クルトの戦記 船旅編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/27〜10/01

●本文

 ソルメニア王国領には二本の大河が流れている。
 一つは、王国の中心、平原の北部を流れるソルメ川。
 こちらは『歴史ある』大河で、幾つもの商業都市を経て、王都『イル・ソルメ』へと流れ着き、大海に至る。
 もう一つが、クラーベ山脈を源とし、我が『山の民』の故郷グライブ山地を抜け、大陸南部を流れ行くティディス川だ。
 家族同様だった『平原の民』の少年シンを連れ去った謎の剣士たちは、このティディス川を下っていった。彼等を追って旅に出た私はようやく川港の町『ルイン』に辿り着いたが、ここでも賊が上陸したという情報は得られなかった。
 ティディス川は、川港の町ルインの下流で大きく南へ曲がっており、もし王都へ行くのならルインで上陸するのが普通だった。調査の末、賊の船に食糧と水を積み込んだという男の話を聞く事が出来た。
 賊はさらに川を下ったのだ。
 かくして、私は、生まれて初めて船上の人となった。
                          ──老クルト・エルスハイム、自らの人生を振り返りて記す──

 ようやくそれらしい情報を得たものの、旅立ちから既に半年が経過していた。
 徒歩で旅を続けていては差が開くばかりだ。船で後を追おうと思ったが客船の類があるわけでもない。私は、何とか商船に潜り込む事はできないかと考えた。
「荷運びなら足りている」
 一番早くに出発する商船の船主は、『山の民』の私を見るなりそう言った。
「そうじゃない。船に乗せて欲しいんだ。金は払う」
 私がそう言うと、船主は胡散臭そうに私を見た。値踏みするように見回すと、そんなスペースは無いと鼻で笑った。
 ならば船員として雇ってくれと食い下がると、船主は煩わしそうに手を振った。
「小麦50袋、荷を満載した船が来た。ルインで30袋売れたので、代わりに塩と砂糖を10袋分ずつ積んで荷を満載に戻した。その後、ハインで小麦8袋、塩と砂糖が5袋ずつ売れた時、この船にはどれくらいのジャガイモが積めるか?」
 思いつきの出鱈目に船主が言った。これくらい計算できないようじゃ船には乗せれん、と仕事に戻ろうとする。
「小麦23袋分の重さのジャガイモが積める」
 私が答えると、船主は目を瞬かせた。思案顔になり、適当に言った問題を計算する。そして、数学上の答えが当たっている事に気付くと、船主は目を丸くした。
 この時代、商人でも無い限り複雑な計算は出来なかった。ましてや、私は『山の民』だ。驚くのも無理は無い。
「面白い‥‥」
 船主は呟くた。
「船長! この『山の民』を古都『アリアス』まで乗せていってやれ。なに、こき使って構わんぞ」

●出演者及びスタッフ募集
 以上が、アニメ『クルトの戦記 船旅編』の冒頭部分となります。
 このアニメの制作に当たり、出演者とスタッフを募集します。

●アニメ『クルトの戦記』
 『クルトの戦記』は、ファンタジー世界を舞台にしたアニメです。
 山岳部族『山の民』でありながら、爵位を持つ貴族にまで上り詰めた英雄クルトの一代記です。
 主人公クルトの人生を彩るキャラクターを制作し、
『クルトにどう関わるか』
 をプレイングに記述して下さい。
 そのプレイングで、クルトの歩む人生が決まります。

 今回の話は、『川を下る船の上』でのお話です。
 船上という状況を活かしたキャラと脚本が求められます。

 なお、リプレイは、劇中(放映されるアニメ本編)描写となります。

●設定
1.世界観
 いわゆる普通の(?)、機械や銃などが登場しない剣と魔法のファンタジー世界です。
 魔法についても、極めれば神にも等しい力を行使できますが、そういった人は世界にも稀です。
 ちょっと便利な人、程度の魔術師は珍しい存在ではありません。

2.ソルメニア王国
 18年前、平原に割拠する小国のことごとくを平らげ、平定した『剣王』が建てた国。
 英雄『剣王』も歳を取り、強力な魔術師である宰相が国を思うがままに動かしています。
 最近、『剣王』の孫である姫君の姿を、王宮で見かけなくなりました。(少年編)

3.ティディス川の商人
 一本から三本のマストを持つ小型帆船(乗組員は数人から数十人まで)で河川流通を行っています。
 大抵の商人は、古都『アリアス』に接する巨大湖『アリア湖』で流通を行っていますが、川上の『ルイン』まで出張る商人もいます。
 湖では稀に、海賊ならぬ湖賊や魔物も出る事がありますが、戦闘の出来る船員より、風や水の魔法を使える者が重宝がられています。

4.山の民
 王国東部の山岳地帯に住む少数民族です。
 王国に暮らす『平原の民』(ファンタジー世界に住む一般的な人間)よりも、頭一つ分大柄で頑健です。
 野蛮人と見られがちで、山の下では差別と偏見に晒されていますが、実際は素朴な人々です。
 『平原の民』の魔法は使えませんが、極稀に精霊の加護を得る者もいるようです。

5.今週のクルトくん
 今回のシナリオ時点でのクルトの能力値です。

名称:カイツの息子クルト  種族:山の民  性別:男  年齢:18
体力:高  知力:やや高+  敏捷:やや高  魔力:極低  魅力:普通+  加護:特殊
戦闘技能:弓5  短剣3  格闘3  大剣2
肉体技能:サバイバル(山・森)5  隠密4
精神技能:調理3  応急処置2  農業2  商業0
学術技能:読み書き2  算術2  歴史5
武器:短弓  短剣  大剣+3
所持品:小木箱(金貨)  小袋(銀貨)  青い石のペンダント  開かずの小袋(謎)

●今回の参加者

 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4550 リリン(18歳・♀・豹)
 fa4643 夕波綾佳(20歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 クルトが乗ることになった商船は、彼が思っていたよりも立派なものだった。
 三本マストの外洋の航海にも耐えられるタイプで、乗員は50名以上。それでも、大海を往く船にしては小さな方だという。
 船長は、船乗りにしては線の細い男だった。年の頃は二十代後半で、セイル(CV:藤井 和泉(fa3786))と名乗った。
「君には積荷の管理を任せようと思う。船上での力仕事は、慣れるまでが大変だから」
 クルトと船主のやり取りを聞いていたセイルはそう言った。船頭であるセイルの補助ではあるが、これは中々に思い切った決断だった。
 出航前の準備は忙しい。早速、クルトは、セイルに案内されて船荷の集積所へと向かった。
「ハーベイ!」
 セイルが一人の水夫を呼んだ。こちらは船乗り以外の職業が考えられないような体格のいい大男だった。
 クルトに積荷の管理を任せる。セイルがそう言うと、ハーベイ(CV:Rickey(fa3846))は胡散臭そうにクルトを見た。
「‥‥『山の民』だろ? ちゃんと仕事が出来るのかぁ?」
 セイルが去った後、ハーベイはそう言って、これ見よがしに溜め息をついた。積荷の管理? 何の冗談だ? と肩を竦める。
 ハーベイは、半眼でクルトを見やりながら怒鳴りつけた。
「おい新入り! そこの荷物を運んでおけ! 絶対に傷なんか付けんじゃねぇぞ!」
 そう言って、自分の分の荷を担いでさっさと先に行くハーベイ。
 クルトは、積荷の管理をするんじゃなかったか、と思ったが、実際、水夫の仕事がどういうものかも分からない。少しの間考えて‥‥とりあえず荷を運ぶことにした。
「あら、クルトさん。貴方もこの船に乗るのですか?」
 荷を運んで桟橋を歩いていると、聞き覚えのある涼やかな声がクルトの耳に入ってきた。
 異国の装束に身を包んだ行商人メリッサ(CV:姫乃 舞(fa0634))だった。
「今回は水夫さんですね。船に乗るのは初めてですか?」
 いつもの事ながら、メリッサは神秘的な雰囲気を纏っていた。幾らか緊張した面持ちでクルトが答えようとした時、ハーベイの罵声が聞こえてきた。クルトは軽く頭を下げて立ち去った。
「‥‥とうとうここまで来てしまったのですね‥‥。本当に、これで良かったのでしょうか‥‥?」
 その背中を眺めながら、メリッサは哀しそうに呟いた。
「それとも‥‥あなたなら、運命さえも変えられるのでしょうか‥‥?」
 メリッサの問いに、答えるものはなかった。

 陽光煌く蒼空に、純白の帆が翻る。
 川港の町ルインを出港した商船は、早朝の川風を帆に孕んで大河ティディスをひた走った。
 出港直後のドタバタが一段落すると、セイルは休息中の水夫たちの所へ事情を聞きにいった。積荷の管理を任せたはずのクルトが荷運びをしていたからだ。
 水夫たちは不満を隠しもせず、逆に何で『山の民』なんかに積荷の管理を任せるのか尋ねた。セイルは苦笑しながら、船主とクルトとの問答を聞かせてやった。
 水夫たちがざわめいた。ハーベイは、偶然に決まってる、と吐き捨てた。
「ハーベイ、お前、まぐれでも解けるか? ‥‥そういう事だ。まあ、見ていろ」
 そうして、クルトは荷の管理を任されるようになった。最初は反発したハーベイ等の水夫たちも、クルトの仕事ぶりを見る内に何も言わなくなっていた。

 途中立ち寄った川港にて、商船は幾人かの相乗り客を乗せることとなった。
 偶然か必然か。その中の何人かはクルトの知った顔だった。
「こんな川の上でまさか『山の民』に会えるとは思ってませんでした」
 黒髪を三つ編みにした『山の民』の薬師の少女レン(CV:夕波綾佳(fa4643))と、同じく『山の民』で長い黒髪の美しい女商人カナン(CV:大曽根カノン(fa1431))とが、船の舷側で話に花を咲かせていた。同郷であり、同世代であり、かつ同じく行商に携わる者という事もあって、話の種は尽きなかった。
「アリアスティディスに存在するという、幻の薬草を求めて旅をしてます。なんでもその薬草は、ちょっとした病気ならすぐに治してしまうとか」
「そうなんですか。私も、この地方特産の珍しい果物を仕入れにいく途中なんですよ」
 旧アリアスティディス王国はかつて、森と湖の王国と言われていた。薬や果実を扱う商人には仕事のし易い土地だ。
 そこへ、一仕事終えたクルトが通りかかった。
「あら? クルトさん? やっぱり。こんな所で何をしているんですか?」
 水夫の格好をしたクルトに驚きつつも、カナンがにこやかに挨拶を交わす。邪魔になると思ったのか、レンがちょこんと頭を下げて離れていった。
「こうして会うのは三度目ですね。あれから調子はどうですか?」
 心配そうに尋ねるカナン。クルトは、カナンにこれまでの経緯を語って聞かせた。
 前回の魔物戦の話で盛り上がる二人。少し離れた所で聞き耳を立てているレンの耳がぴくぴくと動く。
 話が、クルトの負傷に及んだ時だった。
「怪我をしてるんですか?」
 離れていたレンが、いつの間にか二人の側まで寄って来ていた。薬師として怪我という言葉が聞き捨てならなかったらしい。
「見せて下さい!」
 レンが無理矢理クルトの上着を捲り上げた。呆気に取られるクルトとカナン。レンが使用した薬草や魔物の特徴を根掘り葉掘り尋ねてくる。クルトは苦笑しながら、もう完治した傷だから、と説明した。
「そ、それは失礼しました」
 真っ赤になったレンが再び離れようとする。カナンがそれを引き止めた。
「まあ、平原で『山の民』が三人も顔を合わせるのは珍しい事ですし‥‥」
 カナンは、荷から林檎を取り出すと二人に振舞った。短刀を取り出し、器用に皮を剥いていくカナン。差し出された林檎は、可愛いウサギさんの形に切られていた。

「お姉さぁぁん、俺と一緒にお茶しませんかぁぁぁ?!」
 クルトたちがくつろいでいると、全身黒尽くめの少年が一直線に走り寄ってきた。両腰に小剣を提げたその少年はジョルト(CV:相麻 了(fa0352))といい、クルトの顔見知りであった。
「あら、ジョルトさん。お久しぶり」
 同様に顔見知りであるカナンが動じることなく挨拶をする。一方、初めて顔を合わせるレンは、ジョルトの勢いに驚いて声も出なかった。
 獲物を見つけたジョルトの目がきゅぴ〜んと光る。クルトはさりげなくレンを庇うように立ち位置を変えた。『山の民』の男にとって、女性を守るのは当たり前のことだった。
「あれ? クルト、居たんだ‥‥って、あ痛たたたっ!?」
 そんなジョルトの耳たぶを、手慣れた手つきで摘み上げる女性がいた。理知的な印象の美人だった。
「貴方がクルトさんですか。はじめまして。私はエアリーと申します。うちの若が大変失礼を致しました」
「いてててて、ちょ、エアリー、なんでここに‥‥!? あはは、クルト、お姉さん方、また後で〜」
 エアリー(CV:リリン(fa4550))と名乗った女性は、そのままジョルトをデッキの端まで連れて行った。それから周りに人がいないのを確認すると、小声でジョルトを怒鳴りつけた。
「どうしたっていうんですか、若。こんな予定にない行動を取って‥‥!」
 ジョルトは、頭をポリポリと掻きながら、クルトに視線をやった。
「いや、なんか、あのクルトって、妙に気になるんだよね」
 軽薄に笑うジョルト。エアリーは大きく溜め息をついた。

 商船は無事にアリア湖に入った。だが、試練はこれからが本番だった。
 湖は比較的平穏だが、稀に湖族や魔物が出ることもある‥‥が、『山の民』であるクルトにとって、第一の試練は船酔いだった。
「湖って、結構波があるんですねぇ‥‥」
 クルトと同様にグロッキー状態のカナンが呟く。レンが船酔いの薬を調合して飲ませてやるまで、二人の地獄は続いた。
 試練は続けてやってきた。
「左舷後方、距離20、同航する船影あり。針路交差!」
 見張り台のハーベイが叫んだ。舵を握っていたセイルがその方向に目を凝らす。両船の針路は交錯するが、風上にいる向こうが針路を変える気配はない。
「湖族か‥‥ハーベイ、操舵を代われ! 私は水魔法に専念する。‥‥誰か、風か水の魔法を使える方はいらっしゃいませんか!」
 セイルの呼び掛けにレンが手を上げた。半人前ですけど、と恐縮するレンに、セイルは、とにかく針路方向に風を吹かせるように要請した。
 商船の速度がグンと上がる。開いた湖族船との距離は、しかし、すぐに再び縮み始めた。船の性能差か魔力の差か。完全に敵の方が優速だった。
 セイルが舌打ちする。
「総員、白兵戦に備えろ!」
「グズグズするな! 客人を船倉に連れて行くんだ!」
 斧を手にしたハーベイが、クルトにそう怒鳴りつけた。

 湖族船の甲板で、短槍と皮鎧で武装した隻眼の女が薄く唇を歪めていた。
 湖族『水竜』の女頭目、ガラリア(CV:仙道 愛歌(fa2772))だった。
「一日で二隻の獲物に出会えるなんざ、アタシも運がいい」
 湖族『水竜』は、すでに別の商船を一隻屠った後だった。船倉は奪ったお宝で一杯だったが、『水竜』は飽くまで貪欲に新たな獲物をも丸呑みにしようとする。
「さすがにもうお宝は載せれないね‥‥お前たち、あの船ごと奪っちまうよ!」
 ガラリアが叫ぶと、配下の荒くれ男共が喚声を上げる。
 彼等の獲物はもう目の前まで迫っていた。
 
 矢の応酬はごく短い時間で終わった。すぐにフック付きのロープが掛けられ、湖族たちが次々と乗り移ってくる。
 クルトは、乗客や非戦闘員を連れて船倉へと下りていった。荷の隙間に座らせ、ここから動かないようにと指示を出す。
「湖族共が。弱い者から奪ってどうする。盗賊の端くれなら誇りを持ちやがれ」
 端正な顔を怒りに歪ませてジョルトが悪態をついた。
「若!?」
 双剣を抜き、デッキに出ようとするジョルトをエアリーが呼び止めた。
「大丈夫、盗賊王子は負けねぇよ」
 ジョルトはにかっと笑うと、そのまま風のように船倉を出て行った。
 一方、クルトもこのままここで敵が来るのを待つつもりはなかった。デッキでは一人でも多くの戦力を必要としているはずだった。
 それでも、長刀を手について来ようとするカナンを押し留め、風刃の魔法が使えるというレンと共に、船倉に残した。彼女たちまで連れて行ったら船倉の非戦闘員たちが不安になる。そう判断したからだ。

 セイルの指揮の下、善戦した水夫たちだったが、やはり人殺しを生業とする者たちには抗し難かった。
 乱戦にならぬように戦線を維持しつつも、傷つき、倒れ、次第に追いつめられていく。
 倒れた味方を助けようとして、ハーベイが湖族に肩口を切り裂かれた。斧を取り落とし、膝をつくハーベイ。止めを刺そうと曲刀を振り上げた湖族の背に、クルトの放った矢が突き刺さった。
 クルトは大剣を引き抜くと、負傷したハーベイの代わりに戦線に入った。皆より一歩前に出て、近づく敵を薙ぎ払う。
「意外とやるじゃねぇか。『山の民』ってのは皆そうなのか?」
 苦痛に顔を歪めながら、ハーベイがニヤリと笑って見せた。

 クルトの戦いぶりを見て、ガラリアは不敵に笑った。
「おい。アタシはあのでっかいのをやるから、お前たちは他の相手をしな」
 部下に指示を出し、ガラリアがクルトの前に出る。短槍をクルクルと回しながら、ガラリアはちょいちょいと指でクルトを誘った。
 クルトが踏み込んで大剣を振り下ろす。腕力を活かした高速の一撃は、しかし、難なく避けられた。
 高速の突きがクルトを襲う。からかう様なガラリアの槍捌きは、クルトの身体に幾つもの浅い傷を刻んでいった。
 クルトは槍を相手に戦うのは初めてだった。そして使い手の技量も違いすぎた。今のクルトではガラリアには勝てないだろう。
 ガラリアがクルトの相手にも飽きたその時、轟音と共に、湖族船の舷側に水柱が上がった。
 呆気に取られる皆の前で、湖族船がギギギ‥‥と嫌な音を立て始めた。
「冗談じゃない。あれには山ほどお宝が積んであるんだ。野郎共、撤収だ! 早く穴を塞ぐんだよ!」
 慌てた湖族たちが自分たちの船に戻っていく。その隙に、商船は戦場を離脱した。
「船底に穴を開けてきてやった」
 いつの間にか戻ってきたジョルトがフンと息を吐いた。
 だが、すぐに、娘さんたちに気付いたジョルトの表情はだらしなく緩む。
「いやー、やっぱ俺って頼りになるでしょ、ね、ね?」

「君の旅の無事を祈らせてもらうよ。『山の民』クルトに精霊の加護があらん事を」
 古都アリアスの桟橋で、商船を降りるクルトにセイルがそう言って右手を差し出した。その手を握り返し、クルトは乗船の礼を言った。
「お前は俺なんかよりよっぽど頭もいいし強いんだな。今まで馬鹿にして悪かった。許してくれるか?」
 ハーベイの謝罪に、クルトはくすぐったそうな顔をして右手を差し出した。その手を握り返し、ハーベイがにかっと笑う。
「また川を渡るような事があれば、この船に乗れよな。その時はまたこき使ってやるからよ!」
 ハーベイの冗談に笑顔を返し、別れの手を振りながら、クルトは古都アリアスへと足を踏み入れた。

「星たちが告げています。変革の時が来た、と‥‥。クルトさん‥‥迷った時は自分の心の声に耳を傾けて下さい。あなたならきっと‥‥より良い未来を選択する事が出来るでしょう‥‥」
 夕陽を背に市街へと入っていくクルト。それを遠くに眺めながら、神秘の人メリッサが呟いた。
 クルトの行く末を暗示するかのように、一際強い風が吹き抜ける。
 やがて風が通り過ぎた時、そこにはもう、メリッサの姿は見当たらなかった。