武装救急隊 報道の功罪アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/10〜08/14

●本文

 ──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
 隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
 各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
 そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体──

 ドラマ『武装救急隊』は、そんな世界を舞台にしたオムニバスドラマです。

●『武装救急隊 報道の功罪』
 七夕の日、病院に隔離された入院患者の青年と、ウエノ公園キャンプに残された恋人との再会劇は、美談として『長城』の外でも大きく報じられた。
 かつては連日報道されていた旧トウキョウ地区に関するニュースも、時が経ち、情勢が安定するにつれてめっきりと数を減らしていたが、今回の件は、忘れられかけていた旧トウキョウ地区に、再び耳目を集める契機となった。
 多くの報道機関が旧トウキョウ地区での取材を要望した。軍は、クリーチャーの跋扈する危険地帯であるから、と反対したが、報道の自由や民主主義の原則を振りかざされると、どうにも立場が弱かった。
 仕方なく、軍は旧都内の各キャンプと救急病院陣地での取材に限って許可を出した。そこならば、ヘリによる空輸が可能だったからだ。
 それ以外の地域に関しては責任を持たない、と軍は告知した。勝手にしろ、というのが、本音であったかも知れない。
 かくして、大手マスコミ各社は、軍が用意した輸送ヘリに乗ってトウキョウ入りした。ある者はキャンプの人々の暮らしぶりを伝え、ある者は救急病院陣地の内情や、『長城』警護の軍の活動をリポートした。
 同時に、支援物資を運ぶNGOの車両に付いて『長城』を越える者たちもいた。
 軍の言う危険地帯での取材を望む者‥‥フリーランスの記者たちだった。

「記者さんには、後ろのAPCに乗ってもらう。装甲救急車には余分な席が無いんでね」
 武装救急隊・北東救急本部。その地下駐車場。
 装甲救急車のドライバーたる機関員が、そう言って傭兵たちの装甲兵員輸送車を指差した。
「‥‥何とか救急車に乗れませんか」
 記者が機関員に食い下がった。武装救急隊に同行取材するというのに救急車に同乗できないと、密着取材の意義は半減してしまう。
「シートベルトも無しにか? 骨の2、3本じゃ済まんぞ。‥‥それにな、人が1人増えると車の機動性が落ちる。それは患者にとっては命取りになりかねない」
 機関員の言葉に、記者は目を見張った。
 人1人分の重量など、些細な影響だろう。だが、僅かでも遅延の原因を減らそうとするそのプロ意識に、記者は自分と同じものを感じていた。
「分かりました。その代わり、後でインタビューをさせて下さい」
 記者はそう言うと、すぐにAPCに向かって走っていった。
「今日一日世話になります。よろしく。で、早速ですが‥‥皆さん、傭兵なんですよね」
 記者は、装甲車に乗り込むなり、傭兵たちに取材を開始した。話し好きそうな人間から順に話を振って回る。
「‥‥ところで、ウォールブレイカーなる組織が存在するという噂を聞いたのですが‥‥?」
 閉鎖区域トウキョウ。記者にとって、ここは記事のネタには困らない場所だった。

●出演者募集
 以上がドラマ『武装救急隊 報道の功罪』の冒頭部分になります。
 このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
 PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
 PC(キャラクター)がそれを演じることになります。

 オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
 皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。

 ドラマには以下のように多くの設定がありますが、ドラマの時間枠は限られています。
 シーン数が多くなれば、それだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
 設定の取捨選択をして『起承転結』(OPが『起』になります)に纏め、ドラマを完成させて下さい。
 ただし、使われない設定も存在はしますので、それに反するプレイングには気をつけて下さい。

●設定
1.武装救急隊
 隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
 その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
 危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。

2.装甲救急車
 非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられます。
 足回りが強化されており、不整地踏破能力もありますが、当然、患者が収容されたら無茶は出来ません。
 ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能です。

3.装甲救急車の乗員
 機関員(運転士)、救急隊員(サブ運転士を兼ねる)、医師(救急隊長を兼ねる)、看護師の4名。
 乗員は固定というわけではなく、シフト制です。

4.護衛
 武装救急隊に装甲救急車の護衛として雇われた傭兵たち。
 APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、装甲救急車の脅威を排除する歩兵戦闘のプロたちです。

5.キャンプ
 新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まる場。
 しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
 比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
 キャンプの人々は、半獣化状態で表現されます。

6.救急病院
 隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた装甲救急車の目的地です。
 危険な地域にある為、防御陣地の中に存在します。
 新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもあります。

7.新型爆弾
 現実にはありえない不思議爆弾。
 劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
 この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。

8.クリーチャー
 新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
 既存の生物を戦闘に特化した存在です。
 当然、人間も例外ではなく、『発病』するとクリーチャーになります。
 人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現されます。

9.武装勢力『ウォールブレイカー』
 外界への解放を求め、トウキョウ地区を完全隔離する壁『長城』の破壊を目指すグループ。
 テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する自警組織でもあります。

●今回の参加者

 fa0126 かいる(31歳・♂・虎)
 fa1679 葉月竜緒(20歳・♀・竜)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)
 fa3280 長澤 巳緒(18歳・♀・猫)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3662 白狐・レオナ(25歳・♀・狐)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

 長い梅雨が終わり、トウキョウはその日、久しぶりに青空の下にあった。
 河川敷に沿って延々と続く『長城』の、門へと続く橋の上に、トウキョウへの進入許可を待つ装甲救急車と護衛のAPC(装甲兵員輸送車)が停車していた。
 フリーの記者たちがAPCの上部ハッチから上半身を乗り出して、『長城』の門にカメラを向けていた。それをサイドミラーで眺めながら、救急車の運転席に座るベテラン機関員、水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))は溜め息をついた。
「全く、マスコミの連中は‥‥まるで観光客だな」
 観光客、という表現は言いえて妙だった。記者たちの持つカメラの、そのガラスの瞳を通じて、世界中の人々がトウキョウを──安全な場所から──見る事になるからだ。
「‥‥でも、今回の件でトウキョウの現状が外に伝わる。武装救急隊の存在意義を伝えるいい機会だ」
 助手席に座る若い救急隊員、天城 静真(役:天城 静真(fa2807))がそう言った。水上が苦笑する。
「ここの状況を世間に知って貰えるのは有り難いんだが‥‥マスコミは、自分たちの主観的な経験を、さも客観的なもののように記事を書くからな。面白おかしく脚色したりせずに、現状をそのまま伝えてくれる事を願うよ」
 そう言っている間に、門の方から兵士がやって来て、進入許可が下りた事を水上に伝えた。
 水上がエンジンのキーを回し、天城が無線で救急本部へ状況報告をする。
「‥‥俺も、ちゃんと真実が伝わる事を祈っています。それでも、口を開かなきゃ伝わりませんから」
 天城の言葉に、水上は無言でアクセルを踏み込んだ。

 レンズ越しの視界に、開きつつある地獄の門とそこに進入して行く装甲救急車が映し出されていた。
「あ、『長城』の門が開くで」
 カメラマン、敷島カノープス(役:敷島ポーレット(fa3611))の言葉に、フリーランスの記者、西条瑞希(役:長澤 巳緒(fa3280))は、自らも一眼レフカメラを構えた。
 救急車の後を追って、二人の乗るAPCも動き出す。
 迫り来る『長城』。青い空を背景にそびえ立つ巨大な灰色の壁と、その上に立つ銃を持った歩哨。閉鎖区域を象徴するその光景を、西条は写真に切り取った。
 『長城』を越えるその瞬間、敷島はカメラから目を離して空を見上げた。
 『長城』の中と外。
 空は、変わらず青かった。

 門を越え、その先の『長城』防御陣地のゲートを抜けると、そこには、敷島と西条の知らないトウキョウがその姿を見せ始めていた。
 人っ子一人いない無人の町。点かない信号。そこを救急車とAPCだけが走り抜けていく。
 やがて、APCは救急車の後を追って速度を上げ始めた。
「もうすぐ危険地帯に入る。そろそろ車内に入ってくれ」
 記者二人に、傭兵のベオ(役:ベオウルフ(fa3425))が、無愛想に声をかけた。手に車載機銃の弾薬箱を抱えていた。
 敷島が車内に戻り、西条がそれに続こうとした時、APCがガクン、振動した。ガタガタガタ、と急に路面が悪くなる。
 顔を上げた西条の目に、閉鎖地区トウキョウの真の姿が飛び込んできた。
 ひび割れ、捲れ上がり、道としての用をなさないアスファルト道路。
 窓ガラスも無く、巨大な獣の爪跡や無数の弾痕が穿たれたビルの壁。
 道端には、人とも獣ともつかないクリーチャーの遺骸が無造作に転がっている‥‥
「‥‥この世の地獄ってところね‥‥。七夕の美談からは想像も出来ない‥‥。これがトウキョウの現状か‥‥」
 知識としては知っていたが、実際に目にすると薄ら寒いものがあった。
 西条は、横で給弾作業をするベオに尋ねてみた。
「‥‥クリーチャーを殺す時‥‥躊躇いとかはないんですか‥‥?」
 ベオは、作業の手を止めず、淡々と呟いた。
「‥‥さあ、どうだろうな‥‥
 ただ、ここじゃあ、引き金を引かなきゃ自分や仲間が死ぬんだ。
 たとえ、そのクリーチャーが、知り合いや‥‥恋人だったとしてもな」

 定時に行われた救急パトロールは、何事も無く終わった。
 たまに現れたクリーチャーも回避して、一発の銃弾も撃つことなく、装甲救急車とAPCはウエノ公園キャンプに到着した。
 午後のパトロールまで、ここで待機するという。西条と敷島は、正直、拍子抜けしていた。
「何事も無ければこんなものよ?」
 白衣姿の女性が二人に言った。装甲救急車に搭乗する医師の孤木・玲於奈(役:白狐・レオナ(fa3662))だった。背後には巨漢の看護師、甲斐(役:かいる(fa0126))が、無表情で立っていた。
 弧木がこれから医師としてキャンプを回ると言うので、西条と敷島はついて行く事にした。
 道すがら、西条は二人に、何故この仕事を続けているのか尋ねてみた。
「そこに人がいるからだ」
 甲斐は、それだけ言うと黙ってしまった。先程から、笑顔で二人に語りかける弧木と違って、甲斐は終始無言、無表情だった。マスコミに対して、余り良い感情を抱いていないのかもしれない。
「‥‥そうね。私は、医者として患者を助けたいから此処にいる。ありきたりな言葉だけれど、やっぱり私は助けたいと思った人たちを助けたいのよ」
 そこまで言って、弧木は顔を曇らせた。
「‥‥以前、私はここで友人を失ったわ。助けたいと思った人たちが何人も死んでいった‥‥。私がここに居続けるのは、その償いかもしれない。
 それでも、私は‥‥トウキョウに全てを懸けているの。何が起きようとも、私はここで‥‥トウキョウで医師を続けていくつもりよ」
 西条は、ICレコーダーのスイッチを入れていなかった事に気付くと、メモ帳を取り出して弧木の返事を速記した。

 弧木たちとキャンプを回り終えた後、西条は他の隊員にも同様の質問をぶつけた。
「何故って‥‥ここには俺たちの助けを待っている人間が大勢いる‥‥ただそれだけの事だが?」
 西条の質問に、何を今さら、といった風で天城が答えた。
「このキャンプを見れば分かるだろうけど、ここに閉じ込められてる人たちの殆どは普通の人間だ。
 俺たちやあんた達と同じ、な。それが、ある日突然、隔離されちまったんだぜ?
 少しくらいはあの人たちの為に何かしてやろうって人間がいなきゃ、やり切れないじゃないか」
 自らの思いを、そして、閉鎖地域の人々の苦労と武装救急隊の存在意義を天城は熱く語った。
 西条は頷くと、天城の隣で無言でいる水上にレコーダーを向けた。水上は、嫌そうな、面倒臭そうな、複雑な表情を浮かべたが、天城に肘で突っつかれて渋々と言葉を紡ぎだした。
「‥‥言っておきたい事は、トウキョウだけが特別って訳じゃない、って事だ。
 何かが一歩間違っていれば、他の地域がトウキョウの様な運命を辿っていたかも知れねぇんだ。
 俺は、今、ここにいる。だから、俺は、今、ここで、自分に出来る事をする。それだけだ」
 ‥‥その後、話は七夕の恋人たちの美談に移った。天城は、恋人たちの運命的な出会いについて語り、入院患者との面会も認められていない病院の現状を切々と訴えた。
「そうですか。ところで、このトウキョウには、『長城』を破壊しようとする組織が存在するそうですが、彼等についてはどう思われますか?」
 西条が急に話題を変え、ウォールブレイカーについて質問をしてきた。
 不意をつかれた天城が言葉を濁して視線を逸らす。代わりに、水上が適当にはぐらかして答えた。
「さあ‥‥? そんな組織が存在するとかしないとか、噂くらいは聞いた事があるが‥‥よくは知らんな」
 そのまま隊員たちは何も答えない。
 仕方なく西条は、『長城』を壊すという目的についてどう思うか尋ねた。
「まあ、突然、一方的に隔離されちまった人々に自由を、って気持ちは分からなくもないんだが‥‥
 発症するまでは、ホントに俺たちと何の変わりも無いからな‥‥
 だが、一度クリーチャー化したら‥‥。その対策も無しに門を開く訳にはいかないんだ」
 天城はそう言うと、外の医療や化学分野の人たちに治療法の研究を呼びかけた。
「‥‥私個人で言えば、彼等とは、分かり合える気はする。
 でも、彼等の立場は、私たちの立場と相容れない‥‥
 だから、きっとよっぽどの事がない限り、お互いに認め合う事なんて出来ないんでしょうね」
 弧木が大きく、ため息をついた。

 キャンプに住む人々は、事前に思っていたよりも暗い顔をしていなかった。
 西条と別行動をとってキャンプへと繰り出した敷島は、そう思った。
 その手には、古いフィルムタイプの一眼レフカメラ。これを手にした時、敷島は『職人』としてではなく『芸術家』としてカメラを握る。
 撮るものは『人間』。
 キャンプに暮らす人々の、ささやかな日常を切り取り、一瞬の世界をフィルムに焼き付ける。
 炎天下、配給を受け取りに並ぶ人々の汗だくの顔。装甲車の陰で煙草を吸う傭兵の気だるさ。噴水に溜まった水をプール代わりに遊ぶ子供たちの笑顔‥‥
 ベッドの上のぬいぐるみと自動小銃。即席で作られたプレハブの教会とウェディングドレス。そして、無数の墓標‥‥
 そこに写るのは、外の人々と変わらぬ人の営みだった。
「こっちはウチの趣味なんよ。動画と違って仕事向きじゃないけど‥‥多くの言葉より、たった一枚の写真の方が事実を強く訴える事もあるんよ」
 敷島がレンズの先にいる女性に声をかける。自動小銃を首から提げた野戦服姿の女性。キャンプの自警団員、リュナ・ルーク(役:葉月竜緒(fa1679))だった。
 武装救急隊が取材を受けると聞いて冷やかしに行ったリュナだったが、ベオはAPCにいなかった。
 顔なじみの傭兵に、ベオが何か落ち込んでいた、と聞かされ、心配したリュナは心当たりを探し回ったが、どこにも見つける事が出来ない。
 そうしている内に不機嫌になったリュナは、所構わず写真を撮る敷島を詰問したが、逆にいつの間にか取材対象になってしまっていた。
「ウォールブレイカー? 興味あるのか? そうだな‥‥テロリストのように言われているが、奴等がやっている事は、このトウキョウで力無き者が平和に暮らせる為の努力、そして、普通の、何気ない日常を取り戻す為の戦いさ」
 チラチラとカメラを気にしながら、リュナは言った。ガラスの目に晒されると、何もかも見透かされるような気がした。
「べ、別に肩入れしているわけじゃないぞ? ただ、奴等みたいなのがいなけりゃ、ここは本当に無法地帯になっちまうのさ」
 リュナは、本気で顔を曇らせた。
 その時、自警団員の一人がリュナを探してやって来た。ひどく慌てた様子で、息を切らせていた。
「どうした、何があった!?」
 リュナが尋ねると、その自警団員は荒い息をつきながら、発病者が出た、と告げた。

 発病者が出た、という報せは、すぐにキャンプ中を駆け巡った。
 装甲救急車の待機中であった事は幸いだったが、多数のマスコミがキャンプ内に入っていた事は不運だった。
「どけっ! 道を空けろ! 患者の命が懸かってんだよ!」
 甲斐と天城が運ぶ担架に報道陣が群がる。二人が懸命に声をからすが、押し合う報道陣には届かない。
 弧木が必死に患者を庇ったが、揉み合っている内に、シーツが落ち、苦しむ患者の獣と化した手足が露わになった。報道陣にどよめきが起こり、フラッシュが瞬いた。
 甲斐は、患者に自分のコートを被せて天城に預けると、担架を捨てて人を掻き分けた。
 そこにリュナが到着し、無言で空へ銃弾を一発放った。
「いい加減にしろ! 全員懲罰房に放り込むぞ!」
 そこまでしてようやく、道が開けた。弧木と天城が患者を連れて救急車の後部ドアから飛び込み、甲斐は救急車自体の進路を確保しに前に出る。
「機関員、やってちょうだい! 出来るだけ急いで、でも、人が転ばない程度の安全運転でお願いね!」
「注文が多いな、掴まってろ!」
 クラクションを激しく鳴らしながら、水上はアクセルを踏み込んだ。

「救急車が先発した! 俺たちも出るぞ!」
 APC上部ハッチのベオが叫ぶ。傭兵たちが次々と乗り込み、最後に西条と敷島、そして巨漢の甲斐が飛び乗った。
「リュナ、道案内を頼む!」
 ベオに呼ばれ、リュナの顔が思わず綻ぶ。後部ハッチに回ったリュナは、しかしそこで笑顔を引きつらせた。
「すし詰め状態だな‥‥大丈夫か、コレ」
「俺が屋根に上がろう。小銃を貸してくれ」
 そう言ったのは、甲斐だった。上部ハッチからは出れないので、外から回ろうとする。
「看護師が銃を‥‥!?」
「ま、俺も過去に色々あったのさ」
 驚く皆に、甲斐はうそぶいた。

 数日後。
 取り敢えずの取材を終え、西条は『長城』外の自室に戻っていた。
 手元には、写真、ノート、レコーダーなどの記事の材料。救急患者を病院に搬送した時のものだった。
 疾走する装甲救急車、患者の為に懸命な医師と看護師、護衛に奮闘する傭兵たちの姿が写っている。
「ま、美しい光景ね。無難にこういうので記事を作ればいいんだろうけど‥‥」
 あの日に起きた騒動は、政府の意向により『報じるには適当ではない』事件として扱われていた。
 政府にとっても、閉鎖区域内に対する外の世界の反感が高まるのは、具合が悪い事だった。気化爆弾で焼き払ってしまえ、などと主張する輩もいて、政府にとって、トウキョウは『腫れ物』なのだった。
「時には真実は伝えるべきではない、か」
 つぶやいて、西条は美談を中心に記事を構成することにした。
 西条にとって、それは妥協ではなかった。
 伝えるべきトウキョウの真実を、西条はまだ、手にしてはいなかったのだから。