クルトの戦記 退魔編アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/28〜09/01
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●本文
私が少年期を過ごした故郷、グライブ山地は、平原の人々の興味を惹くものの無い土地だった。
地理的には、クラーベ山脈へと続く僻地で、地下資源に乏しく、大規模農業にも適さない。
もっとも、肥えていない土地と言えども、家族や部族が食うに困らない程度の作物は作れたし、果実や木の実、動物たちといった森の恵みは、人口の少ない『山の民』を養うのには十分だったが。
とにかく、長い平原の歴史の中で、無視されてきたのも頷ける。
だがそれでも、私は、我が故郷は『精霊の加護』を得た土地なのだと思うのだ。
山を下りるまで、私は『魔物』というものを見た事がなかったのだから。
──老クルト・エルスハイム、自らの人生を振り返りて記す──
川沿いの道を下りながら旅を続けていた私は、それまでと変わらず、狩りと野宿の生活だった。
川沿いの村『ハイン』で、思いがけず大金を手に入れた私だったが、平原の世情に疎い自分が使い時を計れるかは我ながら疑問だった。いざという時の為、その金にはなるべく手をつけないよう心にに決めていた。
ハインでは平原の民の商習慣も聞いたが、金貨はあまり人前に出さない方が良いという話だった。
私は金貨を一枚崩して当座の資金とすると、今まで通り、狩りで獲物を取りながら旅を続けた。
平原での旅路は、とにかく金がかかった。
何をするにしても金が減った。物を得る、雨をしのぐ、情報を聞く、その全てに対価が必要だった。
私は、自分の食い扶持を狩猟に頼っていたが、次第にその『戦果』が乏しくなっていった為、自然と支出が増えていった。
平原を進むにつれて、獲物の数自体が、段々と少なくなっていたのだった。
ある日、私は森で、ある『獣』を狩った。山では見たことも無い獣で、とにかく狂暴だった。
一の矢を受けても倒れず、逃げずにこちらへ向かって来た。二の矢でも仕留められず、私はその『獣』に飛び掛られた。結局、ねじ伏せて短剣で止めを刺したが、長い狩猟生活でそのような事は初めてだった。
結局、その『獣』を食う気になれず、人里で換金することにした。すぐ近くに村があったので、そこへ獲物を背負って下りて行った。
その村は平原の民だけが住む村だった。余所者、しかも初めて見るであろう山の民をあからさまに警戒していたが、私の背中の獲物を見ると驚いて近づいてきた。
「あんた、そいつを殺ったのかね!?」
私がそうだ、と頷くと村は大騒ぎになった。
話を聞けば、何ヶ月か前から、『魔物』に家畜を襲われていたそうだ。被害に耐えかね、魔物退治のプロたちを雇ったところだったと言う。
──この日、私は初めて『魔物』と遭遇し、その手にかけたのだった。
その夜は村を挙げての宴会となったが、結局、村では『魔物』の換金はできなかった‥‥
次の日、村が雇ったという魔物退治のプロたちがやって来た。
村人は、退治屋たちに状況を説明したが、退治屋はクルトが狩った魔物の遺体を見ると首を振った。
「コイツじゃない。この種は森からはめったに出てこない。家畜を襲う魔物となれば、他にいるはずだ」
●出演者及びスタッフ募集
以上が、アニメ『クルトの戦記 退魔編』の冒頭部分となります。
このアニメの制作に当たり、出演者とスタッフを募集します。
●アニメ『クルトの戦記』
『クルトの戦記』は、ファンタジー世界を舞台にしたアニメです。
山岳部族『山の民』でありながら、爵位を持つ貴族にまで上り詰めた英雄クルトの一代記です。
主人公クルトの人生を彩るキャラクターを制作し、
『クルトにどう関わるか』
をプレイングに記述して下さい。
そのプレイングで、クルトの歩む人生が決まります。
今回の話は、とある村での魔物退治のお話です。
『クルトに関わるキャラクターとその設定』
そして、
『村の家畜を襲う魔物(獣型ベース)のデザイン、設定』
を募集します。
なお、リプレイは、劇中(放映されるアニメ本編)描写となります。
●設定
1.世界観
いわゆる普通の(?)、機械や銃などが登場しない剣と魔法のファンタジー世界です。
魔法についても、極めれば神にも等しい力を行使できますが、そういった人は世界にも稀です。
ちょっと便利な人、程度の魔術師は珍しい存在ではありません。
2.山の民
王国東部の山岳地帯に住む少数民族です。
王国に暮らす『平原の民』(ファンタジー世界に住む一般的な人間)よりも、頭一つ分大柄で頑健です。
野蛮人と見られがちで、山の下では差別と偏見に晒されていますが、実際は素朴な人々です。
『平原の民』の魔法は使えませんが、極稀に精霊の加護を得る者もいるようです。
3.今週のクルトくん 正式版
全くシナリオには関係ありませんが、今回のシナリオ時点でのクルトの能力値です。
名称:カイツの息子クルト 種族:山の民 性別:男 年齢:18
体力:高 知力:やや高+ 敏捷:やや高 魔力:極低 魅力:普通+ 加護:特
戦闘技能:弓5 短剣3 格闘3 大剣1
肉体技能:サバイバル(山・森)5 隠密4
精神技能:調理3 応急処置2 農業2 商業0
学術技能:読み書き2 算術2 歴史5
武器:短弓 短剣 大剣+3
所持品:小木箱(金貨) 小袋(銀貨) 開かずの小袋(謎)
●リプレイ本文
「きゃあああっ、誰か、誰か助けてっ‥‥!」
鬱蒼と木々の茂る森に、衣を裂くような若い女性(CV:姫乃 舞(fa0634))の悲鳴が響いた。
対魔物用の罠を作る為、森へと入っていたクルトが即座に走り出す。辿り付いた時、魔物は今まさにその娘に襲い掛かろうとしていた。
クルトは雄叫びをあげて魔物の注意を惹くと、番えていた矢を放った。矢は魔物の眉間に突き刺さり、魔物は仰け反るように倒れて動かなくなった。
魔物の死を確認すると、クルトは尻餅をついたままの娘に目をやった。娘は、顔面を蒼白にし、涙目で震えていた。
クルトは怪我は無いか尋ね、労わりの言葉と共に手を差し出した。
「あ、危ない所を助けて下さって有難う御座いました。ク、クルトさん」
名を呼ばれ、クルトは娘の顔を見直した。見覚えのある娘だった。昨晩の宴会で見た顔だった。
なぜ危険な森に入ったのか尋ねると、娘は恐縮したように俯いた。
「魔物退治をして下さる皆さんに、薬草を用意しようと思って‥‥」
そう言うと、娘は思い出したように地面に散らばった薬草を拾い集めた。クルトはそれを手伝ってやると、村まで送ると申し出た。
娘は、驚いた表情を浮かべると、うっすらと頬を染めながら朗らかに笑った。
「私、ローズマリーって言います。‥‥あの、怒らないで下さいね。私、『山の民』の方って、もっと野蛮な人ばかりなのだと思っていました」
そこへ、娘を探す村人たちの呼び声が聞こえてきた。やがて村の青年ケイン(CV:藤井 和泉(fa3786))がその場に飛び込んでくる。
「ローズマリー! 無事か!?」
言いながら、ケインは魔物の死骸に気付いてギョッとした。慌てて視線を振り、ローズマリーの無事を確認してホッとへたり込む。
そんなケインの後ろから、退治屋の面々が続々とやって来た。
「ありゃ。クルトに先越されちゃったよ」
退治屋の一員、ジョルト(CV:相麻 了(fa0352))がどこかのんびりとした風情で言った。薄手の黒い皮鎧姿で、両の腰に小剣を提げている。端正な顔立ちをした若い青年だったが、物腰も性格もどこか軽やかな印象だった。
そのジョルトの一歩後ろに控える剣士ザジ(CV:結城丈治(fa2605))は、対照的に重厚な男だった。禿頭に髭面という異相は、めったなことでは動かない。鋼の胸当てと大剣を身につけた大男で、平原の民だが、『山の民』のクルト並みに頑強だった。
「若‥‥」
そのザジが、ジョルトを呼ぶ。視線の先に魔物の死骸があった。
金色の長い髪をポニーテイルにした女性が進み出て、その死骸を検分する。退治屋のレンジャー、ジーノ(CV:咲夜(fa2997))だった。
「‥‥昨日のと同じ魔物だね。村の家畜を襲う奴じゃない」
一見してジーノはそう見立てた。そして、一矢で倒されているのに気が付くと、そのそばかす顔に感嘆の表情を浮かべた。
「‥‥これで二匹目か。しかもまた一人で。『山の民』ってのはみんなアンタみたいに強いのかい?」
ジーノの言葉に、退治屋見習いの少年、オレアナ(CV:パイロ・シルヴァン(fa1772))がどこか悔しそうに呟いた。
「そんな魔物、俺でも倒せるぜ‥‥」
しかしながら、少年のその瞳には、クルトに対する抑えがたい憧憬が揺らいでいた。
オレアナの理想とする英雄の姿が、クルトの姿勢と重なって見えていた。
──少し時間を遡り、その日の朝方に話を移す。
「まことに申し訳有りませぬ!」
依頼を受けて村にやって来た退治屋の面々に、村長リーベ(CV:リーベ・レンジ(fa2825))は頭を下げていた。
家畜を襲っていた魔物が退治されたと思い込み、リーベは、それを祝う宴会で村の少ない蓄えを使い果たしてしまった。その結果、はるばるやって来た退治屋の面々をもてなす財を失っていた。このままでは退治屋の皆様に窮屈な思いをさせてしまう。リーベは、能天気な自分を恥じた。
一方、当の退治屋の面々は、それ程気にしたりはしていなかった。彼等にはクルトの方が問題だった。
ぽっと出の『山の民』が、標的ではなかったとはいえ──魔物を一人で仕留めてみせたのだ。クルトが紹介された時、どこかお気楽なジョルトを除き、友好的な挨拶を返した者はいなかった。ザジは礼儀を完璧に守った(だけの)挨拶をし、ジーノは値踏みするような目でクルトを眺め回した。オレアナは無言で軽く一礼しただけで横を向いた。
「どうぜ図体がでかいだけの見掛け倒しさ」
オレアナの呟きは、多かれ少なかれ、退治屋の面々の心情を表していた。
微妙な雰囲気を感じ、リーベの額に汗が浮かんだ。自分の失敗が招いた結果だと思いこんでいた。
「‥‥どうでしょう? クルトさんも一端の狩人のようですし、仲良く協力して魔物を退治して頂くというのは‥‥」
「お断りだね。‥‥あたしも野伏の真似事していてね、森や山の事も少しは知っている。人並み以上に弓も使うし、実際に何匹も魔物を仕留めている。‥‥つまり、今回、あんたの出番はないってことさ。大人しく見てるんだね」
ジーノの言葉に、ジョルトが「えー」と不満の声を出す。それをザジが無言で嗜めた。
再び気まずい空気が流れ、リーベの顔中を汗がダラダラと流れ落ちる。
そこへ、遅れていた最後の退治屋が姿を現した。宝珠の入った首飾りが印象的な、綺麗な長い黒髪の『山の民』の女性だった。
「あれ? クルトさん? クルトさんじゃないですか」
女性は、クルトに気がつくと親しげに語りかけた。それはクルトがハインで出会った女商人カナン(CV:大曽根カノン(fa1431))だった。
「まぁ、色々有りまして。今はこうして退治屋なぞもしています」
カナンは苦笑しながらそう言うと、珍しい異国の長刀を掲げて見せた。
結局、カナンの仲介もあって、退治屋とクルトは共に行動することとなった。
カナンは、早速、ケインたち村人たちから魔物に関する情報を集めた。
「襲撃は夜に行われ不定期。目撃情報は無し‥‥だから皆、魔物を間違えたのね‥‥」
「被害は鶏や豚‥‥羊を森へ引きずった時も? 随分と食欲が旺盛だ」
「問題はそこね。大食の割には襲撃が少ない。人的な被害も無い」
「何故だ? コイツにとっては良質の狩場だろうに。こんな行動を取る魔物など見た事がない」
情報を基に退治屋たちが議論を尽くすも、結論は出なかった。
「人が怖いんだ」
クルトが言った。
「森で食物が取れない時だけ、コイツは仕方なく家畜を襲うんだ」
「‥‥つまり、コイツの行動パターンは魔物のそれではなく‥‥」
「獣のそれだ」
話を黙って聞いていたケインが、おずおずと手を上げた。
「魔物の行動が獣だというのなら‥‥」
心当たりがある、とケインは言った。森に一際大きい獣道があるという。普通、魔物はそのような痕跡を残さない為、気にしていなかったという話だった。
「俺が案内する」
何かを決意したように、ケインが言った。その声は微かに震えていた。
「そりゃ怖いさ‥‥でも俺の生まれた村だから‥‥あんたや退治屋にばかり任せてちゃいけないって、そう思ったから、な」
心配するクルトに、ケインは無理に笑って見せた。
──再び、時を元に戻す。
クルトはローズマリーを村に送り届けると、再び森へと戻った。魔物の通り道に罠を仕掛ける為だ。
ジョルトとザジとジーノの班が獣道を奥まで分け入り、クルトとカナンとオレアナの班が森の浅い所で罠を張った。
「その‥‥案内するだけって訳にもな‥‥俺にも出来る事があれば手伝える‥‥かも‥‥」
案内を終えたケインがおずおずと助力を申し出る。クルトは訝しげにケインを見た。
「あんたはローズマリーを助けてくれた。あの時、俺は何も出来なかった。
他人任せにするという事は、結局、自分では何も為し得ないということで‥‥そういうのは‥‥何か、もう嫌なんだ」
ケインの静かな心意気に感じたクルトは、頷くと罠の設置を手伝うように頼んだ。
ケインに一から罠作りを教えるクルトを見て、そして、黙々と罠を設置し続けるクルトを見て、オレアナは思わず尋ねていた。
「退治屋でもない。この村の出身でもない。何でそんな本気に‥‥一生懸命になれるんだ?」
その問いにクルトは首を傾げると、何でだろうな、と呟いた。自分でも良く分からなかった。
ただ、多少なりとも縁を持った人々の為に何かをしたく思うのは、そうおかしい事でもない気がする‥‥
そう語るクルトの背中を、オレアナは我に返るまでじっと見つめていた。
「日が陰ってきましたね」
カナンはそう言うと魔法の明かりを木の枝に灯した。
それを見て、クルトは、魔法が使えるのか、と驚きの声を上げた。
「平原での暮らしが長いですから。便利ですよ、魔法。クルトさんも覚えたらいかがです?」
クルトは、魔術師の老人の元で多くの事を学んだが、魔法だけは修得できなかった。師匠も、クルトに教えることはしなかった。だから、クルトは『山の民』は魔法が使えないものだと思っていた。
「そんな事は無いですよ。確かに向いてはいませんけど‥‥私もこうして使えますし」
どういうことだろうか、とクルトは思った。魔法を一切使えない自分が『変』なのか。
だが、そんなクルトの思考は中断された。
クルト班を、魔物が襲撃したのだった。
その魔物は異様な姿をしていた。
少なくとも、クルトがこれまで見てきた動物たちのどれとも違っていた。
強いて説明するならば、石くれを貼り付けたようなうろこの、ひょろ長い蛇だか蜥蜴だかに似た外観。うろこの隙間からは長毛がぞろりと生えていて、どこか鈍そうな鋸状の歯の隙間からチロチロと舌が覗く。後ろ足で立って、鎌首をもたげる様に威嚇する魔物。ぎょろりと睨む血走った目だけが、人の目のそれだった。
人の世のものではなかった。耐性の無いケインは失神し、カナンは思わず腰を抜かした。歳の割りに場馴れしているはずのオレアナも、目を見開いて硬直している。
ただ一人、クルトだけが行動の自由を確保していた。
「カナンはケインを安全な場所へ! オレアナはジーノたちを呼んで来てくれ!」
その声で、カナンとオレアナは我に返った。
起き上がろうとするカナンに、魔物がその上半身を鞭の様にしならせて襲い掛かる。間一髪で避けたカナンの代わりに、背後の木が一本ひしゃげて折れた。木片が降り注ぎ、魔法の明かりが消えて宵闇が降りる。
クルトは魔物の足を止める為、弓ではなく大剣を手にして前に出た。
大剣での実戦は、初めてだった。
オレアナがジーノたちを連れてきた時、クルトはボロボロになっていた。ただの狩人のクルトはまともな防具を装備していなかった。それでも歯を食いしばり、大剣を振るう。
「くそっ、あのバカ!」
悪態をついて、ジーノが戦場へと駆けつける。弓を構え、速射で矢を魔物に浴びせかける。
ケインを後送したカナンもまた、妖しい光を放つ長刀を引き抜いて前に出た。クルトと同様、初の実戦で、一撃離脱が多少ぎこちない。
「あちゃあ‥‥せっかく仕掛けた罠、もう意味ないし」
ジョルトはがっくりと肩を落とすと、腰の小剣二本に手をかけた。
ジョルトの後ろでザジが眉をひそめた。
「‥‥助けに行くのですか、若?
‥‥あれはどう見ても『自然発生した』魔物ではありません。
若は我等が『黒獅子党』を継ぐ者。無用の危険ではありませんか?」
「いや、でも、あのクルト、もう見てられねえだろ‥‥それに、『盗賊王子』は負けねえよ」
シャン、と両の小剣を抜き、逆手に構えるジョルト。ザジは、身体の深い所から大きな溜め息をついた。
「‥‥まあ、若の物好きは今に始まった事ではないですが‥‥」
諦観したように、ザジは大剣を引き抜いた。
‥‥その戦闘がどうなったのか、クルトは知らなかった。
気がつけば、クルトは村長の館のベッドの上にいたからだ。聞いた所によると、魔物は退治され、欠員はなし、という話だった。
負傷したクルトは、そのまま村で養生することとなった。ローズマリーの薬草が早速役に立った。
退治屋の面々は先に村を離れる事になり、各々がそれぞれの仕方でクルトに別れを告げた。特にオレアナは、
「俺、いや、僕は、あなたのような人間になりたい。少しでも近づけるよう努力します」
とクルトの手を固く握り締めた。
「貴方が見返りを求めて参戦したのではない事は知っていますが‥‥」
カナンは、クルトの分の報酬をそっと置いて去っていった。
やがて、傷の癒えたクルトも村を去る時がきた。
リーベ村長を始め、村中の人々が見送りに来てくれた。
「また近くに来たら寄ってくれ。それまでには、自分たちで村を守れるようになってみせるさ」
そう言って力強く、がっちりと握手するケイン。以前の頼りなさは消えていた。
「もう行ってしまわれるのですか? 貴方さえ良ければ、この村で一緒に暮らしませんか?」
私と‥‥と言いかけて、ローズマリーは口を閉ざした。
クルトが、自分にはやるべき事がある、と静かに告げたからだ。
「‥‥そうですか‥‥では、せめてこのペンダントをお持ちになってください。これまで私の身を守ってくれたお守りです」
効果は覿面だという。何せ、祈ったらクルトが来てくれたのだから。
「きっとクルトさんの身も守ってくれるでしょう。クルトさんの旅のご無事をお祈り致します‥‥」
かくして、クルトは旅を再開した。
既に、旅立ちから半年が経とうとしていた。
故郷の空は既に遠く、しかし、世界は広かった。