武装救急隊 ある休日アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 柏木雄馬
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/09〜10/13

●本文

 ──20XX年。新型爆弾に汚染され、『長城』により閉鎖された旧トウキョウ地区。
 隔離された内部には、新型爆弾の影響で異形の姿になった人々が見捨てられていた。
 各地にキャンプを作り、身を寄せ合って暮らす異形の人々。
 そんな彼等を救うべく設立された民間の武装救急団体──

 ドラマ『武装救急隊』は、そんな世界を舞台にしたオムニバスドラマです。

●ドラマ『武装救急隊 ある休日』
 その日のウエノ公園キャンプは随分と慌しかった。
 かつて報道陣を受け入れる為に仮設されたヘリポート。そこに双ローターの大型輸送ヘリが爆音を響かせながら下りてくる。
「何だありゃ?」
 救急パトロールを終え、キャンプへと入る装甲救急車。その窓から、常とは違うキャンプの様子を窺いながら、機関員が訝しげに呟いた。
 機関員は車を路肩に停車させると、窓から身を乗り出して、近くにいるNGO職員──ワッペンは物資輸送隊のものだった──に声をかけた。
「ヘリでの物資輸送でも始めたのか?」
「違いますよ。『外』の医師さんたちが病院陣地へ視察に入ったじゃないですか? そのトウキョウ視察団の先生たちが、予定を変更して各地のキャンプを回ることになったみたいで‥‥それで急遽、僕たちがこうして手伝いに駆り出されたんですよ」
 機関員の言葉に、まだ若いその輸送隊員は笑顔で答えた。
 ローターを回したままのヘリから白衣を着た人々がぎこちなく下りてくる。若い輸送隊員は彼等を誘導すべく走っていった。
「ふーん。現場を見たいなんて、随分と真面目な『先生』たちだな」
 どこか皮肉気につぶやいて、機関員はアクセルを踏んだ。
 ゆっくりとその場を去る装甲救急車。乗員を降ろしたヘリが上昇し、入れ替わりに別のヘリが下りてくる。
 乾いた大地を風が叩き、砂が吹かれて舞い上がった。

 医師たちがキャンプ入りした関係で、武装救急隊の面々は突然の休暇を頂戴することになった。
 医師たちがキャンプを離れる明後日の昼まで、つまり明日は丸一日、武装救急隊はお役御免ということになる。
「はぁ、そうですか‥‥」
 武装救急隊ウエノキャンプ分室、という名のプレハブ小屋の休憩室。
 急須で茶を入れながら‥‥急な休暇について聞かされた若い救急隊員は、随分と気の無い返事をした。
「どうした。あれ程欲しがっていた休暇だぞ? 少しは嬉しがったらどうだ」
 機関員がからかうように言った。
「そうは言っても、急な事で予定も何もあったもんじゃないし‥‥正直、微妙で‥‥」
「ま、そうだろうな」
 機関員は、思いっきり伸びをして安物のソファに横になった。装甲救急車にリクライニングは無い。背中や腰がポキポキと鳴った。
「で、先輩はどうするんですか? 明日の休暇」
「さて‥‥久しぶりにシャバに出てみるか‥‥寮の自室で昼まで寝てるか‥‥」
 大きく欠伸をする機関員。救急隊員が茶の入った湯飲みをその前に置いた。そうして自分には紙コップにコーヒーを注ぐ。
「とりあえず、これ飲んだら飯にしましょう。知ってますか? キャンプ内に飯屋が出来たんですよ」
 元料理人の避難民が道楽で始めたらしい。配給の食糧を持っていくと、それを調理してくれるという。お代はその食糧の1割。10人客が入れば一食分になる。
「隊の食券でも飯を出してもらえますよ。輸送隊との交渉に使えるとかで」
 一回くらい行ってみるか‥‥。身体を起こした機関員がそう返事をする。茶を啜りながら、頭では別の事を考えていた。
「‥‥味にこだわる余裕が出てきたか」
 感慨深く、機関員が呟いた。
 かつて、キャンプに集まった人々は生きる事だけで精一杯だった。それが今では、限られた状況、限られた運命の下、精一杯『生きて』いる。
「ここも‥‥このまま普通の町になるのだろうか‥‥」
 言いながら、機関員は頭を振った。
 そんな未来を望まぬ者もまた、このトウキョウには存在する事を。機関員は知っていた。

●出演者募集
 以上がドラマ『武装救急隊 ある休日』の冒頭部分になります。
 このドラマの制作に当たり、出演者を募集します。
 PL(プレイヤー)のプレイングとその判定がドラマの脚本となり、
 PC(キャラクター)がそれを演じることになります。

 OPに出てきたキャラクターはイメージですので、性別・年齢・性格・口調等は変更しても構いません。

●目的と制約
 オープニングと設定を使って、ドラマを完成させてください。
 皆で協力して、ドラマを作り上げる事が目的です。

 今回は、武装救急隊員が突然の休暇を得た所から始まります。
 隊員とそれに関わる人々とで、休日の行動・出来事をドラマにして下さい。
 ただし、隊員たちに、
『武装救急隊員である事、または、隊員を今後も続ける事』
 を再認識・再確認させる方向でストーリーを収束させて下さい。

 なお、ドラマの時間枠は限られています。
 シーン数が多くなれば、それだけ個々のシーンに割ける時間は少なくなります。
 また、ドラマの演出上、プレイングの設定が伏線として扱われ、明確に描写されないこともあります。

●設定
1.武装救急隊
 隔離された旧トウキョウ地区に取り残された人々を救済する為に結成されたNGO。
 その医療・救急部門が『武装救急隊』です。
 危険地帯を突破して現場に到着する為に『装甲救急車』を複数台保持しています。
 装甲救急車の乗員は、
『機関員(運転士)、救急隊員(兼サブ運転士)、医師(兼救急隊長)、看護師』
 の4名からなります。
 装甲救急車には護衛の傭兵の乗ったAPC(装甲兵員輸送車)が常に随伴します。

2.物資輸送隊
 武装救急隊と同じNGOの輸送部門です。
 APCに支援物資を積み込み、キャラバンを組んで各キャンプに運びます。

3.キャンプ
 新型爆弾の影響を受け、隔離された人々が集まる場。
 しっかりとした自治組織が存在し、政府と民間団体の援助を受けて生活しています。
 比較的平穏ですが、常に『発病』の恐怖が人々に付き纏っています。
 最近は、結婚式や七夕祭りも行われ、避難の場から生活の場へと変わりつつあります。

4.新型爆弾
 現実にはありえない不思議爆弾。
 劇中でこの新型爆弾について語られる事はありません。
 この新型爆弾の影響で、トウキョウは『クリーチャー』の跋扈する隔離地域になりました。

5.クリーチャー
 新型爆弾の影響で発生した生物兵器的モンスター。
 既存の生物を戦闘に特化した存在です。
 当然、人間も例外ではなく、『発病』するとクリーチャーになります。
 人間型クリーチャーは、完全獣化状態で表現されます。

6.武装勢力『ウォールブレイカー』
 外界への解放を求め、トウキョウ地区を完全隔離する壁『長城』の破壊を目指すグループ。
 テロリストであると同時に、山賊化した武装勢力を討伐する自警組織でもあります。

●今回の参加者

 fa0126 かいる(31歳・♂・虎)
 fa0748 ビスタ・メーベルナッハ(15歳・♀・狐)
 fa1679 葉月竜緒(20歳・♀・竜)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)
 fa3425 ベオウルフ(25歳・♂・狼)
 fa3662 白狐・レオナ(25歳・♀・狐)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)

●リプレイ本文

「自暴自棄になっているわけではないのだな?」
 閉鎖地区トウキョウ某所──薄暗いビルの一室にて。
 ウエノキャンプの自警団を束ねるウォールブレイカーの小隊長が、扉の前に立つ若い女兵士に言った。
 女兵士の名はリュナ・ルーク(役:葉月竜緒(fa1679))。前回の作戦時に命令違反を起こして拘束されていたウォールブレイカー、だった。
 今はもう違う。彼女は隊を抜ける事を、小隊長に宣言した。
「前回の事、あたしは納得がいかないんだ。だから、抜けさせてもらう」
 頑なに復帰を拒否するリュナに、全ては君が隊に戻れるように考えた結果なのだがな、と、小隊長は小さく溜め息をついた。
「ウォールブレイカーも小さな組織では無い。色々な考えを持った者がいるだろう。その立場の違いを私に見せてくれればよかったのだが‥‥今さら言っても詮無き事‥‥
 ‥‥いいだろう。ウォールブレイカーは、命令系統こそあれど主従ではなく同志。去る者は追わん。
 さらばだ、リュナ・ルーク。今までありがとう、と言っておく」
 舌打ちし、去っていくリュナ。その背中を、小隊長は悲しげに眺めやった。
「攻め所と引き際を誤ったな、リュナ・ルーク。仲間に迷惑を掛けたのは事実。君はまず、それを皆に謝るべきだったのだ‥‥」

 平屋建てのプレハブ長屋の並ぶウエノ公園キャンプ、広場。
 武装救急隊に所属する水上 隆彦(役:水沢 鷹弘(fa3831))と天城 静真(役:天城 静真(fa2807))が、制服姿で連れ立って歩いていた。
 かつては沈みがちだったキャンプの雰囲気も、今はどこか活気のようなものを感じさせる。
 天城が表情を綻ばせた。
「へっ、マスコミもたまにゃ役に立つじゃねえか」
 ウエノ公園キャンプの人々の表情は、以前に比べて確かに明るくなっていた。
 多数の報道陣がキャンプの実情を伝え、援助物資も格段に増え、生活にも余裕が出来てきた。そして今日は、外の医師たちがやって来て自分たちを診てくれる。
 住民たちは、外の世界との繋がりを実感しているのだろう。たとえそれが蜃気楼の向こうの世界だとしても。
「うん? あいつは‥‥」
 人ごみの中に見知った顔を見かけたような気がして、天城は表情を強ばらせた。自警団員リュナ・ルーク。正体はウォールブレイカー‥‥
「水上さん、あの話って本当だったんスか? 連中が隊員ごとクリーチャーを焼き払おうとした、って‥‥」
 天城が水上を振り返った。そうみたいだな、と水上が答えると、天城は軽く頭を振った。
「いつかは分かり合えるやつらだと思ってたんだがなぁ‥‥俺が甘かった。結局、目的の為には手段を選ばないテロリストに過ぎなかったか‥‥」
「まあな‥‥。ただ、俺たちを助けたのもウォールブレイカーだったしな‥‥」
 歩く二人の足元に、どこからかサッカーボールが転がってきた。少し離れた場所で子供たちが手を振っている。遊具も援助物資として届くようになったのだろう。
 よぅし、と呟き、天城がボールを拾って子供たちの輪の中に入っていった。
「元気な事だ‥‥」
 水上は苦笑して‥‥そこで、子供たちを見守る若い女性の姿に気がついた。

 その女性は、子供たちから少し離れた木陰で、木に背中を預けて座っていた。
 ウォールブレイカーの分隊長、葛城 縁(役:響 愛華(fa3853))だった。愛用の散弾銃を抱え込み、ぼんやりと子供たちを眺めている。
「よう」
「あ‥‥」
 水上が声をかけると、驚いた葛城は思わず距離を取っていた。水上は特に気にした風もなく、立ったまま、天城と遊ぶ子供たちを眺めやる。
「‥‥こうして見ていると、外の子供たちと何ら変わらんのにな」
 はしゃぐ子供の姿はどこでも一緒だ。違うのは、ここの子供たちは常に『発病』と隣り合わせだということ。
「‥‥みんな、ここでの生活で幸せを得ようと頑張り始めている‥‥でも、結局、何が変わったわけでもないんだよ。
 みんな、幻の幸せを求めてる。それは壁の中の、箱庭の中のイミテーションなのに」
 前を向いたまま、葛城が呟く。沈黙。ボールが弾み、子供たちの笑い声が聞こえてくる。
「‥‥『長城』の外に楽園があるとは限らないぞ?」
 残酷な事を、敢えて水上は言葉にした。葛城が地を蹴って立ち上がる。
「それでもっ! ‥‥それでも、私は生きて故郷に帰りたい! 『外』を知らない子供たちに、その世界を見せてあげたい! このままで終わらせたりなんかしない。私は『普通』に生きたいっ!」
 荒い息をつき、真正面から水上を見据える葛城。目から涙がぽろぽろと溢れていた。
「クリーチャーに成り果てて、守るべき人々を自ら切り裂いて、挙句に討伐されるような無残な最期を遂げたくない‥‥。私はっ‥‥私たちは、いつ救われるのかな‥‥っ」
 しゃくりあげる葛城。泣き続ける彼女に、水上はそっとつぶやいた。
「神ならざる身には分からないが‥‥だからこそ、人は自分に出来る事をするしかない。‥‥恐らく、ここのキャンプの人たちも、そう考えて頑張っているのだろう‥‥」
 やがて、子供たちに『遊ばれ疲れた』天城がこちらに戻ってくる。
 水上は、葛城に、これから噂の飯屋に行くのだが一緒に行くか、と尋ねた。葛城は少し驚いた表情を見せたが、静かに首を横に振った。
 水上と天城が去り、子供たちが葛城の所へ集まってくる。
 葛城は、背嚢から食料を取り出すと、全て子供たちに渡してやった。
「これで美味しい物を食べておいで」
 歓声を上げる子供たち。葛城は静かに微笑んだ。

 いくら身体を動かしても、一向に気は晴れなかった。
 やがて腕が上がらなくなる程にダンベルを上げ続けた巨漢の看護師、甲斐(役:かいる(fa0126))は、汗まみれの身体を台の上に横たえた。
 前回、甲斐が命がけで助け出した二人の隊員は、結局、病院についてから息を引き取った。搬送していた患者はクリーチャーと化し、炎に消えた。一人生き残った甲斐の脳裏に浮かぶのは、これまでに殉職した仲間の顔と‥‥自分を見つめるクリーチャーの瞳。
「くそっ!」
 甲斐は頭を振ると身体を起こし、汗まみれのタンクトップを洗濯籠に放り込んだ。

 冷水のシャワーを浴び、久しぶりにジャケットに袖を通すと、甲斐は輸送隊に潜り込んでウエノキャンプへと向かった。
 輸送隊の配給を手伝い、礼として余り物のウォッカを貰った甲斐は、ついでに診療所への物資配達を買って出た。
 両肩にダンボール箱を担ぎ、診療所へ入る甲斐。外からの医師たちが慌しく動き回る中、勝手知ったる何とやら、荷物を資材倉庫へと持っていく。
「あら、甲斐君じゃない。今日は休暇じゃなかったの?」
 そこにいたのは、救急隊医師の狐木・玲於奈(役:白狐・レオナ(fa3662))だった。
「いや、じっとしていられなくて‥‥ドクターこそどうして?」
 私も似たようなものよ、と弧木は言った。外から来た医者たちにキャンプの患者の現状を説明していたのだという。
「全く、忙しくて参るわ。今やっと落ち着いた所‥‥丁度いいわ。食事にしましょう」
 弧木が立ち上がる。その清潔だが使い古されたよれよれの白衣を見て、甲斐は、外の医者たちの真新しい純白の白衣を思い出し‥‥その釈然としない何かを弧木にぶつけてみた。
「そりゃ、昔の私を見るようで頭にくるのもいるけど‥‥何人かマシなのもいるわよ」
 その何人かが見出せただけでも、医師団の訪問は成功ね。そう弧木は笑った。

 昼飯時には少し遅い時間だったが、その飯屋は盛況だった。
 プレハブ内にテーブルと椅子を並べただけの簡素な造り。町内会か何かを思い起こさせるそこは、しかし、ウエノキャンプ初めての料理店だった
 剥き出しの厨房に、どこから集めたのか、無国籍な調理器具が沢山並んでいた。上半身タンクトップのシェフが、汗を光らせながら中華鍋と格闘していた。
「いらっしゃーい! 空いてるお席へどうぞー!」
 弧木と甲斐に、エプロン姿の看板娘、高槻ユリ(役:ビスタ・メーベルナッハ(fa0748))が明るい声で応対する。
 店に来ていた傭兵のベオ(役:ベオウルフ(fa3425))が、二人に気付き、立ち上がって手を振った。休日ということで、いつもの戦闘服姿でなく白いシャツにジーンズというラフな格好だった。
「お、お医者センセじゃないか。久しぶりだな」
「お久しぶり。一人なの?」
 聞かれて、ベオは肩を竦めて見せた。
 弧木と甲斐はベオに相席することにした。
「ごめんなさい。もう少しお待ち下さいねー」
 忙しいらしく、ユリがトレイを手に店内を飛び回っている。弧木は、気にしないでという風に手を振った。
「ここも、こうやって変わっていくのかしらね。
 ‥‥でも、私は忘れてないわ。ここで死んだ友人を。そして、今まで死んだ人たちの顔を‥‥殺された人たちの声を‥‥あなたは?」
 真剣な顔でベオに尋ねる弧木。ベオは静かな表情で視線をテーブルに落とし、答えた。
「忘れちゃいないさ‥‥助けられないから、仕方がないからと、そう割り切って手にかけてきた奴の顔もみんな。そして‥‥」
 そこまで言って、ベオは唇を噛んだ。脳裏に浮かぶのは、一人の女性の笑顔。そして、この間のクリーチャー。
 鉤爪を振り上げたクリーチャーに、フラッシュバックする血塗れで倒れた女性の姿。無様に地を這う自分と‥‥戦場にいたのに、守るべき者が背後にいたのに、引鉄を引けなかった自分‥‥
 ベオが静かに頭を振る。もう吹っ切ったと思っていたのに‥‥自分で自分が歯痒かった。

 黙って話を聞いていた甲斐は、二人が自分と同じ様な経験をしてきた事に気がついた。だが、そんな二人を見て分かった事は、結局、時は何も癒してはくれないという事だった。
 天気の良い昼下がり。奇妙に押し黙る三人。その横をユリが小首を傾げて通り過ぎていく。
 そこへ、水上と天城の二人がやってきた。
「なんだ、せっかくの休暇だってのに、結局いつものメンバーかよ」
 隣のテーブルの席に着いた水上が、先に来ていた三人の顔を見て呆れたように呟いた。
「あ〜‥‥皆さんおそろいだな、ってやつか。まぁ、どこも行くとこないしなぁ」
「あなたたちも暇というか何と言うか‥‥この顔ぶれだと休暇の実感ないわね」
 顔を見合わせて互いに苦笑する五人。そこへ、ようやくユリが注文を取りに来た。

「あの‥‥皆さんは武装救急隊の方ですよね?」
 注文を厨房に入れた後、ユリが水上と天城の制服を見ながら聞いてきた。怪訝な顔をしながら頷くと、ユリはその手を打ち合わせた。
「やっぱり! いつもお疲れ様ですー。政府や軍は当てになりませんから。いつも私たちの為に身体を張って頑張って下さる皆さんには感謝しているんです!」
 そう言って、一人一人の手を握り、ブンブンと上下に振るユリ。周りの席からも、同意の声と拍手が送られてくる。
 その後は、半分宴会みたいなものだった。
 皆が救急隊の周りに集まり、料理やら酒やらを注いで回る。そこに子供たちがやってきたり、騒ぎを聞きつけた大人たちが加わりだして‥‥最後にはもう訳がわからなくなっていた。
「折角の休日なのに‥‥彼氏なんていないからデートもできないのよ。そりゃ、身体は細身だけど、顔はいいって自信はあるのに‥‥結局、仕事仕事仕事仕事‥‥ほんとに私って女なのかしら。そこんとこどうなのよ?」
「誰だ、先生に酒飲ましたのはー!」
 なんて事もあったりした。

 夕方。
 嵐のような時間を過ごした救急隊の面々は、とある場所に集まっていた。
 皆、先程までとは違って神妙な顔をしている。
 小さな石碑が所狭しと並んだキャンプの一角。目に見える光景は、夕陽に赤く染まっていた。
 そこは墓地だった。
 骨も肉体も髪の毛すらも収められていない名前だけの墓地。だが、それでも。ここの墓標は、キャンプ創設以来、ここで亡くなった人たちの生きた証だった。
 三々五々、救急隊の面々が散っていく。
「‥‥‥‥」
 ある者は、家族の写真を広げて無言で墓の前に立ち‥‥
「俺を残して先に逝っちまったんだ。愚痴くらい聞いてくれな‥‥」
 ある者は、同僚の墓に酒瓶と煙草と小さな花とを捧げ‥‥
「もう吹っ切ったと思っていたのに‥‥まだ引きずってたみたいだ。お蔭で死にかけた」
 また、ある者は、自ら手にかけた恋人に語りかけた‥‥
「あなたたちを救えなかった私は自分の事を人殺しだと思ってる。沢山の血に塗れた手で患者を救うなんてよく言ったものだとも思ってる‥‥。それでも‥‥私は生者の為にやるべき事をやるわ‥‥だから‥‥今は安らかに‥‥」

 誰もいなくなった墓地に、人影があった。
 かつてここで友人を亡くした──その墓標の前に立つのはリュナだった。
「お墓参りですか?」
 そこへやって来た少女──ユリが尋ねる。リュナが無言で頷いた。
「そうですか。私はお姉ちゃんに会おうと思って」
 そう言って、ユリは持ってきた花を墓に供えた。
 ユリの姉の墓標は、リュナの友人の墓の隣にあった。つまり、二人は同じ頃に亡くなった事になる。
「私のお姉ちゃん、クリーチャーになっちゃって『処理』されたんです」
 ユリの言葉にリュナはその身体を震わせた。気付かずにユリは続ける。
「ホント言うと私、いつか全てのクリーチャーが『人』に戻ればいいと思っているんです。荒唐無稽な話ですけど‥‥でも、信じる事は無駄じゃない。そう思っていますから」
 そう言うと、ユリはリュナに頭を下げて去っていった。
 リュナは一人、その場に立ち尽くした。かつて、皆を守るために銃を取った事を思い出す。
「あたしは何やってるんだろう‥‥」
 結局、あたしは誰かを守れたんだろうか。リュナはそう独りごちた。