隊たち』役も募集します。
 PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
 PC(キャラクター)がそれを演じることになります。

1.目的
 冒頭部分で触れられた設定を使って、『悲劇』を完成させてください。
 皆で協力して、ドラマを作る事が目的です。

2.ドラマ制作の制約
 劇中では必ず、以下の三つの設定を使用してください。
  a.『手作りの指輪』
  b.『思い出の公園』
  c.『バレンタインデー』
 
3.その他の注意点
 ドラマ世界の詳細は明らかにされません。何故、誰と戦っているのか、劇中で描写される事はありません。
 また、時代設定が20XX年となっていますが、戦闘描写は現代陸戦とします。パワードスーツや光学迷彩等のSF的な装備はドラマに登場しません。

●今回の参加者

 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa0631 暁 蓮華(20歳・♀・トカゲ)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0755 エミュア(18歳・♀・狼)
 fa2429 ザジ・ザ・レティクル(13歳・♀・鴉)
 fa2582 名無しの演技者(19歳・♂・蝙蝠)
 fa2724 (21歳・♀・狸)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

「敵戦力は強大だ! だが、こっちには地の利がある! 武器弾薬も腐るほどある!」
 集合した皆を前にして、小隊長の緑川安則(名無しの演技者(fa2582))は声を張り上げた。
 任官したばかりの若者だが、徴募兵を中心に編成されたこの部隊では数少ない正規兵の一人だった。
「後退は出来ない。死にたくなければ徹底的にやれ!」
「了解! 奴ら、ぶっ潰してやりますよ!」
 通信兵のジム(ディノ・ストラーダ(fa0588)『僕』=ジム役)が声をあげた。
「よし。クレイモア(対人指向性散弾地雷)の準備にかかれ。まずは戦車から随伴歩兵をひっぺがすぞ!」
 意気揚々と準備に散っていく第二小隊の36名。
 その背中を見つめながら、緑川は小さくひとつ、ため息をついた。

 戦闘が始まるまで僅かな時間に、ゆか(湯ノ花 ゆくる(fa0640)『彼女』=ゆか役)は出来るだけのことをすることにした。
 目の前にはトレイに乗った一枚のチョコレート。ゆかは気合を入れると、ナイフを手に取り、チョコをハート型に削っていく。
「おっ、こんな時でもジムに渡すチョコ作りか。隅に置けないね」
 同じ分隊のシズマ(天城 静真(fa2807))がゆかの頭をポンポンと叩いた。背が低さと童顔を気にしているゆかは、不機嫌そうにシズマを見上げた。
「‥‥みんなには内緒ですよ?」
 ゆかに睨まれたシズマが「おおコワッ」とおどける。そして、からかうように「口止め料は高いぜ?」と笑みを浮かべて見せた。
 途端にゆかの顔が不安そうになる。それを内心で面白がりながら、シズマは考えるふりを続けた。
「そうだな‥‥二人の式に呼んでもらうってことでどうだ?」
 ゆかの顔が今度は真っ赤になった。まったく、見ていて飽きさせない。

 同じ頃、ジムの元に、衛生兵のエミィ(エミュア(fa0755))がやってきた。
 かつて音大に通っていたエミィは、ジムと似たような境遇ではあった。
「とんだバレンタインになっちゃったね。ゆかちゃんとは配置も違うし、ジム君、心配でしょ?」
 どうやらまた、ゆかとの事でからかいに来たらしい。ジムはなおざりに返事をした。
「また、そんな‥‥。ジム君、ゆかちゃんに、ちゃんと想いを伝えたことあるの?」
 エミィは言いたい事だけ言うと、「仕事、仕事」と立ち去っていった。
 憮然とするジムの横を、狙撃兵のザジ(ザジ・ザ・レティクル(fa2429))が足音も立てずに通り過ぎた。
 ザジは熟練した狙撃兵だった。左頬に傷跡があり眼光も鋭いが、意外と若いような気もする。自分の事をあまり話したがらず、素性はよく知れない。
「‥‥おい」
 ジムに視線も向けず、くぐもった声でザジが呟いた。
「あの女、ゆか、といったか‥‥。大事にしてやるんだな。一人になんてするんじゃないぞ」
 淡々とした声でそれだけ言うと、ジムの返事も待たずに去っていく。
 呆然と見送るジム。それを、少し離れたところからエリス(結(fa2724))が見ていた。
 エリスは最近、分隊に配属された補充兵だった。人見知りをする性質で、まだあまり分隊の面々と馴染めずにいた。
「後悔だけはしないで下さい」
 それだけをジムに伝えに来たエリスだったが、エミィが来て、ザジが来て、話しかけるタイミングを失ってしまった。
 結局、何も伝えることなく、エリスはその場を後にすることとなった。

 そんな分隊の面々の様子を、戦闘工兵のレン(暁 蓮華(fa0631))がずっと見ていた。
 レンは十字路の真ん中で店を広げ、各種爆発物の点検を行っていた。十字路を東に向けばゆかたちが、北に向けばジムたちがよく見えた。
「ふっ‥‥面白い奴らだ」
 ニヤリ、と笑いながらガムを膨らませる。
 C4(爆薬)の仕掛け甲斐もあるというものだった。

 ‥‥最初の接敵は12時05分。敵の歩兵部隊が市街地への進入を開始した。
「よーし、いい子だ。もうちょっと寄って来な」
 クレイモアの遠隔操作スイッチを手にしたシズマが、舌なめずりをしながらタイミングを待つ。
 敵は、こちらの設置した対戦車障害物を盾にしながら、防御陣地へと近づいてくる。シズマは敵部隊の半分が通過してからクレイモアを起爆した。
 歩道脇の植え込みに設置されたクレイモアが一斉に炸裂する。指向性をもって撒き散らされた散弾は、敵部隊中央を薙ぎ倒した。
「撃ち方始め! ここを通すな!」
「こちらバーミリオン2。始まったぞ、レン! ボカスカ撃ち込め!」

 戦闘開始から二時間。激戦は続いていた。
 緑川が双眼鏡で敵戦車を確認する。敵はついに、戦車の進撃路を開拓したらしい。
「くそっ、ATM(対戦車誘導弾)! 目標! あのくそったれ戦車だ! ぶっぱなせ!」
 緑川の命令を受け、銃座の一つから、敵戦車に向かってATMが撃ち放たれた。弾体は戦車の上面を直撃して爆発した。
 擱坐した車両の横から、後続が戦車砲を撃ち放つ。榴弾はATMを撃った銃座に突き刺さり、それを完全に吹き飛ばした。

 戦闘開始から四時間。戦闘は続いていた。そして、終わりが見えていた。
「こちらバーミリオン2! 増援を! これ以上は持ち堪えられない!」
 ガンッ! ジムの無線機に敵弾が着弾する。ジムはただの箱と化した無線機を捨て、ヤケクソ気味に銃を乱射した。
「白兵戦準備! 悩むな! 怯むな! ただ会いたい奴の顔を思い浮かべ、そいつの為に死力を尽くせ!」
 緑川の言葉に、ジムは胸の指輪を掴む。
「死ねとは言わん。死ぬなとも言えん。最後まで見事に戦って見せろ!」

 救護所に砲弾が直撃した。救護所は全滅。偶然外にいたエミィだけが助かった。
 瓦礫と死体でグチャグチャになった救護所の惨状に、エミィはガクリと膝を落とした。
「あは、大丈夫、恐く無い、恐くない‥‥恐く無いぞぉー‥‥大丈夫。落ち着いて‥‥」
 何度も何度も、深呼吸を繰り返す。空気は、血の味しかしなかった。
「そうだ、歌おう、うん。歌っていれば、きっと大丈夫」
 あー、あー、うん。声の調子はいいみたい。咳払いを一つして歌いだす。

♪想いは大きくて、伝えたいのに、風の音に掻き消され
♪こんなに苦しいなら、伝えれば良かった
♪大きな空の下、君は、どうしてるかな?
♪もしまた会えるなら、この想い伝えるよ

 ゆかから敵を引き離す為、おとりとなったシズマは、ビルの一室に追い詰められていた。
 座り込んで壁に寄りかかる。満身創痍で、弾薬も底をついていた。
「ジムにチョコ渡すんだろ」
 別行動の前、そう言って励ました時のゆかの笑顔を思い出す。
 自嘲した。励ます時の台詞でさえも、ゆかの前にはジムがいる‥‥
 突入してきた敵兵がシズマの思考を中断させた。銃撃。血の跡を壁に引きながら、シズマが床に倒れる。
(「ちっ、とびきりのスピーチをしてやるつもりだったのによ‥‥」)
 シズマの手から、ピンの抜けた手榴弾が転がり落ちた。
 驚愕に目を見開く敵兵たち。次の瞬間、手榴弾は加害者と被害者を巻き込んで爆発した。

 最後尾にあって味方の後退を支え続けたエリスも銃撃に倒れた。弾丸は右肩の下を貫通し、エリスは瓦礫の山を転げ落ちた。
 仰向けに倒れたエリスの目に空が映った。いつの間にか、雲は晴れていた。胸のペンダントを掴む。それは亡き恋人からの贈り物だった。
「‥‥ああ、やっと貴方の元に行ける」
 エリスは、自分のミスで恋人を失っていた。今回、味方を守り続けたのも、恋人のような事はもう嫌だったからだ。
 だが、もしかしたら、自分はこの時を待っていたのかも知れない。死ぬことで、恋人と一緒になることを。死ぬことで、恋人に許される事を。
 エリスは、大きく息をつくと、静かに目を閉じた。

 瓦礫の陰に身を潜めたレナは、胸ポケットからガムを取り出した。最後のガムは血で紅くなっていたが、レナは気にすることなく口に放り込んだ。
 味方の撤退援護の為に爆薬や地雷を仕掛けてまわったが、最後の最後で足を撃たれた。自らの仕掛けた爆薬の海に取り残されたが、まぁ、そんなものだろう、とレンは達観していた。
「生き残れよ‥‥あたしの分まで」
 共に戦った戦友たちを思い出す。自然と笑みがこぼれた。
 歩兵を随伴した戦車が、陣地を踏み越える。二両、三両‥‥ 四両目で、レンは起爆スイッチを押した。
「チョコ代わりだ、受け取りな」
 閃光と轟音が全てを薙ぎ倒す。その上に倒壊したビルが二棟、三棟と崩れ落ちていった。

 乱戦の中、ジムは、いつの間にか思い出の公園に辿り着いていた。
 今、通った入り口が高校三年の時に通った入り口だったことに気がつくジム。空もあの時と同じ夕焼け空。ジムは何かおかしくなって、当時のように小走りで公園を駆け抜けた。
 遊具の横を抜け、噴水の前を横切り、階段の下で足を止める。
 ここで息を整え、平然を装いながら階段を登ったのだ。過去の自分と同じように、ジムは一段一段、踏みしめる様に階段を登る。
 最上段まで上り終えて、そこでジムは目を瞠った。
 夕焼けに染まった公園で。まるで思い出を切り出したように。ゆかがそこに佇んでいた。

 スコープには、公園で再会したジムとゆかの姿。
 それを見ながら、ザジは二人の無防備さに腹が立った。自分がその気になれば、二人は何回も死んでいる。
「そうか‥‥あの男、『アイツ』にちょっと似てるんだな‥‥」
 唐突に、そんなことを思いついた。複雑な気持ちになったザジが二人をスコープから外す。
 そこに敵の狙撃兵の銃身が映った。角度が悪く姿は見えない。二人を狙っている。
 即座にザジは発砲した。着弾。敵が狙撃兵の存在に気付き、こちらを狙う。
 ザジの目が狩人のそれに変わる。照準したまま、廃莢、発砲。スコープの向こうで敵兵が崩れ落ちる。
「人の恋路を邪魔する奴は、ってね」
 ザジは、フッ、と息を吐くと、敵兵と同じように崩れ落ちた。
 相撃ちだった。姿を隠すのが狙撃兵の原則だ。それを自ら身を晒すとは‥‥
「‥‥ま、鉛弾のキューピッドも‥‥悪くない、な‥‥。そう言えば、今日は‥‥」
 ザジの呟きは、誰に聞かれることも無く消えていった。

「ふたりっきりになるのって、随分、久しぶりだよね」
 微妙な距離を保ったまま、ベンチに座るジムとゆか。
「懐かしいね。丁度ここだったよね。覚えてる? あの時のバレンタインの事」
 先程から、話しをするのはゆかばかりだった。ジムは生返事ばかり。それが昔から続く二人の距離感だった。
 高校三年のあの日が思い起こされる。それは甘酸っぱい後悔となって、ゆかを突き動かした。
「はいっ、これ!」
 立ち上がったゆかが正面からジムに用意したチョコを渡す。
「え、これ‥‥?」
「チョコ。今年はあげられそうにないって言ったけど、用意しちゃいましたっ!」
 感情に突き動かされるまま、ゆかが続ける。
「不恰好なチョコでごめんね。でも、どうしても今日渡しておきたかったの。想いを伝えられないまま、終わりたくな‥‥」
 皆まで言わせる前に、ジムがゆかを抱きしめた。
「‥‥僕もゆかに渡すものがあるんだ」
 ジムは、ポケットの中から自作の指輪を取り出した。それを見たゆかは、感極まって泣き出した。
「泣くなよ、こんな粗末な指輪で」
 ゆかはジムの胸に顔を埋め、泣きながら顔を横に振った。

 本隊の反撃が開始されたのは17時00分。重砲による砲撃だった。
 砲撃はゲリラ的に行われ、敵に征圧された市街地に降り注ぎ、少なからず心理的な打撃を与える事に成功した。
 なお、戦場の常ではあるが、味方にも誤射による多少の犠牲が出た。(記録より抜粋)

 空気を切り裂く砲弾の音。聞きなれた音だったが、違うのは、それが絶望的に近い事。
「ゆかっ!」
 ジムはゆかを抱きしめたまま身を投げ出す。着弾したのは、その瞬間だった。
 ‥‥それからどれくらいの時間が過ぎたのか。
 自分の腕の中にゆかがいないことに気付いたジムが辺りを見回す。頭からの出血が酷いが気にならなかった。
 五メートルほど離れた場所にゆかは倒れていた。這い寄って抱き起こす。
 ゆかはジムを見て何かを言うように口を動かして‥‥
 そのまま、ガクリと頭を垂れた‥‥

 数年後。戦争は遠くに去りて──

 抜けるように青い空の下。
 『思い出の公園』に、車椅子のジムがゆっくりと押されてくる。その目に表情は無く、意志の力が感じられない。
 ジムは生き残ったものの、脳に重い障害を負っていた。今は、この公園の近所の病院で、入院生活を送っていた。
「死にたがっていた私が生き残って、みんなが死んでしまうなんて‥‥皮肉ですよね」
 車椅子を押す女性がジムに語りかけた。その胸にはペンダント。
 エリスだった。彼女は生き残り、ジムと同じ病院に運び込まれたのだ。
 生き残ってしまって呆然とするエリス。そんな時、同じ病院にジムがいることを知った。人手不足でろくな扱いを受けていなかったジムを見て、彼の看護をすることにしたのだった。
 もちろんジムには分からない。首からかけられた赤錆びた鉄の指輪を弄んで、うっすらと笑みを浮かべるだけだ。
「──風が冷たくなってきましたね。病院に帰りましょうか」