武装救急隊 命を懸けてアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
柏木雄馬
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/18〜09/22
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●本文
──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体──
ドラマ『武装救急隊』は、そんな世界を舞台にしたオムニバスドラマです。
●『武装救急隊 命を懸けて』
朝靄に煙る廃墟の町並み。けたたましくエンジン音を響かせて装甲救急車が疾走する。
走り去る装甲救急車。廃墟の影からのそりとクリーチャーが身を起こす。
「AMB9より本部、これより危険地帯へ進入する! 病院陣地到着は6分後予定!」
悪路に揺れる運転席。舌を噛みそうになりながら、助手席の救急隊員が無線機に叫んだ。
後部荷室では、医師と看護師が奮闘していた。
叫び声を上げ、暴れる患者。既に病状はかなり進行しており、獣のそれと化した手足がベッドの拘束具を軋ませる。
「右折!」
運転席の機関員が叫び、医師と看護師が慌てて作業を中断した。
キュリリリリリ‥‥!
装甲救急車がタイヤを滑らせながら交差点を曲がる。
急激な重力がかかり、医師たちは手足を踏ん張って身体を支えた。
ドリフトを終え、車内が安定を取り戻すと、医師は一つ息をついて治療を再開した。後方からは、護衛の傭兵たちが放つ銃声が聞こえてきた。
その時、救急車が何かに乗り上げてガクンと揺れた。弾みで医師の手から注射筒が零れ落ち、勢いよく端まで転がっていってしまった。
舌打ちをして、医師が慌てて拾いに向かう。その時、患者が一際高く叫びを上げた。
弾け飛ぶ拘束具。看護師の悲鳴と飛び散る赤。振り返った医師の瞳に獣の腕と、そこから滴る雫が映る。
その腕がゆっくりと、身を縛る拘束具を引き千切る。
装甲救急車の荷室。一体のクリーチャーがその身を起こそうとしていた──
「本部よりAMB6。緊急。患者搬送中のAMB9が通信途絶。車内発病事態と思われる」
装甲救急車6号に救急本部から通信が入ったのは、救急パトロールも終わりに差し掛かった頃だった。
重苦しい沈黙が車内を満たした。助手席の救急隊員が無言で通信機のマイクを取る。
「‥‥間違いないのか? 詳細は? 護衛の傭兵たちは何と言っている?」
「本部よりAMB6。通信規則を守れ。‥‥詳細は不明だ。護衛のAPCとも連絡が取れないんだ」
愕然として救急隊員は隣りの機関員を見た。機関員は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「本部よりAMB6に通達。AMB9の遭難現場に赴き、状況を調査、報告せよ。ただし、生存者の救助を最優先とする。繰り返す。生存者の救助が最優先だ。
‥‥って言うが、コイツはヤバい。死体の数を数えてサッサと帰るのが利口だぜ?」
その無線を、傍受している者がいた。
トウキョウを封鎖する『長城』の破壊を目指す武装組織、ウォールブレイカーの一分隊だった。
通信士がその内容を本隊に転送する。僅か数分で命令が返ってきた。
「状況から、そのクリーチャーの能力は極めて高いものと推察される。このトウキョウの未来の為、そのような個体を野放しにし、繁殖させる訳にはいかん。
命令。現場に赴き、そのクリーチャーを殲滅せよ。繰り返す。クリーチャーの殲滅を最優先とする」
●出演者募集
以上がドラマ『武装救急隊 命を懸けて』の冒頭部分になります。
このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
PC(キャラクター)がそれを演じることになります。
オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。
●設定
1.武装救急隊
隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。
2.装甲救急車
非武装の救急車。装甲されており、小銃弾程度の攻撃には耐えられます。
足回りが強化されており、不整地踏破能力もありますが、当然、患者が収容されたら無茶は出来ません。
ある程度の医療機器を載せ、簡単な医療行為が車内で可能です。
3.装甲救急車の乗員
機関員(運転士)、救急隊員(サブ運転士を兼ねる)、医師(救急隊長を兼ねる)、看護師の4名。
乗員は固定というわけではなく、シフト制です。
4.護衛
武装救急隊に装甲救急車の護衛として雇われた傭兵たち。
APC(装甲兵員輸送車)に乗り込み、装甲救急車の脅威を排除する歩兵戦闘のプロたちです。
5.キャンプ
新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まる場。
しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
キャンプの人々は、半獣化状態で表現されます。
6.救急病院
隔離地域内にある救急病院。患者を乗せた装甲救急車の目的地です。
危険な地域にある為、防御陣地の中に存在します。
新型爆弾の影響を調査・研究する機関でもあります。
7.新型爆弾
現実にはありえない不思議爆弾。
劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。
8.クリーチャー
新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
既存の生物を戦闘に特化した存在です。
当然、人間も例外ではなく、『発病』するとクリーチャーになります。
人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現されます。
9.武装勢力『ウォールブレイカー』
外界への解放を求め、トウキョウ地区を完全隔離する壁『長城』の破壊を目指すグループ。
テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する自警組織でもあります。
●いつもの注意点
ドラマには、以上のように多くの設定がありますが、ドラマの時間枠は限られています。
シーン数が多くなれば、それだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
設定の取捨選択をして『起承転結』(OPが『起』になります)に纏め、ドラマを完成させて下さい。
ただし、使われない設定も存在はしますので、それに反するプレイングには気をつけて下さい。
OPに出てきたキャラクターはイメージですので、性別・年齢・性格・口調等は変更しても構いません。
また、ドラマの演出上、プレイングの設定が伏線として扱われ、明確に描写されないこともあります。
●リプレイ本文
何が起きたのか、よく分からなかった。
ただ、朦朧とする意識の中で、緊急射出レバーを引いたのは何となく覚えていた。
ベッドごと車外へと吐き出される患者──いや、クリーチャー(役:宮内・ミリー(fa1784))の瞳が、自分を見据えていたのを──それが懐かしい誰かの瞳に変わり──それを俺は──
巨躯の男は、ぼんやりとする頭を振った。意識を集中し、現状を把握する。
「そうだ‥‥車内発病事態が発生したんだ‥‥」
装甲救急車9号車内で、巨漢の看護師、甲斐(役:かいる(fa0126))がつぶやいた。
大口径拳銃を手に、甲斐が慎重に車を降りる。
屋内だった。薄暗い室内に、瓦礫と化した内装が散らばっていた。
どうやら9号車はどこかのビルに突っ込んだようだった。シャッターを突き破り、柱に激突して止まったのだろう。ガソリンは漏れておらず、医療機器用の電源も生きていた。
周囲を警戒しながら、甲斐は車両前部へと回った。
助手席の救急隊員は既に事切れていた。甲斐は唇を噛み締め、まだ息のある機関員を運転席から引きずり出す。ベッドの無くなった荷室まで運び、血塗れの医師の横に寝かせて治療する。もっとも、治療といっても、止血剤を振り掛けて包帯を巻き、輸血をする位が関の山だ。早急に病院へ搬送する必要があった。
そうしてから、甲斐は自分の治療を簡単に済ませた。最初に怪我をした自分が一番軽傷とは皮肉だった。
甲斐は、ビルの中からそっと外の様子を窺った。遠くに射出された患者用ベッドが見えた。クリーチャーの姿は無く、代わりに、ビル壁に激突して動かない傭兵たちのAPC‥‥
「クソッ!」
突然、甲斐は身を翻すと、救急車へと走り出した。荷室に飛び乗り、扉を閉める。間一髪、どこからともなく現れたシャム猫型クリーチャーの鉤爪が空を切った。
ダァン! クリーチャーが拳を扉に叩きつけた。二度、三度と車が揺れる。甲斐は、座席の下から折りたたみ式の小銃を取り出すと、弾装を叩き込み、扉へと向ける。
患者の──クリーチャーの瞳が、強化ガラスの向こうから甲斐をじっと見据えていた。
「テメェ等と遊んでいるヒマはねぇんだよ!!」
9号車の救助に向かう6号車組。
護衛の傭兵、ベオ(役:ベオウルフ(fa3425))が、進路上のクリーチャーたちにAPCの車載機銃を撃ちまくる。続けて擲弾筒。開いた進路にAPCが強引に割り込み、その後を6号車が続く。
ガンッ、パシャ‥‥!
衝撃と共に、救急車のフロントガラスに血が飛び散り、助手席のソル(役:ゼクスト・リヴァン(fa1522))が息を呑んだ。目を見開く彼の目の前で、ワイパーがそれを洗い流していく。
救急隊員のソルは新人だった。今日が初日で、トウキョウに入るのも直接クリーチャーを見るのも初めてだった。それがいきなり血で血を洗う突破戦。普段は強気のソルだったが、この日ばかりは歯が鳴るのを抑えられなかった。
その横でハンドルを握るベテラン機関員、水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))も、今日はそんなルーキーをフォローできる余裕が無かった。クリーチャーを避け、右に左にハンドルを切り続ける。
やがて、最後の交差点を曲がる6号車。9号車の遭難地点はすぐ先だ。
「頼む、間に合ってくれ‥‥!」
祈る水上の視線の先、目標地点付近で銃火が閃いていた。ウォールブレイカーの分隊とクリーチャーとの戦闘の光だった。
「何て奴だ‥‥。こいつはマジでヤバそうだ‥‥」
水上が呻く。遠目に見ても、件のクリーチャーは別格だった。
ズラリと並んだ重機関銃の銃身が、閃光と轟音と硝煙と銃弾とを吐き出し続ける。銃身の指向する先にはシャム猫型のクリーチャー。しかし、火線の網はクリーチャーを捉える事が出来なかった。
クリーチャーは信じられないスピードで瓦礫を回り込み、横合いから火力支援班に突っ込んだ。射角の外から飛び込まれ、支援班は為す術が無い。鉤爪が振るわれる度に兵が弾き飛ばされた。
「閃光手榴弾!」
分隊長の神宮寺・宗二(役:諒(fa4556))が、それでも冷静に指示を出した。即座に葛城 縁(役:響 愛華(fa3853))が閃光手榴弾を投擲、轟音と閃光とがクリーチャーの動きを止める。そこへ、葛城とリュナ・ルーク(役:葉月竜緒(fa1679))が対大型獣用のスラッグ弾を撃ちまくった。
手負いとなったクリーチャーが後退する。神宮寺は、濃密な弾幕で、そのままクリーチャーをとあるビルへ──9号車の突っ込んだビルへと追い込んでいった。
「チェックメイトだ。葛城、焼夷手榴弾を放り込め」
焼夷手榴弾は、数千度の高温を発して周囲を焼き尽くす。狭い屋内であれば、クリーチャーは為す術も無く焼き尽くされるだろう。
分隊支援火器の援護を受けて、葛城とリュナがビルに取り付く。焼夷手榴弾を取り出した葛城がビルの中を覗きこみ、そして初めて9号車に気がついた。
そのすぐ近くにクリーチャー。窓の向こうには甲斐の姿‥‥
「そんな‥‥これ使ったら、巻き込んじゃうんだよ‥‥!」
その時、6号車とAPCが猛スピードで突っ込んできて、車体をビルの前につけた。ウォールブレイカーと9号車の間に割り込む形だ。
『攻撃を止めろ! まだ中に生きている奴がいるかも知れん!』
6号車のスピーカーから、水上の声が響いた。
ここにいれば攻撃されない。そう学習したのだろう。クリーチャーは9号車の側に張り付いて動かず、奇妙な停戦状態が続いていた。
一方、武装救急隊とウォールブレイカーの話し合いもまた、膠着したまま動かなかった。
「我々は、クリーチャー殲滅の命を受けている。それよりも優先される事情は無い」
9号車内に残された隊員の救助への協力を申し入れる水上に、神宮寺はにべも無かった。その表情は冷徹なまでに無表情。その鉄面皮を水上は苛立たしげに睨んだ。
二人の交渉を遠目に見ながら、ベオは普段とは違う様子のリュナに気がついた。聞けばクリーチャーになった患者はキャンプでの知り合いだという。
「そんな‥‥」
トウキョウの現実を突きつけられてソルは絶句した。
「ここじゃ『よくある話』‥‥そう、よくある話なんだ。あいつを、いや、『アレ』を討たなきゃもっと多くの人命が失われる事になる」
「‥‥クリーチャーと化したら、もう助ける事はできない。楽にしてやる事がせめてもの救いなのさ」
覚悟を決めろよ、ベオはそうソルに言った。
ソルは神妙に頷き、視線を地面に落とした。
だから、寂しそうに遠くを見やるベオの‥‥悲しげな瞳に気付いたのはリュナだけだった‥‥
交渉は決裂した。
神宮寺は9号車を無視しての攻撃を譲らず、水上は、救助の為に武装救急隊だけで突入する事を宣言した。
「もう助からんというならともかく‥‥まだ助かる可能性のある奴を見殺しには出来ないんだよ!」
そう言い残して水上が救急車へと去る。武装救急隊の面々もそれぞれ引き上げていった。
その背中を見送りながら、神宮寺は葛城とリュナを呼び出した。
「連中は、これからビル内に突入して身内を救出するそうだ。こちらの人員も半減しているし、奴等が囮になってくれるというなら丁度いい。
‥‥武装救急隊がビル内に入ったら、焼夷手榴弾を放り込め。それでこの戦闘は片がつく」
神宮司の言葉に、葛城は目を見開いて息を呑んだ。それはあんまりだ、とリュナが神宮寺に食って掛かる。
「本隊の命令を思い出せ。『クリーチャーの殲滅が最優先』だ。想像してみろ。あのクラスのクリーチャーがトウキョウ中に溢れる様を。その時、どれ位の被害が出るのかを‥‥」
言われて、葛城は顔を青くした。戦慄に肩を震わせる。地獄に底は無いのかと、そんな事をふと思う。
「だからといって、その為にあいつらを犠牲にするのか!」
なおも食い下がるリュナ。葛城は、静かに顔を上げた。
「‥‥私が、やる‥‥んだよ‥‥」
「縁!?」
リュナが驚愕する。葛城は、青白い顔をしたまま、しかし決然と頷いて見せた。
「絶対に逃がしちゃ駄目‥‥必ず、やっつけるんだよ‥‥」
「そんな‥‥」
呆然と葛城を見やるリュナ。そのリュナに神宮寺は静かに拳銃を向けた。
「リュナ・ルーク。この作戦中、君を拘束する」
兵に両脇を抱えられて連れて行かれるリュナ。それを見ながら、神宮寺が呟いた。
「武装救急隊‥‥連中も所詮、外の人間‥‥我々とは相容れない者たちだ‥‥」
それを聞きながら葛城は、かつての恋人の為にウェディングドレスを探し出し、死んでいった青年の事を思い出していた。
「俺もつくづく馬鹿だとは思うぜ‥‥。逃げてしまえれば楽なのにな」
装甲救急車のキーを捻りながら、水上が悪態をつく。助手席のソルが乾いた声で笑った。
「‥‥準備は出来たか?」
「はい」
答えて、ソルは救急鞄と自動拳銃を掲げて見せた。
「何だその豆鉄砲は。45口径でなくていいのか?」
「あのクリーチャー相手じゃ、そう変わりはないでしょう?」
違いない、水上はそう笑うと、やおら真面目な顔で呟いた。
「行くぞ。死ぬなよ」
「勿論」
同じく、真面目な顔でソルが答える。頷くと、水上はアクセルを踏み込んだ。
ビルのシャッターを吹き飛ばして装甲救急車6号が突入する。
驚いて飛びのくクリーチャー。
水上は、出来うる限り9号車に近づいて停車。助手席からソルが飛び出した。
続けてベオがAPCを飛び降りる。
「外に出るのは俺だけでいい! お前たちはAPCから出るな! ‥‥援護射撃!」
ベオは部下たちに命じると、そのまま走ってソルの横に付いて護衛する。
9号車までの距離は約20メートル。
ソルは、牽制のために拳銃を撃ちながら、9号車へと走った。
「それは俺の仕事だ。お前はまっすぐ走ればいい」
俺が守ってやる、と努めて余裕たっぷりにベオが言った。表面上は冷静を装っていたが、相手の能力を考えるとさすがに胃が痛くなる。
こちらに気付いたクリーチャーに、ベオは手榴弾を放った。2個、3個と投擲し、クリーチャーを近づけさせない。
9号車に到達したソルが拳銃の銃床で扉を二度叩く。勢い良く扉が開かれ、甲斐の巨体が姿を現した。
「負傷者は2名、重傷だ。急いでくれ!」
焼夷手榴弾を投げ込む為、シャッターから中を覗いた葛城が見たものは、負傷者の為に命を懸けて奮闘する武装救急隊の姿だった。
それを見た時、葛城は、かつて、ウェディングドレスを探す青年に付き合って、トウキョウ中を巡った武装救急隊の事を思い出していた。
あの時、彼等や私たちの任務は、青年をキャンプまで連れ戻すことだった。にもかかわらず、自分が死ぬ前に、昔の彼女に結婚式のウェディングドレスを送りたいという青年の願いを叶える為に、私たちは命を懸けたのだ‥‥
結果として青年は死んだ。武装救急隊は彼を助ける事が出来なかった。頭では仕方のない事だと分かっていても、葛城は彼等を許せなかった‥‥
だが、それは‥‥彼等とて同じではなかったか。
無力な自分を許せず、悩み、責めて‥‥それでも彼等はまだここに──トウキョウに残っている。
自分に出来る事があると信じて‥‥
APCの弾幕を突破して、クリーチャーが肉薄してきた。
ベオの背後には、負傷者二人を抱えるソルと甲斐。退くことは出来ない。ベオは足を止めて散弾銃を撃ち放った。
一発、二発、と上半身に弾を集中させ仰け反らせる。ダメージを受け続けたクリーチャーには当初の強さはない。
何とか抑えられる、ベオがそう確信した時、ぐりん、と血塗れの上半身がベオを向いた。瞬間、脳裏に浮かぶ光景──血塗れで倒れた女性──俺の、最、愛した、女性、、、俺が、ころした、。
腕が震えた。一瞬。次の瞬間、鉤爪がベオに振るわれた。
「ッ!?」
舌打ちして、即座に飛びのくベオ。鉤爪は防弾ベストを引き裂いて、ベオを地面に叩きつけた。
ズン、と一歩踏み出すクリーチャー。その視線が甲斐とソルを捉え──
バスンッ!
と、何かがクリーチャーの側頭部をはたいていった。
ぐらり、と倒れかけ、持ち堪えるクリーチャー。そこへ二発、三発とスラッグ弾が叩き込まれる。
「早く、ここから出るんだよ!」
葛城だった。セミオートの散弾銃で銃撃を浴びせかける。
甲斐は倒れたベオをも抱え上げると、6号車へ飛び乗った。息を切らせたソルが続き、葛城も乗る。そして焼夷手榴弾が放られた。
「出してくれ、機関員!」
甲斐が叫ぶと同時に、6号車とAPCはビルを飛び出した。
焼夷手榴弾は、あっという間に数千度の熱を吐き出した。一瞬で可燃物が燃え上がり蒸発する。9号車のガソリンも爆発、高熱は金属をも溶かしてゆく。
生き残れる生物など、この世にいるはずも無かった。
「これ以上の地獄に堕ちる前に‥‥燃えるんだよ‥‥」
葛城が言う。それは鎮魂の言葉だった。あるいは未来の自分への‥‥
無事に全員生きて戻ってきた武装救急隊に、神宮寺は特に感想を漏らさなかった。
神宮寺にとっては『クリーチャーの殲滅』という結果以外は瑣末事に過ぎないのだった。
立ち去る武装救急隊とウォールブレイカーと。
「何時か‥‥判り合えたら良いね」
二つの勢力の遠い背中を見つめて葛城は呟いた。